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第86話 大切な親友

 フォラスの行方が判明したことで、カザフスタンから戻ってきた中谷にそのことを報告して、今後の対策に移る。中谷は一発でフォラスを連れてくることができなかったことに落胆していたが、次は自分も大分に行くと意気込んでいた。

 勿論光太郎を救うことが先決だ。でも、光君の放ったあの言葉が頭から離れない。



 86 大切な親友



 光くんから審判の意味を聞いたその日、全くと言っていいほど眠れなかった。ボーっとしていると光太郎の事、審判の事、色んなことが頭の中でごっちゃになり、それを振り切るように携帯をいじったり音楽を聴いてたりしたら、いつの間にか朝が来た。朝からテンションの低い俺を見て、ストラスが心配そうに話しかける。


 『拓也、寝れなかったのですね』

 「少しは寝た。心配しなくても平気」


 察しのいいストラスは気づいてるはずだが何も言ってこない。それが少し有難い。

 俺は服を着替えてドアに手をかける。今日こそ光太郎を助けるんだ。


 「今日も大分に行くぞ」

 『そうですね』


 少しだけだるい体に鞭を打ってマンションに向かった。残された時間は少ない、失敗はもう許されないんだ。


 「あ、澪」

 「拓也、おはよう」


 マンションにはなぜか澪がいた。俺が来るよりも先に来てたんだ。教えてくれたらいいのに。


 「まだ朝の九時だよな。いつからいんの?」

 「八時半くらいかな?シトリーさん、すっごく疲れてるみたいだから身の回りの事、できるだけしてあげたいなって」


 澪は苦笑いをこぼした後、シトリーに視線をよこす。それに合わせて俺も視線を移動させると、確かにかなり疲れてる様子のシトリーがいた。全く眠ってないのか、目にクマができてる。

 早く光太郎を助けなきゃ、このままじゃシトリーもろとも……


 「あー拓也おはよー」

 「おーヴアルはよっす」


 俺が来た事に気付いたのか、ドアを開けて入ってきたヴアルが飛びついてくる。それを受け止めると顔をあげて昨日の話を聞いていたのか、契約者が見つかったんだねと聞いてきた。


 「大分の光って人がフォラスと契約してたんだってね」

 「今日も行くんでしょ?」

 「うん」


 ヴアルは少し心配そう。ヴアルはどこまで話を聞いたんだろう、この感じ、最後の審判について聞かされたことも知っているんだろうか。でも澪は無理しているようには見えず、澪にはまだ話していないのかもしれない。


 「そっか、気をつけてね?今日は中谷達もそっちに行くんじゃないのかしら」

 「中谷来てるのか?」


 でも辺りを見る限り、中谷の姿はマンションにはない。セーレに朝ご飯作ってもらったことを俺が仕事増やしただけとか言ったから時間をずらしてしまったんだろうか。悪いことをした。


 「中谷は?まだ来てねえの?部活か?」

 「部活は休んでるわ。今ねーヴォラクとお使いに行ってるの。食材切れちゃったんだけど今みんな忙しいからって」


 何だパシリか。なんだってそんなことやってんだあいつは。

 暫くすると中谷とヴォラクが大量の買い物袋を持ってマンションに帰ってきた。買ってきたものを冷蔵庫に入れている二人を見て、暇だったため作業を手伝う。


 「何でお前が買い出し行ってんだよ」

 「みんな忙しそうだし、お前いなきゃ大分行けないだろ。だから手伝い。それ以外に俺がやれることってないし。いやー俺だってもう少し遅く来たいんだよ!でもこう、俺が家にいる間にも広瀬は……って思うと体がここに向かっちゃうんだよ!分かるだろ!?」

 「わかる」


 そういうことか、中谷も居ても立っても居られないんだろうな。朝練しているせいか朝早く起きるのはできるみたいで今日も朝の六時半と早く来すぎて手持ち無沙汰だったみたいだ。俺達が野菜やら肉やらを冷蔵庫に入れていく横でパイモンとセーレとストラスはパソコンを囲んで、何やら難しい顔で話し合ってる。


