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第32話 歪んだ愛情

 あの悲惨な事件から家に帰ってきた。やっと解放されたのに、あの事件が忘れられない。今も目をつぶればあの光景を思い出して、眠ることすら恐ろしい。飯だって喉を通らないし、睡眠だってとれない。

 悪魔と戦うってこういうことなのか。こんなことがこれから先続くのか?

 

 パイモンは俺を最後まで守ってくれるわけではなさそうだった。あの冷たい目に捉えられた時、恐怖で一瞬息が止まったんだ。自分に命令しろとあいつは言ったけど、その言葉すらどこまで信用できるか怪しい。あいつにとってはルシファーの命令が第一で……もしルシファーが俺を連れて来いって言ったらパイモンは嫌がっても無理やり連れて行くのか?駄目だ、考えがまとまらない。辛い、辛い。



 32 歪んだ愛情



 ばれてはいけない。無理をしてでも笑わないといけない。リビングへつながる扉の前で深呼吸する。いつも通りふるまえ。母さんたちに心配をかけるな。


 「おはよう」


 エジプトから帰った日、飯も食わずに部屋に閉じこもった俺を母さんが心配しないはずもなく、最初は複雑そうな表情をしていた母さんも普段と変わらない振る舞いを心がければ、安心したように笑った。


 「早く飯ちょーだい、時間ないから」

 「ん、わかったわ」


 食パンにかじりついてついているテレビに顔を向けると、朝のワイドショーはエジプトの爆破テロによる死傷者数や状況などを流していた。不幸中の幸いなのかシャックスが一般人を殺害し操っていたせいで、悪魔の姿の目撃情報はなく、俺がつかまっていた映像なども流れてはいない。

 でも違うチャンネルに急に変わり、リモコンを持っている母さんを見て気を遣わせているのを再確認する。チャンネルが変わって別のワイドショーでは足立区の行方不明の女子高生についてを取り上げていた。


 『現在、まだ女子生徒の行方は知られておらず警察は……』

 「あ、おとといのニュース。こえーよなー……この子かわいーって皆言ってたのに。んじゃ行ってきます!」


 母さんの返事を聞く前にリビングから走って出ていく。空元気って多分気づかれてるだろうな。でもいいんだ、俺はできる限りはやれたんだから。

 一人になってから急激に心細さと苦しさでまっすぐ前を向けず、下を向いてとぼとぼ歩きながら学校に向かう。気持ちが晴れない、また涙が出そうだ。

 

 「池上!」


 急に背中を叩かれて振り返るとクラスメイトの桜井が手を振っていた。桜井の家はこっちじゃないのに、誰かの家にでも泊まっていたんだろうか?

 できるだけ顔を下げて挨拶をしたが、俺の赤い目を見て桜井は心配そうにのぞきこんだ。


 「おい、お前どうしたんだよ。誰かに何かされたのか?俺に任せろ、ぶっとばしてやるぞ!」


 俺が泣いていたのに気づいた桜井は自称腕っぷしに自信があるらしく、目の色を変えて憤慨している。友人想いの桜井のことだ、本当に俺が誰かに何かをされたのなら殴り込みに行くだろう。でも、真実を言えるわけない。テロにあったとか、みんな死んでしまったとか、人質にされたとか、銃で撃たれたとか。頭の中にグルグル回る恐怖。だめだ……笑えない。

 すると桜井が急に俺の手を引いてどんどん学校とは逆方向に向かう。


 「お、おい!そっちは学校じゃねーぞ!」

 「駅前にスタバできたんだぜ?知ってるか?」

 「いや……」

 「行こうや。期間限定のマンゴーのみてえ。学校なんかくそくらえだ!俺たち普段真面目な高校生なんだし、年に一回くらいサボったってバチ当たんねえよ!俺は皆勤賞なんて狙ってねえ!」


 気を遣わせてる……桜井は空気の読める奴だ、励まそうとしてくれてるんだと分かり、なんか罪悪感を感じる。それでもこんな状態で学校に行くよりはスタバに行った方がよっぽど気分転換になると思い、抵抗せずひかれるがままスタバに歩いて行った。


