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第22話 死者からの誘惑

 「また来ましたよ福岡に」

 「で、海星ってとこに行くんでしょ?早く行こうよ」


 二日後、俺たちは再び福岡に来ていた。お盆も終了し、仕事が始まった人もいれば、学校が始まった人、遊びに来ている人で相変わらず人は多い。

 ヴォラクは炎天下の中これ以上いるのが嫌みたいでさっさと行動しようと促した。



 22 死者からの誘惑



 「でさぁ、なんで俺もここにいるわけ?俺、今日はバイトの日なんだけど」


 シトリーは面倒くさいとでも言わんばかりに頭をぼりぼりかいた。悪魔探し協力してくれるって言ったじゃん!


 「俺に協力するって言っただろ!」

 「だから来てやってんだろ。何したいんだよお前。しかもターゲットは男だろ?やってらんねーし」


 こいつはこんな時にまで……ここでこいつを殴っていいだろうか?いや、駄目だ。こんな人の多い場所で暴力なんて。

 頭の中で悪魔と天使が殴れ、駄目だとせめぎあう。握りこぶしをつくっている俺を抑えるようにセーレが肩を掴んだ。


 「バイトは夜からだろ?それまででいいよ」

 「だからこそ昼まで寝かせろや……ったく、しょうがねえなあ」

 「いいじゃん。明日とあさってはバイト休みなんでしょ?今日ぐらい手伝っても」

 「シトリーっていつがバイトなんだ?」

 「シフト次第」


 今日は金曜だから明日とあさってはバイトない日なんだ。ああそっか。俺バイトしてないからあんまりシフトとかそういうのわからないけど。なら今日一日頑張って明日ゆっくり寝てくれたらいい。


 「それより拓也、海星の行き方わかるの?」

 「へ?わかるわけねーじゃん。なんかのバスに乗りゃ何とかなんだろ」


 一瞬空気が固まる。この暑い日差しにいるのがしんどいのか、日陰に移動してしゃがんでいるヴォラクが呆れたような視線を向けてくる。


 「信じらんない。計画性ないし。俺達巻き込まれてんのにさ、本当にいい加減にしてよ。マジウザい、本当にウザい。もうやだ帰る」


 お前は反抗期の子供か!駄々こねるな!日陰から出ようとしないヴォラクの腕を引っ張ると、向こうも抵抗し押し問答になってしまう。横を通り過ぎた女子大生くらいのお姉さんにも笑われるし散々だよもう!!


 「もううっせーな!ほら行くぞ!」


 ヴォラクの頭をたたいて引きずり、博多駅のバス乗り場に向かう。しかし……


 「乗り場がいっぱいあるなぁ」


 流石博多。乗り場が沢山ありすぎて、どれに乗ればいいかさっぱりだ。ネットで調べたときは海星行きのバスがあるって書いてあったのに、そんなのはどこにも書いていない。再度ネットで調べて13番のバスと言う文言を見つけて13番を見ても海星とは書いていない。


 「海星行きってどこにもなくないか?」

 「なんだよ拓也ー」


 セーレもバスの時刻表を見ながら呟いた。もしかして乗り場違うのかな?バス会社が違うとか?

 ヴォラクも横でぶーぶー言ってくるし、ラチがあかなくなった俺はシトリーに頼んだ。


 「シトリー、誰かに聞いてみてくれよ」

 「なんで俺が」

 「そのくらいしてくれたっていいだろー?」

 「そのくらいならお前がしろや。俺の力使う必要もねえだろが」


 シトリーはそう言って道を歩く人をキョロキョロと見たあとに、二人組の女性に目をつけて声をかけていた。男性だってたくさん歩いているのに、女性に声をかけるあたりがマジでブレないなって思う。


 「行動が早いな彼」

 「うん」


 同じことを考えていたのか若干目つきが厳しいセーレもあきれ半分、感心半分でそれを眺めていた。未だに帰りたいと愚図るヴォラクを落ち着かせ様子を見ていると、シトリーがその女の人たちとこっちに歩いてきた。


 「おーい。送ってくれるってよ」


 なにぃ!?何を言ったらそうなるんだ!?開いた口が塞がらない。

 二人組の女性は顔を赤らめさせ、シトリーを見上げている。まぁ確かにシトリーは美形だ、それは認める。でも上手くいきすぎなんじゃないか?少しむかついたが行けるのならいいや。俺たちはタクシーに乗って、海星まで向かった。


 タクシーを走らせて二十分、海星の前に到着した。送ってくれたことで女性二人のシトリーは手を振り、去っていく。タクシーよんでくれるなら別に博多で解散でいいのに。まさか割り勘要員……!?だとしたらシトリー、恐ろしい奴。

 タクシーを降りた先には海星ってでかでかと書かれた門の奥には立派な学校が建っている。おお、お金持ち私立校って感じ!デカイなぁ。俺の学校の二倍はあるんじゃないか?

