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第19話 シトリーからのプレゼント

 「拓也ー!出かけるわよー」

 「へーい」


 母さんに呼ばれ、慌てて着替えてポケットの中に財布をねじ込み、携帯を持って部屋の扉を開ける。部屋の中にいるストラスをどうしようか考える。エアコンを消すと可哀想だが、仕方ない。窓を開けて、できるだけ換気をよくする。それか、母さんたちもいない訳だしリビングで涼んでもらってもいいかもしれない。


 「ストラス、暑くなるから俺たちが行った後にリビングで涼んだ方がいいかも。夕方には戻るから」

 『わかりました。そうさせてもらいましょうかね』



 19 シトリーからのプレゼント



 母さんは車に乗り込んでおり、俺も後部座席に乗り込む。直哉は久しぶりの家族そろってのお出かけに後ろの席ではしゃいでおり、車が出るのを待つ。父さんが玄関の鍵をかけて車に乗り込んで発進すると、すぐに澪の家の前を通った。

 澪大丈夫かな。昨日のこともあったから心配だ。何もないといいけど。


 「行ったらまずは買い物したいわ。そしたらお昼にしましょうね」

 「やった!お昼!!」


 直哉はその言葉に喜んだが、俺は素直に喜べない。母さんの買い物長いんだよな。いつまでもいつまでも選び続ける。待つ方としてはぶっちゃけもう少し早く決めてほしいもんだ。

 そんな恐ろしい事は言わないけど、俺も服かなんか買ってもらお。久しぶりの買い物だ。一着位なら多分OKだ。

 そう思うと俺も若干テンションが上がってきた――――――!


 百貨店の地下の駐車場に車を止めると、直哉は嬉しそうに街に出た。俺は買い物になると、直哉のお目付け役になるので急いで直哉を追いかけた。都心は相変わらず人が多く、直哉は連絡できる手段を持ってないからはぐれたら最後だ。だから直哉は恥ずかしいから離せとごねたけど、それを華麗にスルーしてしっかり直哉の手を握り、母さんの後を付いて行った。


 「あーこれも可愛いわ、こっちも!貴方どっちがいいかしら?」

 「どちらもよくお似合いですよー」

 「こっちの黒の方がいいんじゃないか?」

 「じゃあそうしましょ。これ下さい」


 なげぇ……一つの店に何分いるつもりだ。直哉は立ちっぱで足が痛くなったのか俺にもたれかかってくる。直哉の体重も支えなければならず、逆に俺の脚がきつくなってくる。兄ちゃんにもたれかかるのはやめてくれ。

 俺はなんとか直哉の体重を支えつつも、母さんが終わるのを待っていた。


 「さぁ、みんなでご飯にしましょう!」


 母さんは買い物の袋を大量に持ってルンルンだった。それに反して男性陣のテンションは急降下だ。

 やっと飯にありつけるよ。


 休日の昼時はどこも人が多かったが、抜かりなく父さんが予約をしてくれていたおかげで待つことなく店に入ることができた。イタリアンのため全員パスタランチを選んで、運ばれてきた料理のいい匂いに頬が緩む。すぐに食べ終わった俺と違い、直哉はやっぱまだまだお子様だな。パスタを食べるのに苦戦しているようだった。

 自分の分を綺麗に食べ終わり、母さんと直哉を待っていると電話が鳴った。ディスプレイには澪の文字。なんかあったのか?俺は席を立ち、入口前で電話を取った。


 『拓也?』

 「澪、どうかした?」

 『苦しい、助けて……』


 澪!?澪の声が明らかに違う。なんか声が震えてるし。

 慌ててすぐに行くとだけいい電話を切った。


 「母さん!澪が具合悪いみたいだからちょっと帰るわ。多分、今家に一人みたい」

 「ええ!澪ちゃん大丈夫なの?行ってあげなさい。何か必要なものあるかもしれないから、お金渡しとくわね」


 母さんから二千円を受け取り、俺がいなくなることに不満の声をあげる直哉の頭をなでて、走って店を出た。


 ***


 地下鉄に乗り、最寄りの駅に到着して、全速力で澪の家に行き、インターホンを鳴らした。


 「拓也!」


 澪はインターホンには出らずに、玄関を開けてきたと思ったらこともあろうか俺に抱きついて来た。

 み…みみみみみみみみみ澪!?なっなんで!?

