第52話 血染めのクリスマス
暖かい家から一歩外に出るとブリザードのような吹雪に見舞われて足の底から凍りついていくように感じる。ここ最近の天気は雪ばっかりだ。本当に何だろうこの寒さ。温暖化とか絶対に嘘だと思う。はあ……こんな中で学校に行くのスッゲーやだ。
52 血染めのクリスマス
「うわあ……雪が積もってる。辛すぎ」
玄関の外は見事な銀世界。こんなレベルの大雪は年に一回あるかないかくらいで、道路が渋滞しており、電車の発着にも影響が出ていると言うお天気お姉さんの声を背中に受けながら家を出て慎重に道路を歩く。歩くたびにシャリシャリ音が鳴り、なんだか懐かしいような不思議な感覚になった。
小さい頃は嬉しかったんだけどなぁ……この年になるともう寒いしか思わない。うっかり段差で滑って転びかけて恥ずかしいけど、隣のサラリーマンや大学生のお姉さんたちがキャアキャア言いながら歩いているのを見ると、そんなに恥ずかしいとも思わなくなる。雪はいまだに振り続け、人の歩いた道に足跡が残っていく。
「早く春こねーかなー」
この雪はひどくなるぞ。
***
「おはよーさまんさ」
「なんだよそのギャグさっみい」
学校について挨拶をしたのにこの切り返しは酷くないか?鞄を机に置いて、寒い時期の鳩のように身を縮こまらせている上野の首に冷えきった手を当てれば面白い声をあげて人の足を蹴ってくる。
「死ねクソが!てめえマジ許さん!」
「いてえってば!あはは!やめろってバカ!」
「あークソ冷えた。冬の時は窓際の席が嫌になるぜ。本当に最近の天気なんなんだよ。雪めっちゃ積もってたし」
上野は真っ赤になった鼻をスンッとならす。確かに雪は相変わらず降っており、かなり凄い状態だ。
電車も大幅な遅延が出ており、アナウンサーがニュースで気を付けるように訴えていた。
教室の生徒は少ない。いつもなら学校に早く着いている電車組が今日はまだ来ていないからだ。上野はもう一度鼻をならし、ティッシュで鼻をかむ。
「山田たちまだ来てねーじゃん」
「雪の影響で遅れてんだろ。ニュースで言ってた。こんな日に学校あるとか馬鹿なんだよ。このまま学級閉鎖になんないかな」
ああ、電車止まったらなるんだっけ?せっかく学校来たのに今更学級閉鎖された所で帰るのが大変だわ。
「無理だろ。学級閉鎖ならもう連絡網回ってるって」
自転車通学の光太郎もまだついてないし。変わらない時間に到着しているのは徒歩通学生のみだ。こりゃみんな遅れるんじゃないか?
「きゃ〜〜マジさっみぃ!部活も休みだし、やんなっちゃうよ」
あ、中谷。相変わらず元気だな。ひ~~と両腕をさすりながら、鞄を置いてこっちに近づいてくる。窓から外の雪を見て、鼻のてっぺんを赤くした中谷は少しだけ恨めしそうにグラウンドを睨んでいる。
「今日めっちゃ雪すごいな。グラウンド使えなくて朝連も部活もなくなっちゃったよ」
「やっぱこの雪じゃなあ……」
雪は静かに降り続け、このままいけば本当に今日は学校早く終わったりするかもな。
光太郎は二十分後に学校に来た。既にHRが始まってるんだけど、いない生徒がいっぱいいる中じゃ途中で教室に入っても全然恥ずかしくない。しかも光太郎が来た瞬間の先生の言葉。
「さっき連絡が入ったが、電車が止まったようです。せっかく来てくれたようですが、今日はもう授業はしません。雪が酷いので学校に残っても構いません。広瀬は折角来たのに残念だなあ」
「なに!!?」
「しゃっ!」
上野は小さくガッツポーズ。嬉しいけどさぁ、それならもっと早く言ってよ!寒い中頑張って来たんだからさ、まじ勘弁してよ。俺こんなことなら寝とけばよかったよ!来たばっかの光太郎も嬉しさと不満が入り混じった顔をしている。
とりあえず学級閉鎖になったので俺は鞄に荷物を詰めなおした。時間はまだ八時四十分。マンションに行こうかな。学校はあいてるけど授業をせず自習の状態だからクラスの何人かは雪がましになるだろう昼頃に帰る奴もいるみたいだ。俺がマンションに行くため立ち上がると光太郎と中谷が来た。
