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第72話 恐怖の指きり

 澪からもらったチョコはメチャクチャ綺麗にできていて、食べるのがもったいないくらいだった。俺の思い違いかもしれないけど、光太郎とかがもらった奴と見比べて若干大きい気もする。

 とりあえず俺はチョコレートの写真をとってから食べることにした。



 72 恐怖の指きり



 「金田さん受かったって!」


 バレンタインも過ぎて自室で寛いでいる中、金田さんからの連絡を見てストラスに一番にその事を告げる。内容は大学合格のことが書かれていた。しかし前期試験で一発で東大なんて、金田さんは本当の天才なんだろうな。本人も本格的に受験勉強始めたのって高校三年生の秋ごろだったにもかかわらず受かってしまうんだから。

 中々契約者のその後って奴を知る機会がないから、ストラスも嬉しいニュースに頬を緩ませる。


 『ほう、そうなのですか。良かったではありませんか』

 「うん、だから今度会いに行くことにした!まじですげえよな!ってか金田さんこっちに住むんだよな!これからはいつでも遊べるな!」

 『そのようなことばかり……』


 セーレに頼んだら福岡に連れて行ってくれるよな。向こうがそもそもこっちに住むから、その時に会えばいいんだけどやっぱりすぐにでもお祝いしたいって言うか!

 興奮している俺を見ながらストラスは嬉しそうだ。


 「ただいまー」

 「直哉お帰りー。お前また遅かったなぁ」


 最近直哉は新しくできたお友達に随分お熱なようだ。どういった子かは聞いてもあまり教えてくれないのは反抗期的な奴だろうか?むやみやたら疑って聞くのもアレだし、直哉はしっかりしてるだろうから有耶無耶になっている。今日もまた公園かどっかで遊んでたんだろ。大輝君も一緒に遊んでいると言うから悪い子ではないんだろう。多分学校が違う的な感じなのかもしれない。

 いつも向こうが出迎えてくれるので、今日はこっちが玄関で直哉をお出迎えしてやった。


 「あ、ただいま……」


 直哉は俯いて、言葉少なくそのまま俺の横を通り過ぎていく。

 どうかしたのか?いつもなら真っ先にストラスに飛び掛かっていくのに。構えていたストラスもポカンとしている。暗い面持ちで自分の部屋に向かっていく直哉に俺とストラスは顔を見合わせた。


 「拓也」


 訳が分からないまま立ち尽くしている俺達の背中に声が聞こえ、振り向くと母さんがこっちに手まねきしている。訳が分からないまま手招きされた方に向かうと、眉間にしわを寄せて小声で教えてくれた。


 「なに?」

 「今日PTAから電話があって、直哉の学校の先生、ほらあんたもお世話になったでしょ?和田先生」


 ああ、あの怖い先生か、俺あの先生が担任になった時は死ぬかと思った。でも今思ったら生徒思いの熱い先生だ。あいつ今何歳なんだろ。


 「和田がどうかしたの?」

 「和田先生がわいせつ容疑で警察に捕まったそうよ」

 「うそ!?」

 「学校は和田先生を懲戒免職にしたらしいわ……そのせいできっと直哉元気ないのよ。あんまり事件のこと、あの子に聞かないであげてね」


 和田が?なんかの間違いじゃないか?だってあの先生、怖いけどそんなことする先生じゃないし……

 直哉は相当落ち込んでしまっているようだ。無理もない、自分の学年の先生が犯罪を犯したとなると色々大変なんだろう。しかも性犯罪とか一番やばい奴じゃん。


 「ストラス、直哉の神経刺激させんなよ」

 『私はそのようなヘマはしません。気をつけるべきは貴方でしょう』


 う、否定できない。とりあえずこの話には絶対に触れないこと!

