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第9話 悪魔マルファス

 「今日から夏休みですが三年生は受験があるので気を緩めずに行きましょう。また休みだと言っても本校の生徒であると言う自覚をもって節度ある行動を心がけてください」


 長い、この長さは異常だ。毎年熱中症で騒がれているのに、校長の話が短くなる気配はない。

 クーラーの効いてない体育館で俺は早くも意識が朦朧としていた。



 9 悪魔マルファス



 終業式も終わり、かなり微妙な内容の成績表ももらい、今日は授業もないためHRも終わって……急いで隣町に行こうとした、時だった。


 「池上」


 振り返ると中谷と光太郎がこっちに手招きしている。二人に走り寄ると中谷が森岡の様子を教えてくれた。


 「森岡、今日は学校に来てたみたい。でも成績表もらったらそのままHRも受けないで帰っちまったらしい。なんかかなりやつれてたみたいだったって」

 「じゃあ今はもう家にいんだろうな」

 「多分」


 やっぱりどう考えても森岡って奴が怪しいとしか思えない。中谷の話を聞く限りだけど。いじめられていたからかもしれないが、やつれていてとても話しかけられる状態ではなかったらしい。元々殺害された生徒以外は森岡のことを嫌っている生徒もいなかったようで、みんな心配していたそうだが、誰とも話をしないまま逃げるように教室を去っていったようだ。

 今から悪魔と戦うなんて現実味の無い戦いが待っていて、もうこんな怖い事さっさと終わりにしたい。今日中に片をつけてやる。


 「拓也、話は中谷から聞いた。今日決着つけんだろ?心配だし俺も行くよ」


 光太郎のありがたい申し出に首を横に振るも、向こうも俺のことが心配なようで引いてくれない。

 

 「光太郎、今回はマジやばいって。ヴォラクの時よりも遥かにな」

 「お前が行くのに俺だけ大人しく待ってろっつーのかよ?そんなん嫌だし」

 「池上、今日はミーティングだけだから俺も手伝うぜ。一回くらい休んでも大丈夫だし」

 「中谷はでも甲子園前だろ!そんな俺のせいで……」

 「お前のせいじゃないから。とりあえずヴォラク君のとこに行くんだろ?早く行こう」


 心の中では一人で立ち向かわなくて済んだことに喜んでいた。光太郎と中谷に頭を下げて急いでヴォラクのいるマンションに向かった。


 ***


 『拓也。待ってましたよ……光太郎と中谷も行くのですか?』


 マンションには既にストラスが待機していた。

 ストラスはいつでも行けるっていう気合の現れか棒切れを口に咥えている。なんだか間抜けな姿に少しだけほっこりしてしまう。


 「ストラス、その棒何に使うんだよ?」

 『魔法陣に閉じ込めなくてはなりませんからね。問題はどうやってマルファスを閉じ込めるかです。彼はとても素早いので一筋縄には行きません』

 「弱らせるしかないじゃん?できるかどうかは別として」


 ヴォラクは何事もないように飴を一つ口に放り込んだ。そんな簡単に言っちゃってくれてるけどさ、戦力はお前しかいないんだぞ。


 「閉じ込めるっつったって……」

 「拓也がその指輪を使いこなせたら簡単にできると思うよ」

 「な……んなこと言われても……なぁ」

 「それより拓也、光太郎と中谷も連れてくの?普通の人間が手出しできる戦いなんかじゃないよ。面白半分の見学なら回れ右。お帰りはあちらでーす」


 ヴォラクの馬鹿にするような忠告に光太郎はムッとした表情を浮かべながらもわかってると返事をした。それでも心配だからついて行くと。


 「それに、お前だってまだ信用できるか分かんねえんだから、拓也を任せられるわけないだろ」

 「はん、俺が拓也との契約を反故したって、お前に俺は止められないけどね。まあいいけど。言っとくけど俺は手一杯と思うから助けてなんかやれないよ。自分の身は自分で守ることだね」


