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第27話 悪魔パイモン

 光太郎と中谷と三人で電車に乗って六本木まで向かっている間、会話はなかった。電車の中は二十一時にもかかわらず通勤帰りの人で混雑していたが、それぞれが会話をすることなく車内は電車の走る音以外の音は聞こえない。

 他の人たちから見たら、俺たちはどう映っているんだろう。部活帰り?遊んだ帰り?きっと今から悪魔と戦うかもしれないなんてことは思っていない。

 電車が六本木到着のアナウンスを告げて扉が開く。深呼吸して一歩踏み出す。普段行かない場所は異空間のように感じた。



 27 悪魔パイモン



 「あ、拓也!おーそーいー」

 「わりい。ってかまだ二十一時四十五分じゃん」


 素手にヴォラク達はついていた様で集合場所につくなりブーブー文句を言っている。正直こんな状況だ、少しでもこういう明るい奴がいてくれるのは有り難いような気がする。肩の荷が少し取れて、笑った俺の後ろにいた中谷と光太郎の姿を確認するとヴォラクは眉を曲げた。


 「また来るの?パイモンは強いよ〜」


 来るなとは言わないが、来てもお前たちには何もできないぞ。という言い回しに光太郎と中谷は竹刀とバットを取り出す。まさかの鈍器持参にヴォラクたちの目が丸くなった。


 「今回は大丈夫だって!ちゃんと打撃道具持ってきたし」

 「使い方は違うけどね」


 セーレは的確な突っ込みを入れてビルに視線を向ける。会社はまだ大勢が残って仕事をしていたのか、ちらほら人が出入りしているし電気もついている。しかし警備員に反応がないから鈴木って人はまだのようだ。


 「まだ来てないんだ」

 「みたいだな〜。あいつ、ボケッと立ってるだけみたいだし」


 なんでシトリー男に戻ってんだよ。大丈夫なのか?相手はシトリーが男ってことを知らない訳だし、変わらない方がいいと思うんだけど。


 「シトリー女にならなくていいのか?」

 「あ?別に平気。一回俺の力を使ったら男になろうと女になろうと変わんないから」


 やっぱり便利な能力すぎる。でも男ばっかりのむさくるしい集団よりかは美人のお姉さんがいてほしいと言う気持ちがあるんだけど。

 シトリーが話していると、鞄の中から顔だけを出していたストラスが声をあげた。


 『シトリー、警備員が何者かと話していますよ』

 「あぁ?」


 警備員は一人の男性と話していた。

 遠くてあまりよくわからないけど、二十代後半から三十代前半くらいの男だ。もしかしてあれがそうなのか?何となくの外見は鈴木って人ぽいんだけど、皆スーツ着てるし似たような髪型だから正直分からない。


 「あれじゃねえのか?」

 「行ってみるか」


 シトリーは軽く肩をならし、警備員のところに向かった。その後ろ姿からは緊張や不安は一切感じ取れない。俺たちは少し離れた場所でシトリーがうまくやってくれるのを待つ。


 「大丈夫か?あいつ一人で」

 「心配しなくても平気だよ。何かあっても彼なら口八丁、手八丁でうまく逃げ切るから」


 セーレがそう言うからしばらく様子を見ることにした。まあ、確かにヴォラクやセーレがあまり警戒している感じもないし、今ここで悪魔の気配って言うのは感じていないんだろうけど。

 シトリーが警備員を通して男性に話しかけているが、相手は知らない人間からいきなり呼び止められ、遠目からでもかなり警戒しているのがうかがえる。何かを話し、逃げるように背中を向けた瞬間、シトリーが男性の肩を掴み、耳元に顔を近づけた。その瞬間、相手の表情が変わり、シトリーがその腕を引っ張り、こちらに連れてきた。


 「ビンゴビンゴ。反応的に契約してんな。契約石をどこに持ってるかは知らねえが、不用心だねえ。ちゃんと身につけとかなきゃ悪魔に襲われた時に契約悪魔様が助けに来てくれないぞ~」


 茶化しているがシトリーの表現は脅しが入っている。契約石ってやっぱり持っておかないと駄目なんだろうか。俺はよくわからないし無くしたら駄目だから基本的に家に置いて、こういう悪魔を探す時だけ持ち歩くようにしている。けど、悪魔に襲われたときに持ってないといけないのかもしれない。

