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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
188/207

第188話 呪われた一族

この話は旧約聖書外伝トビト書の内容を含みます。

しかし物語上大幅な脚色を施しています。なのでこの話の中に書かれている内容は聖書の内容とは全く異なります。

本当の話を知りたい方はトビト書かアスモデウス、サラで検索すれば出てきます。ご了承ください。

 光太郎side -


 『この狭い場所では俺の力は存分に発揮できない。場所を改めたいが、仕方ないな』

 『俺もー豚箱かここ?これじゃ何も出来ないよ。もう少し広いとこないの?』


 人のマンションに土足で上がりこんできたくせに、マルコシアスとキメジェスはそれぞれが言いたい放題言っている。でもそんな中、バティンだけは戦う意志を見せず、二人の後ろからただ観察するように俺達を眺めていた。



 188 呪われた一族 



 「直哉君、こっち」


 松本さんが直哉君を抱きしめて少しずつ後退する。でもこんな十五畳程度しかないリビングで暴れ回られたら後ろに下がった所で多分無意味だ。部屋を変えても同じだろう。こいつらはドアを突き破って派手にやりあうに決まってる。どうしたらいいんだよ!つーか何でこんな状況で来やがったんだ!!こっちはやっと拓也を助けられると思ってたのに!


 『マルコシアス、話を聞いてくれ。ここでは周りの物に被害が大きすぎる。俺の空間に移動しよう』

 『貴様の言うこと、信用に足ると思うのか。今の今、大嘘ついた奴の言う事を誰が信じる』


 あくまでもここで戦うつもりらしいマルコシアスをパイモンは焦った表情で止めている。でもマルコシアスがそれに応じる気配はない。


 『じゃあお前の空間内でもいい。とりあえずこの場はまずい、俺は逃げも隠れもしない』

 『……どうするバティン』

 『いいんじゃないか?君達も戦いやすい環境でする方がいいだろう?うんうん、戦いは派手に、盛大にね。周りを気にしながら戦うなんてつまらないことは止めて楽しくいこう』

 『なんだそれは。いいだろう、ついて来い。お前の骨を埋める場所になる』


 マルコシアスが広げた空間に足を踏み入れようとするパイモンを俺は慌てて止めた。

 だってここから先は相手の空間だろ?俺たちに不利かもしれない!


 「危険だって!罠かもしれない!」

 『あいつはそんな事はしない。正々堂々とした戦いしか好まない。数万年も共に居たんだ。お前より俺の方があいつについて知っている』

 「そうだけど……っ」

 『……光太郎すまないな。俺を殺したいのならこいつ達を倒した後にしてくれ。お前も今は戦力が欲しいだろ?』


 そんな事言ってない!確かに裏切られたのはショックだけど……殴りたいって思うけど、さっき言った決意は本物だと思うから。あいつらと連絡切ってまで俺達を助ける道をとってくれたんだから、今更なんだよ!マンションの場所を教えたのがやばかったら、こいつらは誰にも言ってないって言ってた。今こいつらを倒せばいいんだ!


 パイモンが空間に入っていったのを俺も慌てて追いかけて、その後にシトリー達が続いた。そしてマルコシアスとキメジェスも入ってくるのを確認した。残っているのはバティンと松本さん、直哉君だけ。


 『やれやれ……皆行っちゃったね。君達はどうする?僕と少しお茶でもする?キッチンを勝手に使っていいのなら僕がお茶を入れてあげよう。こう見えても得意なんだ』

 「う、澪姉ちゃん~!」

 「来ないで!」

 『あらら……嫌われちゃったね。でも君だけは逃がす訳には行かないんだ。松本澪さん、いいやサラ』

 「え?」

 『君は僕と共に地獄に行ってあいつをコントロールする器になってもらう』

 「み、澪姉ちゃん!逃げよう!」


 空間の中はパイモンのと似たような感じで、何もない黒い空間だった。確かにこれなら思う存分暴れられるけど。

 遅れて入ってきた松本さんと直哉君は怯えてセーレにしがみつき、その後に入ってきたバティンが愛想のいい笑みを浮かべて松本さんに近づいていく。


 『早くおいでサラ、ついでに契約石も持って来てくれると助かるね』

 「知らないっ!あたしは何も知らない!」

 『知らないはないだろう。君が持ってるはずだ……ラピスラズリの指輪はね』


 バティンの一言で全てが崩された気がした。やっぱり松本さんはサラの子孫だったんだ!

