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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
192/207

第192話 緑色の炎

 サタンが炎をまき散らしながら俺達に近づいて来る。アスモデウスはゲートを開く仕事があるから魔法陣から動くことはできない。じゃあ俺がこいつの相手をしなきゃいけないのか?流石にそれは無理だろう、できるはずがない。サタンと戦って勝てる未来も見えない。

 どうやって、こいつから逃げればいいんだ……



 192 緑色の炎



 『希望、隙をついて逃げろ。ゲートに入る事だけを考えろ。サタンの炎を喰らったら耐えられないぞ』


 アスモデウスに脅されて焦りがさらに加速する。そんな事言われたって体が動く訳が無い、今だって恐怖で足がすくんでいるのを我慢して立ってるくらいなんだから。アバドンやべへモトから受けた傷は回復していない、そんな状態であのサタンと?あんな炎をまき散らしている奴と?そんなの無理だろう。


 急いでゲートに入れっつったって向こうが入らせてくれないだろ?あ、だから隙をついてなんだよな。でもそんな隙をどうやって見つけろって言うんだよ。焦って全然考えられない、今の状況を理解する事も出来ず、正直言ってパニックだ。


 『おい希望、まだてめえは役に立つ、戻ってこい』


 こちらに一瞬だけ視線をよこし、その言葉だけを告げてサタンの炎がアスモデウスに襲いかかる。アスモデウスは慌てて魔法陣と自らに結界を張ったが、サタンの炎全てを塞ぎきれなかったのか、体中に一瞬で大量のやけどを作った。


 それなのにアスモデウスに戦う気配は感じられない。剣を握る力は弱く、今にもその手から零れ落ちそうだ。そして困惑した様な、悲しそうな表情を浮かべている。


 そんなアスモデウスを無表情で眺めているサタンははっきり言って怖い。目があったら殺されるような感覚に陥り、横から攻撃も入れることができない。


 再び突き出した手から炎があふれ、今度こそアスモデウスが殺されてしまうのではないかと恐怖がよぎるけれど体が動かない。そう思ったけど、サタンは攻撃はせず腕を下げてアスモデウスを睨みつけた。嫌な空気が流れる中、サタンが苦虫を噛み殺したような表情でアスモデウスに語りかけた。


 『なぜそこまでして人間を庇う』


 その質問はアスモデウスの表情を曇らせ、言葉を封じる。


 『サタン、俺は……』

 『なんで、全てを裏切ってまであの女を選ぶ!?』


 アスモデウスが泣きそうな顔で首を横に振って弁解をしようとする。

 その様子はまるで叱られた子供の様に怯えている。


 『そこまであの女が大事か。あの女はもう死んだ、その子孫しかいない。直接の関わりの無い子孫の為にお前は俺を裏切ったのか!?』

 『俺は生きていてほしいんだサラの子孫に!それが俺に出来るサラへの罪滅ぼしなんだ!最後の審判が始まれば皆死んでしまう!なんで俺達悪魔と天使の戦いに何の関係もないサラの子孫や大勢の人間が死ななきゃならないんだ!そこまでして……俺は人間の世界なんて欲しくない!地上の覇権なんていらない!そこまでして沢山の部下や仲間が天使に殺される姿や、過去の部下や仲間の天使を殺したくなんかない!』

 『甘ったれた事言いやがって!』


 アスモデウスの悲痛な叫びを聞いても、サタンはただ怒りを露わにするだけだ。アスモデウスの守りたい女の人はサラ、その子孫が審判で死んでしまう事を恐れてる。アスモデウスは優しすぎる。でもそこまで出来るほどサラって人の事を大切に思ってたんだ。

 サラが何者か俺には分からない。でもアスモデウスは過去に一回、皆を裏切る何かをしているってことだ。


 『忘れたのか!?てめえはあいつに裏切られた!てめえはサラが召喚したラファエルとトビアに死ぬ寸前までボロボロになって地獄に返されたじゃねえか!銀の矢を胸に打ち込まれて、生死の境をさまよって……デイビスとパイモンがいなきゃ、もう死んでたんだぞ!?そんな目に遭ったのに、そうまでして守る価値のある女なのかそいつは!こんな事までして守る必要があんのかよ!?』


