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第53話 歪な愛の形

 『今日も午前から冷たい風と雪が降る見込みです。外出の際は寒くないように着こんでお出かけください』


 朝、お天気お姉さんが寒そうに天気予報をしている。日本でこれなんだからロシアとか半端なく寒いんだろうなあ……



 53 歪な愛の形



 「今日俺、ロシア行ってくるから」


 急な俺の言葉に、母さんと父さんはその場に固まった。悪魔の件だと言うことは理解してくれていると思うが、場所が場所だ。冬の真っただ中で、日本よりさらに寒いところに行くんだから。


 「ロシア?」

 「うん。昨日ロシアで殺人事件あったらしくてさ、パイモンが悪魔と思うって言ってんだよね。だから調べてみることになったんだ」

 「大丈夫なの?怪我しない?」


 母さんは複雑そうな顔。ヴァッサーゴの時、俺が怪我をしたことを気にしているようだ。それにギリシャの件もあるし、母さんは少しトラウマになってしまっているのかもしれない。しきりに詳細を聞いてくる。


 「平気。今日は調べに行くだけだから。ストラスも途中で家出ると思うから」

 「そう……」


 母さんは深く追求しないけど表情は暗い。大丈夫、今回はちゃんと怪我しないで戻ってくるから。でもそれを言葉にすることはできなくて、行ってきますとだけ告げて家を出た。


 ***


 ヴォラクside ―


 「何かが引っ掛かるな」

 「なにが?」


 パイモンがパソコンで情報を調べている横から俺は画面を覗き込んだ。今日はロシアってところに行くらしい。話を聞いていたらソビエトのことらしく、今更ながら時間の流れってものを感じた。俺達は基本的には不老だから殺されない限り死ぬことはない。時間の感覚だって人間と比べてすっごく速い。気づいたら十年たっていたなんてよくある話だ。今回だってそうだ、気づいたらこんなに人間の世界では時間が経っていて、恐ろしいくらい便利で美味しいものに溢れている。


 だから俺は地獄に戻るまでに人間の世界の美味しいものを堪能して帰るんだ。中谷と会えなくなっちゃうのは寂しいけど……

 パイモンは俺の質問に答えつつも視線は画面に向かっている。

 

 「殺害された奴らのことだが、何か共通点でもないかと思ってな。だが見つけられない。被害者は男二人に女一人。男だけや女だけを狙ってるというわけでもなさそうだし、共通点は皆、十代から二十代と比較的若い年齢層ということだけ。被害者の人数も少ないし、これだけでは特定できない。随分と慎重なんだな」


 パイモンはまたパソコンと睨めっこ。パイモンが仲間になってから状況は劇的に変わった。前まではこんな世界中から悪魔の情報を探し出すなんて思ってなかったわけだし。たまたま偶然出会った奴らとかと戦ってきただけだから。こいつが本当に信用できる奴かどうかはいまだにわからないけど、拓也を守れなかった時の悔しそうな表情は、嘘じゃないって思うんだ。

 あーあ、それにしても俺も行きたいなぁ。留守番って好きじゃないんだよな。


 「なあ、パイモン、俺も行きたいよ」


 パイモンはパソコンの画面から目を離して俺を見つめる。返事は分かってるけど、もしかしたらがあるかもしれない。


 「お前はもう主と契約していないだろう」


 予想通りの答えだ。そう言われるって思ってたよ。


 「そうだけど……やっぱ留守番って嫌だし、パイモンだって俺がいないときついんじゃない?」

 「確かにお前がいないと戦えるのは俺だけだが……」


 パイモンは考え込んで、俺に提案してきた。


 「お前が中谷の許可をとったのならいいだろう。契約石のエネルギーは溜まってるな?……ロシアは範囲外だぞ」


 相変わらず高圧的だなこいつ。でも悔しいけど正論だから逆らえない。まあいっか、それで俺も付いて行けるんなら。

 