 また一つ自分の中の知識みたいなものが一つ満たされる。

 セーレが俺達を庇うように前に出てくれ、ヴォラクはしげしげと鈴木を眺める。


 「ふぅん……こいつが契約してるんだぁ」

 「いきなり出てきて悪魔だのなんだの……何なんだよお前ら。警察呼ぶぞ」

 「呼ばれて困るのそっちじゃない?」


 誤魔化そうとしたけど、そんなの俺達には通用しない。鈴木はこっちを睨みつけながらも訳がわからないという顔をしたため、セーレが鈴木を刺激させないように言葉を選んで話しかけた。


 「俺の後ろにいる子も契約者なんだ。俺たちは他にも悪魔と契約している人を探している」


 セーレの説明で若干安心したのか、鈴木の表情が柔らかくなり、強ばっていた体から力が抜ける。金田とはまた違う対応に話に応じてくれるのかもしれないと淡い期待すらわいた。


 「君もなのか。でもなんで俺のことが分かったんだ?そりゃ悪魔なんかいきなり現れて訳わからないし、同じ状況の奴を探して情報を共有したいって言う気持ちはわかるけど……俺は確かに契約者だけど、君の力にはなれそうもないぞ。情報交換程度ならできるが」

 「あ、いや、そうなんですけど……まずは俺のことを言わせてください。俺が契約している悪魔はストラスとセーレとシトリーとヴォラクって言います」

 「そんなに……一人一体と思ってたけど、違うのか」


 鈴木はシトリー達をマジマジと見つめる。表情に変化がないのはやっぱり自分が契約しているからだろう。金田は人間に化けれる悪魔は連れまわせて便利だなと言っていたが、鈴木からはその発言はない。もしかして人の姿をしている悪魔なんだろうか。


 「それで、俺に何をしてほしい?」

 「契約している悪魔を教えてほしいんです」

 「なぜ?言ったところで関係ないだろう?」

 「俺たちは悪魔を元の世界に戻すために行動してるんです。こいつ等はそれに協力してくれてて……」


 その瞬間、鈴木の顔が変わる。金田の時と同じ、邪魔な奴が来たと言う目。途端に強張ってしまい、硬直した体に鈴木は手を伸ばすもセーレに阻止され舌打ちをした。


 「ふざけるな。いきなり現れて悪魔を地獄に返します?何の権限があってそんなこと勝手にやってるんだ。俺はお前にそんなこと頼んでいない。お前は悪魔連れまわしているくせに俺はダメだ?お前の言うことを俺が聞く必要なんてないだろうが。俺はお前がその悪魔達と契約しようが興味はないし邪魔もしない。だからお前も俺の邪魔はするな」

 「悪魔の力は危険なんです!俺、悪魔と対峙してる内に悪魔に殺される人間を見たんです。あんな事件がまた起こる前に早く地獄に戻さないと!」

 「殺される人間を見た?」


 鈴木はその言葉に反応して、じっとこっちを見てくる。


 「で、殺人現場見てお前は何をしたんだ?随分とあっさりと話してくれるが、人が悪魔に殺されるのを見ていながらも悪魔と契約してるのか?随分とサイコパスなんだな。俺だったらさすがにそんな状況に出くわしたらしないね。自分の手持ちは安全だと言いたいのか?そいつらも契約内容次第じゃお前に牙を向けるかもしれないぞ。次に殺されるのはお前かもな」


 まさかそんな暴言を吐かれると思っていなかった俺はその場に立ち尽くした。そんなつもりないのに。あまりにも自然と吐かれた傷つけるための言葉はストレートに俺の中に入っていき心臓がずきりと痛みを上げる。こんなこと、言われるなんて……

