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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
179/207

第179話 サタネルの襲来

 「おい、何時間歩くんだよぉ~」

 『まだまだ。寝る時間までは歩き続ける』


 足場の悪いぬかるんだ土と雑草で生い茂っている森の中を躓きながら歩く。アスモデウスは歩きなれているのか知らないが、こちらはこんな場所ばかり歩かされてくたくただ。辺りは暗く明かりは最低限にとどめられている。

 この状況があと何時間続くのだろう。



 179 サタネル達の襲来



 「アスモデウス、お前どこに行こうとしてるんだ?」

 『……俺の隠れ家的なスポットさ。あまり知られてない場所だけに魔力も相当溜まってる』


 ふぅん、聞いた所でわかんねえんだけどさ。そんな事よりシャネルは大丈夫なのか。距離は離れていないのでついてこれていることは分かるんだけど、辛いのは間違いないと思う。こんな足場の悪い場所、男の俺ですらきついのにシャネルがきつくないはずがない。

 でも文句一つ言わないし、目があったら笑い返してくれる。こちらに気を遣わせないようにしているのがまるわかりで、できる事なら少しでもいいからシャネルを休ませてあげたい。だからもう一度アスモデウスに交渉してみる事にした。


 「おいアスモデウス!やっぱ休憩しようぜ」


 後ろを振り返ったアスモデウスの表情は若干の苛立ちを含んでおり、相手が俺の提案に乗るつもりがないのは見てとれた。


 『……そんな暇はない。あいつらは確実に俺達に近づいて来てるんだ。休憩ばっか取ってたらすぐに追いつかれる』

 「そうだけど……でもさ!」

 『正直言って、あんた達のスピードは遅すぎる。悪魔たちが本気で俺達を追いかけたとしたらすぐに追いつかれるスピードだ。あんた達のスピードで悪魔から逃げ切るのは不可能だ。今の内に距離を稼いどく必要がある』


 アスモデウスの言葉に何も言い返せなかった。それを言われたらお終いだ。アスモデウスは間違った事は言ってない。でも少しくらいこっちの意見を聞いてくれたっていいだろうに……再び前を向き歩き出したアスモデウスにこれ以上提案をできず、結局休む時間はもらえなくて、心の中でシャネルに謝罪した。


 そのまま何も喋らず数時間が経過し、深い森の奥にまで足を運ばせていた。辺りは木が生い茂り、どこからか聞いたこともない鳴き声も聞こえてくる。これも悪魔なんだろうか、襲い掛かってこないだろうな。アスモデウスは方向をちゃんと理解できているのか?黙々と前を進むアスモデウスの後を

 俺とシャネルが若干早足で追いかける。


 その時、追いついたと思った途端アスモデウスが急にこっちに振り向いて驚いた俺はひっくり返りそうになりシャネルが慌てて支えてくれた。


 「うわ!なんだよ急に振り返るなよ!」

 『何で俺が怒られるんだよ。それより少し休憩しよう、疲れたんじゃないのか?』

 「え、休憩していいのか!?」

 『ここまで深く来れば大丈夫だろう。少し待っててくれ、何か食べれる物を調達してくるよ』


 アスモデウスは俺とシャネルをその場に座らせて歩いていってしまう。残された俺とシャネルの間には沈黙が走る。相手は日本語そんな話せないし、俺もギリシャ語話せないし……どうしよう、シャネルと話したいけど……てか俺から話しかけて図々しいって思われないかな。ぐるぐる回る頭で必死で考えていれば、横からくすっと笑い声が聞こえた。


 「変な顔」

 「うえ!」


 シャネルの酷い一言に変な声が漏れた。相手はクスクス笑いながら俺を見ている。その姿に何だか胸が締め付けられた。


 「ごめん、こんな事に巻き込んじまって……全部俺のせいで」

 「大丈夫。頑張りましょう」


 必死で日本語を話してくれるシャネル。少しギリシャ語を勉強した方がいいのかな。俺だってシャネルともうちょいスムーズに話をしたいって思う。シャネルだって日本語は少ししか話せないって言ってたから、あんま難しい話をするのもナシだ。

