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第7話 悪魔探し

 「頼む光太郎!今日手伝ってくんねえか!?」


 手を合わせた俺を光太郎は複雑そうに見ている。凄惨な事件の速報が流れた次の日の昼休み、俺は光太郎と中谷と屋上で弁当を食っていた。普段は鍵がかかっている屋上は昼休みのみ教員が鍵を開けて開放してくれている。真夏の暑い時期のため、生徒は少なく、唯一影のある隙間をゲットし三人で過ごしていたのだ。

 こんなこと頼めるのは光太郎しかいない!そう判断したからこそ光太郎に頼んでみることにした。



 7 悪魔探し



 「まさか昨日の事件と関係あるなんてな……」

 「なになに?昨日の事件って?」


 光太郎はハハ……と苦笑いを浮かべているが、額には冷や汗もかいている。その汗は暑いからと言う理由ではなさそうだ。

 随分ニュースになっていたが、まだ見ていなかったのであろう中谷は何の話か分からず首をかしげている。


 「昨日、殺人事件があってさ、それが悪魔の仕業だってストラスが」


 質問に答えると中谷は携帯で事件を確認し、目を丸くする。


 「ストラスってあのフクロウだよな。マジで?俺も手伝おうか?」


 あまりにもありがたい申し出だけど、さすがに滅相も無い!甲子園前の球児をそんな危険なことに巻き込むなんて!


 「駄目だって中谷!お前は甲子園があんだから!それに今日地元のニュース記者が取材にくるっつってたじゃん!抜けていいのかよ」

 「そういえば今日からうちのクラス垂れ幕作りと募金活動するらしいぜ。なんでも野球部の宿泊代と俺たちの応援代の半額学校が出すみたいだから」


 光太郎の言葉に冷水をかけられた気分になった。

 そうだ、うちの学校が甲子園出場決定してから皆で甲子園球場に応援に行くことが決まっており、唯でさえ都立で生徒全員の旅行費なんて立替えられないから、これから毎日当番制で街頭募金しなければならなくなってたんだった。そのほかにも垂れ幕、応援の練習など、人事と思ってたのに甲子園が決まってから俺たちも強制的にそういうのを手伝わなくちゃいけなくなったのだ。

 しかも明後日は終業式なのに、補習と垂れ幕作りがあるから補講がない日も出ないといけないらしいし、時間なくねえかこれ?

 真っ青な顔をしていると、事態を察した中谷が罰の悪そうに頭をかいた。


 「なんか悪いな池上。元々これも全部俺のせいだし……」

 「いや、何言ってんだよ!?全然平気だし!だって甲子園だぞ!?」


 ブンブン首を横に振ったけど、本当は全然平気じゃない。早くしないと事件がでかくなってきちまう。内心冷や汗をかきながら、弁当を平らげて考える。ていうか、甲子園って何日大阪に滞在すんの?一週間?二週間?ストラスは連れて行けないんだよな。その間はどうすればいい?ストラスはマンションに避難させておくとして、何かあったときの対応はどうすればいいんだろう。


 「そういえば、その高校行くんなら俺知り合いいるわ」


 中谷の言葉に思考をいったん放棄させて顔をあげる。調べたい高校に知り合いがいると言うありがたい言葉に食いつかないはずがない。


 「野球で対戦したときに知り合ったんだけど、なんならそいつに話頼もうか?」

 「え、本当に?助かるー頼む!」


 やっぱりニュースだけでは事件の全容を知るのに細かい部分が足りない。当事者ではないけど、身近な人間ならば詳しい裏事情的なものも聞けるかもしれない。

 とりあえず今日は垂れ幕作りをサボらせていただいて、俺と光太郎は事件の起こった高校に行くことにした。


 ***


 「ここか……」


 電車で三分くらいの隣の駅、そこから徒歩十五分、その高校は見えてきた。やはり凶悪事件があったせいか、生徒たちは教員の見回り付きで一斉に登下校している。かくいう俺の学校も甲子園出場が決まっている野球部以外は日が落ちる十八時半までに生徒を全員帰すことが決まり、その時刻を過ぎた場合は親族の迎えが必要になってしまったのだ。

 寄り道するなと口を酸っぱくして担任が言っていたが、早速無視して事件の当事者たちが通っていた学校の前に来ている俺と光太郎に、校門の前に立っている教員の視線が突き刺さる。