 母さんに釘をさされて、俺は頷くしかなかった。なのに……


 『今日、都内の小学校教諭の和田公彦(わだきみひこ)さん(53)が、わいせつ容疑で警察に……』

 「わ――――!!直哉アニメみたいよなぁ!?」


 夕飯のときにテレビをつけたらニュースでいきなりの報道。

 焦って変えたチャンネルには可愛らしいモンスターが敵と戦っている映像が流れている。直哉は一瞬だけ視線を寄越したけど、すぐに戻し箸を置いた。


 「見たくない。ご飯いらない」

 「え、ちょ……直哉!」


 直哉はご飯も食べずに自分の部屋に行ってしまった。


 「『拓也』」


 俺何も悪いことしてないよな。むしろ気ぃ遣ったよな?なんかステレオで低い声が聞こえんだけど。

 完全に委縮してしまった俺に母さんがため息をついた。


 「直哉、早く元気になってくれるといいわね」


 ***


 「うちの弟がそれで落ち込んじまって……ニュースですげえ出てくるじゃん」


 次の日、学校で俺はこの事を後ろの席の上野に相談した。上野は携帯をいじりながら話を聞いていたから人の話を上の空で……ッて文句をつけようとした時に携帯をこっちに向けた。そこには和田のニュースが映っていて携帯で事件を調べていたようだ。


 「あー確かに昨日ニュースで言ってたよな。SNSでトレンド入りしてたから見たわ。ありゃもう社会復帰は無理だろうねー。女子小学生と戯れられるから教員になったって奴?でも猥褻した相手は中学生だっけ?範囲広いねーロリコン教師様は。でも隣のクラスの持田もお前と同小で、かなり気にかけてたけど。持田は和田って奴はそんな先生じゃないんだけどなーつってた」


 俺は知らないけど、と言う上野はネットニュースを見せてくれる。付属されているコメント欄は誹謗中傷で埋め尽くされて酷い有様だ。自分が知っている教師がこんなに晒されて叩かれるのを見るのは辛く、顔をしかめた俺に上野は隣のクラスの持田の情報を教えてくれる。

 やっぱり皆そう思ってんだよな。インタビューでも小学生の時に和田とかかわっていた生徒は全員信じられないと語っているらしいし。


「そうなんだよ。俺一回あいつが担任になったことあんだけどさ。怖いけど、生徒思いのいい先生なんだよ。なんでこんなことになったかな」

「お前が男だから被害なかっただけじゃね?まあ今回はもうしょうがないじゃん。良かったじゃん、お前が卒業した後で。ああ言うのって結構前からやっててバレてんだろ?」


 俺も和田のことを全く知らない第三者だったら同じ考えなのかもしれないけど、和田を知っているだけに上野の発言はマスコミの言うことを鵜呑みにして中傷するのは少し酷いんじゃないかと思ってしまう。

 直哉は大丈夫だろうか?しばらく小学校は行きづらいだろうな。


 ***


 「直哉君きつかっただろうな」


 昼休み、話を聞いた光太郎が辛そうに眉を下げた。上野とはまた違った反応に少しだけ安心してしまう。中谷は相変わらずでかい弁当を口いっぱい頬張りながら、思い出したように語る。


 「俺の部活もさー池上と同小の出身いんだけどさ、そいつも言うんだよね。和田はそんな先生じゃないのにーって」


 中谷の話を聞いて、やっぱ皆そう思ってんだなぁって感じた。確かにあいつは怖かったけど、俺が財布を無くした時には見つかるまで一緒に探してくれたし、家庭訪問の時にはめちゃくちゃ母さんに俺のことを褒めてくれた。


 本当に和田がやったのかな?


 信じたくなくて、未だに疑い続けてる自分がいる。事実だったら、なんでそんなことしたんだろう。和田って結婚してて、子供も確かもう大学を卒業するって聞いてたんだけど。別に普通の家庭、むしろ、結構幸せな部類に入るんじゃないかな?一体何があったんだ?冤罪に巻き込まれてるんじゃないのか?


