第24話 夏休み最後の日
夏休みも残りあと五日。あの後、俺はちゃんと家に帰って宿題したんだぜ!だから宿題も終わらせて俺はもう自由だ!!
光太郎も塾の夏期講習が終了し、ましてやあの頭だ。学校の宿題なんか終わらせている。なので今日は光太郎もマンションに来るらしい。
24 夏休み最後の日
「よぉ拓也!久し振り。これハワイのお土産ー無難にマカダミア」
光太郎はマンションでヴォラクとゲームをしていた。光太郎は俺を見るやいなやハワイのお土産をくれた。マカダミアナッツだ!すげえ嬉しい!!無難だけど、これが最高に美味いんだよなあ。直哉も好物だと伝えておいたお陰で大きいのを二袋くれた。俺は特別らしい。俺は旅行とか行ってないから申し訳ないけど、有り難くもらっておく。直哉喜ぶだろうな~
セーレはソファからその様子を眺めていたし、シトリーは雑誌を読んでいた。俺はストラスを腕の中から解放して、ソファの空いている部分に腰掛ける。
早速袋を開けて、マカダミアナッツを食べたことのないストラスに皿にナッツを入れて渡す。好奇心旺盛のストラスは警戒することなく、思い切りかじりつき目を丸くしたが、味が好みだったのかものすごい勢いで食べている。そんなストラスの頭をなでつつ、まだいるか?と問いかけると高速で頷かれた。
「狭くなんだから座んなよ」
ストラスとまったりしている空間に水を差す一言。これはセーレの言葉じゃない、セーレはそんなこと言わない。シトリーの言葉だ。
シトリーは邪魔そうに雑誌で俺の頭をこずく。
「いって!何しやがんだ!大体邪魔ならお前が床に座ればいいじゃん!」
「お前が後から来たんだろ!お前が床いけ!」
セーレは呆れた顔でその光景を見ている。見てないで止めてほしいよ。契約者の俺、酷いことされてる!そしてさらに酷いことにヴォラクと光太郎は完全無視。二人してゲームに夢中になっている。
俺はシトリーとにらみ合い、フンッ!とお互いそっぽを向いた。
シトリーの隣にいるのが嫌で、光太郎達の所に向かう。二人は格闘ゲームで対戦をしており、どうやら光太郎が勝ったらしい。ヴォラクはその場で悔しそうに地団太を踏んだ。
「光太郎ずっけー!つえー!もう俺三連敗だよ!」
あ、そんなにやってたの?
光太郎は嬉しそうに腕を回した。画面ではポーズを決めている忍者。このゲーム俺も持ってるけど、こいつ見た目のわりに操作しやすいし強キャラだよな絶対。俺はテーブルの上に置かれていたクッキーを一枚食べて隣に腰掛けた。
二人は再戦をはじめ、それを見ながら考える。もう夏休みも終わるんだなぁ。
自分の手の平を見つめた。あの剣は俺が消えてほしいと思った瞬間姿を消して、出てきてほしいと思った瞬間にまた姿を現す。ストラスが言うには「栄光の天使たち」っていう奴らの能力の一部がこの剣には備わっているらしい。俺に剣を寄越してきたウリエルもその天使の一角なんだそうだ。それを今回は真剣に聞いた。
だってこれで俺ももう戦うことができる。
つまり、もう戦えないと言う理由で戦うことから逃げることができないんだ。マルファスの時は怖かった反面、ヴォラク達に対する罪悪感があった。でもやっぱり戦うのは怖いし、できるならこのまま逃げていたいと思ってしまう。これから戦っていくにあたり、もし……誰かを殺すような状況が出てきたらどうしようと答えのない恐怖ばかりに支配されるときがある。その時俺は何を感じ、どうなっちゃうんだろう。そんなこと考えても仕方ないんだけど……
とりあえず今日は折角遊びにきてんだ。そんなことは忘れよう。
「拓也もしない?二人で光太郎をやっつけようよ」
「俺狙いかよ!」
「乗った!」
コントローラーを手に取り、キャラを選んだ。俺が選んだのはスタンダードな剣を持ったキャラクター。初心者向けの誰でも操作しやすい主人公キャラだ。このゲームは四人まで対戦可能で三人はちょっとキリが悪いからヴォラクは再び誰かを誘った。
「ねぇねぇ誰かやらない?一人〜」
「俺はいいよ。下手糞だからね」
セーレはどうやらやった事はあるらしい。ストラスはフクロウだから無理だし。
「しょうがねえなぁ……俺がやってやるよ」
シトリーがコントローラーを受け取る。
なんでお前なんだよ。まぁ他に人いないからしょうがないけどさ。
「まあ俺は強いから覚悟しとけよ」
「なんだその意味深な笑いは」
「拓也大丈夫。こいつ結構強いから。よーしやるぞー!」
人数がそろったことで全員がキャラクターを選んで場所を選択する。直哉と鍛えたゲームの腕前を見せてやるぜ!