 「シトリーは居たり居なかったりするけど、付いてく気ないのかなぁ」

 「まだないだろうな」


 パイモンはパソコンを閉じて、俺に向きなおる。こいつらってそんな地獄で交流とかあったわけ?意外な接点にこっちが驚いちゃうんだけど。


 「まだってどういうこと?」

 「探してるんだよ。グレモリー様を」


 グレモリーって確かルシファー様の……そういえばシトリーがグレモリー様と付き合ってたって言うのビックリしたな。いまだに信じられないもん。あんなチャラ男がグレモリー様を射止めるなんてさ。大金星もいいとこじゃん。


 「探すってどうやって?」

 「さあな。大方俺と同じでパソコン使って事件とかを調べ回ってるんじゃないのか?」


 パイモンも知らないってことだもんな。あいつが拓也に協力してるのってグレモリー様を探すために何だろうか?でもそれなら別にほかの奴でもいいわけだし、それも違うか。


 「パイモンは場所を知らないのか?」

 「バティンならば知っているかもしれないが、最近連絡を取っていないから分からない。ただ地獄に戻ったと言う情報は聞いていない。こちらの世界にいることは間違いないだろう」


 バティン、ね……ルシファー様の側近の一人。何回か会ったことがあるけど、柔和で人のいい笑みを浮かべて物腰は柔らかく、パイモンと正反対のように思えるけど、腹の底を絶対に見せず、常に自分が優位に立ちまわるのが上手かった。パイモンが扱いにくく、バティンの方が話が分かるとみんなが言うが、きっとそれは表面のみで実際はパイモンの方が情に厚く、バティンの方が狡猾だ。

 腹の探り合いであいつに勝てる奴はいないだろう。あいつと話すと底がしれず、得体のしれない感情で体がぞわぞわするんだ。


 「シトリーはバティンに会ったことあるって前に言ってたけど、その時に聞かなかったのかな」

 「知っていてもバティンは教えないだろうな。ルシファー様の妃だ。あいつに情報を流して得することは何一つない」

 「ふーん……でもさ、最後の審判のこと言ってきたのはシトリーのくせに、のらりくらりしてさ」

 「そうだな。あいつは世界が滅ぶのも望ましくないが、それ以上にグレモリー様に戦いに参加されるのが嫌なんだろうな」

 「意外と一途なんだね」

 「意外とな」


 パイモンは軽く笑いながら席を立ち上がる。その後ろ姿に声を投げた。


 「なんでパイモンってシトリーのこと知ってんの?そんな交流あったの?」

 「グレモリー様はルシファー様の妃だ。ルシファー様の城で二百年間過ごされている」


 ああ、そっか。パイモンもルシファー様の腹心だもんね。その時にグレモリー様と交流があって、シトリーにも繋がっていたわけか。あいつ確か拓也と契約するときバティンにも会ったって言ってたし、バティンとも知り合いなのかもしれないな。案外顔が広いことに驚きだ。陽気なカイムと馬が合うのは知ってたけど。パイモンだってバティンと、あとはマルコシアスと交流があるのは聞いたことあるけど、シトリーは知らなかったな。

 なんだか、ブエルに会いたくなっちゃったな。あいつどこにいんだろ。


 「パイモンって意外とシトリーと仲がいいよね」

 「腐れ縁だ。面倒ごとしか持ってこないから、何度殺してやろうと思ったか分からないが。コーヒーいるか?」

 「うん。砂糖とミルク入れてね」


 やっぱパイモンってこえー……

 とにかく中谷早く帰ってこないかなー。外は相変わらず雪が降っているが、それでも昨日よりはましになったかな?


 ***


 拓也side ―


 「さぁ今日も行くとすっかぁ」


 今日は雪も大分ましになったおかげで多少の遅刻者はいたものの、無事に授業が終わり放課後になった。昼から雪は降ったり降らなかったりで、今は晴れ間が覗いている。今日は帰りにマンション行かなきゃな。昨日言われたとおり、ロシアに行かなきゃいけないし。


