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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
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第191話 ゲート開口

 魔法陣を描き終わったアスモデウスが立ち上がって何かの呪文を唱えていく。

 その瞬間、魔法陣が光り、小さな渦の様なものを作った。まるでブラックホールのように渦の奥は黒く渦巻いており、光を一切通さない漆黒の渦に少しだけ恐怖する。アスモデウスはゲートを確認して頷く。


 『魔方陣にこの場所にあるエネルギーを凝集させる。その後、凝集されたエネルギーを使ってゲートを開く。なんとか行けそうだ』



 191 ゲート開口



 アスモデウスは何かを探りながら魔法陣を眺めている。魔法陣が光っている以外に何か変わった所は見つけられない。でもアスモデウスからしたら何かを探る手助け的な物になっているみたいだ。気になって覗き込んでみれば、アスモデウスに制止された。


 『集中できないよ。今契約石のありかを探ってるんだ』

 「見つかりそうなのか?」

 『そうだな、感覚は大体わかった。でもこの感じだと契約石の中にエネルギーはあまり詰まってないみたいだな。一体どこにあるんだか……』


 アスモデウスは溜め息を吐いて魔法陣を見つめた。魔法陣は光り輝き、ここら一帯の魔力を凝集していく。これがあれば俺は人間の世界に帰れる。全てが元に戻れる。それをずっと待ち遠しく思っていたんだ。やっと近づけたけどアスモデウスが動く気配はない。あとどのくらい時間がかかるかも分からないし、この時間を使って休憩しよう。


 俺はアスモデウスからあまり離れていない泉の前まで足を運ばせた。


 蛍光花が色とりどりの光を放ち、その光を泉が反射して、この辺り一面は幻想的な雰囲気を醸し出している。こんな綺麗な場所が地獄にもあったのが意外だ。水をすくって少しだけ飲んでみた。歩き回ったせいで喉がからからだ。水は思ったより不味くなく、これなら飲めると判断した俺はもう少し飲む事にした。水を飲んでいる俺の横でアスモデウスは未だに魔法陣に集中している。


 そんな状態が二十分くらい続いた時、アスモデウスが大きく息を吐いて、その場に座り込んだ。何かあったのかと思って心配になって近寄ったら、どうやら契約石の場所を見つけれたらしい。これで帰る準備は整ったんだ!


 喜ぶ俺を尻目にアスモデウスはかなり疲れているようだ。


 「少し休憩するか?」

 『すまない、そうさせてくれ。人間界へのゲートを開く作業もかなりの力を使う。正直もうヘトヘトだ。十分休ませてくれたらきちんと仕事はやるつもりだ』


 かなり無理をさせてきてしまった。思えばサタネルたちとの戦いもほぼアスモデウス頼みだったし、疲れないわけがない。デイビスにもらった薬はもう使い切って、それでもアスモデウスは全身傷だらけだ。悪魔は怪我の治りが早いはずなのに、それでもこんなにボロボロなんだ。そんなアスモデウスに働けなんて言える訳もなく、俺はアスモデウスの隣に座り込んだ。お互い何も喋らず、ただ景色だけをぼんやりと眺めている。


 「綺麗だなここ」

 『俺のお気に入りの場所だ。他人には教えてない』


 どうやらこの場所はアスモデウスの秘密の場所みたいだ。アスモデウスは一人になりたい時や考え事をしたい時によく利用すると言っている。確かにここの景色をのんびり見ているだけでも心が洗われるって感じだ。そのまま再び沈黙になったけど、聞きたい事があった。


 なんでアスモデウスがこうまでして俺を助けてくれるのか、アスモデウスが助けたい女性って言うのは一体誰なんだろうか。


 「アスモデウス、お前さ……俺をただ助けたいんじゃなくて、好きだった女の人の子孫を助けたいんだろ?誰なんだ?」


 あまり触れてほしくないことなのか相手の表情が曇る。それに若干罪悪感を感じたけれど、もう一度同じことを聞けば返事は帰ってきた。


 『個人的なことはあまり詮索しないでほしい。最後の審判を防いでくれたら、その結果彼女の子孫も救われるから』

 「そうだけどさ……」

 『……恐らく君の知らない人物だ。言っても仕方ないだろう』


 確かにそれもそうだ。アスモデウスの結婚していた人は多分数百年以上前の話だろうし、俺が知っている人となると教科書に載っているレベルだ。流石に知らないのは当たり前だけど……でも気になるものは気になるんだから仕方ないじゃないか。その人を探すのを手伝うことができるかもしれないし。

 アスモデウスがサタンを裏切ってまで、俺を守ってくれるほど大切な人なら尚更だ。


 「良かったのかこれで。俺は嬉しいよ。皆のとこに帰れるから……でもあんたにはメリットなんて」

 『……彼女の子孫を救えたら何だっていい。それだけを願ってる』

 「サタンを裏切っても?」

 『嫌な事聞いて来るな』


 アスモデウスの声に覇気が無くなっていく。落ち込んでしまった子どもの様にアスモデウスは俯いてしまった。マステマの言っていた通り、二人は親友同士だったんだ。俺も、光太郎や中谷と仲たがいして一生仲直りできなくなってしまったら、落ち込んでしまう。アスモデウスが落ち込むのも無理はない。


 『サタンは親友だ。いや、俺がそう思ってるだけかもしれない』


 アスモデウスは自嘲気味に笑った。


 『マステマも言ってただろ。なんで俺なんかに構っているのかわからないって。自分でいうのもなんだけど、変り者で有名だよ俺は。だからサタンがなんで俺なんかを友として置いてくれているのかなんて俺の方が知りたいよ。でも俺にとってあいつは大切な奴で変わりはないし、そんな奴を裏切ったんだ。許されないことなんて分かってる』


 そうまでしてアスモデウスはその人を守りたいんだ。

 その人は今どこにいるんだろう。そう言えばベヘモトがバティンって奴をその人にけしかけたって……あ!?思い出した!そのことをアスモデウスに伝えないといけない!!