「マジ最悪だよ。根性出してチャリかっとばしてきたのに、まさかの学級閉鎖。俺三回もこけかけたんだぞ」
「俺もまさかの部活なし〜こんなことなら学校来なくて寝ときゃよかった」
「俺これからマンションに行くんだけどお前らどうする?」
「それを誘いに来たんだよ」
どうやら二人もマンションに行くつもりらしい。俺達は学級閉鎖になったのにもかかわらず九時になったら近くのカラオケに行こうとはしゃいでいる上野たちに手を振って教室を出た。
「あ〜さむい~光太郎チャリどうすんの?」
学校全体が閉鎖になっているため靴箱は生徒で賑わっており、外に出ると冷たい風が頬を刺し、隣にいた女子が寒い~!と可愛らしい悲鳴をあげながら友人と自転車を押しながら歩いて行く。
ここからマンションまで自転車持って歩くのもきついよな。
「今日は置いて帰る。これは無理っしょ。クソ、明日は電車通学かよ……いつもより早くでなきゃいけねえじゃねえか」
「お前金持ちなんだからタクシーで行けばいいじゃん」
「親父が金出してくれっかよこんなことで。朝早く出ればいいじゃねえかって言われる未来見えてるわ」
ですよねー下手に運転するより安心だ。学校の駐輪場置き場には屋根もあるしな。光太郎のおじさんって妙な所は庶民派なんだな。あんなマンションを息子の好きにさせてるくせに、一日くらいタクシーで登校するのは許さないんだ。
俺達はそのまま歩いてマンションに向かった。
***
「おっすー」
玄関を開けると、セーレとなぜかストラスがお出迎え。セーレは学校があるはずなのに、俺たちがこんな朝早くに来たことに目を丸くしていた。
「どうしたの?まだ朝の九時だよ」
「学級閉鎖した」
「閉鎖!?まさかペストでも出たのか!?」
いつの時代の話だ!!
予想の斜め上の反応に中谷は声をあげて笑い、光太郎も笑いをこらえながら状況を説明すると、セーレは安心したように息をついた。
「脅かさないでくれよ。閉鎖なんて言われたらペストでも罹患したのかと思ったよ。そのくらいじゃないと閉鎖なんてしないだろう」
「電車止まっただけだけどな。つかストラス、なんでお前いんだよ」
『悪魔の情報を探して、寒い中ここまで来たのですよ』
あ、なるほどね。奥は暖房が効いててかなり快適だ。ストラスはそれでもこの部屋に炬燵を置きたいと欲望丸出しの意見をほざいて止められている。こいつ召喚されてからどんどん人間の世界の物を気に入ってんな。
リビングではパイモンがノートパソコンで悪魔の情報を調べていた。俺たちが入っても今まで無視してたってわけだ。酷い……
「パイモンおはよーあいつらは?」
「おはようございます。二人ともまだ寝ています。いつも十時過ぎにしか起きませんよ。静かで快適だ」
セーレが淹れてくれたんだろうコーヒーを優雅に飲んでいるパイモンは本当に快適そうだ。確かにあいつ等に早起きのイメージはないけどな。しかし二人がいないと目的達成できない奴らがいるんだよな。
「俺シトリー起こしてくる」
「俺も起こしてこよ。あいついないと稽古できないし」
哀れ……叩き起こされんだな。二人がそれぞれの部屋に向かったことで、俺たちが何をしに来たかを理解したパイモンがパソコンを閉じる。
「パイモン。よろしく」
「わかりました。すぐ行いますか?」
「うん」
パイモンが悪魔の姿に変わり、空間を広げる。奥から騒ぎ声が聞こえてきて二人が起こされたことがわかった。
「起きろヴォラクー!!うりゃうりゃ!」
「あ、あはは!や、やめ……起きるから、ひゃはは!!」
「おーきーろー!稽古すんぞ!!」
「ぐぼっ!!てめえ……人の腹にダイブすんじゃねぇよ!!」
声を聴いたストラスとセーレは苦笑い。
「荒っぽいね二人とも」
『全くですね』
