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第31話 信頼か忠誠か

今回アラビア語が出てきます。

でも全く変換ができずに文字化けしてしまったので、アラビア語の部分は外しました。

「()」と表記されていう部分がエジプト人がアラビア語を話していると思って読んでください。

 『ヨルダンとシリアの内戦についてです。未だに膠着状態が続いており、難民が増え続けていることに周辺国は不安の声をあげています。各国は難民受け入れの体制を強化するとともに、和平へ向けての話し合いを設けるなどして紛争の終結を目指しています。次に都内の女子高生が行方不明になっている事件では、未だに目撃情報を含め手掛かりを掴めず、警察では捜査の地域を広げています』


 朝のニュース番組は相変わらず暗い内容ばかりで嫌になる。海外の戦争事情だの、女子高生が行方不明だの明るい話題はない物なんだろうか。自分の生活は平和なのに、世界は事件で溢れている。

 でもエジプトの件に関しては、まだ大きなテロみたいなものは怒っていないようで、日本ではニュースになっていない。



 31 信頼か忠誠か



 テレビには行方不明になっていると言われている少女の写真が写っており、情報提供を呼び掛けている。すげえ可愛い子だな。十七歳ってことは年上か。

 黙ってテレビを見て入る俺の前にデザート代わりのヨーグルトが置かれ、母さんに礼を言ってスプーンを手に取る。


 「怖いニュースばっかりね。足立区の高校っていったらここから近いじゃない」


 え?本当だ、足立区だ。都内の事件と言われてもピンとこないけど、区で言われるとなんだか身近に感じてしまう。そうだね、と返事をしてヨーグルトを食べている俺に母さんは言葉を投げた。


 「拓也。貴方いつから行くつもりなの?」

 「へ?」


 急に話しかけられて素っ頓狂な声しか出なかった。そんな俺に緊張感がないと頭を抱えながら、母さんはもう一度、質問をした。


 「エジプトに行くんでしょ?お弁当作ってあげるから」

 「弁当?あーそっか」


 なんか母さんとこんな話するなんて思わなかったな。行く時間とか、どのくらい滞在するとか、そういったの考えてなかった。セーレがいるから腹が減ったら帰ればいいし、くらいの感覚。

 母さんは俺がソロモンの悪魔と契約をしていると言う話を聞いてから、ソロモン七十二柱のことをネットで調べまくっており、俺は契約している悪魔の能力についても報告している。

 だからセーレの能力についても理解しているはずなんだけど、あっちに長居すると思ってんのかな。


 「夜と思う。七時間の時差があるから」

 「七時間……やだ。夜中に帰ってくるの?」

 「うーん……日を跨ぐ前には帰れるんじゃない?」

 「じゃない?じゃなくてねぇ……もういいわ。時間までにお弁当作っとくから」


 気ぃ遣わせてごめん。その言葉は言わずに母さんの後ろ姿を見つめた。


 ***


 「さて、そろそろ行くか」


 夕方の十八時三十分。俺は漫画をしまってベッドから起きた。正直緊張で何をしても手付かずだったが、それでも時間は流れていくものだ。部屋にストラスもいないし話し相手もいなかったから。ストラスは、と……直哉だな。

 直哉の部屋に向かうと案の定、直哉はストラスを掴んで振り回していた。哀れストラス……


 「直哉、ストラス返せ」


 俺の姿を見たストラスはまるで救世主が現れたかのように破顔し、猛スピードで俺の頭に飛び乗った。子供のお守りは随分大変だったらしい。ストラスに逃げられた直哉は残念そうに唇をとがらせている。


 「えーもう?ストラスともうちょっと一緒にいたいのに」

 『十分一緒にいましたよ』


 あ、ストラスぜーぜーしてる。かなりきつかったんだな。心なしか普段よりも足に力が入っている気がするし、意地でも俺の頭から降りないと言っているみたいだ。

 直哉に行ってきますと告げてリビングに降りると、台所には運動会の時に使う巨大な弁当箱が置いてあった。誰がしてくれたかは容易に想像できる。


 「あ、拓也。お弁当、そこにあるわよ」


 やっぱり。

 洗濯物を畳んでいたらしく、母さんはリビングから顔をのぞかせた。


 「ってかこの大きさ」

 「あんた一人で行くんじゃないでしょ?皆の分よ」


 ありがたいけど。ありがたいけどさぁ……

 とりあえず俺は弁当の袋を持って家を出た。


 「気をつけてね……本当に、怪我なんてしないでよ」

 

 その言葉は聞こえなかった。


 ***


 「拓也、その袋は?」


 でかい弁当箱を持ってきた俺を見て皆が目を丸くしている。やっぱ驚くよねこれ。みんな手ぶらの中、俺だけこんなに大きな袋もってさ。しかも全然悪魔討伐に関係のない物だし。


