第3話 不思議な力
「野球部すげえなぁ~上田商業に勝っちまったぜ」
「あれだろ?中谷の逆転サヨナラホームラン。ネットニュースに載ってたわ」
「すげえなぁ中谷」
3 不思議な力
「すげえじゃん中谷」
次の日、ひきずる思いで学校に向かうと、そこには中谷のことを噂しあう生徒でいっぱいだった。なんでも中谷が逆転サヨナラホームランを打ち、甲子園常連校である上田商業を破ったらしく、中谷はもはや学校のアイドル状態だった。
休み時間に席でボール磨きをしている中谷に声をかけると、顔をあげた中谷は笑みを作った。
「いや、まぐれだよまぐれ。たまたま運がよかったんだ」
中谷は微妙な笑みを浮かべている。その反応が予想外で、俺の想像ではもっと嬉しそうにして、あの時はすごかったんだと言う話をしてくるとばかり思っていたのに。思ったより冷静に謙遜されて、それ以上何も言えない。
「んな謙遜することじゃないじゃん、運だって実力だよ」
「実力、ね……まあ、そうなんだけど」
中谷は少し腑に落ちなさそうにしている。確かに総合力は上田商業の方が上だっただろうけど、まぐれでだって勝てたんだ。もっと声を大にして喜べばいいのに。
なぜそんな顔をするのか俺には分からなかった。
***
「拓也ーお醤油きれちゃったのー買ってきてー」
「えー俺がぁ?」
夕方、ゲームをしていると母さんからおつかいの命令が下った。
母親は怒ると怖い。それを身を持って理解している俺は逆らえず、しぶしぶ金をもらい近所のスーパーに行くことにした。なぜかストラスも一緒に。
俺が家から出るのを窓から確認したのだろう、バサバサとやかましい羽音を鳴らして、人の肩に乗ってきた。
「なんでついてくんだよ!?」
『貴方の部屋に篭りっぱなしは面白くありませんからね』
ストラスは俺の肩に乗って平然と言ってのけた。面白いとか面白くないとかじゃねえんだよ!俺の家には家族がいるんだから大人しくしておけ!!
昨日の話を聞いてしまった澪はさらに怖がってその日はストラスを家に泊まらせようとせず、しょうがないのでストラスは俺の部屋に泊まり、家族にバレない様に一歩も外に出さなかったんだけど、それが気に入らなかったらしい。でもこの状況をみられるのも面倒くさい。フクロウをペットにしている家なんて珍しいのだから、クラスメイトに見られて学校で噂になることは避けたい。
「とにかく俺から離れろよ!フクロウっつーのはなぁ、普通の人間はあんま飼ってねぇんだよ!」
『細かいことをうるさい方ですねぇ……』
「細かくねえ!」
「ままーフクロウだー。あのお兄ちゃんフクロウとお話してるー」
「声に出しちゃいけません!」
子供が俺に指をさし笑っている。そしてそれを止める母親。
何この完全な変質者扱いの図は。
「わかっただろストラス。このままじゃ俺、変質者扱いだよ」
『なんとなくなら』
***
「お前さぁ絶対わかってねーだろ!俺に乗っかるなっつってんだろ!」
あの後ストラスは俺の言うとおり、一旦離れたのはよかったが、醤油を買い、家に帰ろうとした途端また肩に乗ってきた。この河川敷は人が少ないからまだいいけど、それでも時折すれ違う通行人の視線が突き刺さる。
「あ、中谷だ」
河川敷でクラスメイトの中谷を見つけた。中谷はバットとグラブ、ボール数個、そして縄跳びを持っており、一人で練習をしているのかと思いきや、地べたに座り込んでおり、練習をしている感じではない。どうやら休憩中なのか、河川敷に座り込んで子供と話をしていた。
中谷って弟いたっけ?あいつ兄ちゃんしかいなくなかったか?