二人の会話を他所にパイモンが空間を広げ、中に入るように促され、その中に呼び込むように入りこんだ。
「俺達も入ってみようか」
『そうですね。どのように稽古しているか見るのもいいでしょうね』
『入るなら早くしろ』
俺の後にセーレとストラスも空間に入ってくる。
なんか人が見てると思うと緊張するんだけど。そわそわする俺に剣を持ったパイモンはリラックスモードだ。
『主、大丈夫です。ストラスもセーレも何も期待などしていません。昨日と同じリラックスしていきましょう』
「なんでそうストレートなこと言うかなぁ……」
逆にいいとこ見せようって見栄張っちまうわ。俺はハァ……とため息をついて、剣を出す。
『まずは素振りから行きましょう。昨日の振り方覚えていますか?』
「あ、うん。家で少しだけ練習した」
『上出来です。ではやってみましょう』
俺は言われたとおりに、剣を振ってみる。少しはマシになっているだろうか。しかしまるで査定をするように稽古を眺めているストラス達の視線が気になって仕方がない。
『ふむ……まだまだ初歩ですね』
「でも昨日やり始めたばかりだしね」
全部聞こえてるんですけど!?うるさいなぁー悪かったな下手糞で。どうせ俺は運動音痴だよ。
「おーやってるやってる」
「いっちょやるか!」
少し遅れてきて、シトリーと光太郎が竹刀を持って入ってくる。
シトリーは屈伸をして体をほぐし、光太郎も肩を回し、体をほぐす。
「行くぜシトリー」
「はいはい。こっちから攻めてくか!」
シトリーが竹刀を持って、光太郎に向かって全速力で走りだす。光太郎は竹刀を構えて、シトリーの攻撃を観察するように動かない。シトリーは真っすぐに攻撃はせず、光太郎の背後をとろうとする。
「そう来たか!」
光太郎はシトリーの素早い動きに翻弄されながらもシトリーの足を狙って攻撃する。シトリーはそれを避け、光太郎の頭上に竹刀を構える。シトリーが思い切り竹刀を振り、光太郎はそれをギリギリのところで避ける。しかもそこで攻撃も忘れない。光太郎は竹刀をまっすぐ、シトリーの胸めがけて突き、シトリーはそれを左に動くことで回避した。
お互いの距離が開く。
「避けながら攻撃かよ……いつの間に覚えたんだよ」
「へへ」
やっぱ光太郎とシトリーは本当に実践状態だ。
その光景にストラスも舌を巻く。
『光太郎はかなり上達してますね』
「彼、中学の三年間、剣道やってて最初から反射神経とかは結構すごかったらしいよ」
『なるほど』
さらに遅れて中谷とヴォラクも空間に入ってくる。ヴォラクはまだ眠そうで中谷の足をゲシゲシ蹴っている。
『もー中谷のせいでとんだ災難だよ。まだ寝てたいのにぃ』
「へへ。いいじゃねーか。やろうぜ!」
『中谷、今日稽古したらそろそろディモスに乗る練習もしようか』
「マジで!!?うっしゃ―――!!!」
中谷は両手を挙げて喜び、そんな中谷にヴォラクは自分の持っている剣を投げた。中谷はそれをあろうことか素手でキャッチしてウォームアップし、ヴォラクもスペアの短剣を出して構える。
中谷ももう実践練習にいってるらしく、ヴォラクと剣を合わせだした。光太郎は竹刀だからまだいいけど、中谷はリアルな剣なだけすごいな。俺だったらそこでビビって動けなくなるわ。でも光太郎とシトリーの方が動きは本格的だけど。
ストラスとセーレも中谷とヴォラク、シトリーと光太郎の打ち合いを見て満足そうにしている。はぁ……俺なんかまだ素振りだしな……でもそんなこと言ってられない。俺は黙々と剣をパイモンの指示通りに振り続け、昼まで各々が稽古をしていた。
『主、踏み込みは全体重ではなく、すぐに移動できる程度の体重をかけるようにしてください。その方が力強さは劣るけれど次の動作に移しやすいですからね』
「おう」
「お前正面から来すぎなんだよ。少しは相手の裏をかくことも考えなきゃな」
「わかった」
「まぁこんなもんでいんじゃない。そろそろディモスに乗ってみる?」