 よく分からないけど、アスモデウスはサラって女にボロボロにやられたみたいだ。確かになんでそんな人をアスモデウスは必死になって庇うんだ?自分を殺そうとした人だろ。そしてその事件に何かしらの形でパイモンとデイビスは関わっていたみたいだ。サタンは苦しそうな顔をしてアスモデウスに手を伸ばした。

 その手をアスモデウスは悲しそうに見つめている。


 『来いアスモデウス、希望と一緒に。全てチャラにしてやる。最後のチャンスだ……サタネルや七つの大罪の奴らが因縁つけてきても、ルシファーが切れても、俺が何とかしてやる。俺の手を掴め!』


 マステマが言っていた通り、サタンにとってアスモデウスはそんなに大切なんだ。サタンは献身的にアスモデウスを支えてやってたってマステマが言ってた。そして今の状況を見たらそれが頷けた。急にサタンが優しい悪魔のように思えて、怖いけれど、サタンの全てにたいしての恐怖は感じられなくなってしまった。怖いと思うけど、完全に悪い奴って思えなくなってしまった。

 でもアスモデウスはその手を掴まない。


 『無理、だよ……俺には掴めない。希望をお前には渡せない』

 『アスモ……』

 『悪い、許してくれなんて言えないんだよ。でも……俺はサラのいた世界を壊したくない。どんなに願っても、望んでも、俺はサラを手に入れることができない。幸せになってほしいんだ、サラの残した全てが救われてほしい』


 アスモデウスの目から涙が流れ落ち、ポツポツと零れ落ちるように語る。もしかしたらアスモデウスは俺と一緒でビビりでチキンなのかもしれない。そのくせに成し遂げたい目標だけでかいんだ。


 『お前はどうなんだサタン、審判で死んだら何万年も蘇れない、そんな目に遭うのに……なんで審判をする必要があるんだよ!お前が殺されることを考えただけで血の気が引くよ……何万年もお前に会えなくなるなんて耐えられない。死んでほしくない』

 『お前は復讐したくないのかよ。あいつらに』

 『そんなのどうでもいい。復讐なんてしたって俺が天使に戻れることはない。俺、天界に未練なんてないよ。今更戻りたいなんて思わない。ここは、俺にお似合いの場所だ……』


 アスモデウスの涙交じりの主張を聞いて、サタンは声をあげて笑いだした。こいつ……アスモデウスがこんなに説得してるってのに、笑うってなんなんだよ!

 サタンの態度に怒りがこみ上げたのも束の間、乾いた笑いは次第に消え、サタンの表情が曇る。アスモデウスは涙をこぼし、ポツリと呟いた。


 『時々、思うときがある。あの時、召喚されなければ……変な意地はらずにさっさと地獄に戻っていたらって。どこでこうなったんだろうなって……全部俺のせいなのかなって』

 『お前、俺が負けると思ってるのか』


 サタンの唐突な質問にアスモデウスは慌てて首を振る。


 『お前はいつだってそうだ。結局お前はサラ以外の奴なんざどうとも思ってない。全てを捨てる価値があの女にあると思っている。もう分かってんだろアスモデウス、俺らずっと平行線だよ。お前が俺を説得するのなんざできねえし、俺がお前説得するのもできねえ。もう、殺し合うしかねえだろ』


 自己完結したサタンとは違い、アスモデウスは泣いたせいで真っ赤になった眼でサタンを睨みつける。

 その目はどうして分かってくれないんだ!?そう物語っていた。


 『どうして……お前だって、俺の苦悩なんてわからないだろ!?自分の力を過信して、周囲の心配を押し切って、お前も周りをこれっぽっちも理解してないじゃないか……!お前だって、なにが……くそっ!』

 『ここが俺らの終着点ってわけだな。俺も思うよ。あの時、なんでお前を地獄に戻さなかったんだってな』


 サタンの体から再び炎が溢れて、その炎がアスモデウスに向かった。

 アスモデウスは意気消沈して動かない。このままじゃアスモデウスが殺される!