 その光景を見て確かにこの中には入れないなと思う。食材を入れ終わった後、ソファで横になっている光太郎の所に行った。

 あ、シトリーがメッセージ送ってる。澪の横では片手で携帯を使っているシトリーがいる。どうやら光太郎に成りすまして家族に連絡を入れているようだ。光太郎の家族は何も言ってこないんだろうか。息子がこんなことになって違う奴が成りすまして連絡していたなんて知ったら俺だったら発狂しそうだ。


 「光太郎の家族、なんて?」

 「あ?早く帰ってこんかーとか遊びほうけんなーとかだな。マンションって伝えたら何も言ってこないけどな。何回かここに逃げ込んで帰んなかったことがあんだろな。またそこに居んのかって返ってきた」

 「そっか……」


 俺と中谷は光太郎を見つめる。傷がふさがった光太郎はまるで眠っているみたいだった。

 今にも起きてきそうなくらい。でも光太郎の目が覚めることはない。


 「光太郎、もうちょい待っててな。絶対に助けてやるからな」


 目を閉じてる光太郎が反応はしないのは当たり前だけど、それでも俺は何度か話しかけた。


 「主」


 話し合いが終わったのか、パイモンが声をかけてくる。準備ができたんだろう。まだ朝の十時だ。時間的には早い部類になるんだろうけど、ゆっくりしている場合じゃない。


 「パイモン、俺行けるよ」

 「私たちの準備もできました。向かいましょう」


 俺達は光太郎に行ってきますと伝えて大分に向かった。


 ***


 「ここが大分かー広瀬が元気なら温泉入って帰りてえとこだけどなー」


 大分初上陸の中谷は忙しなく辺りを見回している。

 また高校にでも行くのだろうか、俺と同じ高校生なら光君は春休みだし、警戒して呼び出しても来てくれないだろう。気になってパイモンに尋ねてみた。


 「パイモン、こっからどうすんの?」

 「先ほど調べたところ、光という少年の住所が割れました。家に向かいましょう」

 「ええ、パイモンどうやったの」

 「昨今はSNSがあるので便利ですね。個人情報をバラまいて平気なんでしょうかね。やろうと思えばすぐに特定できますよ」


 さっき難しそうな顔で話してた内容ってそれ?流石パイモンすげえな。パイモンとセーレがさっさと進んでいくのを俺は慌てて追いかけた。二人はいつも通りチャキチャキしているけど、その表情には若干の疲れが見える。パイモン達もきついのを隠してるんだ。それに比べて俺は何も出来なくて、情報を待つばかりだ。

 後ろにいるヴォラクと中谷は二人で建物を指差しながら少しだけ、少しだけだが笑いあっている。やっぱあいつ等は仲いいよなぁ。鞄の中に隠れているストラスもその光景を横目で見て、俺に視線を戻した。


 『拓也、辛くありませんか?体の調子は?』


 ストラスは心配性だな。大丈夫っつったのに。いや、大丈夫ではないんだけど、今は触れてほしくないって言うか……その話はしたくない。


 「大丈夫。一日くらい寝んなくたってさ」

 『ならいいのですが……』


 ストラスに愛想笑いを一つ。実際のところは眠くてしょうがないんだよな。でも寝たら、俺はきっと審判の夢を見てしまう気がする。人類が滅亡する夢を見てしまう気が……だから寝たくないんだ。きっと俺は泣いてしまう気がするから。

 パイモンとセーレの後ろをついて行きながら、小さくため息をついた。


 ***

 

 「ここ?」

 

 街中からバスに乗って少し離れた住宅街に一軒家が建っていた。光君の名前しか知らないから表札を見ても光君の家かは分からない。


 「はい。私の調べによるとここになります」


 そっか、じゃあ早速インターホン鳴らした方がいいのかな。でも押すのって勇気いるよな。小さいことを悩んでいる俺を横目にヴォラクが面白半分にインターホンを押した。急にインターホンの音が鳴り響き、思わず背筋が凍る。

 そしてパイモンが推した張本人の首根っこを掴んで引き寄せる。


 「何をしている貴様!?」

 「ぐえっ!何すんだよ!だって会いたいんだろ!?」

 「だからと言っていきなり押す奴があるか!」


 二人がもめている間にバタバタと早歩きの足音が聞こえる。あ、人が出てくる!?