 ***


 「じゃあな光太郎、中谷」

 「おう」


 放課後、塾がある光太郎と部活がある中谷に手を振って教室を出る。今日も直哉は公園で遊んでんのかな?あいつは公園で友達できたって言った日から、ずっと公園で寄り道してる。その子たちと遊ぶことでストレス発散になっているんならいいんだけど、いい加減名前くらい教えてくれたっていいだろうに。今日も俺の方が先に家に帰り着くんだろうな。

 そう思いながら昇降口を降りていると、澪が俺の名前を呼んだ。


 「拓也!」

 「あれ?澪帰んの?一緒帰ろうや」

 「うん。それはいいんだけど」


 それはいいんだけどって……俺結構ドキドキして一人浮かれてんのよ?ってか何で澪、そんなに顔が青ざめてんだ?

 俺達はそのまま一言も話さずに靴をはきかえて、学校を出た。


 気まずい。


 学校を出たけど澪は黙ったまま。何があったんだ?何か嫌なことでもあったのか?まさか……!


 「澪、何かあったんか?まさかイジメ!!?」

 「違うってば!拓也、話聞いてない?和田先生が……自殺したんだって」

 「は?う、嘘だろ?」


 思わず声が震える。あまりの展開に信じられずに言葉が出ない。和田が死んだなんて嘘だよな?

 澪も俯いて辛そうにしてる。


 「本当。だから明日の夕方にお葬式やるから元生徒も来れたら来てほしいって。多分、拓也の家にも連絡来てると思う。あたしも仕事場に電話かかったって、お母さんからさっき連絡きた」


 何も言葉が出なかった。信じられなかった。

 和田が死んだ?本当に?


 「俺、え?嘘だろ。だって今回の事件も、なんかの間違いって思ってて……」

 「あたしも信じられない。和田先生、すっごく優しい先生だった。なのに、なんでなのかな……」


 澪はそう言い終えた瞬間、頬に涙が伝った。泣いてるんだ。澪の泣き顔を見てたら、俺もこらえていたものが一気にはじけ出した。和田はどうして自殺なんかしてしまったんだ?やっぱり何かに巻き込まれたんじゃないのか?絶対に可笑しい、和田は絶対にこんなことしない。誰が、和田を死に追いやったんだ。そいつを絶対に許さない。


 ***


 「拓也、言わなきゃいけないことがあるのよ……」


 家に帰って母さんとストラスが俺を気まずそうに出迎えた。俺が和田のことをまだ知らないって思っているんだろうな。


 「知ってる。和田が自殺したんだって?澪から聞いた」

 「そう。明日葬儀をやるみたいなんだけど、中央葬儀場あるでしょ?あそこでするみたいよ。夕方の十八時からですって……事情が事情だから、身内だけでする予定だったらしいけど遺書が出てきたみたいでね。自分はやっていないけど、もう社会復帰を見込めないことに絶望して、命を絶ちますって。ご家族は葬儀が終わった後に、冤罪として和田先生を訴えた中学生と警察を相手に訴訟を起こすって」

 「明日学校終わったら行くつもり。俺詳しいこと知らないけど、どういうことなの?」

 「わかったわ。遅くなるようなら連絡しなさい。迎えに行くから。私も詳しくは知らないの。でも、和田先生の遺書には女子中学生が、和田先生をホテルに連れ込んで、断った和田先生と揉めて……とか」


 和田が冤罪で殺されたとしたら、許されることじゃない。和田の訴えを聞いてくれなかったんだろう警察も、その少女も罪を償って後ろ指をさされながら生きていけよって思う。

 母さんはストラスを俺に手渡してキッチンに入っていく。わかってるんだ、自分の目の前じゃ俺が強がって泣かないことに。確かに俺は高校生にしてはよく泣くと思う。でもそれでも、やっぱプライドってもんがこんな時にも存在する訳で、できれば母さんの前では泣きたくない。男なんだからって思われるのが嫌だから。それがわかってるから母さんはストラスをその場に残して行ったんだ。


 『拓也、とりあえず部屋に行きましょう。玄関は流石にまずい』

 「ぞうする」


 涙で鼻水が出て、声がくぐもる。ぞうするって何だよ。

 俺はストラスを抱えて自分の部屋に向かった。


 ***


 「俺さぁ、和田が担任になったことがあってさ、そん時はあいつすぐ怒るから嫌いでしょうがなかったんだ。まあ理由は授業寝てたりとか、宿題忘れたら怒るし程度のものだけどさ」