 

 今の時刻は十五時半。ちょうど六限目が終わったのか、生徒達が下校していた。でもこれだけ生徒がいれば誰が金田とか分からないし、もう帰った可能性だってあるよな。

 そんな俺を見て、ヴォラクはシトリーの服を引っ張って再び頼む。


 「シトリー、また誰かに聞いてきてよ」

 「伸びるから引っ張んじゃねーよ。っていうかまた俺かよ。少しはお前も何とかしろよ」

 「だって、こういうのってシトリーが一番向いてんじゃんか。シトリーは契約者探査機だよ」

 「変な名称つけんじぇねえ!」


 振り返ってお前が行けと言われるが、俺たちはもうシトリーにおんぶにだっこですアピールするように動きませんと言う鉄の意思を見せると、シトリーは思い切り舌打ちをして悪態をつきながらも、一人の生徒に声をかけた。


 「なあ、金田真吾ってまだ学校にいる?」

 「え?えっと金田くんならまだいると思いますよ?もうすぐ来るんじゃないかな?」

 「来たら教えてよ。俺、顔知らないからさ。いいだろ?」

 「……はい、わかりました」

 「シトリー力使っちゃって……」


 セーレはため息をついてその光景を眺めていた。力を使ったって……こないだの奴か!相手は女の子だけど大丈夫なのか!?


 「力?あの澪に使ってたやつか?大変じゃん!」

 「大丈夫だよ。上手く聞きだすために使ってるだけだから」


 シトリーは俺達の所に戻ってこず、女子高生と校門の前に立って待っていた。

 十分くらい、その状態が続くと女子高生が指をさしてシトリーに何か声をかける。それを確認したシトリーが女子高生の額に指を当て、パチンと指を鳴らすと、女子高生はまるで目が覚めたかのように状況を理解できず何が起こったのか確認しだす。


 「あれ、あたし……」

 「ありがとう。金田、来たよ」

 「え?あ、はい」


 女子高生は顔を赤らめさせて、その場を去って行った。女子高生がいなくなったのを確認してシトリーのいる場所に向かう。


 「あいつだって」


 シトリーが顎をクイッとあげた先には一人の男子が歩いていた。制服を緩く着こなして、鞄は小さくて教科書なんてあんま入んないだろう。森岡の言ってた通り、ガリ勉と言うにはほど遠いタイプだった。

 相手は高校三年生。つまり俺より年上。話しかけるのに若干ためらったが、腹をくくって金田に声をかけた。


 「すみません」

 「あ?」


 金田は立ち止って俺を見た。う、怖い。あ?って言われたんだけど。普通の高校生よりも確実にガラが悪い。


 「お前誰?前に会ったことあると?」

 「いや、そういう訳ではないんですけど……ちょっとお話が」


 怖くなって目をそらしながら話した俺に金田は不機嫌そうに舌打ちを一つ。こ、怖い……なにこいつただのチンピラだよ。


 「俺は話すことないっちゃけど?」


 やばい、博多弁すごい。いやそうじゃない。このままじゃ来てくれない。どうしようかと思った俺はいきなり核心をついた。反応的に違うようだったら、諦めたらいい。まあシトリーたちもいるし、殴られることはないと思う。


 「悪魔と契約してるんじゃないですか?」

 「は?」


 金田の目つきが変わったことは俺から見てもまるわかりだ。意味不明なことをいきなり言い出したやばい奴、とか、そんな反応ではない。なんでこいつが知っているんだ?そう物語っていた。やっぱりこの反応間違いない、契約してる。


 「知らないって言ったら帰ってくれるんか?わざわざ嗅ぎまわって。お前東京からきとうと?標準語やもんな」

 「知らないって言っても無駄です。あなたを止めに来たんです」

 「止める?何を?」

 「悪魔の力は危険だ。人が操れる力じゃない……だから悪魔と契約を切ってください」

 「ああ、なるほど。お前、俺の同類ね」


 同類、ということは俺を契約者だと理解したのだろう。ソロモンの悪魔は72匹だ。少なくとも一人一匹で考えると最低でも世界に七十二人の契約者がいるってことだ。金田はそれを理解し、俺を契約者……つまり同類と言う言葉で誤魔化したのだろう。


 「だったら、俺の気持ちもわかるよな?お前も同類なんやけんな。こげなつまらん日常にやっとおもしろい事起こったんよ。簡単に手放してたまるか。それに俺が誰と契約してようがあんたには関係ないっちゃろ?」

 「でも悪魔の力は……」

 「その後ろのいるのは俺が持ってるのと同じ奴ら、やろ?いいねえ人間に化けれる奴なら持ち歩いても変な目で見られんしなあ」


 あまりにも軽い反応に、もう一度悪魔と契約を切ってくれと懇願するが、金田はそれを全て否と答えてきた。どうして、そんなにも悪魔の力が欲しいのかよ……勉強できて、家族だっていて、何もかも持ってるじゃないか。スリル欲しさに契約なんてふざけている。

 しかし金田は俺が悪魔と契約していると言う事実を確認して、いきなり胸ぐらを掴んできて顔が近づく。慌ててセーレがそれを止めるが、目の前で睨みつけられ、吐かれた言葉に目が丸くなる。


