表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/207

第60話 ヴィクトリアハウス

 「これは悪魔の可能性がありますね」


 動画を見終わったパイモンの一言に、俺達は背筋が凍りついた。否定してほしかった……おわった。

 俺がここに行かなくちゃいけないフラグが立ってしまった。



 60 ヴィクトリアハウス



 「なぁ本当に?見間違いじゃないのか?」

 「五分五分ですね。なぜそこまで食い下がるんです?」

 『幽霊が怖いらしいです』

 「ああ、そういうことですか。霊など下等生物です。我々悪魔の足元にも及ばない。恐れる必要なんてありません」


 次の日の放課後、嫌だと言ってしぶる光太郎を引きずって俺は学校の帰りにマンションに寄った。マンションにはストラスが既に待機していて、皆でパソコンを覗き込んでいた。そして動画を見終わったパイモンの決定的な一言で今に至る。

 パイモンは俺が何で食い下がるかの理由を知って、見当違いな答えを出してくるし。いや、そりゃお前らは怖くないだろうけど……そういう問題じゃないんだよ。


 「俺、今回はついて行かないからな」


 まさかの噂の動画に悪魔が関与していると言う発言を聞いて、顔を青ざめさせて俺に言い放つ光太郎。なんて奴なんだ!そんな危険な場所に親友一人で放り込むつもりか!?


 「お前薄情な奴だな!」

 「うるせえ!俺は霊とかそういうのが一番苦手なんだ!」

 「俺だって得意じゃねぇよ!!」


 俺と光太郎の言いあいにストラスがため息をつく。


 『しかし拓也、早くこの霊たちを開放してやらねば、この霊たちはもう悪霊化してしまいます』

 「悪霊化?」

 「もうしてんじゃね?」


 チョコを食べながら険しい顔でシトリーが画面を覗き込んだ。


 「この動画の投稿日、一週間以上前だろ。実際はもっと前からこういう状態だったはずだ。となると、もうこいつらは悪霊化してると見て間違いないな」

 「悪霊化って何なんだよ……」


 恐ろしい単語にオウム返ししかできない。幽霊でさえ怖いのに、悪霊って多分もっとやばい奴だ。


 「死んだ人間の魂を無理やり下界に縛り付けるんだ。成仏したい霊たちにとっちゃ憎しみが募ってく一方だろ。その憎しみが大きくなったら悪霊になるんだ。他の人間も道連れにしようって動き出しちまうんだよ」

 「何だよそれ、恐すぎるだろ」

 「この件、もし悪魔だったら魂を地獄に持ってこうとはしないのかな?脅かすだけで無事に撮影者を帰すなんて害はなさそうだけどね」


 疑問に思ったセーレがシトリーに問いかける。


 「さあなー俺は事件の首謀者じゃねえし分かんねえな。でもボティスも言ってたろ。魂は感情が詰まってるほうがいいって。悪霊化するほどだぞ。魂の中に詰まってる憎しみは相当なもんだ。それ目当てなのかもな」

 「むごいな……」


 うん、本当に……きっとあの男の子は辛くて仕方ないのかな?助けてほしいって思ってるのかもしれない。死んだ後にまで首輪かけられるとか冗談じゃないって思うだろうな。そう思うと、いたたまれなくなるが、やっぱそれ以上に恐い。

 黙っていたヴアルも話に割り込んでくる。


 「パイモン、この幽霊ってネクロマンシーで幽霊化したってことなの?」

 「そうなるだろうな」

 「それって近くに墓地とかもあるんじゃないの?ネクロマンシーが起こる場所って墓地とか相場が決まってるでしょ?」

 「調べてみるか」


 パイモンはパソコンでヴィクトリアハウスのことを調べだした。

 昨日の俺とまったく同じ質問を光太郎がヴアルに問いかける。


 「ネクロマンシーって何なんだ?」

 「死霊魔術よ。人間もよく映画とかで名前使うでしょ?ゾンビとかリッチとか」

 「……ゾンビ系なの?」

 「うん。ゾンビ系」

 「バイオハザードかよ」


 光太郎が「あはは」と、乾いた笑いを浮かべて、ソファに力なく腰掛ける。俺達の脱力具合が面白いのか、ヴォラクがその光景を見て笑ってる。でもこっちは笑えない、お前も笑い事じゃないからね。なんでそんな呑気でいられるんだよ。


