第38話 新たな決意
ボティスを逃がし、契約者を死なせただけで最悪な終わりを迎え、エアリスに追い返されて俺達は日本に戻ってきた。
でも全員の表情は暗く、記憶が戻らない中谷と光太郎だけが顔を見合わせていた。
38 新たな決意
「つまり俺たちにはその記憶がないってことか……」
「なんだよそれ……」
「別に二人が悪いわけじゃないよ」
マンションについて、話を聞いた光太郎は肩を落とし、中谷も悔しそうにこぶしを握る。二人は稽古もして頑張ってきたのに、記憶がこれからも消えていくとなると肝心な部分を覚えられず、何もできなくなってしまう。
落ち込んでいる二人をセーレが諭しても表情が晴れることはない。
「なぁ、どうやったらその記憶を俺たちにも留めることができるんだ!?」
光太郎が弾かれたように顔を上げ、ストラス達を見つめるが、それに対してストラスは言いにくそうに瞳に影を落とす。
『悪魔と契約するしかありません。他の方法を私は知りません』
「やっぱそれしかないのかよ」
結局、そこに行きついてしまうわけだ。でも悪魔と契約するって言っても、これからまた新しい悪魔を探していくってことなのか?流石にもうこれ以上は厳しい気もする。
光太郎はストラスの返事に肩を落としたが、中谷はいい案が思い浮かんだようで顔をあげた。
「じゃあさ、お前らが俺らと契約すればいいんじゃん!と言う訳でヴォラク、契約しようぜ!」
あ、俺と契約している悪魔と契約するって言うのは確かにありかもしれない。でも正直、手放せる悪魔がいるかと聞かれたら分からない。少なくともセーレは絶対に手放せないし、それ以外となると難しい。だって全員俺にとっては必要な存在だし。
しかし俺の心配とは別に、ストラス達は顔を見合わせ溜息をついた。何か問題でもあるんだろうか。
「意味わかってんの?」
「おう!」
「わかってないね。あのさ、お前とは契約時にちゃんと説明したと思うけど?真面目に聞いてなかったっぽいけどね」
「なんだよ急に……」
ヴォラクはプイと機嫌が悪そうに反対を向いてしまった。契約時に何か話をしたと言うヴォラク。もしかして同じ悪魔と二回は契約できないとか、そんなルールがあるんだろうか。
しかしヴォラクにつっけんどんな態度をされた中谷は不機嫌そうに眉をしかめ悪態をつく。
「そんなに俺と契約すんのが嫌かよ。嫌味な奴」
「そんなんじゃねーよバーカ」
なんだこの一色即発……火花飛んでるし。お互いにフンッ!とそっぽを向き、会話は打ち切られてしまった。それを黙って見ていたパイモンだが、確認するように中谷に問いかける。
「中谷、俺は話を聞いただけだがヴォラクの元契約者らしいな。契約時にヴォラクから説明を受けなかったか?正直、お前が契約することが得策だとは俺も思わない。悪魔と契約することは契約者にも危険が回ってくるんだぞ」
「どういうこと?そんなん平気だって!ヴォラクが俺を殺すとかありえねーっしょ!」
「そうじゃない」
パイモンは首を横に振って中谷を見つめた。
「悪魔が人間と契約してる時、契約者の寿命を使って行動してるという説明は聞いてないのか?」
「は?」
え、そうだったのか?俺も知らなかったんですけど。てか俺も聞いてないんだけど!?誰もそんなの教えてくれてないよ!!
唖然としている俺達にパイモンはストラス達を見て、とっくに知っていると思っていたとあっけらかんと言い放ち、セーレもストラスとヴォラクが説明しているとばっかり……と気まずそうにし、ヴォラクもストラスが話してないのが悪いと責任転嫁。ストラスに関してはバタバタしていて忘れていたと開き直っている。
そんな大事なこと言い忘れて開き直るって可笑しいだろお前!!
仕方がないとでも言うようにパイモンが一から説明をしてくれた。
「悪魔がなぜ現世に召喚されるのに人間との契約が必要か……それは人間の力がないと、この世界に存在できないからだ。だから契約石を渡して人間と契約する。俺達悪魔は元々人間の世界と生活圏が違う。契約者がいない状態での長期間の活動は行えない。だから契約者を見つけ、契約者からエネルギーをもらい糧とする。その役割を果たしているのが契約石だ。行動するだけなら大したエネルギーは使わない。だが悪魔が大けがした場合や戦闘での魔術の使用など、大量のエネルギーが必要な場合は契約者から必要分を採取され、結果として寿命が縮んでしまうんだ。勿論他にも方法はある。人間を殺してエネルギーの源である魂を食らえば契約は不要だが、今はまあ、関係のない事だな」
「じゃ、じゃあ池上は大丈夫なのかよ!マルファスの時とか……ヴォラクたち怪我やばかったじゃん!」
確かにその話が本当なら、俺はかなりの寿命をとられたってことになる。何でそれを先に言ってくんないんだよ!?話が全然変わってくるだろ!?