 「お前はなんなん?自分は特別だとでもおもっとるんか?お前が契約するのは良くて俺は悪いんか?調子に乗るなよ。お前の手持ちすべて消化してから俺に頭下げに来いよ」

 「そんな……俺はただ」

 「拓也を馬鹿にすんなよ!」


 金田の言い分に腹が立ったのか、ヴォラクが前に出てきた。


 「拓也はお前と違って悪魔の怖さをわかった上で契約してるんだ!何にも知らないお前とは違うぞ!!」

 「悪魔には見えんっちゃけど……どうでもいいわ。お前たちは俺たち人間に使役されるだけの存在やろ。召喚してもらってありがとうございますって言えよ。馴れ馴れしく話しかけんじゃねえよ」

 「なんだと!?」

 「とにかく、嗅ぎまわるな。お互いにいい思いせんよ」


 ヴォラクはカンカンになって怒ったが、金田は鼻を鳴らしその場から立ち去った。契約者からあんな態度を取られるのは予想外で放心してしまっている俺の横で、セーレは口元を手で覆い、険しい表情をしている。


 「まずいな。ああいうタイプって一番危ないよ。悪魔より自分の方が立場が上だと思ってる」


 セーレの言葉にシトリーも頷きながら話に参加した。


 「確かにな。悪魔を自分で操れるなんて思ってる奴は恰好の獲物だからな。実は悪魔の術中にドップリとハマってる可能性が高いんだよ」

 「でもあいつ一体何の悪魔と契約してるんだ?」

 『ホーホー』

 「ストラス?」

 「拓也、いったん人の少ない所に行こう」


 俺たちはセーレに言われたとおり、人通りの少ないところを目指して移動した。


 ***


 住宅街の小さな公園、運よく誰もおらず、なんとか鞄からストラスを出してベンチに腰掛けた。ストラスは周辺に人がいないことを確認し、気づいたことを報告してくれた。


 『あの少年の契約した悪魔、おそらくサミジーナでは』


 さみじーな?そんな悪魔いたっけ?ソロモンの悪魔ってネットで見ても、○○と呼ばれる、○○と言われることも、とか若干響きが違う呼び方があって、正直どれが正解分からない。


 『カイヤナイトの首輪を鞄につけていました。契約石を肌身離さず持ち歩いている。警戒心は強そうですね』

 「そのサミジーナってどんな悪魔なんだ?」

 『サミジーナは馬の容姿をした悪魔で様々な学問を司ります。その中で彼がもっとも得意とするものは降霊術です。彼は海で死に、カルタグラ(魂の苦悩の意)と呼ばれる煉獄で苦しむ霊魂を召還者の前に出現させることができ、霊は命じられたことを終えるまでは召喚者の傍に居続けます。また、彼のタリスマンを枕元に入れて寝ると、夢の中で死者に会うこともできます。おそらくあの少年はそれを』


 降霊術とか怖い!夢に死人が出てきたら寝るのも怖くなりそうだ。人に使って嫌がらせするくらいしかできない能力だろそれ。なんで契約してんだよ。


 「降霊術もそうですが、一番恐ろしい能力が夢を自在に操ること。眠っている間の無防備な体に悪夢を植え付けて衝撃を与えるんだ」

 「でも夢の中じゃん。そんなの起きちゃえば平気だし」

 「人間の想像力には限界がある。もし脳の許容範囲以上の衝撃を寝ている間に受けたら思考は確実に停止する。彼はそのまま死者に地獄へ引きずり降ろされるだろうな。それなのに、彼はそんなサミジーナを舐めてかかっている」


 だったらこんなところで悠長に話している場合じゃない。夜までに解決しないと!俺たちが出てきたってなるとサミジーナも何をするかわかったもんじゃない。でも金田の住所がわからないからどうすることもできない俺たちは一斉にシトリーを見た。


 「な、なんだよ」

 「シトリー、聞きこみは任せたぞ」

 「任されても困るぞ」

 「グダグダ言わないでよね!さっさと行けよ!」


 ヴォラクに突き飛ばされて、シトリーはくそっといいながらまた海星に向かった。


 『とりあえず、シトリーが来るのを待ちましょう』

 「そうだな」


 しばらく公園で待っていると、シトリーが誰かを連れてくるのが見えた。いい人を見つけてきたんだろうか。


 ん???


 シトリーは予想外のことに男を連れて帰ってきた。しかも男はシトリーを見て、頬を染めている。まさか……そういうことなんだろうか?

 セーレが若干、顔を引きつらせながら質問した。


 「シトリー……君の力は男にも使えるのか?」

 「その辺の奴ひっかけてきた。俺の力は老若男女区別なしだ。赤ん坊にだって可能だぜ?あーこええ。俺のケツ狙ってんのかな。ガード強くしとかねえと何されるか分かんねえぜ」


 それはそれで怖いが、この状況も同じくらい怖い。はたから見てりゃ、こりゃホモだ。

 セーレとヴォラクも顔を青ざめさせ、自分には力を使うなと言っておこうと呟いた。


 「こいつが案内してくれるって」


 楽でいいけどまた案内させんのかよ。俺たちはその男の後ろを少し離れてついて行った。


 ***


 公園から十五分。四階建てのアパートに辿り着く。


 「あいつはここで1人暮らしをしてるんです」


 高校生の分際で羨ましい!私立の進学校だし、実家から遠いとかそんな理由かな?