 お前そんな脅すなよ。俺までビビッちまうじゃねぇか。しかもぶっちゃけお前だけが頼りなのに。

 険悪なムードもなんのその。準備が整ったのかヴォラクはソファから立ち上がり思い切り背伸びをする。


 「さ、準備もカンリョー!その場所に行こうか」

 『そうですね。できる限り被害は最小に留めなければなりませんしね。拓也、今回は空中戦になるかもしれません。貴方も覚悟しておいたほうがいい』


 え?空中戦?何馬鹿なこと言ってんだ

 覚悟しろって……俺はお前みたいに空飛べるわけねーのに。結局戦えるのはヴォラクだけじゃんか。俺に羽が生えてから言ってくれ。

 その時はストラスの忠告を話半分に聞いており、はいはいと返事をしてマンションを出た。


 ***


 『ここがその草むらですか……確かにこの辺ではなかなかの広さですが……フォモスとディモスを召喚したら全く足りませんね』


 ストラスはあたりをキョロキョロと見回す。たしかにそこそこの広さはあるが、ヴォラクのドラゴンを召喚して思い切り暴れまわるには広さが若干足りないか?しかし当の本人はまったく気にしている気配がない。


 「別にいいよ。どうせ戦うときは空中だ。地上で戦わないんだし」

 「ヴォラク、結界張ってくんないか?この前みたいに」


 面倒そうに首だけをこちらに向け、ジト目で睨まれる。


 「いいけど……悪魔は結界張ったら気付いちゃうからマルファスこなくなっちゃうかもよ」

 「ここに呼び寄せたらでいいよ」

 『とりあえず中谷と光太郎が来るまでここで待機しましょう』


 中谷と光太郎は森岡を呼び出すために森岡の家の近くで待機してる。

 マジで刑事ドラマみたいだ。


 「えーこんなに暑いのに?もうやんなっちゃうよ」

 「ヴォラク。我侭言うなって。ほら日傘あるから」

 「ちぇー」


 家から持参した日傘で影をつくってやると、思った以上に暑さをしのげると思ったのかピッタリとくっついて直射日光を防いでくる。大人しくしていれば可愛いのに、口を開けば悪態ばかりで嫌になる。直哉だって、こんな生意気に育ってないぞ。

 ヴォラクと話しているとバイブがポケット越しに伝わってきて、携帯を取り出すと画面に光太郎の文字が出ていた。電話を取ると後ろでなんだかいい争いが起こっているのか、中谷の声が聞こえてくる。


 「拓也?森岡、今家の外に出て行ったんだ。力ずくでも今からそっちに連れてく」

 「力ずく?」

 「中谷は腕力あるからなー!ただ、俺らがいじめだって思われたら嫌だけど、しょうがねえよな!」


 しょうがねえって、いやあんた何してんの!?いったい何するつもり!?

 光太郎に詳しく聞こうとしてもすでに電話を切られメッセージも既読にならない。これ、どうやって森岡を連れてくるつもりなんだ。もういいや、考えるの止めよう。まあ何とかしてくれるだろ。


 「今から森岡連れてくるって。ヴォラク頼んだぞ」

 「はーい」


 そう答えるとヴォラクは天使の姿に変わった。人通りは今のところないからいいだろうけど、こんな姿一般人にみられるわけにはいかない。できるだけ隅っこに移動して自分の体でヴォラクを隠した。


 『さぁて悪魔マルファス。お目にかかるのは初めてだけど、どんな姿なのやら』

 「お前って好戦的だよな。なぁんか怖いなぁ」


 俺なんか未だにそんな怖い奴とやりあうって実感わかないし。

 

 「放せよ!なんだよお前ら!」


 急に聞こえてきた大声に振り返るとそこには森岡を引きずる中谷と光太郎の姿があった。相当暴れた森岡は中谷に羽交い絞めにされており、光太郎がそれを引きずる形になっていた。

なにこれどういう状況だ?

