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第79話 それぞれの春

 「金田さん!おめでとうございます!!」

 「おー来たか。ならこれ手伝ってくれるよな?」


 俺が押し掛けた金田さんのアパートの中には大量の段ボールや雑誌の山。それをまとめている金田さんの一言に、口元がひくりと動いた。




 79 それぞれの春



 あれぇ?これどういう事かなぁ?確か金田さんが合格したって聞いて、ストラスとセーレと福岡にお祝いに行って、なんで俺が引越しの手伝いを?

 段ボールの中に荷物を入れながらポツリと金田さんに呟く。


 「今日俺お祝いに来たんですけど」

 「そうやけど。ちょうどいい時にお前が押し掛けてくるから」

 「ちゃんとアポは取りましたよ」

 「でも俺ももうマンション決めたけん引っ越さんといけんのよ」


 だからって、ねぇ……

 金田さんは最初から手伝いさせる気だったのか、人出が増えて助かった~と呑気なことを言っている。流石に文句を言う俺に終わったら何か奢るから手伝えと言って、それを言われたら何も言えずに大人しく言われた通り荷物を詰めていった。

 段ボールにガムテープを張りながらセーレがこっちに振り返る。


 「早いね。一体どこにしたの?」

 「大学に近い上野ってとこ。チャリで五分やし」

 「そっか。これからが楽しみだね」

 「でも勉強で忙しそうやけんなぁ。どうなんかなぁ」


 そう言いながらも金田さんは嬉しそうに笑い、衣類やテキスト等をどんどん詰めていく。

 あーあ、せっかく土曜に来たのに、こんな事手伝わされちゃったよ。お気に入りの服を圧縮袋に詰めながら金田さんが話しかけてくる。


 「拓也、お前いつから春休み?」

 「俺ですか?実は明後日なんです」

 「マジか。でももう三月十五日やもんな。でもお前短いなあ。俺なんか二月四日から休みやったしー」

 「それは仮卒だからでしょ?あ、そうだ!金田さんの卒アル見せてよ!」

 「えーハズいしヤダよ」

 「勝手に探すもんねー」

 「散らかすなよコラ!」


 段ボールの中に詰めていったテキストをどんどん外に出していく俺を中に入れていたセーレも何するんだと言う顔をしている。でもストラスは興味があるのか、止めようとしない。そのうち、中から一冊分厚いのが出てきた。


 「あったぁ~」『見つけましたね』

 「やめんか!」


 開いた瞬間、金田さんに小突かれてアルバムを落としそうになった。こんな分厚いアルバム落としたら俺の膝にいるストラスの頭に落ちてしまう。慌ててアルバムを握りしめ、ストラスにぶつかっていないか黙視する。本人はそんな俺の心配など他所にケロッとしている。


 「いってー!何するんすか!?」

 「プライバシーの侵害!当たり前やろ!」


 そう言われるとどうしようもなく、しぶしぶ卒アルをしまう。ちぇー気になってたのに……高校時代の金田さんとか友達いなさそうだし、どんなかなーって思ったのに。

 卒アルをしまい、また俺達は片付けを再開した。


 その後、ある程度かたをつけて、俺達は金田さんと天神で合格祝いをした。つっても飯食うだけだけど。金田さんは住所を教えてくれて、突撃しに行くって言ったら笑って頷いてくれた。


 あー本当に良かったなぁ。


 ***


 「ついに来た―――!春休み!!」


 上野が万歳をして大声で叫ぶ。俺は後ろを振り替えって上野を茶化す。


 「おい上野、お前通知表見せろよ」

 「何のことですかぁ?そんなもんはもうとっくに鞄の中に入れましたぁ~。俺は過去には縛られないんですぅ~」


 皆がそれぞれ、嬉しそうに騒いでいる。

 いやー、やっときたなぁ春休み。


 「でももう二年かぁ」「ああ、早いな」


 俺達はしみじみと呟く。本当にもう二年になっちゃうんだなぁ。

 こないだまで夏だったのにな……いつのまにか冬になって、そして春になっていた。なんだかんだで半年以上がたったんだな。そう言えば皆はどうしてるのかな?


