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第68話 泡と消えた想い

 あれからずっと探しても、颯太さんは見つからない。なんで?こんなに探してるのに、なんで見つからないんだよ!!

 連絡先も分からず、連絡を取ることもできない。未だに現れない颯太さんをヴェパールは寂しそうに待っている。



 68 泡と消えた想い



 「I also am looking for. (俺も彼を探してるんだ)He goes to the sea and doesn't return.(海に行ったっきり戻ってこなくて)」

 「I see.(そうですか)」


 颯太さんの友達が心配そうに呟いたのを見て、パイモンが軽く挨拶をしてこっちを見て首を振る。

 今日も俺はオーストラリアに来ていた。颯太さんがヴェパールの所に顔を出さなくなって三日、明後日にはサーフィンの大会も控えているのに未だに颯太さんは見つからない。そんな中、ヴェパールは今日もいつもの場所で待ってる。颯太さんにもらったネックレスを握りしめながら。


 「拓也」


 手伝ってくれていた光太郎とシトリーが走り寄ってくる。


 「どうだった?」

 「駄目。海で姿を見てからは、だって」


 光太郎も何も手に入らなかったようだ。まさか波にさらわれて行方不明、とかじゃないよな?颯太さんはサーファーだから泳げるだろうけど……でもそれ以外説明がつかない。まさかサメに食べられてないよな!?

 最悪を考えてしまって頭をふる。このままじゃヴェパールが可哀想だ。

 ヴェパールは口数が減った。ネックレスを握りしめて、ぼんやりと海を見ている。話しかけても愛想笑いを浮かべるだけで、見ていてとても痛々しい。諜報はお手のもののシトリーもポリポリと頭を掻く。


 「ちょうど平日で人が少ないのもネックだったよな。目撃情報あんまないし」

 「そいつを探してホームステイ先の人間が警察に連絡を入れて、捜索も始まったらしい。明日には颯太の両親がオーストラリアに来るそうだ」


 パイモンの言葉に冷汗が走る。事態がどんどん大きくなって事件性が出てきて、考えれば考えるほど悪い方へ思考が行く。そんな俺を慰めるようにシトリーが頭を叩く。


 「考えてる暇があったらあいつを探しに行こうぜ。それに海から帰ってこないってのなら流されちまった可能性もあるからな。セーレは大変だろうが、空からあいつも探してくれてる」

 『一度ヴェパールに報告してみましょうか』

 「うん……」


 ストラスに言われた通り、俺達は調べた情報をヴェパールに報告することにした。

 いつもの場所にヴェパールは膝を抱えて座っている。


 「ヴェパール大丈夫?」

 『……来ないの』


 ポツリと呟いた言葉に、俺はよく聞こえずに聞き返すと、もう一度はっきりと彼女は告げた。


 『エネルギーが来ないの』


 どういう事だ?でも俺と光太郎以外は意味が分かったらしく、真っ青になっている。ヴェパールは手で顔を覆い、涙を流す。

 何?何がどうなってんの?


 「どういう事だよストラス」

 『契約者のエネルギーを契約石がもらっているとは前言いましたよね?そしてその契約石からエネルギーを悪魔に送り込んでいるとも説明しましたね?』

 「うん」

 『そのエネルギーが送られなくなる場合は二つあります。一つは距離の問題。離れすぎると契約石からエネルギーをもらう事が難しくなります。そしてもう一つは契約者が何らかの形で死亡した場合。契約者が契約石にエネルギーを送ることが不可能となり、悪魔にもエネルギーが届くことはありません』


 距離の問題はないだろう。前に話を聞いた時は結構な距離は大丈夫だったはずだ。自分で移動したわけでもないし、じゃあ波にさらわれたのは確定で……最悪の結末が頭によぎる。嘘だろ?じゃあ……それじゃあ……


 「警察が捜査している。ホームステイ先に荷物があるとも聞いている。一人でどこかに失踪したという可能性は低いし、波にさらわれたなら四日経っている。生存は見込めませんね」