 「はーい」


 声が聞こえて、おばさんが玄関から顔をのぞかせた。もしかして光君のお母さんかな?相手は見慣れない俺たちに首をかしげながらも問いかけてきた。


 「何の用ですか?光の高校の知り合い?」

 「いや、あの……光君に会いに」


 おばさんは見た事のない俺たちを怪訝そうに見つめる。しかし俺が返事をすると、おばさんは目の色を変えて俺たちに走り寄ってきた。え、なに!?俺何か地雷踏んだ!?

 いきなり胸ぐら掴まれる勢いで肩を掴まれ小さな悲鳴が漏れた。


 「あんた光に何を吹き込んだの!?」

 「え、えぇ!?」


 なんでこんなに切れられなきゃなんない訳!?

 まさか光君、おばさんに悪魔の事言ってるんじゃ……


 「最近、光は家に帰ってこんし、パチンコなんか行き出すし……散々よ!あんた達とつるんだせいでしょ!?」

 「そんな訳じゃありません!」


 やっぱり光君は審判まで好きな事するって言ってただけあって、やりたい放題やってるんだ。それでおばさんは俺たちが光君を誘いに来たって思ったのかな?壮大な勘違いだけど……


 「光はあんな子じゃなかったのに急に……」

 「それは火事の後からですか?」


 パイモンの問いかけにおばさんは泣きながら頷く。

 やっぱりフォラスに審判の事を教えられてたからだ。泣き続けるおばさんに俺達は戸惑うしかなかった。

 その時、光ちゃん!という声が聞こえて振り返るとお目当ての人物が恐らく近所のおばさんだろう人に絡まれているのを見つけた。それを見て、光君のおばさんが大きい声を張り上げて名前を呼ぶと、光君は恐る恐るこっちに振り返ったが、目が合った瞬間に逃げ出した。


 「やっべっ!!」

 「待ってよ中谷~~」


 中谷が光君を走って追いかける。すげーテニス部と野球部の競争なんて滅多に見れるもんじゃないぞ。俺たちは呆然としてる光君のおばさんに頭を下げて、中谷とヴォラクの後を追った。


 「離せよてめえ!」

 「誰が放すかよ!」

 「大人しくしなよー!」


 どうやらあいつ等捕まえたみたいだな。テニス部と野球部の競争は野球部の勝ちのようだ。

 光君は中谷とヴォラクに羽交い絞めにされて嫌そうな顔をしていた。俺達はそんな光君に近づくと舌打ちをして不快感をあらわにする。


 「また来たし継承者」


 うんざりした様子の光君を見て、少しだけ苛立ちが募る。人が死んだってのに、なんで平気そうな顔してんだ。自分の能力があれば、生き返らせられるのに……どうして拒むんだよ。


 「俺はお前が頷いてくれるまで何回でも来る」

 「うっぜえ。何回来たってお前の事情とか知らねえよ」


 光君は嫌そうな顔をして、そっぽを向いた。


 「あんたは何とも思わないのか?」


 光君がじっと俺の目を見つめる。だってそうじゃないか。人を生き返らせる力があって、悪魔の事も知ってて、その悪魔に何の罪もない人が殺されたら普通は同情するもんじゃないのか?なんでそんな平気そうにしてられるんだ?