 「弁当だって。皆の分もって」


 流石孤児院にいただけはあるセーレは弁当が何なのか理解しており、あまりにも大きな弁当を持ってきた俺に苦笑いだが、奥にいたヴォラクは何を思ったのか目を輝かせて早足で近づいてきた。


 「べ、弁当!?これってあれか!!母親が少し遠出する子供に与える食料か!!中にはおにぎりとかウィンナーとか、唐揚げとかサクランボとか入ってるやつ!?」

 「お、おお?どうしたヴォラク?」

 「近所の子供たちが公園でお弁当食べてるの見てね。自分も食べてみたかったみたい」


 あ、そういう事。ヴォラクがここまで喜んでくれるのなら、母さんも作った甲斐があるだろう。


 「拓也、お前やっぱり貴族か?」

 「そんなわけあるか。平均的な日本の家庭ならよくある光景だろう。ただ主の家の間取りと装飾品、父親の身なりを見るに、比較的裕福な家庭であることは想像できるが」

 「つーかよーさっさとしようぜ。つまんねーよこんな話」


 やばいパイモン怖いよ!!俺何も言ってないのに、昨日のあの一瞬で俺の家の状況そこまでわかるの!?ヴォラクには通用するけど、絶対パイモンには通用しない。こいつ、多分めちゃくちゃ賢いし敏い!!

 その流れをぶった切ってきたのはソファに座っていたシトリーだった。今日はバイト入っていないのか?


 「シトリーお前バイトじゃないの?」

 「いやーパイモンがどうしてもってお願いしてくっからさ〜男としちゃ断れないっしょ」

 「誰もお願いなどしていないのだが」

 「お願いって言うか、あれは脅迫だよね。来なきゃ殺すみたいな」


 殺す!?なんて怖い言葉使うのこの人は!綺麗な顔して!!


 「馬鹿ヴォラク、行き過ぎた愛情表現だよ。ほんとに罪だな俺様」

 「幸せだねシトリー。でも行き過ぎちゃ駄目と思う」

 「その脳みそを洗濯機にかけて洗い流してみたらどうだ?頭を切るのなら自信があるぞ」


 好き放題言われてますけど。シトリーはニヤニヤと笑ったまま。きもいな……


 「ってかお前、まだ始めたばっかなのに、好き勝手してクビになんないのか?」

 「俺様クビにしたら女性客の八割来なくなんだろー?んなことしねぇよ」


 まぁいいや。右から左へ受け流そ。こいつとまともにやりあっても意味がないと言うことを、最近やっと学んだ気がする。

 セーレが準備ができたと告げてジェダイトに乗ってカイロに向かった。


 ***


 「あれ?」


 カイロは土曜なのに昨日より人が少なかった。なんかこう、アフリカの方って人がぎゅうぎゅうしているような勝手なイメージがあったんだけどな。何かあったんだろうか。

 俺が首をかしげると、パイモンが地面に落ちている新聞を手に取って読み上げる。


 「今日の午後のいずれかの時間にカイロで自爆テロの予告があったみたいですね。それで市民が街を歩いていないのでしょう」

 「なんだ?自爆テロって」


 シトリーが聞きなれない言葉に首をかしげる。


 「自分自身に爆弾を巻いて、周りの人と一緒に爆発すんだよ」

 「自分もか!?すっげーな……なんだそりゃ。なんかの宗教か?」


 間違ってないんだけどさ。あんまりそういうの一括りにするの良くないって言うし、上手い事説明できない俺にシトリーはあきれ顔だ。


 「なんかこっちの世界もこっちの世界で終わってんな」

 「とりあえずどうしよっか?本当だったら怖くない?」


 本当に爆破テロが起こるのなら、何とかして止めないといけない。悪魔がかかわっているってことがわかっているんだから。しかしパイモンが好都合だと言う言葉を発した瞬間、足が止まった。


 「言ってみればチャンスです。これで相手が動いてくれれば見つけるのも早くなる。ここは大人しく待ちましょう」

 「それに賛成。むやみに動くよりも動いてくれた方が楽だしね」


 チャンスって……いっぱい人が死ぬかもしれないのにチャンスって……本当にそう思っているのか?助けたいと思っているのは俺だけで、パイモンはあくまでも悪魔を倒すことに協力していると言うスタンスなのか?だから、人命は優先ではないって。

 やっぱりこういうときに、考え方が分かれるもんなんだな。別に人間はどうなってもいいってことなのか。でも解決策を考えることができない俺が反対意見だけを言うことなんてできるはずもなく、唇を噛んで俯くと俺を見ていたシトリーが声を出した。


 「おいおい待つって……起きる前に叩いた方がいいに決まってんだろ」

 「じゃあ探すというのか?それの方が非合理的だな」

 「合理とか非合理とかそんなんじゃなくてだな、わざわざ騒ぎをでかくすることねぇだろ」


 やけに食い下がるシトリーにパイモンは何が言いたいと睨み付ける。ピリッとした緊張感が走り、シトリーがそんなに怒ることないだろうと場を和ませようとするがパイモンは譲らず、二人は対立してしまった。