 

 ただ俺はシャネルに適当に笑って足元を見た。


 あの後、サモス島はどうなったんだろう。シャネルの記憶はイポスが持って行ったから全ての人間からシャネルの存在は抹消されてる。事件に関しては犯人が見つからず未解決事件で未だに犯人探しが行われているんだろう。でもシャネルの事を誰も覚えていないのが悲しい。シャネルの父親と母親はどう思ってるんだろう。そりゃシャネルを幼い頃に捨てるくらいだ。最低な奴らだったんだろうけど、そんな奴らは今何をしてるんだろう。


 新しい子どもを産んで幸せに暮らしてるのかな。だとしたらその子はシャネルの弟か妹になるんだよな。


 その子はシャネルの存在を知ってるんだろうか。もんもんと考えだしたらきりがない事を考えて溜め息をつく。それよりも一刻も早くシャネルを連れてここから逃げるんだ。それが先だ。


 「シャネル、頑張ろう」

 「はい。頑張りましょう」

 「もし元の世界に戻れたら俺の住んでるとこ案内するよ。買い物とか美味しい物とか全部案内する。日本、行ったことないよね。できる限り案内するから、一緒に行こう」

 「……ごめんなさい。難しくて今の分からない」


 ガクっとした。まぁそっか。俺が一方的にペラペラ喋りすぎだよな。もっと簡単に簡潔にゆっくり話さないと。ごめんと謝ればシャネルは首を横に振った。もっと話したいな、通訳する奴なんかいないでもっと。


 「ギリシャ語教えて」

 「拓也に?」

 「うん。ギリシャ語話したい」


 俺の言葉にシャネルは嬉しそうに笑って、土にギリシャ語を書いて行く。

 一生懸命説明してくれるシャネルが何だか可愛くて笑ったら睨まれた。


 「笑わないで」

 「ごめん。エフハリスト」

 「ちょっと変だけど、エフハリストはありがとう。正解」


 そのまま暫く二人で話していたら何かを大量に抱えたアスモデウスが帰ってきた。

 アスモデウスはなんか変な動物とか変な色の木の実とかを大量に地面に落として、その場に腰かけた。


 『何してるの?』

 「勉強。ギリシャ語の」

 『へえ、君意外と勉強熱心なんだね』

 「どういう意味だ」


 軽い会話をしながらアスモデウスが木の実の皮をはいで、動物の肉やらを捌いていく。動物のゴキゴキ言う音が恐ろしくて、俺はずっと反対方向を向いてたけどシャネルは案外平気そうだった。手伝うか?と言って断られてたし。

 暫くしてさばき終わったアスモデウスの手元には真っ赤な肉が握られている。まさかこれを俺に食えというのか……最悪の想像は現実となり、差し出された肉塊見つめる、それだけで吐気がしそうだった。


 『はいどうぞ。この肉は生でも食えるから大丈夫』


 名前でも食えるとかどうだっていいんだ。見た目がきついんだ……これを食わないといけないほどまだ腹は減ってない。受け取らない俺にアスモデウスは再度肉を差し出してくる。


 「これ火とか使わないの……」

 『煙立てたら居場所ばれるから駄目だろ。それに魔法あんま上手くないから暴発するかも』


 そう言う問題じゃないんだよ。魔法上手くないなら火をたてる道具か何かないのか。

 しぶとく受け取る気配のない俺にアスモデウスは肉は諦めたのか今度は木の実を差し出してくる。それなら、と思い受け取ろうとした手は殻からのぞかせた中身の色に伸びた手は受け取る前にとまった。


 『じゃあこの木の実は?肉じゃないならいいだろ?』

 「いやだって色ヤバいし。実が青と赤のミックスとかマジないんですけど」

 『つべこべ言わず食え!我侭だな!!』


 しびれを切らしたアスモデウスが飛びかかって無理やり口の中に木の実と肉を入れていく。

 抵抗してみたけどマウントポジションを取られたら抵抗は無に等しい。口いっぱいに大量に入れられて涙が出てきた。そんな俺をアスモデウスは少し苛立った顔で見ている。

 

 『そんくらいで泣くな。男だろ』

 「……」

 『飲み込むまで口開けさせないからな。早く噛め』


 死んでも嫌だ。


 『鼻摘まむよ』


 待って!それだけはやめて!口を手で塞がれて鼻まで塞がれたら俺息できない!