 「自分の親友が悪魔に殺された時、あんたならその力を使わないで放っとけるのか?」

 「どうせ最後はみんな死ぬんやし、どうでもいいことやろ」

 「あんたはそうかもしれないけど俺は違う。俺は友達を生き返らせたいんだ!大事な親友だったんだ!」


 きっと今俺は酷い顔をしてるだろう。

 そんな俺を見て、光君は何を思ったのかため息をついた。


 「ならフォラスに頼んでみれば?」

 「フォラスに?」

 「俺は勝手にフォラスの力を使ったら駄目なんだよ。おめーが本気でそいつを助けたいのなら直接フォラスと話しつけろや」


 光君は折れてくれたんだろうか。面倒くさいと言いながらもフォラスと変わってやると言ってくれた。

 その光君を見て、セーレは不思議そうに問いかけた。


 「そういえば君の契約条件を聞いてないな。ちゃんとした等価交換の契約なのか?」

 「俺とフォラスの契約に不利になる条件はない。フォラスを俺の体に憑依させてやる代わりに俺を生き返らせること、それが契約条件やった」

 「生き返らせること……やはり君は」

 「あの火事の日に俺は死んだ」


 ***


 光side ―


 「残念ですが一酸化炭素中毒とみて間違いないでしょう」

 「そんな……光!」

 「明日、司法解剖を行います」

 「光、光ぅ!」


 あ、ばばあとじじいが泣いてる。俺死んじゃったんだ……自分の体が目の前に横たわっている。あれ?これって話に聞く霊体ってやつ?何で死んだんだっけ?あ、そうそう火事で死んだんだ。あーあ悲し過ぎて涙も出ないや。何であの日に限って部活なかったんだろうな。何で友達と遊んで帰んなかったんだろ。こんなことなら部活ばっかやってないでもっと楽しいことすれば良かったな。

 斎藤に告白すればよかったなー……せっかくいい線いってたのに。これから俺どうなんだろ……天国に行けるのかな?


 『お前死んじまったのか?』


 目の前には一人の男が立っていた。幽霊になった俺に話しかけられるってことはこいつも幽霊なんだろう。ゲームに出てくる勇者のような服を着ていて耳もエルフみたいに長くとがっている。

 相手は明らかに人間じゃなく、もしかして転生して異世界で最強になっちゃう系かと一瞬勘違いしてしまう所だった。

 そんなご都合主義なんか起こるはずもないのに。でもそれ以上の衝撃が待っていたんだ。


 「あんた誰?」

 『ソロモン七十二柱の一角フォラス。俺と契約する気はないか?契約すればお前を生き返らせてやる』


 よくわからない。でも自分が幽霊になってしまった以上、オカルトな存在も信じられる。ソロモンなんちゃらは知らないけど、謎の秘密結社的な奴なのかもしれない。ゴーストバスター的な?あ、それだと俺やられちゃうじゃん。


 「結局のところ誰?」

 『一言でいえば悪魔だ。で、どうするんだ?契約するのかしないのか?お前もまだ死にたくないだろ?条件さえ飲んでくれたら今まで通りの生活を取り戻せるぞ。騙されたと思って受け止めてみろ」

 

 それを聞いて契約しない奴なんてこの世にいるのか?

 俺は即答でフォラスと契約した。

 

