第61話 死霊魔術の恐怖
「ひゃー真っ暗だ」
屋敷の中は真っ暗で、歩くだけで床がぎしぎし音を立てる。
指輪の光を頼りに、俺達は一歩一歩屋敷の中を歩いて行った。
61 死霊魔術の恐怖
「なんか怖いな。真っ暗だし……この屋敷かなり広いんじゃない?」
玄関からホールに出る。
ホールはすごく広く、ガラスの破片が散らばり、窓を覆っていたはずのカーテンはボロボロになり、床にはゴミが散乱している。この廃墟感が一層の恐怖と不安をあおる。
『そうですね。あの動画では部屋数もかなりの数ありそうでしたしね。まずは近場から行きましょうか』
『ああ。しかしやはり何か不気味なものを感じるな』
本当にねー。どこもかしこも不気味だよ。不気味じゃない場所探す方が難しいわ。寒いのと怖いので体中鳥肌立ちまくりだよー。セーレの服の袖を掴んでできるだけ怖さを紛らわそうとするけどやっぱ怖いものは怖い。
とりあえず一歩を踏み出した瞬間、後ろから軋む音と共にバタンと大きな音が響いた。
「なに!?なになになに!?何があったんだ!!?」
『拓也、落ち着きなさい!』
ストラスの羽で殴られて正気に戻る。
「なんなんだよ今の音……何の音だよー?」
「扉、閉められちゃったね」
セーレが乾いた笑いを浮かべて俺たちが入ったドアに指をさす。壊れて綺麗にしまるはずのない扉が綺麗に閉まっていた。これは、つまり、そういうことなんじゃないのか!?
「ぎゃ―――――!!出たぁ!閉じ込められた!どどど、どうすりゃいいんだよー!?もうここから出れねーじゃねーか!!」
『主、落ち着いてください!何も出てはいません!』
「いたた!拓也そんな力いっぱいしがみ付かないでよ!腕折れるって!」
『ドアが閉まっただけです!何を慌てているのですか!』
皆に諌められ、俺は半泣き状態で扉を見る。閉まっただけって、あの扉の壊れ方から風くらいじゃ閉まるはずがないよね!?誰かが閉めたんだよ意図的に!
セーレにしがみついて既に半泣きの俺を一瞥して、パイモンが扉に近づき引っ張るがビクともしない。
「うそ……」
セーレも俺の腕を放して、そこら辺に転がっていた椅子を思いっきり窓ガラスに投げつけるが、椅子が床に転がっただけで窓にはヒビすら入っていない。
これってやっぱ……
「出たんじゃねーか!!うわ――怖いぃ!!このまま一生出られないかも―――!」
『拓也!落ち着きなさい!まだ決まったわけではありません!』
『とりあえず屋敷を隅々まで調べるしかなくなったな』
面倒そうにパイモンはため息をついてサッサと先に進んでしまう。置いて行かないで!
「ま、待ってくれよぉ〜〜〜」
『主、セーレにしがみついといて下さい』
「セーレ……」
「俺の腕でよければどうぞ」
俺は震える手でセーレの服の袖を掴み、パイモンの後を追った。
***
澪side ―
「なんか村の中を歩くのも怖いね」
ヴアルちゃんの手をしっかり握って一歩一歩ゆっくりと前に進む。皆で解散した場所から広場まで結構な距離があるようで中谷君の懐中電灯とアプリのライトで足元を照らすけど、すこし心もとない。
時々つまずきながらあたし達は広場に向かった。
「うっわ~!廃墟~!こええ~!!」
ひぃ~と悲鳴を上げながらも中谷君のテンションは高い。もしかしてだけど、中谷君は怖くない?だとしたら本当に尊敬する。あたしは中谷君がいるおかげで何とかやっていけてるけど……やっぱり隣にいる人が怖がらないってすごく心強い。
広場についたあたしは何をしていいか分からず、その場に立ち尽くしたけど、中谷君はライトで辺りを照らしていく。ボロボロになった地面の間に雑草が生い茂り、看板などは錆びている。
「どこ行くんだよ」
ヴォラク君が急に中谷君の手を放して広場の中に進みだし、中谷君も慌てて後を付いて行く。少し先で立ち止まったヴォラク君に懐中電灯を当てて、中谷君が近づいて行く。
「おい、なにかあったんか?」
「少し不気味な感じがする。つーか眩しいから顔に照射すんなよ」
「あは、お前に後光さしてやろっか?」
「アホかお前」