 「お前、実際に戦闘に立つのは俺とヴォラクだぞ。お前はあくまでも情報収集がメインで戦闘は俺達に任せるのだろう?なら俺のやり方に口をはさむな」

 「悪魔を地獄に返すのなら、こんな面倒なことしてねえ。なんでこんなコソコソ調べまわってると思ってんだ。未然に防ぎたいからだろ。俺はここら辺歩く通行人なんざ正直しったこっちゃねえし、興味もねえけど、俺ら悪魔の起こす事件で死ぬ未来が見えてるのなら防がなきゃいけねえってくらいの良識は持っている。お前は違うのか」

 「大事の前の小事。犠牲はつきものだ。できないことをできると言う思い違いをするのはやめろ。お前は何もできやしない。悪魔を見つけることも、倒すことも」

 「……俺は、もう昔の俺じゃねえんだよ。パイモン、大事の前の小事なら人間が死んでもいいのか。それ以前を切り捨てるのもどうかと思うぜ。それを守るために今生きてる人間が泣いてもいいのか?犠牲ばっかで得る物なんて……ちっとも嬉しくねぇよ。俺は拓也の本当の願いを叶えるためにここにいる。お前が楽だからとか、そういう理由で拓也の願いをないがしろにするっつーのなら、話が違うだろ」


 シトリーは俺と同じ意見を持ってくれるんだ。今まで聞いたことのないシトリーの冗談抜きの本音が嬉しくて、なんだか涙が出そうだ。必死になってパイモンを説得してくれている。

 そのおかげか、折れたのはパイモンの方でため息をついて俺に振り返った。それに反射的に構えてしまう。


 「私が無神経でした。貴方の意見を聞きましょう」

 「好きにしろよ拓也」

 『あなたの思ったことを言えばいいのですよ』


 全員の視線が集中し気まずくなってきたけど、シトリーの言葉と腕の中で小さく呟いたストラスの言葉に頷いた。


 「俺は事件が起こる前に捕まえたい。もう人が死ぬとこ見たくないんだ!」

 「拓也……シトリーのせいだ――!!」


 ヴォラクはシトリーをポカスカ叩いた。


 「な、何だいきなり!俺のせいって!」

 「シトリーがあんな現場を拓也に見せるからだ―――!!」

 「何言ってんだ!?ケビンは死んでねえ。お前こそ勝手にケビン殺すなよ!」

 「違うよヴォラク。俺さ、マルファスが殺した現場を見たことあるんだ。それが今も忘れられないんだ」


 怒ってくれたヴォラクも嬉しくて、悪魔なのになんでこいつらはこんなにいい奴らなんだろう。悪魔なんて、本当に悪い奴って印象を今まで持ってたけど違う。きっとそこら辺の人間よりも遥かに優しくて、暖かい。

 皆が俺の意見を聞いてくれたことに、気持ちを奮い立たせ、できるだけ明るく笑う。とりあえず交通機関の多い大通りに行こうと提案した。


 「渋滞だなぁ」


 東京でも見慣れた状況にうんざりして、カフェテラスの前に立った。人が少ないと言っても大通りは別のようだ。

 今は弁当も持ってるから余計に重たい。ヴォラクはお腹を押さえて弁当を指でつつく。


 「とりあえず、俺おなかすいたよー」

 「食う?」


 大通りの近くに座れる場所を見つけて、弁当を食いながら作戦会議。大通りで弁当を食う男たち。なんて滑稽な姿だろう、通行人のさらしものだ。でもほかにも路上で何かを食ってる人もいるし、気にしない気にしない。弁当を食い終えて中身が軽くなったところで、もう一度辺りを見回す。現在の時刻は日本時間で二十時。つーことはこっちは十三時。俺達は車やバスを見て、怪しそうな奴がいるかを見ていった。

 でもこんな多くの人の中から怪しい人間なんて見つけられるわけもなく戦力外の俺はボケッとしだして、時間もどんどん過ぎていく。そのまま探し続けて時刻は夕方の十六時。


 「結局デマだったのかなぁ?」

 「いくつか候補があったけど、ここじゃないかと思ったんだけどな」


 ヴォラクが足が痛いとこぼし、項垂れる。

 それはそれで嬉しいけど、いや嬉しい。


 「そうだな」


 そう言って、ヴォラクに振り返った瞬間、けたたましい音とともに突然巻き起こった爆風に足元がぐらつく。

 え、何だこれ……

 咄嗟にシトリーに腕を掴まれて、何とかその場に踏みとどまった。


 「みんな!何かにつかまれ!」


 セーレの言葉に、それぞれが電柱や店の柱などに掴まって爆風に耐える。

どんどん巻き込まれていく人、吹き飛ぶ車、目の前に迫ってきた煙。怖い、この先はきっと……

 悲鳴をあげて逃げ惑う人たちの群れが波のように襲い掛かり、シトリーの腕が離れ、人の波にのまれてしまう。


 「拓也!」


 なんとかシトリーの所に行こうともがくけど、後ろからぶつかられて倒れこんでしまう。とにかく人がいない所に行かないと!

