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第64話 ネクロマンサー

 『サァ、恐怖ニ怯エテ頂キマショウ』


 悪霊たちに目配せし、ビフロンと名乗った悪魔は俺にゆっくりと近づいてきた。霧のようなモヤモヤしている物体が形を持って、鎧がカシャンと音を立てている。幽霊のような化け物のような、そんな見た目の悪魔が近づいてい来るのは恐怖でしかなく、後ずさりをしてしまった。



 64 ネクロマンサー



 「あいつらを解放しろ。今すぐだ」


 できるだけ平常心を保つように声を出す。怖がっているのなんかばれてしまったら負けだ。そう思っているのに声は明らかに震えていて、俺の虚勢は見え見えでビフロンはクツクツ笑う。


 『継承者ガ我ト共ニ地獄ニ来ルノナラバ考エテヤランコトモナイ』

 「なんでそんなに俺を狙うんだよ!?指輪が目当てなのか!?こんなもん欲しけりゃくれてやるよ!外し方教えろよ!」


 この指輪がこんな力があるって知っていたら、五十円でも装飾が恰好よくても俺はこんな指輪なんか絶対に買わなかったのに!


 『何モ知ラナイノダナ。浅ハカナ継承者ダ』

 「何わけわかんねぇ事言ってんだ!?大体ルシファーだか何だかしんねえけど、俺は用なんてないですから!妙な因縁つけんじゃねえ!」

 『クダランオ喋リヲスル気ハナイ。貴様ハ私ノ言ウ事ヲ黙ッテ聞ケバイイノダ』


 俺だってお話しする気なんかねえんだよ!こっちは早くストラス達を助けなきゃいけないんだよ!!

 パイモンなら結界を破って助けに来てくれる。それを待つしかない。それまで逃げ切るんだ。


 『我ト戦ウカ?継承者』

 「どうせ逃がしてなんてくれないんだろ」


 あいつは当然だというように頷く。逃がしてくれるんなら、こんなことにはなってない。


 『少シ相手ヲシテモラオウカ』

 「かかってこいっつの!」


 大丈夫、俺ならやれる。ちゃんと素振りの練習もしたし、踏み込みの練習もした。絶対に無駄になんかしない。ここで今までの苦労を水の泡にしてたまるか!俺がやらなきゃ……皆を助けなきゃ!!

 深呼吸をして俺はビフロンめがけて一直線に走っていく。

 

 「くらえ!」


 ビフロンに思いっきり剣を振り下ろす。迷ったらだめだ。相手を傷つけるってわかっていても、戦わなくちゃいけない。

 でもやっぱ当たり前なのかビフロンはそれをあっさり避けて宙に浮かび上がる。おい、空飛ばれたらどうしようもないんだけど!


 『(我ラガ死霊ヨ……継承者ニ報イヲ!)』

 

 ビフロンが俺に指をさした瞬間、悪霊が一斉に襲いかかる。こいつらってパイモンが言うには人間の魂なんだよな。じゃあ俺が斬っちゃったら成仏できないんだよな!?そう思ったら剣を向けられない。

 そんな考えビフロンはお見通しなのか、気味の悪い兜越しからでもわかる目がニタリと三日月を描く。俺は必死で悪霊の腕から離れるようにホールを走りまわる。


 『結局ハ甘サガ捨テラレナイノダナ』


 当たり前だ!元は人間なんだ!そんな簡単に殺せるか!しかし前後を塞がれて逃げ道を絶たれてしまう。

 倒さなきゃ先に進めない。自分だけ後ろに控えてて、悪霊に戦わせるとかなんてヤローだ!!

 その瞬間、今の思考がまるでブーメランのようだとも思った。


 自分も同じだ。ずっと戦わなかった。


 だからパイモンたちは捕まっちゃったんだ。俺が、逃げてばかりだから。一緒にいるだけで良かったのに、勝手なことをしてしまったからこんなことになってしまった。俺が何とかしないと、どうしようもないんだ。

 遂に退路を断たれて、諦めがつく。


 『ホウ?』


 剣を悪霊たちに向ける。

 その剣は薄く輝きだす。


 「ごめんな……」


 剣から出た竜巻は悪霊に当たった。悪霊はバラバラに砕けちっていく。悲鳴をあげながら砕けていく悪霊の姿を見て、罪悪感に胸が痛む。俺がもっとしっかりしていれば、ビフロンだけを倒せる力があれば、こんなことにはならなかったのに……