 澪は俺が放心しているのにも気づかず擦り寄ってくる。あまりにも距離が近く、媚びるような手つきに違和感を感じる。


 「ずぅっと苦しかったの。拓也が傍にいてくれなかったから」


 わああぁぁあああ!!一体何が起こってるんだ!?俺このままじゃ軽く鼻血三リットルでるんですけど!!

 澪は顔を真っ赤にして固まっている俺の手を掴み、自分の胸に持って行った。手が沈んでいき、柔らかさに意識がすべて持っていかれてしまう。


 「ね?ドキドキしてるでしょ?」


 こ、これ以上はやばいって―――!澪いったいどうしちゃったんだよ!!?


 「拓也になら全部あげる……ね?部屋にいこ……」


 そそそそそそそそそそれって……!駄目だって、そんなん絶対!まずはお友達として清い交際をさせていただいてから……!グイグイと引っ張られる足を踏ん張って玄関で耐えるけど、本気で抵抗ができるはずもなく部屋に到着してしまった。女の子特有の雑貨と甘い香りがする部屋にたどり着いた澪がベッドに乗り俺を見つめてくる。


 「ね、拓也。脱がせて」


 これ以上は―――――――――!こういうのはちゃんと恋人同士にならないと!!

 動かない俺を見て、澪は悲しそうに顔を伏せる。


 「拓也……あたしのこと嫌い?」


 滅相もない!むしろ好きです!でも今の澪は澪じゃない。

 今の澪から好きって言われても全く実感なんてわかない。


 「澪さ、今日どうしたの?」


 俺に抱きついてくる澪を抱きしめたい衝動に駆られながら必死に問いかけた。

 澪はなんでそんなこと聞くんだ?とでも言うような目で見つめてくる。


 「何にもないよ?拓也に会いたかったの」

 「で、でもさ。今日の澪、澪らしくないし……どうしたのかなって」

 「だって拓也のこと好きなの。どうしようもないんだもん」


 ぶはっいきなり!っていうかマジでどうしちゃったんだよ澪!

 俺が困り果てていると、指輪が薄く輝いた。


 「な、何だよ!?」


 最近おとなしいと思ってたら……そして光が部屋を包んだ。


 「ん……あたし、え?拓也?」

 「澪!よかっ「なんでここにいるの!?え!?なんであたし達抱き合ってんの!?」


 澪は何が起こったのかと目を開けると、驚いたような声をあげた揚句、俺を突き飛ばして後ずさった。

 酷い!澪から呼んだんじゃないかー!


 「なんだよー澪が俺に電話かけてきたんじゃん〜」

 「あたしが!?そんなことしてないし!」


 なぜだか知らないが澪は完全に記憶を失っているようだった。あれ、何このラッキースケベ感……

 その瞬間、指輪がまた薄く光り、俺になにかの映像を流しこんできた。


 『もう一つのプレゼント。楽しみにしときな』


 まさか……でも可能性はあいつしか!俺は腹立たしくなり、歯を食いしばった。

 急に動かなくなった俺を心配した澪は不安そうに近づいてくる。


 「拓也、その……突き飛ばしたこと怒ってる?ええっと、ごめんね?」

 「あいつ……許せねえ」

 「拓也?」


 俺は立ち上がって部屋を出た。


 「拓也待って!どこ行くの?」

 「ドイツだよ!あのヤローふざけやがって!」


 勢いよく澪の家から出ると、光太郎のマンションに向かい出す。

 澪は俺が心配なのか後ろを小走りでついてくるが、澪に合わせてあげる余裕はなく、家に居てとだけ告げて全力疾走するも頑張って後を追いかけてくる澪を振り払えない。


 「澪、来るなって!今回はやばいんだから!」

 「だって拓也が……」


 結局二人で追いかけっこと言う訳の分からない絵面のまま光太郎のマンションについた俺はインターホンを鳴らした。セーレは俺が急に来たのに驚いたが急いで鍵を開けてくれたので、そのまま家に上がり、どしどしとリビングに向かう。