 流石にマジの力技で連れてきたことに俺とストラス、ヴォラクも動揺を隠せず目が丸くなる。


 『どうやら話し合わずに無理やり連れてきたようですね』

 「これって後で俺らが怪しまれないか?」

 『細かいこと気にしちゃ駄目だよ』


 中谷と光太郎は森岡を俺らの前まで連れてくるとそのまま手を放した。

 全力で抵抗していたんだろう森岡は手を離されたことで砂利に思いきり膝をつき、怯えるように顔をあげてこちらを見つめている。


 「な、なんなんだよ……!あんたたち誰だよ、知らない、よな?俺ら会ったことないよな!?」

 『このような少年がマルファスと契約を?』

 「ひっ!ふ、フクロウがしゃべっ!?」

 『何驚いてんの?マルファスと契約してるあんたにとっちゃ喋るフクロウなんて大して珍しいわけでもないじゃん?それとも何、それ演技なわけ?』

 「なんなんだよお前!?」


 ただでさえ無理やり連れてこられて既にパニック状態なのに、ストラスやヴォラクを見て盛岡は完全にパニックになっている。目を白黒させて、この暑い中ガタガタと震えているのだ。

 なんとか落ち着かせるために森岡の目の前に腰を下ろした。


 「なぁ、大人しくマルファスを出してくれ。お前あの事件を起こして本当に何も感じねーのか?」

 「事件?何のことだ?」


 森岡は、もしかして知らない?じゃあ契約者じゃないのか?見つかった、とか、不味い、とか、そんな反応じゃない。何を言っているのか本当に理解してない顔だ。もしかして間違ったのか?

 しかしヴォラクは面倒そうに溜息をつけて森岡を脅すように肩を掴み揺さぶった。


 『嘘つくなって~お前から悪魔のにおい、すんだよ。契約してると悪魔のエネルギー共有するから臭いつくんだよ。プンプンさせてさ~逃げられると思ってんの?』


 乱暴にしているヴォラクをストラスも止めない辺り、契約しているのは間違いないんだろう。じゃあ、なんでこんな反応を?ただ単に演技がうまいだけなのか?


 『拓也、こいつしらばっくれる気だよ?もう殺ろうよ。殺したら悪魔も怒って出てくるよ』


 森岡の肩が震え、小さな声で「殺さないでください」と懇願してくる。祈るように手を組み、震えている姿は主導権を完全にこちらに譲り、成すがままになっていた。

 勿論ヴォラクの要求を呑むわけなく、駄目だと言う意味を込めて睨み付け、そのまま森岡に向き直った。


「嘘はつくなよ。もう証拠は出てんだよ。あのカラスがお前のとこに入っていくのを見たんだからな。観念しろ」

「カラス……エマのことか?」


 森岡はまさかという顔をした。エマ?マルファスじゃなくて?


 「エマって名前付けてんのか?そいつがお前の高校の生徒を殺したんだろ?」

 「ふざけるな!」


 今まで大人しかった森岡が立ち上がって怒りをあらわにし、急に元気になってくるもんだから、驚いて尻もちついてしまった。目を白黒している俺に掴みかかる勢いで肩で息をして森岡は怒りに震えている。


 「エマがそんなことするもんか!エマはずっと前から俺の家族なんだぞ!?大体カラスが人間を殺すなんてありえないだろ!」

 「カラスをペットにしてるのも十分おかしいよ……」


光太郎は半ば呆れたように森岡に釘をさした。そういや光太郎は鳥類があんま好きじゃなかったよな。


 「エマは数年前、足を怪我してて、その時に拾ってからずっと家にいるんだ!優しいし、いい奴だし……エマを馬鹿にするな!」

 『カラスはしたたかですからね。貴方を騙してたということも十分考えられます』

 『でもストラス、これじゃ日があわないよ。マルファスが召喚されたのは俺たちと同じ時期って考えても最近のはず……こいつの話が本当ならそのカラス違うじゃん?』


 まさかの無罪説が出てきて、中谷は慌ててヴォラクに説明する。


 「でも俺が追っかけてった時は間違いなくこいつの家だったんだ!」

 『本当に?中谷見間違えたんじゃない?』

 「んなことするか!お前だってにおいついてるって言ってたじゃん!」

 『んーまあそうなんだけどね。でもこいつの反応鈍いんだよね。こいつの家族が契約してるケースのが高いんじゃないの?』


 盲点だった。森岡じゃなくて、森岡の家族が契約しているケースだってあるのか。だとしたら、森岡が何も知らないのも無理はないし。あれ?その場合って俺達やばいことしちゃってないか?濡れ衣にもほどがあるだろこれ。

 俺達の会話なんて森岡には関係なく、相変わらず俺を睨み付けてくる。でも俺だってここで退く訳にはいかない!

