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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
180/207

第180話 信じる者の為に

 『いいねえゾクゾクするぜ!地獄で俺と同等の力を持つ剣士は少ねぇからよぉ!お前とマジで殺りあってみたかったんだよ!!』


 嬉々として目を輝かせつつも攻撃の手を緩めないアザゼルとアスモデウスの剣が激しくぶつかり合う。それを援護することなんて出来ない。行っても俺は役に立たないだろうし邪魔なだけだ。問題はこの屈強な体つきのアバドンと後ろに控えてるラハグをどう倒すかって話だ。サタネルとの一対一でも不利なのに二対一とかもう絶望すぎる。できるだけ時間を稼いでアスモデウスがこちらに援護に来れるまで耐えられるかどうかだ。



 180 信じる者の為に 



 『あーやだやだ。俺後ろに下がってていいよねぇ。アバドンが全部やってくれるよねぇ』

 『本当ニオ前ハ仕方ノナイ奴ダナ。マァイイ』


 ラハグは戦う気がないのが明白で、面倒そうに手を振ってさっさと戦うことを放棄してしまう。それにため息をついてラハグを後ろに追いやり、アバドンがこちらに振り返る。目があっただけで殺されるような感覚がして嫌な予感に冷や汗が出た。サタネルとの戦闘……悪魔の王の称号を持つ悪魔。ソロモン七十二柱よりも格上の相手。


 そんな相手に勝てる自信なんかないけど、でも俺がやらなきゃ皆のとこに帰れないし、シャネルは守れない。手を覆い尽くしてるサタエナルの炎。これがなければあいつらに抵抗する術がない。やるんだ、やらなきゃいけないんだ……


 炎をアバドンに突き出して威嚇すればアバドンはそのいかつい顔を歪めて笑う。


 『何万年振リカノォ……懐カシイワイ』

 『本物には足元にも及ばないけど……でも同じ光だ。なんだか不思議な気分だ』


 何を話しているかは知らないが、多少の威嚇はできているのかもしれない。シャネルにできるだけ離れるようにアイコンタクトを送るが、シャネルは手伝うとでも言うように隣に来る。伝わってなかったのか!

 慌ててシャネルにあっちに行けと声を出す。


 「シャネル、危ないから向こうに行って。ケガしてほしくない」


 この子を守りたい。ケガなんてしてほしくない。もう俺の目の前で死なせなんかしない。何があってもシャネルだけは守りきってやるんだ。

 俺とシャネルのやり取りを見てアバドンは呆れたように、ラハグは面白そうにしている。


 『情ケナイ。コイツラノヤリ取リニナンノ意味モナイワ』

 『邪魔しないならいいんじゃない?俺達の目的は希望の保護。逃げるんなら見逃してやりなよ』


 アバドンは手に小手をつけて俺に殴りかかってきた。やっぱ見た目も屈強そうな姿からなのか、すぐ隣で戦ってるアザゼルよりも動きは遥かに遅い。その分パワーがすごいっていうのはきっとお約束だろう。試しに受けて見ようなんて思わない。とりあえず避けなきゃ何も始まらない!


 アバドンが腕を振り下ろしてくるのを、咄嗟に横に回避する。そのまま掴みかかってやろうと思ったけど、アバドンがそのまま地面を拳で殴った結果、すごい土煙が俺を襲った。こういうのって漫画の中だけだと思ってたのに!リアルな悪魔はこんなこともやってのけちゃうのかよ!?


 目の前が茶色に覆われてアバドンの姿を確認できないし、目を開けるのもままならない。その時、横から走ってくる音が聞こえた。アバドンが来る!そう思って構えたときにはもう遅く、アバドンの拳が俺の腹に命中してた。


 「ぐあっ!!」


 そのまま殴り飛ばされて地面に叩きつけられれば、離れていたシャネルが慌てて駆け寄ってきた。シャネルに抱き起こされて何とか起き上がれたけど、腹を思い切り殴られるのは思っていた以上に胃がやられるみたいだ。口から胃液が飛び出すし、腹は痛い上に気持ち悪いし。正直もう立てないし動けない。


 でもそんな俺にお構い無しにアバドンは再び走ってきて拳を振り上げる。


 「Είναι άχρηστο!(させない!)」


 俺を庇うかのように斧を持って前に出るシャネル。やめろ!シャネルがやられてしまう!下がってくれシャネル!!

