第89話 殺意
「でねーマヤがちょー可愛くて!」
俺の家に来ていた澪はリビングで雑誌を開いて昨日のことを嬉しそうに話し続ける。あの日おいて行かれた俺はそれを少しだけ複雑な気持ちで聞いていた。澪、全然俺のこと置いていったこと後悔してない……
89 殺意
澪は随分マヤに憧れているらしく、頬を紅潮させうっとりと雑誌の中のモデルを眺めている。雑誌の中のマヤは確かに綺麗で澪が憧れるのは分かるような気もする。それでも女の可愛いと男の可愛いは全く違うってことを今日俺は理解したぞ。
「あたしもマヤみたいに細くて可愛くなれたらいいのに」
「澪は澪のままがいいよ」
「あたしはマヤみたいになれないってこと?」
ジト目で見てくる澪に冷や汗タラリ。いやそうじゃなくて……なんで伝わらないんだこの気持ち!?俺は澪の方が可愛いって言いたいだけなのに!!俺がいったらなんでこんな顔されるんだよ!
『澪は今のままで十分可愛らしいですよ。他者に憧れる必要などないのでは?』
「ストラス優しい!好き!!」
澪……ストラスにはそんな表現するのに。どうして俺には疑惑の目を向けるんだ!?
ぎゅうぎゅうに抱きしめられてるストラスに鋭い目で睨む俺と目を合わせようとしなかったけど。それに少し腹が立ちながら、雑誌に再び目を戻す。まじまじと見ると、雑誌に載っているマヤって奴は確かに可愛い。
いろんなポーズに合わせて表情めっちゃ変えてるし、モデルってすごいんだなぁ。メンズの雑誌なんて表情ほとんど一緒だぞ?服が違うだけで。女のファッション誌って前から思ってたけど華やかだな。めっちゃキラキラしてるやん。でも……
「澪には悪いけど、俺はエリカって奴の方が可愛いって思うなぁ。だって実際マヤの服着てる女いたら俺引くぞ。似合ってるなら別として、これ似合う奴なかなかいねーだろー」
それにマヤ目つき悪いじゃん。金に近い茶髪のロングストレートの髪に、おっきいリングのピアス、バングルやブレスレットをジャラジャラ付けて、胸のとこには大きい玉のついたネックレス。露出度の高い服で当たり前のように写ってるマヤの真似は普通できないだろ。この雑誌ってどの層狙ってんの?ギャル系バリバリのマヤと、どっちかというなら清楚系のエリカってジャンル違うがな。
それに比べてエリカはナチュラルブラウンの髪の毛を綺麗にまいてふわふわにしてる。つけてるアクセサリーも女の子っぽくて控えめなものだ。マヤほど露出度も高くなく、誰でもオールラウンダーで着こなせそうだ。澪はどっち着てもきっと似合うけどな。
ストラスを抱きしめながら澪は雑誌を覗き込む。
「男の子って皆エリカが可愛いって言うらしいよ。少し田舎っぽい感じが親近感湧いていいんだって」
「ああ、確かにそんな感じかも。その二つって共存できるんだね」
笑い方もふんわりしてるしなぁ……確かに可愛い。服装もだれでも着こなせそうだ。
黙って雑誌を見ている俺の横でストラスも雑誌を覗き込んでいる。
『しかし今の世界は面白いですねぇ。私が前召喚された時には、このような仕事はありませんでしたよ。しかし全員謎のポーズですね』
しみじみ呟くストラスに笑いそうになる。そりゃお前、数百年前だからな。
『民族衣装もすっかりなくなってしまいましたね。日本人の着物は中々に美しいものでしたが』
ストラスって着物とか知ってたのか。少し驚いた俺とは別に、澪はうっとりしながらストラスの言葉に同意した。
「ねー着物可愛いよねー」
『澪は着ないのですか?』
「成人式の時に着るよ。ストラスにも披露するね」
『それは楽しみですねえ。して、いつ頃着ますか?』
成人式~?どんだけ先の話なんだ。ってことは……