 人ごみをかきわけるも煙のせいで視界も悪く方向も分からない道を必死で進んでいると、腕をとられて安堵する。シトリーが助けてくれたんだ ― そう思ったのも束の間。その腕は気づいたら首に回っており、こめかみ付近に冷たいものが当たる。

 

 「(道を開けろ!さもないとこいつを殺すぞ!)」


 え?誰このおっさん!?俺まさか……人質ぃいいいいぃぃぃ!?

 わわわ、あ――――――――――――!助けて!誰か助けてえ!!何が何だかわからねぇ!!ってか自爆テロじゃないの!?仲間か!?こいつ仲間か!!?

 男はシトリー達に銃を向けた。周りのエジプト人達も逃げながらこっちを見ている。騒ぎを聞いてサイレンを鳴らしながら警察までも続々と集まってくる。

 その瞬間、男は俺の頭に銃を突きつけた!ギャ―――――――!!


 「拓也!」

 「あの馬鹿っ!」


 ヴォラクとシトリーが身を乗り出すと、二人に銃口を向けられて動きをけん制されてしまう。頭の中まっしろ。今俺どんな目にあってる?これどうなるの?俺、交渉材料に使われる?

 泣き出すこともできず、首元にまかれた腕に引っ張られ男に引きずられる。


 「(自分で歩け!!)」


 すいません、なんて言ってるかわかりません。

 俺はガタガタ震えて、とりあえず頷いて見せた。絶対に刺激させたらいけない。これ、本当に殺される!


 「(おい、いい加減にしとけよ)」


 何もできない俺を見かねて制止する人の腕を振り切り、シトリーが鬼のような形相で前に出てきた。その様子はいつもと違い、怒りを抑えきれない様子で聞いたこともないくらいの低い声に思わず俺の肩が震えた。


 「(来るな!撃つぞ!!)」


 男たちが一斉に銃口をシトリーに向け、俺は声も出なくて、首を横に振るしかできない。シトリーお願いだから刺激与えないで。マジでこいつらは撃つよ、容赦なく。

 すると俺を捕まえている男の肩に鳥が乗ってきた。剣を腰を刺したカラス……こいつもしかして悪魔シャックス?


 『久シブリダナ。シトリー』

 「シャックス……」


 シトリーの後ろで構えてたヴォラク達が声を荒げた。じゃあこいつは契約者ってことなのか!?

 シャックスは俺を見て、契約者に囁いた。


 『(私ガ探シテイタ人間ダ)』

 「(こいつが……)」


 ごくり。なんかよくわかんねえけど俺見てる。銃を突き付けられてるせいで、指輪のことを俺はすっかり忘れていた。ストラス達は警察官と通行人と悪魔で板挟みになっており、迂闊に動けないらしい。

 そしていつの間にか、テレビ局の取材も到着してカメラをもって走ってくる。警察官の後ろに隠れて実況する気か?待てよ、こんなの世界のニュースに映るんじゃ……学校の奴らにもばれるんじゃ!

 さらに頭が真っ白になる。体がガタガタ震えて、何かが切れた。


 「ぎゃあああああああ!放せ、映すなぁ!」


 俺は暴れて男の指にかみつき、急いで腕を振り払って走り出した。そんな俺に男が発砲する。

 全てがスローモーションに感じて、同時に腕をひかれた。


 「無茶しやがって!」


 シトリーは俺を掴んで抱き込み、爆風で外れてしまった車のドアを蹴り上げた。

 弾がドアにすごい音を立てて食い込み、呆然としてしまう。改めて自分がしたことの無謀さを思い知る。


 「シトリーごめん……」

 「ほんとだぜ馬鹿!とにかく無事でよかったな」


 シトリーはそのまま俺の腕をひいて、メディアに顔が映らない様に着ていたシャツを頭から羽織らせ陰に隠れた。半袖のTシャツから見えた腕には擦り傷や俺を庇って地面に倒れたときにガラスで切ったのかもしれない切り傷ができており血が流れている。

 ヴォラクは俺たちに駆け寄って、顔を覗き込んできた。


 「シトリーナイス!拓也大丈夫?」

 「う、ううう……ううううう!!」


 救出されて皆がいることの安心感に蹲って泣き出した俺の頭をシトリーが撫でる。怖かった、殺されるかと思った!