俺の肩にとまっているストラスがその子供を食い入るように見ており、二人の会話を聞きたいと意味不明なことを言ってきたため、仕方なく中谷の方に向かって足を進めていくと会話が聞こえてきた。
「ね?お兄さんホームラン打ったでしょ?」
「ビックリしたよ。まさかほんとに打つなんて思ってなかったから……あの選手のストレート、攻略できるなんて思わなかった」
子供はにっこり笑って中谷に手を伸ばした。人差し指が中谷に触れて目をつぶっている中谷に暗示をするように子供は次の試合の予言みたいなものを行っている。なんだかその光景が異様なもののように思え、声をかけようとした足が止まる。
「俺の予言は百発百中だよ。また、ヒーローになっちゃえ」
「……当たるといいな」
「当たるに決まってるでしょ」
その瞬間、子供の視線がこちらに向かい、目が合った子供の唇が弧を描く。その表情が探し物が見つかったとでもいうような笑みで、なぜか身の危険を感じ声を出していた。
「中谷!」
俺の声に中谷は肩を震わせてこっちを振り向いた。まるで不味い物を見られたかのような表情に嫌な予感が消えない。返事をしない中谷と、話しかけた俺の間を沈黙が包み込み、気まずくなって無難な話題を出すことにした。
「野球の練習か?今日、部活は?」
「あ、うん……」
野球部は今日も部活をしていたはずだ。まだ、絶対に部活は終わってない。
俺の問いかけに中谷はまた少し違和感のある返事をし、この気まずい空気が消えるはずもない。心配になって何か声をかけなければと考えていると今度は向こうが話題を振ってくる。
「そういえばさ、昨日フクロウ学校に来てただろ?あれお前のとこのだったんだな」
「へ?」
横を見ると、そこにはストラスが当たり前のように居座っていた。
ストラス!なんで離れていかねえ!?
さすがに俺の殺気に気付いたのか、ストラスはホーホーと下手糞な鳴き真似をした。なんて野郎だ!それにフクロウのくせにフクロウの物真似が下手とかどういうことなんだ!?それはもうフクロウじゃなくてフクロウに似た何かじゃないか!
中谷はおもしろそうに笑った。
「つかお前ペットにそんな冠なんて付けてやるなよ。かわいそうだよ」
……これは俺がつけたんじゃない!元々ついてたんだ!
ストラスは相変わらずホーホー言っている。あーもううるさいな!
馬鹿げたやり取りをしている俺を中谷の後ろにいる子供は口元に弧を描いたままこちらを見つめている。その子供は明らかにストラスを見ていた。フクロウとか普通に生活してたら見ることないもんな。きっと、そうだ。
「その子さ、中谷の弟?お前、弟いたっけ?」
その質問をした途端、中谷は返答に困り、何かをごまかすように頭を掻いて首を横に振った。
「あー近所の子かな?な」
「うん」
子供はニッコリ笑って頷いた。整った顔立ちの子供がニコリと愛想よく笑うと可愛らしい。
子供は俺に近寄りストラスに手を伸ばした。
「可愛いフクロウだね。ね、名前はなんて言うの?」
「え?ストラスだよ」
そう答えると子供はストラスの羽を撫でた。
ストラスは明らかに嫌がっていた。なんだよ、羽触られるの嫌いなのか?