「主には指輪がある。俺達はそのエネルギーを使ってるからなんの問題もない。でもお前達は違う」
あ、そうなんだ。よかったぁ……ってわけでもないが。
安心している俺とは違い、パイモンに諭されて中谷は黙ってしまった。沈黙が室内を覆い、時計の針が動く音だけが空間を支配する。いつまでこの気まずい空間を我慢しなければならないのかと思っていたが、それは後ろで待機していたシトリーによって破られた。
「もう遅いな。俺は寝るぞ、おやすみー」
この気まずい空気を読んだのか、シトリーが逃げるように立ち上がる。
なんだよシトリー、相変わらずマイペースだな。でも確かに時刻はもう朝の三時だ。学校もあるんだから、もう寝ないと起きられない。
「そうだね。もう休んだ方がいい。二人とも今日はここで寝るといい」
「俺帰る。明日も朝連あるし」
「中谷」
中谷は荷物を持って出て行こうとしたが、シトリーに肩を掴まれて足が止まる。そのまま無視しようとした中谷の首に腕が回り、シトリーに引き寄せられた。
「放せよシトリー」
「もう夜中の三時だぞ。お前の家、鍵空いてんのかよ」
黙った中谷の首根っこもってシトリーが引きずっていく。
「とりあえず、こいつは俺の部屋で寝かすわ。ヴォラクとはいたくないだろ」
「別に」
最後に嫌味を言ってシトリーは中谷を引きずってリビングを出ていった。残された光太郎もソファに横になり、ブランケットを体に巻く。
「俺はこのソファで寝るよ」
「光太郎、俺がここで寝るから君は俺のベッドを使うといい」
「別にいい。ほっといて」
顔を伏せてしまった中谷にセーレは軽く肩をすくめ、自身も部屋に戻って行ってしまった。
「主はヴォラクの部屋で寝るといい。私はストラスと少し話がありますから」
「あ、うん」
俺はいまだぶすくれてるヴォラクを引っ張ってヴォラクの部屋に向かった。
***
「ヴォラク、中谷別に怒ってるわけじゃないと思うけど?」
「わかってるよ。でもあからさますぎてスゲーうざい」
ベッドの中で俺とヴォラクは少し話をした。中谷と喧嘩をしたヴォラクの機嫌は悪く、いつもより声も低い。中谷はヴォラクのことを最初は怖がっていたけど、やっと恐怖もなくなって契約しようと言い出せるくらいに二人の関係が改善したのに、また仲が悪くなったら嫌だな。
「あいつさ、自分もしないから仲間外れとかそういうのすげー嫌いだからさ。それが悔しいだけと思うんだ」
「そんな単純な理由で俺と契約してほしくない。大体拓也に飴をまだ貰ってないしね」
「んなこと忘れてたわ」
「ちゃんと約束果たしてくんなきゃ魂食っちゃうから」
「やめろよ、こええな!」
嘘とわかってても悪魔に脅されるのはやっぱ怖い。焦る俺を見てヴォラクはケタケタと笑ったが、すぐに大人しくなった。いつもより元気のないヴォラクを見て、ある結論が浮かんでくる。中谷の稽古も自分から見ると言い出したし、中谷ともっと一緒に居たいのかもしれない。
「……なぁ、お前はさ、さっきの中谷の発言聞いて中谷と契約してもいいって思ったんじゃないか?」
「なんでそう思うんだよ」
「だってお前ら仲いいからさ」
俺の中のヴォラクと中谷はいっつもキャッキャと騒いでいる。
俺はストラスとかとそんなはしゃぐわけでもないし、セーレやパイモンも性格からして違うだろう。シトリーとはまだ友達感覚的なとこはあるが。でもこいつ等は本当に兄弟みたいに一緒につるんでるように見える。中谷がいつも一番に話しかけるのはヴォラクだし、ヴォラクがいつも一番に話しかけるのは中谷の気がする。
そんなことを考えていると、ヴォラクはポツリと話しだした。
「前、あいつを殺そうとしたじゃん。そんなの普通の人間としては……その、怖いでしょ?」
「そりゃあなぁ……殺されるなんて、まず自分が経験するとか思わないし」