 アパートは最近建ったのか、まだかなり綺麗な方だった。俺たちはエレベーターを使い四階に上がり、403の部屋のインターホンを押した。


 「はい」

 「真吾?俺、隆也。開けてくれ」


 そこまでさせちゃうのかシトリー。

 玄関を開けた金田は友人の後ろにいる俺たちを見て、声を荒げた。


 「なんだよ……って、なんでお前達が!何のつもりだ隆也!」

 「残念、こいつはもう俺の配下。お前逃げらんないよ」

 「配下!?ふざけやがって!」

 「サミジーナを出してくれ。彼は危険だ。君が扱える悪魔じゃない」

 「冗談じゃない」


 金田はカイヤナイトの首輪を手に取った。まるで人質かのように突き出され、それがいったい何の役に立つんだと聞きたくなる。


 「これさえあれば俺のもんだ。あいつは仕掛けてこれん」

 「契約石だけでそう思うのは考えが浅すぎる。早く……」


 セーレが金田から視線を外して奥にいる影に集中する。そこには家の中だと言うのにまさかの馬の姿があった。どうやらあいつがサミジーナらしい。こんなとこで普通馬とか出てこないから絶対そうだ。

 その眼は恐ろしいほどの光を放ち、金田を見つめていた。


 『人間の飼い犬め。失せろ……』


 サミジーナがそう呟いた瞬間、体から黒いオーラを放たれ、それは本で見たような悪魔の姿になった。


 「うわ!」

 「サミジーナの手下の悪魔たちだ!」


 そんな!こんな場所で……ただでさえ逃げれない場所なのに!それにここは住宅街、下手したら他の 人間に見られるかもしれない!


 「やめろサミジーナ。俺の合図なしで勝手な真似するな。これ叩き割ってもよかよ」


 金田の声で、悪魔たちは一瞬で姿を消した。金田は契約石のついた首輪を指でくるくる回して悪魔を脅す。度胸ありすぎだろこの人。さすがに抵抗できないのか、サミジーナは不満そうな顔をしながらも大人しくそれに従った。


 「お前らが来るとこいつの機嫌が悪い。帰れ」

 「あ、おい!!」


 金田は勢いよくドアを閉めてしまい、鍵まで掛けられてしまったドアをただ見つめるしかなかった。残されたけど、向こうはもう開けてくれないだろうけど、どうしたらいいんだよ……


 「どうすんだこれ……」

 「お〜い、俺そろそろバイトの時間なんだけど……」


 シトリーの言葉で現実に戻される。そっか、もうそんな時間か。


 「拓也、帰ろう」

 

 帰ってもいいが、このまま時間がたつと金田が危険なのではないかという恐怖みたいな焦りがわいてきて首を横に振った俺にシトリーが帰らないと遅刻する!と言っている。だから、シトリーは帰ればいいじゃん。


 「俺、もう少し粘ってみる」

 「……わかった。シトリーを送ったら戻ってくるよ。この子も公園に連れて行っとくよ」


 セーレとヴォラクは案内させた少年を引っ張り、シトリーを送るために一度アパートから離れ、見送った俺とストラスは再度玄関を叩いて声を出した。


 「頼む、話を聞いてくれ!あんたを助けたいんだ!!大声出すよ!」


 声を張り上げて叫び続けると金田は怒った顔で玄関を開けた。


 「うるせえ既に出してんだろ!近所迷惑やろうが!大声だすなや!!」


 俺はあいたドアに手を突っ込み、必死でしがみついた。


 「放せ!」

 「嫌だ!絶対に嫌だ!」


 力の限りドアを開けるように引っ張ると金田は観念したのか、ドアを持つ手を放したため勢い余ってそのまま背後の壁に背中をぶつけた。


 「って〜……」

 「もうなんなんよお前。ウザすぎ」


 金田はうんざりしたように手で額を覆い、壁にもたれかかる。でもこの反応って話を聞いてくれるってことだよな?俺の粘り勝ちだ!


 「話はさっきと同じだよ。なんで悪魔なんかと契約するんだ?楽しいからか?」

 「その言葉、そっくりそのままお前に返しちゃるわ」

 「俺は悪魔を元の世界に戻すためだ。でも、俺一人で悪魔と戦うなんてできるはずもないし、だから協力してもらってるんだ」

 「平気で同胞に手をかけるか。流石悪魔、仲間意識のないその行動に御見それしますわ」

 「お、おい!ストラス達を馬鹿にするなよ!あんた達とは違うんだからな!?」


 金田はまともに話を聞いてくれる気配がなく、面倒そうに適当に相槌を打ってその場を流している。どうやったら説得できるんだろう。この人に、本当に危険なんだと教えられるんだろう。

 しかし金田の様子を黙って見ていたストラスが重い口を開いた。


 『貴方は誰か死んだ人間で会いたい者がいるのですか?』


 シン……と静まり返り、ストラスの言葉に目を丸くさせてその場にかたまった。金田が初めて見せた表情。自分の心の弱い部分。もしかして、面白半分の契約とかでは、ないってことか?