 しかし次の瞬間、セーレが鈴木の腕をひねり上げ、痛みで鈴木がうめき声をあげる。


「君に拓也の何がわかる?契約者の侮辱は止めてもらおうか。気分が良くない」


 セーレのドスのきいた声にこっちまで背筋が凍りついてしまう。

 しかしこれはまずいと慌ててセーレを止めた。


 「セーレ、俺なら全然大丈夫だし!気にしてないから」


 セーレは俺の言葉を聞くと、未だに納得していなさそうだったが、渋々鈴木を開放した。


 「拓也をお前が侮辱する権利はない。二度目はないぞ。それこそ、次に悪魔に殺されるのはお前かもな」


 鈴木はクソッ!と声をあげセーレを睨みつけ、セーレも鈴木を睨みつける。一触即発な状況の中心が普段温厚なセーレなんて想像もできず、いつもは優しく接してくれているセーレとはあまりにも違う暴力的な言葉にドクドクと心臓は嫌な音を立てるけど、庇ってくれたことが嬉しくて目のあたりがじんわりと熱くなる。それを隠すために下を向いて黙れば、中谷はこの空気に耐えられないのか鈴木にさっきの話を持ちかけた。


 「でさ、結局あんた何と契約してんの?」


 その言葉に場の空気が変わり、シトリーもそうだそうだと詰め寄る。


 「そうだよ。俺はそれが聞きたかったんだ!プロケルちゃん?それともヴェパールさん!?できれば美人どころであってくれ!」


 鈴木は誰だそれは?とでも言う様な顔をした。つまりシトリーのお目当ての人物ではないと言うことだ。

 外れか。とシトリーはブチブチ言っていたが、鈴木にもう一度問いかけた。


 「じゃあパイモンだったりして……」


 鈴木の肩が一瞬震えたのを俺たちはわからなかったけど、シトリー達はそれを見逃さなかった。


 「やった!やっぱパイモンだ!」

 『やはりパイモンですか』


 シトリーは来た〜〜!と両手を上げ、ストラスはやれやれと鞄から顔を出す。しかしヴォラクとセーレの表情は険しい。


 「パイモンだってさ。今の俺達の戦力でどうにかなる?」

 「……ヴォラクが倒れたら終わりだね。戦ったことがないから分からないけど、彼の強さは話に聞いているよ」

 「やべえのがこんなに早くくんのかよ。あいつに手ぇ出したら親友のマルコシアスとか同僚のバティンも参戦してくるんじゃねえか?流石に俺だけじゃ無理だよ。正直パイモンにも勝てる気がしない。今回は引き下がった方がいいんじゃねえか?」


 その会話が聞こえ、背筋が凍る。ヴォラクが戦う前から勝てないと言うなんて。正直悪魔の強さとかは良くわからないが、ヴォラクは強い悪魔だってストラスが言っていた。それでも、ヴォラクが勝てない相手がいるのかよ……

 相手があまりにも強大な悪魔だと言う事実に光太郎も顔を真っ青にしている。確かに一回引き返した方がいいのかもしれない。その意味を込めてセーレを見つめるけど、首を横に振った。


 「いや、正直契約者に接触してしまった以上、パイモンが俺たちを逃がさないだろう。この契約者から情報を聞き出し、俺たちを探しに来る。正直、その方がリスクが高い。君の親族にまで被害が出る可能性もある」

 「だったら、シトリーの力を使えば!」

 「無理に決まってんだろ~俺の魔力にかかってることもパイモンはすぐに見抜く。間違いなく俺を殺しに来るだろうさ」


 そんな、やばい相手なのかよ。じゃあこんな早い段階で探すべき相手じゃなかったんだ!

 しかしシトリーには勝算でもあるのか、にんまりと笑っている。


 「そのために契約者がいるんだよな~!な、鈴木さ~ん」

 「パイモンは俺の悪魔だ。誰にも渡すつもりはない」

 「独り占めかよ!ずりーんだよ、俺にもよこせ!」

 「シトリーそれ目的違うから」


 ヴォラクは呆れながらシトリーの服の袖を引っ張るがシトリーは舞い上がったまま代わりにヴォラクを抱きしめる。ヴォラクのきめーよ!やら暑い!やらの文句を完全に無視して。なんでこいつはこんなテンション高いんだよ。パイモンって奴と友達かなんかか?だから怖くないのか?