「まっけないよ〜!」
「俺だって!」
「お前ら熱くなんなよ〜」
シトリーは引き気味になり、俺から少し離れた。悪かったなキモくて……
シトリーはキャラクターを適当に選び、可愛いからという理由でお姫様のキャラクターを選んでいた。力は弱いけど回避力が高くて攻守優れた技を持つキャラだ。お前の女好きはゲームのキャラでも発揮するのか?
「光太郎を狙え狙え〜〜!」
「ちょ……集団攻撃禁止!」
俺とヴォラクは一斉に光太郎を狙う。が、障害物の多いエリアのため、中々捕まえられない。
「隙あり!」
「なんで俺狙うんだよシトリー!ふざけんな!」
「馬鹿野郎。集団戦なんてやってやれるか、下剋上だ」
「最低だなおい!しかも使い方間違ってるし!」
「ウソ!マジで!?」
俺たちはギャーギャー騒ぎながらもゲームに没頭した。
***
ストラスside ―
『随分微笑ましそうですねセーレ』
「やっぱりこうやって見てると拓也は年相応だね。それよりも幼く見えるかな?」
だからかな……とセーレは付け加える。
「あの笑顔がいつまで続くかと思うと心配なんだ……」
『……そうですね』
私は黙って拓也たちを見ました。
確かに拓也は前よりは逃げることが無くなった。悪魔狩りに協力的な一面を見せてきた。でもそれはもう仕方がないと諦めているから?だとしたら拓也は一体何を思って、何を考えているのでしょう。
普通の人間だった拓也、でも今は悪魔を狩れる唯一の人間。その重圧はかなりのものかもしれませんね……
少しは拓也を気遣ってみましょうか。調子に乗るかもしれませんが……今はそんなことを考えさせるのもなんですからこのまま言わないでおきますか。
どうせこの平穏は長くは続かない。
悪魔の情報を見つければ、拓也はまた地獄に返すために行かなければならないのですから。悪魔はまだ六十匹以上も残っています。地獄に返したのは私たち以外ではマルファスとオロバスとサミジーナだけ。まだ悪魔はかなりの数潜んでいます。
どうか拓也の心が壊れませんように、あの笑顔が無くなりませんように……
拓也はゲームに負けたことに文句を言っている。その手にはしっかりと指輪がはめられて……
***
拓也side ―
くっそ〜結局負けちまった。いいとこまで行ってたのに!
結局勝ったのは光太郎。どんだけ強いんだお前。俺たちはしばらくゲームをして、そして夕飯前の十八時にはマンションを出た。光太郎と別れ、ストラスを連れて家に帰る。外はまだ全然明るく、いつもの河川敷に見慣れた姿を見つけた。それは他ならぬ澪で、大声で声をかけた。
「澪!」
澪は俺の声に気づいたのか振り向いて笑いかけてくれた。
俺は澪に駆け寄る。澪も遊びがえりなのか、小さめの鞄を持っていた。私服姿の澪可愛い。
「拓也何してたの?こんなとこで」
「俺?俺はマンションに行ってたんだよ。今帰り。澪は?」
「あたしも裕香と遊んでたの。今帰り」
澪はニッコリと笑い、空を見上げた。
「もう夏休みも終るねー。寂しい」
「だよな〜。俺もテンション下がるぜ」
「来年もこうやって過ごせたらいいね」
その言葉は俺の耳にハッキリと届いた。
澪は立ち止って俺を見つめた。
「拓也、辛くなったらあたしに言ってね。確かにあたしは役に立たないけど……それでも拓也が辛いと思ったことは、あたしも一緒に背負ってあげるから」
その言葉に一瞬周りの物が見えなくなった。
***
ストラスはその光景を見てピンときた。
拓也が今も笑っていられる理由、きっとそれは澪がいるからだ。
拓也が澪を好きと言うのは誰が見ても明確だ。澪が気づいていないだけで。多分澪が傍にいるだけで、それだけで拓也は救われるのだ。
隣を歩く拓也と澪を後ろから眺めていると、本当に恋人同士みたいだ。なぜ当事者がこの状況に気づかないのか。
ストラスは軽くため息をついた。
 