 「わー拓也どしたの?顔が怖いよー」


 怖いと言いながらヴォラクは呑気そうにお菓子を食べている。


 「あの悪魔、澪を操ってやがった……」

 「操る?」

 「わかんねえけど!急に抱きついてきたり、その……服脱ごうとしたり!む、胸触らせたり!」

 「それって拓也が望む展開じゃん。おっぱいに喜んでんだろー」

 「そりゃ柔らかかったけど……って違う!」


 「あたし、拓也の前でそんなこと…」


 後ろを振り向くと、顔を真っ赤にした澪が立っていた。


 「あ、いや!でも止めたから!見てないんだ、見てない!マジで、本当に!ちょっとおっぱいは触っちゃったけど、不可抗力なんだ!ごめんなさい!!」


 澪は恥ずかしくなったのか、その場に座り込んでしまった。

 ヴォラクは状況を楽観視しているのかケラケラ笑い、澪の前にしゃがみこんだ。


 「拓也のせーだー。澪だいじょぶ?」

 「あーあいつ……そうやって好き勝手してたのか」


 セーレが頭を抱える。もしかして澪のこの状況に思い当たる節があるんだろうか。


 「シトリーの能力って対人にはすごく便利でね、どんな人間も恋愛面において、自分に好意を持たせることができるんだよ。相手が自分に好意を持っていたら、勿論そういう展開に持っていくことも容易だ。ああやって女性を手当たり次第食い物にしてたんだろうね」

 「のんきに言うなよ!やっぱりあいつのせいじゃねーか!今からドイツに行こう!」

 「今から?別にいいけど……見つけられるの?向こう、今は朝の七時だけど」

 「見つけてみせる!何が何でも!」


 珍しくやる気のある俺の言葉に圧倒されたのか、セーレはため息をついた。


 「わかった、わかったよ。連れてくよ。準備するからストラスを呼んできてくれ」

 「電話借りていいか?」

 

 あいつは賢いから電話の取り方くらいわかるだろう。家にかけたら出てくれないかもしれないが、しつこく掛けたら苛立って出てくれるかもしれない。

 案の定数回は無視されたが、七回目の電話でストラスは出てくれた。


 『はい、池上です。お手数ですがこの電話は使用できません。夜間におかけ直しを』

 「電話のアナウンスするなストラス!拓也だよ!」

 『あら、拓也ですか。しつこい電話がかかって苛立っていたんですよ。もしかして、私に用ですか?』


 地獄に電話などないだろうストラスは、初めて自分が電話で相手とやり取りする状況になんだか少しだけウキウキしている。


 『で、どうしました?忘れ物ですか?届けに来いと?』

 「違う。今、マンションにいるんだ。それよりドイツに行くぞ!決着つけてやる!」

 『どうかしたのですか?いつもの拓也ならば怖がって行かないではないですか』

 「澪を操ってたんだ……許せねえ!」

 『なるほど、わかりました。付き合いましょう』


 電話を切って、ストラスが来てくれることを告げる。ストラスが来るまでは何もできないので、マンションで待機することになり、セーレが未だに顔を赤くして立ち上がれない澪の前にしゃがんだ。


 「澪、でいいかな?大丈夫?悪魔のせいだから気にすることないよ」

 「あ、あたし……あたし、これじゃまるで痴女じゃないですか!」

 「とりあえず、まだシトリーに操られてる可能性があるから、俺たちと一緒に来た方がいい。一人だと止められる相手がいないからね」

 「うう、はい……」


 十五分後にストラスがマンションに到着し、今からドイツに向かうことになった。


 「さ、時間もあんまないからグズグズはできないね。行こうか」


 セーレはジェダイトを召喚し、澪を乗せる。澪はマンションにいるとばかり思っていたから、一緒に行くことに納得ができず、それが表情に出ていた俺を見てセーレは苦笑した。


 『まだシトリーに操られてる可能性がある。一緒にいたほうが安全だろ』


 確かにそうだけど。ここにストラスと澪を置いて行くのが一番なんじゃないだろうか。しかしストラスはそれを否定し、セーレたちもストラスはおいていけないという。何か理由でもあるのだろうか?