 「なんでそれを……」

 『サミジーナの能力の一つです。死んだ人間に会えるというのは。海に関係した死に方をした人物になら降霊術で現在に甦らせることも可能ですが』


 後ろで俺たちの様子を見ていたサミジーナはストラスを睨みつけた。まるで余計なことをこれ以上言うなという意味が込められた視線の鋭さに思わず腰が引ける。

 そうだ、今は俺とストラスしかいない。サミジーナが襲い掛かってきたときに対応できる奴がどこにもいないんだ!


 『ストラス貴様……』

 『サミジーナ。貴方が何を思っているかは知りませんが、この少年から離れなさい』

 「そんなことさせてたまるか!」


 金田は急に目をつりあげて怒鳴ってきた。


 「サミジーナがいなきゃ俺は……ッ!」


 金田はその言葉にハッとして、悔しそうに言葉を詰まらせた。とにかくこれ以上サミジーナに話を聞かれないように金田を玄関から出して扉を閉める。サミジーナの目つきが半端じゃなく怖かったから。

 金田はそのまま顔を伏せて、唇を噛んでいた。


 『金田、一体何を求めているのです?死んだ人間に何を伝えたいのです?』

 「伝えることなんてないし、お前には関係のない事だ」

 『ではなぜ彼と契約しているのですか?彼は降霊術以外では秀でた能力はありませんが?』

 「本当に、なんなんだよお前ら……」


 頭を抱えて蹲った金田の声は弱弱しい。今までの態度とは大違いだ。


 「急に出てきて、こんだけ荒らすだけ荒らして、俺の意思は無視か?本当に何様なんだよ。妙な正義感に巻き込んで、土足で踏み込んでくるお前らに誰が共感できるんだよ。クソッタレが……死んじまえばいいのに」


 ストレートな暴言が心に突き刺さり、これほどまでに酷いことを言われたことなど今まで一度もなくて、もしかしたら自分が無神経なだけなのではと本当に思ってしまって……小さな声で謝罪した俺を見て、ストラスが金田の頭を羽で殴った。

 金田がストラスの足を掴んで地面にたたきつけたのを見て、我に返り金田を突き飛ばしストラスを抱き上げる。


 「あんたの方が最低だよ!ふざけんなよ!!何すんだよ!!俺はただ……」


 ― あんたを助けたいだけなのに!!


 その一言が出てこなかった。だって、相手がそれを望んでいないから。中途半端に言葉を止めてしまった俺を地面に座り込んでいる金田は怪訝そうに見ている。

 

 どうしてだよ、上手くいかない。こんな対応されるとか思っていなかった。悪魔なんて皆いてほしくない存在だと思っていたのに、悪魔を必要としている人が目の前にいる。なんだか自信がなくなるよ、こんな人たちからこれから悪魔を取り上げていくのは、すごく大変だろう。なんで、こんなひどいことを言われてまで助けないといけないんだ。

 もういいじゃん、金田は俺の話なんて聞かないし、痛い目を見ればいい。

 全てを諦めて帰る前に嫌みの一つでも入れてやると思ってあげた視線の先にいる相手の表情に言葉を無くした。


 頭を抱えている金田は苦しそうに、辛そうにしていたから。


 その表情に最後にもう一度だけと、頭の中で声が響く。これで最後。説得できなければ、諦める。

 そう自分に言い聞かせ、金田の前に膝をついた。


 「お願いだ。話をしてくれ。あんたを助けたいだけなんだ。あの悪魔すげえ怖い目をしてたし……その内、何か仕掛けてくるかもしれないだろ」


 金田からの返事はない。しかし先ほどよりもその姿は弱弱しい。

 ぽつぽつと名何かを放している声が聞こえ、聞き返すと自分の質問とは全く関係のない事を言っていた。


 「…………別にやりたい事もない、生きる目標もない。親の世間体の為だけに生かされる生活にはもううんざりや。勉強できて何になる?それだけで俺の価値が決められるんか?」

 「金田?」

 「他の選択肢なんか与えられない。俺は、親の自己満足の為に生かされてるんか。誰も分かってくれん。周りの人間は表面だけ見て俺んこつ羨ましがる。お前らもそうや。俺の何がわかると?俺だって……もっと、普通の生活がしたいよ!!友人と遊んで帰りたかったし、旅行だって行きたかった!塾なんて通いたくないし、大学だって興味ない!!でも、俺にはこの選択肢しか与えられない。人生ガチガチに縛られて、逃げ出す勇気も能力もなくて、誰にも迷惑かけとらんやろ!俺からあいつを奪おうとするな!!」


 知らなかった。こんなに苦痛を持ってたなんて……話を聞く限りじゃなんでも持っている天才人間で……周りが羨ましがるのは当たり前だ。

 でも金田はそんな自分が嫌で仕方ないのか、俯いたまま動かない。


 『それとサミジーナ。何が関係あるのですか?』

 「金田。頼む教えてくれ」

 「……俺のばあちゃん」

 「ばあちゃん?」


 祖母と、会いたかったのか……


 「俺んこと、理解してくれた唯一の人。俺の味方はばあちゃんしかおらんかった。そのばあちゃんも病気で死んだ。もう俺の味方はどこにもおらん」

 『つまり貴方は死んだ祖母に会う為にサミジーナと契約をしていると?』


 金田は黙って頷いた。途端に先ほどまでの苛立ちや嫌悪感は消え失せ、目の前の青年に同情した。味方がいないって言っていた。確かに不思議だった。高校生でこんなマンションを与えられて、あー光太郎もだけど、あいつの場合はまた違うか。金田は、きっと両親から逃げたかったんだろう。