「可愛いね」
「と、とにかく俺、これから練習だから」
「練習邪魔して悪い」
「いや全然。息抜きになったし」
ストラスを捕まえようとする子供を抱き上げて中谷のほうに向かわせた。相当ストラスが気に入ったんだな……子供はしばらくこっちを見ていたが、しばらくすると中谷のいる方向に走っていった。
それを見て俺も買い物袋を持ち直して、岐路に着く。
『拓也』
「ん?」
人通りのない路地でストラスが俺に話しかけてきた。
『あの子供……おそらく悪魔だと思うのですが』
ストラスの急なカミングアウトを信じられず笑って流した。だって、世界に散らばってんだろ?こんな近い場所に悪魔なんているわけない。ましてや自分のクラスメイトが悪魔の力を使っているなんて、そんなはずがない。
「んな訳ないじゃん。あんな可愛い子がさ。お前触られるの嫌だからってそこまで言うか」
『信じないのなら構いませんけどね』
その言葉すら聞き流した。それが逃げだってこと、のちに後悔することになったとしても、やはり悪魔なんて非現実なことを簡単に信じたくなかったのかもしれない。
次の日、中谷が相手のさよならヒットになるはずのボールをセーブし、またしてもうちの学校がコマを進めたと言う話を聞いた。
***
「中谷まじですげえよな〜」
クラスメイトが中谷に賞賛の言葉を述べた。うちの学校が決勝戦まで残るなんて誰も思っていなかったから。俺だってそうだ、しかし肝心の中谷はあまり嬉しそうじゃなく、クラスメイト達からのエールに困ったように眉を下げていた。
その日、中谷は次の日が決勝戦だというのに学校を早退し、先輩たちはそろって中谷のことを心配していた。
「中谷、どうしちゃったのかな?」
昼休み、俺の言葉にパンを食っていた光太郎の手が止まった。何か知っているのか、口元に手をやり考え込んでいる。
「中谷さー最近、練習サボってるらしいな」
「え?」
嘘だ。だって昨日、中谷は河川敷で練習を……あ、そうだ。可笑しいと思ったんだ。昨日、俺が中谷にあったのって確か夕方の十七時半だった。野球部ってこの時期は毎日暗くなる二十時近くまで練習してたはず。だから、それを聞いたけどはぐらかされたんだ。
光太郎の言葉が頭から離れない。中谷の異変があまりにもタイミングが合いすぎて、本当にあの子供が悪魔なのかもしれないなんてことを思い出している自分が嫌だ。
学校が終わって家に帰ってもなんだかモヤモヤして、結局十七時頃に河川敷に向かうことにした。中谷がいたら聞き出そうと言う気持ちと、でもいないでほしいと言う気持ちがせめぎあっていたが、結局中谷はおらず、昨日一緒にいた子供しかいなかった。
向こうは俺を見つけて近づいてくる。
「中谷は?今日は一緒じゃないのか?」
「うん、今日は来ないんだ。明日決勝なのにね」
子供はつまらなさそうにしており、中谷に会えていないのが不満そうだ。しかしすぐに子供の興味は俺に変わり、今度は向こうが質問してくる。
「お兄さんこそ今日ストラスは?」
「え?今日は一人なんだよ」
そんなにストラス気に入ってたのか。あんな可愛くないのに。
俺がのんきに考えてたら子供はつまらなさそうな顔をして背中を向ける。
「ふーん……ならいいや。もうかーえろ」
「あ、おい!」
子供は立ち上がって河川敷を歩き出した。
俺が慌てて声をかけると、子供は不機嫌そうに振り返る。その表情があまりにも殺気立っていて、普通の子供がする表情とはかけ離れており足が止まる。
「お前ら、何しに俺の前に来た?」
「な、何しにって……」
「あのさ、俺とあいつの邪魔するな。お前もストラスと一緒にいるのなら分かってるだろ。次に邪魔したら容赦しねえぞ」
子供はそれだけ言い、河川敷から帰っていった。あの子供、まさか、いや、そんなわけない。でもなんで、あんなはぐらかすような……まるで悪魔と契約している人間だとでも言いたげな会話をしてきたんだ。
それでも現実を認めたくなく、心に疑問を持ったまま逃げるように家に帰ってしまった。
「ただいま」
「お帰り」
玄関を開けると澪がたっていた。
「あ、澪……あのさ」
澪は迎えてくれたけど、こちらの言葉を遮るように背中を向けてリビングに入っていってしまった。ストラスが来てから澪は俺に対しても恐怖を抱いてきているようで、以前のように笑いかけてはくれない。流石に母さんたちに言ってはいないが、触れないようにしているのがわかる。
かくいう俺はたった数日でストラスが危害を加えないことを理解し、放置している状態だった。解決策もなく、実害がないのなら放っときゃ向こうが勝手に帰る方法を探してくれるだろうと言う考えにシフトしてしまい、追い出さない俺を澪は信じられないらしい。
「聞いたわよ拓也。中谷君すごいらしいじゃない」
「へっ!?」
夕飯の途中、急にふられた中谷の話題に声がひっくり返った。