 ***


 「うめーなぁコレ!」


 桜井はマンゴーを飲み、それを見ながら俺もカフェラテに口をつけた。スタバの店員は制服を着た俺たちを見て最初は首をかしげていたが、何も言わずに注文を受けてくれた。桜井は何も聞かない。テストのこと、家のこと、上野たちと遊んだ時のこと、面白おかしく話して、場を和ませようとしている。


 「なぁ今度また勉強会しようぜ。立川ん家で」

 「そう言ってなったためしがないじゃん!」

 「今回は広瀬に遊んだら怒ってもらうからよー」


 光太郎にそんなことばっかさせてたら過労で死んじまうぞ。でもなんか気分が少し晴れたや。普通の生活に戻ってる感じだ。俺達は昼まで話し、結局学校には行かずにそこから公園に行った。担任から連絡がいってるかもだけど、そこは帰ってから怒られよう。

 公園は桜井が保育園の時によく立ち寄っていたとこらしく、今でもだべりに使うらしい。


 「そんでさぁーこのブランコで足引っ掛けてさぁ〜」

 「馬鹿じゃん!」

 「てめえ!純粋な子供心を……!」


 桜井が立ち上がって俺に掴みかかろうとすると、公園の出入り口を誰かが突っ切り、知り合いだったのか桜井はそいつを見ると大声を出して手を振った。


 「あれ?亮太?亮太―――!」

 「あ、なんだ雄一か……」


 急な大声だから亮太と呼ばれた少年は肩を震わせ、恐る恐るこっちに顔を向けたが、相手が桜井だと分かると胸をなでおろした。背は百七十ないかな?髪はショートボブ。少しおどおどしている姿はめちゃくちゃ気弱そうに見える。制服は足立区の名門私立校の制服だ。

 この時間に帰っていると言うことは学校が終わったのか?でもまだ十五時だけど。この公園からは徒歩だと三十分はかかる場所にある学校のため、実際に学校が終わったのはもっと前なんだろう。


 「なんだよサボリかよ?俺らと一緒だな〜。つかまだ見つからないのか?真由さん」

 「え?あ、うん……」


 少し気まずそうに顔を伏せ、そいつは頷いた。なんだ、サボりなのか。俺たちと一緒じゃん。結構見た目によらず悪いことしてんだな。

 二人が何の話をしているのか気になった俺は話に首を突っ込み、桜井に問いかけた。


 「何の話?」

 「ほら、今ニュースになってんじゃん?足立区の十七歳の生徒が行方不明って」

 「うん。って……えええぇぇえ!?ここの高校!?」


 あ、確かに行方不明の女の子の写真、こんな感じの制服着てた気がする!


 「らしいぜ。ニュースでは高校名までは出てなかったからな。しかもマドンナって呼ばれてる子らしいんだよ、後藤真由ちゃん。写真でみたらめっちゃかわいいんだぜ!」

 「見た見た!可愛かったし!あの子大丈夫なのかな」

 「そうだな……」


 同じ学校ならば朝礼や集団下校などいろいろと面倒なことになっているはずだが、肝心の亮太は目をそらし、しどろもどろに答えた。その姿はとても同じ学校の同級生が行方不明になったと言うのにはあまりに関心がないように見える。


 「じゃあ俺もう……」

 「あ、うん。がんばれよー」


 桜井は手を振って亮太を見送ったが、姿が見えなくなったことを確認して振り返った。


 「あいつ幼馴染で一歳年上なんだけどさー、あんな感じで頼りねーから、いっつも俺の陰に隠れてたんだよ」


 いきなり始まった昔ばなしみたいな語りに、そうなんだ。とありきたりな返事になった。確かに気の弱い亮太にガキ大将タイプの桜井。すぐにその現場が想像できた。


 「流石に高校になったらそんなこともないけどな。高校も違うし」


 桜井は何が言いたいのだろう。悪口を言いたいわけでもなさそうだし、褒めたいわけでもなさそうだ。けど、何かを伝えたいのだろうと言うことは分かる。桜井は何かを考えた後、結審したように顔をあげる。


 「なあ池上、なんであいつさカップ麺二個も持ってたんだと思う?」


 え、二つあったっけ?コンビニの袋持ってるってことは分かってたけど。でも高校生男子ならカップ麺二つくらい、食おうと思えば食えるんじゃないか?中谷とかなら三つは余裕で食えると思うけど。