 仕方がないので、俺もしぶしぶ馬に乗り出発した。


 ***


 早朝とはいえこの時間は日照時間が長いおかげか辺りはすでに明るく、通行人もちらほらだ。ドイツについた俺たちは急いでシトリーと遭遇した大通りに出た。ヴォラクは面倒くささも相まってかあくびをしながら緊張感なくぼやく。


 「でもあいつ一体どこにいんだろ?簡単に探せるかなぁ」

 「見つけてやる。絶対に」

 「ありゃま。やる気まんまん」


 ヴォラクは一体何なんだ?と言う顔をした。

 この近辺で澪はあの男を見たといった。しかし当たり前のように姿は見つからず、苛立ちから地団太を踏む。こんなの見つけられる訳ねえだろう!


 「くっそ―――――!見つかんねぇ!」

 「俺を呼んだ?」

 「おわああああああああぁぁああぁあぁああ!」

 「うわ!声でけぇ!」

 「拓也のその声、久しぶりに聞いたー」

 「お前……声でかいな〜。どっからその声出してんだ?」


 いやヴォラク、そんなのん気に。敵が目の前にいるってのに……シトリーは半ば驚きながらも俺の腹をここか?と言いながらポンポン叩いた。こいつのこのひょうひょうさに怒りが軽く飛んでしまったけど惑わされちゃいけない!こいつは澪を操ってんだ!

 俺はシトリーの肩をつかんだ。


 「なんのつもりだよ!澪をこんな目に遭わせておいて!」

 「あれはあんたへのプレゼントさ。ドキドキしただろ?あんた童貞そうだから。まあちょいとした俺からの嫌がらせと自己紹介ってとこかね」

 「なぁああ!」


 俺は顔を赤くして思わず手を放してしまった。

 シトリーは軽く笑い、辺りをチラッと見てカラカラ笑う。


 「ひゃはは!にしてもヴォラク味方につけてんのはやるねえーどんな奸計使ったかは知らねえけど」

 「契約しちゃったからね。悪い条件じゃないし」

 「ふーん」


 いや、結構条件としては不当ですがね。勿論そんなことを言う訳もなく、フンっと鼻息を荒くして言い切ったヴォラクにセーレは笑いをこらえている。二人の様子を見ていたシトリーは考えるポーズを取った後に、俺に向きなおった。


 「なぁ、俺とも契約しようぜ。俺、やりたいことあんだよね」

 「はあぁあああぁぁぁああ!?だ、誰がお前なんかと……それにお前は信用できねぇ!この間だって契約者を!」

 「でも、俺があいつをボコボコにしなかったら事件はまだ続いてただろうね。俺ってヒーローじゃね?」


 そんなわけあるか!!お前が変なことをしなかったら、まず事件が起こってないんだよ!!


 「お前はそんなことなさそうだしな。それにお前ぶっちゃけできないだろ?」


 できないじゃなくてしないんだ!それが普通なんだよ!世の男のほとんどがそうだ!

 シトリーはブレスレットをシャランと音を立てて回した。オレンジ色の宝石がキラキラ光っていて綺麗だ。


 「契約の証にはこれをプレゼントするからさ」


 それってただの契約石だろ?何偉そうに言ってんだ?

 ていうか俺はお前となんかずぇっっったい契約しねぇ!だってお前は澪を……


 「冗談じゃない。俺はお前を地獄に戻すために来たんだよ!」

 「はぁマジかよ!冗談じゃねーし!お前悪魔侍らせててそれ目当て!?嫌な奴だな!地獄には全然かわいい子いないんだぜ。俺は絶対に戻らないね。マジでこの通り!な?」


 シトリーは手を合わせて頭を下げてきたがそんなのお構いなしで首を横に振った。しかしシトリーは意味ありげに笑い、呟いた。


 「別に誰でもいいってわけじゃねえんだよ。ただ気になることがあってな、指輪の継承者のお前の近くにいれば、それがわかるかもって思ったんだ。俺、探し物してるんだ。その一つがお前ね」


 探し物?聞きなれない言葉に俺だけではない、ヴォラクたちの表情も変わる。しかしシトリーは何も教えてくれない。


 「悪いけど〜契約者でもないのに気軽に教えたくはないなぁ〜」

 「じゃあいいや知らなくて。ていうか地獄に帰れ」

 「やなこった」


 舌を出して馬鹿にするような表情をした後にシトリーはその場から走り出した。


 「おい!」

 「捕まえてみろよ!」


 なんて足の速い!あんなん追いつける訳ねぇ!