 

 でもアバドンは容赦なくシャネルに向かって拳を振り下ろした。最悪のケースが頭の中によぎり、恐怖で目を瞑ったとき、何かを弾く音が聞こえた。目を開けると、シャネルとアバドンの間には薄い壁が出来ていた。これってもしかして結界?でもアスモデウスは戦っててそんな余裕ないし、俺は結界なんて使えない。シャネルも驚いた顔をしてるから違うだろう。一体誰が……


 『ラハグ……貴様』


 どうやら結界を張ってくれたのはラハグのようだ。初対面から今の今まで泣いてるイメージしか無かったけど、やっぱこいつもサタネルの称号を持つだけあるんだろう。アバドンの拳を跳ね返すほどの結界を一瞬で作ったんだから。

 ラハグは首を横に振ってアバドンに距離をとるように諭している。


 『駄目だってアバドン。第三者に被害を出しちゃあ』

 『貴様ガ邪魔スル事デハナイ』

 『いやー俺の勘が言ってる。その子に手を出すのは止めた方がいい。お前のためだよ』


 ラハグが持ってるロッドを軽く振るとシャネルの体が宙に浮いて丸い結界の中に納まった。閉じ込めたのか!?

 シャネルは結界を壊すために斧で攻撃をしているが結界はびくともしない。こいつ、シャネルに何をする気だ!?


 『俺、戦いは好きではないけど別に平和主義者ってわけじゃないんだ。君にアバドンは倒せない、けどアスモデウス次第では俺達から逃げることはできると思うんだ。でも俺達は君を逃がす気なんてない』


 シャネルを人質にしたのか!?結界の中にいるシャネルにケガはない。けどこの結界は簡単には壊せないだろう。本人を倒さない限りは。ラハグは俺が逃げないためにシャネルを人質に取ったんだ。全身に怒りがあふれ出て、制御できそうにない。俺にもっと力があれば、こいつらを殺す力さえあれば……!痛む体を我慢して立ち上がれば、アバドンは興味深そうに俺を見つめている。


 『不思議ヨノォ……何ガ貴殿ヲソウサセルノダ?』


 その質問は理解しづらく、すぐに答えなんて言えない質問だ。返事をせずに睨みつければアバドンは言葉を続ける。


 『貴殿ハ指輪ノ継承者、サタナエル様ノ後子息。我ラ悪魔ノ指導者ニナル御方ダ。地獄デ最高位ノ位ヲ受ケ継ゲルト言ウノニ……ナゼ歯向カウ。血ダラケニナル必要ナドナイノニ』


 何だよ、あんたもアスモデウスと同じ事聞いてくるんだな。そんなの簡単じゃねえか。てめえら悪魔なんかの仲間になるぐらいなら死んだほうがましだ。人類を滅べばいいと思っているくせに、俺に協力してくれなんてふざけている。


 「決まってんだろ。俺は人間として生を受けた。ずっと人間として生きるつもりだ」

 『ソノ炎ヲ操ルトイウ現実ヲ見テモ言エルモノナノカ?』

 「当たり前だろ!」

 『ソウカ、ダガ貴殿ノ血族ハドウ思ウデアロウナ』


 背筋に寒気が走った。考えないようにしていたことを聞かれて、咄嗟に返事ができなかった。


 『ソウデアロウ?実ノ息子ガ悪魔ノ王ノ力ヲ使ウノダ。トテモソンナ奴ヲ我ガ子トハ思エヌナ』


 その言葉で体の力がガクンと抜けた気がした。もしかしたらそうかもしれない。母さんも父さんも俺が帰ってきて嬉しくないかもしれない。こんな変な指輪の継承者になっちまったお陰で直哉は悪魔と契約して犯罪を犯してしまった。父さんはレラジェによって殺されかけた。その悪魔達は二人ともこう言った。全部俺を狙っての行動だと。

