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第88話 嫉妬と羨望

 「よかったー光太郎遂に解禁されたか」

 「マジで親父やばかったんだからよー。やっと外に出れたよ」


 三日後、やっと外出禁止令から解放された光太郎と遊びにくり出していた。春休みももうすぐ終わりなのに、光太郎と遊びに行くのはこれが初めてだ。こんなのんびりした日は久しぶりだな。



 88 嫉妬と羨望



 最後の審判を止める決意をしてから三日後、俺と光太郎は原宿に来ていた。光太郎は三日間みっちり絞られ、家から全く出ることができなかったらしい。本人いわく干からびたそうだ。


 「でも冗談抜きでやっと外に出れたよ。家の中で空気も重くてマジでどうなるかとおもってたよ。俺普段は兄貴とあんま話さねーけど、柄にもなく向こうがめっちゃ心配してきてびびったわ」

 「あはは。まぁ良かったな。おじさんの怒りが収まって」

 「マジで助かったよ……あれ?松本さんとヴアルちゃん?」


 え?どこに?

 光太郎の視線を追って行くと、確かに澪とヴアルが本屋に向かって歩いていた。あの二人てそんな仲良かったのか。二人で買い物するなんて……あ、でもバレンタインデーで一緒にチョコ作ってたし仲はいいのか。呼んだら気づいてくれるだろうか?


 「澪。みーおー!」


 大声で呼んでみたけど、澪は俺の声に気付かないのか、全くこっちの方を向かないで本屋に入ってしまった。少しやけになって追いかけた俺を見て、光太郎は面倒くさそうについてくる。


 「ストーカーかよ」


 その声が聞こえなく、ズンズンと歩きだした俺を見て光太郎はため息をついた。

 本屋に入って澪を探すと、澪とヴアルはファッション雑誌を見ていた。そーっと背後に忍び寄って大声を出す。


 「澪!」

 「拓也!ビックリしたぁ……なんでここにいるの?」


 確かに、なんで俺追いかけて来たんだろ。改めて考えたら少し馬鹿っぽい。俺はごまかすために「あはは」と笑った。そんな俺に澪もおかしそうに笑う。


 「いやー特に意味はないんだけど、姿が見えたから」

 「あ、そうなんだ」

 「何買ってんの?」

 「今日はねーこれの発売日なの♪」


 澪はそれを聞かれると嬉しそうに雑誌を取り上げた。

 あ、そういや澪、毎月買ってたな。このファッション誌。綺麗な女性で飾られた表示にはポップな文字が所狭しと書かれている。雑誌に書かれた文字を無言で読んでいる俺の側で恨めしそうな声が聞こえてくる。


 「拓也、私のこと忘れてない?」


 俺の腰らへんには不満顔のヴアル。だってお前ちっちゃくて視界に入んないんだもん。ていうか澪の雑誌を一緒に見るにはお前は見た目年齢足りないだろ。


 「いたのかヴアル」

 「なんですって!?」


 ヴアルが俺と言い争っているのを完全スルーして澪は雑誌を買いにレジに向かっていく。その光景を見ていた光太郎がぽつり。


 「松本さんフリーダム」


 ***


 「やっぱマヤは可愛いよねー」

 「ねー」


 その後、一緒にお茶しようということになった俺たちは澪が好きなカフェに向かい、適当に頼んだコーヒーを飲む。店内は女子高生や女子大生で賑わっており、中に入るのも三十分程度待つほどだ。光太郎は女子と一緒じゃないと入ることができない店内でせっかくだしとケーキセットを頼んで頬張っており、その横では澪とヴアルが雑誌を開き、モデルを見て可愛い可愛いと盛り上がっていた。俺的にはモデルより澪のが可愛いんだけどな。


