第18話 悪魔からの報復
今回の話にはドイツ語が出てきます。
しかし投稿時に上手く変換されなかったのか、ところどころ可笑しな文があります。
気にせずに呼んでください。
澪と一緒にマンションに向かい、そこで光太郎達と合流し、セーレが早朝を狙いたいと言ったため、少しマンションで休憩を取った後に俺たちは再びドイツに向かった。ドイツの時刻は朝の五時を回っており、ランニングをしている人以外はおらず、大通りは閑散としている。
相変わらずドイツは事件の事で持ちきりで、昨日の場所は早朝とはいえドイツの警察官に囲まれていた。
18 悪魔からの報復
「できれば今日中に犯人見つけたいんだよ」
「今日中にそれは難しいかもしれないなぁ。なんで?」
「いや、明日母さんが家族で出かけるっつーからさ、俺も行かなきゃいけなくって」
夏のドイツの朝は早い。日の光が差し込んでいる街並みは幻想的だ。人もだんだん多くなり、タバコ屋などの露店が店を開けだしたのを噴水の側のベンチに腰掛けて、俺は家から持ってきたアイスを食べていた。
昨日のやり取りを報告して、家族が俺の行動を気にしていることを告げれば、セーレは納得したように頷く。
「なるほどね。まあ、家族からしたら当然なのかな。できるだけ今日中に悪魔が関与しているかを突き止めたいね」
良かった、セーレが話のわかる奴で。ヴォラクとストラスはアイスに感動しているのか、二人で黙々と食べており、まったく話を聞いていない。思わず変な顔になった俺を見て、澪と光太郎は苦笑いしながらアイスを口にした。
外は相変わらず暑い。でも日本のようにジメジメしたような暑さではなくて、とてもスッキリしたような暑さだった。だからと言って気持ちいいと言うわけじゃないが。周りを見渡すと、この辺りで事件が起きたのだ。今日は特に女の人が少ない気がする。手がかりもないし範囲も広すぎる。ぶっちゃけこのままじゃ今日中には見つかんない気がする。でも見つけなきゃいけないんだけどさ……
俺がどうするべきか悩んでいる時に、セーレが気まずそうに話しかけてみた。
「なぁ拓也、物は相談なんだけど」
「なんだ?」
「実は昨日の場所調べたんだけど、事件がこの通りで三回起こってるらしい」
「三回も?」
セーレは間違いないと頷いた。そういえばニュースでは州ごとの被害者を報道してはいたけど、事件の具体的な場所まで入っていなかったな。確かにこの場所は大通りに面していて店もたくさんある。観光客も含めて人通りは多いだろう。でも逆に、こんな人通りの多い場所で事件を起こしているのか?
「おそらく人通りの多い場所でターゲットの女性を探しているんだと思うんだ。だから無茶なことはわかってるんだけど、澪を囮にできないか?」
「はっ!?」
俺の大声に周囲の人間の視線が集中し、周りに頭を下げた。澪も自分に話しが振られたことに目を丸くしている。勿論そんなことを許せるはずもなく、慌ててセーレの作戦を否定した。
「そんなのできるわけねーだろ!?」
「でもやっぱてっとり早く見つけるのってそれが一番かもね。ストラス」
『ほー』
「ストラスも「うん」だって」
ヴォラク!またテキトーなことを!っていうかストラス何も言ってねーだろ!?
「駄目だ駄目だ!澪を巻き込むなんて!」
「ていうかソレ危険じゃね?相手が人間ならともかく、悪魔なら現場で捕まえられねえかもよ。逃げられたら一貫の終わりだろ?」
光太郎も危険なことだから当たり前のように反対した。
しかしセーレたちはほかに方法がないのではないかと言っており、それに関しては正直言ってその通りだ。これだけ調べて犯人の手がかりすら見つからない。この場所で事件が多発しているとはいっても、無差別で面識のない通り魔的な犯行を俺たちが捕まえられるはずがないからだ。
「危険なのはわかってる。だから俺達もちゃんと後をつける。危険な目には遭わせない。それは約束する」
「そんなの……見失ったらどうすんだ!?」
「まず澪が相手のストライクゾーンじゃないかもね~」
「そ、それならそれで嬉しいんだけど、悲しいような……」
絶対に嫌だ!澪にはちょっとの危険も味わってほしくない。澪には今のままで……今のままでいてほしいんだ!