「待ってました!!」
それそれが皆違うメニューをこなしていく。
『主、休憩にしましょう。踏み込みも今のを忘れずにいてください』
「うん。練習する」
光太郎も休憩しているのか、背伸びをしている。
俺も一度、空間から出ようとしたとき……
「ひゃっほ――!」
大声が聞こえた方を向くと、ディモスの上に乗ってはしゃいでいる中谷の姿があった。ディモスはあまりの中谷のはしゃぎように少し押され気味だ。
『やれやれ……拓也殿と違い、えらく肝が据わっている』
『中谷は拓也と違うからね』
偉そうにふんぞり返るヴォラク。聞こえてんぞ。
俺は声を張り上げてディモスの下に行く。
「失礼なこと言うんじゃね―――!」
『拓也殿。お久しぶりです』
ディモスは俺の頭の高さまで頭を下げてくる。
「あーうん。ってかヴォラク何気に失礼じゃね?」
『何が違うのさ?マルファスの時、ディモスに乗るの滅茶苦茶しぶってたじゃんか』
「いや状況が違うだろ!?今なら俺だって怖くねえよ!」
あの時は信頼関係まだできてないし、それにマルファスいたじゃん!こんな風に練習で乗るとかそんなんじゃなかったでしょー!?それを訴えてもヴォラクは興味なさそうにしており、握りこぶしを作っていると、空間の奥からセーレが顔を出した。
「ご飯できたけど休憩しない?」
『ご飯ご飯♪中谷おりて』
「えーもうちょっと乗ってたいのに」
中谷はしぶしぶディモスから降り、全員休憩がてら昼飯を食うことにした。
***
セーレの飯を食いながらもパイモンはパソコンと睨めっこ。
「パイモン〜この時くらいゆっくりしてもいいじゃん」
「気になる記事を見つけて」
「気になる記事?」
画面をのぞき込んでもサイトはロシア語で書かれており、現地のニュースサイトみたいだ。勿論英語すらわからないのにロシア語なんてわかる訳ない。頭に?を浮かばせている俺にパイモンが読んで説明してくれた。
「ロシアの新聞の内容なのですが、クリスマスにモスクワの赤の広場にある巨大ツリーに男の死体が飾られて、モスクワ内がパニックになったようです」
「な、なんだそりゃ!」
「犯人の可能性のある人間は幼い少女みたいです。人通りのない通りで、男がその少女と話しているのを見たという通行人が一人いたそうです。ですが高さ十メートルもあるツリーに少女一人で男を縛りつけるのは不可能です。少女と男は面識もないみたいですし、それに男からは犯人のDNA鑑定に使える資料も見つかってないらしく、一概にその少女と言う訳も行かないらしいです。なので少女はもう釈放されていますが……悪魔ならば話は別です。この奇怪な事件、調べてみる価値はあると思います」
でも容疑者が女の子で、しかも少女なんて……
悪魔のせいだっていうのなら今回もかなりクレイジーだ。人の死体をツリーに飾るなんて……
しかしクリスマスの事件を今更放送するなんて遅くないか?もう一月に入ってますけど。同じことを中谷も思ったのか、口いっぱいに飯を頬張りながら問いかけた。
「でもさツリーって今頃?クリスマスって十二月じゃん。なんでパイモン見つけるの遅くなったの?」
「殺人事件自体は前から起こっていた。だが犠牲者の数も二人だったからな。そこまで睨んではなかったんだが、流石に事件が人間離れしてきたからな」
「あー確かに。でももうクリスマス二週間くらい過ぎてない?」
『ロシアではキリスト教の宗教行事はロシア正教のユリウス暦で行われます。今日の一月七日がそのユリウス暦でいう十二月二十五日に相当するのです』
へえークリスマスって国によって日が違うのか。勉強になるなあ。中谷は納得したのか、再びご飯をがっつく作業に戻る。中谷とヴォラクの気持ちのいい食べっぷりに作ったセーレは嬉しそうだ。
『では午後から行ってみますか?』
「この雪の中か!?」
ロシアって日本より寒いぞ!?俺の持ってる服で耐えられる寒さなのか!?