 「澪のが可愛いよ」

 「なに言ってんの?拓也はマヤを馬鹿にしてんの!?」


 酷い!!俺めっちゃ一人格好いいこと言ったってときめいてたのに!!やっぱりこういうのって伝わらない物なのか。

 そんな俺を光太郎は嫌みったらしく笑っている。人の失敗を喜ぶ性格悪い奴だ。


 「残念拓也。女心は複雑なのよ」

 「光太郎、カマ語喋んな」

 「当たるなよ」


 俺たちの会話を丸無視して澪とヴアルは相変わらず雑誌に夢中だ。横から覗きこんでモデルをみてみるがいまいち良さがわからない。そんな化粧バッチリした女がいいのだろうか。確かに美人だけど澪のようなナチュラルメイクのが可愛いのに。

 その状態がしばらく続いていると突然澪の携帯が震え電話がかかっているのを理解する。


 「あ、裕香だ。もしもし」


 裕香……ああ橘さん。なつかしいな。

 あの子は声がでかいから、こっちにまで声が聞こえてくる。電話越しの声は興奮しており早口で用件を伝えている。


 『澪ー!今ねー渋谷駅前でマヤが雑誌の撮影してるよ!おいでよ!』


 澪の顔が華やいでいく。嫌な予感……


 「本当に!?ヴアルちゃん。マヤが渋谷駅前にいるんだって!見に行こう!」

 「行くー!」

 「え?ちょ……」

 「拓也、ごめんね!」


 振られた……


 会計をしておいてほしいと言われてお金を渡されて足早に去っていく二人にこんな空間に残されてどうしていいか分からない。

 残された俺を見て光太郎が肩を震わせて笑いをこらえていた。何これ空しい。そして光太郎うぜえ。俺はやけになって大声を出した。


 「ちくしょー!いっそ笑え!!その方が気分が楽だ!」

 「いやだってさ、ぷくく……あはははは!!」

 「本当に笑うな!!」


 俺はマジでショック受けてんのに!

 だってマヤとかいう女に負けたんだぞ!?しかも放置されたんだぞ!!泣きたくもなるし!はあ……澪、振り返ってもくれなかった。俺の横でいつまでも大爆笑してる光太郎の足をガスガス蹴りながらため息をついた。


 「そういや昨日電話で中谷と話しててさ。俺も決意決めたよ」


 ひとしきり笑ったのか、光太郎は思い出したように話題を変更してきた。昨日話す内容と言ったら、やっぱりあれだろうか。

 俺の勘は当たってて、光太郎は中谷はすげえな……と続けた。


 「あいつ、気持ちを奮い立たせに子供のころ遊んでた公園で士気高めてたって言うじゃん。拓也はシャネルの為なんだな。身近な理由がないとやる気が出ないって言う中谷の言葉に確かにその通りだなって思ったんだ。そんで考えたんだけどさ、俺は別にやりたいこととか目指してるものとかないし、漠然と毎日を生きてんだよね。でも大学生になりたいって願望だけはきちんとあるわけよ。兄貴とか楽しそうに大学通ってるし、人生で一番楽しいって豪語してたし。てなると、俺はそんな一番楽しい時間を過ごさないで死ぬかもしれないなんて絶対にやだなって。だから俺は自分の為に戦おうって思ってる。お前らに比べたら自己中だけど、誰かを守るなんて理由だったら俺はチキンだからきっと潰れちまう。だからこの程度でいいと思うんだ」


 「本当に自分勝手な理由だな」

 「えーハッキリ言うなよー。中谷も同じこと言ってたしよー」


 でもま、いいんじゃねぇの?

 中谷は中谷の、光太郎には光太郎の、皆理由があるんだから。綺麗ごとなんてどうせいつかボロが出る。世界のためなんて正義感は持たない方がいいような気がする。そんな決意も覚悟も、きっと自分達にはないと思うから。

 

 流されて悪魔と戦って、でもそれは自分とか大切な人たちのためであって、例えばこのカフェにいるお客さんたちを守るためではない。フォラスが俺に言ったとおりだ。きっとこのお店のお客が俺の知らない所で悪魔に殺されても同情はするけど、生き返らせようとまでは考えないだろう。だからこそ、世界を救うなんて綺麗事を言ってはいけない気がしたんだ。