 「中谷ー光太郎ーお前らどうする?」

 「今日は学校内で筋トレの部活あんだ。だから悪いな。目星着いた時には俺も行くよ」


 中谷はダメみたいだ。となると必然的にヴォラクも駄目だな。光太郎は行けるらしく鞄をもって近づいてくる。


 「俺は行くぞ。そうだ、松本さんも誘おうぜ」

 「なんで?」


 光太郎は鞄の中からなぜかカメラを取り出す。こいつ、この間のギリシャで味を占めたな。


 「やっぱいろんな国にこれからも行くんだから記念に撮っとくもんだろ。それに今日は探すだけだし。ならできるだけ大勢で写真撮りたいじゃん」

 「えー!ずるい!!俺がいるときにやってよ!!」


 いやいや観光気分じゃねえか。中谷もずるい!じゃないだろう。そんな呑気な事言ってる場合か。

 大体ちゃっかり澪を巻き込むの止めろ。こないだ巻き込んだばっかなのに可哀想だ。そんな俺の気持ちなど露知らず、目の前でニコニコしてる光太郎の頭に軽くチョップをかました。


 ***


 『そろそろ来ると思ってたよ』

 『お帰りなさい拓也』


 結局澪を誘わなかった俺は、そのまま光太郎とマンションに向かった。

 マンションに着くとセーレはもう準備をしており、ストラスが出迎えてくれたため軽くストラスに手を挙げて挨拶する。ストラスと話しているとヴォラクがリビングからこっちに小走りで走ってくる。


 「ねぇ中谷は?」

 「いないけど?」


 ヴォラクは俺らの周りをちょろちょろ動き回り中谷を探しているが、残念だけどどこにもいないぞ。いないと告げたヴォラクはあからさまに肩を落とす。俺なんか悪いこと言った?

 とぼとぼリビングに向かうヴォラクにセーレは苦笑い。


 「付いて行きたいらしいんだよ。でも中谷がいないとどうしようもないから」


 なるほど……確かに俺も付いて来て欲しいのは山々だ。やっぱ戦える奴は多い方がいいし、安心感が違う。

 今日は戦うことにならないって言うのなら、別に連れて行っても問題はないんじゃないか?


 「来いよヴォラク。中谷には俺から言っとくからさ。今日は悪魔を探すだけなんだろ?じゃあ大丈夫なんじゃない?」


 俺の言葉にヴォラクは目を輝かせてコクコクと頷く。でもその光景を今まで黙って見ていたパイモンは不満顔だ。


 「主、しかし……」

 「いーじゃん。中谷も絶対OKくれると思うしさ」


 パイモンは少し不満そうだけど、しぶしぶ了承してくれた。俺が軽く考えすぎなのか、パイモンが深く考えすぎなのか。多分両方なんだろうな。俺たち足して二で割ったらちょうどいい性格になるかもね。

 ヴォラクは嬉しそうに飛び跳ねる。なんで喜んでんだ?そんなにロシア行きたかったのかな。シトリーはわれ関せずお菓子を食いながら雑誌を読んでいたが、全員そろったことで雑誌を閉じる。


 「行くのか?」

 「うん、行こう」

 「そっか」


 シトリーはよっこいしょと立ち上がる。


 「行くんだろ?さっさとしろよ。俺二十時からバイト入ってっから」

 「わかってるよ」


 光太郎は奥の部屋から竹刀をとってきた。


 「練習の成果見せるぜー!」

 「はしゃぎすぎなんだよ。まだ悪魔特定してもねえんだから今日は下見だぞ。その竹刀は現地のロシア人に喧嘩売られた時くらいしか使い道ねえだろ」

 「んな使い方しねえよ!」


 シトリーと光太郎は口喧嘩をしながらもジェダイトによじ登る。まずは第一陣が向かって、俺達は第二陣だ。


 ***


 「うお〜さみぃ〜〜〜!」


 人通りの少ない路地裏に俺達は着陸した。

 雪がめちゃくちゃ降ってるし、寒すぎる!日本でも寒かったのにこれは可笑しい!冷凍庫の中にいるみたいで今にも凍えそうだ!自分が持っている一番暖かい格好をしてきてホッカイロも背中と靴の中に仕込んでいるのに凍えそうだ!!


