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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
Ring Of Solomon~from the another world2~
202/207

第202話 色欲と純愛2

 「ねぇ名無しさん」

 「……」

 「名無しさん、名無しさん名無しさん名無しさん名無しさん名無しさぁーん」

 「うるせぇな!お前いい加減どつくぞ!」


 切れ返せば、やっと振り向いた。そう言ってサラは笑う。この女にキレても無意味だ、こうやって笑って返されてしまう。

 いつの間にか、俺はサラに上手い事コントロールされていた。



 202 色欲と純愛2



 「ねぇ、今日のご飯何が食べたい?市場に行ってくるね」

 「別に何でもいい」

 「そっか、じゃあ私がメニュー決めるよ?いいの?」

 「いいよ」

 「荷物持ちが欲しいなぁ~力ある人に来てほしいなぁ~」

 「……一緒に行けばいいんだろ」


 サラは笑って頷く。なんだか本当にいい様に使われてる感じだ。


 サラの家に居座って2週間が経過した。怪我をしてる俺を心配してサラがつきっきりで側にいるもんだから、悪魔の姿に戻れず怪我の治りは遅い。でも心の中で、このまま怪我が治らなかったら……そう思いだしている自分がいて少し嫌だった。人間なんかに借りを作って、そう思う自分と今が楽しい、そう思う自分がいる。


 怪我は元からそんなに酷い物じゃなかったから、普通に歩くのとか買い物とかはできる。サラの隣を歩き、もう道を覚えてしまった市場まで一緒に向かう。さて、今日はどんな飯にするんだろうなぁ。


 市場についてサラを遠くから眺める。サラは色んな人に声をかけて値切りながら食材を買い込んでいく。


 必死になって買い物してる姿は正直言って面白い。そして……


 「やぁ、ナナシじゃないか」

 「あんたか」


 サラについて行った事で知り合った村人カルロス。最近、顔をあわせたら話しかけてくる。


 カルロスはもう結婚していて、こいつも俺と同じ荷物係だ。こいつは俺の事を名無しじゃなくてナナシって名前だと勘違いしてる。まぁ別に訂正もしないけど。


 そして二人で少し談笑しながらサラとカルロスの奥さんが買い物を終わるのを待つ。のんびりして何だか優しさにあふれた日常。経験した事の無い現実に少しだけ違和感がまだ残るけど、でも手放すのは惜しい。


 カルロスとくだらない談笑をしてる間にサラが荷物を持って、俺の元に戻ってきた。


 それを抱えて、カルロスに頭を下げて帰路に着く。サラはその間、安く買えた物や自分が値切った物などを説明して楽しそうに笑ってる。


 この具材から作られる今晩の晩飯を想像して少しだけ笑う。なんだ、俺の好み分かってるじゃないか。


 それにしても人間の世界はこうやって落ち着いてみると中々面白いもんだ。秩序が出来てる、そう思うまでになった。召喚されて働いてる時は全くそんな事思わなかったのに。


 家に帰ったらサラの手伝いをして、一緒に飯を食って少し雑談して眠る。サラの話はくだらない物ばっかりだったけど、それを突っ込んで笑うのが楽しかった。いつの間にか俺はサラに依存しきっていた。


 それから一カ月が過ぎた。傷はほぼ完全に塞がったけど、まだサラの家に居座っている。当初の目的を忘れて、ただの居候に成り下がっていた。そしてダラダラとした関係が二年も続いた。