 「出ましたね」

 『やはりヴアルの言う通りですか?』

 「ああ。ここは元々、1914〜1918年の第一次世界大戦によって殉職した兵士の墓場だったんだそうだ」

 「世界大戦……」


 教科書でしか見たことのない単語が出てきてなんだか現実離れしたようにすら感じる。


 「この戦争でのイギリス兵の犠牲者は九十一万人。だがこの墓場の兵士達は身元の確認ができない奴ばかりだそうだ。そのため、野ざらしに捨てられたという感じだな。埋めただけで、墓とわかる看板も何も置いていないらしい。今は墓場近郊の村にモニュメントが立っているが、当時は政府の独断で埋めたため、隠蔽され国民の中にはこのことを知らないでいる人間がほとんどだったそうだ。第一次世界大戦が終わり、何も知らない人間がこの墓の近くに家を建てていく。そのうち村になったがこの村は人が住み始めてからすぐに怪奇現象は起こってたそうだな。その中でもヴィクトリアハウスは特に有名。そういった所だろう」


 「じゃあやっぱゾンビとかもいるのかしら……こわぁい」

 「ヴィクトリアハウスのことを恐れて、村人達はだんだん村から離れて行き、今じゃこの辺り一帯に人は住んでいないようだ。住民は少し離れた場所に集落を作り、今に至ってるようだな」


 それってめちゃくちゃ範囲広くないか?だって屋敷にその近くの家も全部そうだって可能性あんだろ?ちょー恐いじゃん!!!

 俺が震えあがっている間にもパイモンはパソコンでヴィクトリアハウスのことを調べていく。


 「パイモン、何か他にはわかったのか?」

 「ヴィクトリアハウスのヴィクトリア・グレンという女性は元々は富豪の娘みたいですね」

 「富豪の?」


 「ええ。彼女は1939〜1945年の第2次世界大戦でイギリス軍第十二部隊三小隊隊長「タディアス・グレン」の妻らしいです。ヴィクトリア自身も父親「ファーガス・グラハム」は武器商人みたいですしね。子供も生まれて、比較的幸せな生活を送っていたみたいですね。ヴィクトリアは結婚した際、例の村に夫と引っ越しています。ですがその途端にタディアス・グレンが戦死、ファーガス・グラハムも事業を拡大しすぎて失脚、一気に幸せな生活とは程遠い生活になってしまいます。ファーガスも自殺。そのショックからヴィクトリアの母「マーサ・グラハム」も後を追うように亡くなっています。そして最愛の一人息子「フェリックス・グレン」も六歳という若さで謎の突然死、独り身になったヴィクトリアもその数年後に自殺しています」


 「そんなんじゃ幽霊になったって言っても不思議じゃねーじゃん」


 光太郎は青ざめて、鳥肌を消すように腕をさする。映画とかに使われそうな設定だ。


 『しかしどうしましょうか?その話が本当ならば、調べに行く必要がありますね』

 「夜中にな」


 夜中!!??なんだってそんな一番向こうが活発になりそうな時間帯に!?

 恐怖がさらに倍増するじゃんか!昼間ならまだマシかもしれないのに!!


 「な、なんで夜中なの?」

 「ネクロマンシーの能力が最大に活性化されるのは夜です。昼間では調べたところで何もわかりませんよ」


 あ、そういや上野たちも夜中しか動かないって言ってた気がする。

 ってことは夜に調べに行かなきゃ行けないってことかよ!?


 「度胸試しだな」

 「拓也も動画撮っとけばぁ?」


 シトリーとヴォラクが俺を茶化すが、それに突っ込みを入れる気力も持たない。

 だって幽霊屋敷に調べに行くなんて……


 「今回はかなり範囲も広い。光太郎、お前と中谷と澪も連れて行く」

 「え!!?」


 突然話を振られた光太郎も声が裏返る。え!?ってお前反応可笑しいだろ!自分は関係ないとか思ってたのかよ!しかも澪って!