 ***


 拓也side ―


 「俺に人の生を決定する力は持たない。お前がその気ならフォラスと直接話つけろや」


 光君がそう言い放った瞬間、意識がなくなり、急に全体重を預けてきた光君に中谷とヴォラクが焦りの表情を浮かべた。


 「ちょっ体重かけんなよ!」


 中谷とヴォラクが必死になって光君を支えていたが、閉じられていた瞳が開かれた瞬間、光君ではないことだけは感じた。


 「光の奴……結局情に動かされちまって」

 『出てきましたね』


 光君の表に出てきたフォラスは面倒臭そうに顔をあげた。先ほどとは打って変わって威圧感が襲い掛かるけど、それにひるむことなくフォラスを睨みつける。


 「頼む。お前の力を貸してくれ」

 「だから断ると言ってるだろう。いい加減にしろ、ここでお前を始末しても俺は構わないんだぞ」


 武力も辞さないと言う脅しまでかけられたことに、パイモンも苛ついたようでフォラスに言葉を投げ捨てる。


 「まだそんなことを言っているのか?今の貴様に拒否権はない。言うとおりに動くことだ」

 「おい腹心。お前いったい何を企んでいる。ルシファー様から直々のご命令か何かか?なぜ俺たち悪魔の意に背く行為ばかりする。お前が裏切り者だという話すら出てきているぞ。それに俺は無駄なことはしない。生き返らせたところで審判の日には皆死ぬ」

 「審判?なんかさっきから不穏な単語ばっか聞かれるんだけど」


 そっか、中谷は知らなかったんだよな。みんな死ぬなんて不穏なこと言われたら突っ込みたくもなるよな。


 「中谷、後で話すよ」


 ヴォラクの深刻そうな顔に、中谷の表情が不安げに揺れる。

 フォラスはそんな中谷の姿を見て馬鹿にしたように笑う。なぜ騙しているんだ、そう言いたげな表情に俺たちの苦労も知らないでいるこいつに腹の底から怒りがわいてくる。


 「無知な餓鬼を騙して楽しいか?知らないままなら普通に過ごさせてやれ。それが情けだろ」


 なんだよこいつ……馬鹿にしたように笑いやがって。でもここまで来て引けない。

 こいつが頷いてくれない限り、光太郎は生き返らないんだ!!


 「光太郎を生き返らせてくれ!光太郎は……あんなとこで死ぬはずじゃなかったんだ!」

 「しつこいな」


 俺の必死の投げかけにフォラスは面倒そうに呟いた。俺たちの言葉はこいつの心に全く響く気配がない。なら、力技で行くしかない。ここにはパイモンもヴォラクもいる。相手は一人だ。やろうとおもえば……

 

 「光太郎は俺の親友だ!俺はまた三人で遊びたいんだよっ!こんなこと終わらせてまた、また!」

 「そんな儚い希望を持ったって無駄だ。審判の前では全てが無に散る」

 「そんなこと絶対に起こさせない!審判は俺が絶対に止めてやる!!」


 簡単に言うなとでも言うように、フォラスの目つきが鋭くなる。


 「お前に審判が止められると思うか?悪魔を手元に置かなければ俺にすら勝てないだろうお前が。傲慢にもほどがあるぞ」

 「だからって逃げていいわけじゃねえだろ!?お前だって本当にそれでいいのか!?審判が来たら光君だって死んじまうんだぞ!?」


 その言葉にフォラスが多少動揺するように瞳が揺れた。こいつはもしかして、光君のことを契約者として認めているんじゃないか?死なせたくないって思っているんじゃないか?だったら、なおさら協力してほしい。


 「審判は絶対に食い止めて見せる!光君だって死なせない!俺はこんな事の為に今まで頑張ってきたんじゃないっ!全部、全部元に戻したいから!」 

 「……なら誓え」


 黙っていたフォラスが一言告げる。誓う?何を誓うって言うんだ。


 「審判を必ず止めると。光に未来を約束すると」

 「フォラス?」


 急な展開にパイモン達も驚きを隠せない。その言葉は、光君のためだけを意味している。お前も、光君に死んでほしくないんだろ。本当は審判なんて起こってほしくなかったんだろ。


 「こいつも最初は止めようとしてた。悪魔を返そうと」

 「光君が?」

 「無理だと言っても聞かなかった。そんな光を見て、いつの間にか俺も協力するようになった。だが俺と光だけではどうしようもなかった。悪魔を探し出したとしても離れている地では向かえる力も財力もないし、俺一人だけでは対処できない奴だって大勢いる。俺が当てにならなければ、光の力だけではすぐに限界は見えてくる」