 「腹減ってんじゃね?それか家族の分とか?」

 「そうか、そうだな!…………」

 「桜井?」

 「いや、なんでもない。ゲーセンでも行くか!」

 「おう」


 桜井が何を言いたかったのかは分からず、結局はずらかされたが、これ以上突っ込む必要もないし……まぁいいか。


 ***


 「ただいま」

 「お帰りー!」

 「学校の先生から連絡があったわよ。どういうつもり?」


 直哉はストラスを頭にのっけて玄関でお出迎え。そしてその後ろにはラスボスが仁王立ちしている。

 やべえ、すっげえ母さん切れてるよ……

 言い訳も何もできず、がみがみ母さんに怒られている間もストラスは直哉の頭の上で助け舟を出すわけでもなく呑気に眺めているだけだ。三十分後、母さんから解放された俺はストラスを睨む。


 「なんだよストラス、直哉の軽い頭が気に入ったのか?」

 『離れようとすると怒るのです』


 あっそ。まるで直哉の頭に巣でもあるかのように張り付いているストラスは離れる仕草をするが、直哉に押さえつけられ断念した。なるほど、そういう事か。

 直哉は俺と母さんのやりとりを見ていたはずなのにニコニコしてクッキーを食べている。食べかすこぼしたら叱られんぞ。俺は自分の部屋に向かい、寝間着に着換えた。


 『拓也』


 振り向くと直哉から離れたストラスが俺を見ている。口がもごもご動いているのは恐らくクッキーを食べているからだろう。

 ストラスは少し神妙そうな表情を浮かべている。


 「なに?」

 『……無理をしているのではありませんか?』

 「無理?」


 核心をつかれて肩が跳ねる。声、裏返ってなかったかな?

 ストラスは大して気にした様子はなく、ぽつぽつと話し出す。


 『言いたくなければいいのです。私の勘違いかもしれませんし……でも母上も心配していました。何かあれば相談してください』


 ストラスが気を遣っているのは分かる。だけど、やっと忘れようとしていた記憶が掘り返されたように感じて、その心配を無碍にするような言葉を返してしまう。


 「……思い出したくないんだよ。もう、何も思い出したくない。蒸し返さないでくれよ。忘れようって必死なんだよ」

 『そうですか……そうですよね。無理にとは言いませんが……すみません拓也』


 言い過ぎた。そう思って謝ろうと振り返った先にはストラスが背中を向けてペタペタと歩いていた。その背中は丸く、哀愁が漂っている。パタンと音を立てて閉まった扉からはそれ以上何も音は聞こえてこず、ベッドに横になって頭を抱える。

 

 いや、俺頭おかしいだろ。心配してくれたストラスにあんな当たるようなこと言って……人としてどうなんだよ。床にズルズル腰を落として、膝に顔を埋めた。こんなのが続くなんて頭がおかしくなりそうだ。たった一回の経験なのに、余裕がなくなってあんなに当たってしまうなんて。でも思い出してしまう、人が斬られていったのが脳裏によみがえる。血が噴き出る瞬間が焼き付いて離れない。煙も血の臭いも、すべてがまだ鼻に残っている気さえする。


 忘れようって自分では言ったけど、こんなの忘れられる訳がない。なんでストラス平気なの?パイモンは最後まで俺を守ってくれんの?あぁ駄目だ。気分悪い……

 その後、母さんが飯を作ってストラスも一緒に夕飯を食べたけど、俺は謝る機会を見つけられなくて結局一言も話さずに夕飯を終えた。寝る時どうすんのかな?直哉の部屋で寝んのかな。案の定、ストラスは直哉の部屋で眠ったらしく、俺の部屋には来なかった。