 鼻に手が伸びたアスモデウスを何とかする為に、意を決めて口の中の物を噛んだ。ニチュッと言う気持ち悪い音が聞こえたけど、味は思った以上に普通だった。肉とか普通に馬刺しみたいな感じ。そのままもぐもぐ口を動かしだしたのを確認して、アスモデウスは俺から身を引いた。


 『意外と美味しいだろ』

 「…………ん」

 『なら良かった。Επίσης ενδιαφέρον Chanel.(シャネルもどうぞ)』

 「Ας φάμε.(い、いただきます)」


 そのまま三人で食事を取って少し休憩して、さぁ行こうと立ち上がった瞬間、爆音とともに地面が揺れた。


 「な、何だ?アスモデウス、何が起こってんだよ!?」

 『あいつらが襲撃してきたみたいだな』

 

 アスモデウスが立ちあがり、剣を手にとって臨戦体制に変わる

 

 あいつらって誰だ?七つの大罪か?マステマの仲間たちか?誰が来たって言うんだよ!


 大砲の様な魔法が無差別に俺達を襲ってくる。あまりの衝撃に立っていられずシャネルはその場に膝を着き、俺も倒れこんでしまった。立ってすらいられない、このままこの魔法が飛んで来たら一発でお陀仏だ。つか避けられる自信すらない。やばい、誰がこんな魔法使ってるっていうんだ!?


 まるで地震が起きたかのように地面が揺れ、土煙が視界を覆う。アスモデウスが走るように促してるけど、俺とシャネルは反応が出来ない。その時に首に冷たいなにかを当てられてヒュッと声が漏れた。


 『見つけたぜ雑魚が』


 声と共に見えた物は血走った瞳、首に添えられたのは鋭利な剣。見つかってしまった……とてつもない恐怖が体を駆け巡る。見つかってしまったんだサタネル達に。土煙が消えてクリアになった視界に飛び込んできた奴らは赤い甲冑に身を包み、鋭利な剣を持っている悪魔アザゼルと後ろにいるのはラハグ、そして屈強な肉体のアバドンだった。


 『木を隠すなら森。周り全て破壊すれば話は早い。あんま俺らの手を煩わせんな愚図が。てめえはまだ使い道があるんだ。死に急ぐ必要はねえだろ』


 こいつらがあの大砲みたいな魔法を使っていたのか。サタネルが三匹も来たのか。どうする……マステマだけでもイポスがいなければ負けていたかもしれないのに、明らかに近接戦闘に特化していそうなアザゼルがいる。

 何も話せない俺にアザゼルは舌打ちをして更に首に剣を押し当てる。皮膚に剣が少しだけ埋まっていき、その動作で固まってしまった俺を庇うかのようにシャネルが前に出てきた。


 『あ?なんだてめえ殺んのか?俺は女だろうが容赦しねえぞ』


 言葉は理解できずとも、威嚇されていることは分かるんだろうシャネルは息を飲んでアザゼルを睨みつけた。そんなシャネルを見てアザゼルは満足そうに笑った。


 『はっいい度胸じゃねえか。この雑魚より優秀だ。まずてめえを見せしめに処刑してやろうか』


 首に当てられてた剣がシャネルの方に移動する。それだけは駄目だ!シャネルだけは巻き込むな!