 光太郎は自分の意見を言った後、真剣な表情で決意を述べる。


 「絶対に止めような。審判を」

 「わかってる。止めてみせる。何があっても……」


 きっと止められるよな。また普通の生活に戻って、いつも通りの日を過ごせるよな。

 光太郎は俺の返事に満足して席を立ちあがる。


 「いい加減、女の人ばっかりのカフェに男二人はきついわ。出ようか」

 「んだね」


 ***


 その後、俺と光太郎は買い物をしたりゲーセンに行ったりと久しぶりの休日を目いっぱい楽しんで、最終的にはお金のかからない公園のベンチでコーヒーを飲みながらだべると言う形で落ち着いた。

 若干肌寒いが、三月も終わりだ。耐えられる程度だ。コーヒーを飲みながら辺りが少しずつ暗くなるにつれて、解散が近づいてくる。光太郎はまだ外出規制が発動されているため夕飯を外で食べるのは許されておらず、そろそろなのか時計を確認していた。


 「なんだかんだで春休みももう終わりだな。せつねー」

 「確かに。あんま遊んだ感覚ないよな」


 しみじみに呟く光太郎に頷くしかない。同意した俺にそうなんだよ!と力を込めて光太郎が力説する。二年のクラスはどうなるんだろうとか、修学旅行とかはどこに行くんだろうとか、やっぱ新しい学年になるのにそれなりの不安はある。できればもう少し春休みが長ければいいのに。


 「稽古もしてないし。マジやばいよな」

 「そうなんだよなー」


 下らないことを話しながらも、ある事を思い出し光太郎に聞いていいか躊躇する。でもあの後、どうなったかどうしても知りたくて、意を決して聞いてみた。


 「信司君、あの後どうなったんだ?」


 光太郎が会いに行くと言っていたから。その問いかけに光太郎は急に顔を俯かせて、悲しそうに眉を下げる。それを見て、最悪が頭によぎる。自殺しようとしていたくらいだ。まさかなんて、ないよな?

 心臓が音をたてる。最悪の終わり方をしてしまってから結局彼には会えてない。でも光太郎の表情からいい結果ではなさそうだ。


 「知らなかったよ。信司は無傷で助かってたとばっか思ってた。足の腱、切られたんだってな」


 俺達は結末を光太郎には告げなかった。罪悪感からか、逃げたかったからなのかは自分でもわからない。


 「……俺さ、それ知った時、自分が情けなくてしょうがなかったよ。俺がもっと信司のこと理解出来てたら信司は悪魔と契約しなかったんじゃないかって……」

 「そんなこと……」


 何も励ます言葉が見つからない。すごい罪悪感に襲われる。光太郎はそんなつもりじゃないだろうけど、責められているように聞こえてしまうのは俺が卑屈だからだろうか。


 「竹下さんが先輩達が信司の足の腱を切ったって言ったから、信司は完全に被害者扱い。本人も微妙そうだった。犯人扱いしてくれた方が気が楽だって」

 「ごめんな。助けられなくて……」


 出てきた言葉は簡潔で簡単な数文字の言葉。こんな言葉で歩けなくなった信司君の許しがもらえると思ったら大間違いだろうけど。

 でも光太郎は首を振った。


 「なんで?助けてくれたじゃん。信司、自殺しようとしたのを助けてもらったって言ってたし。それだけで十分なんだよ……でも」

 「でも?」

 「もう二度と歩けないんだなって思ったら、悲しくて……」


 そうだ、信司君はバスケが大好きだって聞いた。もう二度とそれができなくなるどころか普通の生活さえ困難になってしまうんだ。光太郎が信司君の夢を応援していたことを知っている。俺の幼馴染がすごいんだって取材を受けた信司君のネットの記事を嬉々として見せてくれたり、試合に応援しに行くと意気込んでいたり、俺は澪しか仲のいい幼馴染がいないけど、光太郎みたいに同性で今でもこんな風に仲がいいっていうのも羨ましいなって思ったくらいだ。