 「その生徒、門のとこにいるっつってたよな」

 「拓也、あれじゃね?」


 光太郎の指差した先には一人の生徒が壁にもたれかかっていた。綺麗に切られた短髪と真っ黒に日焼けした肌がいかにも野球部っぽく、おそらく中谷の言ってた奴はこいつだろう。

 間違っていたら半端なく恥ずかしいが、恐る恐るその生徒に話しかけた。


 「えーっと……田中勇治君?」


 名前を呼ばれて顔をあげた男子生徒はこっちに視線を向けて頷く。良かった、間違ってはなかったようだ。


 「あ、あんたら中谷の言ってた奴?」

 「そう。で、事件のことについて聞きたいんだけど」

 「それは構わないけど……あんまり殺人事件の全容を嗅ぎまわるなんて馬鹿な真似しないほうがいいぞ。悪趣味って思われるからな。ま、ここで話すのもなんだしな……モスでもいくか?近くにあるんだ」


 別に俺だって聞きたくなんかねえんだよ。仕方なくじゃん。

 俺と光太郎はとりあえず田中君の後をついて歩く。モスに着くまでに警察官が事情聞き込みや調査などでかなりの人数が道端で捜査をしているのを視界にとらえる。


 「すごい数だな」

 「そりゃああの事件凶悪だからなぁ。五人も一気に殺されてんだし」


 警察官を横切り、その近くのモスに足を運ばせた


 「さて……と、何が知りたいんだ?先に言っとくけど俺は大したこと知らないぞ。近いうちにニュースに出ると思うようなことしか。それでもいいなら聞いてくれ」


 この時間だから生徒が多数入店しており、先に注文をして空いている四人がけの席に腰をおろした。田中君はフライドポテトを食べながら何が聞きたいんだと聞いてきたため、シェイクを飲みながら質問した。


 「えっと……今回その、犠牲になった奴の名前をまず知りたいんだ」

 「そんくらいならニュースで言ってたと思うけど……井上健太、荒垣隆一、瀬川達也、福田直樹、津山信宏。全員一年七組の生徒だ。かなりの問題児で学年じゃ有名な奴らだったよ。シンナーやいじめなんかもしてたしな」

 「いじめ?」


 気になる単語に食いついてしまった。元々かなり素行は悪いようだ。

 そういえば、ニュースとかでもあまりいい報道はされていなかったような……


 「同じクラスの森岡啓太って奴をな。校内じゃ有名だったよ。堂々とやってたからな。金せびったり呼び出してボコったり、森岡も気が弱い奴で結局何も言えずじまいだったし、あいつらやばい奴らとつるんでるって噂あったから、俺たちも止められなくてよ……気が弱い以外は勉強もできるし、優しくていい奴なんだけどな……疑ってんのか?」

 「いや、そんなことは……」

 「でも最近不登校気味で、学校あんま来ないんだよ。だからあいつ等森岡はズル休みだって言い出して森岡を昨日公園に呼び出したらしいんだよ」


 公園に呼び出した?確か公園で殺されたって言ってたよな?

 携帯で事件の詳細をチェックしている光太郎が視線を上げる。これってかなり重要な会話じゃないか?ニュースでは取り上げられていない情報のはずだ。


 「森岡は怖がって行かなかったらしいんだけど。実際、森岡はその時間、家にいたのは家族も知ってたし、家を黙って抜け出した形跡もないしアリバイはちゃんとしてるんだけどな」


 光太郎と顔を見合わせる。あまりにもタイミングが良すぎる展開だとは思うし、悪魔の力を使えばアリバイなんてどうとでもなるんじゃないかとも思ってしまう。でも普通の人間はそんな殺したいなんて思うもんなのか?それに気が弱かったって言っているし、他人を殺して平気でいられるような人間にも思えない。

 でも死んだ奴らは問題児と言われていただけあって意外といたるところで恨み買ってそうだな。


 「えーっと、他になんか話ない?そのー埋めたーとか沈めたーとか……」

 「そんなことしたら捕まるだろ。でもまぁ似たようなことならあるかもな」

 「教えてくんない?」

 「噂だから本当かどうかは知んねーけど、他校の生徒と乱闘騒ぎ起こしてその生徒の頭バットで殴って、頭蓋骨にヒビいれたとか何とか……」


 こわっ!!チンピラじゃん!もはや族じゃん!!

 絶対なんか変なチーム所属とかしてただろ!!