 「ストラス、こいつ見といてやれ。それより……」

 「シャックスか」

 「話し声が聞こえたが拓也を探していたと言ってたぞ」


「(ぎゃああああぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!)」


 悲鳴が聞こえて顔を覗かせると、血まみれになって倒れている人達がいた。

 そしてその人間の目の前には羽をバタつかせているカラス。


 『今、目ノ前ニイルノハ、貴方ガ殺シタ亡霊。殺セ殺セ殺セ……』

 「ぼう、れい……ころす、殺す、コロス!」


 男はそう呟き、銃を向ける。

 それを見てテレビ局の記者も一般人も一斉に逃げだす。


 「おいおい……無差別乱射かよ。パイモン、あいつどうなってんだ。お前バティンと悪魔統括してんじゃねえのかよ」


 流石にここまで暴れまわるとは思っていなかったのだろう、シトリーが冷や汗をかいてパイモンに顔を向けるも、問いかけられたパイモンは涼しい顔で状況を見ている。この光景を何とも思っていないとでも言うような態度に心が冷えていくのと同時に恐怖を感じた。


 「すべての悪魔とコンタクトを取れているわけではない。俺たちは基本的にはルシファー様の命がなければ各々の個人プレイだろう。俺が全てを探し出して行動を制限するなど骨の折れることをするわけがない」

 「お前、前言ったじゃねえか。バティンに頼んで、他の悪魔の行動を制限するようにさせるって」

 「バティンには伝えているし、あいつも今は表立った行動をしてはいない。ただ、俺たちの命令を全ての悪魔が聞くわけじゃないだろう」

 「組織として成り立ってねえ……」

 「勝手に変な枠組みを作るな。仲間でもなんでもないやつの行動をしばれるわけがないだろうアホが」


 そんなやり取りはどうだっていい!あいつを止めないと、これ以上犠牲が出たら終わりだ!

 男は狂ったように銃を撃ち、警官たちも応戦して銃撃戦になっているが、悪魔がいるせいなのか結界でも張られているのか最前線でガードするものも何もないはずなのに男に銃弾は一切当たらず次々に警官が射殺されていく。

 あまりにむごい光景と、笑い狂う男の声と銃声だけがこの場を支配し、恐怖で目を背けた。

 この光景をヴォラクとセーレも真っ青な顔で見ている。


 「あいついかれてんだけど……ここまでいかれた奴をシャックスも良く見つけてきたよな」

 『まさか……三角形の方陣内に召喚しなかったというのですか!』


 三角形の方陣?

 聞きなれないワードに顔をあげた。もしかして召喚が失敗したって言うことなのか。ストラスの言葉にセーレは多分と言って頷いた。


 「今回の召喚、一斉に俺たち全員が召喚された。おそらく、正規の悪魔学者が踏む手続きでの召喚じゃないんだろうね。三角形の方陣なんて契約者に便利なものを用意する訳がない、か。拓也、シャックスの召喚式は少し俺たちと違っていてね、俺たち悪魔は召喚時に契約者に反旗を翻さない様に魔法陣でその力の大部分を封じられて召喚される。ただシャックスの場合は三角形の方陣と言う魔法陣の中で召喚をしなければ彼の恩恵を受けることができないと言われているんだ。シャックスは非常に嘘つきで人間への忠誠を嫌う。方陣で彼の能力に制限をかけて彼が契約者に忠実になるように事前準備をして契約を行うんだ。その中に召喚しないとシャックスは契約者であれ人を欺く悪魔でしかない。シャックスの能力は相手の思考を奪うこと。あの男もきっと……」


 セーレはそう言って、哀れだな……と男に目を向けた。


 「きっと目も耳も聞こえないし、思考も支配されているだろう」

 「思考も?じゃああの男は!」

 「操られてる。簡単に言えばそういうことになります。真っ暗な暗闇の中で誰の助けも来ず一人突き落とされ支配される恐怖で精神は既に壊れているかもしれませんね」


 そんな……でもこんな光景……こんな、こんな!


 「(うわあああああぁあああぁぁぁぁ!!!)」

 「(ぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁああ!!!)」


 銃に撃たれていく人間から血が噴き出ていき、地面が赤く染まっていく。契約者の男はその場にいた人間全てを撃ち殺して次の獲物を探している。

 むごい、むごすぎる!


 「う、うえ……げほっ!がはっ!」


 俺はその場で膝をついて吐いてしまった。ヴォラクは慌てて呼吸の荒い俺の背中をさする。


 「やっぱり拓也にはこの場は酷すぎる。ここは一旦引いて……」

 『逃ガシハセンヨ。ルシファー様ガオ待チダ。パイモン、コンナ所デ何ヲシテイルノダ?オ前ガイナガラ、ナゼ継承者ヲ野放シニスル。オ前ト“バティン”ガ居ナイコトデ、“バルマ”ガ一人デルシファー様ニ仕エテイルノダゾ。早ク終ワラセテ支エテヤレ』