 「早くどっかはいろうや」

 『今来たばかりではないですか』


 光太郎も震えながらボソボソと呟く。

 なんでそんなにお前ら平気そうなの?ストラスはまだ毛深いからわかるけどさぁ。とりあえず俺達はそのまま路地裏から外に出る。


 「主、行きたいところがあるのですが、少し歩きますがよろしいですか?」


 え?行きたいとこ?あーいーよいーよ。目的もないし。寒いから体動かしたほうがいいかもしれないしで二つ返事で了承してパイモンの後をついていくと、着いた場所は広場だった。


 「ここどこ?」

 「赤の広場です。今回事件がおこった場所です」

 「うおー!生で初めて見た。こりゃ写真とっとかないと!」

 「俺もこれで……」


 光太郎はカシャッカシャと写真を撮りまくる。

 やっぱ隣で写真撮られると俺も欲しくなるもんで……俺も携帯で写真を撮っていく。悪魔そっちのけで観光客丸出しの俺達にパイモンはさっきまで寒そうにしていたのにと小さくつぶやく。


 「観光ではありませんが」

 「いいじゃないか少しくらい。な?」


 セーレに諭されて、パイモンはため息をつく。でも折角来たんだし少しくらいは撮らせてよ。セーレにカメラを頼んで記念に二人で写真も撮ってもらう。シトリーとヴォラクも面白がって入ってきたので四人で撮影してもらい、満足したからちゃんと本題に入ろう。

 広場にある時計を見ると、朝の十時半だった。


 「ロシアって時差は-6時間なんだな。もっとあるかと思ってた」


 平日なのか人もあんまり多くない。俺達は地面に積る雪を踏み分けて歩く。

 でも途中でKEEP OUTとかかれたテープに阻まれた。


 「あ?なんだこりゃ」

 「この先で事件が起こったようですね。これでは調べることはできませんね」

 「聞き込みでもする?」

 「そうだな。二手に分かれるか」


 俺はパイモンとセーレとストラス、光太郎はシトリーとヴォラクとで別れて情報収集することにした。

 それぞれ別れて、モスクワ内で聞き込みを始めた。


 「(その事件なら知ってる。そのせいで今、モスクワは厳戒体制なの。せっかくのクリスマスなのに残念よ)」

 「Так(そうですか。ありがとうございます)」


 セーレは軽く頭を下げて、俺の元に戻ってくる。しかし表情は渋く、首を横に振るから情報が得られなかったのだとすぐに分かった。


 「ダメだな。いい情報が見つからない」

 「そっかあ」


 そりゃ皆、新聞やニュースでの内容しか普通知らないよな。そんなすぐにピンポイントで事件の全様を知っている人には当たらないか。でもここで事件が起こったこと自体は知られていて、通行人が事件の話ばかりしているとセーレが言っている。



 「(あの事件知ってる?あの事件で殺された男性は、その日に彼女に振られた男なんだって)」

 「(本当に?でも一週間前に、殺害された男性が私の友達の友達の知り合いらしいんだけど、彼も彼女に振られた後に殺されたって聞いた)」


 俺たちの横を女子大学生くらいの女の人が何やら話しながら通り過ぎる。ロシアって美人多くない?そこら辺歩いている人たちが全て美人でモデルみたいなんだけど。そしてみんな背が高い。

 セーレは内容が聞こえていたのか、少し考え込んだ。


 「どうした?」

 「さっきの話が少し聞こえたんだけど、今回殺害された人たちは皆、殺害される前に恋人に振られてるみたいだな」


 なんだそりゃ……じゃあ逆上して恋人に刺されたってこと?


 『また妙な共通点ですねぇ…』

 「だが被害は三人だけだしな。今回の奴らがたまたまそうだっただけかもしれない」


 何かますますこんがらがってきたじゃんか。

 俺達はその後も色々調べてみたけど、何も情報が集まることはなかった。


 ***


 光太郎side ―


 「ここがアクセサリー屋かあ」


 俺とシトリーとヴォラクはアクセサリー屋に足を運ばせた。理由は面白い話を聞いたから。

 今回、殺害された奴らは全員ここのアクセサリーを持っていたらしい。これはシトリーが殺された男を知っている人からどんどん仲いい人を教えてもらって、この情報に行きついたんだけど。アクセサリー屋はそんなに大きな店ではないが客は多く、女性もだけど、男性の姿も確認できた。