 光君も最初は止めようとしてたのか?でも諦めちゃったんだ……

 フォラスの表情は苦しげで後悔がにじみ出ている。


 「諦めた時に、光は絶望した。部屋に引きこもり1人泣き続けた。誰に話してもきっと信じてくれない。自分一人しかこの事を知っている奴はいない。そう思ったからこそ、明日来るかもしれない世界の終わりと、その事に対する絶望から光は焦り出した」


 その焦りが、光君の今の行動の原点なんだ。光君のクラスメイトが言っていたやりたいことをやるって言う発言につながったんだ。


 「死ぬまでに人生に満足すること。やりたいことを全てやること。自分の人生に悔いを残さないこと、興味のあることに対して異常な執着を見せるようになった。そして何も知らない人間を見て、冷めた目で見るようにもなった」

 「そうなんだ……」


 光君は怖かったんだ。世界の終焉を知っていながら、それを止められない自分と、何も知らずに暮らしている人たちに。だから好きなことをして、その恐怖を忘れようとしてたんだ。

 フォラスの中に眠っている光君に話しかける。


 「光君、約束する。絶対に審判を止める。だから全部任せてくれ」


 光君の体がビクリと揺れて、目から涙が溢れ出す。


 「光君……」

 「感情が制御できなくなってるんだ。光、出てもいいぞ」


 フォラスは軽くほほ笑んで、目をつぶった。

 光君はボロボロと涙を流し、袖でそれを拭く。

 

 「光君」

 「俺、本当はずっと……仲間が欲しかった。同じ志持つ奴をずっと探してた。審判を……止めたかった……ッ!」

 「うん。止める」


 絶対に止めてやる、だって俺もこんなとこで死にたくない。その為にはやらなきゃいけないんだ。

 泣きはらした目をこすりながら光君が呟く。


 「ならいいよ。そいつ生き返らせても」

 「本当か?」

 「フォラスがいいって言った。お前を信用するって。俺をそいつのとこに連れて行け」


 俺は頷いて、セーレ達を見た。皆安堵の表情を浮かべており、すぐにでもマンションに戻ろうと準備をしている。


 「よし、一刻も早く戻ろう」


 ***


 「拓也!」


 ベランダにジェダイトが着陸したらヴアルが迎えに来てくれた。


 「見つけたの?」

 「おう」


 光君がひょこっと顔を出す。セーレの力を使って大分から東京まで一瞬だ。光君はよくわからないうちに連れてこられ、ここがどこかもわかっていないようで何県か聞いてくる。東京都と答えたら目を輝かせ、初めて来た!と感動しているくらいだった。


 「貴方?」

 「うん」


 光君はセーレにジェダイトから降ろしてもらってマンションの中に入る。


 「すげーなこの力」


 光君はマンションの中に入って光太郎の前に立った。眠っているような状態の光太郎に光君は顔をしかめ、本当に死んでいるのか確認をしていたが、脈がない事や呼吸をしていないことを確認して表情をゆがめた。

 隣にいるシトリーは光君がフォラスの契約者であることを説明すると、安堵したように破顔した。

 光太郎の状態を確認した後に光君が目をつぶり、再び目を開けた時は既に光君ではなくフォラスになっていた。


 「シトリー」

 「あ?フォラスか」

 「どけ」


 ちょっシトリー突き飛ばすなよ!