「えーじゃあ後四年もこいつと付き合わなくちゃいけないのかよー」
『なんですその反応は。ところで聖人式とは?聖人認定するための試練ですか?日本は仏教なのにそのような行事が常習化しているのですか』
「ストラスお前それ絶対言ってること俺らとかみ合ってねえと思うよ。多分変換からして違うわ」
「違うよーストラス。二十歳になった人が大人になりましたねってことをお祝いする式だよ。そこで皆着物着て同窓会みたいなことするんだって」
『ほう……なるほど。成人式ですね。それはまた良い風習ですね』
ストラスは初めて聞く行事に興味津津だ。確かに成人式って名前もストラスにとっては聞きなれない名前だろうしな。現にこいつ聖人式とおもってたくせーし。聖人認定するための儀式を振袖で行うって……やばい、なんか時間差で面白くなってきた。
ストラスは真面目な顔で言ってくるから面白いんだよな。
「拓也は袴着るの?」
「ヤダよ浮くじゃん。普通にスーツにするつもりってか早くない!?俺らまだ十六よ!?」
「すぐに来るよーだって拓也は八月、あたしは誕生日十一月だからもうすぐ十七だよ」
「あーそうだなー早いなー……時々二月の光太郎が羨ましくなるよ」
中谷は確か十二月だったよな。まあ、そんなことはいいだろう。俺たちの会話を聞いていたストラスはしみじみしている。
『十六……若いですね。私はもう自分の年も忘れましたよ。今は思い出せない若かりし日……』
この爺くさいフクロウに若かりし日とかあったんだろうか。全く想像できない。生まれた瞬間から爺くさそうなんだけど。
「お前数千歳くらいじゃね?」
『そんな気もしますが、もっと長い気もします。私、戦うことが生業ではありませんので、どうしても殺されると言った現場に向かうことがなくてですね。比較的平穏な場所で自堕落に過ごしておりました』
す、すごしてそ~~~!!一日中なんか食って横になってグースカ寝てそう~~!!そんで時折腹かきながら横になって本読んでそう~~~!!!
でも数千歳まで生きりゃ、自分の年も忘れそうだよな。こいつ、よく考えるとじいさんなんだよなぁ。かなりペット扱いしてるし、直哉からもみくちゃにされてるけど。
「そういえばマヤって何歳なんだ?」
「マヤは確か大学二年だから今二十歳だよ」
「詳しいな。じゃあエリカは?」
「エリカは十九歳で大学一年生」
何を聞いても答えてくれる澪。よっぽどのファンだな。じゃあ俺とそんなに年変わらないのか。それなのにこんなモデルやって有名人って本当にすごいよな。
「二人とも読モから一気に人気が出てトップになったからまだ若いんだよ」
「ふーん、よくわかんねえけど」
エリカなんて俺が誕生日来ちゃったら二歳しか変わんないじゃん。そんな子がこんな雑誌に載って色んな人から憧れられるなんてやっぱりすごいもんだ。
「でも女ばっかの職場だからすっげードロドロしてそう」
「うーん……どうなんだろ。でも競争激しそうだね」
『女性というのは嫉妬深い生き物ですからねぇ』
そんな世界を経験したことないのに憶測で俺たちにこんな好き勝手に言われてモデルも大変だろうな。でもぶっちゃけ性格悪いんだろうなって思う気持ちが若干。女の人ばっかりの職場は怖いって言うもん。
「拓也ー、澪ちゃーん、ストラスーお昼できたわよー」
「あ、はーい。もうそんな時間か。腹減ったぁー飯食おうや」
「そうだねー」
『そうしましょう』
俺達は雑誌をその場に置いてリビングに移動した。
***
マヤside ―
「マヤ、これ」
あいつが渡してきた雑誌の表紙を見ただけで私の機嫌は一気に急降下し、自分の元に届いた今月号の雑誌を思いっきり床に投げつけた。なんだよ今月号は!!