 俺は手をかざし、力を込めた。


 『出ろ!』


 手のひらから現れた白い炎がサタンの緑の炎をぶつかりあい、熱気が襲いかかる。アスモデウスは衝撃で軽く吹き飛ばされ、足元の魔法陣はなくなってしまった。それと同時にゲートが小さくなって行く。

 早く入らないと間に合わない!でもサタンの力が強い。やっぱり俺の力じゃ敵わない。緑の炎は俺の白い炎をどんどん飲みこんでいく。


 『ここまで出来るようになってたとは予想外だ。今のお前ならいい仕事ができるぜ』

 『ぐぐっ……もっと出ろ、ぉ!』

 『無理だ、今のお前にはそれが限界だろうな』


 膝をついてしまい、サタンの炎に俺の炎が浸食されていく様を見るしかできない。息を吐いて膝をついている俺に目の前にサタンの炎が迫っている。でもその瞬間、剣を抜いたアスモデウスがサタンに斬りかかった。アスモデウスに邪魔されてサタンの炎が消えて、視界がクリアになった先にはサタンがアスモデウスの剣をギリギリで受け止めていた。


 『てめえっ……』

 『早く行け!ゲートに入れ!』


 怒鳴られて俺は慌ててゲートに手を伸ばした。吸い込まれる様な感覚が身体を支配したけど、まだ駄目だ。俺一人では行けない。俺が行ってしまったらアスモデウスは絶対に殺されてしまうんだろう。それだけは駄目だ。アスモデウスも連れていく。

 再びサタンに振り返って今度は浄化の剣を取り出し、思い切り水のイメージを吹き込んだ。


 『行けっ!』


 高圧に圧縮された水が一直線にサタンに襲いかかり、いきなりの事態に驚いたサタンはアスモデウスを蹴り飛ばして慌てて自らに結界を張った。

 その隙に倒れ込んだアスモデウスの腕を引っ張る。


 『早く逃げるぞ!倒れてんなよ!』

 『でも……!』

 『でもじゃねぇだろ馬鹿!死んじまうぞ!』


 そのまま引っ張ればアスモデウスの足が動く。

 アスモデウスは俺の言われるがままにゲートに向かって走っている。今の俺にはアスモデウスを放っておくなんてできない。

 そのまま走っている俺達に再びサタンの炎が襲いかかった。


 『逃がすか!』


 放たれた炎を自らの上着を投げて身代りにすると上着は一瞬で真っ黒でドロドロした液体になって地面に落ちた。ここって少し寒いな。上着投げちゃったから半袖になっちまった!でもそんな事言ってる場合じゃない!ゲートに手をかけてその中に飛び込む。

 もう大きさは人一人がギリギリ入れるくらいの大きさだったけど、俺達はなんとか二人とも入る事に成功した。


 『アスモ!』


 サタンの声が聞こえてアスモデウスが振り返る。


 『許さねえからな!一生許さねえ!』

 『ここが終着点、か……なんで、こんなことになったんだろうな。どうして、俺達は……』


 そのまま顔を伏せてアスモデウスはただ涙を流した。親友が今目の前からいなくなってしまった。その辛さはきっと俺が想像してるよりもずっと辛いはずだ。ただ涙を流すアスモデウスを励ます事もなく、ゲートに入り込んだ俺達は吸い込まれる様にゲートの中をさまよった。


 数秒間真っ暗な闇に吸い込まれ続けた先に一筋の光が見えた。まさか……あれが出口なのか?あれが俺の世界の入り口なのか!?

 

 光はどんどん大きくなっていく。そして真っ白な光が俺達を包み込んだ。



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