 「あいつは一人でもやれる。シャックス、本当にルシファー様の命令か?バティンから通達がなかったか?」


 何のことだ?なんで平気で話せるんだよパイモン。そいつは、そいつは……


 『ジハード……審判ヲ受ケテ立ツト。当然ダロウ。ルシファー様ノ望ミハ分カッテイル。オ前ヤ、バティンヨリモ』

 「受けて立つ?ルシファー様はまだ宣言されていないが?俺はそんな話を聞いていない。それはお前の願望だろう」

 『アノ御方ハキット喜バレルニ決マッテイル。指輪ノ継承者ヲ連レテイケバ』

 「ふざけんじゃねーよ!」


 パイモンとシャックスの会話を黙って聞いていたヴォラクが大声をあげて会話を打ち切った。

 でも俺はその会話が耳に入らないし、頭が回らない。そんな俺の前にシャックスが降り立つ。


 「ひっ!」


 俺は慌ててヴォラクの後ろに隠れる。

 恐い恐い恐い!目から熱いものが流れ、それが涙だとわかるのに時間はいらなかった。ヴォラクは今戦うのは得策じゃないと思っているのか、手を前に出してこれ以上前に出るなとけん制する。


 「シャックス、手を引け」

 『駄目ダ。ルシファー様ハ邂逅ヲオ望ミダ。連レテ行ク』

 『駄目って言ってるでしょ』


 ヴォラクが悪魔の姿になり剣を手に取る。


 『人間ノ味方ヲスルカ?』

 『少なくともお前の味方にはなれないな』

 『ソウカ。ナラバ(ちから)ヅクダ!!』


 シャックスが剣を構えて上空に舞い上がり、ヴォラクも悪魔の姿に変わり、剣を持って上空に舞い上がった。


 『逃がすか!』

 「セーレ、拓也をジェダイトに乗せて避難しろ!」

 「シトリー!君はどうするんだ!?」

 「俺は戦う。最後の審判なんか行わせてたまるか。たとえそれで汚名を着せられてもな」

 「……考えは一緒だね」


 セーレは俺を抱き上げてジェダイトに乗せて頭を優しく撫でてくれた。


 『怖かったね。よく頑張った』


 その言葉に更に涙は溢れ、俺はジェダイトに顔を埋めて泣いた。

 恐怖が体の全てを支配してる。泣く以外の発散法がわからない。


 ***


 ヴォラクside ―


 『ヴォラク、ナゼ結界ヲ張ル必要ガアルノダ?ココニモウ人間ハイナイ』


 結界を広げようとした俺を見てシャックスは笑う。俺は死体が転がる大通りでシャックスと剣を交えていた。でも相手はシャックス、なかなか結界を張らせてくれない。もしかしたらまた人間が来るかもしれないのに!

 ギリギリと剣が音を上げ、俺達は空中で剣を向け合った。やっぱりシャックスは強い。そして考えている。この高さじゃビルに挟まれてフォモスとディモスを召還しても使えないことを。だからシャックスはこの高さを保っているんだ。


 『くそ……!』


 剣技は互角。しかし素早さはシャックスが上。状況はあんまりよくないなあ。ヒットアンドアウェイを狙ってくる嫌な戦い方だ。

 まずいな。そう感じた瞬間、シャックスに翼の生えた豹が襲い掛かった。それは間違いなくシトリーが悪魔に変わった姿だった。


 『シトリー!』

 『シッカリシロヨ!カス!』


 こいつ……いきなりそれはないでしょ。

 でも二対一なら!


 『何カ忘レテハナイカ?我ガ(しもべ)ヲ』


 その言葉とともに銃声が聞こえて、慌てて身を翻す。あの男!

 間違いなく俺たちを狙っている。ちょっとでも隙を見せたら迷わず撃ってくるだろう。


 『マダ来ルノダ。(しもべ)達ハ』

 「(なんだこれは!)」


 声がする方を見ると、そこには警察官の姿。


 「(おい!しっかりしろ!)」

 「(爆破テロがあったと聞いてきたのだが……これは天使、天使なのか!?)」


 やばい!シャックスは!

 シャックスは一気に警察官のもとに急降下していく。そして警察官たちをその剣で切り裂いた。思考を奪う気だ!

 シャックスは相手に傷を負わすことで、自分の能力を相手に流し込む。


 『我ガ剣ニテ血塗ラレタ兄弟達ヨ!今コソ我ガ命ニ従ウノダ!!』


 警察官が一斉にこっちに銃口を向けてくる。

 やばい囲まれた!


 ***


 ストラスside ―


 『パイモン』


 ヴォラクとシトリーが戦っているのをパイモンは表情を変えずに眺めています。なぜ自分が参戦する気がないのか、確かに空中戦はパイモンには行えないが、それでもここまで我関せずの態度をとれるものでしょうか?