「のくせにあいつも光太郎も平気で話しかけてくるしさ、また契約しようとか言いだすし、馬鹿なんだよあいつ。自ら危険に首突っ込むなんて」
「でも嬉しかったんだろ?」
いつもなら「ちげーよ!馬鹿拓也!」ぐらい言ってきそうなのに、今日のヴォラクは弱弱しい。悪魔って怖いイメージが強いけど、こいつらは本当に人間みたいだ。嬉しかったんだろう、中谷がまた自分に手を差し出したことが。
「なぁ、あのときはお前、人間殺すのが楽しいって言ってたけど今はそうか?」
少しだけ前から気になることを聞いてみた。契約の為だけに俺を守ってくれるのなら、そんなの悲しいから。人間を殺すのが楽しいと言い放つヴォラクを、見たくないから。
「……違う」
「光太郎や中谷や澪に死んでほしくない?」
「死んでほしくない。だから契約もしたくない」
「お前の優しさってわかりづらいんだよ」
すねているヴォラクがなんだか直哉みたいで、思わず弟にするように頭をなでてしまった。子ども扱いが嫌だったのか、ヴォラクはブスッとしてこっちを振り返ったが、瞳が揺れていて抑えられず大きな声が出た。
「だってさぁ!だって……こんなの初めてだもん!こんな悪魔としてじゃなくて、ヴォラクとして付き合おうとする奴らなんて……利用目的もなしに話しかけるなんて!」
「このツンデレめ!」
俺はヴォラクの頭をくしゃくしゃに撫でて抱きしめる。なんだか大切な子供を嫁に出す気分だ。でも中谷ならきっとヴォラクと今度こそいい関係を築けると思うよ。二人がそろって笑っている姿を見ると、俺も安心するんだ。
「なにすんだよ馬鹿!」
「それ、あいつにも言ってやれよ。な?」
「はぁ!?誰が言うかよ、はずいな!」
ヴォラクはイーッとすると、俺を押しのけて反対を向いて寝てしまった。それ以上は呼び掛けても反応してくれず、俺も目を瞑ることにした。
***
「あれ?中谷もう行ったのか?」
「うん。朝連があるからって」
「あいつすげーなぁ。二〜三時間しか寝てねぇんじゃねぇか?」
朝起きてリビングに入ったら、セーレがコーヒーを淹れてくれて俺は席に着いた。
既に起きていた光太郎はコーヒーを飲みながらも眠そうにしている。そこには中谷の姿はなく、話を聞けば朝練するからと早く家を出ていったらしい。こんなご飯を作ってくれてセーレは寝れたんだろうか。
「セーレ寝れた?なんか、ご飯までごめん」
「気にしないでよ。一日寝ないなんてなんともないから」
悪魔だから人間よりはそりゃ強いだろうけどさ、朝早く起きてご飯用意してくれているなんて、本当にいい奴すぎる……
セーレが作ってくれた朝食は美味しく、食べながら未だに起きることのないヴォラクについて問いかける。起こさなかったけど、良かったのかな。
「ヴォラクはまだ起きなかったぞ。いいのか?」
「いいよ。いつも九時ぐらいに起きるから。昨日夜更かしだから今日は昼まで寝てるかもね」
「シトリーもいないけど?」
「彼は勝手にやってるから別にいいさ」
あ、そうですか。シトリーだけは別行動みたいだ。まあ、あいつはバイトとかあるから一緒の生活リズムは難しいかもしれないが。俺達はセーレが作ってくれた朝ごはんを食い、そのまま学校に向かった。
「拓也、広瀬君」
「澪!」
光太郎と二人で歩いていると、声がかかった。振り返ると澪が歩いており、今日は橘さんと一緒に登校していないようだ。
朝からラッキー!!今日ついてる!
「おはよー松本さん」
「おはよう。拓也もおはよう」
「はよ!いい天気だな!」
なに言ってんだ俺……嬉しすぎてテンパって変なことを言ってしまった。
だけど澪はおかしそうに笑っただけ。
「ほんとだねー。でも相変わらず拓也元気そうで良かった。昨日マンションに泊まったみたいだから心配してたんだ」
澪はちゃんと学校に来ている俺を見て安心したように笑い、俺達は三人で登校した。教室の前で澪と別れて教室に入ると、なぜか中谷がそこにいた。あれ?朝練あんじゃなかったっけ?
