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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
Ring Of Solomon~from the another world2~
204/207

第204話 色欲と純愛4

 馬車に乗って私はパパの家に向かう。必然的に主がいなくなったこの家はパパが誰かに売ろうとしたけれど、それを何とか止めさせて今の所はこの家は未だに私の物になっている。

 まぁそんなのどうでもいい。私はすぐにこの家に戻ってくる。それだけは変わらない。

 彼がいる限り、私は誰の物にもならない。



 204 色欲と純愛4



 「サラお嬢様、暫く見ない間にお美しくなられて」


 まだパパのお屋敷に住んでいた頃、私の乳母だったジェシーは涙ながらに声を出す。それに笑って答えてジェシーの手を握る。


 ねぇジェシー、私とうとう好きな人を見つけたのよ。


 そう言えれば良かったのにね、ジェシーは私の手を握りしめて、何度も申し訳ないと謝った。貴方が謝る事はないのよ。だって貴方は必死でパパを止めてくれたんでしょう?私を自由にさせて欲しいって。


 ジェシーは代々ママに仕えている乳母だった。だから私の前はママに仕えてた。ママが失踪した時、ジェシーがどれだけ悲しんでいたか知っている。


 そしてママが私とジェシーにだけ手紙を残していた事も……ジェシーは信頼されている、だから私もジェシーを信頼する。


 「お嬢様、私がもっと頑張っていればっ……」

 「気にしないでジェシー、私は誰も恨んでないわ」


 だってこれからは私の望み通りになる。ラグエルなんて男に私は虜になったりしない。私はママみたいには絶対にならない。私はカルロスとジニーみたいになりたいの。


 周りの皆からおしどり夫婦って言われて、お互いに隠し事等無く、立場は平等、そして互いに愛し合う家庭。カルロスとジニーの子どもはとても幸せね。私もあんな家に生まれたかった。


 お金は確かにあるに越したことはない。でも度が過ぎると変わってしまう。


 だから少し貧乏でもいい。その分、精一杯働くから。だから愛に満ちた家庭が欲しい。パパとママとは正反対の様な家庭が。


 「お嬢様、気になっていたのですが……その指輪は?」


 ジェシーがアスモデウスが渡してくれた指輪に目をやる。薬指にはめていた指輪は今、中指で輝いている。

 大切な人から貰ったのよ。これは永遠に私の物……

 指輪をぎゅっと握りしめて、笑ってごまかした。ジェシーは晴れない顔をしてたけど、パパにはばれないようにって言っただけで後は何も聞いてこなかった。有難うジェシー。


 「お美しゅうございます」

 「中々見事だ」


 家に着いた私に待っていたのは着替えと化粧。召使いたちが私を風呂に入れ、服を着せ、髪を梳き、化粧を施した。まるでお姫様の様に着飾られた私をジェシーとパパは満足そうに眺めている。


 いつからこの服がこんなに歩きづらくなったのかしら。昔はこんな服でも走り回れていたのに……きっと普通の服に慣れてしまったのね。こんな刺繍が施されて何をするにも気を遣わなければならない服よりも、快活に動ける服の方がいいのに……贅沢な悩みね。


 着替えてからは移動が待っていた。また馬車に乗り、隣の村まで移動する。そして夕方に相手の家に着くんだそうだ。


 その夜はパーティーにしてくれるらしく、向こうのご家族も非常に楽しみにしているらしい。まぁそれもそうだろう、ラグエルは四十近い男性だ。それで資産家だが結婚していない、ラグエルの父親と母親は痺れを切らしているみたい。


 ラグエルは元々女癖が悪く、色んな女との関係を持っていた。そして結婚に興味も無かったが、流石に歳を感じ始めたらしい、だからパパにかなり有利な条件で私との結婚を懇願した。いつの間にか私の顔は向こうに知られていたみたいね。


 結局私はパパの駒、ママと一緒という訳ね。


 日が沈みだし、それに比例してラグエルが住む村が見えて来る。中にあるひと際大きい屋敷、あれがきっとそうね。


 到着した馬車から下りると、髭を蓄えた御老人2人と、ラグエル本人、そして使用人たちが総出で出迎えた。ラグエルは私に頭を下げて腕を出す。資産家の息子なだけあって、やっぱりエスコートの常識はちゃんとあるのね。