 「そそそそんな!?そんな怖いこと平気でやっちゃうの!?」

 「でも俺関わりなかったし。本当はもっと色々やってんだと思うけどな。ここだけの話。喜んじゃいけねえってのは分かってるけどよ、みんな死んで清々してんだよ。インタビュー見てもわかんだろ?誰一人あいつらのことよく言わねえだろ。辟易してたんだよ。今回もどっかで恨み買ってやばい奴らにやられたんだろ?自業自得ではあるよな」


 田中君も複雑そうではあるけれど、同情している気配はない。クラスメイトが死んでこんな反応されるなんて、よっぽど素行が悪くて嫌われていたのは確かなんだろう。確かにニュースでは素行が悪かっただの、皆苦手意識をもっていただの、イジメをしていて引いていただの散々な言われようだ。そのおかげでネットでは被害者たちの自業自得だなんて書かれているのも見た。

 しかしなんかこれ探すの大変そうだな。


 「これで知ってることは全部話したけど、もういいか?」

 「あ、うん!サンキューな!」

 「おう、じゃあな。中谷に甲子園がんばる様によろしく」


 先に田中君が店内から出ていき、光太郎と情報をまとめる。


 「拓也、誰と思う?俺的にはもっと色んな人が恨み持ってそうだけど」

 「うーん……わかんね」


 そんなチンピラだったなんて予想外。

 どこでもここでも恨み買われたらこっちは手の施しようなんてないし。


 「なんかもっと情報収集できないかなーこれじゃ見つかりそうにないし」

 「だよなーどうしよっか?」

 「俺、今日ヴォラクんとこ泊まるわ。そこだったらストラスともゆっくり話せるしな」

 「あ、じゃあ俺も行く。中谷も誘おうぜ。もしかしたら中谷他にもあの学校と交友あるかもしんねーし」

 「でも野球部って今、練習ハードじゃん?大丈夫なのか?」

 「無理にとは言わないけどさ。人手は多いほうがいいし」

 「そう、だよな。誘ってみる。じゃあ俺一回荷物取りに家に戻るよ」

 「うん。じゃあまた後でな」


 俺は光太郎と別れて荷物を取るために自分の家に戻った。


 ***


 「あら拓也お帰りー昨日はごめんねー」


 家に帰ると母さんはすでに帰っており、随分と楽しんだのだろう心なしかテンションが高い。直哉もホテルのごちそうが美味しかったのか楽しかったーと言っており、お互いwin-winだったようだ。

 母さんの後ろには澪もおり、会話を終わらせた俺の服の袖を引いた。


 「拓也、お帰り。あのね、ちょっと……」


 澪?もしかして情報でも手に入れたのか?

 澪と一緒に自分の部屋に向かい、光太郎のマンションに泊まるための荷物をリュックに詰めながら問いかけた。


 「澪、なんかあったのか?」

 「聞いた話なんだけど……あたしの友達が、その高校に知り合いがいて、殺された人たちと同じクラスだったみたい」


 え、マジ?同じクラスって……かなり今問題になってるんじゃないか?


 「その子が言うには、殺人依頼サイトじゃないかって言われてるんだって」

 「依頼サイト?」

 「うん。殺された人たち、野良猫とかカラスとかを捕まえて殺したりもしてたみたいで、前に飼い猫を殺して捕まった経歴もあったらしいの。学校の裏掲示板みたいなのあるじゃん。そこに名前が載ってて、殺人依頼サイトに依頼した奴いるらしいって書かれてたみたいで警察が書き込み元を調べてるって」


 俺は荷物を詰め終わりリュックを持つ。これ、本格的にやばいにおいしてきてるんだけど。澪の言っていることが本当で、殺人依頼サイトが原因だったとしたら、マジの殺しで金稼いでるやつがマルファスと契約していることになる。

 被害が広がるとか、そんな次元の話じゃなくなってくるぞ。

 家を出ると言った俺に澪は目を丸くして後ろをついてくる。


 「どこ行くの?」

 「今回の件、結構危なそうだから今日はヴォラクのとこに行く。ストラスも帰ってきてないみたいだけど多分ヴォラクのとこにいると思うし、色々相談しなきゃな。光太郎がマンション貸してくれてんだ。そっちの方が母さんや父さんにもばれないだろうし」