 ストラスのいない部屋はなぜか広く感じられた。


 ***


 「おはよう」

 「あら拓也、おはよう。今日は和食よ」


 朝から和食って珍しい。母さん時間あったんだな。

 出された味噌汁をすすりながらテレビをつける。テレビはエジプトのことと……


 「またこのニュースか」


 足立区の行方不明の少女のこと。

 母さんも複雑そうな表情でニュースを眺めている。


 「怖いわねぇ。この子、勉強も出来て、かわいくて人気者らしいわよ。誰かが誘拐したんじゃないかって話になってるみたいね」

 「桜井が言ってた。マドンナって言われてるらしいよ」

 「あらそうなの。無事に見つかるといいわね」


 それからはいつもの通り、今日はきちんと学校に行って普段通り過ごして、中谷は部活に行って、光太郎は塾に行って、俺はそのまま大人しく帰宅……しようとしたんだけど。


 「なぁ上野、桜井どうしたんだ?」

 「なんか幼馴染がどうとか……詳しくは俺も知らないんだけど、ヤバいもん見たらしいぜ?」

 「ヤバいもん?」

 「そこまでは俺も知らないんだけど……ヤッてる現場にでも遭遇したんじゃねえのー?」

 「うわー修羅場」


 桜井、明らかに目が遠くに行っちまってる。昨日までは元気だったのにどうしたんだ?普段なら仲のいい上野にちょっかいかけに来るのに、今日はずーっと机に突っ伏して動く気配はない。昼休みだってあんな感じだった。風邪でも引いたのか?とも思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 俺と上野は気配を消して桜井に近寄り、話しかけた。


 「桜井〜どうした〜?」

 「あぁ、池上と隆司か。実は…………いや、なんでもねえ」

 「いやいや言いかけただろ。なんだよ言えよ」


 あまりに煮え切らない態度に俺と上野はブーイング。そんな俺たちに桜井は力なく笑い、誰にも言わないか?と釘をさしてきた。


 「言わないって」

 「内容による」

 「隆てめえ!!まあいいわ。じゃあついて来てくれ」


 俺達は何かな等と軽くはしゃぎ、桜井の後を付いて行った。

 でもついて行かなきゃよかったことを嫌というほど思い知らされる。


 ***


 「あれ?ここってお前の家の近くじゃね?」


 ついていった先は閑静な住宅街だった。上野は桜井の家の場所を知っているらしく、見たことのある道に目を丸くしている。桜井は一軒の立派な家の前で立ち止まり振り返った。え、桜井の家でかくね?こいつ金持ちだったんかよ。


 「隆司も池上も知ってるよな。俺の幼馴染……ここあいつの家なんだ」


 え、あの幼馴染、すげえ金持ちなんだな。まあ確かに有名私立校に通っているくらいだ。俺みたいな一般人よりも裕福な家庭なんだろう。幼馴染の存在は上野も知っていたようで、あーと声をあげて思い出したように顔をあげた。


 「あー、あの気ぃ弱そうな……どうかしたのか?ついに登校拒否ったか?」

 「そんなんじゃねぇよ。てかもっとヤバい……かな」

 「やばい?」


 上野の失礼な一言を咎めることもなく、桜井は折角来たと言うのに場所を移動しようと言って、人通りの少ない道路まで歩いた。


 「なんだよ。家の前行った意味あんのかよ?」

 「あのさ、信じてもらえなくってもいいけどさ……もしかしたら亮太がその、真由さん監禁してんじゃないかなって」

 「「はぁ!?」」


 真由ってあのニュースのかわいい子だよな!?どういうことだ!!?

 上野がアハハと笑い、桜井の肩を叩くが、桜井は顔を真っ青にして固まったまま。


 「おま……何かの間違いだろ。お前の幼馴染は犯罪しそうな奴なのかよ」

 「んな訳ねえだろ!でも昨日さ、池上と別れた後、亮太ん家に行ったんだ。そしたら鍵空いてて、亮太もいなくて……ガキの頃から何回も遊びに来てて、亮太いなかったら今までも勝手に上がってたこともあるくらいだったから今回も勝手に家ん中入ったんだよ。そんでなんか屋根裏から音がすると思って覗いたら……そ、そしたら……」

 「い、いたのか?」


 俺と上野は息をのんで話の続きを催促する。


 「よく見えなかったんだけど……でもあれは真由さんだった。でさ、ここからがその……問題なんだけど……」

 「なに言ってんだ!もう十分問題だろ!ニュースになってんだぞ!警察に行くべきだろ!てかまず家族気付かねえのかよ!?」

 「亮太の親父、夜遅くに帰ってきて、すぐに風呂入って寝ちゃうんだ。屋根裏なんかのぞかねぇよ。黙ってれば絶対にばれない。き、聞いてくれって。俺その部屋で化け物見たんだ」