「大丈夫。あたしやれます」
「澪……」
澪は大丈夫と頷いた。なんでそんな嘘つくんだよ。万が一を想像して手が震えてるの丸見えじゃん……
でも澪は大丈夫ともう一度唱えるように呟いた。光太郎も当たり前のように、澪に止めるように促した。
「駄目だって危険なんだよ松本さん!昨日の人たちのようになったらどうすんだよ!」
「でも、悪魔じゃないかもしれないんだし、この人たちがここまで言ってくれるのなら、多分大丈夫」
なんで、なんでそんなこと言うんだよ……
「だからって無理することないって!俺だって役に立ってないし」
「でもあたし……」
小さな声で拓也の役に立ちたい。という声が聞こえる。そんな意味で役に立ちたいなんて、俺は別に澪をそんなつもりで連れてきている訳じゃないのに。
「絶対だめだからな!俺が澪や光太郎達を危険なことに巻き込みたくなくて、だから頑張ってるのに!なんでそんな簡単に囮になるなんて言うんだよ!澪が俺のこと心配って言ってくれたんだろ?俺だって澪が心配なんだ!心配させんな!」
「あたしはただ拓也を……」
「俺はそんなこと頼んでない!!」
頭ごなしに否定されて、澪は泣きそうな顔で俺を睨みつけた。
「そ、そんなに怒ることないじゃない!拓也の役に立ちたいって思うことがそんなに悪いことなの!?大体、それなら拓也が守ってくれればいいじゃない!危険な目に遭った時にすぐに駆け付けてよ!」
頭が回らず、声も出ない。澪がこんなに怒ったこと自体も初めてで、その言葉も心に突き刺さったように痛くて、どうしよう。何も言えない。澪はそのまま立ち上がって歩きだした。
「澪ー?どこ行くのー?」
ヴォラクはまるで第三者のようにのんびりと声を出した。
「すこし頭冷やしてくる。すぐ戻るから」
「ついてこっかー?」
「大丈夫だよ。昼間から危険なことなんて起きないよ」
澪はできるだけ不機嫌な声を押さえ、そのまま目の前の店に歩いて行った。澪の姿が見えなくなるのを確認すると、セーレが困ったように眉を下げた。
「ごめん俺のせいだ。俺から彼女に謝っておくよ」
「セーレのせいじゃないよ。俺が、焦ってでかい声出したから」
澪が、俺のために行動してくれようとしたのに、もっとうまく返事をすればよかったんだ。あんな頭ごなしに否定せずとも、話せばきっと理解してもらえただろうに。
俺も冷静になって澪に帰ってきたらちゃんと謝ろう。今度は全部話そう。
***
澪side ―
「拓也のバーカ」
あの場にいたくなくて少し離れたカフェまで来ていた。と言っても、お金があるわけでもないため隣にあるベンチに腰掛けて歩いている人を目で追う。あんな事件があっても、被害が全て夜中のため、カップルや友達同士で来ている人達はみんな楽しそう。あんな強く言わなくても良かったのかもしれない。拓也は心配してくれていただけなのに、自分が無鉄砲すぎたのかもしれない。
どう考えても悪いのは自分で、拓也に言ってしまったことを考えると気分は沈んだまま。そんな時、肩を叩かれて、もしかして拓也が迎えに来てくれたのかもしれない淡い期待で表情が明るくなる。
「Maumldchen.(お嬢さん)」
「Oh…ist es.(悪いな)Es uumlberraschte.(驚かせて)」
振り返った先には二人組の男性が立っていた。ど、どうしよう拓也たちじゃない。なんて言ってるかもわかんないし……
あれ?この人たちって……
「Nach allen.(やっぱり)Sie trafen mich und gestern, nicht denken Sie?(昨日の子だよな)」
どうしよう、なに言ってるかがわかんない。でも確か昨日、拓也にぶつかった人達だよね?