 「広瀬君も知ってたの?」

 「中谷が悪魔と契約してたんだ」

 「中谷くんが!?」


 澪は信じられないという風に目を丸くした。うん、その気持ちは分かる。

 身近な人間が契約しているなんて、思うわけないもんな。しかも中谷とか澪だって名前くらいは知っていただろうし。


 「あいつ練習しなくてもすっげー結果残せてただろ?あれ、悪魔が中谷に力を貸してたからなんだ。だから契約が終わったからその悪魔に殺されかけた。その現場に俺と光太郎は居合わせちまったんだ」

 「でも中谷君が……そんな」

 「昨日の子供いただろ?あいつが中谷と契約してた悪魔だ」

 「でもあの子……見た目は普通の男の子じゃん!」

 「悪魔は人間に化けることができる。中谷にもあの姿で近づいて契約したんだ。中谷も全く本気になんてしてなかったんだよ」

 「そんな子と一緒にいて大丈夫なの?」


 澪は不安そうにしており、しきりに心配している。だから俺はニッコリ笑って澪を心配させまいとした。


 「大丈夫だ。契約内容はキッチリ決めたし、慣れたら可愛くていい奴だしな。じゃあ行って来る。澪、絶対にこの事、人には言うなよ。母さんにもな。それともうこの事件には関わらないほうがいい。お前が思ってるよりこの事件やばそうだ」

 「拓也……」

 「じゃな澪。また明日な」


 そのまま部屋を出て走って玄関に向かう。母さんの説得は面倒なので、逃げるように玄関に手をかけて振り向きざまに大声を出した。


 「母さん!今日光太郎ん家泊まるから飯いらない!」

 「ちょっと!作っちゃったわよ!拓也、拓也ー!」

 「ごめーん!」


 母さんの雷が落ちる前に靴を履き家を出て行った。


 ***


 「あれ?光太郎もう着いてたん?」


 マンションに着くと光太郎が既にそこにいた。


 「おう、中谷には連絡した?」

 「こっちにくる途中でな。来れるって」

 「なら良かった。中谷来たらなんか食う物買いに行こうぜ」


 光太郎も夕飯はまだ買ってないようで中谷が来るまで大人しく待つことにする。荷物を置いてソファに座ると、横からヴォラクが飛びついてきた。思い切りソファに体を打ち付け痛がる俺を笑っている目の前の子供が憎らしく思い切り拳骨をして睨み合う。

 そんなバカみたいなことをしている俺たちの前にストラスがやってきた。


 『拓也、情報は見つかりましたか?光太郎から話は聞きましたよ』

 「あーうん。一応その高校に光太郎と行って来たんだけど、今回の事件の奴ら、かなりの不良で色んなとこから恨みかってそうで特定できねーんだ」

 『ふむ。私も一応現場を調べようとしたら紺色の服を着た人間に追い払われました』

 「それって警察なんじゃねえのか?」

 『むかついたから指に噛み付いてやりましたけどね』


 やったんかい!?

 こいつ恐ろしい事をするな。


 「あ、あと澪が友達にまた聞きしたって話もある。正直こっちのがやばいかも」


 光太郎達とストラス達に内容を報告すると、全員が神妙な面持ちで聞いていた。やっぱり、この話が本当なら、滅茶苦茶やばいよな。殺しのプロみたいなやつが契約してるかもってことだよ?絶対に見つからないだろ。


 『その話、本当なら厄介ですね。契約者まで戦いに参加してくるとなると、悪魔の対処で私とヴォラクは貴方達の護衛につける余力がない』

 「だよな……流石にそうなったら、もう警察に頼るしか」


 光太郎は顔に冷や汗を浮かばせている。契約者を探さないといけないが、そのネット上の奴が犯人なら簡単には見つからないだろう。嘘の依頼を立てて会いでもしない限りは。でもさすがにそんなのは危険すぎる。誰も話さないまま、気まずい空気が流れていると、ちょうどいいタイミングでインターホンが鳴り、画面に中谷の姿が映し出された。


 「よっす中谷。今あけるな」

 「あ、さんきゅー」


 部屋に入った中谷はあまりにも快適なマンション内に感動しており、自分とまったく同じような反応に思わず笑いたくなる。やっぱ俺達って庶民だよな。


 「うおーすげー……やっぱ広瀬って金持ちなんだなー超ひれー」

 「広くなんかねーよ。とりあえず座れよ中谷。もう飯食った?」

 「いや、まだ」

 「じゃあなんか買い行こうぜ。近くにコンビニあるし」

 「やったー拓也、飴かって!」

 「金ねーんだっつの!!」


 高級品だって言っただろ!!そういうとヴォラクがあからさまに肩を落とすので、今度は可哀想になり、なんだかんだいいながらもヴォラクに飴を買ってやった俺はなんて弱いんだろう。