 「はぁ〜?人形じゃね?」


 上野は冗談だろうと笑い飛ばしたが、目を丸くした。まさか、こんな近くに……クラスメイトの幼馴染が契約者とか悪い冗談ないよな?嘘であってほしい。


 「人形じゃねえって!動いてたんだ!真由さんを監視するみたいに!真由さんメチャクチャ怯えてて……俺も怖くなって逃げてきた……」

 「……警察に言おうや。その化け物のことも屋根裏調べたらわかることだしよ」


 もしかして本当に悪魔なのか?でももし本当なら、警察に言うなんて絶対に駄目だ。

 しかし上野の言葉を駄目だと言う前に、桜井が言葉を遮った。


 「だ、ダメだって!んなことしたらあいつ一人になっちまうだろ!」

 「一人?」


 桜井は顔を伏せ、少しずつ話しだした。


 「あいつさ、小さい頃に母親が蒸発してさ、若い男とどっか行っちまってんだよ。父親は働いてるし、家に帰るのもいっつも遅くて、あいつ餓鬼の頃から大変だったんだよ。父親との関係もあんまりよくねえんだ」

 「そんな事情俺が知るかよ。だからって監禁はねーだろ。犯罪じゃねえか」

 「そうだけど!でも……俺が警察に言ったら亮太は捕まる。親父さんも見放したら亮太一人ぼっちだ。そんなことできない。だから説得できるようにお前らに相談したんじゃねえか」


 思った以上に重い相談に俺は上野と顔を見合わせた。そんなの、亮太をしらない俺達が同行できると思えないけど……桜井は暗い表情のまま固まっている。

 でも桜井の言葉に俺達はそれ以上、何も言えなくなってしまった。それにたとえ説得がうまくいっても被害者の真由さんが警察に訴えれば亮太さんはどのみち捕まってしまうのは避けられない。正直、俺たちがどうこうできる問題じゃないと思うんだけど。悪魔の件以外では……


 「早く元の亮太に戻ってほしいんだよ!あいつあんなことする奴じゃないのに!」

 「でも犯罪だろ!?俺らが説得して下手に刺激させたらどうすんだよ。警察に言った方がいいって。どうしてもって言うなら明日までになんとかしろよ。俺も今日一日説得できそうな案を考えてみるわ」


 上野は気まずそうに頭をかいて、じゃあな。と手をあげて帰路についた。


 「俺……説得できるかな?」

 「大丈夫だよ桜井。上野はいい奴だし俺も協力するよ」

 「ありがとな池上」


 桜井は小さく笑って、今日は帰ると手を振った。一刻も早く報告しなくちゃいけない。上野が明日までに解決しなかったら警察沙汰って言ってるんだ。明日までにはなんとかしないと。

 とりあえず、今日は桜井がカマをかけてやってみるとのことなので、俺も一度家に帰って方法を考えて明日亮太さんの所に行くと約束して家に帰った。


 ***


 「ストラス」

 『拓也、お帰りなさい』


 家に帰ったストラスは俺の部屋でくつろいでいたけど、俺が部屋に入ったのを見て、移動をするためにペタペタ歩き出す。やっぱりこれって避けられてるんだろうな。

 ストラスを持ち上げてベッドに腰掛ける。急に抱き上げられたストラスはきょとんとしていた。ふわふわの毛並みがなんだか懐かしく感じて、目の奥が熱くなる気がする。言わなきゃいけないことが沢山あって、でもまずは謝らないといけない。


 「昨日はマジでごめんな……八つ当たりしたって自覚はあるんだ」


 俺の言葉にストラスは目を細めて笑う。気にしないでいいと言ってくれているのがわかり、胸が暖かくなる。


 『貴方は悪くありません。気持ちの整理ができない状態で気の利いた言葉をかけられなかった私の責任です。貴方がまた私に話しかけてくれてよかった』


 すり寄った暖かい体温に安心して涙が溢れてきてストラスの体に顔を埋めて少しだけ泣いた。ストラスは何も言わずに抱き枕になってくれていた。十分程度そんな状態が続き、やっと気持ちが落ち着いた俺は桜井の話を切り出すために顔を上げた。


