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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
176/207

第176話 待ち受けていた者は

 『見張りが多くなってるな……君が流石に部屋に戻らないから脱走したと思われたかな』


 俺の怪我の応急処置をする為に倉庫に暫く隠れてたのが悪かったのか、いざ出て行こうとした時には見張りの数が多くなっていた。軽く笑ってアスモデウスは茶化してくるけど、それにこたえる余裕が俺にはない。もう情報は広まってるんだ。本当に逃げる事が出来るんだろうか。



 176 待ちうけていた者は



 『右の回廊を抜けるか。雑兵には悪いが斬り殺すしかない』


 そうつぶやいてアスモデウスが手に持ったのは、かなり大きいサイズの剣だった。斬り殺すって……頼もしいっちゃ頼もしいけど相手は悪魔だ。俺を騙してこの剣で斬りつけて来る事だってあり得るんだ。そう考えると背筋に寒気が走ったが、もう乗り掛かった舟、警戒はずっとしないといけないが、した所で相手は七つの大罪とまで言われている悪魔だ。俺がどうこうできる相手じゃないから信じるしかない。


 今はこいつに頼らなきゃ皆のとこには帰れない。悩んでる暇はない、利用できる物は利用しなきゃいけないんだ。


 アスモデウスが手引きをして廊下を走る。その間にバッタリ出くわした悪魔たちは可哀そうな事に、俺達に視線を向ける前にアスモデウスによって切り刻まれていた。


 そのあまりの速さと太刀筋に息を飲む。パイモンだってこんなに鋭くはないはずだ。戦っている場面を見たことがないから分からなかったけど、殺気を放つ姿は七つの大罪と言われるだけある。怖い、怖すぎる。


 転がった死体をアスモデウスは険しい表情で見つめている。もしかして知り合いの悪魔とか、いたんだろうか。


 声をかけようとしたとき、向こうがポツリと呟いた。


 『……少なすぎる』

 「え?」

 『いや、何でもない。あの扉から小さな通路がある。そこから出よう』


 少なすぎる?アスモデウスはそういったのか?聞き返しても流され相手はさっさと歩いて行ってしまう。見張りの悪魔が少ないってことなんだろうか。じゃあまだ俺が逃げ出してるの、ルシファーは知らない?そうであってほしい。


 長い廊下を走りぬけ、いくつもの階段をおりて、エントランスのような広間が見えてきた。その先には大きな扉があり、あの扉から外に出られるのかもしれない。アスモデウスが広間に誰もいないことを確認して扉に近づいて行く。広間は実際にたどり着くと思った以上に広く、十分に走り回るスペースがあるくらいの面積だ。強いて言うなら体育館を少し小さくした感じかな?とにかく広い。


 『あの扉の先は塔の裏庭に繋がっている。裏庭から塔を脱出できるはずだ。行くぞ』


 アスモデウスが手引きして扉に向かって走る。もうすぐ出口だ、ここから出られる。その瞬間、部屋の中が真っ白になるくらい光り、眩しさから目を瞑った。

 再び目を開けると足元の地面が溶けている。え、何これ。俺狙われた?まさかアスモデウスに……最悪の結末がよぎり血の気が引く。しかし相手はアスモデウスではなかった。


 『残念、外れた』


 頭上にはベヘモトが俺を無理やり連れて行った時に出会った女の子の悪魔がいた。確かマステマって言っていた……なんでここに!ってかこれはこの子がやったのか!?もう俺達の居場所がばれてるのか!?マステマは扉を塞ぐかのように俺達の前に立ちふさがる。

 早く逃げないと他の奴らにばれてしまうかもしれないのに……


 『分かってたわよ。あんた達がここに来そうなのわね。西の回廊は誰も使わないから逃げ道には丁度いいものね』

 『待ち構えてたって訳だ。お見通しだな』


 軽い舌戦を繰り広げる二人を見ているだけしかできない俺にマステマはため息をついて指をさす。


 『まあね、それよりその子こっちに寄こしなさい。あんた自分のしてる事わかってる?私達に盾突いて生きて帰れると思ってるの?』

 『少なくとも自分がしてる事は自覚してる。それが全てを裏切る行為だったとしても』

 『ルシファー様は全部知ってるわ。あんたが手引きしていることも全て……戻ってこれなくなる前に手を引け。ここを捨てて人間の世界で生きていくなんてあんたにはできない』


 この状況見て、アスモデウスが本気で悪魔たちを裏切ったって理解できた。でも何で?どうして?何でこいつは俺の為にそんな事をしてくれたんだ。そんな大それた事を。それほどまでに大切な人がいるのか?全部を捨ててもいいって思えるほど大切な人が。


 アスモデウスとマステマの睨み合いは続いている。マジで一触即発って感じだ。


 アスモデウスはマステマに退くよう頼んでるけど、生憎聞いてくれないようだ。険しい表情で説得するマステマだったが、アスモデウスが頑なに首を横に振ると最終警告だと釘を刺した。


 『これが最後。アスモデウス、希望をこちらに渡してルシファー様のところに行け。それが私にできる最大限の譲歩よ』

 『何を言っても俺はこの子を渡すつもりはない。この子を俺は人間界に送り届ける』


 アスモデウスの言葉にマステマは黙ってしまった。

 静寂が室内を覆う中、アスモデウスが剣を向けた。まさか戦う気なのか?