 しかしその空気に耐えかねて、光太郎が間に入ってきた。


 「森岡、お前今回の事件の被害者に何かしらの恨みを持ってたんじゃないか?」

 「うら、み……」


 森岡はその言葉を聞いた途端に顔を真っ青にしその場に膝を抱えてうずくまってしまった。


 「あっおい……」

 「う、疑ってるのか?あんたも俺を……」

 「あんたも?」


 森岡は怯えたまま言葉を口にしようとしない。

 でもついに核心に近づいたような気がして、とにかく安心させるために森岡に話しかけた。

 

 「森岡、俺は今回の事件の被害を広げたくないだけなんだ。今回の事件もあんたが全部悪いわけじゃない。お前もそんなに怯えたままは嫌だろ?」


 森岡は返事をしない。

 でももう一度悪意がないことを伝える。


 「お前を助けたいんだ」


 その言葉で森岡は恐る恐る顔を上げた。森岡の反応からして、あの事件に直接関与していないのは分かった。けど、何か関係はしているのだろう。そこを聞き出さなければいけない。

 全てを説明しなければいけないが、俺はヴォラクとストラスを指差した。


 「多分お前はあいつ等のような奴と契約してるんだ。だから今回の事件が起こった」

 「けい、やく?何のことだ?」


 森岡は訳が分からないという顔をした。

 その反応に怪訝そうな反応をしたのはヴォラクとストラスだ。


 『契約してないって……どういうこと?ストラス、やっぱりこいつの家族が契約してんじゃない?』

 『その可能性が高そうですね。どちらにせよもう少し話を聞いてみましょう』


 森岡が落ち着くまで待っていると、やっと気持ちが落ち着いたのかポツポツと話し出した。


 「今回の事件、本当に俺じゃないんだ」

 「うん」

 「でも偶然が重なりすぎてるんだ。俺がいなくなればいいのにって思った奴らがどんどん死んでいったんだ」


 思い出したら怖くなってきたのか森岡は頭を抱えて蹲る。


 「お、俺……怖くなって!自分にそんな力があるわけないって分かってるのに!俺、俺……でもこんなこと誰にも言えなくて、怖くて……!」


 森岡は目に涙を溜めていて、最後のほうは声が震えて言葉もグジャグジャだった。


 「その死んだ人たちと森岡はどういう関係だったんだ?」

 「……いじめられてたんだ。詳しくは言いたくないけど、俺は気も弱くてカモだったんだろうな……次に死んだ奴らは、そいつらと仲が良くて……俺が殺したんじゃないかって思われてて報復してやるって言われてたんだ。だから怖くて、あいつらのように死んでしまえって思ったら、そいつも死んで……でも本当に死ねなんて思ってなかったんだ!そんな本気で思ってた訳じゃないんだ!」


 本気で思ってないのに悪魔が事件を起こした?森岡は命令をしていない?よくわからない。


 『マルファスの話術に乗せられていた、と言う形でしょうかね。命令を下さずとも、死んでほしいと言う言葉をこの少年の口から出させた。それを命令と置き換えて事に及んだ。そう解釈するのが正しいでしょう』

 「そんな悪口程度で実行されんのかよ……でもそれだとお前、やっぱマルファスと契約してんじゃん」

 「契約ってなんだよ!?訳わかんないし……」

 『訳が分からないのはこちらですよ。契約者の力なしに悪魔は活動はしません』


 森岡は本当に契約自体は理解していないようで、なんとかわかりやすい説明が他にないか考えて、あることを思いついた俺は森岡にヴォラクとストラスからもらった宝石を見せた。