 事情を知らないセーレ達も契約石の名前を聞いて、目を見開いている。

 

 『やはり私達の恐れていた事が現実になりましたか……』

 『ねぇどういう事なの!?ラピスラズリって言ったらアスモデウス様の……』

 『そうさ、彼女はサラの子孫だからね』


 ニッコリ笑って言い放った言葉にヴアルは目を白黒させている。ヴアルはまだサラの存在を知らない。そんな状態でサラの子孫ってキーワードを出されてもヴアルはピンと来ないだろう。松本さんもピンと来てないはずだ。でもこれだけはきっと分かってる。良くない事を言われてるんだって事は。

 なんとか打開策を見つけなきゃっ!


 「何の確証があるのかはしんねえけど、松本さんは無関係だ。さっさと失せろ!」


 話に加わった俺を見て、バティンはこちらに視線を向ける。その瞳は明らかに面白がっており、頭に血が昇りそうだ。


 『へえ、君は知ってるんだ。教えてあげなかったのか?可哀想に』

 「わ、わかんないよ……貴方は何を言いたいの……?」

 『わからないかい?君の先祖はソロモン七十二柱の悪魔、アスモデウスと契約していた。そして君にそのしわ寄せが来るんだよ』


 バティンの言葉に松本さんが目を丸くする。それもそのはずだ、いきなり現れた悪魔が自分の先祖が悪魔と契約してて、そのしわ寄せが自分に来るって言ってきて、信じられる訳が無い。何も言えない松本さんにバティンはどんどん残酷な真実を与えていく。


 『君は全く知らないんだね。君の父親の一族は呪われている。君の先祖のサラは悪魔アスモデウスと契約し、彼の契約石に自ら黒魔術で呪いをかけた。そしてその契約石を受け継がせる事で呪いを維持し続けた。呪いの内容は“男児一人のみの出産しか許さない。また女児の出産は認めない。それ以上の子どもは何かしらの不幸に見舞われて生後すぐに亡くなる。”そんな呪いを彼女はかけていた』

 「どうして……」

 『こちらとしても大変だったよ。呪いをかけられたおかげで契約石として指輪は機能しなくなり、アスモデウスの契約石のエネルギーは空っぽだ。おかげで契約石の在りかを中々探し出せなかった。でも君のおかげで呪いは解けた。契約石は再び価値を見いだせるだろう』


 やっぱりサラの呪いは松本さんの一族に……じゃああの指輪は契約石で間違いないんだろう。

途方もない絶望感に襲われて、何も言い返す事が出来ない俺達にバティンの説明は続く。


 『契約石が使えないって困るじゃない?だから僕も色々調べたんだよ。いやー大変だったよ。分かったのは解く事が出来るのは同じ血族の女だけ。だから君の父親の家族は今まで男の一人っ子しか生まれなかったのさ。兄弟など許されない。契約石を家宝と言う形で受け継げるのは一人だけだからね。他の兄弟がいれば呪いを切る事ができる女児が生まれる可能性が出てくる』


 やっぱり、松本さんのお父さんの兄弟が流産したのは……間違いなくあの指輪のせいなのか。

 思い当たる節がある松本さんも顔を真っ青にしている。


 「そんな……じゃあパパの兄弟が二人とも流産したのも……」

 『そんな事があったのかい?可哀想に。そうさ、君の父親が産まれた事で条件は満たした。後から産まれる子供なんて許されないからだ』


 なんだってそんな呪いをサラって奴は……それと同時に湧き上がるのは疑問。

 それで良く血が途絶えなかったと言う事。だって一人っ子って事は子供を産む前に病気で死ぬ事も駄目だし、事故死も駄目。しかも男児って事は戦争にも狩り出された人がいたんじゃないか?

なのになんで……


 「なんで血が途絶えなかったんだよ……そんな何千年もの間も……」

 『それもサラの呪いだからだ。サラは子孫繁栄を望まず、だが子孫が途絶えるのも許さなかった。その契約石を受け継いだ当主は契約石の呪いに守られて男児ができるまでは生きながらえるのさ』