 「澪もってどういうことだよパイモン!」

 「今回は屋敷とその庭、更にその周辺の廃墟になった家もターゲットに入っています。早く事を済ませるためにも人手は多いほうがいいですからね」

 「それと澪が何の関係があるんだよ!?」

 「澪はヴアルの契約者です。ヴアルが戦力になる以上、契約者の澪も連れて行きます」


 だからって!澪を危険な目にさらすのは勘弁してほしい。あんなに動画だけで怖がってたんだ、現地調査なんて冗談じゃない!


 「なぁ、なんで松本さんも連れてくんだ?戦えないんだぞ。俺もだけど」


 光太郎が俺の意見にフォローを入れる。てか何気に自分も戦えないとか言うな。お前は絶対に連れて行くからな。でも光太郎の言うことは一理ある。今まで疑問にすら思わなかったけど、悪魔を倒すのに俺と光太郎は戦力にならないんだし、悪魔たちだけで行ってくれたりできないんだろうか?パイモンはため息をつきながら、ストラスに振り返る。


 「お前たち、契約時に何も説明しなさすぎじゃないか?人間の世界なら詐欺レベルだぞ」

 『基本的に離れないから平気だと思っていました』

 「俺はストラスが言ってるって思ってたし~」

 「俺も、ストラスとヴォラク二人がいて知らないって思ってなくて」

 「つーか当たり前の常識すぎて説明するとかいう考えすらなかったわ」

 「その話は私には関係のない事だから!」

 「……なんだかこのやりとりにデジャブを感じるんだけど」


 以前にも見たぞこんなやり取り。こうやって俺たちに説明をしていないのを全員がそれぞれに擦り付け合っていた。結局しわ寄せは大体パイモンに来てるんだけどな。今回はパイモンが責任をもってストラスに説明しろと言い放ち、ポテトを食べていたストラスは面倒そうに食べるのを止めてこちらに来た。


 『いいですか?契約石を契約者が持っている以上、契約者からのエネルギー供給を我々は受けている身です。その依り代になっているのが契約石。人間のエネルギーを直接受け入れるのは私たち悪魔には毒です。それを緩和しているのが契約石です。契約石には私たち悪魔のエネルギーも蓄積されていて、契約者のエネルギーと混ざることで濃度を下げる役目を持っています。しかし一定の距離を離れると契約石からエネルギーを供給することが不可能になります。これは単純に距離の問題です。イギリスに数時間いる可能性を考えると、澪がいないとヴアルが動けません』


 そ、そんなルールあったんだ。俺聞いたこともなかったんだけど……だからヴォラクが行きたがるのをパイモンは止めてたんだ。でも前回の名古屋に行くときも渋っていたし、本当に近くにいないとだめなのかな。


 「その範囲ってどれくらい?」

 『そうですね……東京―山口間程度と考えていいと思います。そのくらいの距離なら契約者と離れていても問題ありません』


 東京―山口間……結構距離あるなと思ったけど、世界規模で考えたら全然だ。その距離ならイギリスは確かに一発アウトだろう。でもヴォラクはロシアにだって行けていたし、意味が分からない。


 「ヴォラクは中谷いない時、一緒にロシアに行ったぞ」

 『ヴォラクは中谷との契約の期間が三ヶ月は過ぎていますね。しかもその内一ヶ月間は戦うこともしなかった。その間も契約石は契約者からエネルギーを採取し続けています。契約者に支障がきたさない程度にですが。そのエネルギーを全て自らの体内に吸収してロシアに行ったのです。だから単独で行動することができたのです』

 「そうなのかよヴォラク?」

 