昨日と違い、すごいフレンドリーな感じだ。頭を下げて拓也たちの所に行こうとするも、腕を取られて身動きができない。さり気なく手を放してもらおうと体をずらしたけど、なかなか放してくれず、困ってしまい立ちすくむ。
「ケビン、彼女嫌がってるだろ?放してやれよ」
もう片方の人は日本語を話したのであたしは驚いてしまった。見た感じは日本人ではないけど、あまりにも流暢な日本語を話している。でも話は通じそう。
とにかくこの人に言わなければ。
「えっと……日本語話せるんですか?」
「そう、俺はシトリー。こいつは」
「Wir nennen sind die Kabine.(ケビンだ)Moumlglich sein.(よろしくな)」
「ケビン、よろしくねってさ」
シトリーと名乗った男性は女性受けしそうな、一言で言えば格好いい青年だった。短く切られた短い金髪に一部分だけ伸ばした髪の毛はオレンジのメッシュが入っている。ピアスは両耳で複数つけており、短くきれいに整えられた眉毛と、釣り目がちな瞳。
奇抜な見た目だけど、それでも似合っており、セーレさんとは違った整った顔立ちをしていた。
「あの、よろしくお願いします。えっとあたし行かなきゃ」
「誰かと来てんの?」
「昨日の人と……」
「ふーん。じゃあ五分だけ付き合ってよ。別にいいでしょ?」
「え……でも」
「いいじゃん。ね?」
これって俗に言うナンパ!?
いくら断っても諦めてくれず、怖くなって拓也の元に帰ろうと首を横に振り、少々乱暴に腕を振り払おうとした瞬間、シトリーさんの口元が弧を描き、整った顔が迫ってきた。
でもシトリーさんはにこにこと笑みを浮かべたまま。
「なあ、俺のこと嗅ぎまわってるよね?少し、君を使ってお灸を据えたいんだよ。付き合ってくれるよね」
「え?」
彼がそう言った瞬間、意識が遠くなった。
***
拓也side ―
澪が帰ってこない。もう十五分も経ってんのに戻ってくる気配がない。そんなに怒っているんだろうか。流石にこれ以上、一人で行動させるのも良くないと判断したセーレが迎えに行こうと腰を上げる。俺は途端に不安になって、一緒に立ち上がり、いてもたってもいられず澪が向かった方向に走り出した。
「あっ!待ってよ拓也!」
ヴォラクはストラスを腕から放し、慌てて俺を追いかけた。突然走り出した俺を見てセーレと光太郎が驚いたが、すれ違いになってはいけないと二人はここに残って待っているという声を背中に受け、澪が歩いて行った方向に全速力で走る。
その隣をヴォラクがついてきて、二人で澪を探す。
「なんでヴォラク付いてきたんだよ?」
「なんでって……拓也ドイツ語話せないんじゃん」
お前案外気のきく奴だな!俺たちは取りあえず澪を探しに走った。
「Was werden uns anbetrifft es nicht gesehen.(俺は見てないな)Was werden unsanbetrifft es nicht gesehen.(その子、こっちには来てないよ)」
スーツを着た男性が首を横に振り、礼を言って戻ってきたヴォラクは今聞いたことをそのまま俺に話した。
「拓也、澪ここに来てないって。どこまで行ったんだろ」
「澪……」
なんで澪、どこに行ったんだよ……道もわかんないはずなのに。料金なんて気にしている場合ではなく、電話もかけてみたが出てくれない澪に途端に恐怖を感じた。まさか何かに巻き込まれた?もしかしたら事件に……
酷い顔になっていたんだろう俺の服を再び通行人に話を聞いていたヴォラクがつかむ。
「拓也、日本人の子がこの先をまっすぐ行ったんだって!行こう!」
「おう!」
俺とヴォラクは走ってその方向に向かって走るも、澪の姿は見つからない。もしかしてすれ違っただけ?本当はもう戻ってる?そんなはずない。自問自答しながら頭を振った。
「Was das anbetrifft fuumlrchteten uns wir.(あれは怖かったね)Sie, wie die Eiche und andere wurden?(彼女どうなったのかな)」
女性二人の会話が聞こえたヴォラクが走るのをやめて、二人組の女性の元に歩いて行く。何かあったのだろうか?