 松本さんが言ってた。結婚式に使われたご利益で家を守ってくれるらしいって。でも実際はそんな目出度い物じゃなくて、もっと恐ろしい物だったんだ……

 震えだした松本さんを抱きしめて、ヴアルがバティンに問いかけた。


 『じゃあどうして澪は生まれたの?澪のお父さんが受け継いでるなら澪が生まれるのは可笑しいじゃない!』

 『君達は質問が多いね。だがそこが着眼点だ。どうやら彼女の近くの人間に黒魔術の専門家がいたんだろうね。彼が自らの体内にサラの呪いを取り込んだんだろう』


 それが松本さんのひい爺さんだって理解するのに時間は掛からなかった。

 ひい爺さんが警告したと言われている悪魔に憑かれていると言うメッセージ。これは松本さんがアスモデウスに憑かれているって事を意味するものだったんだ。


 『だが呪い全てを消化できず、その人間は君が生まれてすぐに亡くなっている筈だ』

 「……っ!お、じいさん、が……あたしが悪魔に憑かれてるって言ってすぐ、死んじゃって……」

 『まぁ年齢もあるだろうけど多分それだね。君の祖父が契約石の呪いを体内に取り込んだんだろうね。でもこちらとしては好都合だったんだ。サラの子孫がいてくれて良かったよ。奴の足止めにはもってこいの存在だ』


 バティンが一歩前に踏み出せば、松本さんが一歩前に下がる。それを庇うように皆が松本さんの前に出た。でもバティンはそんなこと気にせず松本さんに手を伸ばした。


 『さぁ来るんだサラ、君だって会いたいだろ?君に全てを捧げてくれたアスモデウスに』


 松本さんの目が見開かれる。口がパクパクと動き、体がガタガタと震えだした。

 そんな松本さんを支えるヴアルに松本さんが呟いた。


 「ヴ、アルちゃん……グレモリーさんが言ってたよね?あたしに全てを捧げてくれる子がいるって……“あの子”が必死にあたしを守ろうとしたって……」

 『そんな事って……』

 「それはアスモデウスって悪魔の事、なの?」


 何も返事が出来ないヴアルに松本さんはその場に座り込んでしまった。

 信じたくなんかなかっただろう。悪魔に憑かれてるなんて……何もかも松本さんには信じられない事だろう。


 「わからない……」

 「セーレ?」

 「わからない。なぜ呪いを解除できたはずなのに澪が悪魔に憑かれるなんて助言をしたのか、それになぜ男児しか駄目だったのか……可笑しいじゃないか。子孫を残したいのなら女児だって構わなかったはず。なんで呪いを解かせるのに男児じゃなくて女児の力が必要なのか……」

 『あぁそんなの簡単さ。それにしても可笑しいな。俺達よりも人間と共に行動してる君達が理解できないなんてな』


 でもその後に「なんてね」と冗談めかして笑うバティンが憎たらしかった。

 こんなに苦しんでる松本さんを見て、こいつは構いもせず言葉でどんどん追い詰めていく。


 『理由なんて簡単さ。殺して欲しかったから、男児をアスモデウスに』

 「な、何を言ってるんだ……そんな訳……」

 『何万年後になるかも分からない最後の審判、そこで再び出会いアスモデウスに殺される事で血族の終焉を迎えるのがサラの望みだった。男児である理由はもっと簡単だ。トビアと婚姻したサラはトビアを憎んでいた。だからこそトビアの血が混じった男児をアスモデウスの手で殺させたかったのさ。女児が生まれる事を拒んだ理由は、もっと簡単。呪いをかけたサラが女だから解けるのが女って言うのは当然だろ?サラが死んだら永遠に呪いを解ける奴は現れやしないんだ。松本澪の祖父が現れるまではね』


 背筋がひやりとした。そんな恐ろしい呪いがあの指輪には宿ってたんだ。サラの呪い……松本さんはそれから逃げられない。

 これ以上に最悪な事ってあんのかよ!


 『だから僕達はサラが再び現世に現れた今こそ、サラを手中に収めたい。アスモデウスが気づいていないまでは良かった。だがもう遅い。君を餌にアスモデウスを上手くコントロールしたいのさ。彼の力がどれほどか、同じ悪魔である君たちなら分かるだろう?』

 「可笑しいじゃねえか……なんでアスモデウスがサラにこだわるんだ?サラだって夫を七回も絞め殺されたんだぞ。アスモデウスを恨んでるならまだしも殺されたいなんてっ!」


 反論した俺にバティンは呆れた表情をした後、可笑しそうに笑いだした。

 んだよっ!そんなに可笑しい事言ったかよ!?


 『それトビト書見て言ってるのかい?そんな人間が綺麗事を並べただけの書物、嘘だらけに決まってるじゃないか。サラは被害者じゃない、加害者だ。サラはアスモデウスと契約し、自らの命令でアスモデウスに夫を殺させていた』


 衝撃的な言葉に上手く返事が返せなかった。じゃあ絞め殺したって……サラが自らそんな残酷な事を?あの書物に書かれていたのは全て嘘だったのか?