 『子供にありがちな理由ですね』

 「でも実際、本当に生徒が困った時は絶対に生徒を見捨てないんだ。解決するまで一緒になって頑張ってくれるんだ。今考えるといい先生だったんだよな」

 『教師の鑑のような人物ですね』

 「うん……」


 俺はベッドから立ち上がって、本棚をあさる。


 『拓也?』

 「あった」


 手にしたのは小学校の卒アル。ほぼ開いていないアルバムは新品そのものだ。ページをめくる手元をストラスがのぞき込む。


 「これが和田」


 俺が指差した先には一人のおっさんの姿。

 そこには七:三分けで、少しぽっちゃりした男性が映っていた。


 『この方ですか』

 「うん。でももう六年前だからなぁ。今はもっと剥げて太ってたりして」


 笑いながらページをめくる。そこには修学旅行や運動会の写真が載っている。その中に、徒競争で一位のリボンを誇らしげに持って映ってる俺と友達が、和田と一緒に写っている物もあった。

 俺は黙ってページをめくっていく。最後に皆に色々書いてもらったページを開く。そこには和田も書き込んでいた。


 “もう少ししっかりして下さい。先生はいつも心配でした。でも明るく、人懐こいところが池上のいいところだと先生は思っています。中学生になったらその性格のまま、もう少し大人になってください。”


 最初見たときに、俺は和田になんだよこれー!って言った記憶がある。

 でも和田は笑って、本当のことだろうと言いながら俺の肩を叩いた。


 『拓也……』


 涙が卒アルにこぼれた。

 俺は卒アルを閉じてベッドに置く。


 「なんで、こんなことになっちまったんだよ。本当に冤罪だったら、許せねえよ。和田だけじゃない、和田の家族だって不幸になったんだぞ。やっていいことと悪いことがあるだろ!」


 ストラスは黙って俺にすり寄る。何も言ってこないストラスに嬉しいのか悲しいのかわからなかった。

 励ましてほしいけど、気休めは言われたくない。でも何も言われないと、ちゃんと話を聞いてるのかって思う。悲しいのと複雑なのがごっちゃになってよくわからない。でもきっと一番つらいのは直哉の方だ。今、和田が同じ学年にいたのに……直哉の前でだけは泣くまい。

 あいつを励ましてやらなきゃ。


 だから今だけは我慢しないでいいよな……


 ***


 直哉side ―


 「直哉暗いなぁ。何かあったのか?」


 ラウムに話しかけられて現実に引き戻される。大輝が行けないって言ったから、今日一人で公園に来ていた。と言っても、ラウムとボティスがいたから三人で遊んでいたんだけど。

 和田先生が自殺したってことで学校は今日は急に授業を中断して全校集会になった。和田先生が担任の子は皆すっごい泣いてた。俺も悲しい……運動会の練習の時、あの先生は怖かったけど、でもそれ以上に一緒にできた時には喜んでくれた。


 「俺の学校のね和田先生って人が死んだんだって」


 その言葉を聞いたボティスとラウムは目を丸くした。


 「マジで?だから泣きそうになってんの?」


 何も言わずに俯く。だから見えなかったんだ。ラウムとボティスがその時、笑みを浮かべていたことを。


 「でもそいつ、お前こないだ嫌いって言ってたじゃん。痛い目見ればいいって」

 「言ってたけど……でも死んでほしいとまでは……」

 「甘いなぁ直哉は」


 ラウムが俺の目の前にしゃがみこむ。その表情は読めず、瞳は昏く吸い込まれそうだった。ラウムは俺の知り合いの先生が死んだって言うのに、全然悲しみを共感してくれるわけでもなく、ざまあみろとでも言うように笑っている。


 「このまま一生ムカつく奴に逆らわないまま終わる気か?」

 「ラウム?」

 「それなら最後は痛い目見せたいって思うだろ?」


 ラウムの言葉に背筋が震える。その考えが理解できず、すぐに肯定の返事ができない俺にラウムはもう一度、同じ言葉を繰り返した。


 「そんなの思わないよ」

 「優しいんだなぁ直哉は……俺だったら地獄に落としてやるぜ」


 なんでラウムはそんなに笑ってるの?なんで人が死んだって話をしたのに、そんなに平気でいられるの?