「練習もあんまり出ないのに試合に出れば大活躍!本当にスターって感じね」
母さんはうっとりしたと思いきや俺にもなにか部活やれと言い出す始末。嫌だよ、運動神経ないもんね。でも澪は少し考えたような感じで会話に加わった。
「でも中谷君、少し変わったよね」
「うん……」
そう、中谷は変わった。あんなに大好きだった野球も真面目にしないなんて……あの子供のせいなんだろうか。違っていてほしい。
テレビでは地元のニュースで甲子園地区大会を特集しており、明日の決勝戦で中谷がどう活躍するかを述べていた。そっか……明日が決勝か。
***
「うちんとこ甲子園出場決まったぞ!」
それはクラスメイトが休み時間に大声を出したことがきっかけだった。
「ネットの速報に書いてる!中谷が決勝打だってよ!」
「中谷すっげー!!」
どうやら中谷がまたしてもチームを救ったらしい。
俺が呆気にとられている横で光太郎はすげえなとつぶやく。
「こりゃあいつヒーローだな。凱旋インタビュー来るぞこれ」
急に昨日の子供との会話が思い出される。もしかしたら今日は河川敷にいるかもしれない。行ってみよう、そして全部ちゃんと解決させよう。こんなもやもや、もうたくさんだ。
俺は公欠を取っている中谷の席を見つめながら早く学校が終わるのを待った。
それはとても長く感じた。
「拓也ー今日遊ぼうぜー」
「悪いけど今日は急いでんだよ」
放課後、光太郎が遊びに誘ってきたけど、遊んでいる場合じゃない。今の時間は十六時半。はやく河川敷に行かないと。
焦る俺を見て、光太郎は怪訝そうにのぞき込む。
「お前今日おかしいぞ?どした?ずっとフワフワしてんじゃん」
光太郎の言葉に一瞬思ってしまった。光太郎なら信じてくれる?ストラスを見ても、この指輪のことも信じてくれる?光太郎は中学校からの大親友だ。きっと光太郎なら……
そう思う反面、巻き込みたくない気持ちと否定された時のことを考えるといても立ってもいられなかった。
「ほんとになんでもない……また明日な!」
「あっ、おい!」
光太郎の呼びかけも聞かずに走って昇降口に下りる。
本当になんだか嫌な予感がするんだ。そうだ、ストラスも連れて行こう!
そう決めた俺は急いで家に駆け込んだ。
***
「ストラス!」
家に帰った俺はただいまも言わないで急いで自分の部屋へ向かった。
ストラスは俺があげた昼飯兼おやつのポテトチップスをかなり散らかしながらも突いていた。もうちょい上手く食べてもらいたいもんだ。片づけるのは俺だっつーのに……
『なんですかいきなり……騒々しいですね』
「嫌な予感がするんだ。一緒にきてくれ!」
『ようやく信じる気になりましたか?』
それが何を意味しているかが今の俺にははっきりと分かった。
「うん」
『なら宜しい』
ストラスはポテトを食べるのを中断して俺の肩に飛び乗ってくる。できるだけ人にストラスを見られないように腕に抱えなおし河川敷に走った。腕の中からはストラスの文句が聞こえた。うるせーし!
「いた!」
『拓也、ここはいったん様子を見ましょう』
時間は十七時半。そこには昨日の子供がたっていた。
ストラスの言うとおりに河川敷の少し離れたところから子供を観察した。今のところは特に目立った行動もしてないけど……
「あれ?拓也?」
「光太郎……」
様子を見て三十分、なんだか自分が探偵になった気分でいると後ろから声がかかった。
そこには帰りであろう光太郎が立っていた。
「お前、今日用事あるって言ってたじゃん。何してんの?そんなとこで」
「えっとこれは、その……」
『来ましたよ!』
ストラスの声に気付き、子供のいる方に顔を向けると、小走りで子供に近づいていく中谷の姿があった。
「拓也、その鳥今しゃべった……?」
「後で話すから、とりあえず黙ってくれ。気付かれたらまずい」
光太郎はストラスに気を取られて中谷に気付いてはいないようだが、何がなんだか分からないという顔で隣に腰掛けた。耳を澄ますとなんとなくだか会話が聞こえてきた。俺、耳はいいほうなんだよね。
「お兄さん、優勝おめでとう!」
「本当にすごいな。お前の力」
子供はニシシと無邪気な笑みを浮かべた。
しかしその笑顔の裏には何かが隠されている雰囲気があった。あの時と同じ、俺とストラスを見つけたときのあの表情は、何か含みを持たせた笑みだった。中谷はこっちに全く気付いておらず、子供との会話に集中している。
「お兄さん、今幸せ?」
「え?うん。めちゃくちゃ幸せだよ。だって甲子園だぜ?まだ実感すらわかないよ」
「今までの中で一番幸せ?」
「最高の気分だ!」
「ふーん。じゃあ、そろそろお開きにしようか。面倒そうなのも来たんだよね。あ、見返りはいただくよ。それが条件だったわけだしね」
「え……?」
「嫌とは言わせねえよ」
なんだよ、何の会話なんだよこれ!