「彼女?拓也、少し待ってて。 Es wird nicht durchgeuumlhrt.(すみません)Sie betrachteten nicht die Person der Frau des Japaners hier?(ここで日本人の女の人をみませんでしたか?)」
「(日本人の女の子……さっきの子じゃないかしら?彼女は男性二人とまっすぐ歩いていったわ。彼女、嫌がってたはずなのに急に言うことを聞いて……あれは少し怖かったわ)」
「Danke.(ありがとう)。拓也!澪わかったかも!この先をまっすぐ男二人と歩いて行ったって!」
男性二人と?意味が分からない。どうしてそんな見ず知らずの奴らと歩いて行くんだ。
誘拐か?とも思ったが、女性の言う話では任意でついて行ったらしくて乱暴などをされている気配はなかったらしい。
「なんで?」
「多分悪魔……かも」
「なっ……!」
澪は巻き込まれたのか!?慌ててその通りをまっすぐ走った。澪!?どこにいるんだ!!?
五分程度ヴォラクと全力疾走して、息切れをし、俺はその場で足を止めた。
ヴォラクはさすが悪魔と言うべきか、息一つ乱してなかった。
「拓也!何やってんの!?早くしないと……」
立ち止まったヴォラクが一か所を見ている。
「ヴォラク?」
「拓也、あれ」
ヴォラクが指さしたのは家と家の隙間の路地裏。大人一人がやっと進める程度の隙間だ。その前に何かが落ちている。澪の鞄……?そこには間違いなく澪の鞄が落ちていた。
「この先に澪が……?」
「拓也!ストラスたちはどうすんのぉ〜もー」
頭が真っ白になり、何も考えずにその中に入って行った。ヴォラクも俺が心配なのか後を追って路地裏に入った。路地裏は意外と長く続いており、街の喧騒も聞こえない所まで続いている。無我夢中で澪を探して路地裏を走り回っていると、家の影から澪の後ろ姿が見えた。
よかった!無事だ!俺はそう思い、大声で呼びかけた。
「澪!……え?」
そこには知らない男とキスをしようとしている澪の姿。なんで澪が……
俺の後ろにいたヴォラクも訳が分からないと言う目で俺たちを見ていた。
「……邪魔が入ったな。これからがいいとこだったんだけどなー。まあ、あの置き土産残したらすぐに追いつかれるかな」
男性は澪から顔を放し、ニヤリと笑みを浮かべる。この男、あの時、俺とぶつかってきた奴。日本語を話しているけど、なんなんだよこいつ。澪は男性の腕の中で大人しくしており、嫌がっている気配はなく相手の男の肩に頬を寄せている。
「もう少し遅く来てくれたらいいとこいけたのに。おっぱいのサイズくらいは分かったのになー」
「てめえ!!」
頭に血がのぼり、男性に掴みかかろうとしたが、男性は俺の頭上はるか上を軽々とジャンプした。なんだこのジャンプ力……人間の跳躍力じゃないだろ。助走つけないでなんだこれ。澪は気を失い、その場に倒れた。
「澪!?」
「どんくさい継承者だな。悪魔探すならもっと仲間に注意しなきゃ。俺を嗅ぎまわって何がしたかったの?俺の力をご所望か?召喚者様。その子を好き勝手したかった?処女っぽいもんねー俺の力使って股開いてほしかった?」
聞くに堪えない発言をペラペラ話している男は屋根の上から馬鹿にしたように笑う。
ぶちのめしたいという怒りが全身を支配するが、まずは倒れている澪を抱き抱え、名前を呼んだ。外傷などはなさそう……よかった気を失ってるだけだ。
「お前に二つプレゼントやるよ。ほら」
男性が指をパチンッ!と叩くと、俺たちの頭上に人間が降ってきた。
「うわ!」
澪を庇い、慌ててその場を離れると、落ちてきた人間は派手な音を立てて、地面に叩きつけられた。血まみれになっている男性は間違いない。昨日俺にぶつかった奴だ。
「初っ端の契約者選び、失敗したよ。女の子への暴力は俺の趣味じゃないんだよなー。こいつの犯罪に手を貸すのはもう散々だ。変態野郎が。こいつの条件を満たしたから俺の条件でこいつをボコボコにしてやったよ」
男性はそう言って笑い、手にブレスレットははめた。それを見ていたヴォラクは相手が誰なのか分かったようで目を丸くしている。
「やっと気づいたのか?俺はとっくに気づいてたのに……悲しいよヴォラク。ずーっと俺を探してくれてたのにねえ」
「シトリー!お前がこれをやったのか!?」
「うん、俺がやったよ。正確にはそこの変態契約者様の望むままに動いただけだ」
「望むままって……」
シトリーと呼ばれた男はお茶らけたように笑って見せるも、契約者をこれほどまで痛めつけている。その笑みが恐怖でしかない。
「くだらねえこいつの性的欲求満たすのなんかうんざりだ。召喚者でも何でもねえ奴に使役されるなんてまっぴらだぜ。で、お前は俺を召喚して俺に何を求めてんの?今更探しに来られても迷惑なんだが」
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!澪を襲ったのもお前の仕業か!?」
「襲ったなんて人聞きの悪い……ちゃんと許可を取ったよ。まぁ力は使わせてもらったけど」
「お前……!」
ヴォラクの殺気が強くなり、戦闘モードに入るも、シトリーは逃げるように背中を向ける。逃がすと思ってんのかよ!