 セーレは頭を抱えつつも、流石に逃げられないことを察しているようで、シトリーに声をかける。


 「シトリー、勝算はあるんだろうな。俺たちの戦力では相当な策を練らないとパイモンには勝てないぞ。拓也も戦える状態じゃないし、ヴォラクしか実質戦闘員はいない。お前なんでそんな乗り気なんだ?」

 「んま~あいつは話そこそこ分かる奴だし、危害さえ加えなきゃ見逃してくれると思うぜ。心配すんなよ。実はあいつとは腐れ縁なんだ」


 ええ、マジかよ。信用できねえよ。

 軽薄そうなシトリーの態度が信じられないのか、セーレも半信半疑だが、ここで鈴木をかえしてもパイモンに情報がいくのは確実で、もうシトリーに任せるしかない。


 「パイモンのところに案内してもらおうか」

 「誰がお前らなんかに頼まれたくらいで」

 「頼まれたんじゃないんだよなあ。これ命令だから。嫌なら俺の力使ってお前を俺の奴隷にしてやるよ」


 鈴木は睨みつけたが、シトリーの言葉が本気だとわかると渋々頷く。ここで俺たちに抵抗するよりもパイモンに助けてもらう方がいいと判断したのかもしれない。


 「案内すればいいんだろ。でも俺は契約を解く気はない」

 「それはお前が決めることじゃないの」


 シトリーはそう言い、案内しろと急かすと、鈴木は観念したのかのろのろと歩きだした。


 「よぉ〜〜し!待っててねパイモンちゃん♪」


 シトリーはルンルンになって鈴木について行き、俺達も後を追いかける。ついて行っている途中、鞄の中にいるストラスに話しかける。


 「パイモンってそんなにやばいのか?」

 『地獄の王、ルシファー様の腹心です。元は天使で、その能力の高さは天界でも有名だったそうです。私も戦っている姿は見たことがないですが、その強さは耳にしています』

 「大丈夫、なのかな……」

 『正直、ヴォラクも戦ったことがないのだと思います。しかし彼自体があまりにも地獄では有名だ。どうなるかはわかりません。ただ、シトリーは勝算があるようですが』


 あいつは美人に会えるくらいの感覚なんだろうか。でも腐れ縁って言ってたし。

 ストラスがシトリーに話があると言って、鞄から出ていったため、隣にいるヴォラクに今度は声をかけた。


 「なぁ、パイモンって奴そんなに綺麗なのか?」

 「まぁ美人っちゃ美人だけど……」


 ヴォラクは苦笑いしながら言葉を濁した。


 「怒るとすごく怖い。正直絶対に敵に回したくないタイプかな……」


 家に帰りたい。


 『シトリー、貴方は本当にパイモンの姿を見たいが為に今回は協力的だったのですか?私は貴方が重要な何かを隠していて、その答えをパイモンが持っている。そのためパイモンに会いたがっているように見えるのですが』

 「パイモンに会いたいのは本当だ。俺あいつのこと大好きだし。でも半分はお前の言ってること当たりだぜ。あいつに会って確認したいことがある。あいつならきっと知ってる。俺たちの召喚が行われた理由を」


 ***


 しばらくついて行くとマンションが見えてきた。

 どうやらここが鈴木の住んでいるマンションみたいだ。見たところ十階建てってとこだな。光太郎の親父さんのマンションよりかは小さい。まあ、あそこはガチのファミリーマンションらしいしな。鈴木はオートロックを解除しエレベーターのボタンを押す。


 「あぁ〜この先にパイモンが」

 「いて――よ!ばぁか!」


 シトリーがウットリしながら俺をバシバシ叩くから、罵声を浴びせたが全く効いちゃいない。こいつ、本当になんなんだよ!

 エレベーターが到着すると鈴木は中に乗り込み、五階のボタンを押す。エレベーターは他の階に止まることなくスムーズに進み、五階に到着した。鈴木は降りると504部屋の鍵を開けた中から聞こえた声に体が硬直する。


 「今日は遅かったですね」


 中から聞こえた凛とした綺麗な声。これがパイモンの声?奥から出てきたのは本当に綺麗な女の人。モデルなんか目じゃないくらい美人で、俺の今までの人生でNo1に入るくらいの美人だ。勿論澪が一番かわいいけど、ジャンルが違う。百人に聞いたら百人が美人って言いそうなくらい。こんな美人が悪魔だなんて信じられない。惚けている俺にパイモンは視線をよこし、怪訝そうな顔をした。