そんなとこに、しかも日本がこんなに雪降ってる日に行きたくない。
「明日でいいじゃん。今日は俺マジで剣の稽古する気なんだからさ」
「わかりました。主がそうおっしゃるのならば明日にしましょう」
勝った!心の中でガッツポーズ。
とりあえず今日はこのまま剣の稽古。絶対に今日中に踏み込みをマスターしてやる!と思っていたがなかなか素振りみたいに上手くいかない。やっぱ振るだけとは全然違う、足が加わっただけで何だかぴんと来なくなってしまう。これをできるようになった中谷と光太郎は本当に頑張ったと思う。
とりあえずギリギリまで頑張って練習しないとな。
***
?side ―
― 犯人今だに捕まらず ―
― モスクワに警戒態勢 ―
「ふふ」
馬鹿げた記事。そんなに騒ぎ立てることないじゃない。新聞の記事はこんなことばかりが書かれていた。
赤の広場では警官達が一般市民を外に追いやっており、ツリーを真近で見れない恋人たちや旅行客は不満を漏らす写真が載されている。それに関しては少し悪いことしちゃったかな……
「Плох для его предать.(まあ彼が裏切ったのが悪いんだしね)」
地獄で反省しなさい。
私の手には三つの魂。
「No one такой душе.(こんな魂誰もいらないけど)」
それでも頭数くらいにはなるかしら?
「Я должен собрать душу имеет значение.(もっと価値のある魂を集めなきゃ)」
そう呟いた直後、ドアをノックする音が聞こえる。
「riyuba.(リューバ)」
「Guregori」
中に入ってきたのは、最も信頼する人間。
私の契約者。
「Оно come out of работа, даже.(仕事を手伝ってくれないか?)По возможности нанять клерк магазина к вам?(店番をよろしく頼むよ)」
「Было понято.(わかった)」
私は部屋から出て行こうとするグレゴーリーを引きとめる。
「Guregori」
「Оно?(なんだい?)」
「Оно имеет полюбило.(愛してる)」
「Я этим же.(俺もさ)」
はっきりと聞こえた肯定の言葉。嘘だったら許さないから。
幾分か気分がよくなった私は彼の後を付いて一階に降りる。
「(今日はクリスマスだな)」
「(そうだね)」
「(後でケーキを買いに行こう)」
「(やったぁ!)」
グレゴーリーはあたしの反応を見て、嬉しそうに目を細める。貴方は本当に優しい人。
カウンターの椅子に座るあたしの後ろで、彼はアクセサリーを作り始める。彼が今作ってるのは、アメジストやパワーストーンを混ぜた恋愛運アップのブレスレット。それに私が願掛けをしてあげるの。
貴方の恋が上手く行きますようにって。
でも裏切ったらただじゃ済まさないから。
新聞を床に投げ捨てる。新聞のトップの一面は先ほど読んだクリスマスの記事。そこに書かれているのは『血に染まったクリスマス』。中々いいネーミングじゃない。
雪は降り続ける。そして今、お店に入ってきた女の子が一人。
「(恋愛成就のアクセサリーってどこに置いてますか?)」
「(いらっしゃいませ。恋愛成就のアクセサリーはこちらです)」




