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第54話 愛か死か

 「やはり悪魔はヴアルと考えて間違いないだろうな」


 情報をまとめて出た結論に俺達全員が頷いた。そのアクセサリー屋にヴアルという悪魔がいるだろうということも。ヴアルか……愛に飢えた殺戮者に俺達は今日会いに行く。



 54 愛か死か



 「じゃあ犯人はヴアルって奴なのか?」


 放課後、スポーツバッグを持った中谷が悪魔の詳細を聞いて首をかしげる。名前だけ聞いても分かんないよな。思った以上に早く悪魔の正体が割れて、練習試合前の中谷は部活を休むことが許されず悔しそうにしている。

 携帯でヴアルを検索し、どういった悪魔かを調べている。


 「ああ、ストラスが言うにはな。とりあえず今日行ってみるつもりだけど」

 「ロシアめっちゃ良かったぞ!これ写真な」


 光太郎がカメラで撮った写真を中谷に見せる。観光名所が綺麗に写されており迫力満点だ。さすがいいカメラ使ってるだけある。俺の携帯で撮ったやつとは写りが違う。中谷も海外の写真に目を輝かせている。


 「うお!いいなー。俺も今度から写真とろ。んで、ここすごい所?」


 相変わらず中谷は天然だ。すごくいいリアクションをしながらも場所は分からないらしい。世界遺産だというと、さらに目を輝かせて羨ましいを連呼する。

 お前ら、こんな大変な時に写真撮ってる場合かい。


 「はあ……俺も付いて行きたいけど部活がなあー。ヴォラクは連れてっていいからな」

 「しょうがねーよ。こればっかりは。あんがと」


 俺達は中谷に別れを告げ、一度自宅に戻り準備をする。理由は日本より遥かに寒いロシア、自分が持っているできるだけ温かい服に着替えて行くからだ。家に帰り着いて早速準備をする。


 「んーこれでいいか」


 制服を脱ぎすて、できるだけあったかそうな服を着こんでいく。若いころ登山が趣味だった父さんの登山グッズを借りて着込む。さすが専用のダウンと手袋はすごく温かい。その下にヒートテックを二枚、ポロシャツ一枚、更にセーターを一枚、マフラー巻いて準備は完璧。普段の二倍は膨れている俺を見ていたストラスは若干呆れている。


 『それは着こみ過ぎではないのですか?』

 「馬鹿。お前は毛むくじゃらだから分かんねーんだよ」

 『失礼ですね』


 ストラスはブツブツ小言を呟き続ける。機嫌損ねちゃったけどいいや、その内よくなるだろ。大体日本とロシアじゃ寒さが違うんだから、このくらい着こまないとな。

 俺はストラスを肩に乗せ、家を出た。


 ***


 「やっぱロシアは寒い」


 マンションに行ってからすぐに向かったロシアは相変わらず雪が積もってるし寒いし、どうしようもない。あれだけ着込んでも耐えられる寒さではなく、どうしても猫背になってしまう。

 とりあえず俺達は昨日言っていたアクセサリー屋に向かう事にした。


 「まだ朝なのに人いるもんだなぁ」


 今の時刻はロシアで十一時二十分。平日なのにもかかわらず、店内には客がいた。俺には分からないけど、ほかの奴らは怪しいと感じるらしく、険しい表情でアクセサリーを見ている。こんな場所で殺伐とアクセサリーを見る男たちとかホラー以外の何でもない。隣にいる女の人がチラチラとこちらを見ているのを感じる。

 シトリーは魔術を感じたっていうアクセサリーをパイモン達に手に取るように促す。アクセサリーを持ったパイモンがまじまじとそれを見つめて呟く。


 「確かに感じるな」


 やっぱり、何かあるのは確定なんだ。俺も手伝えたらいいけど何もわからないし、周りの女性客の視線が痛くて逃げるように店の外に出る。凍えるような外に出た瞬間、店の中に戻りたくなったけど、あんまり出入りするのも気まずくて、仕方なく店の前で待つことにした。手のひらに息を吐きながら街並みや歩いている人を観察する。


 「やっぱすごいなぁロシア」


 思わず呆けてしまった声。だってロシアにいんだぞ?さっきまで日本にいたのに。やっぱ環境差についていけない。女の人も背たけーし、マジ美人だし、看板見たことない文字だし、本当に外国に来たんだな。