ふざける中谷君を一言で吐き捨ててヴォラク君が何かを探っている中、あたしとヴアルちゃんは少し離れた場所で待機していた。ヴォラク君に相手にしてもらえなかった中谷君は一人で少し先に進んでいる。よくヴォラク君から離れられるな……あれだけ最初は怖いって言ってたのに絶対嘘だよー……
「あんなに入って行って大丈夫かなぁ。パイモンさんが怪しいって言ってた場所だよ。なんかすごく嫌な予感がするのに」
「大丈夫よーヴォラク強いもん。ゾンビが出ても追い払ってくれるよー。でも中谷は流石ね……まさかの反応に私が驚いちゃうわ。あそこまで底抜けに明るくて能天気な子って珍しいわよね」
本当にね。
幽霊が出たとしても中谷君は平気かもしれない。もはや幽霊と友達にすらなれそうな勢いだ。あたし絶対に悲鳴あげて倒れちゃう気がする。そんなあたし達に後ろから何かが近づいていることは気づかなかった。
「You caught!!(捕まえた!!)」
「きゃ――――!!!」
急に後ろに引っ張られ、何かに抱きかかえられる。
あたしの悲鳴に中谷君達がこっちに振りかえった
「出たわね化け物!」
ヴアルちゃんが指をあたしの後ろに突き立てて爆発音が起きる。でも音がしただけで、何かが爆発したわけじゃない。どうやらあたしを助けるための脅しだったみたい。
「Oh!!」
急に解放されて地面に膝をついたあたしをヴアルちゃんが支えてくれる。怖い!何が起こったの!?
ガタガタ震えるあたしの後ろから声が聞こえた。
「The ghost it was not.(あー幽霊じゃなかった)」
後ろを振り向くと、少し年上っぽい男の人がこっちを見ていた。中谷君が攻撃するように顔に懐中電灯を照射すると相手は眩しそうに目を細める。現地の人?英語話してるもんね。
「sorry. We the ghost came to catching.(ごめんなー。俺達幽霊を捕まえに来たんだけどさ)You made a mistake.(間違えちまったよ。こんなとこに俺ら以外に人いると思わなくてさ)」
青年は困ったように笑い、あたしから離れていく。軽い感じでごめんと謝られただけで背中を向けられて、なんだか納得いかない。
「The it is do it is not! (ごめんなさいじゃ済まないわよ!)You were surprised, probably will be!(驚いたでしょ!)」
ヴアルちゃんが男の人を強く非難している間に中谷君がこっちに駆け寄ってきた。
「松本さん大丈夫?怪我してない?」
「ご、ごめん……びっくりして少し腰が抜けて……」
「いや後ろから襲われたらビビるよな。歩けそう?無理そうだったら俺、おんぶするから」
「多分大丈夫。ヴアルちゃんがすぐに助けてくれたから」
中谷君が駆け寄ってきて、座り込んでしまったあたしを引きあげる。集中が切れたんだろうヴォラク君も不愉快そうに男の人達を睨みつけている
「悪魔がいるかもしれないってのに……度胸試しとか馬鹿だろこいつ等」
ヴォラク君、日本語通じないからってそんなはっきり。でも男の人はカメラを回している友達に向きなおった。
「From that sound of the coming you heard!?(それよりさっきの音聞いたかよ!?)Blast pronunciation did!(爆発音がしたぞ!)」
男の人達はあたしに軽く謝って、また走って行ってしまった。嵐のようにいきなり現れて消えていった現地のイギリス人たちに開いた口が塞がらない。
「ふん!馬鹿な男!女の子を驚かせて」
「あいつら早く出てかなくていいのかぁ」
「さあね。死んだら自己責任。俺達も早くここを調べよう」
自己責任って……あまりにも簡単に言ってしまうヴォラク君に苦笑い。あの人たちに何も起こらなければいいけど。
あたし達は誰もいない広場をまた調べることにした。
***
光太郎side ―
「ここが墓場?なんか土が盛られてるだけだけど……」
俺とシトリーはパイモンに言われたとおり、墓場に来た。でも墓石なんかなくて、ただ土が盛られただけの場所に出た。雑すぎね?ここ本当に墓地?