 この人の家庭がどんなものかはわからない。でもきっと、あまりにも天才の子供を手に入れた両親は金田にとてつもない期待をかけていたんだろう。今の話を聞くと、友達と遊ぶことも旅行も、勉強以外の行動を今まで否定されて生きてきたのかもしれない。

 腕の中のストラスが優しい声で金田を諭す。


 『貴方の気持ちはわかりました。しかし、悪魔の存在はこの世界では混乱しか生まない。貴方の環境や境遇を知りもしないで、悪魔だけを事務的に葬りに来た私達が憎かったでしょう。金田、貴方の人生は貴方のものだ。貴方の家族は貴方にとって大切ゆえに柵だ。それでも、最後は貴方自身が幸せにならなければ意味がないんです。大学に行って、本当の自分を探してみてはどうです?働き出したら親の言いなりなんてクソくらえですからね!本当の望みが見つかったら、そこから始めればいい』


 「俺さ、ばあちゃん達とは離れて暮らしてて、あんまり会わないんだけどさ……やっぱ死んだら落ち込むし泣くと思うんだ。でも一か月くらいしたらその生活にもきっと慣れる。最低だって思うかもしれないけど、忘れたわけじゃないんだ。仕方ないって受け止めちゃうんだ。人間ってずっと生きれる生き物じゃないから。だから辛いだろうけど受け止めなきゃいけないんだ。他の皆も、辛いけどそうやって今まで生きてきたんだ。だからサミジーナと契約を破棄してくれ。お前、今までばあちゃんがいてくれたとしても頑張ってきたじゃん。俺、凡人だから羨ましいよ。勉強ができるってだけでも。お前にとっちゃ当たり前なことかもしんないけどさ、俺なんかテストで悪い点とって怒られるだけだしさ」


 黙って聞いていた金田はぽつりとつぶやく。


 「嫌にならんか?自分の人生なんに、なんで親にとやかく言われなならん?放っといてほしいって思わんか?俺にはそれがわからん」

 「そりゃたまには思うけどさ。でもやっぱ親も自分たちのように幸せになってほしいって思ってるからじゃね?」


 金田は顔をあげて俺を見てきた。母さんがガミガミ怒る理由は分かっている。きっと俺が本当に自分のやりたいことを見つけたのなら応援してくれるかもしれないが、今の俺はスポーツ選手になりたいとか芸術家になりたいとか、そういう夢はない。

 そんな俺が少しでも自立して暮らしていけるように学歴を身につけさせたいって言うのは、きっとどの親も思うことなんだと思う。勿論、学歴がなくても仕事はあるし、偉い人になれるけど、そんな一握りに入れるとも思えないし。てなると、やっぱり勉強してできるだけいい企業に就職してほしいって言うのは、親の願いなんだろう。


 「今の自分が満足してるか、何も困ってることはないか。それでわかるんだと思う。少なくとも俺は今の自分に満足してるよ。頭はあれだけど、父さんも母さんも弟もじいちゃんもばあちゃんも、ストラス達も皆大好きだ。お前もさ、なんだかんだ言って父さんと母さんが好きだから、今まで我慢してやってこれたんだろ?大学って楽しいとこって聞いたよ。そこでやりたいこと見つければいい。やりたい事が自分の学部になかったら編入でもすればいいじゃん!もうばあちゃんを当てにしたら駄目だよ。ばあちゃん疲れちゃうよ」


 金田は再び俯いて何かを考えるように瞳を閉じた後、小さく笑った。その時に零れ落ちた水滴が、全てを物語っているように見えた。


 「情けないな俺……今まで、そうやって生きてきたのに、悪魔なんか出てきて少しだけ日常が変わったら依存してるなんて。契約の件は考えてみる。また明日来てくれ。今日中に結論は出す」


 金田はそう言って立ち上がり、小さな声でありがとうと礼を述べて部屋に入っていった。


 「拓也、格好よかったよ」


 金田がいなくなり、後ろ帰声が聞こえ振り返るとセーレとヴォラクが立っていた。うわあああ恥ずかしい!ヴォラクの奴ニヤニヤしてる!


 「なんで……」

 「入れなさそうだから、話が終わるのを待ってたけど、中々熱弁だったよ」

 「でも知らなかったな〜。拓也がそんなに俺たちのこと好きだったなんて〜」


 聞かれてたことを知ると、途端に恥ずかしくなって照れ隠しに頭を掻いた。

 そんな俺をヴォラクが茶化すもんだから、恥ずかしさの余りヴォラクにヘッドロックをかました。


 「黙れヴォラク!」

 「いった―――――い!!痛い痛い!放せ〜〜〜!!」


 ヴォラクはギブギブと言いながら腕をベシベシ叩いた。

 しかしストラスはなぜか浮かない顔をしている。


 「どんしたんだ?ストラス」

 『サミジーナがこのまま黙っているのでしょうか?もしかしたら今日にでも仕掛けてくる事も……』

 「気にしすぎだろ?金田には攻撃しない感じだったし、明日には地獄に返せるんだからさ。平気平気」


 金田の意思を尊重したい。考えると言ってくれた金田に今結論を出せと言うのは酷だろう。サミジーナも契約石があるのなら言うこと聞いていたし。だから深く気に留めず、帰ろうとセーレに伝え、俺たちはそのまま人のいない通りに行き、そこからマンションに帰った。