 ダリルはそんなの全く身につけてなかったなぁ。乱暴に引っ張るぐらいしかしないもの。


 食事はすごく豪華でラグエルの親戚一同が集まっていた。ラグエルの弟や妹、その嫁や婿、結構な人数が集まっている。


 そしてパパとラグエルの両親が祝福の言葉を交わし、私達は皆の前に連れて行かれた。


 「サラ、とても美しい。私の花嫁よ」

 「……お会いできて光栄です。私の旦那様」


 社交辞令上そう言っておく。でもね、貴方は今日お終いなの。可哀そうな人……私に目をつけなければ、命を落とす事等無かったのに。

 跪き、私の手の甲にラグエルは口づけを落とした。汚らわしい、私に触れないで。貴方が慈しむ様に私の手を包んでも、私には乱暴に引っ張ってくれる彼の方が愛おしい。

 皆が食事をする間、私の元にラグエルの両親がやってきた。


 「サラお嬢さん、ラグエルをよろしくお願いします」

 「こちらこそ。色々至らない所がありますが」


 頭を下げた私にパパは満足気。今に見てるがいい、その顔を真っ青に染め上げてあげるから。己の利益の為にママだけじゃなく私までも利用しようとした愚かな父……その報いを受けるがいい。


 パーティーも終わり、私はラグエルに寝室に連れて行かれた。今日から私の部屋になるんだそうだ。こんな着飾られた部屋など要らない。


 パパ達は一階でラグエルの両親と会話をしている。つまり彼を殺すなら今しかない。ラグエルは私の腰に手をやり、下卑た笑みを浮かべている。


 「サラ、お前は本当に美しい……私の妻になるに相応しい相手だ」

 「お褒めの言葉、有難く頂戴いたします」


 ベッドに押し倒されてラグエルが私の上にのしかかってくる。あぁ、彼はそのつもりなのね。近づいて来るラグエルの顔を私は手で防いだ。


 「サラ、どうしたのだ?」

 「ラグエル様、まだ間に合います。私は結婚等したくはありません。父にお話し願えないでしょうか?」

 「なぜですか?これは御両親で決めた事ではないですか」

 「私の意志ではありません。お願いします」


 ラグエルの目の色が変わる。さっきまで優しく笑っていたのが嘘のよう。それが本当の貴方なのでしょう?私から顔を放し不愉快そうな表情で私を見つめる。

 私の口を手で塞ぎ、声を出させないようにしてラグエルの顔が再び近づいて来る。その目は飢えており、まるで獣の様だった。


 「サラ、お前は女なのだ。子を産む能しかない女が男に文句を言う権利はない」


 そう、だったら貴方にもう用はないわ。永遠に眠ってしまいなさい。

 ラグエルの手が体中を張って気持ち悪い。そして私は小さく名前を呼んだ、ダリルではなくアスモデウスの名を。

 その瞬間ラグエルの後ろに現れた彼を確認して、私は笑みを浮かべた。


 「何を笑っている」

 「気付かない?貴方もうお終いなのよ」

 「なに、をっ……!」


 ラグエルの首根っこを掴んで、アスモデウスがラグエルを私から引き離す。地面に尻もちをついたラグエルがアスモデウスの姿を見て目を丸くする。


 「だ、誰だ貴様!」

 『知る必要などないだろう?嘆くのなら、己の不運を嘆け』


 抵抗するラグエル等、アスモデウスからしたら赤子の手を捻るのも同然なんだろう。首を絞められたラグエルは苦しそうに息を吐き、私を見つめ、縋るように手を伸ばした。

 汚らわしい、子を産むしか能の無い女に頼るお前等、生きる資格も無い。そして私は伸ばされたラグエルの手を思いきり靴で踏みつけてやった。

 ラグエルは悲鳴をsげたくても、吐き出す息がない。悲鳴も上げられない。苦しそうに顔を歪め、そして動かなくなった。


 「やった……やったのね?」

 『あぁ、後はお前の演技力だけだよ』

 「大丈夫よ。上手くやる……」


 だってあそこに戻れるんですもの。ここで失敗する訳にはいかないわ。

 アスモデウスが姿を消したのを確認して、私はありったけの声で悲鳴を上げた。その悲鳴に駆けつけたジェシーが死んでいるラグエルを発見してパパとラグエルの両親を呼びに行く。さぁ見に来てパパ、貴方の計画が崩れ去ったこの瞬間を。