 「あいつの部屋さ、前はバスケ道具いっぱいあったんだ。ポスターとかシューズとかバスケ雑誌とかボールとか……全部なくなってた。捨てたんだって」


 それが信司君にとってどれほど辛かったか、俺ですら何となく理解できるから光太郎が罪悪感で打ちのめされるのも無理はないのかもしれない。


 「信司は簡単に言ってのけたけど、捨てるまで絶対に悩んで苦しんだと思う。それを思うと悲しくて……泣いて俺に謝ってきた信司の顔が忘れられない。ずっと泣きながら謝ってた」


 さっきまで悲しそうな顔だった光太郎の表情が変わる。それは怒りを抑えられないというような顔だった。手はわなわなと震え、険しい表情で顔をあげた光太郎の表情に息をのんだ。


 「俺、それを見て思ったんだ。こんなに信司を苦しめた原因を作った先輩たちなんて殺されて良かったんだって。そう思ったんだよ。最低だろ?ざまあみろって思ったんだ。信司が殺さないままで、そいつらが笑ってたらって想像するとイライラが収まらなかった。当然の報いだって思ったんだよ」


 同じようなことを竹下さんも中谷も言っていた。俺は信司君の過去があまり分からない。それでも、三人は信司君に対して同情的だったんだ。彼は、相当な苦しみを味わったんだろう。そんなことを知りもしないで、あの時……感情のままにお前が死ねばよかったと声を荒げてしまったことに今更反省をする。言ってしまった言葉はもう取り戻せないのに。


 「信司が言ってたんだ。殺したいから殺したんだって。そうだよな、どんな背景があれ、理由なんてそうだよな。そいつを消したかったんだ……ただ、それだけ。信司のやったことは許されることじゃないけど、俺は……あいつを否定したくない。信司を苦しめた奴らは死んで良かったんだ」


 そう言い切るけれど、その声は弱弱しくて悲しげで……なんて声をかけていいのか分からない。でも気持ちはわかるんだ。大切な人を苦しめた奴が痛い目に会えばいいって、俺だってきっと思う。だけど俺は信司君に対してそこまで感じない。


 直哉はどんな気持だったんだろう……直哉は何も知らなかった。だけど人を殺してしまった。


 もちろん直哉は反省してるし、そんな直哉を責める気にはならない。でも信司君は違う。自分が殺したくて殺したんだ。そして結果として光太郎までも。そんな信司君を俺は許せなかった。

 確かに足の腱が切れてしまったのは可哀想だと思うし、守れなかったのは申し訳ないと思うけど。でも少しだけ思ってしまった。


 光太郎が殺された時、足の腱を切ってまでサブナックを止めた信司君に対して、驚きながらも心のどこかで自業自得だって思ってた。


 俺の親友はお前のせいで殺されたんだからお前が責任を取れって……確かに一瞬そう思った。結局、皆同じなんだよな。家族殺された遺族が犯人に死刑になってほしかったっていうのをよくニュースで見たりする。自分の身近な人がそんな目に遭うと、誰だってそう思うんだ。


 “お前だって悪魔殺したことくらいはあんだろ。その時お前は生き返らせようと思ったか?思わなかっただろ?同じだ。身近な存在でないと何も感じない。残念だった……そう思うだけだ。それが今の俺の気持ちだ。ご愁傷様ってな”


 フォラスが言ってたことが再度思い出され、それが妙に頷ける。あの時は被害者が光太郎だったから、なんでそんなこと言うんだ?って思って頭に来てた。でも本当にそういうものなんだ。澪達と行ったカフェでも同じことを思ったが、あの女の子たちが殺されても俺はきっとフォラスに助けを求めに行かない。


 俺の中の信司君の存在感は強くない。だから、悔しい悔しいと嘆く光太郎を目の前に、俺には光太郎の気持ちがいまいち理解できなかった。


 ***


 ?side ―


 「撮影終了でーす。お疲れ様です」


 スタッフの一人がそう告げれば、安心したような声が上がり、現場は拍手で包まれた。


 「マヤーお疲れ様」

 「お疲れ」


 適当に相槌を打って、私は輪から外れて一人椅子に腰掛ける。


 「あいつの方が多かった……」


 撮影数が……わずかな差だけどあいつの方が……今まではツートップとか言いつつも私の方が撮影数も多かったし、待遇も良かった。でも今は何?撮影数はあいつの方が多くなって、去年おととしとコラボしてたブランドは今年はエリカとの共同コラボしようなんて言いだすし。あいつはCMにも少しずつ出だしたり……私の地位が足元から崩れていくのを感じる。