 サラはそれについて何も言わないし、いつもどおり接してくれるから、それに甘えてた。


 いつの間にか俺とサラは家族の様になっていた。2人でいるのが当たり前になっていた。そしてその頃からサラは俺に名前を付けた。


 「ダリル、一緒に買い物行こう」


 これがいつの間にかサラがつけていた名前。なぜダリルなのかは分からないし、どうでもいいから聞かないけど、いつまでも名前を教えない事にしびれを切らせたんだろう。

 確かに名前はあった方が便利だし、それについて特に文句を言う必要も無かったから、黙って頷いてサラの隣を歩く。


 「今日はお魚食べたいね。ピートが新しいのを仕入れたって言ってたから、それにしよう」

 「上手く値切れよ」

 「分かってる」


 軽く笑いながら会話をして、いつもの道を歩く。でも今日だけは違った。

 市場には人だかりが出来ていた。不思議に思った俺とサラが覗くと、そこには綺麗な服を着た貴族の様な男が数人の護衛をつけて市場の中央を牛耳っていた。

 なんだあいつらは……邪魔だな、どかすか。

 そう思い、市場に向かおうとした俺をサラが引きとめた。


 「サラ?」

 「ダリル、駄目。あの人は……早く行こう」

 「お、おい、行くってどこにだよ。まだ買い物終わってねぇし、来たばっかだろ」

 「いいからっ!」


 サラに腕を引かれて市場とは逆の方向に歩く。そんな俺達を見つけたのか、カルロスが名前を読んだけど、振り返っただけで返事は出来なかった。

 サラは顔が真っ青になっており、それを見て今の状況が理解できた。あの男は恐らくサラの父親だな。でもサラの反応を見る限り、本当に親子仲は悪そうだ。

 市場から遠ざかり、人通りの少ない森の近くまで足を運ばせたサラは切り株に腰かけて俯いてしまった。状況が今いち良く分からない俺は何も言いだす事が出来ず、ただ時間だけが過ぎた。しかし数十分の沈黙の末、サラが重い口を開けた。


 「ねぇダリル……今日はカルロスの所に泊ってくれないかな?」

 「ん?」

 「あの人は私のパパなの。多分大事な話があるんだわ……」


 サラの言葉を聞いて、少しだけ胸に鈍い痛みが走った。やっぱり俺がこの家にいるのは迷惑だったのかもしれない。傷も治ったし、出ていくには潮時なのかもな……

 頭を掻いた俺をサラが不安を宿した瞳で見つめる。


 「すぐ話は終わると思うから、終わったら迎えに行く。だからちゃんとカルロスの家にいてね。いなくならないでね」

 「……分かったよ」


 どうやらサラはまだ出て行けと言う気持ちは抱いてないみたいだ。その真実に少しだけ安心した。それにしてもサラの父親はサラに何を言いに来たのだろうか。カルロスの家まで一緒に行って、そこでサラとは別れた。


 カルロスは快く歓迎してくれた。そして出来たばかりの娘の自慢をして来る。この親馬鹿め……そんな猿の何が可愛いんだ。今一人間の子どもに可愛らしさと言う物が湧かない。悪魔が子を産むって事自体少ないし、赤ん坊と言う存在自体が珍しいから、愛着が湧くどころか物珍しい目で見てしまう。


 でも人間の間では特別な事で、可愛い我が子と言う奴なんだろうな。サラも言っていた、子どもが欲しいと。


 カルロスの奥さんのジニーが俺の分の食事も一緒に作りだして、俺とカルロスはそれを待っている間、軽い談笑をしていた。


 「それにしてもなんだったんだろうな今日の貴族は。お前んとこの家の方面に行ったけど、お前見たか?」

 「あいつサラの親父らしいぜ。だから俺は今日こっち来たの」

 「え、お前挨拶しねぇの?」

 「なんで」

 「だってお前ら結婚してんじゃねぇのか?」


 思わず食べかけていた物を落としそうになった。俺とサラが結婚してる?誰がそんなデマを流したんだ。

 カルロスは「あれ?違うのか!?」と驚いている。驚きたいのは俺の方だ。


 「いや、だってお前らずっと一緒に2人で住んでるからてっきり……サラは元々1人暮らしだったからさ」

 「俺は怪我してる所をあいつに助けてもらって、そのまま居候してるだけだよ」


 何だか自分で言って少しだけ悲しくなった。カルロスの言葉を否定するのは少しだけ、ほんの少しだけ気が引けた。その理由は分かりたくもない。

 カルロスも自分の勘違いだったらしく、苦笑いして謝った後は少しだけ気まずい空気になった。早く飯できねぇかな。そう思っている時にカルロスは言葉を放った。


 「なぁ、お前ってサラの事好きなの?」

 「はぁ?俺が!?」


 今度は本当に食いかけてる物を落とした。カルロスが慌てて床を拭いて拾ったけど、放心してしまって身体が動かない。

 好き?あいつの事を?だってあいつは人間だし、俺は悪魔だし、てか別にここは衣食住があるから住みついてるだけで……別にあいつと一緒に居たいとか思ってる訳……自分で考えれば考えるほど自分の首を絞めている。