 「ラグエル!」


 ラグエルの両親が死んだラグエルを抱きかかえ泣き叫ぶ。そんな男でも息子の貴方達にとっては可愛らしい存在なのね。パパもこの優しさのかけらでもママにあげればよかったのに。


 ジェシーが私を抱きしめて涙を流す。私も嘘泣きをして適当な事実をでっちあげた。黒い服の男がラグエルを絞殺した、奴は窓から逃げた、と。


 ラグエルの両親は怒り狂い、ラグエルを殺した奴を捕まえて殺してやる!そう意気込んでいた。そして私に結婚相手がいなくなった事を理由に婚約破棄を申し込んできた。相手の資産が目当てだったパパは焦ってたけど、向こうが頑なに結婚を拒んだから渋々引き下がった。いい気味。


 そして私は馬車に乗って家に連れ戻された。そこで普通の服に着替え、またあの家に戻される事になった。あぁ、なんて幸せなんだろう!


 ベッドに横になりながらも、明日から再び訪れるダリルと2人の生活に、私は酔いしれるしかなかった。ダリルはあそこで待っててくれている。早く帰らなきゃ。


 ダリルはご飯が美味く作れないから私が作ってあげなくちゃ。


 次の日の朝、再び馬車に乗って村に送られた私は走って家まで向かった。ダリルはいてくれるかしら?ドアを開けた先には愛しい人の姿を確認した。


 「ダリル!」

 「お帰りサラ」


 ダリルに飛びついて肩に顔をうずめる。優しい手が私の髪を梳き、その心地よさに酔いしれた。やっぱり私にはダリルじゃなきゃ駄目なんだわ!

 私がいない間、カルロスとジニーの家にお邪魔してたらしい、あの2人には今度何か持って行ってあげなくちゃ。


 「大丈夫だったか?」

 「えぇ、婚約も無くなってパパは怒ってたけど、そんなのどうでもいいわ」


 だって貴方と一緒に入れるのだから。笑った私を見て、ダリルも笑みを浮かべた。

 またパパは新たな結婚相手を探してくるだろう。でもそんなの関係ない、私とダリルの邪魔は誰にもさせない。私達はずっと二人で生きて行く。


 「ふふっ……パパすごく焦ってたのよ。ラグエルの両親から婚約破棄を申し込まれた時、貴方にも見せてやりたかったわ」

 「止めといて良かったよ。あいつの顔を見たら殺したくなる」

 「駄目よ。私は死んでもいいと思うけど、一応あれはママが愛した人だもの」

 「分かってる、だから殺さないんだよ」

 「ねぇダリル、パパはまた新しい結婚相手を探してくる。その時も貴方は私を助けてくれる?」

 「当たり前だろ。もう俺達は1つなんだ」


 あぁ、何て心地いい。ダリルは永久に私を助けてくれる。彼がいる限り、私は永遠に彼の物になる。

 彼になら私の全てを捧げてもいいわ。彼も私に全てを捧げてくれるはずだから。

 もう何もかもいらない。家も地位も、パパも……何もかも、ただダリルさえ私の隣にいてくれればいい。全てを捧げて貴方の傍にいられるのなら安い物よ。

 貴方は私の為に何を捨ててくれるのかしら。


 「ダリル、私はパパも家も地位も全て貴方に捧げるつもりなの。貴方は私に何を捧げてくれる?」

 「……そうだな、俺の地位も名誉も全てあんたに捧げる。俺を使役できるのは世界であんただけだサラ」


 私だけ、私だけがアスモデウスを扱える。世界で私だけが……それが堪らなく嬉しかった。狂って堕ちて……その先に何があるのかなんて分からない。

 でも分かるのはこの人を愛しているだけ、それだけなの。

 残念だわ。私が普通の町娘だったら、こんな事にはならなかったのに……でもそんな事を考えていても仕方がない。今の状況にならなければ、彼と出会わなかったかもしれないのだから。



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