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第63話 変わる決意

 光太郎side ―


 「どうするんだよこれ……どうするんだよー!」

 「黙ってろ!いま考えてんだからよ!」


 泣き叫ぶ俺にシトリーが檄を飛ばす。

 木に登った俺達に手を伸ばしてくるのは映画で見たような肌がただれたゾンビたちだった。



 63 変わる決意



 ゾンビは木に登ることができないのか、俺達を地面から睨みつけている。でもその間にも、土からはどんどん新しいゾンビが出てくる。あっという間に俺達は囲まれてしまった。数は絶対百体くらいいる。なんだよこれ怖すぎるだろ!!可笑しいわこんな光景!悪魔ってガチでこんなことできんのかよ!なんかもうスケール可笑しいだろ!?


 「お前守りながらはこの数全部はきついな」


 シトリーも舌打ちをして苛立ちを露わにする。きついなんてもんじゃねーだろ!俺はこんなのとは戦えないぞ!!助けを呼びたくてもなぜか連絡をとれず、携帯はただのライト代わりと化している。


 「あ、うぅ……なんだよこれ。もう嫌だぁ……うぐっ!」

 「馬鹿!泣いてる場合か!!」


 だってこんなの怖いに決まってるだろ!今まで生きてきて、ゾンビに囲まれる日が来るなんて思う訳ないじゃん!!

 シトリーは乱暴に服の袖で俺の涙をぬぐう。痛いけどそれに抗議をする余裕すらない。


 「泣いてる暇あったら何とかする方法考えろ」

 「だって、だってぇ……」


 こんな状況で頭回るかよお。こんな事に対応する方法なんて学校でも塾でも習わない。あれか?ウキウキしてた中谷なら何とかなったのか?あいつならすげえ!とか言ってバット振り回せんのか?もうどうすりゃいいか分かんねえよ!

 その時、ゾンビたちが違う方向を向いた。何?何を見つけたんだよ。拓也が助けにでも来てくれたのか?


 「What is this!?(何だよこれ!?)Is it a real thing!?(本物か!?)」


 そこにはビデオカメラを構えた数人の男女がいた。明らかに俺たちの知り合いでもないし、もしかして動画でも撮影しに来たのかよ!何してんだよこんなとこで!もう肝試しの次元じゃないんだぞ!

 そいつらはこの光景をビデオを回して騒いでいる。


 「No.(やばいって……)Let's run away early!(早く逃げよう!)」


 しかし騒いでいるのは真ん中の男だけで、カメラを回している男は明らかに怖がってる。


 「Foolishness. What do you say?(馬鹿。なに言ってんだよ)」

 「but!(でも!)」

 「Be not and run away from a foolish thing remark early!(馬鹿なこと言ってないでさっさと逃げろ!)You are killed!(お前ら殺されるぞ!)」


 シトリーがそいつらに大声で怒鳴りつけると、流石にシャレにならないと察したのか、後ろで顔を真っ青にしている女性が悲鳴をあげて踵を返す。


 「I……I will run away!(お、俺は逃げるぞ!)Please do alone wanting do any further!(これ以上やりたいならお前一人でやれよ!)」


 カメラを持った男も大声を出して走っていき、その男につられて他の奴らも悲鳴をあげて逃げていく。


 「Really?(マジかよ?)Dammit!!(くそ!!)」


 最後まで興奮していた男も誰もいなくなったことに悔しそうに舌打ちをして逃げていく。去り際に視線がかち合ったけど助けてもらえるわけがない。逆の立場だったら俺も同じだ。

 全員が走って逃げていく後ろ姿をゾンビ達は追いかけていこうとした。


 「ちょ、追いかけちゃダメだって!待てって!」

 「あいつ等、余計なことしてくれるぜ全く」


 シトリーは木から飛び降りて通せん坊のように立ち塞がる。


 「シトリー!」

 「へっ!やりたくないけど、やっちゃうしかないよなぁ!」


 光が包み込み、シトリーが翼をもった豹の姿に変わる。

 これがシトリーの本当の姿……契約した時に話は聞いていたけど、実際目にするのは初めてだ。


 『光太郎、大人シクシテロヨ。スグニ片ヅケル』


 片づけるっつったって!この数は無理だろ!!せめて俺も加勢できれば……!

 震える手で竹刀を持って自分を奮い立たせる。何のために四か月以上も特訓してきたんだよ。こんな時の為に、足手まといにならない為じゃねーかよ!戦わなきゃ、俺も戦わなきゃ!