 子供ってずるいよな。


 コンビニで買ったから揚げ弁当をほおばりながらストラスに問いかけた。


 「とりあえず明日はどうすんだよ?もうこれ以上は何も探せないと思うぞ」

 「それに明日からは甲子園の垂れ幕作んなきゃだし。俺と拓也、三日後は募金当番じゃん?」

 『参りましたね』


 ストラスの横ではヴォラクがテレビを見て笑っている。どうやら見たことのないテレビにはまったらしい。勝手な想像だけど、地獄にテレビとかなさそうだし仕方ないのかな?

 その時、事件速報の音がテレビから聞こえてきた。


 「あれ、事件速報じゃん」


 音に反応して身を乗り出してヴォラクの横を陣取った。あの事件の犯人が捕まったとかなら最高なんだけどな。しかしそこには恐ろしいことが書かれていた。


 “東京都都内、都立上尾第一高等学校の生徒三人が刺殺されました。警察は先日の事件と同一犯の犯行とみなして捜査を続けています”


 「この高校って!」

 「嘘だろ。また誰か死んだのかよ……」

 『マルファスの仕業でしょうか』

 「だとしても同じ学校の生徒がまた……」


 急に田中君の言葉が頭に浮かんだ。


 『森岡も気が弱い奴で結局何も言えずじまいだったんだよ。気が弱い意外は勉強もできるし、優しくていい奴なんだけどな。でも最近不登校気味でさ、学校あんま来ないんだよ』


 まさか森岡って奴なのか?

 だって他に共通の人間なんていないし、同じ学校のこいつしか。ネットの奴は多分デマだ。流石に同じ高校の生徒がこれだけ殺されて、金で雇われる側が足をつくようなやり方をするわけがない。間違いなく同じ高校の生徒だ。


 「ストラス、もしかしたら契約者わかったかも……田中君が言ってた森岡って奴なんじゃねーのか?だって同じ学校の奴がこんなに殺されるなんておかしいだろ」

 「森岡……」


 中谷は聞いたことあるなぁと呟いた。


 「中谷知ってんのか!?」

 「いや名前だけ。田中が結構仲良かった奴じゃないっけ?でも話したことなんかないよ。登校拒否ってことだけしか知らないんだ」


 なんとなくの犯人は分かった。おそらく森岡だ。もしかしたら別の奴かもしれないけど、でも絶対に同じ高校内の生徒で間違いないと思う。しかし顔もわからないし接点もなく、本人と接触するのが大変そうだ。

 明日から垂れ幕だって作らなきゃいけないのにさ、肝心なことは全く解決されてない。


 『拓也、とりあえずこの事件はもうしばらく様子を見ましょう。まだ森岡という人間が契約者だという証拠はありませんからね』

 「でも被害は増える一方だぞ」

 『しかしあまり嗅ぎまわると向こうが感づいてくる。今我々にはマルファスと戦うだけの戦力がありません』


 ストラスの言葉にヴォラクも頷いた。ヴォラク居ても倒せないのかよ!じゃあどうしようもないじゃん。


 「そうだねー俺マルファスと戦ったことないからわかんないけど、強いとは聞いてんだよね。あいつの得意戦術は空中戦。フォモスとディモスに乗ってる俺なんかより早く行動できるから、ちょっと戦略考えないとな」

 「お前が駄目ならどうにもなんねーじゃん!」


 ストラスは俺を見つめてくる。なんだよ!悪いこと言ったかよ!


 『拓也、あなたの指輪が鍵を握っているのです。あなたがどれほど指輪の魔力を引き出せるか……それがマルファスとの戦いに勝利する鍵になるのです』

 「そ、そんな無茶言うなよ。だって魔法だってさっぱりだし……」

 「拓也が俺に使ってきたの、れっきとした魔法だよ?」

 「あんときは無我夢中で!」

 『ではまた死にかけたら出せるのではないですか?』

 「継承者の腕の見せ所だね」


 こ、こいつ等は他人事だと思って簡単に述べて!俺の気持ち考えたことあんのか!?



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