 「嘘、だろ……」

 『サラはアスモデウスを愛していた。だから自らが他の男の物になる事を恐れ、殺人を繰り返した。その結果、悪魔憑きの女と言われ結婚相手がいなくなったが、サラは満足していたんだ。アスモデウスと永遠に共にいられると。だがトビアのせいでアスモデウスは地獄に返された。だからサラはトビアを憎んでいたのさ。幸せに土足で踏み込んで滅茶苦茶に荒らした挙句、聖人ぶったトビアをね』


 そんな馬鹿な……あの聖書の内容は嘘っぱちだったって言うのか?

 じゃあそのトビアとの子供が憎いから、最後の審判でアスモデウスに殺させたかったのか?そんなのあんまりじゃないか。

 そんな事の為に松本さんは振り回されるのか?そんな事あってたまるか!


 『サラは我侭な女だよねぇ。でも純粋すぎる女でもある。アスモデウスがサラに全てを捧げたように、サラもアスモデウスに全てを捧げたかったんだ。それが政略結婚の道具にされたんだ。怒りたくなる気持ちも分からなくはない。トビアも善人ぶった自己中野郎さ。サラは悪魔憑きと言われて悲しいなんて一言も言ってなんかないのに、勝手にアスモデウスだけを悪者にして、彼を死ぬギリギリまで追い詰めたんだから』

 「それは……」


 言い負かされた俺にバティンは大げさにリアクションを取って劇的な口調で語っていく。

 その余裕な態度が憎たらしい。


 『結果、理解のない周りに振り回された哀れな2人だろう?ロミオとジュリエットみたいだ。アスモデウスが初恋の相手だったサラにとって、トビアは憎んでも憎みきれない相手だったんだよ』

 「そんな、事って……」

 『サラがトビアの婚姻の際になぜラピスラズリの指輪を選んだか分かるかい?そしてそれをトビアに渡したのも。サラからの死刑宣告だったのさ。いつか必ず復讐を遂げてやる。その願いを込めて黒魔術で呪ったアスモデウスの契約石であるラピスラズリの指輪を手渡した』


 それがあの指輪になる訳だ。

 完全に黙ってしまった俺の後に、ストラスが珍しく声を張り上げて反論した。

 でも駄目だよ、何を言っても覆される。松本さんはサラの子孫で間違いないんだよ……


 『なぜ彼女が契約石を持っているのです!?アスモデウスが地獄に返されたならば契約石だって……!』

 『誰もサラがアスモデウスと契約してるって思ってなかったからだよ。サラはアスモデウスに一方的に気に入られた哀れな女って思われてたから、まさか契約してるなんて疑われなかったんだよ。僕もバルマとパイモン、マルコシアスで探したけど、見つからなかったしねぇ……別に契約石なくたって悪魔地獄に返せれるし、地獄では不要だから特に気にしなかったけど』

 『そんな事あったな。あれはその件の話だったんだな』


 納得したマルコシアスと目を細くしたパイモン、どうやら二人は何かしらその事件に関与していたらしい。でも理由までは知らなかったみたいだ。

 その時、松本さんは真っ青な顔で立ち上がった。震えが止まらないまま、松本さんはポツリと呟く。


 「捨てなきゃ……あんな指輪捨てなきゃっ!」

 『はは、捨てる?もう遅いよ。心配しないでよ。男にサラの呪いで染まった契約石は反応しない。エネルギーが空っぽの契約石なんかなんの役にも立たないよ』


 “まぁ近くにいた君からエネルギーを少しずつ吸い取ってるだろうけどね”


 バティンは何かを言いたそうな顔をしたけど、言うのを止めて後ろを振り返った。

 後ろには興味深そうに聞いていたキメジェスと、全く興味の無さそうなマルコシアスの姿があった。キメジェスはニヤリと笑って嬉しそうにしている。

 

 『まさかそんな秘密があったなんて……アスモデウス様も隅に置けないね。からかってやろう』

 『どうでもいいだろうが。所詮は他人事だ。それよりくだらないおしゃべりは止めろ。興が削がれる』

 『そうだね、悪かった。じゃあ思う存分暴れていいよ。君達が彼らを全て倒した後、僕がサラを地獄に連れて行くから』


 松本さんは自分の身に何が起こってるのかが未だに信じられない。

 絶対に連れて行かせるもんか。拓也に中谷までこいつら悪魔に奪われた。もうこれ以上は失くさせない。

 俺が直哉君と松本さんを守るんだ。



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