 しかし今回の悪魔が悪い奴なのはわかるけど、恋愛成就させてくれるんだろ?能力だけでは悪い奴ではなさそうなのに、別れた罰が「死」だなんて、あんまりな話だ。しゃがんで手に息を吐いている俺の頭上に影が落ちる。


 「Вы делали, оно?(何してるの?)」


 不意に声をかけられて意識が浮上する。俺の目の前には一人の女の子がいた。見た目は十歳前後かな?ヴォラクと同い年くらいだ。光の当たり方によっては紫にも見える胸くらいまである黒髪に帽子をかぶっている。


 「え、あーその……I can’t speak Russian!I am Japanese!伝わるこれ!?」


 いきなりロシア語で話しかけられ、何が何だかわからなくて適当な英語を並べる。明らかにパニックになっている英文でちゃんと通じるかすらわからない。マジでなに言ってんだ俺。

しかし少女は俺の拙い英語とぽつりと呟いた言葉に目を丸くした。


 「日本人?」


 え?この子日本語話せるのか?

 俺が日本人だと分かると、少女は表情を輝かせ俺の前にしゃがみ込んだ。


 「観光の方かしら?このお店に用があるの!?えー旅行雑誌とかには載ってないと思うけど、最近このお店人気だからなーネットで有名になったのかなー」

 「え?あぁ……うん」

 「そうなの?このお店はね、恋愛成就のアクセサリーが有名なんだよ!可愛いの沢山あるから好きな女の子にプレゼントしても喜ばれると思うよ!」


 少女は嬉しそうに話し続ける。

 見た目も可愛らしいこの女の子がニコニコ笑っているのを見ているうちに俺は忘れてしまっていた。この少女がヴアルである可能性があるということを。ひとしきり話し終えたあと、ヴアルは俺の隣に腰掛け顔をあげる。


 「貴方は好きな人いないの?」

 「え?好きな人?」


 少女は嬉しそうに俺の返答を待っている。好きな人、勿論いるけど……悪魔の力を使ってまで付き合いたいとは思わない。


 「いるっちゃーいるけど……」

 「だったらアクセサリー買うべきだよ!その子と仲良くなれるよ!」


 少女は俺に一気にまくし立てた後、嬉しそうに微笑む。小さくても女の子はこういった話題が大好きなんだな。なんだか可愛らしくて、こっちまでつられて笑ってしまう。


 「そうかなー?それで好きな子と仲良くなれるならいいかもな」

 「でしょ!?」


 少女は目を輝かせ、俺の手を取る。


 「貴方はとってもいい人。貴方の恋を私は応援するね!」

 「え?あ、ありがと……」


 女の子は嬉しそうに笑い、どこかに走って行ってしまった。嵐のような子だ、なんで話しかけてきたんだろう。俺は何が何だか分からず、その場に立ち尽くしてしまった。とりあえず寒さに耐えられなくなってきたし、店に入ろうかな。


 ***


 「Оно не завершито.(すみません)Меньшее время оно может получить?(少しお時間いただけますか?)」


 店に戻ると、パイモンが店主に話しかけていた。今の時間は店主一人だけで他に従業員はいなさそうだ。平日の昼間だからなのかな。


 「どこ行ってたんだよ」

 「わりいわりい」


 俺は光太郎に謝って、パイモンの会話に耳を立てる。店主の男性はアクセサリーの質問と思っているんだろう、作業をしている手を止めてこちらに向かってくる。


 「Оно вероятно?(なんでしょうか?)」

 「(ここではちょっと……あちらに行きましょう)」


 パイモンは店主の腕を引っ張って店の隅に連れていく。いきなり現れた人間に連れていかれ、店主の目に怯えの色が滲む。カウンターの奥の作業室に連れて行ったパイモンが店主に問いかける。勿論ロシア語が分からない俺には何の話をしているかもわからない。


 「(貴方が作成しているアクセサリー、随分と評判なようだ)」

 「(え?あ、ああ……どうも。お客様も増えて、忙しくさせてもらっています。どんなアクセサリーをご所望で?オーダーメイドも受け付けていますよ)」

 「(ええ、実はある話を伺いまして。今モスクワを騒がせている事件、全員こちらのアクセサリーを購入した者だそうです)」


パイモンが何かを口にした瞬間、店主の目の色が変わった。


 「(何をおっしゃりたいんです?風評被害もいい所だ。最近恋愛成就のアクセサリーが飛ぶように若い子たちを中心に売れている。それだけの話です。貴方の話は内容次第では名誉棄損だ)」