俺と光太郎が固唾をのんでいると、腕の中のストラスがつぶやいた。
『やはりヴォラクでしたか……』
「ヴォラク?」
『私の同胞ですよ。能力としては努力をせずに契約者が一番欲するものが入手できる力を持っています』
「だから中谷は練習を……でもそれって結構いい悪魔なんじゃねえのか?」
少し安心した。戦争とか闘争を司る悪魔とかも調べた限りではいたから。それに比べたらずいぶん親切設計な悪魔じゃないか。
しかしストラスはまさかと首を振った。
『悪魔との契約の基本は等価交換。願いを叶える代わりに見返りを我々に渡す。今からヴォラクが彼から見返りをいただく番なのです。彼は大変恐ろしい悪魔ですよ。彼の最も愛すべき人間の姿は幸福の絶頂から奈落に突き落とされた惨めで哀れな姿なのですから』
ストラスの言葉で頭に昨日の少年の言葉が思い浮かんだ。
“あのさ、俺とあいつの邪魔するな。お前もストラスと一緒にいるのなら分かってるだろ。次に邪魔したら容赦しねえぞ”
やっぱり、あの子供は……
「……拓也!何なんだよあれ!?」
「え?……なぁ!?」
『ついに正体を現しましたか』
だってこんなの驚く以外の方法を知らない。
中谷の前に現れたのは頭を二つもつドラゴンにまたがった、天使の翼をもつ少年の姿だったのだから。
「あはは……俺夢でも見てんのかな?」
光太郎、俺もそう思いたいよ。でもこれが現実なんだ。
『拓也、急がなければあの少年はヴォラクになぶり殺しにされてしまいます』
あ―――もお!ちくしょお!!
戦い方なんて当たり前だけど全くわかんないし、どうしたらいいかもわからないけど、中谷のほうに向かって走り出した。
「拓也!」
背中から光太郎の声を受ける。こんなドラゴンどうすればいいってんだよ!つか通行人は!?こんなの出てきて、悲鳴の一つも聞こえてこない。
「光太郎!警察呼んできて!!」
こんなの俺が解決できる問題ではない。警察だって意味わからないだろうけど、これは流石に無理だ!
地べたに座り込んでいる中谷は目を丸くしている。
「な、何が起こってるんだ?」
『何も起こってないよ。お兄さんの願い叶えてあげたでしょう?だから今度は俺の願い叶えてくれてもいいよね?契約内容、忘れたわけじゃないだろ。あんたの願いを叶える代わりにあんたの力で解決可能な限りで俺の願いを叶えること。簡単だよ。お前は今から幸せから絶望に叩き落されて惨めに俺になぶられて死ぬ。それだけの話』
「待てよ!!」
「池上!?」
『あーあ。妙な正義感振り回してきたか。いいぜ、お前らまとめてあの世送りだ。他の悪魔の契約者殺しとかウキウキするねえ』
「とにかく!中谷から離れろ!化け物め!」
俺これからどうなっちゃうんだろう……
登場人物
中谷章吾…拓也と同じクラスの野球部の少年。明るくて少し馬鹿。
1年でレギュラーを取っているあたり、野球の実力はなかなかのもの。
ちなみにポジションはセンター。