「くだらねえ」
「騒々しいな。なんなんだ?」
私に雑誌を渡して、横になっていた男が面倒くさそうに起き上がる。お前もよく私にこんなものを何食わぬ顔で渡したもんだな。私の地雷がいまだにわからない能無しなのか?
「あいつが、あいつが表紙なんだよ!なんで私じゃないんだよ!!」
今までは私のソロか、あいつと二人で写ってる表紙だったのに、今回はあいつだけが写った表紙。今までこんな事なかったのに……なんなんだよ!!?
室内に着信音が響き渡る。うるさいな……今は出る気がしねえのに……相手を見てシカトしようかと思ったが、かかってきたのは編集長からだったので渋々電話に出た。
「もしもし……あ、この度はどうも」
『雑誌は届いてる?今回もすごく良かったわよ』
「どうも。今回の表紙はエリカなんですね」
『あ、そうね。最近エリカも人気が出てきたし、そろそろ独り立ちさせてもいいかなってね……』
取り繕うような言い方だが、私の言葉に編集長は声を詰まらせた。それで私は用済みかよ。
「わかりました。では失礼します」
『ちょっと待ちなさい。貴方に聞きたいことがあるの。今日もまた撮影があるからスタジオにいらっしゃい。その時に話すわ』
そのまま電話は一方的に切られた。要件があるのなら撮影がある日についでに言えってババア。厚化粧ブスババアの顔を思い出すだけで腹が気持ち悪くなる。あいつの面をプリントして壁に飾ればダイエットになるんじゃね?
「人の機嫌伺いやがって……あいつマジウゼえ」
「誰だったんだ?」
「編集長。くそムカつく女だよ」
もう一度かかってくるのを防ぐために電源をオフにする。何度もあんな女の声を聴きたいわけがない。
「なんでこんなブス女っ!」
あたしは床に落ちていた雑誌をビリビリ破いて捨てた。
なんであたしがこんな悔しい思いしなきゃいけないんだよ!?
***
「麻耶ちゃんは今日も可愛いねー」
「麻耶ちゃんってすっごくおしゃれだよねー」
小さいころからもてはやされていた。
顔が少しいいだけで、普通の奴が許されない事が許された事もあった。親も近所の人間に褒められるだけで、私をもっと可愛く見せようと新しい服やカバン、化粧道具……何もかもを買い与えてくれた。周りにとっては羨ましい光景だろうが、それが私にとってのあたりまえ。
私は他人より恵まれた容姿を持っていて、他人が私を羨望のまなざしで見ていることを幼いころから理解していた。
「麻耶ってマジですごくない?中学生のくせにブランドの財布とかさー」
「あー麻耶が着てる服可愛いー!あたしも同じの欲しー」
「止めときなって。麻耶だから似合うんだよ」
中学になって男子に告白される回数が増えた。見た目がいいってだけで「一目ぼれしました」なんてバカな理由をつけて告白してくる奴なんてわんさかといた。
そんな奴らを軽くあしらって過ごす日々は敵も生む。私を妬む奴は当然いた。陰口を言われていたのも知ってた。でもそんなの負け犬の遠吠え程度にしか思ってなかった。お前らは自分が可愛くないから羨ましいだけだろ?馬鹿みたいって心の中で嘲笑ってた。
高校生になって、街角で読者モデルとして撮影されたのがきっかけで私の人生は最高潮に昇り詰めてた。好きで毎月買ってる雑誌に自分が載ったんだ。親も滅茶苦茶喜んだし、私自身も嬉しかった。そのまま大学生になって、本格的にモデルを初めて、順調だったのに……去年までは、去年までは!
あいつのせいで全てが壊されたんだ!!