「モニュメントは別の場所にあるんだよ。この場所は発掘すらされてねえらしいな」
俺の足元に第一次世界大戦で死んだ人たちが埋まってると思うと身震いする。そんな俺を他所にシトリーはせわしなくキョロキョロと辺りを見回している。
「何してんの?」
「……やっぱここめちゃくちゃ死霊の臭いがするなぁ。恐らく後悔があって死に切れない奴が自縛霊になってんのかもな」
自縛霊!?幽霊ってことだよな!?
慌ててシトリーに飛び乗ってしがみつく。地面に足をつけることすら憚られる。この下に死体があって、幽霊がいっぱいいるって、もう歩くことすら怖い!
「今もいんのか!?いんのか!?」
「ちょいちょいちょい!重いわ!!何もできねーだろーが!」
そんな問題じゃねえ!俺の質問に答えんかい!幽霊が近くにいるってだけでめちゃくちゃ怖いじゃねーか!!
“Help me.(助けて)”
今何か声が聞こえた?何かの声が聞こえて、俺はシトリーに問いかける。
「シトリー今何か聞こえた?」
「あ?何も?」
“It is painful.please help me.(苦しい。誰か助けて)”
やっぱ聞き間違いじゃない!確実に何かが話しかけている!
あまりに小さい声で何を言っているかまでは分からないけど、幽霊がいる。それは間違いない!
「やっぱここ何かいるってぇ!!マジで早くここから離れよう!」
「来たばっかだろ。まだ何も調べてねえぞ」
シトリーはそこら辺に転がっていた角材で、土を掘り返しだした。マジで?まさか墓荒らしする気か!?
「何してんだよ!?」
「あ?死体堀り出そうと思って。死体見たらなんかわかるかもだろ」
「馬鹿!そんな罰当たりな事するなよ!それに掘るって何時間かかんだよ!」
「大丈夫。俺力強いから」
そういうことじゃなくてだなぁ!!
でもこいつは俺の言うことなんて聞きやしない。ザックザックと穴を掘っていく。
“Please stop.Above that please do not devastate.(止めて。それ以上荒らさないで)You already have been found in him.(君たちはもう見つかってるんだよ)”
何か声が聞こえた瞬間、俺の体は動かなくなった。これって金縛り?
動かない俺を不審に思ったのか、シトリーも俺に振り返る。
「おい、どうした?」
「動けないんだ。何か動けないんだよ!」
「……おい、何のつもりだ?」
シトリーが急にドスの利いた声を出す。
なんでそんなこと言われなきゃいけないんだよぉ……
「何のつもりって……俺はふざけてなんかない!マジで体動かないんだよぉ!!」
「お前じゃねーって。お前の後ろ、何か憑いてるぜ」
顔が真っ青になる。
違う意味で体ががちがちになって動けない。そして俺の後ろには動画で映っていたあの男の子がこちらを見つめていた。
***
拓也side ―
『ここはどうやら子供部屋の様ですね』
あの後、前に進むしかなくなった俺達はまず最初に一階のつきあたりの部屋から調べることにした。部屋の中には人形や玩具が床に散乱しており、人形は首が取れていたり、綿が出ていたりとかなりおぞましい。
「ここでフェリックスは遊んでたのかな?」
セーレが棚に置いてある写真立てを手に取る。
写真自体は風化して崩れており何が写っているか分からないけど、ここで幸せに暮らしていたんだったらやるせなくなる。
『あの動画の少年の残留思念があると思っていたが、どうやらここには感じないな』
「じゃあ出る?」
『そうしましょう。ここには何もありません』
よかった。ここから出られる、それが顔に出ていたようでストラスがジト目で俺を見ている。なんか人形とか怖くて、早くこっから抜け出してーよ。
『クスクス……』
部屋を出ようとしたその時、部屋の中から声がする。
慌てて振り返ったけど、そこには誰もいない。
『今、何かの笑い声が聞こえましたが』
どうやら俺の空耳じゃないらしい。
『迷い込んだ蟻が四匹……』
やっぱり気のせいじゃない!なんなんだよ!どっから声が聞こえんだよ!?