 「この方たちは?」


 鈴木が答えようとした瞬間シトリーが飛び出した。


 「ぱいも〜〜〜ん!」

 「貴様……なぜここにいる!?」


 さっきまでのしとやかさは何処へやら、パイモンは今にも斬りかからんばかりにシトリーを睨みつける。


 「なぜって?嫌だなぁ〜俺必死で探したんだぜ?」

 「誰も頼んでなどいない!貴様の契約者はどいつだ!?」


 パイモンはシトリーに掴みかかりながら叫んだ。それって俺のことだよね!?そろそろとセーレの後ろに避難。


 「彼で~す」


 馬鹿シトリー何言いやがる!?呼ぶんじゃねえ!隠れてやり過ごすつもりだったのに、セーレの後ろに隠れている俺をシトリーは紹介する。しかし怖くて出れたもんじゃなく、緊張して固まっている俺をパイモンは玄関から動かずにまじまじと見てくる。うっわ……マジで美人。こんな綺麗な人には中々お目にかかれないよ。

 しかしパイモンは俺を見た後にセーレたちにも視線を向けて、鈴木に中に入るように促した。


 「……マルファスとサミジーナがやられた。自己判断で地獄に戻ったようではなさそうだ。何か知っているか?」


 ピリッとした空気が走り、俺と光太郎と中谷は何も答えることができず隠れるしかできない。


 「あー俺たちがぶっ倒しちまった」

 「なぜだ?殺し合いの喧嘩にでも発展したか?」

 「まあ、そんなとこ。俺の契約者様の周りにあんな危険な奴がいるなんて生かしちゃおけねえよ」

 「……わざわざ福岡まで行って、か。ご苦労なことだな。その子供がそんなにお気に入りか?」


 淡々と追い詰めるように発言をするパイモンにシトリーは参ったな。と頭を掻いた。契約者の鈴木も威圧感とかそういう威厳のようなものがあって逆らえなかったと。今のパイモンはまさにそんな感じだ。冷たくて恐ろしい、話しているだけなのに蛇に睨まれた蛙のようになってしまう。


 「馬鹿なお前に腹の探り合いは無理だ。正直に言え。契約者に触発されて正義の味方にでもなったつもりか?内容次第ではここでお前たちを切り殺す未来も見えてきているが、弁明は?」


 その言葉にヴォラクの目つきが変わる。しかしパイモンは全く動じず、こちらの反応を待っている。おいシトリー、話が違うだろ!!腐れ縁って言ったじゃん、見逃してくれるって言ったじゃん!!


 「俺の契約者様は悪魔がこの世界にいるのが気に食わねえみてえでな。できる限り悪魔の人間への干渉を無くしたい。まあ、探してんだよ悪魔をな」

 「ふうん……貴様が男と契約してると言うのも意外だったが、同族に手までかけるとは随分と骨抜きにされているんだな。まさかそっちの気があるとか言うんじゃないだろうな」

 「そんなまっさかー。まったく焼きもちなんて可愛いぞパイモン」

 「……貴様は多少痛い目を見ないと分からないようだな。まあいい。お前の事情は分かった。で、俺を地獄に戻しに来たと言う訳か」


 ん?俺?今この人俺って言った?俺っ子?また斬新な設定だな。

 ストラスに振り返ると悟ったような顔で頷かれる。そういうことだって言う顔をしている。まさか、嘘だよね。こんな美人なのに、おとこ……?もう何も信じられなくなりそうだ。

 固まっている俺をよそにパイモンとシトリーの会話はヒートアップしていく。


 「んーできれば俺たちに協力してほしいなって言う希望的観測的な?」

 「協力、ね……なら俺の質問に答えろ。お前はなぜこんな子供と契約したんだ?お前の力を必要としている感じはないようだが」

 「好き勝手行動するためにはこういう弱そうなやつがいいのよ。おかげでお前を探し出せたっしょ?」

 「それ以上ふざけた会話で時間を割くようなら斬る」


 こ、こえぇ〜〜〜!つかシトリー、それ本音なら後で怒るからな!!でもヴォラクが言ってた意味がわかったよ!なんか半端なく不機嫌なオーラ出てるし!