 しかしいくら自分に鼓舞しても体は動いてくれない。


 『無理スンナ。簡単ニ戦ウ決意ナンテスグニハデキネエモンダ』

 「だけど俺……!」

 『待ッテロ』


 シトリーはそう言って、ゾンビに襲いかかる。

 ゾンビはスピードは全然速くないのか、シトリーの攻撃に全くついて行けていない。それでもゾンビに掴まれたり噛みつかれたりでシトリーの体には小さい傷ができていく。その光景を安全な場所から眺めている自分が酷く情けなくて臆病者に感じる。

 俺、何してんだろ……結局何もできないまま、こんなとこで待機してて……このままじゃ駄目だ。


 「俺は変わりたいんだ……」


 ポツリと呟いた言葉とその反動で揺れた懐中電灯がゾンビ達を不気味に照らしていく。


 「変わりたいんだ!」


 シャネルって子を殺してしまったと泣いていた拓也。あいつとは中学の時から仲が良かった。中学受験を強要する親父からのプレッシャーの反動で訪れた反抗期によって受験をほっぽりだして入学した都立中学で初めてできた友達だった。入学式で話しかけてきてくれたまま、ずっと俺の隣にいてくれた。あいつは俺の一番の理解者で、馬鹿なくせに気がきいて、本当に悩んでるときは迷惑掛けたくないって変な遠慮して、俺よりも遥かに怖い目に遭ってて、こんな悪魔なんかに狙われて……

 

 俺は普通の生活にあいつを戻したいんだよ。テスト前に皆で勉強して、学校帰りに遊んで、毎日暇だって言いながらも、ちょっとしたことが楽しくて……そんな毎日に戻りたいんだ!

 拓也と中谷とまた三人で普通の高校生活をしたいんだ!


 俺、その為に今まで頑張って来たんだろ?


 竹刀を握りなおす。手は、今度は震えなかった。

 俺はゾンビ達を睨みつけると木から下りてゾンビたちに竹刀を向けた。


 『光太郎!オ前、何勝手ニ降リテンダ!』

 「今やらなきゃ……俺きっとこの先も変われない!」

 『オ前…………オ前ナラデキルゼ!俺様ノオ墨付キダカラナ!』


 そうだ、俺はシトリーとも結構対等に戦った。手加減はしてくれてたけど、それでもあいつから褒められたんだ。こんな奴らなんて倒せるに決まってる。

 落ち着かせるように深呼吸をする。

 目をしっかりと開けて自分の元にゆっくりと近寄ってくるゾンビたちに向かって走り出した。


 ***


 十数分後、息が上がって体が動かなくなるころ、最後のゾンビの喉元にシトリーが噛みつく。


 『一丁上ガリ!』


 全てのゾンビみたいなのを倒し終えた現場は悲惨なものになっていた。しかし倒したことで魔術が解けたのか、すべてが砂のように崩れていき、先ほどまでの騒ぎは一変、再び不気味な静けさが覆う。

 一気に緊張感が抜け、立っていられなくなり座り込んだ俺の前にシトリーが歩いてくる。


 「疲れた……」

 「お前、頑張ったじゃんか。結構倒したんじゃねーか?」

 「うん。十体くらい倒した」

 「良くやった。しっかし……」


 シトリーは地面を見つめた。もうそこから手が出てくることはなく、暴れたせいで掘り起こしていた場所も完全に元に戻っている。


 「ここおそらく数万人は埋まってるはずだけどな。全部をネクロマンシーで操ってるわけじゃなさそうだ。限界があんだろうな。だっせえ!俺様とお前をこんなんで足止めできると思ってたのかねー!ストラス一匹で何とかなるレベルだわ!」


 なっはっは!と相変わらず尊大な態度で高笑いをしたシトリーは俺の肩を労わる様に軽く叩き、屋敷を見つめる。


 「とりあえず拓也が心配だな。合流するか」


 そのまま腕を引かれておぼつかない足でこけないようについて行く。まだ足と手は震えて喉が痙攣をおこしたかのように上手く息も吸えない。それでも確認したくて立ち止まるとシトリーも振り返る。


 「……なぁ!俺、役に立てたか!?」


 言って欲しくて仕方がない。

 嘘でもいいから、足手まといじゃないって言ってくれ!その一言で報われた気がするんだ。単純な俺はそれだけで頑張っていこうって思えるんだ。

 シトリーはニカッと歯を見せて笑う。


 「最高に役に立ったぜ相棒!!」


 その言葉が嬉しかった。俺、今まで頑張ったこと無駄じゃなかったんだよな!

 竹刀を握りしめる。


 「拓也と合流しよう!」


 俺はシトリーに走り寄って一緒に屋敷に向かった。


 ***


 澪side ―


 「ちょ……流石にこれはやばいのでは!?」


 中谷君があたしの前でバットを握りながら状況を確認する。目の前ではヴォラク君とヴアルちゃんが悪霊と戦っている。あたしたちは集会所の端っこに追いやられていた。


 『うぜえ……何匹いんだよこの悪霊どもが!』

 『ねえヴォラク、あたし達が殺せばこの悪霊たちの魂はどうなっちゃうの?』

 『魂を斬り捨ててんだ。このまま消滅だろ』

 『でもそれってもう輪廻できないってことでしょ?そんなの……』

 『じゃあお前は何かいい策あんのかよ!?このままじゃ俺達が殺されんだぞ!感情ばっかで行動すんなよ!斬り捨てなきゃなんないもんは斬り捨てるしかないだろ!』


 魂が輪廻できない?それってどういうこと?