 「た、大変だアスモデウス!」

 『なんだ急に。用を足したかったら周りの木にでもかけろよ』

 「ちげーよ馬鹿!ベヘモトが言ってたんだ!その、お前が大切って言ってる人を地獄に連れていく為にバティンって奴をけしかけたって!」


 その言葉にアスモデウスの表情が変わる。一気に焦った表情になり、十分休むと言っていた身体を起き上がらせ、魔法陣の所に向かって行く。魔法陣は先ほどよりも強く光り輝いており、アスモデウスがその中心部分に立って手をかざした。


 「アスモデウス?」

 『……今からゲートを開く。この魔法陣の魔力を使い切ったらゲートは閉じてしまう。余り長くは持たない。ゲートが開いたらすぐに中に入れ。俺がすぐにゲートを閉じる』

 「わ、分かった。お前はどうするんだ?」


 アスモデウスは首を横に振る。え、まさか……


 『俺は人間界に行く気はない。言っただろ、君を送り届けるだけだって。契約石がどこにあるか分からない以上、下手な場所に飛ばされる可能性も高い。そこは許してくれ』

 「は!?結界張ってくれるって言ったじゃねえか!海の底とかジャングルとかにあったらどうすんだよ!」

 『使い魔を一匹渡す。そいつを使え』


 アスモデウスは来ないって下手な場所に飛ばされたら困るんだけど!なんでアスモデウスは来ないんだ?ここにいたって悪魔たちにつかまったら殺されるかもしれないじゃないか!

 首を横に振った俺にアスモデウスは不思議そうな表情を浮かべている。


 「ここに残るって……あり得ないだろ!お前殺されるぞ!その人を助けるんじゃないのかよ!俺だけに任されても困るし、守りたいんならお前が守れよ!」

 『うるさい、待機しとけ。今からゲートを開く』


 アスモデウスが何かの呪文を唱え始め、木々や草が風に揺られて音を立てる。

 魔法陣は更に輝きを増し、アスモデウスをその光で包んでいく。


 『我が呼びかけに答えよ。そして我が行く先をその光で示せ』


 そう言葉が聞こえた瞬間、アスモデウスの目の前に黒い淀んだ空間が現れた。この空間はフォカロルに落とされたゲートとかなり似通っている。この中に入れば俺は皆の所に帰れるんだ。

 アスモデウスは動かない俺を睨みつけてくる。


 『何してる、早く入らないか』

 「この中に?これで帰れるんだよな」

 『理論上はな。だが迷っている暇はない、魔法陣の魔力は既にすり減っていっている。この魔法陣の魔力が切れたらゲートも強制的に閉じるぞ』


 魔法陣は確かに先ほどより輝きが鈍くなっていっている。

 本当にこの魔法陣が頼りなんだ。意を決して、そのゲートの前に立ち、中に入ろうとした。


 『っ伏せろ!』


 アスモデウスの大きな声が聞こえて、何が何だか分からない俺は慌てて言われた通りに、その場に伏せた。その後に感じたのは熱。近くで火事が起こったかのような熱さだった。


 恐る恐る目を開けた先には木々が真っ黒に溶けてしまっていた。俺が放った炎とはまた別の炎。辺り一面を緑色の炎が包み、俺達を包囲している。


 慌ててゲートの中に入ろうとした俺を再び、その緑の炎が遮って来た。触れる事は無かったけど、すれすれを横切っただけで服の袖が溶けてしまった。とんでもない熱が腕を襲い、慌てて服の布でその部分を拭った。見事にみみず腫れの様な火傷が腕に出来てしまい、ジクジクとした痛みが襲う。


 アスモデウスは暫く敵は来ないって言ってたのに、肝心な時に来ちまったじゃねえか!


 文句をつけてやろうとアスモデウスを睨みつけたけど、アスモデウスの傷ついた表情に何も言えなくなってしまった。そして緑の炎を全身からまき散らしながら一人の男が俺達の前に出てきた。


 『ギリギリ間に合ったって奴か』


 緑色の髪の毛に長身の男……

 こいつはルシファーと一緒に居た奴だ。名前は分からないけど七つの大罪の……


 『サタン……』

 『よぉ裏切り者、今度はそいつの味方か。二度目はねえぞ。俺はお前を殺しに来た』


 こいつがサタン!アスモデウスの親友……

 サタンは完全に切れてるようだ。だって容赦なく俺だけじゃない、アスモデウスまでも殺そうとしているから。サタンが来たお陰で入れなくなってしまった。なんでもっと早くゲートに入らなかったんだ!そんな後悔ばかりがよぎる。でももう遅い、現にゲートはサタンによって入れなくなってしまっているから。

 サタンは腕から緑の炎を出し、俺達を殺そうとしている。


 『わりいなアスモ。だがよ、俺にだって我慢の限界ってもんがある。これ以上てめえを野放しにはできねえ』

 『サタン……話を聞いてくれ。ただ俺はっ』

 『うるせえよ。サタネル達にまで手をかけたお前の話を誰が聞く。そんなに人間が好きなら、人間の様に泣いて許しを乞え。そうしたら苦しまずに殺してやるよ』



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