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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
Ring Of Solomon~from the another world2~
206/207

第206話 色欲と純愛6

 「ここがメディアの町かい?のどかでいい所じゃないか」


 初めて訪れたメディアの町の近郊の村にトビアは表情をほころばせた。

 さぁ、最後の宴が始まる。永遠の憎しみを作る場となった、この村で……



 206 色欲と純愛6



 トビトとトビアは早速店に顔を出し、特産品を探し出す。やはり初めて行く地の物産が気になるのは商人の性なのだろう。それを苦笑いして眺めていたアゼリアだったが、すぐに表情を切り替えた。


 ここに目的の人物がいる。神からの命によって人間の世界に降り立つ原因となった女性が。


 初夜の晩に七人もの夫を絞殺し、悪魔憑きと言われている女性。そしてその女性に憑いている悪魔はアスモデウス、かなりの大物だ。


 アゼリアは特産品に目を輝かせているトビアの首根っこを掴んだ。


 「何すんだよアゼリア!あ、お前も食いたいのか?美味いぞこれ」

 「俺はトビアと違って食いしんぼうじゃないよ。それより行こう、お目当ての女がきっとこの町にいる」

 「あぁ預言のって奴?そんなのいる訳ないじゃん。お前予言師でもない癖に」

 「そうだな、確かに俺は予言師ではない。だが今回は確実に当たるんだよ」


 その時、村人がざわつきだしてアゼリアとトビアは顔を見合わせた。二人の視線の先には道が開けられており、その真ん中を女性と青年が歩いていたからだ。傍から見れば中睦まじい男女だが、アゼリアはすぐに確信した。小さな村ではもう有名だろう。あれが悪魔憑きの女サラと悪魔アスモデウス。でも可笑しい、神から聞いた話とは違う様な気がする。


 アゼリアが聞いた話ではサラは悪魔に憑かれており、嘆き悲しんでいると聞いたのだ。しかし目の前のサラと思われる女性にはそんな物など微塵も感じ取れなかった。


 二人は買いたい物を買い終え、背を向ける。アゼリアとトビアは何も話しかける事が出来ず、その後ろ姿を見送っただけだった。


 「トビア、恐らくあれだ」

 「……」

 「トビア?」

 「か、可愛い……やばい!あんな可愛い子見た事ない!」


 返事をしないトビアを不審に思ってアゼリアが顔を覗きこめば、トビアは顔を真っ赤にして乙女の様にキャーキャー騒ぎだした。全く情けない男だとアゼリアは心の中で思った。

 でもこれでトビアのやる気も出たかもしれない。彼女を救うべく、トビアは立ち上がるだろう。何だかんだでトビアは勇気ある青年だ。


 「あの女性の隣にいた男性分かったか?」

 「あぁ、あの子結婚してたんだなぁ……少し残念だ」

 「違うよ馬鹿。あの女性の傍にいた奴が悪魔アスモデウスだ」

 「は?」


 信じられないとでも言う様な眼でトビアがアゼリアを見る。まぁそれも無理はないだろう。傍からしたらお似合いの恋人、そう言う感じだったから。


 トビアの胸に掲げられたロザリオが揺れる。意外と熱心な宗教徒のトビアだ。アスモデウスの名は聞いた事があるだろう。古の王ソロモンが使役した七十二匹の悪魔の一匹。その強大さゆえにサタネルの称号を持ち、七つの大罪が一角“色欲”を司る悪魔だ。


 心の中で小さくアゼリアはため息をついた。


 アゼリアは彼と天界からの知り合いだった。優秀な天使で天使九階級の第一階級熾天使(セラフィム)の位の天使長まで勤めていた存在だったから。


 勤勉な性格で仲間からの信頼も厚く、現天使長のバラキエルも彼に憧れていた。そんな彼が今は悪魔の中でも有名な存在になっている。その現実が未だに受け入れられなかった。


 物腰穏やかで友好的な性格だった。だからこそ彼がルシファー率いる反乱に手を貸したのが意外だった。神はそれを一生許しはしないだろう。


 「行こうトビア、彼女を救おう」

 「お、俺なんかに出来るのかな……だって相手は悪魔だぞ?お前そんな事言わなかったじゃんか!」

 「乗りかかった船、ここまできたら逃げられないぞ。それよりトビトはどこだ?」

 「親父ならあそこだ」


 トビアが指さした先では振る舞われた酒を飲んで村人とニコニコ話す父親トビトの姿。やれやれ、流石商人だ。愛嬌振りまくのが上手いものだ。

 アゼリアはトビトの所に向かい、首根っこを引っ張って引きずるように歩く。


 「な、なんだいアゼリア!せっかくいい品が手に入るとっ……」

 「それは後で。付き合ってくれトビト、君が見届け人になってくれ。今日起こった事の一部始終を君が書にするんだ。そして後世に語り継いでくれ」

 「アゼリア?」

 「今日が最後だ。俺の使命の……」


 トビトもトビアも訳が分からない、そう言った表情をしていたけれど、黙ってアゼリアについて来た。彼らとは半年ぐらいの付き合いだが気の良い親子だった。彼らと旅をした期間は短かったけど、一生忘れない。言葉には出さなかったけれどアゼリアはそう心に決めた。


