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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
187/207

第187話 信頼が崩れる時

 光太郎side ‐


 ヴアルとストラスが直哉君と松本さんを庇うように後ろに下がらせ、俺の前には庇うかのようにシトリーが立っている。とりあえずこいつらを追い払わなきゃ、時間もないのに何でこんな事になってんだよ!!



 187 信頼が崩れる時 



 バティンは人のいい笑みを浮かべながらも動く気配はない。その後ろにいるキメジェスはかなり意気消沈してるみたいだけど、隣のマルコシアスは興味なさ気にそっぽを向いていた。でもマルコシアスは時折パイモンに視線を寄越しており、パイモンは居心地悪そうに受け止めた。なんだかパイモンに何かを言うのを促すかの様な仕草。こいつは一体何がしたいんだ……

 その時、そのマルコシアスが沈黙に包まれた空気を破った。


 『パイモン、お前いつまで演技する気なんだ?いい加減にしないと反逆者扱いをくらうぞ。七十二柱で知っているのは俺とバティンだけではなかったか?』

 『……っ』


 演技?何の事を言ってるんだ?パイモンが何の演技をしてるんだ?固まった俺たちにバティンは苦笑いをしながらマルコシアスを諌めた。


 『こらマルコシアス、まだパイモンは任務中だったんじゃないのかい?今のはタブーだろ。ここにはキメジェスだっているんだ』

 『それはそうだが、もう泳がせる必要はなくなっただろう?パイモンの任務は終了だ。俺たちに合流してもいいはずだ』

 『そうだねえ。一緒に来てくれるって信じたいんだけど……最近は全く連絡をくれてないからなあ……』


 ニコリと笑った表情から感じられたのは威圧感とパイモンを責め立てる空気。一体パイモンはこいつらのなんなんだ?キメジェスは知らないって何の事?こいつらの言ってることが全く分からない。


 『うるさいマルコシアス』

 『天界からの大親友に開口一番それはないだろう。お前の心配をしているんだ、ルシファー様もそろそろ戻って来いと言っている。愛着が湧く前に切り上げろ』


 戻って来い?何の事言ってるんだ?


 何も理解できない俺と違い、シトリーは顔を真っ青にさせていく。シトリーだけじゃない、セーレもヴォラクもヴアルもストラスだって顔を真っ青にさせている。光がフォラスとヒソヒソ何かを小声で話して驚いた顔をしてパイモンを見た。

 

 パイモンが一体なんだって言うんだよ!?俺だけなにもわからない。なんなんだよ!?


 そんな俺の気持ちを無視してバティンはどんどん話を進めていく。


 『そういえばパイモン、去年のクリスマスに君と会ったね。あの時は連絡事項を言えなくてすまない。ボティスとラウムがいたあの場所じゃ言えないからね。引き続き継承者がサタナエル様と融合するまで天使の管理から守ってあげてほしい ‐ そう伝えたかったんだけど、賢い君ならあれで十分だっただろう』

 『……うるさい』

 『君からの情報を頼りにしてたのに最近連絡をくれなくて困ってたんだ。連絡をくれなくなったのは今年の二月当たりか?確かヴェパールが消えた時からだね』

 「パイモン、まさかお前……まだ……」

 『それにしても随分上手く継承者達に溶け込んだね。地獄では君は今や完全な反逆者扱いだ。まあ敵を騙すにはまず味方から。君のその行動力は昔から思ってたけど素晴らしいよ。シャックスは可哀想だったね……理由を知らずに君に帰れなんていうから』


 嘘だろ……パイモン嘘だよな……


 最悪のケースは想像していた。パイモンがバティンと結託しているんじゃないかって話は聞いたことがあった。それでも、今まで俺たちを守ってくれていたパイモンは最後まで一緒に居てくれるんじゃないかって漠然な信頼をしていたのに。


 縋る様な目でパイモンを見つめても返事なんて返ってこない。威勢をなくして俯いたパイモンにマルコシアスがとどめの一言を放った。


 『もうお前十分働いただろう。いい加減スパイなんか面倒くさい事せずに早く戻って来い。武勇の俺と知略のお前が揃えば何も怖くない。天界の時からそうしてきたじゃないか』


 全てが崩れた瞬間だった。パイモンがスパイ?って事は俺たちを最初から裏切ってた?