 体力もなく受け身もとれなかったシトリーは床に転がり、声を荒げた。


 「てめえなぁ!久々の再会でこれか!」

 「お前との再会に感動もなにもねえだろ。魂は遊離していないな?」

 「してねえわ」

 「ならいい」


 フォラスは光太郎の心臓の上に手を置いて、なにやら呪文を唱える。

 なんだ?手が光り出した……


 『彼は今、光太郎に自らの寿命を吹き込んでいるのです。これで光太郎は助かる』


 そのまま数分、フォラスは光太郎に寿命を吹き込んでいた。光太郎の手を握っていたシトリーが何かに気づき反応した後に表情を綻ばせる。それにつられ、俺と中谷も光太郎に手を伸ばす。

 氷のように冷たかった手は暖かく、首は脈打っている。鼻からは静かに呼吸音が聞こえ、胸が上下している。


 「ん……」

 「光太郎……」


 その瞬間は訪れた。光太郎はゆっくりと目を覚まして、辺りを見渡す。


 「あれ、俺サブナックに斬られて……気ぃ失ってたのかな?て、いだだだだ!!体痺れてる!」

 「あ、やっぱり?時々体勢は変えてたんだけどよ。まあ丸三日間動かず寝込んでたら体きしむわな」


 起き上がろうとして失敗した光太郎の姿に俺と中谷の目に涙があふれた。


 「馬鹿やろ―!のん気な顔しやがって!!」


 中谷が思いっきり光太郎に飛びついた。


 「いたい!!何すんだよ中谷!」

 「どっか痛いとこないか!?体は動くか?」

 「痛いって言ってんだろ!」

 「おう!言ってたな!!あははは!!」


 あまりにも中谷が大声で泣きながら喜ぶのを見て、訳のわからない光太郎は少し困った顔で中谷を見つめていた。


 「あーうん、なんか筋肉痛みたいに凝り固まってるけど。てかなにこれ、どんな状況?シトリー手ぇ放せよ」

 「うお~~~良かったよ~~~!」

 「感謝の言葉もねえのかよ。ひでえ主様だぜ」


 中谷は大声を出して喜びを爆発させ、シトリーも文句を言いながらも表情には安堵が現れている。

 本当に、本当に良かった……


 「拓也……」

 「澪、良かった。マジで良かった……うああぁぁ~~!!」


 俺は周りの目も気にせずに大声で泣いた。澪も涙を指ですくっている。これで光太郎は生き返ったんだ。また三人で遊べるんだ!

 はしゃいでいる俺達を見て、フォラスは軽く笑う。


 「子どもだな。だがそのくらいの無邪気さがちょうどいい」


 暫くは再会の喜びに浸っていたが、徐々に冷静になった頭でフォラスについてどうするか考える。今地獄に戻すべきなのか?まだ様子を見るべきなのか。


 「そういえば光君の中にいるってことはお前を地獄に戻せるのか?」


 フォラスは首を横に振る。


 「時期が来ないと肉体から遊離できないから無理だ。まあ自分のケツくらい自分で拭くさ。お前こそ約束は守れよ」


 あ、約束……


 「任せとけよ」


 力強く頷いた俺にフォラスは笑みを浮かべる。自分にできるか分かんないけど、やらなきゃいけないんだ。

 具体的な目標が見えた。最後の審判を防ぐこと。


 人類の滅亡なんてマンガの中だけと思ってた。でもそれが今近づいてる。

 止めなきゃ俺も皆死んじゃうんだ。そんなことさせるもんか。


 光君を見送った後、俺は深呼吸をして空を見上げた。


登場人物


フォラス…ソロモン72柱序列31番目の悪魔。

     29の悪霊軍団を率いる地獄の長官であり、その姿は柔和な男性である。

     フォラスは薬草の効力と宝石がもたらす様々な恩恵を召喚者に教える。

     さらにフォラスは召喚者の寿命を延ばすと伝えられているが、不明瞭な文献ばかりで明確に記述している文献は存在しない。

     しかし不老不死を求める悪魔学者がフォラスを召喚しようとしていたことは間違いない。

     契約石はアンバー(琥珀)のピアス。

 

光…大分県大分市の県立高校に通う高校1年生。拓也と同い年。

  火事で命を落としてしまい、自分の体に憑依させる代わりに自分を生き返らせる事を条件にフォラスと契約した。

  最後の審判をフォラスに教えられてからは激しい葛藤が胸の奥にあった。



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