俺はいつも早く登校してる藤森に聞くと、コソッと耳打ちしてきた。
「なんで中谷いんだ?」
「なんか監督に怒られたらしいぜ。やる気ないなら朝練くんなってさ」
やっぱり気になって仕方ないのかもしれない、中谷は怒られて朝練を追い出されたようだ。
机に突っ伏している中谷は眠っているようにも不貞腐れているようにも見えた。
***
澪side ―
「澪、ノートありがとう」
「ううん。いいよー」
三限目が終わって、あたしは教科書をしまっていた。
そんな時、あたしの名前を呼ぶ声が聞こえ、声がする方に顔を向けると中谷君が立っていた。
「松本さーん、教科書かして」
時々中谷君は教科書を借りに来る。その時にいろんなことを話してくれるから、結構中谷君とのこの時間はあたしにとっては貴重なものだ。拓也は嘘をつかずに教えてくれるけど、それでも心配させない様に最低限の情報しかくれないから。中谷君に細かい話を聞いているのだ。
今日も教科書を忘れた中谷君の元に自分のものを持っていき、拓也たちの話を聞こうとしたけど、いつもと違う中谷君に聞こうと思っていたのとは別の言葉が出た。
「中谷君?どうかした?」
聞かれたくなかったのかもしれない。中谷君は、小さく首を捻り、小さな声でつぶやいた。
「ちょっと、いろいろあって……」
「悪魔のこと?」
小声で聞いてみると、少し笑っただけだった。多分Yesってことだろう。
「なにか悩んでるんなら聞くよ。役には立たないかもだけど」
「……じゃあ少しだけいい?」
中谷君は少し困ったような顔をして遠慮気味に言ってきたので、あたしは保健室に行くから四限目は遅れると裕香に言って、中谷君と中庭に向かった。
やっぱり授業があるのか中庭には生徒はほとんどいなかった。それでもさぼり場所のここにはいっつも誰かしらいるけど、そのなかでも隅っこに歩いて行く。ここは死角になっていて、窓から見えないんだ。そこに座りこむと、中谷君は少しずつ話しだした。
今回の悪魔のこと、消えてしまった娘さんのこと、その記憶がないこと、ヴォラク君に契約を断られたこと、寿命が縮まること。全てを聞いて自分まで落ち込んでしまう、また拓也達はそんな辛い目にあってたのか。
「なんか悔しい」
「松本さん?」
「だってあたしはその場にすらいなかったんだもん。拓也達の悲しさもわかってあげられない。励ますこともできない。やっぱり待ってるだけじゃダメなのかなぁ……」
「そんなことないと思う」
「ごめんね。逆に愚痴っちゃって」
今辛いのは中谷君だ。あたしじゃない。文句を言ってもしょうがない。わかってるのに……中谷君は鼻を鳴らしながらまた話す。
「寿命縮まっちゃうとか怖くて……」
「うん」
そんなの聞いて、怖くない人なんているのかな。絶対いない。自分の寿命が短くなるのに、平気ですって言えるわけないよ。でも、契約しないとこれからも悪魔の記憶は抜けていくんだろう。
「でも記憶がないのが悲しくて、蚊帳の外みたいで結局役に立てなくて……」
「そんなことないよ。中谷君たちいなきゃ拓也きっとここまで来れてないもん」
「俺がどこまでできるかわからないんだ。それでも、俺を助けてくれた池上を助けたいんだ。でも、寿命が縮まるのを理解したうえで契約するのが怖くて……どうしていいかわからなくて。このまま、都合がいい時だけ手伝うなんて中途半端なことを続けるのも嫌なんだ」
複雑な胸の内を打ち明けてくれた中谷君に、あたしも拓也にも言えなかった不安を初めて誰かの前で口にした。
「……あたしはすごく怖い。前、シトリーさんが女の人を殺したの。今でも忘れられない。あたしね、拓也に家まで送ってもらった後、家で何回も吐いて、ずっと泣き続けた。今でも忘れることなんてできない。なんで付いてったんだろうって。あれからね、何かが止まってるんだ。拓也を助けなきゃって思ってるのに、あと一歩が踏み出せない。勇気が出ないの……」
「池上は……やっぱもう違うのかな」
「中谷くん?」
「だって昨日マンションについた頃には何もなかったような顔してたんだよ!きっと慣れちまったんだ!もう俺たちとは違うんだ!」