セーレとパイモンも身構える。すると、首のとれた人形が声を発した。
『蟻は勇敢。怖いもの知らずに進みだす。前に進むのを躊躇わない』
「うわあぁぁああぁああぁあぁぁぁ!!人形が!人形がぁ!!!」
「拓也、落ち着いて!」
セーレが俺の背を軽く叩くけど、こんなの落ち着ける訳ないじゃん!!セーレに全身の力でしがみつき、顔をそらす。その人形に合せるように、ほかの玩具も口を動かす。兵隊の玩具、熊のぬいぐるみ、もう頭がパンクしそうだ。
『進み過ぎた蟻は捕まえられる。そこに待つのは蜘蛛の糸』
『勇敢な蟻はそれでも進む。蜘蛛の糸を突き抜けるように』
『それを蜘蛛は逃がさない。一匹一匹仕留めていく』
『そして蟻は食べられる。蟻の死骸は動きだす。自分の仲間を道連れに』
『蟻の魂連れていく。蜘蛛が地獄に連れていく』
正直、こんな訳わからない怖い事ばかり言われるのならぶっちゃけ核心を一言で言ってほしい。遠回りなこと言うから怖いんだよ!!
『悪魔、関与しているで決定ですね。良かったですね主、悪魔の仕業であって超常現象ではなさそうです』
「いや、全然よくないんだけど」
パイモン、それジョークのつもり?全く笑えないんだけど。
『一匹一匹仕留めていく、と言いましたね。恐らく悪魔は確実に一人ずつ私たちを殺すつもりでしょう』
『俺たちの死体をゾンビ化して、さらに光太郎と中谷達も殺そうと考えてるみたいだな』
『殺し方まで忠告してくれるなんて随分親切じゃないか』
だからパイモンさー!!なんでお前そんな余裕なんだよ!!
でも悪魔は多分この屋敷のどこかにいるで間違いないんだよな?じゃあ光太郎たちも呼び寄せて皆で向かうべきだ。
「なあ、やっぱ何とかして外に出よう?これはマジで危ないって」
『しかし扉は閉められています。光太郎たちが見つけてくれない限りは……』
「俺……連絡する!」
携帯の電源をつけると、画面には圏外の文字が入っている。海外だから圏外なのは当たり前だけど、データローミングしてるんだけど!?可笑しいだろ!
「はぁ!なんで!?さっきは連絡取れる環境だったじゃん!」
「さっきは村の入り口だった。おそらく離れた村からの電波が届いてたんだろう。でもここは村の奥、エリア外なのかもね」
そんな……じゃあ……
『自力でここを出るしかありませんね』
『拓也、構えときなさい。私たちとはぐれたらお終いですよ』
「う、うん」
***
光太郎side ―
「Who are you? Release him.(なんだおめぇ。そいつを放せ)」
シトリーがそう言った瞬間、その子は俺から離れたのか急に体が動くようになった俺はシトリーの後ろに隠れこむ。
“Returning quickly.(早く帰って)Unless it makes quick, you kill.(じゃなきゃあいつに殺される)”
「シトリー、この子あの動画の子だよ」
「わかってる。こいつ俺たちに警告してやがる」
「警告?」
「早く出て行かなきゃ殺されるってよ」
その言葉を聞いて、恐る恐る少年に目をやる。足がなく、緑色に発光している姿は動画のままだ。本当に幽霊なんだ……
怖くて足がすくえてしまう。しかし男の子は悲しそうに顔を俯かせたまま姿を消した。
「消えた……」
「言いたいだけ言って消えるなんてな……聞きたいことがあったのによ」
シトリーは悔しそうに呟き、頭を掻いて、また角材で穴を掘り出す。あの男の子の忠告をガン無視する光景に、流石に怖くなって服の袖を掴んだ。
「もう止めようって。絶対何かいるよ」
「何かいるのはわかってんだよ。その姿を確かめに来たんだろ?」
風がザザザと通り過ぎていく。
その時、何かが聞こえてきた。
『蟻の魂連れていく。蜘蛛が地獄に連れていく』
「シトリー!」
「何か聞こえたな」
『迷い込んだは蟻地獄。そこから二度と抜け出せない』
『砂に埋もれて死んでいく。か弱い蟻達死んでいく』
何なんだよ!?