「それより逃げなくていいのか?ばれたらお前ら疑われるぜ?俺としてはそっちのほうが喜ばしいけど」
「拓也、一回ここから離れないと!」
「でもこいつはどうすんだよ!凄い怪我だぞ!」
「心配しなくても殺してないって。まぁ警察に捕まりはするけど、犯人はそいつだし?もう一つのプレゼント楽しみにしときな。でも人間っていいよなぁ本当に……契約者のそいつにさえ劣情抱いちゃうよ」
シトリーはそう呟いて姿を消し、俺たちは澪を連れてその場から急いで離れた。
幸いここは人通りが全くなく、あいつが見つかるのは時間がかかりそうだ。俺たちは急いでセーレ達の元に戻った。
***
「拓也、随分遅かったね。彼女どうかしたのか?」
戻ってきた俺たちが気を失っている澪を連れているもんだから、セーレとストラスが目を丸くして、光太郎も心配そうに澪の顔を覗き込む。どこから説明していいか分からない俺にヴォラクが代わりに全てを話してくれる。
「悪魔にやられた」
「特定はできた?」
まさかこんな場所で本当に襲われるなんて思っていなかったんだろう。セーレが表情をゆがめるも、悪魔の特定ができているヴォラクは頷く。
「シトリーだよ。セーレ。トパーズのブレスレット持ってたから」
「シトリー……あいつか」
知ってるんだ、あの悪魔のこと。セーレはため息をついた。
「あいつが女性に手をあげるのか?」
「契約者の望むままに行動しただけってさ。でも嫌になったのか、契約者ボコボコにしてたけど」
「とりあえず澪が心配だ。一回戻った方がいいな」
俺たちは急いで、日本に戻ることにした。帰っている間、澪を抱えながら後悔の念に追われていた。
こんなことになるなら最初から素直に話しときゃよかった。後悔してばっかだ。
***
その後、日本に戻り、マンションで澪を休ませると、数時間後に澪は目覚めた。外傷などはなく、どうやら精神もなにもなかったようだ。
「澪!」
「拓也、あたし……」
澪は俺を見るや否やポロポロと泣きだした。相当怖かったんだろう、俺に飛びついてわんわん泣いている。怖い思いをさせてしまったことが悔しくて、謝るしかできない。
「澪、俺が悪かった。ごめんな」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
澪は泣きながら謝り続けた。首を横に振って澪の頭をできるだけ優しく撫でた。十分くらい、その状態が続き、落ち着きを取り戻した澪に全て聞いた。どうやら向こうは俺が指輪を持っていること、ヴォラクとセーレ、ストラス達のことも気づいていたようで、おそらく俺達への警告の意味で澪が一人になったところを狙ってきたらしい。
相手から仕掛けられるのは予想外で、澪に怪我がなくてよかったが、あの場所で向こうは迎え撃つ気なのかもしれない。
夜になり、澪を家に送り、俺は自分の家に帰った。
しかしシトリーのプレゼント。それが何を意味するか、俺には全く分からなかった。
登場人物
シトリー…ソロモン72柱12番目の悪魔。
地獄の60軍団を指揮する偉大な王である。
翼の生えた豹の姿をとり、人間の姿をとるときは美青年、または黒髪の妖艶な美女の姿をとる。
恋愛面において、意中の相手を好きに動かせる力をもつ。
契約石はトパーズのブレスレット。
ケビン…シトリーと契約していた男。異常な性癖を持つ。
 