 隣にいる中谷君は驚いている様子はなく、もしかしたら理解しているのかもしれない。


 「中谷君、ヴォラク君達なに言ってるの?」

 「……あの霊って多分魂が実体化した姿なんだ。斬り捨てるってことは魂を斬るってことだろ?魂が天国にも地獄にもいけないままバラバラになる。だからもう二度と生まれ変わることができないってことじゃないかな」

 「そんな……」


 目の前の幽霊たちは金切り声をあげながらヴォラク君達に襲いかかる。泣いていた幽霊のあの子をあたしたちじゃ助けられない。あの子は成仏したいと泣いたまま、このまま消えちゃうの?


 「そんなのダメだよ!ダメ!」


 あたしは女の子に手を伸ばす。


 「もうこんなの止めよう?このままじゃ駄目だよ!」

 「松本さん!言葉が伝わるわけないだろ!?大体ここイギリスだぞ!」

 「だけど!こんなの……酷過ぎるよ」


 どうしよう涙が止まらない。

 きっとこの子、辛い目にあってるんだ。悪霊になるほど辛い目にあってる。なのにあたし何もできない。


 『拓也を助けたいんなら覚悟を決めなよ』


 悪霊を切り捨てたヴォラク君はこっちを向く。


 『こんな非日常でいつまでもお綺麗なままでいられる訳ないでしょ。救えない奴ってのは戦いの中では絶対に出てくるもんなんだ。殺さなきゃ前に進めない、止まれないんだよ。中途半端で綺麗なところだけ関わっていくってのは卑怯だと思うよ。本当に拓也を支えたいのなら、こんなのこれから当たり前になっていくんだ』


 目の前の事態を拓也は体験してきた?ヴォラク君達が斬っていったように拓也がギリシャの契約者を殺した。拓也はきっと殺したくなかったし、辛かったはず。人を殺すなんて想像すらできないことを拓也は仕方ないとはいえしてしまったんだから、なのにあたしはその間何してた?


 拓也が悪魔と戦ってるの知ってたのに、知ってたのにあたし……知らないふりしていつも通りに過ごしてた。助けたいなんて言って、中谷君や広瀬君みたいに根本から拓也を救おうとしなかった。自分が可愛かったんだ……もう戻れない。ここまで知って戻れない。


 理解したい、拓也のこと全部全部わかってあげたい!

 もう目は瞑らない。怖くたって逸らさない。何もできないけど、目を逸らすことだけはしない。幽霊が切り裂かれて悲鳴を上げるのをちゃんと受け止める。

怖くて足が震えるし、目をつぶりたくて仕方ないけど、もう逸らさない。ちゃんと現実を受け入れる。

 幽霊の一匹がヴォラク君とヴアルちゃんの攻撃をすり抜けて、あたしと中谷君に迫ってくる。


 「松本さん!さがって!」


 中谷君がバットを構える。

 幽霊が中谷君に襲いかかる。


 「中谷君!」

 「俺だってなあ、覚悟はできてんだよ!」


 中谷君は幽霊の攻撃をかわして、幽霊の頭におもいっきりバットをぶつけた。

 幽霊は悲鳴をあげて消えていく。中谷君が倒したんだ……

 中谷君はバットを握りしめ深呼吸をする。そして目を見開き、自分に言い聞かせるように声をあげた。


 「池上も広瀬も松本さんも俺が助けるんだ。俺にはヴォラクがいる、何も怖くない!」

 『……ほんっとーにお前はさいっこーの契約者だよ中谷』

 「きついけどやるしかない。逃げるわけにはいかねえんだ!」


 数分後、やっぱりヴォラク君とヴアルちゃんは強い。あっという間に悪霊をなぎ倒し、それぞれが最後の一体に手をかける。


 『これで終わり!』

 『さよなら』


 ヴォラク君が敵を切り裂き、ヴアルちゃんが爆発させて、全ての幽霊がいなくなった。


 「骨折れたな」

 「本当……」


 人間の姿に戻った二人があたし達に近寄ってくる。


 「中谷何人倒した?」

 「五人?くらい?」

 「上出来」

 「ん……」


 中谷君は先ほどまでの元気がない。そうだよね。幽霊といえど人を殺したんだもんね。でも立ち止まっていられない。自分が不幸なんて思いたくない。


 「これ間違いなくネクロマンサーの仕業よね?」

 「ああ、拓也達が心配だ。屋敷に行こう」


 あたしはまたヴアルちゃんと手をつなぐ。

 拓也のとこに行かなきゃ。きっと拓也はもっとつらい目に遭ってる。拓也を助けにいかなきゃ!大丈夫、あたしきっとまだ進める。自分にそう言い聞かせて、ヴアルちゃんと一緒に歩きだす。

 中谷君とヴォラク君は少し前を歩いている。


 「澪大丈夫?きついなら無理しなくていいよ?」

 「少し怖いけど平気」


 ヴアルちゃんは少し安心したようだった。

 大丈夫、一人じゃないから。


 あたし達は拓也と合流するために屋敷に向かって歩き出した。


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