 「直哉がそう言ったから俺が不幸にしてやろうと思ったのに」


 その言葉で何かがはじけた。


 「まさかラウムのせいじゃないよね?ラウムがやったんじゃないよね!?」

 「おいおい冗談だろ?どうやって俺がそいつを殺したんだよー」


 ハッとして、ラウムを腕を掴んでいた手を放す。そうだ、和田先生はわいせつ容疑ってやつで捕まって自殺したんだ。真実がどうなのか俺にはわからないけど、ラウムは全く関係ないじゃんか。

 こんなことで掴みかかって、八つ当たりもいい所だ。


 「ごめん。なんかムキになった……」


 俺が俯いているのを見て、ラウムが俺の肩を優しく叩く。先ほどと打って変わって労わる態度に肩の力が抜けて、ラウムの肩に頭を乗せた。


 「気にしてねえよ。テンパっちまうのはしょうがねーじゃん。このくらいで怒んねーよ」

 「ラウムは優しいんだね」

 「友達にはな」

 

 その言葉で顔を上げる。

 目の前には微笑んでいるラウムとボティス。


 「辛かったら俺に言えよ?愚痴でも何でも。嫌なことあったら溜めこむことはねぇ」

 「……ありがとう」

 「いいって。友達だろ?お前が嫌なことがあったら俺が助けてやるよ」


 ラウムが小指を差し出す。それが何を意味しているか分かって俺も指を差し出した。


 「お前が困ったときは助けてやる。友達は裏切らない」


 俺、すっごいいい友達をもったんだ。嬉しくて、思わず笑顔になって指きりをした。


 「指きり千万、嘘付いたら地獄におーとす。指切った」

 「違うよ。針千本だよー」


 俺が訂正するとラウムは笑う。


 「針千本とかなんか現実味わかないだろ?アレンジアレンジ」


 地獄も実感わかないけど……まあいいや。ただの指きりなんだし。

 ボティスも小指を差し出したから、俺はボティスとも指切りした。


 「そういや直哉、あのベルト兄ちゃんとペットに見られてねぇよな?」

 「うん、見せてない。お菓子箱の中にしまってるよ」

 「そっか」


 ラウムは安心したように笑う。


 「あいつらに見られてねえならいいんだ。どっか出かける時はつけてもいいんだぜ。あれは値打ちもんだぞ」

 「そんな……あんな高そうなのつけれないよ」

 「気にしなくてもいいのに」


 なんでラウムはベルトを見られたくなかったり、自分の名前を教えたくなかったりするんだろう?俺は友達が自分の親に俺のことを友達って話してくれてたらすっごく嬉しいのに……でもいいや。なんかこういうのって大人の友達って感じ。ラウムとボティスは大人っぽいし、そんな子と友達になれたことが嬉しい。

 時計の針が十七時半を指し、辺りはかなり薄暗くなっている。


 「俺、帰らなくちゃ」

 「マジで?じゃあな」


 ラウムとボティスに手を振り、俺は公園を出る。二人はまだ帰る気配はなく手を振って見送ってくれた。


 「約束破ったら地獄に送るぜ直哉」


 ラウムがそう呟いたのは俺には聞こえなかった。指切りしたこと、助けてやるって言われたこと、それだけで心が軽くなった気分だ。俺は自分の小指に目をやる。

 指切りしたことがなんだか嬉しくて、少し笑ってしまった。


 悪魔との約束は破れない。

 破ったら恐ろしいペナルティが付いてくる。それは恐怖の指きり。


 「少しずつお前のペースになってきてんなラウム」

 「ひひ……さあな」



 さぁ堕ちて来い直哉、俺の元に。




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