 もしかして……と、最悪の事態が脳裏によぎり、声をかけずにはいられなかった。


 『シャックスの言っていたことをどう受け取っているのですか?』

 「でまかせだな。俺もバティンも聞いていない。審判を受けて立つのはともかく、主を狙うといった命令は下されていないはずだ。今はまだ」


 今はまだ、ですか。パイモンはいずれは拓也を殺す気なのか、地獄に連れていくとでも言う含みを持たせ、視線を戻した。


 『やはり貴方は何かを知っているのですね?なぜ私たちに協力すると仰ったのですか?拓也を裏切るおつもりですか?』

 「まさか。主への忠誠は嘘ではない。ただ、ルシファー様と比較してどちらが上かと聞かれたら別だ。ルシファー様から主の保護を命令されている。俺はお前たちの味方だよ」


 この男は……やはり純粋な気持ちで拓也と契約をしているわけではなかったのか!?あくまでルシファー様の命令に従って行動している……つまり、いつだって私たちを裏切る可能性があるということだ。

 私に力があれば……パイモンよりも強ければ、何かが違ったのだろうか。パイモンほどの実力者をこれから仲間に引き込むことは難しい。72柱の強敵と渡り合うのに戦闘に特化している悪魔はヴォラクのみ。シトリーはそつなくこなすが、元々は諜報が得意分野だ。パイモンの力は喉から手が出るほど欲しい。だが、だが……!

 拓也は真っ赤になった目でパイモンを見つめます。見てるこっちが痛々しいくらい。


 「パイモン、怖いんだよ。こんな殺し合い、もう嫌なんだよ……裏切るなよ、行かないでくれよ!」


 拓也は涙を流してまだジェダイトに顔を埋めてしまいました。パイモンは今の状態の拓也を見て先ほどの無表情で拓也に近づきました。彼なりに拓也を思う気持ちはあるのだろうか。しかしそれは違い、彼のあまりにも鋭い言葉に拓也は破顔して泣き出した。


 「……貴方は、少し甘すぎますね。何もできないくせに目標や目的だけは一丁前。悪魔を扱う術も力も身につけておらず、何の信頼か知らないが、悪魔に背中を預けている。可哀想になるくらい馬鹿で愚かな餓鬼だ」


 ― こんなことで倒れているお前に、これから何ができるんだ?


 その言葉に怒りがわいたのは私だけではなく、セーレがパイモンの胸ぐらを掴み睨み付けた。


 『お前……!ふざけるなよ!拓也が、どんな気持ちで……!!』

 「そいつの気持ちなど俺にわかるわけないだろう。そんな役立たずの愚図なんて。鈴木の方がよっぽど好感が持てたよ。俺はハッキリしない奴は嫌いだ。こいつみたいに助けてもらえることが当たり前だと感じていて、自分の力では何もできないくせに一丁前に理想だけ語る奴は死ぬほどむかつくんだよ」


 セーレがこぶしを振り上げたが、パイモンを殴ることまではせずに歯を食いしばっている。パイモンはセーレの手をどけて、再び拓也に声をかけた。


 「池上拓也、俺はお前の契約悪魔だ。俺を使役できるのはお前だけ。命じるのなら命じろ。この場の混乱、俺なら抑えられるぞ」


 泣いていた拓也が顔をあげた。パイモンの表情は自信たっぷりで自分に命令しろと言っている。なんて勝手な男だ……拓也を助けるわけでもなく、慰めるわけでもなく、痛めつけるなど……!

 こんな奴の言う事、無視すればいい!そう言いたいのに、力のない私にはこの場の混乱を収めることなどできるはずもなく、悔しいのは私も同じだ。結局、私もセーレもこいつに頼るしかないのだから。

 拓也は真っ赤になった目でパイモンを見つめている。その表情は恐怖で真っ青になっており、必死で呼吸をして、どうしていいか困っている状態だった。


 「お前はシャックスをどうしたいんだ?ヴォラクとシトリーに全て任せるか?それならそれで構わないが、俺の力を使いたいのなら俺に命令しろ」

 「めい、れい……?」

 「そうだ、お前が俺の主だ。お前の望みは俺の望みだ。お前の願いを、きっと俺なら叶えられる」


 パイモンは拓也の手を握り、指をさすように拓也の手を自分にもっていく。


 「命令を。俺の主」

 「……あいつを、やっつけてください。ヴォラクとシトリーを、助けてください!」

 「貴方の仰せのままに」


 パイモンが悪魔の姿になり剣を抜き、一歩前に踏み出す。


 『主、私を使役できるのは貴方だけだ。世界が否と答えても、私が貴方の行動全てを是と言わせてみせる。だから、貴方は自分に自信を持て。貴方一人では何もできないが、貴方には私がいる。私が、貴方の願いを、貴方の邪魔をするものを全て排除する』


 そう言い残し、シャックスの元へ向かって行きました。

 

 ***


 パイモンside ―


 『来タカ。コイツ等ニトドメヲ、ソレヲ忠誠ノ証トシテルシファー様ニ持ッテイク』


 ヴォラク達は全身に銃弾を浴び、息もとぎれとぎれだった。さすがにシャックスと戦いながら無数に飛び交う銃弾からは逃れられなかったか。ヴォラクは苦しそうに息を吐きながら俺を睨みつけてくる。まあ、助けに入るのが遅かったのは正直自覚している。