 「(……貴方は何もご存じないのですね?心当たりがない?)」

 「Естественно.(当たり前だろう。もう帰ってくれ。店の邪魔するな)」


 店主が苛立たし気に少し強い口調でパイモンに何かを言うと、パイモンはこちらに戻ってきた。店を出ていけと言うジェスチャーをされて、日本では考えられない攻撃的な態度の店主に目が丸くなる。


 「あの人なんだって?」

 「あの様子では悪魔と契約している訳ではなさそうです」

 「マジかよ!?いやーでもよーこの魔力は本物だろうよ。流通業者か誰かか?」


 シトリーはがっくり項垂れる。ここまで調べて何もなかったら、この込められている魔術ってなんだったんだろうか?勘違いってこと?それは認めたくなくて往生際悪く問いかける。


 「じゃあアクセサリーを提供してる業者の誰かとか?」

 「どうですかね。ここは手作りのアクセサリーを販売しているみたいですから大量生産はしていなさそうですけどね」


 えええ……また振り出し。それってマジ辛い。パイモンが言うにはこの店のアクセサリー全てが店主の制作したものではないらしく、手作りのアクセサリーをしている個人からの委託販売もしているらしい。じゃあもしかして、その委託している人に契約者がいるってことなのか?

 でもヴォラクは何か思いついたようにパイモンに話しかけた。


 「もしかしたら契約者が知らないうちに契約してるかもよ」

 「そんなことありえないだろう。契約石や契約内容、どうやって決めるんだ」

 「でも俺もマルファスも自分を悪魔と知らせずに契約した。今回もそうなのかも」

 「だとしたら、悪魔の姿を確認するまでどうしようもないな」


 それってかなり時間かかんじゃん……

 うなだれた俺の脳裏にさっきの女の子が不意に思い出される。そう言えばあの子、いったい誰だったんだ?このお店の関係者か?なんだかえらくこの店に肩入れしていた。恋愛成就のアクセサリーがいいと言っていた。店の関係者、小さな女の子…………あ。


 「まさか……」

 「拓也!?」


 俺は慌てて店の外に出て、さっきの女の子が走っていった方向へ向かう。

 光太郎たちが俺の後を追いかけてくる。まさかあの子がそうなのか?なんでさっき気づかなかったんだよ!?普通、こんな時間にあんな小学生のような子供が一人で歩いてる訳ないじゃん!それに日本語まで話せたし!

 でも探してもさっきの子は見つからない。どうしよう、逃げられたのかもしれない。どうして相談しなかったんだろう。


 「拓也マジ何?」


 立ち止まった俺の後ろで光太郎が息を切らしている。


 「俺、さっき女の子みたんだよ。もしかしたらその子かも……」


 その単語だけで意味が分かった光太郎は信じられないという顔をした。それもそうだ、自分でも信じられない。だってあの子は普通の女の子だったから。それにまさか向こうからあんなにフランクに声をかけてくるなんて思っていなかったから。


 「ちょっと拓也、何してんの。ストラス達待ってんだぞ。戻ろうよ」


 追いついたヴォラクが俺を睨む。ヴォラクにも言わないと。ヴアルっぽい子を見たんだってこと。


 「さっき女の子が居て、もしかしたらその子かなって思ったんだ」

 「特徴は?」


 特徴……そうか、ヴォラクはヴアルを知ってるのかもしれない。


 「紫のような黒のような長い髪で、年はお前と同じくらいかな?恋愛成就のアクセサリーを買えって言ってた」

 「ヴアル……」


 やっぱりそうだったのか……特徴が一致しているのか?


 「ヴォラクはヴアル知ってるのか?」

 「ん?ああ、一度だけ会ったことがある。個人的な交流はないけどね。覚えてるのは紫がかった髪の毛と紫の瞳が特徴的な奴ってことくらいかな。あいつの契約石がアメジストでね、本人も契約石と同じ色ってことを自慢してたから記憶に残ってたんだよ。拓也、一度戻ろう」


 ヴォラクに促されて、俺たちは一度アクセサリー屋に戻ることにした。


 ***


 「拓也、急に走り出してどうしたんだ?」


 戻った俺たちに心配そうにセーレが駆け寄る。


 「さっき女の子みてさ、ヴォラクが多分ヴアルだって」


 姿を見たのが俺だけだから確信は持てないんだけど、考えれば考えるほどあの子が怪しい。セーレにも先ほどの話をして、俺の話を聞いて考え込んだ。もしかしたらあの子はここには戻ってこないかもしれない。だったら追いかけて捕まえるしかない。


 「今ならまだ見つかるかな?」

 「無理だろう。モスクワは広いからな」


 そんな……本当になんで気付かなかったんだよ!?あの時、すぐにヴォラクたちに助けを求めていたらヴアルを捕まえられていたかもしれないのに!でも悪魔が自ら話しかけてくるなんて思わないだろ!あーもう!なんでこうなるんだよ!?