 ***


 マンションから皆と分かれ、ストラスと帰路についていると、ガシャガシャと騒がしい音を立てて何かが近づいてくる。


 「池上!」


 声がするほうを振り返ると、中谷が手を振っていた。

 中谷は家に帰る途中だったのか、スポーツバッグを背負っていた。手にはコンビニの袋を持っている。


 「おぉ中谷!久し振り〜っていうか2日ぶり〜何買ったんだ?」


 袋の中にはカップ麺二つとパンとお菓子も入っていた。これは今日の夕飯だろうか?


 「今日親父とお袋がいないからさ、一人寂しく夕飯なんだよー聞いてよ!兄貴がさー飯食いに連れていってくれるって言ってたのにさー腸炎になりやがってさー!!逆に俺が冷えピタとかお粥とか買っていったわ」

 「あら侘しい」

 「うっせ。いいんだよ」


 中谷は軽く俺を小突いていつもと変わらぬ笑みを浮かべた。中谷には大学生の兄がいて、随分と可愛がられているようだ。中谷のこの天性の明るさは両親と兄に可愛がられていたからだろう。家族仲はすげえ良くて、月に一度は家族で食事に行っているくらいだ。

 ただ、中谷の家は共働きだから、今日は食事の時間が合わなかったんだろうな。本人は気にしていなさそうだけど、たくさん食べる中谷が一人で食事というのが想像できず、気づけば声をかけてしまった。


 「俺ん家来る?夕飯一緒食おうぜ。俺ん家いっつも多めに作ってるから余裕だろ」

 「え?そんな悪いし。急じゃん」

 「平気平気」


 誘った後に図々しかったかな?と思ったが、俺が大丈夫だと告げれば中谷は行きたいと気持ちのいい返事をしたため、中谷の腕を引っ張り、家に連れて行った。

 澪も今日は家に来ており、まさかの中谷を連れて帰ったことに目を丸くしている。


 「あれ?中谷君」

 「あー池上って松本さんと幼馴染なんだっけ?お前ディズニーのストラップ鞄につけてさ~。松本さん聞いてよ、こいつ超自慢してんの。俺、澪と行ったんだぜってドヤ顔。うざかったー!!」


 中谷と澪はそんなに交流ないはずなのに、ペラペラと話す中谷の勢いに押され澪は笑った。こいつ本当に人見知りとか無縁なんだろうな。俺はすげえ恥ずかしい事暴露されて死にたいんだけど。


 「あたしも拓也と行ったって自慢したよ。羨ましがられた」

 「あー池上って地味にモテんだよね。やっぱこのTHE・一般人!的なとこがいいんかな」

 「おい!どういうことだよ!!てか俺モテてるの?誰だよ俺を格好いいて言ってくれる子!!」

 「え、松本さんとか?」


 お前それ最高やないか!!


 「いや、あたしは言ってないから」

 「澪~~~!!!」


 澪のスルーに中谷は爆笑し、玄関からの声が聞こえてきた母さんが早く中に入れと言っている。まさか中谷がいるってことは思ってないんだろうな。


 「今日、中谷も夕飯食ってくから」

 「おばさんにちゃんと言ったの?」

 「今から言う」


 澪は少し笑って拓也らしいと呟いた。

 まずはストラスを部屋に連れていき、鞄を置いて中谷を連れてリビングに入ると、いきなりの中谷の乱入に母さんは目を丸くする。まあ、当然か。

 今日は中谷も飯食うと告げると、母さんは俺の頭を叩いてきた。


 「早く言いなさいよ!!もっと腕によりをかけるのに!手抜きと思われるじゃない!」


 母さんは突然連れてきたことよりも、もてなしをできないことの方が不満なようだ。

 直哉は中谷に初めて会うので緊張してるのか、父さんの後ろに隠れてしまった。


 「直哉、俺の友達に失礼な態度とんな」

 「いいよ池上。でも本当にそっくりだな〜」


 中谷は直哉をしげしげと見つめ、中谷にジロジロ見られた直哉は気恥ずかしいのかますます父さんの後ろに隠れてしまった。


 「さ、準備ができたから食べましょう。中谷君も遠慮しないでね」


 母さんは中谷用の椅子を持ってきて、中谷を座らせた。

 

 「すいません。お邪魔します」

 「い〜え。食べましょう」


 やっぱり中谷は食いっぷりがいい。流石運動部。普段から我が家は量が多いんだけど、中谷があまりに気持ちよく食べるから、母さんが追加でチャーハンをつくっているくらいだ。中谷は今も食べ終わった皿に料理を追加していく。