 神に遣わされて人間の世界におりたアゼリアは任務が終われば天界に戻る。永遠の生を持つアゼリアと僅かな時間しか生きられない人間、時間の感覚ももちろん違う。アゼリアが再び下界におりる時には、もうトビアはこの世界にはいないだろう。


 二度と会えない、それでも絶対に忘れない。自分に友と言って笑いかけてくれた君を。


 住んでいる村人に三人でさっきの女性の事を聞いて行く。すると村人全員が口をそろえて言うのだ。“悪魔憑きのサラ”と。


 「あの子と結婚した男性が初夜の晩に絞め殺されるのよ。それ以外は気さくでいい子なんだけど……」

 「きっと深く関わった奴らが殺されるんだ。あんたも関わらない方がいい。もしかしたら殺人鬼かもしれない」


 悪い話しか聞かない。でも一緒にいた男性の事は皆が口をそろえて分からないと言う。どうやら数年前に彼女の家に住みついたらしい。


 彼女とは恋人の様な関係だったと言う。やはり神から聞いた話とは違う。一方的に悪魔に好意を寄せられていたはずなのに……訳が分からない。とりあえず行ってみなければ分からないだろう。村人に聞いた家の場所を辿っていく。この先を曲がった所にあるらしい。


 一軒の少し大きめな家が見えてきた。恐らくこの家なんだろう。トビトとトビアは息を飲んでいる。そして扉をアゼリアがノックした。


 ノックをしたら先の女性が出て来る。どうやら家は間違えてなかったようだ。


 怪訝そうな顔をしながらも女性は家に上げてくれた。なるほど確かに綺麗な顔立ちをしてるな。トビアが一目惚れするのも分かる気がする。


 案の定トビアは顔を真っ赤にして何だか妙な動きをしている。同じ手と足が一緒に出てる奴を初めて見た。家に上げてもらって椅子に腰かける。どうやらあの男はいないみたいだな。好都合だ。


 「サラさんで間違いないですね?」

 「えぇ、貴方は?」

 「俺はアゼリアと申します。後ろにいるのがトビト、そして息子のトビアです」


 頭を下げたのを見て、サラも軽くだが頭を下げる。

 本題に入らせてもらおうか。


 「早速ですがサラさん、俺達は貴方の話を村人から聞きました。貴方が悪魔憑きと言われているのを」

 「何が言いたいの?私に嫌みを言いに来たの?」

 「とんでもありません。俺は一言でいえば悪魔祓い師(エクソシスト)です。貴方にとり憑いている悪魔を退治しに来たんですよ」


 サラの表情が少し変わる。でもそれは嬉しいと言う物ではなく焦った様な表情だった。なぜそんな表情をするんだ?やっと救われるんだ、普通の生活が送れると言うのに。

 何も返事をしないサラに事務的に事情を告げる。


 「とりあえず悪魔祓いは今夜の晩に行います。絶対にその時、家にいてください」


 告げる事だけ告げてトビト達を連れて家を去る。後ろから感じた視線からは薄く殺気の様なものが混じっていた。

 全て終わる。彼女の呪いも、アスモデウスの運命も。


 「ねぇダリル、なんだか嫌な予感がするわ」

 「……心配いらない、何も心配する事は無いよ」

 「そうね、そうよね」


***


 夜になり再びトビト達を連れてサラの家に向かう。


 「ちゃんと魚持ったのか?」

 「持ったよ。でも魚で悪魔祓いできるの?初めて聞いたんだけど」


 それは正直言って嘘だ。ただ必要な道具が手に入らなかったから適当な嘘をでっちあげただけだ。川が近くに会ったから魚、多分山が近くにあったらキノコ辺り言ってそうなノリだ。

 結果的に自分の活躍ではなく、トビアの活躍と言う事で悪魔を返すのが目的だ。自分は最後まで正体を明かす事はしない。全て神の望むままに行動するのが仕事だ。例えそこに何があろうとも。

 サラの家には一緒にいたはずの男はいなかった。


 「あの彼は?一緒じゃないのか?」

 「えぇ、今日は帰らないわ」


 警戒しているのか、そうじゃないのか……とりあえず先に儀式をする必要があるな。


 サラをベッドに寝かせ、儀式をとり行う準備をする。まぁ儀式って言うのは適当にでっちあげるんだけどな。トビアに魚の内臓をいぶすように命じる。


 その行動をしている内に、俺がアスモデウスを探し出してあぶり出す。


 トビアが魚の内臓をいぶし出す。それと同時に煙に室内が包まれて来る。気を張りながら気配を探る。さぁ出てこいアスモデウス……


 その時、室内に殺気を感じた。この鋭い殺気、間違いない……奴が来た証拠だ。彼女に危害を加えられると勘違いしたのかは知らないが、奴は間違いなく現れた。


 さぁ勝負と行こうかアスモデウス、あんたの全てを否定してやるよ!