 今思えばどう考えても可笑しいよな。ルシファーの腹心のくせに肝心なことはいつも分からないと言っていた。でも本当は最初から知っててあんな態度とってたんだ。拓也がサタナエルの子供かもしれないってことも、本当は最初から知っていたのかもしれない。知っていて、俺たちに教えなかった。パイモンはずっと俺たちを騙してた、バティンが言ってた垂れ込み元はやはり目の前にいるパイモンだったんだ。


 信じられなくてシトリーに視線を送って理解する。俺以外の皆は落胆はしているけど驚いてはない。


 「お、まえ……ずっと俺たちを騙してたのかよ……」

 『……ああ、そうだな。そう言う事になるな』

 「そう言う事になるじゃねぇだろ!?っざけんじゃねえよ!」


 許せない、目の前で無表情で肯定の言葉を言い放ったこいつが許せない!じゃあ拓也が地獄に連れて行かれたのも仕組んでたんだろ。中谷が殺されたのも仕組んでたんだろ。涼しい顔して俺たちを心の中で馬鹿にしてたんだろ。騙されてるって思ってたんだろ。俺たちの葛藤を笑いものにしてきたんだろ!?

 殴りかかろうとした俺をシトリーが制した。


 「シトリー放せよ!」

 「馬鹿、内輪もめしてる場合かよ。言ったじゃねえか、連絡を二月から寄越さなくなったって。なあパイモンちゃん、お前がバティンと結託してるってのは光太郎以外の全員が気づいてたさ。お前もルシファー様の命令次第では裏切るって最初は公言してたからよ。でも、最近のお前は本当に拓也を守ろうとして俺たちにてを貸してくれている ‐ 俺はそう思ってたのにこれかよ……お前に聞きたいことがある。二月からバティンに連絡をしていない、それはどういう意味でだ?勿論返答次第ではお前をここから生かして返せなくなるけどよ」

 『何言ってんのシトリー、こいつは俺はズッタズタに切り裂くよ。中谷の仇だ』

 「待てってヴォラク、二月以降のパイモンの行動を聞こうぜ。もしかしたらあいつらを見限って俺らに付いてたかもだろ?そしたら中谷の件は無罪だ」

 『そんなの知るか!!』


 ヴォラクが剣を向いてパイモンに牙を向く。それに対してパイモンは抵抗しない。まさかこのまま斬られる気なのか!?

 でもヴォラクの剣がパイモンに届くことはなかった。ヴォラクの剣はマルコシアスに受け止められていから。


 『裏切り者がでしゃばるな……お前を見ていると虫酸が走る!』

 『うるせえよ、お前もパイモンも殺す。俺は機嫌が悪いんだ、お前を真っ二つに切り裂くよ』

 『力量の差も計算できないのか。お前では俺の相手に役者不足なんだ。地獄で何千年も生きてきて強すぎる奴を相手にはするなと経験で学ばなかったか?随分とブエルに甘やかされてきたんだな』

 『あいつを馬鹿にするなよ……そのくらい学んでる。それをふまえて、お前ごとき俺で十分って言ってんだよ狼野郎』


 そのまま剣を振り下ろしたヴォラクに臨戦態勢のマルコシアス。止めろ!今はそんな事をしてる場合じゃ!


 「はいストップ!」

 「光!?」


 二人の間に急に割って入ったのは光だった。二人は光の肩口と横腹ギリギリで剣を止めた。ヒヤヒヤすんだろ!止めてくれよ!!

 そんな二人に全く動じない光はさっきとは違う。多分今は表にフォラスが出てるんだろう。


 「落ち着け。バティン、まずはパイモンがルシファー様に命じられていた内容を聞きたい。言いたくなかったんなら黙秘権使ってもいいぜ」

 『なあに?今からパイモンの審問でも始めるつもりかい?まあいいよ、別に言って困るものじゃないさ、ここまでばれてしまってるんだからね。パイモンの仕事は簡単。継承者の監視、後は継承者が天界に連れて行かれることの阻止。最後に僕達への情報提供。このマンションの場所を教えてくれたのは他の誰でもないパイモンだ。でも心配しなくていいよ、この情報は僕たちしか知らない。他の悪魔は他の任務を優先させてたからね。ボティスとラウム、アンドラスとフォカロルには垂れ流させてもらったけど』


 パイモンのせいだ、あいつがこの状況を引き起こしたんだ。でもバティンの口から今回の地獄に向かうことに関するスケジュールのたれ込みがあったと言う言葉は出てこない。

 フォラスも同じ事が気になったのか腕を組んで訝し気な表情をしている。


 「ふぅん……で、この地獄突入をルシファー様は知ってるのか?」

 『それが予定にない行動なんだよね。継承者を連れ戻すなんて豪語してる愚か者にまさか加勢するなんて思わないじゃないか。それに定期的な情報交換も一方的に切られちゃったし……正直笑ってるけど、はらわた煮えくり返ってんの』


 どういう事だ?分からないよ、パイモンが分からない。俺の知ってるパイモンはいつだってキリッとしてて、あんまジョークが通じなくて、怒りっぽくて、少しだらしなくて、いつもパソコンで調べ物してて、でも頼れて、引っ張ってくれて、リーダー的な存在で……あれは全部仮面だったのか?


 なぁ、どれが本物のパイモンなんだ?