 「こういう宝石をさ、そのカラスにもらわなかったか?」


 森岡はジッとその宝石を見つめた。同じ宝石を?と聞かれたから違うと答え、カラスからアクセサリーをもらわなかったか?と聞き方を変える。

 後ろからはヴォラクとストラスが割れたらどうするんだ!とか無くしそうだから持ち歩いてんじゃねーよ!とか色々騒いでるけど、これもあえて無視。

しかし黙っていた森岡の口から決定打となる一言が出てきた。


 「一週間前、エマから黒い石がついた指輪をもらったんだ。カラスって光る物が好きだから、どっかから拾ってきたんだろうって……俺はいらないから最初は捨てようとか、拾ってきた場所に戻そうって思ったんだけど、エマが嫌がるから、特に気にせずに家に置いてる」


 全員が目を見開く。森岡の言っている指輪が恐らく契約石だ。森岡は知らないままマルファスと契約をしていたんだ。


 『間違いありません。マルファスとの契約石はサーペンティンの指輪。恐らくこの少年は何も知らずにその石を受け取ってしまったのです。石を受け取ってしまえば契約は成立し、契約を破棄するには石を返し、悪魔を地獄に戻すしかありません』

 「石を返すって……できんのか?そんなこと」

 『悪魔が抵抗すればほぼ不可能ですね。その場合は魔法陣に閉じ込めるのですが』

 「普通の人間が知ってる筈がない、か」

 『これで謎解きは完了だね』


 納得している俺達とは対照的に森岡は一人だけ訳が分からないという顔をした。だから全部教えた、その指輪が何なのか。森岡の飼っているカラスが大量殺人事件の犯人だと言うことも。


 「今、俺が見せた石はこいつ等との契約の証なんだ。宝石を受け取ったら有無を言わさず悪魔と契約したことになる。森岡、お前がその指輪を貰った時から悪魔マルファスとの契約が行われてたんだ」

 「そんな……嘘だ」

 「こんなことで嘘なんか……『誰だ!!?』


 ヴォラクの突然の大声に会話は遮られ、一度中断してヴォラクに振り返るも、周りには人なんて全くいない。


 「ヴォラク?」

 『拓也、あれ』


 ヴォラクが指差した方向には一羽のカラスがこちらを見ていた。中谷と見たときのマルファスはズボンをはいていてもっと大きなカラスだった。でもあのカラスはどこにでもいる奴に見えるけど……

 ヴォラクの目つきが鋭くなり、ストラスが毛を逆立てる。その反応で察してしまった。


 「もしかして……」

 「エマ!」


 森岡が呼びかけた瞬間、そのカラスがこちらに向かって落ちてきた。


 「うわっ!」


 耳を閉じたくなるような潰れた音がし、地面に落ちたカラスは体中に食われた箇所があり、見るも無残な姿になり果てていた。


 『主ハ私ヲ裏切ルツモリダッタノカ。折角協力ヲシテヤッタノニ』


 そして目の前に一羽のカラスが飛んできた。手に篭手をもち、ズボンを履き直立した大きなカラス。間違いない。昨日のカラスだ。ついに出てきたんだ。

 マルファスはフンと鼻を鳴らした。


 『少シハ楽シメルダロウト思ッテソノ姿ニナッタトイウノニ』

 「なんだって……」

 『拓也、どうやらマルファスはエマを殺して化けていたようですね』


 どうりで森岡が契約のことをわからないはずだ。

 悪魔のことを知らないはずだ。


 全部こいつが仕組んだことだったのか。


 森岡はグッタリしているエマの体を優しく抱きしめた。


 「許さねえ……」


登場人物


マルファス…ソロモン72柱の39番目の悪魔。

       40の軍団を指揮する長官である。

       一般的にはカラスの姿だが、見た目のよい紳士の姿であらわれることもある。

       戦争などの戦いを好み、人間を殺す機会をうかがっている。

       契約石はサーペンティンの指輪。

 


森岡啓太…上尾高校の1年。

      ペットのカラス「エマ」を殺して、その姿に化けていたマルファスと知らずに契約していた。

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