 「うまい!おばさん料理うまいっすね!やばいっす!今日、池上に拾われて本当に幸せっす。一人だったらカップ麺だけど、こんなうまいもの食わせてもらえるなんて!!」


 中谷はどんどん料理を食べていき、これだけハッキリと美味いと言って食べてくれるのが嬉しいのか、母さんはニコニコしながら中谷を見つめた。


 「そんなに食べてくれるなら作りがいがあるわ。どんどん食べてね。うちは男の子ばっかりだから多めに作ってるの」

 「はい!」


 中谷はその後も結構な量を平らげた。

 夕飯も終わり、俺は中谷と澪の三人で俺の部屋に行った。中谷ももう少しなら家にいれると言うので三人で何かしようと思ったから。部屋に戻ると、ストラスがベッドの上で悠々自適に過ごしていた。


 「ようストラス」


 中谷が手をあげてストラスに挨拶すると、ストラスも軽く頭を下げて挨拶した。


 『相変わらず元気ですね』

 「俺はいつだって元気だぜ!」


俺たちはそのまま二十時近くまで部屋で雑談し、中谷は時間が遅くなってしまったのと、母さんが反対したので結局今日は家に泊まることになった。


 「ごめんな中谷」

 「いいよ。めっちゃ楽しいし、明日は練習午後からだから」


 それならもう少し遊んでいたい。

 俺たちは三人でそのまま二十四時ぐらいまで話していた。でも流石にそこまで遊んでいると眠くなるもので、三人それぞれうつらうつらして結局、その場で寝てしまった。

 そしてそのまま眠っていたが……


 『助けてくれ!誰か!誰か!』

 『無駄ダヨ。オ前ハ地獄ニ行クンダ』


 変な夢を見て、飛び起きた。ストラスは相変わらずその衝撃でベッドから振り落とされ、ベッドの下で眠っていた中谷の上に転落し、中谷も目を覚ます。

 中谷は目をこすりながら俺を見上げてくる。


 「嫌な夢を見たんだ。すごい嫌な予感がする……」

 『拓也、指輪が!』


 ストラスの声で指輪を見ると、指輪が薄く輝いている。


 「な、なんなんだ?」


 中谷も眠気が覚めたのか、指輪を凝視している。

 指輪の光はどんどん大きくなっていく。


 「どうしたの拓也?」


 澪も眩しさからか目を覚ました。指輪は真っ暗な部屋でひときわ眩しく光を放った。

 そしてその光は壁にある映像を映し出した。それは……


 「金田……?」

 

 指輪の光に映ったものは眠っている金田だった。しかし何かが違う。金田の顔は真っ青だった。そして金田を包み込むような黒い影。これは一体……

 澪も顔を真っ青にしてこの光景を眺めている。


 「何これ……」

 『サミジーナが手を下したのです』

 「なんだって!?」

 『サミジーナが彼を地獄へ連れて行こうとしているのです。夢の中で脳に衝撃を与え続け、そのうち、彼は死に至ります。急がなければ!』


 俺はいてもたってもいられなくなってベッドから立ち上がった。

 着替えてる暇もない!急いで向こうに向かわないと!


 「池上、どうなってんだ!?」

 「悪魔が出てきたんだ!早く助けなくちゃ、あいつ死んじまう!」

 「俺も行く!」

 「あたしも!」


 どこまでも中谷達は協力してくれるらしい。俺たちは母さん達にばれないように静かに家を出て、走ってマンションまで向かった。


 ***


 寝ていたのか、インターホンを鳴らした俺にセーレはビックリしながらも急いで鍵を開けてくれた。

 慌てて部屋まで上がりセーレにジェダイトを出してくれと頼む。


 「どうしたんだ?血相をかえて」

 「サミジーナが金田を襲ったんだ!指輪が教えてくれた。急がないと!」

 「指輪が?それは本当なのか?」

 「わかんない……でもあんな光景見たらほっとけるわけないよ!」


 セーレは少し考えたが、状況を理解したのか首を縦に振った。


 「すぐに準備する。中谷はヴォラクを起こしてくれ」

 「わかった」


 中谷は急いでヴォラクの寝ている部屋に足を運ばせた。

 ヴォラクはまだ眠いのか、中谷に抱えられて部屋にきた。


 「ヴォラク!しっかりしろって!」

 「眠い〜中谷おんぶして」

 「今してんだろが」


 軽い漫才をしながら、中谷はヴォラクをおぶったままジェダイトに乗った。


 「なんか俺ってこんな役回りが多くないか?」

 「中谷が一番力もちだから」


 あえてフォローしたが、あまり中谷は納得してないようだ。

 俺は澪を前に乗せ、セーレはストラスを抱え、ジェダイトを走らせた。


 間に合ってくれ!!

 祈るような気持で福岡に向かった。


登場人物


サミジーナ…ソロモン72柱4番目の悪魔。

       30の軍団を率いる侯爵とされる。

       馬の姿をとるが、人の姿にもなれ、しわがれた声で諸学問を論ずる。

       ネクロマンサーとしての能力があり、夢の中で死んだものと会える力を持つ。

       また水死した人間ならば、現世によみがえらせることも可能。

       契約石はカイヤナイトの首輪。



金田真吾…福岡に住む高校3年。天才といわれている。

      自分を唯一理解してくれた祖母と会うためにサミジーナと契約していた。


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