 咄嗟に立ち上がった俺を見て、アザゼルは俺に再び視線を寄こした。


 『そんなに焦るくらいなら初めからこの女を巻き込むな。本当に情けねえ野郎だな』

 「う、うるさい……」

 『ビビってやがる。小便ちびるんじゃねぇぞ』


 アザゼルは軽く笑ったかと思った瞬間、俺に剣を振り下ろしてきた。粋がっては見たけれど恐怖で足がすくみ下ろされた剣を避けられるはずもない。目を瞑り手を顔を覆い恐怖の瞬間を待つ。でもいつまでも痛みが襲い掛かることはなかった。

 恐る恐る目を開けると、アスモデウスがアザゼルの剣を受け止めており、剣同士がギリギリと音を立てていた。


 『この子に傷はつけさせない』

 『反逆者が……てめえもろとも息の根止めてくれるわ!』


 アスモデウスがアザゼルの剣を跳ねのけて二人は睨みあい、再び剣を合わせだした。アザゼルはアスモデウスが何とかしてくれるはず……問題は残りの二人の方。アバドンとラハグをどうするべきか……


 『サテト……問題ハ希望ダ。連レテ帰ルゾ、ラハグ』

 『え、無理無理無理無理。俺に戦えとか死亡フラグすぎ。アバドンが何とかしてよ』

 『……ナゼ貴殿ガサタネルノ称号ヲ持ツノカ甚ダ疑問ダ』


 こいつらを倒すには俺だけの力じゃ無理だ。やっぱサタナエルの力を使わないと……その力を使う事で、俺の体がどんどん悪魔になっていってるって言っても、今この状況を抜け出すには、皆に会う為にはそうするしかないんだ。やらなきゃいけない事がたくさんある。まず中谷の家族に土下座して謝る事、俺のせいで巻き込んじまった大切な友達。


 そんで直哉達にただいまって言う事、光太郎と澪にもちゃんと言って、ストラス達にも会いに行く事。それをするまでは絶対にくたばれない。アザゼルはアスモデウスが引き受けてくれるはずだ。俺はこいつらを……


 すぐ近くには激しく剣を重ね合っている音が聞こえる。どうやって、こいつらを倒すか。


 『随分集中できてねえじゃねえかアスモデウス、継承者が心配でしょうがねえか?』


 距離をとってアザゼルはまるで馬鹿にするように笑う。それを不愉快そうに舌打ちをして、嫌味で返すアスモデウス。お互いに舌戦を繰り広げていた。


 『まあね。まさか彼一人にお前達がまとまってくるなんて思ってなかったからね。随分とサタネルっていうのは暇なんだな』

 『言うじゃねえか。これだけの反逆を起こしておきながら良く回る舌だ。さっさと斬り落としてダルマにしてやろうな』


 アスモデウスの目つきが変わり、剣を構えなおした。


 『随分と馬鹿にされたもんだな。来いよ、お前なんかに負けるほど腕はなまってない。ぶちのめして、また荒野の穴倉に封印してやろうか』

 『てめえはラファエルか!あんな場所にまた閉じ込められてたまるかよ!ああ、イライラする。何もかも……神も天使も、てめえも全て壊さないと気が済まない』


 アザゼルの目が血走り、攻撃の仕方も激しく荒くなっていく。

 でも大丈夫、アスモデウスは七つの大罪とまで言われている悪魔だ。そう簡単にやられる訳がない。


 「出て来るんだ……俺に力を貸すんだ」


 そう呟けば、真っ白な光の様な炎が手に宿る。さっきよりも軽々と出せた所に驚きを隠せなかった。

 その光景をアバドンは満足そうに、ラハグは目を丸くして眺めていた。


 『ありゃ?ベルゼバブの話と違うくない?ベルゼバブはまだ全然炎を使えないって……』

 『危機的状況ニ陥ッタ場合ダカラデアロウ。最モ一番ノ要因ハ自ラヲ悪魔ト認メタ事デアロウガナァ』


 なんとでも言えばいい。俺はこの力を使って生き残ってやる。

 シャネルを後ろに下がらせて、俺はゆっくりと近づいて来るアバドンを見据えた。


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