 俺が居ないことで厄介事が無くなって平和に過ごしてるのかもしれない。だとしたら俺の存在なんてもう……


 『貴殿ハ人間ノ世界ニ留マルニハ指輪ニ侵食サレスギタ』

 『人間の世界での君の価値は大したことはない。でもこっちの世界では君は唯一無二の存在だ。王様になりなよ拓也君、誰も君に歯向かわない様に……俺達もそれを望んでいる。君が王様になれば君の家族くらい審判のときだって好きにできるんじゃないのかな?俺は王様になった君に仕えたいと思っているよ』


 アバドンとラハグの言葉がナイフのように心臓に突き刺さる。確かに人間の世界での俺の価値なんて大したことないだろう。俺がいなくなったって世界に何の影響も与えないし、皆普通に仕事して普通に生活している。でも俺は……

 

 俯いてしまった俺に駆け寄ろうとしたシャネルが必死に結界の中から叫んでいるが何も届かない。アスモデウスも大声で俺に呼びかけるけど、アザゼルと戦うのは相当辛いんだろう。近づいてくることは出来ない。


 『おい!何をしてるんだ!動け!戦え!』

 『ははっ!戦意喪失してる奴に何言っても無駄だろ!てめえは自分の身を心配しな!死はすぐそこだぜ!』

 『くっ!思い出せ、君は言ったじゃないか!待ってる人の元に帰るって!家族のところに帰るって!こんな所でくたばる気なのか!?』

 『可哀想なこと言ってやんなよアスモデウス、お前と違ってあいつは子供なんだ。元人間の子供だ』


 アザゼルはアスモデウスの剣を弾き、そのままアスモデウスの横腹に回し蹴りを喰らわす。

 それをモロに受けてアスモデウスは膝をつくことはしなかったけど体勢を崩してしまった。


 何とかしなきゃ、何を?助けなきゃ、誰を?帰らなきゃ、どこに?皆のとこに、皆って誰?


 『拓也君、好きなものに囲まれて生きたらいいじゃない。君の家族一つくらいきっとどうとでもなるさ。他は全部しらんぷりして好きな物だけ囲って……そんな暮らしをしたらいいじゃない。だからね、ここに残って王様になろ』


 ラハグが手を伸ばして、手を取るように催促してくる。家族を守れる?俺が悪魔になって最後の審判が始まっても、俺の大切な人たちは生き残れる手立てがあるのか?

 それはひどく甘い誘惑で、今まで悩んでいたことすべてが解決するような感覚だった。家族を、大切な人を守りたいから戦ってきた。顔も名前も知らない人たち全てを救うためなんかじゃない、大切な人たちさえ救えたら、それでいいんじゃないか。


 「拓也!駄目!止まっちゃ駄目!!」

 『少なくともストラス達は君を待ってる!君と共に悪魔を退治してた子達だって君の帰りを待ってる!その子達にもう二度と顔を合わせない気か!?』


 “でもね、あたしにとって拓也は拓也だよ。何にも変わらないよ”


 不意に頭の中によぎった澪の言葉。そうだ、待ってくれる人がいる。澪はきっと俺を待ってくれてる。だから帰らなくちゃいけないんだ!

 顔を上げてアバドンを睨みつけた俺にアバドンは再び怪訝そうな表情を浮かべた。


 『ヤレヤレ……話シ合イデ解決スルヨウナ輩デアッタナラバ、コノヨウナ事態ニハナラヌナ』

 『すごく残念だ……仕えるべき存在が、守るべき存在ができると思ったのに』


 そうだろうな。はじめからお前らと話す気なんかねぇよ。俺は帰る、こんなとこに長居なんてする必要も無い。サタナエルの力が最強だってんなら、こいつらだってきっと倒せる。俺は闘いの素人だけど、いい武器があったならきっとそれなりに素人でも戦えるはずだ。今がその時だ。

 早くこいつを倒してシャネルを助けないと。帰るんだ、シャネルと一緒に……


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