 俺の問いかけにヴォラクは頷く。


 「そういうこと。でもそのせいで契約石に溜まったエネルギー使い果たしちゃった。悪魔になってヴアルとも戦ったしね。だから今は俺も中谷いなきゃ行動できないの」

 「なんかごめんねぇヴォラク」

 「謝るくらいなら事件起こすなよ。馬鹿女」

 「馬鹿とは何よ!?馬鹿とは!」


 ヴアルが突っかかっていくのを横目で流して、パイモンは納得したかという感じで俺達に振り返る。

 だから溝部さんに会いに行く時、ヴォラクを連れていくのを渋ったのか……でも納得してる場合じゃない。


 「納得していただけましたね?心配しなくてもヴアルがいます。澪は大丈夫でしょう」


 いやいやしてないし。なんだよ大丈夫って……確信もないくせに。

 パイモンは言いたいことだけ言って、またパソコンに視線を戻す。


 「日本との時差は-九時間ですか。朝の九時以降の行動になりますね」

 「学校あるから無理だぞ」

 「そうですね。では今週の土曜にしましょう。その間までに英気を養っておいてください」


 どうなんだよ一体……


 ***


 その事を俺は次の日に澪に打ち明けた。

 澪は恐がって最初は首を横に振ったけど、ストラスの説得もあって最終的には頷いてくれた。


 「澪、恐いなら無理しなくていいんだぞ」

 「平気……じゃないけど、頑張る。拓也の後ろに隠れてるね」


 苦笑いして答える澪に力強く頷けないのが情けない。俺の後ろに隠れたところで何の役にも立たないだろう。それでも何とか澪を安心させたくて、自分なりに返事をする。


 「でも澪は俺が守るから」


 思った以上に声が震えて自分でも情けないと思う。澪も頼りないって思ってるだろうな。俺がこの声で言われたら逆に不安になっちまう。

 澪は「拓也、声震えてる」と苦笑いだ。


 もっと強くならないと。漫画の主人公みたいに格好いいことを言っても様になるようにしないと。でも俺は漫画の主人公みたいに簡単に割り切れなくて……いつまで経っても戦うのが恐くてストラスたちに頼ってばっかで……そのくせ、誰かが同じ目に逢うのはすごく嫌で。いろんな事がグルグル回って、矛盾して、澪を守らなきゃ。そう思いながらも結局何もできないんだろうな。


 「あたし大丈夫だからね」

 

 できる範囲で頑張らないといけない。これ以上情けない姿はさらせない。


 ***


 中谷side ―


 「え?お化け屋敷に?」

 「なんだお前、あいつらから聞いてなかったのか?」


 その日、部活がミーティングだけだった俺は剣の稽古がてらにマンションに寄っていて、休憩している時にお化け屋敷の話をヴォラクから聞いた。池上や広瀬からは特に何も聞いておらず、知らないと答えたら、シトリーが少しビックリしたように顔を上げる。次の日に言おうと思ってたのかな?