 パイモンは玄関にもたれかかり、チャンスをやると告げた。


 「シトリー、お前とは昔のよしみだ。切り殺したいところだが今回は見逃してやる。俺たち悪魔に干渉するのはよせ。俺もバティンを通して他の悪魔に派手に暴れない様に警告はしておいてやる。その契約者に火の粉が降りかからなければいいんだろう」

 「ん――それって根本的な解決になってねーんよ。なあパイモン、お前さ、なんかルシファー様から命令受けたりしてる?」


 パイモンの目つきが変わる。

 シトリーは相変わらず薄い笑みを浮かべながら言葉を続ける。


 「何が言いたい?」

 「だってこれってなんかきな臭くない?俺らだけじゃない。他の悪魔も召喚されてる。そんな大それたことできる人間なんてこの世にいるわけがないじゃん?お前、ルシファー様の腹心だし何か知ってんじゃない?」

 「天使が関与している ― それ以上は言えない。俺もこんな状況になって混乱しているんだ。調べている最中で情報はあまり持っていない。ルシファー様からも現状を調べる以外には特にご命令は受けていない。気になるならばバティンに聞いてみろ。あいつの方が情報は持っている。定期的にコンタクトも取っているし行方は分かる。必要なら紹介してやるぞ。今度は俺の質問に答えろ。お前、ソロモンの指輪の持ち主を知っているだろう?」


 それって俺のことだよな!?しかも知っているだろうって、ばれてるってこと!?

 顔面蒼白になって後ずさった俺を庇うようにセーレ達も悟られないように一歩前に出る。シトリーも頭をかきながら適当に返事をした。ポッケの中に入れた左手をぐっと握ると汗がじんわりとわいてくる。


 「見つけたらどうすんの?」

 「指輪の継承者……俺の目的を果たすにふさわしいかを試させてもらう」


 目的?

 俺の気持ちを代弁するようにシトリーがそれを質問したが、パイモンは答えない。


 「俺にも言いたくないことの一つや二つくらいある。根掘り葉掘り聞いてくるな。心配しなくてもお前たちが不利になることではないから安心しろ」

 「そっかぁ……でも悪いな。俺は指輪の継承者なんて知らないなぁ」


 シトリーは空気で危ないと感じ取ったのか、首を横に振った。

 するとパイモンは少し間を置き、クスクスと笑った。その表情はすごく綺麗だけど、同時に恐ろしく冷たい物のように感じる。


 「ふふ……お前、そんな冗談が俺に通じると思っているのか?」

 「あ?」


 パイモンがこっちに近づいてくる。


 「お前だろう継承者。一瞬でも左手を見せたのが悪かったな」


 目の前にきたパイモンに言葉を無くした俺を庇うようにセーレとストラスが前に出てくる。


 「パイモン、君は何がしたいんだ?拓也をどうするつもりだ?」

 「その質問の答えはシトリーに言ったはずだ。同じことを二度言うのは嫌いなんだ。まさかお前たち、悪魔を討伐するとかいうふざけた条件でこの子供と契約しているのか?呆れてものが言えないな」

 『試すと仰っていましたね。拓也はまだあなたと張り合うほどの力は持っていません。パイモン、悪魔が人間の世界に存在することがどれほどの混乱を招くか分かるでしょう』

 「あのな、それは人間の都合であって俺たちの都合ではない。考慮する価値は確かにあるが、俺は何一つ人間の世界に悪影響を及ぼしていないぞ。お前は無差別に悪魔を討伐したいようにしか見えん」


 なんなんだよ……さらに後ずさって光太郎たちの側に寄れば、光太郎と中谷は竹刀とバットを握りしめてパイモンを睨みつけている。

 パイモンは中谷と光太郎を見て笑みを一層深くした。


 「愛されてるんだな継承者。悪魔にも屈しない……勇気と無謀を履き違えた馬鹿どもを従えて王族気取りか?」


 中谷と光太郎は俺の前に立ち、パイモンを睨みつける。


 「何がどうなってるんだ?」


 鈴木は話がわからないらしく、パイモンの側に寄った。

 パイモンは艶やかな笑みを浮かべ優しい声で鈴木に語りかける。


 「探し物が見つかったのです。心配しないでください。少し刺激的なことが起こりますが、貴方に危害は加えさせない」


 パイモンがこっちを向いて笑いかけた途端、周りから黒い霧が出てきた。


 「パイモンてめぇ!」

 『間に合うか?』


 ヴォラクはしまったという様に、慌てて手を動かした。

 結界が周りの空間を包んでいき、得体の知れない化け物どもが結界を壊さんばかりに攻撃している。


 「くそ!パイモン、使い魔を呼んだな!?」

 『話し合いは決裂している。力づくで行くしかないだろう。俺は地獄に戻るつもりはないし、その餓鬼を手に入れたい。お前たちを殺してでもな』


 それって俺を試すってことか?