 ***


 森岡side ―


 あの日から俺の生活は少しずつ変わった。いや、変えていったのかな?嫌いな学校にも頑張って毎日行ったし、人付き合いが苦手だったけど、出来る限り色んな人に話しかけ、やれることは引き受けた。そうしたら段々俺の周りにも変化が見られてきた。


 「森岡!」


 修了式が終わって荷物を詰めている俺にクラスの中心人物の男子が話しかけてきた。最近仲良くなれたかなって思ってるんだけど。


 「今日、皆でカラオケ行くんだけどお前は行けるか?」

 「え?俺も言っていいの?」

 「当たり前じゃん!」

 「行く!」 


 高校生で、友達とカラオケって初めてだ……なんかすっごいドキドキしてる。何を歌おうかな。


 ***


 真由side ―


 あの日からあたしと亮太の日常は一気に変わった。最初は亮太といるとざわめいてた教室も今は冷やかしに変わってる。そしてそんなあたしの今の目標は一つ。


 「亮太ー通知表どうだったの?」

 「……びみょー」

 「ちょっと……この成績で同じ大学に行けるの!?」

 「こ、これから頑張るんだよ!」

 「これからじゃない!」


 通知表を振り回して怒鳴るあたしを見て、クラスメイトが苦笑いしている。


 「嫁がまたキレたぞー鬼嫁ー」

 「旦那形無しすぎるよー頑張ってー」


 皆がそれぞれ好き勝手こっちを冷やかしている。もうそれにも慣れちゃった。そしてそれに満足もしてる。


 「いい?あたしが課題出すから一緒にやるよ」

 「頑張ります」


 そう言いながら亮太はニヘラと笑う。その顔に騙されると思ってんの?そう言いながらもあたしは笑う。ねぇ亮太、一緒に頑張って同じ大学に行こうね。


 ***


 セーレside ―


 「沙織」

 「セーレ!」


 沙織が嬉しそうにこっちに走り寄ってくる。今日は修了式と言う日らしく、高校生だった子達全員が昼から太陽の家にいた。


 「今日みんなでパーティーするんだよ」


 沙織は嬉しそうにしながら、さっき買ったんだろうクラッカーを嬉しそうに手に持っている。そう、俺はそのパーティーに呼ばれたんだ。沙織は俺を驚かそうと当日呼びつけるつもりだったらしいけど。


 「知ってるよ。純太から連絡来たから」

 「純兄から?もー!セーレはあたしが驚かす気だったのに!」

 「あはは。主役は純太達なんだから本来なら俺も手伝わないといけないだろ。そう言えば純太は大工さんになるらしいね。就職決まったって喜んでた」

 「そうだよ!志保姉は会社に就職したし、理央兄は特待生で大学に行ったんだよ!」


 皆それぞれ嬉しそうだ。

 向こうでは由愛達が仲良く遊んでいる。

 もう半年以上もたったんだな……


 ***


 拓也side ―


 「遂に俺達も二年かぁ」


 鞄を持ちながら、俺達三人はゆっくりと帰路に着く。


 「来年から俺達理系だもんな。あーマジでついて行けるかなぁ」

 「がんばれ。中谷が付いて行けたら俺も絶対に乗り越えられる」

 「それってどういう意味なのかなぁ?池上」


 他愛ない会話をしながらもゆっくりと歩いて行く。こないだ聞いたんだけど、澪は文系に進むみたいだ。これで高校三年間、同じクラスになることないなぁ。少し残念だ。


 「でもこれからも悪魔を返してかなきゃなんないんだよなぁ」


 光太郎がしみじみと呟く。そうだな、俺達が高校二年生になったとしても、やることは全く変わらない。


 「本当の春はまだ遠いな!」


 中谷は相変わらず呑気に笑う。こんな春が来るなんて思ってなかった。中谷と光太郎と澪と、悪魔を退治していくなんて……


 「なんか不思議な気分。だって、こんなドタバタした春休みってなかっただろ?」

 「確かにな……いつか、この事を笑って過去話にすることができんのかな」

 「きっとできるって!将来俺らヒーローになってたりしてな!教科書に名前載るかな!?」


 中谷が相変わらず面白いことを言ってる。ヒーローか……

 小さい頃、あんなに憧れてた言葉が今じゃ身近にある単語のように思える。それだけ俺たちって考えたらすっげー事してんだよな。


 「俺らもう既にヒーローだろ。悪魔と戦ってんだぞ?」

 「マジで?じゃあ俺ヒーローレッド!」

 「えー。中谷はピンクだろ」

 「それじゃ女じゃん!」


 中谷と光太郎が笑ってる。なんだ、みんな笑えてる。辛いこといっぱいあるけど、でもこいつ等がいるのなら乗り越えられる気がした。

 これからついに春休み。楽しいこといっぱいあるといいな。


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