 「うん、聞いてなかった。ってかお化け屋敷ってあそこだろ?あの動画の」

 「おう。よく知ってんな」

 「友達が言ってたからさ。俺動画見たよ。すごかった。心霊スポット巡りだろ?俺こういうの怖いもの見たさで行っちゃうんだよな!」

 「さっすが俺の契約者様だね!拓也や光太郎とは違うよ!そんで中谷は土曜いけるよね?多分朝の九時以降に行くんだって」

 「行ける行ける!」

 「決まり!まあ部活あっても休ませる気だったからね」


 強引だなあ……行って見たかったからいいけど。もし本当にお化け見たりしたどうしよう。絶対怖いよな。でもみんなでいれば怖くないだろう。

 今回こそは悪魔を倒してみんなから褒めてもらいたい。バットをぶんぶん振り回して勢いだけはあることを伝える。


 「あー俺も今回は役に立てるかなぁ」

 「雑魚くらいなら一匹くらい倒せるかもよ」


 一匹かい。まぁ倒せるだけいいよな。


 ***


 拓也side ―


 『拓也、もう眠りなさい。明日は早いですよ』


 金曜日、ベッドの上でストラスが眠そうに声をかける。

 今の時刻は夜の二時、そう言われるのも当然だ。漫画を読んでいた視線をずらし、ベッドに転がっているストラスに返事をする。


 「わかってるよ。でも恐いよな。お化け屋敷とか……」

 『心配せずとも我々もいます。安心を』

 「澪はどうすんだろ」

 『澪にはヴアルがついています。大丈夫でしょう』


 ストラスはそう言ったけど、心配で眠れなかった。あと数時間後、眠らなきゃ、起きれなかったらどうしよう。

 でも俺ってすごい。その後の記憶まったくないんだからさ。ストラスに叩き起こされるまで、俺は眠りから覚めることはなかった。


 ***


 『まったく……一体いつまで寝るつもりだったのですか?』


 左からストラスの呆れた声が聞こえる。横で一緒に走っている澪は何も言わずに、少しだけ笑みを浮かべてその光景を眺めていた。その言葉に言い返せない俺は、黙ってマンションまで走っていた。今日も外は寒い。雪は降ってないけど、それでも気温は最高が三度って言ってた。こんな中、しかも夜にお化け屋敷に行くとか体の芯まで冷えそうだよ。


 マンションには全員揃っていて俺達が最後だった。竹刀を持って光太郎が笑う。


 「おせーよ拓也」

 「悪い。寝坊した」

 「緊張感ねーなぁ」


 セーレはもうジェダイトを待機させていた。

 でも今回は大人数らしくいっぺんには運べないらしい。


 『この大人数は一度には無理だから、数回に分けて連れてくよ』


 俺とストラス、パイモンが先にジェダイトに跨り、セーレの掛け声で空に舞い上がる。

 もう数分で幽霊屋敷に着く。


 ***


 「ここがそうなの……か?」


 ジェダイトから降りた俺は当たりを見渡す。なんかめちゃくちゃ恐いんですけど!老朽化した家が立ち並んで、蔦が家に張り付いている。刈られていない雑草は生い茂り、こんな夜の中では外灯のないこの場所ではまっすぐ歩くことさえ難しい。


 『じゃあ俺は光太郎たちを連れてくるから』


 セーレはそう言って、ジェダイトと共に上空に舞い上がる。

 あいつも大変だな。


 十分後、光太郎たちも辿り着き、本格的に村の中に入ることにした。

 しかしパイモンがそれを止めた。


 「今回かなりの範囲になる。四つに分かれるか」

 「四つって?」

 「一つは主、あなたと私達。二つ目は光太郎とシトリー、三つ目は中谷とヴォラク、最後に澪とヴアルです。場所もそれぞれ別々の場所を調べましょう」


 ちょ……澪とヴアル二人って危なくないか!?

 そんな中、中谷の大声で視線が中谷に向く。


 「無理だ!ヴォラクと一緒とかマジでこえーよ!見た目も子供で頭脳も子供だぞ!?誰か一人は俺よりもガタイいい奴いないとしがみつく相手もいねーよ!」

 「それどういう意味だよコラ!」


 ヴォラクが中谷の足を蹴りつける。中谷は足を痛がりながらも主張は変えずにヴォラクの頭にげんこつをかます。でもやっぱり見た目が子供であるヴォラクやヴアルと二人きりが頼りないっていうのは仕方のない話なのかもしれない。