 「確率は低いが、とりあえず俺達は主がいた方向を探しに行ってみよう。行くぞ」

 「拓也、お前と光太郎はここにいろよ。お前らすぐへばるから足手まといだしな」


 なんじゃそりゃ……すっげー失礼。

 シトリーとパイモンとセーレは女の子が走って行った方向へ走りだした。残されたのは俺と光太郎とストラスと……


 「ヴォラク、お前は?」

 「俺は万が一の時に守ってあげないとね」


 偉そうに胸を張るが頼もしいのは本当だ。頭をなでると止めろと言いながらも振り払わないのが可愛い所だ。


 「ってかやっぱアクセサリー屋に入んない?ちょー寒いし」


 光太郎がそう言ったので、俺達はまた暖房目当てでアクセサリー屋に入ることにした。

 中では店主がレジでアクセサリーを作りながら店番をしていた。確かに店主がアクセサリーを手作りしている。この店の全てではないとパイモンは言っていたけど、機械で大量生産というわけではなさそうだ。ますます怪しいわこの人。

 

 さっきまで誰かしら店内にいたのに、今は誰一人店の中に客はいない。俺達はパイモンたちが戻ってくるまでアクセサリーを呑気に眺めながら待っているとドアが開いた。その相手はまさに俺たちが探していた人物だった。


 「また会ったねお兄さん。パイモンたちと一緒にいるんだもん、びっくりしちゃった。ねえ、パイモンが貴方と一緒にいるってことは、貴方は私たちの味方ってことでいいの?でもすごい貴方達が私に攻撃的な視線を向けるから、そこを確認しなくちゃいけないと思ってね。パイモン達を引き剥がすの結構苦労したんだよ?ヴォラクがいるのは面倒だけど……」


 そこにはさっきの女の子がいた。流暢な日本語で話している少女は俺のことを知っていて、この子がヴアルだと言うことが確定した。でもどういうことだ?急いでパイモンを呼ばないといけないのに、体が硬直して動かない。奥には店主もいるんだ、まさかここで戦うとかないよな?ヴアルがドアを閉めて俺に近づいてくる。


 「ねえ教えて召喚者様。貴方は私たちを召喚して何を望んでいるの?混沌の世界を好んでいるの?なぜ、貴方にパイモンが付き従うの?私たちの指導者にでもなるつもり?ソロモン王の再来なんて、私は望んでいないの」

 「俺は召喚者じゃなくて……この指輪だって別に欲しくて手に入れたわけじゃないんだよ……だから君の召喚は俺にとっては関係のない事で、おれは君が起こした事件について調べてて……」

 「ふうん。調べてどうするの?私の力を使いたいの?それとも地獄に戻しに来たの?最近、随分私達にも物騒な事件が起こってるの。悪魔が、返り討ちに遭ってるって。ねえ、それって悪魔祓いエクソシストじゃなければ、貴方よね」


 やっぱりこの子が悪魔だったんだ……友好的なのか攻撃的なのか分からない不気味な雰囲気を醸し出しているヴアルが一歩前に近づくと、威嚇するようにヴォラクが俺たちの前に出た。


 「……ふふ、あははは!なに?急にいい子ちゃんしてるの?ヴォラクでもやっぱり指輪の力って怖いのね。使役されるの大嫌いのくせに、番犬みたいに付き従ってるの?面白いんだけど」

 「そうだよ、俺は今こいつらの番犬なの。だから、手ぇ出したらどうなるか……能無しのお前でもわかるよな」

 「それを今から理解するのよ。まあ、どうにもならないと思うけど。あんたたちはやってはいけないことをしているの。私とグレゴーリーを引き離そうとして……私、怒ってるんだからね?」