 淡々とパイモンが告げる。でも信じたくなくて縋るような目で見てしまった。それでも全員の表情は変わらない。そんな、嘘だろ……


 「颯太さんが死んだって言うのか?」


 言いたくない言葉が口から出る。

 セーレ達も心苦しそうに顔を伏せている。そんな中でもパイモンは淡々としており、契約石の回収に向かいたいと発言している。どうして、そんな冷静でいられるんだ。


 「契約石の回収が最優先です。行方不明で終わらせるのはまずい」


 ヴェパールはその言葉を聞いて、海に飛び込んだ。


 「ヴェパール!何してんだよ!」

 『海に彼がいるかもしれない。彼を探すの!』

 「今まで見つからなかったんだ。もう無理だとわかっているだろう。お前は大人しく地獄へ戻れ」


 あまりにも他人事のように告げるパイモンにヴェパールはその場で固まった。


 「契約石も颯太に預けているのなら無くなっている可能性が高い。むやみやたら動き回るのは自殺行為だ。契約石から奴を探知できないのなら、そういうことなんだろう」


 あいつは死んだんだよ。

 パイモンの決定的な一言にヴェパールは首を振る。


 『嘘よ……そんなの嘘に決まってる!約束したのよ、ずっと一緒にいるって!彼から言い出したのよ!彼は約束を破らないわ!!』

 「意図的ではなく、破った実感すらないんじゃないか?現実を見ろ。お前が死ぬのも時間の問題になってきている」

 『貴方って昔からそうね。ルシファー様ばっかりに目がいって、他の奴なんて相手にもしない。どれだけ苦しもうが、悲しもうが……貴方と私はわかりあえないわ。貴方こそ、その子から手を引いてあげればいいじゃない』


 ヴェパールはそのまま海に潜ってしまった。残されたパイモンは図星なのか唇を噛み締めている。


 「今更、お前みたいに生き方を簡単に変えられる奴の方が少ないんだよ……」


 小さな呟きはこちらまで届かず、波の音だけがむなしく響いていた。


 『私達も一度戻りましょう』

 「そんな……颯太さん見つけてないんだぞ!」

 『彼は間違いなく死んでいます。しかも海ならば我々に探すことは不可能です』


 そんな……そんなのって……

 サーフィンしてた颯太さん、すっごく嬉しそうで楽しそうだった。俺にサーフィン教えてくれるって笑って言ってくれた。

 颯太さんのネックレスを見つめてるヴェパール、すっごく嬉しそうで綺麗だった。本当に颯太さんのことが好きなんだって理解できたから。

 なんでこんな目に二人が遭わなきゃいけないんだよ……ヴェパールは何も悪いことしてないじゃんか。ずっとずっと颯太さんを待ってるのに。


 ***


 ヴェパールside ‐


 『どこなの颯太……』


 海のなかを探したけど見つからない、もうかれこれ数時間は探している。辺りも日が落ちて真っ暗になっているけれど見つけるまで戻れない。死んでない、颯太は死んでなんかない。きっとまたあの笑顔で笑いかけてくれるはずだから……私の名前を呼んでくれるはずだから!

 その時、何かを感じた。


 『これは契約石?』


 契約石から自分の気を一瞬感じた。契約石を感じたということは、かなり近くに私の契約石が落ちているってことよね。なら颯太もその近くにいるのかもしれない!急いで気を探って海の中に潜る。お願い、生きていて……死んでいないで!

 潜ってから十分後、ついに契約石を見つけた。海の底に落ちていた私の契約石であるコーラルのネックレスを拾う。契約石があるってことは、きっと颯太も近くにいるはず!その周辺を探していくと近くに人の姿が見えた。


 『颯太!』


 やっと見つけた!私の愛しい人!

 でも私の知ってる颯太はもういなかった。そこにいたのは目を瞑って動かなくなった颯太の姿。体は水を含んでパンパンに膨れ上がり、目は固く閉じられている。


 『颯太?』


 呼びかけるけど返事はない。どう、考えればいいのだろう。頭の中にいろんな考えが渦を巻くように溢れてまとまらない。なぜこんな事になったの?なぜ彼が死ななければならなかったの?