 華が短い業界だと言うことは知っている。だけど、こんなに早く忍び寄ってくるものだったとは……


 「気に食わない」

 「先輩ーお疲れ様でしたぁ」


 私の思ってることなんて微塵もわかってないような顔でエリカが話しかける。


 「ああ、お疲れ」

 「今日も格好良かったですよぉ!」


 自分の方が撮影数多い癖に遠まわしに馬鹿にしてんのかよ。ウゼえな……何もかも計算ずくで遠回しな嫌味にしか聞こえず、顔面を殴って髪の毛を引っ張って引きずりまわしてやりたいとすら思うが、今日も私は猫を被る。余裕をなくすところを見られたくないから。


 「エリカは今日も可愛かったよ」

 「本当ですかぁ!?ありがとうございますぅ!!」


 本当なわけねーだろクソ野郎。


 目の前ではしゃいでるエリカに反吐が出そうだ。私はそんなエリカの前を早々に立ち去って家に帰る準備をする。


 「マヤー今日飲みに行かない」

 「行かない。自分たちだけで行けば?」

 「ちょ……何その言い方」


 同僚のモデルに誘われた誘いもバッサリ断り、私はその足を自宅に向ける。長居する意味はない、私にはやることがあるのだから。


 「お帰り」

 「……ただいま」


 返事が聞こえたのを確認して、鞄をベッドに投げ捨てた。私は今大学二年生。まあ四月から三年だけど、親から離れて一人暮らしをしてる。そんな私に最近家族が増えた。だから、こいつをここに閉じ込めておけるんだ。私の切り札……


 「また怒ってる」


 部屋の中では同い年くらいの男が座っていた。見た目はよく、最初に見た時は私もそこそこのレベルだと思ったもんだ。でもこいつは違う。


 「そんなにイラつくのならば俺に命令すればいい」

 「お前の力は切り札だろ。まだ、そこまでの脅威はない」


 乱暴な言葉を投げかけてベッドに横になる。


 「ムカつく、あの女……人がした手にでてりゃ調子に乗りやがって。何が格好いいだ。自分の方が売れだして私を馬鹿にしてくる癖によ」

 「今の世界の女は言葉使いが荒いな。前の契約者はそんな言葉づかいはしなかったぞ」

 「はぁ?うっせー。きめーんだよ」

 「お前はムカつくな」


 軽いやり取りをして、黙り込んで天井をただ見つめる。何も考えずに済むこの時間が一番幸せなのかもしれない。世の中は見た目が九割だ。どいつもこいつも通り過ぎる無関係な人間にすら点数をつけ優劣を競い合っている。

 二番なんて意味がない。その空間で一番でないと、他人からの評価は天と地ほど変わってくるのだ。


 「マヤ、好きな事はやりたい時にやった方がいい。間に合わないかもしれないぞ」


 突然悟ったような言い方に首をかしげる。こいつが言うことはいちいち遠回しで分かりづらい。


 「あんたってマジで時々変。何が言いたいんだよ。勝手に自己完結してさ。マジきもい」

 「お前はそれが口癖だな」


 大きなお世話なんだよ。

 他人に当たるくらい今の私はイライラしている。マジであいつがいなくなれば、私はまたトップになれるのに。あいつが来たせいで全てが狂ったんだ。


 どう落とし前をつけてもらおうか。


 今の私にはそれをできる力がある。笑ってやれるのも今のうち、絶対に痛い目見せてやる。昔なら絶対にありえないくらいのドス黒い感情が体を支配する。

 でも私はそれを悪い事とも思わず、止める気もサラサラなかった。


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