 『お前、来るの遅い……シャックスとグルじゃないだろうな』


 俺がこんな下衆と?冗談じゃない。シャックスは傷だらけのヴォラクを見てため息をつく。剣を取り出した俺を見て何を勘違いしているのか嬉しそうに笑ってさえいる。


 『愚カナ……有能ナ将ダッタノニ情ケナイ』

 『オ前……アノ拓也見テモ何トモ思ワネーノカヨ。現実ヲ受ケ止メヨウト必死ナンダゾ!』


 ああ、守るさ。契約主だからな。ルシファー様と同等の価値がある。

 勘違いしている馬鹿に教えてやろう。この場で最も消えるべき存在は別にあると。思い切り剣を突き立てた俺にシャックスは身を翻し、距離を取る。しかしそれを逃がすわけないだろう。上空に逃げられると思うな。

 奴の退路を塞ぎながら攻撃する。なんとか上空に逃げようとしているようだが、そんな隙を与えるわけがない。まずは足を削いで、次に羽だ。

 俺の剣によって、次から次に体に傷を与えられ、飛ぶ気力もなくなったシャックスが地面に崩れ落ちる。こんな奴にヴォラクたちは何をしていたんだ?警官たちなど全て殺してしまえばよかったのに。


 「ガ、ハ……!」

 『お前と手を組むなど虫唾が走る』

 『貴様……裏切ルノカ!ルシファー様ヲ!』

 『お前がルシファー様を語るな。自分の願望をルシファー様の名を借りて正当化したこと、万死に値するぞ』


 のど元に剣を突き刺せば、シャックスが血を吐いて地面に倒れこむ。

 意識を失ったことにより、警官達の思考も正常に戻った。


 「(大丈夫ですか!?)」


 警官達は自分の体についた傷に驚いていたが、目の前のヴォラク達に駆け寄ってきた。

 だがそこはぬかりない。ちゃんと人間の姿に戻っていた。


 「銃弾抜いて」


 ヴォラクは血まみれになりながら俺に手を伸ばしてきたので、仕方がないからその手を掴んで抱き上げると、笑みを向けられる。なんだこいつ、こんな奴だったか?もっと乱暴で高圧的な奴だと思っていたが。随分と、あの男に影響されてしまったようだ。


 「見なおした」

 「お前の為じゃない。主の為だ」

 「何でもいーや。騒ぎになる前に早くかえろ」


 シトリーも痛いと泣きごとを言いながら起き上がり、動くたびに噴き出る血に、警察官が慌てて駆け寄ったがそれを払いのけた。もう騒ぎにはなっているが、幸いなことにメディアも警官の第一陣も全員無事死亡だ。あの戦いの目撃者は一人としていないだろう。操られている奴らは記憶が抜けているようだしな。

 周辺を確認して、シャックスと男が持っていたブラックオパールのチョーカーを手にした。


 何とか警察を振りきり、ジェダイトに乗って上空に舞い上がる。傷を癒すために悪魔の姿になっているヴォラクがため息をつく。


 『それよりシャックスどうすんのさ。持ってきちゃってさ』

 「心配しなくても契約石もある。大丈夫だ」

 『大丈夫ッテ……契約者ガイナキャ返セネーダロー』


 シトリーは死にそうな顔でつぶやいた。無理にしゃべるな。あと動くな。こんな面倒な乗り方、したくないんだ。しかしジェダイトはでかい馬だな。これだけ乗っても平気とは、恐れ入った。


 「主がいれば大丈夫だ。主、剣を」

 「……わかった」


 主は力なく笑い、剣を出した。薄い光を帯びており、その光でシャックスの召喚紋を描いた。


 「空中に……」


 セーレもあっけにとられたように見つめている。

 シャックスとチョーカーを入れ、俺が手をかざすとシャックスは吸い込まれるように姿を消した。


 『上級の悪魔ならではの技術。すっげー』

 「動いたら血が出るからダメだってヴォラク」

 『はぁい』


 セーレに諭され、ヴォラクはまたぐったりになる。

 それを眺めていると不意に名を呼ばれ、主を見つめた。泣きはらした真っ赤な目で優しく笑った。


 「パイモン、ありがと」

 「当然です。貴方を守るのは私の役目ですので」


 だが、これからは注意が必要だな。ルシファー様のためとほざいて、自分の願望を貢献と歪曲して主に襲い掛かる奴は出てくるだろう。まあ問題ない、すべて消せばいいだけだ。



登場人物


シャックス…ソロモン72柱44番目の悪魔。

       30の軍団を率いる侯爵であり、その姿はかすれた声で話す野鳩である。  

       人から聴覚、視覚の二感を奪い、さらに思考能力をも奪う能力を有している。

       召喚する際には必ず三角形の方陣内に召喚しなければ、シャックスは契約者を欺く悪魔でしかない。

       悪魔学者のレギナルド・スコットはこう伝えている。

       「召喚する者にいかなることでも忠実なりと約束するも、かくあらず。シャックスは嘘つき」と…

       契約石はブラックオパールのチョーカー


武装集団の男…シャックスに思考を奪われて操られていた。


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