「悔しいのか?」
黙り込んでしまった私の顔を男が覗き込む。
「悔しいよ。殺したいくらいに」
「なら俺に命令すればいい。お前の望むように事を動かしてやる」
この男の能力を知っているからこそ首を横に振った。面白半分に契約しただけなのに、人殺しをされたら堪らない。
「馬鹿じゃねえの?人殺しなんてするかよ。私を犯罪者にする気かよ」
「全てを俺がもらう。奴の人生も魂も肉体も……証拠になるものは残さない。そうしたら誰もわからない。そいつが存在していたことさえ誰も気づかない」
なんだかよくわからないが、身震いがする。元々こいつを拾ったのは気分だ。トチ狂ってこいつを拾った。契約者が見つからないと縋ってきたから、最初はSNSに載せてやろうと思って持って帰ったんだ。でもこいつの話を聞いて、こいつをネタに注目を集めるのは自身にも不味いことを理解して、こうやってズルズルとした関係を続けている。
「訳わかんない。マジ怖いし……出かけてくる」
「どこに?」
「撮影。また新しいの撮るんだってさ。お前、内から鍵かけろよ」
私は準備をしてマンションを出た。鍵はお前がかけろと言ったから男も玄関まで出てくる。
その時私は気づかなかった。
家の傍にカメラを持った男がいたことを……
***
「先輩こんにちはぁ。今日もがんばりましょうねぇ」
撮影現場には相変わらずエリカの姿。相変わらずウゼえ……キャピキャピしてんじゃねぇよ猫かぶりが。あー最悪。テンション一致にがた落ち。
一時も早くこいつから離れたくて、適当な返事を返して違う奴の所に向かった。
「あーマヤ。あんた何してんの?」
モデル仲間の中でも、まあまあ親しい奴の所に行けば少し慌てたように声をかけられる。確かにヘアメイクに気をつけろって言われたな。携帯見てたから無視してて話を聞いてなかったけど、いったい何なんだ?
「何が?」
「何がって……見てないの!?あんた週刊誌に載ってたんだよ!彼氏と家の中にはいったって」
何のこと言ってんだ?私に彼氏なんていないし……彼氏……まさかあいつ!?思わず真っ青になって慌ててそれを否定した。
「マジで!?つかあいつは全然そんなんじゃないし!」
「あることないことでっち上げられてんだと思うけどさー。だってあんた全くのろけてなかったもんね。でも編集長はカンカンだってよ」
「……マジかよ」
まさかそのせいでエリカがトップになったとか……あるのか?気になる、撮影終わったら少し遠まわしに聞いてみるか……
***
「お疲れ様です」
夕方、カメラマンがそう声をあげて撮影は終了した。
「マヤー夕飯どうする?」
「あーごめん。今日は無理」
だってあいつが家にいるし。あいつ飯作れないしな……友達の誘いを断って更衣室に足早に向かう。
さっさと服を着替えて今回の撮影に来てた奴に聞いてみよう。
「きゃはは!そうそう!」
この声はエリカ?
中からはエリカともう一人、誰かの声が聞こえる。
「でもさーあんたもうトップじゃない?マヤとかきっと抜いたよ」
「ねー今月号の表紙があたしの時はマジで来たって思ったね」
私に話しかける時と話し方が全然違う。こいつ本当はこんな奴だったんだ。私だって猫をかぶる時がある。あのぶりっ子が素のあいつだとは思っていなかったが、案の定だ。エリカは聞かれているのにも気づかずに、バカでかい大声で本音を暴露していく。
「でもぶっちゃけトップになるのってこんなに楽なんだなーって思ったよ。マヤとか生でみたら全然大したことなかったしー」
「きゃははっ!言えてるー!トップモデルできたとかよっぽど運が良かったんだよ!だってあいつブスじゃん!」
握りしめた拳が震えるのがわかる。
ドアの向こうではあいつ等が好き勝手に私の文句をほざいている。
「こっちが下手に出て話しかけりゃ、あいつマジで調子乗ってんの。よろしくって言えば“ああ”しか返さなくてさー。マジであたしを敵視してるの丸わかり。負け犬が一丁前に喧嘩売ってくんなよな!きゃはは!」
「……エリカっ!」