 足が恐怖でガクガク震え、パイモンは俺を見ておかしそうに笑う。


 『なんの情報もなしに俺に喧嘩を売りに来たわけじゃないだろう?もし、そうならばすべて自業自得だ。心配するな、俺はお前たちの存在を抹消するほどむごいことはしない。死体はきちんと遺族の元に返してやる。俺にとって無価値な存在でも、そんなゴミに価値を見出す奴はいるんだからな』

 「お前!調子にのんじゃねぇぞ!」


 中谷はバットをパイモンに向けて大声を出す。

 結界が張られたこの空間では中谷の大声でも隣室や周りの人間は気づかない。


 『俺の言うことを聞くならば、使い魔は消してやる』

 『お前の言うことなんか聞けるかよ!』


 ヴォラクは結界を広げながらパイモンに怒鳴りかける。


 『ならば被害が一般の人間に出てもいいんだな?このマンションなら吹き飛ばすくらい容易なんだが』

 「パイモン……?」


 鈴木も恐怖に染まった目でパイモンを見つける。

 パイモンは申し訳なさそうに微笑んでまた俺に向きなおる。


 『ごめんなさい。でも俺には見極める義務がありますので。先ほども言いましたが貴方に危害はくわえません。継承者、被害出したくないだろう?俺の言うことを聞くのか聞かないのか』

 

 こんなのどう判断していいか分からない。自分一人では決められないあまりの事態にストラスに縋ってしまった。ストラスは息をのんで、パイモンに声をかける。


 『具体的には何を望んでいるのですか?』

 『俺の空間に来てくれたらそれでいい』

 『なんと……』


 その言葉にストラスは目を丸くしてパイモンを睨みつけた。空間って、サミジーナの時みたいな奴だろうか。しかしそれが良くないことだと言うことは俺でもわかるし、ヴォラクも慌ててパイモンに剣を向けた。


 『ふざけんなよ!おめーの空間なんかに行ったらそれこそお前の思う壷じゃん!!』

 『嫌なら使い魔をこのまま解放する。お前の結界、この数の悪魔だ。そのうち壊されるかもな』

 『くそ……きたねえぞ!!』

 『どうする?あまり俺を待たせるな。簡潔に素早く結論を言え』

 「わかったよ。行けばいいんだろ?その代り全員だ」


 パイモンは二コリと笑い、その条件を受け入れた。

 

 『構わない。何人いようがな。どうせ死ぬときは一人も逃がす気はない……好都合だ』


 パイモンはパチンと指をならし、薄気味悪いブラックホールのような空間を広げた。


 『先に入れ。確認したら使い魔は消してやる』

 「まずお前が先に手下を消してからだ」

 『まだお前は自分の立場が分かっていないのか?別にお前の力を試すのは俺の空間じゃなくてここでもいいんだ。俺はあえて有利な条件を出してやってるにすぎない。現状を把握して物を言え』


 この野郎!

 俺は渋々空間の前に立った。空間はサミジーナの空間に似通っており、黒くよどんでいる。本当にこんな中に入んのかよ。息をのむと、ストラスが肩にとまった。


 『大丈夫ですよ拓也。私も行きますから』

 「ストラス……」


 大丈夫。俺は一人じゃない。

 自分にそう言い聞かせ、目をつぶり空間の中に飛び込んだ。


 『いい子だ』


 パイモンの声が後ろから聞こえる。そして追いかけて中に入ったのかヴォラクの声も。

 そしてこれから俺を試す試練が始まる。


登場人物


パイモン…ソロモン72柱9番目の悪魔。

      200もの軍団を率いる王である。

      エノク書においては、西方の王とされるほどの力を持つが、魔王ルシファーには忠実だという。

      ヒトコブラクダに乗り、光の王冠を戴せた女性のような姿で現れる。

      相手に反対意見を言わせないほどの威圧感と威勢を契約者に与える。

      契約石はエメラルドのブレスレット。


鈴木貴彦…エリート会社員。

      やる気がありすぎるのが欠点で上司との仲はあまりよくない。

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