その瞬間何かに足を掴まれて、その場に倒れこむ。そこには土から顔と腕だけを出したゾンビのような姿。
「わああぁぁああぁぁぁあああ!!」
俺は竹刀でその手を叩きつけ、ゾンビが手を離した隙に俺はシトリーの後ろに駆け込んだ。
「なんだ!?……おい!掴まれ!」
「え?わぁ!!」
シトリーが大声をあげたと思うと、急に木に飛びうつった。俺もシトリーの肩を掴んで、何とか一緒に木に飛びうつり、地上を見下ろすと、土からは次々とゾンビがあふれ出ていた。
「何なんだよこれ……」
「こいつら……もうすでにネクロマンシーでゾンビ化されてんだよ」
『二度と出れぬは蟻地獄。か弱い蟻達死んでいく』
***
澪side ―
「広場には何もないな」
ヴォラク君が最後にぐるりと辺りを見回して戻ってくる。
「なんか嫌な予感はするんだけど、手掛かりはないんだよなー」
嬉しいような悲しいような……何か手掛かりがあっても怖いけど。これじゃ拓也の役に立てない。
あたし達はそのまま集会所まで移動した。
集会所に着いて、中に入った瞬間に泣き声が聞こえた。何?誰の声なの?
「ヴアルちゃん、声が聞こえない?」
「声?」
“Help me.Please.”
「やっぱり……何か聞こえる!」
「なに?何が聞こえるの?」
あたしはヴアルちゃんに抱きついて、周りを見渡す。
ヴアルちゃんもあたしにつられて、辺りをきょろきょろと見渡した。
「なにもいないわよー」
「でも確かに……」
「あそこ」
中谷君が指差した先には一人の女の子の姿。
でも女の子には足がなかった。
「本物……?」
「まじか!?」
お化けが出るって話は聞いていたし、覚悟もしていたけど、実際に目の当たりにすると怖くて足が震えて座り込んでしまう。
少女は泣きながらゆっくり近づいてくる。
“My mother was taken to the hell.(お母さん連れてかれちゃった)”
一歩一歩近づく幽霊に中谷君が怪訝そうに表情を歪める。でも小声でヴォラク君になんて言っているのかと聞いてヴォラク君が訳している。その間にも女の子はどんどんあたし達に近づいてくる。
“I do not want to go to the hell.(地獄に行きたくない)Instead, you must go there.(あんたたちが代わりに行けばいい)”
女の子がそう呟いた瞬間、女の子と同じ足のない幽霊がたくさん出てきた。
“It envies it. It is hateful(羨ましい憎らしい)You can walk freely.(自由に歩けるお前たちが)We cannot move by being bound.(私達は縛られて動けない)You should also taste the same suffering.(お前達も同じ苦しみを味わうべきだ)Let's die together.(一緒に逝きましょう)”
『こいつら悪霊化してやがる』
「あ、悪霊!?普通の幽霊と見分けつかねえ!」
『見分けって……中谷幽霊初観測でしょ。見分けられるほど見てないじゃん』
ヴォラク君が悪魔の姿に変わり、中谷君も震える手でバットを構える。
あたしはどうすれば……?震えて動けない。あたしがしっかりしなきゃ、ヴアルちゃんの足手まといになるのに。改めて直面した悪魔の恐ろしさに自分の体じゃないように言うことをきかない。拓也はいつもこんな怖い目に遭ってたの?
『哀れな蟻は囲まれる』
『一匹一匹殺される』
『蜘蛛は全てお見通し』
『悪霊漂う死の丘で、蟻達無残に殺される』
『蟻の魂連れていく。蜘蛛が地獄に連れていく』
『迷い混んだら帰れない』
『蜘蛛の糸からは抜け出せない』