 返答に困っている俺を見て、カルロスは笑った。


 「やっぱり自覚なしか……お前サラが好きなんだよ多分。サラもお前がきっと好きだから結婚する時言えよ。仲人してやるぜ」


 結婚?俺とサラが?馬鹿馬鹿しい。あいつは人間だ、俺とサラが結婚できる訳がない。


 さっさとこの村を出よう。俺とサラが道を誤ってしまう前に……今日出て行っても良かったが、流石に何も言わずに出て行くのはサラに申し訳ない。


 明日出て行こう。サラが親父さんとの話を終えて俺を迎えに来た時に切り出そう。


 心臓がうるさいくらい音を立てて、経験した事の無い痛みが身体の中で起こっている。知らない、こんな痛みを俺は知らない。怪我をしてる訳でもないのに心臓が痛い。苦しくて息がしにくい。俺はこのまま死んでしまうんだろうか。


 ジニーが飯が出来たと俺達を呼びに来て、俺とカルロスは飯が置かれてある場所に移動する。


 ジニーは子どもに母乳を与えていた。何だかこの光景見た事ある気がするな……忌々しいイエス・キリストと聖母マリアの絵にそっくりだ。これが人間の原点か……


 ジニーが豪華な飯を作ってくれた、カルロスが面白可笑しい話をしてくれた、ジニーとカルロスの子どもが俺に手を伸ばしてきた。でも何も分からない。ジニーの飯の味も、カルロスの言葉の意味も、子どもの手の暖かさも、何も分からない。


 思考は完全にサラの方向に奪われていた。


 そしてその日、サラは迎えには来なかった。


 結局カルロスの家で一夜を過ごして、やる事も無くカルロスの家でグダグダしていた。


 客人だからと言って何もさせてくれないジニーに仕事をさせられているカルロス、正直暇すぎる。このガキうるせぇし。


 午前中は結局何もせずダラダラ過ごしてジニーが作ってくれた飯を食う。


 その後は任された子どものお守をした。子どもの世話は大変だ。すぐ泣くし、どこでもここでも小便するし、何て節操の無い生き物なんだ。本当にただの哺乳類じゃないか。とても高等生物には思えない。


 子どもの世話をしていると、案外一日はすぐに過ぎ、夕方になっていた。


 オレンジの夕日が窓から入り、室内を包み込む中、ジニーとカルロスが戻ってきた。


「ダリル、サラが迎えに来たよ」


 随分遅くなったんだな。そう文句を言ってやろうと思い玄関に向かったけど、その言葉が出る事はなかった。

 サラは今まで見た事ないくらい暗い表情をしていた。でもそれを明るく見せかけていた。ジニーとカルロスは気付いてないのか、でも今のサラは明らかにいつものサラじゃない。


 「おい、お前……」

 「帰ろうダリル、遅くなってごめんね。今日はダリルの為に御馳走作るね!」


 サラは俺の腕を引いてカルロスとジニーに頭を下げて家を出て行く。カルロスは俺の肩をポンポンと叩き、家の扉を閉めてしまった。


 帰り道、お互い何も会話がないまま。凄く居づらい……てか俺今日出て行くつもりなんだ。でもいつ言いだしていいか分からない。


 結局会話がないまま家に着いてしまい、サラが飯を作っている間、俺は別れの言葉を一人考えていた。サラから夕飯が出来た、と声がかかる。これが最後の晩餐か……少し物寂しいけど。でもいつまでもここには居られない、依存したらいけない。


 俺は会話を切りだす為に、最後の晩餐に向かった。



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