 指を鳴らし強烈な風を作る。その風で火は消え、室内に充満していた煙が撒き、トビトとトビア、サラも巻き込まれる。そして一瞬で俺に詰め寄ってきた刃、それを後ろにかわす事で避けた。


 煙が窓から出て行き、相手の姿を確認できた。間違いない、元同僚の姿を間違える訳がないから。


 「久しぶりだなアスモデウス」

 『てめえ……ラファエルかよ。ボロ着た人間に化けてりゃ分かる訳もねえ』


 この殺気、まさに七つの大罪に相応しい物だと思う。もう彼は天使なんかじゃない、悪魔になり下がってしまったのだ。


 過去の尊敬など無い、今は全力を持って彼を地獄に戻すのみだ。


 俺を確認したアスモデウスが誘導するかのように窓から逃げる、そしてそれをすぐに追いかけた。


 残されたトビト達とサラはただこの状況を茫然と見守るしかなかった。


 「アスモデウス……」

 「……親父、この子を頼む!」

 「お、おい!そんなもんを持ってどこに行くんだ!?」

 「あいつを倒しにだ!」


 アスモデウスと森を走りぬけながら、お互いが攻撃しあう。でも遠距離、近距離でも戦える俺と近距離戦に特化したアスモデウスの相性は正直言って悪い。


 思うように行く。アスモデウスはボロボロだ。だがここまで上手く行く理由のもう一つはアスモデウスが明らかに本気を出していない事。彼が本気を出せば、こっちが手を抜かずとも一瞬の隙を突いて間を詰めて攻撃してくるはず。それをしてこない……いや、できないのか?


 腕が酷く鈍っている様に感じる。恐らくこの村で戦いに関係なくのんびりと生活していたんだろう。


 肩で息をしながらアスモデウスは俺を睨みつける。


 『てめえ、何でここに来やがった』

 『お前が彼女に一方的に好意を抱いて、彼女の人生を奪おうとしているって聞いてね。彼女を救いに来たんだ』

 『何訳わかんねえ事言ってやがる!?俺はサラの人生を奪おうとした訳じゃない!』

 『何が違うんだ。彼女は悲しんでいる、お前のせいで人間として生きられなくなった事にな』


 俺の言葉にアスモデウスは動きをピタッと止めた。その目は絶望が滲んでいて、動く気配がない。地雷を踏んだのか?でも普通は自覚していて当然のはずだ。


 『それは、サラが言ったのか……?』

 『言われなくても分かる。当然だろう、お前なんかに好意を寄せられて嬉しい人間なんていない』


 アスモデウスが力なく膝をついた。その目からあふれ出た水滴を見てギョッとした。彼は泣いているのだ。

 どうして、そう口にする彼に言葉をかける事が出来なかった。彼は純粋に彼女に好意を寄せていたんだろう。夫を殺す手口は残虐だが、彼女を愛していた。それだけは否定できない。


 “ねぇダリル、私もう分からないの。本当に貴方は私でいいのかって”


 ――― 君は本当は苦しかったのか?あれ以来元気がなかったのは、本当は殺したくなかったからか?もう俺に愛想が尽きたのか?やっぱり人間じゃなきゃ駄目だったのか? ―――


 項垂れたアスモデウスにかける言葉がなかった。でもその時、森の中からトビアが弓を引いていた。その標的を察した俺はトビアを制止しようと声を出したけれど、それすら叶わなかった。


 『止せトビア!』

 「死ね悪魔め!!」


 トビアが打った矢はアスモデウスの心臓に突き刺さった。口から血を吐いて倒れるアスモデウス、それを確認したトビアは心配そうに俺に駆け寄ってきた。

 慌てて人間に戻った俺をトビアは心配した。


 「大丈夫かアゼリア、1人で挑むとか無謀すぎるよ」

 「あ、あぁ……それよりどうして」

 「どうしてって心配だったからに決まってるだろ?大丈夫だ、俺が今打ったのは銀の矢だ。もうこいつは息絶えてるさ」


 アスモデウスは動かない。でもこの傷だ、下手したら死んでしまうかもしれないな。とりあえず地獄に返さなければ。

 魔法陣を用意し、アスモデウスを中に入れる。抵抗もせずに気を失っているアスモデウス。かつての同僚に手をかけてしまった虚無感は思った以上に来るものだ。

 そのまま呪文を唱えれば、アスモデウスは消えて行った。


 「アゼリア、お前ってマジで悪魔祓い師だったんだな」

 「あぁ、まぁね」


 力なく頷けば、トビアはサラが心配だから戻ろう。そう言って戻って行った。

 今からトビアとサラを婚姻させなければならない。自分に付き合わせたトビアを祝福しなくちゃいけないからな。

 アスモデウスがいなくなった森の中を見渡す。夜の森は不気味な静けさを醸し出していた。


 「なぁ、お前は本当は……」


 それ以上は何も言えなかった。初めて神に疑問を抱いた。

 これで良かったのか……?



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