これ以上我慢ができるか!思い切りドアを開けるとエリカの目が丸くなる。
「……先輩!」
急に潮らしくなった口調も頭に来る。
「てめえもういっぺん言ってみろよコラ!!」
思い切りエリカの胸倉を掴んで突き飛ばした。
エリカは床に尻もちをついて、呆然と眺めており、先ほどまでの威勢は完全に消え失せていた。
「ちょ、先輩!」
「レイナ、てめーもだ!陰でコソコソ言いやがって!うぜーんだよ!!」
「きゃ!」
レイナも突き飛ばしてエリカに近寄り、もう一度胸倉を掴んで顔を近づけた。
「誰がブスだ。誰が負け犬だ。調子こいてんのはテメーだろ。ざけんじゃねーよ!」
「……それがあんたの本性か。ただのチンピラじゃん」
エリカは私の手を思い切り払いのけた。
さっきまでの口調はどこにやら、エリカはニヤニヤ笑い、全てを暴露してきた。
「あんたは負け犬でしょ?だからあたしに表紙とられんじゃん。あたしが雑誌の中心になってくのが気に入らなかったから、あたしにだけ態度悪かったんでしょ?見え見えなんだよバーカ」
「調子乗ってんじゃねえ!」
「乗ってんのはお前だよ。いつまでもトップに居れると思ったら大間違いなんだよ。この性格ブス」
「性格ブスはてめーだろ!この猫かぶりが!」
「はは。それしか言えないんでしょ?悔しいよねぇ、有名ブランドとのコラボがあたしになって。悔しいよねぇ、表紙取られて。でもそれはあんたよりもあたしのが優れてるって思われたからなんだよ」
エリカが顔を近づけて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。この目を知っている。私を敵視し私のすべてを奪おうとしている目だ。
「悔しかったら……もう一度結果出してみろよ。お前はもう用済みなんだよ雑魚が」
固まった私にエリカは服をポンポンと叩いて立ち上がり、レイナの手を掴んだ。
「行こレイナ。こんなババア相手にすることないし」
「ってか暴力とかマジありえないでしょー。こいつマジこっわ!」
二人がわざと肩をぶつけて出ていき、その場には私だけ取り残された。
むかつく……むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく!!なんで私がこんな目に…!あんな奴いなくなればいいのに!!
あいつの力……ふと思い出したあいつの言葉、殺してもばれない。そう言ってた。あいつがいなくなれば、私は今まで通り皆にちやほやされて……私は立ち上がり、急いで着替えを済ませるとあいつの所に急いだ。編集長からの呼び出しなどに構っている暇はない。
***
そいつは大人しくテレビを見ていた。好き勝手出ていかれるより家の中に居てくれた方が好都合だ。
思った以上に早く帰ってきた私に首をかしげている。その呑気な態度が癪に障り、思った以上に大きな声が出た。
「おい!」
「なんだ帰ったのか。相変わらず騒々しい」
「お前の力、見せてみろ」
それだけ言えば意味は分かるだろう。そして誰に対して使ってほしいのかも、何もかも。案の定、男はにやりと笑みを浮かべる。
「それは俺に命令してるのか?」
「そう言う事になるね。あたしの命令に従え」
「では命じろ契約者。俺の能力、過去にお前に話したはずだ」
「私をまた雑誌のトップにしろ」
あの女を引きずり降ろしてやる。私に喧嘩を売った罰を思い知れ。
「願うだけでは駄目だ。望みを叶える為には誰かの魂を必要とする」
わかってる、そう言うと思って私はあんたに命令したんだ。
魂をとる相手なんて決まってる。
「九条恵理香。あいつの魂と引き換えに私の願いを聞け」
「主の仰せのままに。ソロモン七十二柱“火炎術師アミー”主の願いを聞き給い、主の憎き者の魂を地獄の業火で焼きつくそう」
私とこいつの間で契約が成立した。直に私はまたトップに返り咲き、エリカは魂を地獄で焼きつくされるだろう。馬鹿な女……私に喧嘩を売ったからこうなるんだ。
アミーがゆっくりと立ち上がる。
「魂……俺がハーデスに連れて行く」