 とりあえず見失わないようにシトリーの後を走って追いかけたけど、シトリーの足は思った以上に早く、見失ってしまった。


 「くっそ……見失った」

 「ジェダイトがいればな……こんな人のいる場所で出せないけど」


 セーレも息を切らしながら呟いた。


 「ていうかシトリーってあんなに走るの速かったっけ?」


 ヴォラクはストラスに小声で話しかけるとストラスはヴォラクの腕の中で小さな声で返事をした。


 『シトリーの本来の姿は豹です。それを考えればあの足の速さも納得です』

 「なるほど。豹が人間に化けてんのか」


 ヴォラクは納得したように頷いた。しかし完全に見失っては元も子もない。もう向こうだって俺たちの前に姿を現さないとなると、絶対に捕まえられない。とりあえずそのまま真っすぐ歩き続けていると目の前から黒髪の女性が歩いて来た。

 見た目がすごく綺麗なだけあって、周りの男達も振り向いている。


 「うおっ美人!」

 「拓也」

 「冗談だって澪」


 その女性はなんと俺の目の前で立ち止って色っぽい唇に弧を描いて微笑む。


 「な、なんですか?」


 こんな近距離でぇ!思わず日本語になってしまい、固まった俺を女性は艶やかに笑い……そしてナイフを俺に突き立ててきた。


 「わああああ!」


 思わずしゃがんで、なんとかその場を乗り切った。

 周りの人間がなんだ?と言う顔でこちらを見てくる。恐る恐る上を見上げるとそこにはトパーズのブレスレットが光っている。


 「シトリー……」


 女性はにやりと笑って、ナイフを握りなおした。刃物を持った女に周囲の悲鳴が聞こえる。


 「ね?今ここで契約してくれなきゃ、私ここで暴れるよ?」


 なぜ女言葉?それに何で女になってんだ?っていうかやばいやばい!!

 ヴォラクが結界を張ろうと手を微妙に動かした。しかしそれさえもシトリーはお見通しだった。


 「ヴォラク―変な真似しないでね?した瞬間ここ、血の海になるから」

 「何だよ、何が目的なんだよ!?」


 シトリーは途端に真面目な顔をした。


 「なにも気づいてないの?」

 「なにも?」


 セーレが首をかしげた。

 シトリーは盛大にため息をつき、俺たちにそのことを教えた。


 「誰かが嗅ぎまわってんのよ。このきな臭い事件をね」

 「事件?」

 「悪魔が全部この世界に召喚されたことよ。それに召喚門の封印が弱まってる。なーんか話を聞く限り、こいつって召喚者じゃないみたいね。悪魔召喚とかできそうにないじゃーん!」


 甲高い声で笑っているシトリーに周囲の視線が突き刺さる。しかし何かを察したセーレが知り合いで、このナイフも偽物でどっきりです。お騒がせしました。と大声で周りに告げて、俺とシトリーの腕を引っ張って人通りの少ない道に向かっていく。

 何が何だかわからずに引きずられながら首をかしげた。


 「拓也、とりあえずマンションに戻ろう。話を聞くべきだ」

 「でもこいつは!」

 「本格的にヤバい状況が来てるかもしれないんだ」

 「セーレ?」


 セーレの言うことを聞き、しぶしぶ頷いた。

 俺たちはシトリーと一度、マンションに戻ることにした。


 ***


 「なにーこいつ金持ちなの?すっごいマンションじゃなーい!」

 「拓也は貴族だからな」

 「え、マジ?見えない。庶民派過ぎない?」


 止めてヴォラク!そういうの余計な勘違いをうむから!!