 ねえ、王子様が死んだら人魚姫は人魚に戻れるんでしょう?泡にならないんでしょう?でもあなたが泡になって消えてしまうのね。


 私を置いて。


 私の想いも泡になって消えてしまう。あなたがいなくなったら契約者のいない私は、あと一週間もすれば泡になって消える。みんなみんな消えていく。

 私たちは何か悪いことをしたのだろうか。これは何の罰なのだろう。別に祝福されたかったわけではない。ただ、二人で罪に怯えながらも生きていきたかっただけなのに。


 『馬鹿みたい……』


 酷く滑稽だ。こんな事になるのならば、もっと早くあなたを探すべきだった。契約石のエネルギーを感じなくなるにはそれなりに時間がかかる。だから気付かなかった、貴方はきっと大会前だから忙しいんだって思ってた。貴方を信じていたからこそ待ち続けたし、探すこともしなかった。

その結果がこれなんて……私はとんだ大馬鹿ね。こんな形で貴方をなくすなんて……

 彼の体を抱き上げて海の表面に引き上げる。


 『大丈夫よ。貴方を家族の元に返してあげるから』


 私は颯太を連れて岸に向かって泳ぎ出した。海岸付近には警察官の船が見える。おそらく颯太を探しているのね。

 私は見つからないように海の底に潜って、彼を運ぶ。今見つかるわけにはいかないから。だって私は化けものだもの、きっと大騒ぎになるわ。途中、海中を探しているダイバーたちに見つからないように泳ぎ、岸に近い海の底に颯太を置いた。

 ここならば、明日には警察に見つかるだろう……


 『あなたの魂はもう天国に行ったかしら?』


 せめて次に生まれる時は幸せに……海に愛されて、またサーフィンしてね。

 いつもの場所に私は戻る。


 『ふふ……一人ぼっち』


 地獄では当たり前だった光景が酷く今は悲しい。

 涙が零れ落ちて止まらない。もう来てくれない、あなたはここに来てくれない。もうあの優しい笑顔を見ることができない!もうあの優しい腕に触れることができない!信じてなんかいなかったけど、神様はなんて残酷なのかしら。


 海を愛した彼が、なぜ海で死ななければならなかったの?


 なぜ彼は波に攫われてしまったの?なぜ彼に加護がなかったの?

 そう思いながら涙を流していると、急に契約石が薄く輝きだした。


 『な、に?』


 あなたは知っているの?彼が死んだ理由を。

 契約石は何かを伝えようとしてる。それに意識を集中させた途端、何かが頭の中に流れてきた。これは颯太の記憶?それは私が思っていたよりも酷く残酷で無慈悲なものだった。


 『あ、あぁ……』


 顔を沈められる彼が見える、必死で抵抗している彼が見える。


 ‐ 私の名前を呟いて、絶えていく彼が見えた。


 『そんな、嘘よ……』

 

 殺された、彼は殺された。颯太がいつも話してたあのブルースと言う男に殺された!あんなに海を愛していた彼が!あんなにサーフィンを楽しいと言っていた彼が!


 あの男に殺された!


 なぜ、なぜ彼が殺されるの!?彼は何も悪い事などしていないのに!

 急に思い浮かんできた颯太の言葉。


 “あいつは俺を大会に参加させたくないらしいんだよ。あいつ裏で色々やってるって噂だし、なんかされないといいけどな”


 彼の言っていた事がこんな結末になって現実になるなんて。きっとあいつは自分が優勝したいから颯太を殺した。自分の都合の為にあの人を殺した!私の大切なあの人を!なんで颯太の友達はあの男を止めてくれなかったの?怖いから?なんで颯太のホームステイ先の家族は何とかしてくれなかったの?気付かなかったから?なんで大会の主催者たちはあの男を贔屓してたの?スポンサーの息子だから?

 結局はそうなのね。皆何もわかろうとしてなかった。颯太のこと……そのせいで颯太は死んだ。


 理不尽な怒りが体中に込み上げる。

 憎しみの対象を一人でも多く作って、平常心を保とうとしていた。それと同時に何かが壊れていくのがわかる。私の心も全ても……


 『嫌い』


 きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらい!

 皆嫌い!!


 『殺してやる……お前だけは、何があっても……!』


 私は人魚姫なんかになれない。

 結局は憎しみに突き動かされていく。


 化け物は、化け物にしかなれないんだ。


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