 「あのさ、なんか桜井がさ、化け物見たって言っててさ」

 『桜井?』

 「俺のクラスメイト。なんか今ニュースになってんじゃん。足立区の行方不明の女子高生。監禁してるかもしんないって奴が桜井の幼馴染でさ。桜井がそいつの家に行った時に化け物見たって。そいつもそんな監禁なんかする性格じゃないって言ってたし……もしかしたら悪魔かなって」

 『監禁、執着……ふむ……』


 ストラスは考え込むように首をひねり、とりあえずその家に連れて行けと命令した。


 ***


 「確かここら辺だった気が……あ、あの家!」

 『見たところ普通の家ですが』

 「……あれ桜井の幼馴染の亮太ってやつだ!」


 指さした先には亮太さんの姿があり、手にはコンビニの袋を持っている。今日もコンビニか?


 「池上」

 「のぅわ!って桜井!」


 急にかけられた声にこっちの声がひっくり返ってしまった。桜井は俺の肩に乗っているストラスを見つけて声を出した。


 「あ!!前に学校来てたフクロウ!お前のペットかよ!!」


 覚えてたんかい!

 俺は否定をすることもなく、話をそらし桜井に問いかけた。


 「なんでここに?」

 「なんでって……俺ん家この近くだし、まあ様子を見に……」


 桜井は頭を気まずそうに掻いて、心配そうな顔をした。


 「だって亮太のこと上野が言うって言ってたし……」

 「雄一なにしてんの?」


 目の前には亮太の姿、なんでばれた!?結構距離あったはずなのに!!こいつ忍者かよってくらい気づかれずに背後に回ってるぞ!!

 桜井は真っ青にして亮太に指をさした。


 「なななななな……なんで!?」

 「なんでってあんな大声出したら……」

 「池上ィイイ―――――――――――!!」


 俺のせい!?確かに大声出したの俺だけど!


 「い、いやー……ちょっと散歩もいいかなぁって」

 「そ、そうそう」


 桜井、目が泳いでる。こんなんじゃ怪しいって思われても仕方ない。案の定、亮太は顔をしかめて俺たちを見ている。俺達はそれから目をそらすように視線をずらすと、コンビニの袋が目に入った。

 桜井が言っていた通りだ。コンビニの袋の中には沢山の食品が入っている。


 「おにぎり……こんなに」


 何個あるんだ?六個くらいある。他にも菓子パンやスナック菓子にチョコレート、プリンにジュース、コンビニの袋の中には入り切れずはみ出している食品に目が行く。相当な大食いならわかるが、亮太という人間は見るからに線が細く、これだけの量を普段から食べているようには見えない。だから気になってしまい、俺はついうっかり呟いてしまった。

 その言葉に亮太は途端に真っ青になって袋を後ろに隠した。なんでそんなに慌てるんだよ。まさか……


 「俺が食べるから……もうなんなんだよお前ら!人のこと嗅ぎまわって、何がしたいんだよ!?俺のことは放っといてくれよ!」

 「嗅ぎまわる?」


 亮太はそう言い残し、家の中に走って入ってしまった。


 「なんであんなに慌てんだよ。しかも嗅ぎまわるなって……」

 「気づいてたんだ」


 桜井はハハッと青ざめて笑った。


 「やっぱり亮太が真由さんのこと……」

 「さ、桜井……」

 「やばいって、やばいって!どうしよう池上……このままじゃ亮太」


 桜井は完全にパニックに陥っていた。


 「大丈夫だって!絶対になんとかなるから」

 「でも……」


 そうは言いつつも、どうやって調べるべきなのか。

 あのままじゃ亮太さんを説得する前に上野が警察に連絡する方が間違いなく先だろう。

 急いで悪魔かどうかを見極めないと……


 時間がない。


登場人物


桜井雄一…拓也のクラスメイト。

      立川、藤森、上野とつるんでいて、特に上野と仲がいい。

      空気の読める奴で、誰にでも気さくに話しかける。

      

上野隆司…拓也のクラスメイト。

      席が拓也の後ろなので、桜井達4人組の中で、拓也と一番仲がいい。

      桜井達といつもふざけあっている。

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