 こいつらは俺が殺した。もう天国にも地獄にも行けないんだ。俺のせいでこいつらの全てが……


 『遂ニ殺戮ニ手ヲカケルカ』


 ビフロンが高笑いをしだす。この一連の流れが愉快だと言うように体を震わせる姿に腹の底からマグマのような怒りがわいてくる。


 『貴様モ十分悪魔ノ素質ヲ持ッテイル』

 「うるさい。お前に言われたくない」


 ビフロンに再び剣を向ける。


 「お前さえいなきゃ俺は人殺しにならずに済むんだ」

 『憎シミノ目、ソレコソ継承者。ルシファー様ニ相応シイ土産ダ』

 「ああそう、褒めてもらうことばっかり考えて餓鬼かよ」

 『……忌々シイ小僧ダ』


 斬りつけようとしてもビフロンは空を飛んでいる。普通に戦って攻撃があてられるわけがない。

 やっぱ竜巻で倒すしか……大体三回程度しか使えないから乱発はNGだ。睨み合いが続く中、ビフロンが再び手を伸ばす。


 『我ト共ニ来イ。ルシファー様カラ祝福ヲ受ケロ』


 そんな短時間で考えが変わるか馬鹿。会いたいなら一人で会いに行け。


 「行くかよ馬鹿。てめえ一人で行けや」

 『残念ダ』


 否定の言葉を放った瞬間、また悪霊たちが俺に襲いかかってきた。


 「くっそ!」


 再び襲い掛かってきた悪霊たちから逃げるために竜巻を当てて倒していく。倒しても倒しても悪霊は次から次に出てくる。一体こいつらどんだけいんだよ!?俺、何人殺したんだよ……っ!

 ビフロンは相変わらず後ろの方で薄く笑っている。その薄気味悪く厭味ったらしい笑みが反吐が出そうなくらい癪に障る。


 「最悪だよ。お前」

 『フフ……オ褒メノ言葉、有難ク頂戴シテオクカ』


 褒めてねーしマジで。フフじゃねーよクソが。

 ストラス達を助けるどころか防戦一方だ。あいつのほうがまだ余力はありそうだし、確実に先にくたばるのは俺だ。まじでやばい!何とか状況を打破しないと!


 “Please! Stop!!”


 声が聞こえて振り返ると、そこには小さい男の子が立っていた。男の子は悪霊の方に向かっていく。

 この子はヴィクトリアの子供……ちょっと待て、ストラスを閉じ込めた奴だ!なんでこいつだけ逃げてきてんだよ!ストラスはどうなったんだ!?


 “Please already stop it. (もう止めて)Please stop hating it. (これ以上憎まないで)ease do not defeat at hatred.(憎しみに負けないで)”


 簡単な英語だったから俺にもなんとなく聞きとることができた。

 悪霊たちも男の子の言葉に耳を傾けている。


 “(人を傷つけてなんになるの?彼には大切な人がいるし、彼のことを大切に思ってる人がいる。大切な人がいなくなったら悲しいよ。そんな気持ちを増やしちゃ駄目)”


 少年は捲し立てるように悪霊に語りかけ、動きを止めた悪霊たちは涙を流す。

 え、何言ってるかわかんないんですけど。あの子は説得しようとしてんのか?


 “We are painful. (私達は苦しいんだ)Are we liberated from this suffering if it does very?(どうしたらこの苦しみから解放される?)”


 男の子はビフロンを指差した。


 “It only has to kill him.(あいつをやっつければいいんだ)”


 ビフロンの目が見開かれる。

 悪霊たちはその言葉を聞いて暴走しだした。


 『Stop……Stop it!!(ヤメロ……ヤメロ!!)』


 悪霊たちはビフロンの言うことなんて聞かずに一斉に襲い掛かる。

 必死で逃げていたビフロンも悪霊に掴まり、無残に襲いかかられていく。


 「止めろ!」


 何が一体どうなってんだ!?フェリックスがビフロンを指差して何かを言った瞬間、悪霊たちの目つきが変わってビフロンに襲い掛かるって!