 そう言ってヴアルは笑いながら俺に指をさした。何が起こるのか分からず思わず目を瞑ってしまったが、何も起こることなく拍子抜けして目を開けた瞬間、目の前が真っ赤に燃えていく。


 「拓也!」


 ヴォラクが俺の手を引っ張ってヴアルから引きはがした瞬間、目の前で爆発が起こった。

 何が何だかわからなくて動揺して尻もちをついてしまった俺は呆然とその光景を呆然と見つめ、目の前のヴアルは笑っている。


 「Оно иметь что-то!?(どうした!?)」


 流石に爆発音が響いたことに、何が起こったのか確認するために店主が俺たちに走って近寄ってくる。空中で爆発が起こったためアクセサリーが爆風で散らばってしまったが、それ以外で大きな損傷はない。何が起きたか説明しろとでも言うような剣幕の店主に詰め寄られても、ロシア語が理解できず何も返事ができない。


 「な、なにがどうなってんだよ」

 「ヴアルの力だよ。あともうちょい遅かったら拓也爆死してたよ」


 俺が固まっている目の前でヴアルは笑い続ける。その姿が悪魔の姿に変わっていき、手からはぱちぱちと火花が出ている。


 『ふふ、残念。ヴォラクがいなかったらなー。ねえ、私は別に危害を加えたいわけじゃないの。だから引いて、ね?』

 「危害加えないって……もう三人も殺して何言ってんだよ!」


 それにお前は今俺も爆発させただろ!どこが危害をくわえたくないだよ!おもっくそ加えられたわ!

 俺の声にヴアルは何が悪いのとでも言うように首をかしげる。


 『だってそれはあの人たちが悪いの。貴方もわかるでしょう?愛してる人を裏切るなんて最低じゃない』

 『ヴアル、それは理由にはなりません。いかなる理由があろうとも殺人は許されない』

 『それは人間の常識。私には関係ないわ』


 目の前の光景に店主は訳が分からないと言う様に、その場に座り込んでしまった。


 「riyuba」

 『оно делает.guregori(ごめんね。グレゴーリー)』


 少女は少しずつ俺に近づく。


 『ねぇ、なんで邪魔するの?好きな人と居たいって言うのはそんなにおかしい事?』

 「それはおかしくなんかない。でもそれで人を殺すのってどうなんだよ!」

 『死んだっていいのよ。死ぬべきなのよ。あいつらの愛なんて偽物よ。私ね、前の契約者が好きだったの。彼が結婚して、子どもができて、それでも想い続けてきた。でも仕方ないわよね、私は悪魔だもの……気づいたら長い年月が経って彼は死んでしまったわ。悲しかったし苦しかった。地獄に戻っても彼を想い続けてきた。一途な愛こそ全てなの。情欲に負けるような物なんて愛じゃないわ。獣が愛を語るなんておこがましい。死んで詫びればいいのよ』


 ヴアルはいまだに座り込んでいる俺の目の前に膝をつける。その笑みが歪んで見えるのは俺の見間違いじゃ、ないよな?

 固まった俺にヴアルの手が伸びたが、それ以上は許さないとでもいうようにヴォラクが剣をふるい、ヴアルが俺から距離をとった。


 『あーあ、番犬に成り下がってるなんて笑える。いや、家畜?あんた、そいつにいいように使われてるの分からない?ブエルが見たら悲しむだろうな~』

 『今のお前を見たらプロケルもドン引きだろうさ。あいつはお前と違って倫理観ってのが備わってるからな』

 『悪魔にそんなもの必要ないわ!だから私はここに居る。あんたを殺してでも私はここで生きていく』

 『ああそう、じゃあさっさと死ねよ爆発女』

 『お前に殺されるほど、弱くないんですけど。本当に不愉快だわ。肉片一つ残さない。お前は全て塵にして殺してやるよ』


 ヴォラクが構えたのを見て、光太郎も竹刀を持って守るように俺の前に立つ。


 『ストラス、拓也と光太郎と店主を早く二階に連れてくんだ』

 「え!?パイモン達呼びに行かなくていいのかよ!?」

 『結界が張られてるから無理だよ。俺達だけで何とかしないと』


 うそ。まさかこの店全体に結界はってんのか?じゃあ、パイモン達は入ってこれない?どうするんだよこれ!こんな狭い店内じゃヴォラクだってフォモスとディモスを使えない。

 とにかく、俺達は腰が抜けている店主の腕を引っ張って二階にあがる。


 くそっ!まじでやばいなこれ!!


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