拓也はきっと違う、それはなんとなく感づいてる。だって拓也はサミジーナを倒したんだもん。悪魔を倒したんだもん。少しずつ、拓也の日常が壊れていくのがどうしようもなく怖いの。そのうち、誰かが死んでも涙一つ流さないような人になってしまったらどうしようって、優しい拓也がいなくなっちゃうんじゃないかって、それが怖くてたまらない。
「でもあたしは拓也の味方でありたい。だってこんなの……あたし達しか知らないでしょ?悪魔のことも、力ではまったく役に立てないんだもん。せめて信じるくらいはしたい。中谷君は剣の稽古してるんでしょ?羨ましいよ」
「どっかで憧れてたんだよ。そんなすごいことの中に自分がいるなんて……空飛ぶのも、いろんな国に行くのも、悪魔の姿見るのも、怖いもの見たさだったんだ」
「それでもいいよ。それでも拓也は心強かったんだから」
一人じゃないことを知ったとき、きっと拓也は嬉しかったと思う。あたしと違い、中谷君と広瀬君にはついてくるなと言わないのが証拠だろう。拓也も一人は怖い、だから二人が一緒に居てくれるのが心の支えになっている。
中谷君はあたしの言葉に小さく頷いて深呼吸をした。
「今までも覚悟はあったんだ。でも中途半端な覚悟だった。でももう決めた、迷わない。俺はヴォラクと契約する」
「でも、契約するならセーレさんとか戦わない人の方がいいんじゃないの?だって怪我の回復とかにエネルギー使うんでしょ?」
中谷君はそうだけど。と言っていつものように笑った。
「契約するのはあいつしか考えらんないんだ」
中谷君とヴォラク君はやっぱり仲がいい。
そのままあたし達は四限目は出なくて、二人で中庭で話していた。
***
中谷side ―
「中谷、お前どこ行ってたんだよ。連絡くらいしろよ。探したんだぞ」
松本さんと四限をサボって解散した後、教室に帰る途中、購買の前を通ったら桜井に声をかけられた。いつも購買に行くメンバーに俺がいないから探してくれていたみたいだ。携帯を教室に置きっぱなしだったから気づかなかったんだ。
「え?ごめん」
「ったくよー。購買行くのか連絡しても返信返ってこねーしよー。一応コロッケパンは買ったんだけど、いる?」
「マジで!さんきゅー!」
目の前にぶら下げられたコロッケパンはたいそう魅力的で、手を出そうとしたらスカッと避けられた。見せびらかすようにプラプラ揺れているコロッケパンの後ろには歯を見せて桜井が笑っている。
「金払ってからー」
「ちゃっかりしてんなぁ」
桜井は当たりめーだろといってケタケタ笑っている。でもなんだかんだでこうやって買ってくれるとこがこいつのいいとこと思う。
池上達にも迷惑掛けたな……ちゃんと謝ろう。ポケットに入っていた財布から金を払い、桜井からコロッケパンを貰うと、欲しいものを買い終わったのか、立川が俺たちのところにきた。
「あ、なっかたっに章吾くーん。池上達探してたぞー。早く行ってやれよ」
立川は俺を発見するなり、ポケットからチロルチョコを出して、俺の手に置く。
「あ、そうそう。これやるよ。お前好きだろ?」
「マジで?いいんか?」
「おう。やるよ」
「さんきゅーな」
俺はチロルチョコとパンを持って教室に向かった。
池上と広瀬は弁当をまだ食べておらず、二人で話をしていた。どうやら俺を待ってたらしい。椅子もちゃんと用意されている。なんかくすぐったいや。
「あ、中谷、その……」
池上は少し、気まずそうに頭を掻いた。昨日のこと気にしてるみたいだ。
もう気にしなくていいよ、その意味を込めて俺は笑って首を振った。
「遅れてわりーな!席さんきゅーな!」
自分のカバンから弁当箱を取り出して、椅子についた。池上と広瀬は俺の急な変化に目を丸くしたが、俺はニコニコしたまま。なんか吹っ切れたや、悪魔でも何でもかかってこいっつの。もう絶対に迷わない。
このまま俺は真っすぐ突き進んでやる。
絶対出来る気がするから。
池上も広瀬も松本さんもいるし、ストラスやセーレ、シトリーにパイモン、それにアイツもいるし。
そう考えると、怖いものなんてないと思えた。
稽古がんばろう。絶対にもっともっと強くなろう。
こいつ等を守れるように。こんないい友達をなくさないように。
父さん、母さん。
俺はいま、自分から大変なことに首を突っ込んでいます。でもいい友達もいて……俺、とっても幸せです!!