 俺は急いで悪霊の元に走り出す。男の子が俺を止めるけど、俺は悪霊の中に突っ込んだ。


 「殺しちゃ駄目だ!地獄に戻さなきゃいけないんだ!!」


 こいつを殺したらどうなる?ストラスは?セーレとパイモンは?無事に戻ってこれるのか?こいつはここで殺せない。あいつらを解放してもらわないといけないんだ!

 男の子も慌てて悪霊たちに攻撃を止めるように訴えかけるが怒り狂った悪霊たちは止まらない。俺は悪霊に弾き飛ばされ、男の子が心配そうによってくる。


 「頼む。あいつ等を止めてくれ」


 緑色に浮遊している幽霊の表情は悲しそうで、もうこの子に対しての恐怖はない。自分にできる範囲の英語で訴えかける。


 「Stop! You say stop their!!」


 もうちょい英語勉強すればよかった。

 でも俺の身振り手振りを見て、男の子は理解したようだった。


 “Stop!Please stop!!”


 男の子は必死になって呼びかける。

 しかしそれが逆鱗に触れたのか悪霊の一匹が怒り狂った目で男の子に叫ぶ。


 “Because you are not an evil spirit, this can be said!!(お前は悪霊になってないからそんなことが言えるんだよ!!)”


 逆上した悪霊によって男の子が突き飛ばされる。


 「フェリックス!何しやがんだてめえ!!」


 あの子は、お前たちを救おうとしているんだぞ!?それを、突飛ばすなんて!

 俺の言葉に耳も貸さないで、悪霊たちはビフロンに攻撃をし続ける。


 「大丈夫か!?」


 俺は慌てて男の子に近づく。でも男の子は悲しいのか、痛いのか分からないが大声で泣き出してしまった。悪霊たちの怒りの声で満たされていた室内で響く子供の泣き声に悪霊たちの動きが止まる。


 “What!?What Does it become such a thing!?(なんで!?なんでこんな事になるの!?)Do not you hear stories!?(なんで話を聞いてくれないの!?)”


 男の子は泣き続ける。その光景を見て、悪霊たちもその場で固まってしまった。

 その隙をついて、傷だらけのビフロンが立ち上がろうとするけど、そうはいくかよ。そうはさせないとあいつに剣を突き立てた。


 『貴様……!』

 「魔法なんかで人を操ろうとするからだろ。自業自得だ。結界を解け、じゃなきゃお前をここで殺す」

 『デキルノカ?貴様ニ』

 「……ここまでしておいて逆になんで生きて帰れるって思ってんだよ」


 恐ろしく冷えた声が出て、自分で言ってビックリした。

 俺、こんな声も出せるのか?ビフロンは妖しく笑う。


 『ソレデコソ継承者……イイ目ダ』


 ビフロンが目をつぶった瞬間、何かが割れる音がした。


 『拓也!』『主!』『拓也!無事ですか!?』


 ストラス達が一斉にホールに向かって走ってくる。

 よかった!三人とも怪我してない!


 「おい!結界張られてたけど無事か!?」

 「拓也ー加勢に来てあげたよー」


 シトリーとヴォラクもドアを蹴飛ばして入ってきた。

 全員に取り囲まれたビフロンは妖しく笑う。流石にこの状況で抵抗しても無駄だと察しているのか、大人しくしている。


 『我ヲ返シタトコロデ、イイ気ニナルナ』

 「まだいうか。俺に負けた雑魚のくせに」

 『グヌウ!貴様……!!』


 剣が薄く輝きだす。


 「あ、召喚紋描かなきゃ。パイモンよろしく」

 『わかりました。しかしこれは主が?』

 「んー俺だけじゃなくてあの子が手伝ってくれた」


 俺が目配せしたとこには一人の男の子。安堵の息をついた後に、近づいて行ったストラスを見て顔をほころばせた。


 『フェリックス』


 “Sutoras!I worked hard!(ストラス!僕頑張ったよ!)”


 ストラスは男の子を優しくほめた。良くわからないけど、なんだか意気投合していたみたいだ。

 その間にパイモンが召喚紋を描いていく。


 「こいつ契約者いないのかな?」

 『スピネルのチョーカー。それがこいつの契約石です。首にかけているという事はいないのでしょう。おそらく悪霊たちの魂を食っていたと思われます』

 「そっか」


 召喚紋を描き終えたパイモンは呪文を唱え出し、反応するようにビフロンの体が透けていく。


 『ククク……』

 「なんだよ」


 ビフロンのこの薄ら笑いが気に食わない。こいつまだそんな強がりしてんのかよ。もうすぐ地獄に戻されるって言うのに。


 『貴様ラモ我モ所詮ハ蟻。蜘蛛カラハ逃ゲラレヌ』

 「何が言いたいんだよ」

 『七ツノ大罪カラハ……逃ゲラレヌ』

 「七つの大罪?」


 ビフロンは最後まで薄く笑いながら消えていった。

 あの野郎、意味深な一言残して消えやがって。


 “Thank you, brother.”