 「ここのアクセサリー屋の恋愛成就のアクセサリーを身につけると恋が叶う、か」


 俺も拓也に買ってやろうかな。これでうまくいったら本物だわ。アクセサリー屋の中に入って調べてみるが、中はすごい人だ。この狭いアクセサリー屋の中でこれだけの人がいると、ゆっくり見て回れない。しかも一か所にすごい人が集中している。俺達は女性の鋭い視線もなんのその。中心に入り込んで商品を手に取る。


 「これがその有名な奴?別に普通のパワーストーンって感じだけど」


 側には専用のノートがある。

 ノートをめくると、そこにはロシア語がズラリと並んでいた。勿論ロシア語の分からない俺はシトリーを呼んでノートを見せる。


 「あーこりゃ人名だな」

 「人の名前?このノートに?」


 何それ怖い。

 シトリーはノートの中身と表紙を見て、最初のページに書かれている使い方らしき文章を読んでいる。


 「このノートに好きな人間の名前と買ったアクセサリーの番号を書くといいらしいな」

 「いっぱい名前書いてるねー。男の名前が多いみたいだけど」


 アクセサリーを調べると、値段が書いてる端に小さく番号が書いてある。もしかしてこれのことか?

 噂が本当なら是非とも試してみたいが、ロシアの通貨もないし断念。面白そうではあるんだけどな。でも好きな人いないし、誰の名前を書くかも問題だな。

 ノートを置いて辺りを観察する。ノートは俺たちが机に置いた瞬間、さっそく女の子が書き込み始めた。店主は三十代後半くらいの男の人かな?あとはアルバイトっぽい若い女の人が一人だけで他に従業員らしき人間はいなさそうだ。店の中の混雑に少し押されて、俺達は店を出た。


 「うーん……特に何か怪しいってわけではないような、でもなーんか感じたんだよな」

 「シトリー?」

 「もう少し詳しく調べてみるかな……ここで待ってろ」


 シトリーは俺とヴォラクをその場に置いて、一人で店に入って行った。


 「どうしたんだ?」

 「あのアクセサリーから何か感じたんだよ」


 何かってなんだよ。その例え怖えよ。


 「何を?」

 「んー魔法っていうか、なんかおかしな気がね。パワーストーンも元々魔力の入ってる石だけど、それとは別の何かを感じたんだよね」


 つまり、変な気を感じたってことか?よくわからんが。

 暫くすると、シトリーは戻ってきた。多分自分の考えが当たってたんだろう、アクセサリー屋を睨み付けている。


 「やっぱり感じた。ありゃ魔術が入れ込まれてるな。呪術のような何かがさぁ」

 「呪術!?」


 そんな禍々しいもんを感じたのかよ!?

 とりあえず拓也に連絡して、俺達は一度合流することにした。


 ***


 拓也side ―


 「こっちはなーんも見つかんなかった」


 俺はありのままを光太郎たちに告げる。少し気になることはあったけど、それが本当かの証拠もないまま集合時間になってしまったから調べられていない。


 「俺たちのとこは何か変なことがあったんだよな」

 「変なこと?」

 「まぁこいつ等に聞いて」


 光太郎はヴォラクとシトリーを前に出す。


 「自分で言えよ。なんかよ、今回の被害者は全員殺される直前に恋人に振られてんだよ。そんでそいつらは全員ある店のアクセサリーを持ってるんだ」

 「店の?」

 「おう、こっから結構歩くんだけどな。小さな店なんだけど、そこの店の恋愛成就のパワーストーンで作られたアクセサリーを買って、意中の人間の名前を店のノートに書くと、両想いになるらしい」