 「あの……あたしも二人っきりは恐い、です……」

 「そーよー。か弱い女の子二人で行かすつもり!?」

 「澪はともかく、お前はか弱くないだろう」

 「何ですって!?パイモンもう一回言ってみなさいよ!」


 でも確かに澪は危ないよな。ヴアルだって悪魔だけど女の子だしさ。


 「中谷はともかく、やっぱ澪はあぶねーよ。二人で行かすのってさ」

 「しかし調べたい所もちょうど四か所ありますし……」

 「澪もヴアルも女の子だぞ?危険な目には遭わしたくないじゃんか」

 「だよねー!拓也かっこいい!」

 「えー池上ー俺もフォローしろよー。俺はかよわい男の子だぞー」


 ヴアルが足元に飛びついてくる。俺はよろめきながらもパイモンに頼み込んだ。

 中谷はあえて無視。


 「わかりました。じゃあ澪、お前は中谷と一緒に行け。それでいいだろ」


 いいんだろうけど何だか違う気がする……

 案の定中谷がまた反発した。


 「俺は池上か広瀬と行きたいんだよー!シトリーとかセーレがいるからなんか安心じゃん!じゃあパイモン俺らと一緒に来てよ!」

 「俺がお前について行ったらストラスとセーレだけで誰が主を守るんだ……」

 「じゃあヴォラクとトレードしていいからー!」

 「お前!そういうこと言っちゃうの!?今ので俺とお前の信頼関係崩れたよ!?」

 「あたしもできれば大人の人が一緒のほうが……」

 「澪ちゃん!なら俺と一緒に行ってもいいんだぜー♪」


 ああなんかもうぐじゃぐじゃだ!中谷はいまだに騒ぎ続け、トレード提案されたヴォラクが顔を真っ赤にして怒っている。確かに若干ヴォラクが可哀想だ。中谷の悪気がないだけに。

 しかもどさくさに紛れてシトリーが澪に腕を伸ばすため、その手を払いのけた俺との間に火花が散る。そのにらみ合いも数秒間続いただけでパイモンに後ろから蹴りを入れられてシトリーがよろめく。


 「駄目だ。お前ほど当てにならない奴はいない。澪、中谷、ヴォラクにしがみついとけ。見た目に頼りなくても力は十分だ」

 「……わかりました」

 「なんで俺がこんなに言われなきゃなんないのさ」


 ヴォラクはブーブー言ってる。

 でも本当に大丈夫なのか?


 『心配要りませんよ。ヴォラクもヴアルも強いですから』


 ストラスが小声で安心させようとするが、いまいち安心できない。みんなで一緒に回るもんだと思ってたから、こんなバラバラで行動するなんて……


 「とりあえず三つに分かれたな。俺たちが調べる場所は四つ。墓場、それから集会所、村の広場、最後にヴィクトリアハウス。墓場は光太郎、シトリーお前達で頼む」

 「頑張るよ」

 「一番嫌な場所指名してきたなオメー」

 「村の広場と集会所は中谷と澪、お前達だ」

 「は、はい」

 「墓場じゃないだけましか……」

 「ヴィクトリアハウスは俺達が行こう。主、明かりを頼みますよ」

 「あ、うん」


 パイモンは懐中電灯を中谷に投げる。


 「懐中電灯?」

 「光太郎はちゃんと持ってきていた。お前は持ってないだろう」

 「スマホのライトでいいって思ってたわ。あ、松本さんは?」

 「あたしも持ってないの。ごめんね」

 「じゃあこれ借りるよ」


 中谷はライトをつけて足場を照らしつつも、なんだか頬が紅潮している。こいつ、あれだけ騒いでおきながらもしかして少しワクワクしてないか?中谷って案外ホラーとかパニック系好きだもんな。でも自分の身に降りかかってもこのテンションでいられるなんて尊敬すらしてしまう。

 そんな中谷と光太郎にストラスが言葉を投げかける。


 『何かあったら拓也の携帯に連絡をするのですよ』


 ストラスの言葉に頷いた俺達は別々の場所に向かった。光太郎はやっぱ幽霊が恐いのか、シトリーの服の袖を掴んでおり、うざそうにしながらもシトリーが腕を振りほどかないのは優しい所だ。

 光太郎たちは墓地へ。中谷はヴォラクと、澪はヴアルと手を繋いで、広場に向かっていく。

 そしてストラスとセーレとパイモンが俺が歩き出すのを待っている。


 『拓也、我々も行きましょう』

 「うん……ストラス、絶対に俺から離れるなよ」

 『貴方は一人になるとパニックを起こすでしょう?わかっていますよ』


 わかってるならいいや。

 パイモンは剣を抜いて既に臨戦態勢だ。

 俺も浄化の剣を手に持つ。



 マタ迷イコンダ愚カナ者タチ……ソノ決意ヲ恐怖ニ変エテ差シ上ゲル……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