 パイモンはずっと黙っていた。そんなパイモンに早く来るように促してくるマルコシアスと俺と同じで状況をつかめてないキメジェスは面倒そうに頬杖をついている。


 返事をしないパイモンに痺れを切らしたのかマルコシアスがパイモンの肩に手を置いた。パイモンが連れて行かれる!直感でそう感じた俺は、シトリーを振り切ってパイモンの腕を握りしめた。


 「行くなよパイモン!」

 『……っ!光太郎……』

 「まず謝れよ。騙しててすみませんって言えよ!マジあり得なくね?ずっと騙してたとか……一発殴らせろ!くそぉ!」


 ぐじゃぐじゃな言葉を並べて泣き出した俺にパイモンは困ったように眉を下げた。

 でもその光景を目を見開いて見ているマルコシアスだった。


 『パイモン、お前……』


 パイモンは答えない。ただ黙って俯くだけだ。


 『お前、その子供にそこまで気を許しているのか。なぜ、愛着が湧く前に戻ってこなかった……!』


 パイモンは何も答えない。苦しそうな、辛そうな顔をしている。その深層は何を思ってるんだろうか。俺にはわからない。


 『俺は……あの人の剣になりたい』


 ぽつりと言葉を発したパイモンに皆の視線が釘付けになった。バティンもさっきまでの笑みがスッと消え、真剣に話を聞く体制になっている。

 あの人と言うのは、拓也のことなんだろうか。それとも、ルシファーのことなのか。


 『力がないくせに他人を助けることに尽力して、そのせいで何度倒れかけても起き上がる。なぜ、あの人はあそこまで他人に優しくなれるんだろうな』

 「パイモン……」

 『俺は……あの人の悲しむ顔を見たくない。あの人が俺の主だ。俺は、あの人の剣になる。あの人の願いを叶えることが俺の願いだ。それを邪魔するのなら、お前でもルシファー様でも容赦しない』


 パイモンが顔を上げてマルコシアスやバティンを睨み付けた。マルコシアスは親友からの鋭い視線と決別の言葉に乾いた笑いを浮かべている。


 『ヴェパールが教えてくれた。その先がいばらの道でも、自分の生き方を変えられるのは自分だけなのだと。俺は、あの言葉であの人を守ろうと誓った。お前たちには渡さない』

 『ば、馬鹿じゃないのか。地獄には、ルシファー様もバルマだっている。お前の帰りを待っている奴らがいるのに……そいつらの手を取るというのか?俺との約束は……?共に天界に戻ると、天使に戻ると、誓っただろう!?』

 『……俺は天使に戻ることに未練はなかった。ただ、お前がもう一度天使に戻れるのなら、それに協力したいと思って……『じゃあ、今の行動はなんだ!?俺への裏切りか!!?』


 マルコシアスの怒声にビビッてシトリーの後ろに俺は慌てて隠れた。シトリーは後ろに隠れた俺を庇う形をとって状況を見守っている、でも大丈夫なんだろうか。切れたマルコシアスはパイモンに掴みかかっている。


 『ふざけるなよパイモン!お前は知ってるだろう!?俺が嘘をつかれるのが嫌いだと、裏切られるのが嫌いだと!なんで、よりにもよってお前が俺を裏切るんだ!?俺とお前は今までもこれからも、相棒だったはずなのに……!』

 『俺も、そう思っていた。できればお前の隣にずっといたかった』

 『なんだよそれ……切り捨てておきながら、隣に居たかった?悲劇のヒーローぶるなよ。お前は全てを捨てたんだ!今までの恩も、友情も、忠節も何もかも捨てた!!ただの畜生に成り下がったんだ!!』


 マルコシアスの怒声にパイモンは小さく笑った。今までドライで無表情なイメージがあったパイモンが、親友からの言葉に深く傷ついている。


 『本当に、茨の道だな……マルコシアス、俺は退く気はない。お前相手でも容赦なく首を狙いに行く。お前も、本気で俺を殺しに来い。俺は、全てを殺して主に未来を与える。お前らに邪魔はさせない』

 『……くそったれが。上等じゃねえか。今ここで、お前を殺して全てを清算する。お前がいなくても、俺は一人で天使に戻ってやるさ。お前が二度と、這い上がって天を見上げられないようにぶちのめしてやる』


 再び剣を抜いたマルコシアスに今度はパイモンも剣を抜く。やばい状況になってきた……

 慌てている俺達の後ろで涼しい顔をしていたバティンが問いかけてきた。


 『パイモン、本当にいいの?僕たちと対立するってことでいいんだよね』

 『しつこいぞ。お前が退かなければ力づくで退かせる』

 『ふうん。頭が固いね。自分の願いをこんな形でしか遂行できないなんて君の悪い癖だ。方法はきっといくらでもあるのにね。まあいいよ、用済みだ。君を殺すのは辛いけどやるしかないね。今までありがとうパイモン、君を殺したことはルシファー様に報告しておくね』



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