 声が聞こえて振り返ると、フェリックスの体が透けている。

 フェリックスだけじゃない。他の悪霊たちも。


 「おいお前……」

 『成仏しようとしているのです。拓也、邪魔をしてはいけません』


 そっか。こいつらできるんだ。

 男の子は嬉しそうに笑う。


 “Thank you, brother.Thank you.”


 「俺もサンキューな!」

 『主、それは日本語です。You are welcome.でいいのでは?』


 うるさいなぁパイモンは。俺たちのやり取りを見て嬉しそうに笑い、男の子はゆっくり消えていった。

 成仏できたんだ。良かった、本当に良かった。これでこの場所でもう幽霊なんてでなくなるのかな。


 『拓也、申し訳ありません。役に立てなくて』

 『私も肝心な時に主を一人にしてしまいました』

 『俺も捕まったしな。ごめんな拓也』


 全部が終わった後に三人がそれぞれ一斉に頭を下げてくる。むしろ謝らないといけないのは俺の方なのに、慌てて首を振って大丈夫だと告げる。


 「そんなのいいって!俺も、勝手に行動してごめん」

 「そうそう。終わりよければ全てよし!なぁんてね!」


 シトリー急に話に入ってきて、しかも珍しく使い方間違えてない。

 俺は光太郎たちの方に歩み寄る。澪が安心したように笑っている。


 「拓也」

 「ん?」

 「お帰りなさい」

 「ただいま!」


 なんだか照れくさくて光太郎の肩をバシバシ叩く。


 「いってえよ!馬鹿!!」


 光太郎と中谷もうれしそうだ。

 その光景を遠目で見ていたシトリーが小さく笑う。


 「へっ……ハッピーエンドか」


 シトリーは手に持っていたカメラを床に落として、中から記録媒体を抜き取って半分にへしおった。


 「シトリーそれは?」

 「あぁ、ビデオカメラ。度胸試ししようとしてきた馬鹿な奴らが落としてたんだよ。これがなきゃ動画アップできねーのによ」

 「本当にね」


 シトリーとセーレが目を見合わせて笑う。そんな中、ストラスとパイモンだけが表情を崩さない。二人が険しい表情のまま何かを話しているけど、声までは聞こえない。


 『パイモン、七つの大罪ももう準備に入っているのでしょうか』

 「おそらくな。俺は聞いていないが、ルシファー様直属で命令を受けている奴はいるみたいだ。そういう奴らこそ危険視するべきだ」

 『その危険視する中に、貴方は入っていないのですよね』

 「……まだ何も聞いていないからな」

 『もう腹の探り合いは終わりにしましょう。こんなこと拓也には言えません。貴方は未だにバティンと結託していますよね?まだ彼は表舞台に立っていないかもしれませんが、彼はルシファー様の代わりを務めることも可能なほどのカリスマ性と知能、そして行動力を持っています。そしてその参謀を貴方が務めているのではないですか?』

 「お前も何でも首を突っ込んでくるな。俺とお前の関係に溝を作っても解決しないぞ」


登場人物


ビフロン…ソロモン72柱46番目の悪魔。

      6の軍団を率いる伯爵であり、その姿は怪物のような見た目をしているという。

      召喚者が人の姿をとるようにと命じれば人間の姿になれる。

      墓の上に蝋燭の火を燈すと伝えられている事からネクロマンシー能力に優れていることを示している。

      また死霊術だけではなく幻術にも長けている。

      契約石はスピネルのチョーカー。

      ヴィクトリアハウスに住み着き、ヴィクトリアの魂や他の霊の魂を食べ、契約者なしでも行動できるようにしていた。


フェリックス…ヴィクトリアハウスに住んでいたヴィクトリア・グレンの息子。

       父親の部下の家族に毒殺されたことと、母を1人残してしまったことに対する後悔から自縛霊になっていた。



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