 あれ?これって……俺たちも話を聞いたような。

 なんかどこにでもあるおまじないみたいな感じだけどな。


 「でもそのアクセサリーから妙な気を感じたんだよね」

 「妙な気?どういうことだ?」


 ヴォラクの言葉が気になったのか、パイモンが深く追求してくる。


 「俺は軽く触っただけだからあんまわかんなかったんだけど、シトリーは感じたみたいよ」

 「ああ。ありゃ何かの魔術か呪術かが入れ込まれてる」

 「では悪魔の可能性も」

 「一概に捨てきれない。悪魔の力の欠片が入ってる可能性が高いな」

 「そう、か」


 皆が黙りこんでしまって、俺は気まずさから時計を見た。

 今の時間は日本時間で午後十九時。結構探してたな。


 「シトリー。そろそろ帰んなくて平気か?」

 「あ?お、こんな時間か。じゃあ俺はもう無理だから帰ろうや」

 「証拠を見つけたばかりだが、まぁいい。とりあえず一度戻るか」


 俺たちは一度、マンションに戻ることにした。

 マンションについて、それぞれがそれぞれが帰路につき、俺もストラスと歩きながら悪魔のことを少し話しあった。


 「今回の件で当てはまりそうな悪魔は何人いるんだ?」

 『そうですね……アモン、ベレト、ゼパール……上げるとまだ数匹いますね』


うーん、結構いるんだな。


 『しかし思い当たる悪魔は特定できています。恋愛、別れ、死……おそらく犯人は悪魔ヴアルだと思われます』

 「ぶある?」


 『ヴアルです。ラクダに乗った少女の悪魔です』


 少女!?悪魔にも女の子がいるのか!?今までの悪魔が男ばっかりだから、てっきり悪魔ってみんな男だと……あ、でもシトリーの恋人だったグレモリーは女って言ってたし、女もいるっちゃいるのか。それでも驚いた。


 『彼女は別に悪意のある悪魔ではなく、恋愛事に関して非常に協力的な悪魔でして、片思いしている人間が自分に乞えば、喜んで意中の相手を振り向かせる力を働かせてくれます」

 「じゃあなんで殺人事件とか起きんだよ」

 『ヴアルは非常に執念深い悪魔としても有名です。彼女は一度結ばれた者たちの破局は絶対に許しません。その時が来れば、彼女は容赦なく自分の力に頼った人間を死という形で罰します』


 こわっ!最後に悪魔要素を入れてきたな!


 『今回のキーワードを結び付けていくと、恐らくヴアルが一番確率が高いのではないでしょうか。それに昨日パイモンが言っていたでしょう?犯人の可能性があるのは幼い少女だと』


 あ、そういえばそんなこと言ってたな。見た目的な意味でもヴアルが一番可能性が高いのか。


 『ヴアルが人間に変わった姿なら、この話は頷けます』


 待てよ、じゃあ今回の相手は小さな女の子って言うのかよ。

 悪魔だからと言っても、簡単に割り切れるわけねーじゃんよ。どうするんだよ。


 ***


 ヴアルside ―


 「Утомленная дорога.(お疲れ様)」


 グレゴーリーは軽く私の頭をなでる。優しい手、暖かい手、この手はあたしの物。過去に全てを失ったグレゴーリー。だから彼は私に固執する。


 私は亡くなった娘の代わり何だとか。


 でも私は二番なんて満足できない。一番じゃなきゃ満足できないの。


 「Guregori」

 「Оно?(なんだい?)」

 「(世界一愛してる)」


 ねぇ早く気づいて。貴方の娘も奥さんもこの世にいないのよ?貴方の心を独占していいのは私だけ、私だけなの。


 「riyuba.」


 グレゴーリーが私の名前を呼ぶ。ロシア語で「愛」を意味するその名前は私のお気に入りの名前。でもね本当の名前も呼んでほしいんだけど、まだ無理だよね。怖がらせちゃうもの。私が殺人事件の犯人だって知っちゃったら。

 彼の服にはアメジストのブローチ。それが私の契約石。お仕事の時にはつけてないけど、仕事が終わるといつもつける。大事にしてくれてるのね。


 だから愛おしい。

 だから殺せない。


 きっとあなたの魂は最高のはずなのに……


 でもいいや。この方が楽しいもの。

 ねえグレゴーリー、ずっと一緒にいようね。世界の終焉まで……


 貴方が死んでも魂は渡さない。絶対に天国には行かせない。


登場人物


ヴアル…ソロモン72柱47番目の悪魔。

     36の悪霊軍団を支配下に置く侯爵である。その姿はヒトコブラクダにまたがった人間の姿をとる。

     自分が想っている人間との間に愛情を芽生えさせる事と、敵対者と味方との間に友情を覚えさせる事を得意とする。

     契約石はアメジストのペンダント。


グレゴーリー…ロシアで手作りアクセサリーの店を経営している。

        過去の事故で妻と娘を亡くしたことからヴアルを自分の娘として引き取っていた。

     

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