 セーレが俺の友人のマンションだと訂正するが、興味のないシトリーはマンションを見て回っている。


 「ってか、何で女になってんだよ」

 「私って男と女の二つの性を持ってんのよ?あんた知らなかったの?」


 知るかよ普通。男と女って……頭こんがらがってきた。


 「シトリー、話の続きを」


 セーレが催促し、シトリーは偉そうにソファに腰掛け、続きを話し出した。


 「だから言ったとおり、召喚門の封印が弱まってるの。これ以上弱まればサタネル達も出てこれるようになる。実際72柱でも凶悪な悪魔べリアルやアスタロトは召喚されてるでしょう?あんな強大な悪魔を簡単に召喚できる門よ?ルシファー様達も出てこれる」

 『そのようなことになれば人間界はおしまいです』

 「でもルシファー様は今のところは人間界との関与をそこまで望んではないって噂。ルシファー様が出てくることはまだないと思うわ。その代りパイモンとバティンがいるけどね」

 「二人に会ったのか?」

 「バティンだけね、もう契約者を見つけたそうよ。私だけじゃない、すべての悪魔が既に契約者を見つけてる。今からがやばいってこと」


 訳が分からなくなり、話に首を突っ込んだ。


 「なぁ、なんでお前はそんなに俺たち人間の心配してるんだ?」

 「あ?そりゃ女の子がいるからに決まってんだろ。それ以外に何かあんのか?」


 シトリーは急に女の姿から男に姿に戻って、さも当たり前のように返事をする。

 ですよねーお前はそういう悪魔だよな。少ししか会ってない俺でもわかる。こいつはろくでもない奴だということを。


 「でだ。悪魔狩りしてる奴がいるって話を聞いてさ、お前と思ったわけよ」

 「噂?」

 「おう、だってあのマルファスがやられたそうじゃねえか。噂にもなるって」


そんな!?こんな有名のなり方はヤダ!というか情報広がるのはやくね!?


 「最初は悪魔払い師、あーエクソシストのがわかるか?が活動してんのかって話が出てたが、どうもヴァチカンは悪魔の存在に気付いてないくせえからな。てなると、俺たちを倒そうとしている奴がいるってことを全員が察してる。まさか悪魔使って悪魔狩りしてるのは予想外だったがな。まあ、そこはいいだろう。ただ、悪魔狩りをしている奴がいるって話は広まってるし、ソロモンの指輪を持った人間がいるって話も出てる。お前、狙われてるよ」


 俺を!?やめてくれよ!俺はただの一高校生だ!

 あいた口がふさがらなくてあんぐりしてしまう。俺を狙ってる……それってマジで怖いんですけど。シトリーは俺の顔を見て笑った後に、足を組み、自分の目的を告げる。


 「俺はこの一連の事件を調べたいわけ。正直、人間界の関与を俺も望んでいる訳じゃない。そしたら何も知らない人間より、何か知ってる人間の方がいろいろと都合がいいだろ?だから俺と契約してほしいんだよ。お前が悪魔を討伐したいのなら、勿論契約者のお前に従って、俺も全力でサポートしてやる。こういっちゃなんだが俺の能力は対人で真価を発揮するよ。セーレとヴォラク、ストラスとは違う能力だ」


 確かにこいつの能力は味方にしたら魅力的なのかもしれない。澪をあんな風に操れるくらいだ。今回みたいに悪魔を探す際に、駒ができるようなものなんだから。しかし、でもなあ……


 「生活費だってバイトして自分で稼ぐしさ〜」


 お前バイトなんてできるのか?

 暫く考えて、考えて、考えて、顔をあげる。


 「……ほんっと――――――――に何もしないんだな?澪を操らないな?」

 「もちろんだって!あれはお前の為に……「それはもういいから!!!」


 俺はシトリーに手を伸ばした。


 「わかったよ契約してやる。変なことしたらすぐに地獄に戻すからな」

 「話の理解が早くてありがたいねえ。んじゃま、新しい契約者様のために、全力で参りますか」


 シトリーは軽く笑い、ブレスレットを俺の手に置いた。ヴォラクの時と違い、契約条件も全く決めていない、あまりにもフランクな契約に呆気に取られている俺の肩にストラスがとまる。


 『貴方かなりの悪魔と契約してますね』

 「自分でもそう思う」


 これで四人……一人は一匹か?これ、何か代償があったりとかは、ないよな?


 「そうとなれば今から就職先を見つけないとなーかわいい子が多い居酒屋かなぁ!」


 シトリーは意気陽陽と雑誌で調べ始めた。なんだか溜め息しか出てこないんだけど。

 こいつ本当に役に立つのかよ……




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