 「あ、アスモデウス!」

 『下がってて。マステマは怖いよ』


 怖いって……マステマは項垂れたまま顔を上げない。そんな状態で戦うって言うのか?わたわたと焦っている内にマステマが顔を上げた。その表情は殺気を纏っていた。


 『これだけ説得してるのに、お前は自分の価値を何もわかっていない……ルシファー様からの評価も信頼も寵愛もどぶに捨てた。この、裏切り者がぁ!!お前は地面に這いつくばって天を見上げるのがお似合いだよ!来いシルヴィア!』


 さっきまでの可愛らしさはどこへやら、乱暴な言葉で罵ってくるマステマは怖い。そしてマステマの声に反応して、マステマの腕に羽の付いた小さな動物が降り立った。あれは何だ?あれを使って戦うのか?明らかにストラスよりも小さな動物に戦うなんてできなさそうだけど。


 「な、なあアスモデウス、あれって……」

 『魔獣シルヴィア、マステマのペットで最大の武器だ』

 「あれを使って戦うのか!?」

 『良く見てるといいよ。マステマの戦い方を』


 良く見ておけって……マステマはシルヴィアをアスモデウスに突きつける。


 『さあシルヴィア行ってこい。あの裏切り者のクズを切り裂いて来るんだ』


 マステマがそう答えた瞬間、小さくて可愛らしかったシルヴィアが大きく獰猛な姿に変わっていく。ライオン並みの大きさになったシルヴィアの雄たけびが室内に響き渡った。


 「なんだよあれ!」

 『シルヴィアはマステマのエネルギーを取りこんで体内を活性化して戦う。あの大きさからするとかなり頭にきてるようだ』


 アスモデウスは剣を構えてシルヴィアに向き合った。

 そんなアスモデウスにマステマは笑みを送った。


 『一度は免罪が与えられたが、今度はお前にかける慈悲はない。ここで貴様の魂を回収し、新しくまた蘇生してやる。今度こそ、間違いを犯さないようにな』

 『……そんな奴隷みたいな一生、死んだってごめんだよ』


 マステマの声を合図にシルヴィアがアスモデウスに襲いかかる。シルヴィアの爪は床を抉り、壁にひびを入れている。でもアスモデウスはシルヴィアの攻撃を完全に見切っていて、あっという間に背後を取った。そのままアスモデウスがシルヴィアに斬りかかれば、皮膚を剣が切り裂き、シルヴィアは悲鳴をあげる。

 やっぱり強い……アスモデウス。


 『お前の悪い癖だな……相手の動きを見極めるために小手先の技を使う。私はお前から偉く過小評価されているようだ』


 シルヴィアは剣が刺さったまま後ろを振り返り、アスモデウスを思いきり殴りつけた。アスモデウスは吹き飛ばされ地面に倒れ込む。すごい衝撃だったらしく、起き上がったアスモデウスは口から血が流れていた。動く度にポキポキと立てる音に、どこかの骨が折れたんだと確信して焦りがわく。大丈夫なんだろうか、彼は戦えるのか。

 シルヴィアは唸り声をあげてアスモデウスに近づいて行く。マジで大丈夫なのか!?


 『お前はシルヴィアに食い殺されてな。シルヴィア、首から上は残しときなね。ルシファー様の土産にするんだから』


 あっさりと恐ろしい事を口にして、マステマは俺に近づいてきた。後ずさる俺を見てクスクス笑ってる。


 「ひっ……」

 『さ、帰りましょうね私達の希望。もう逃げだそうなんて考えないで、ここで楽しく暮らせばいいのよ』

 「い、嫌だ!」

 『……反抗するの。サタナエル様の御子と戦うのは後々説明が面倒くさいけどしょうがないわね。少々痛い目見ないと分からない様ね。守られてばかりのお子様が』


 守られてばかり……確かにそうだ。俺は絶対にこいつには敵わないだろう。でも何かアクションを起こさなきゃ俺は皆のとこには帰れないんだ!その為にはまず目の前のこいつを倒さなきゃいけないんだ!!


***


 ルシファーside ―


 『ルシファー何だよ。お前最近呼び出し多いぞ』


 面倒そうに扉を開けて入ってきたサタン。何も知らない様子が哀れで仕方がない。

 椅子に深く腰掛けたサタンは辺りを見回している。私を含め七つの大罪全てが集まっているが、一つだけ空席の椅子がある。こいつが何を探しているかは検討がつく。残念だが彼は来ない。


 『おい、アスモは?』

 『その事でお前を呼んだんだ』


 事情が未だに理解できてないサタンとは違い、他の奴らは皆理解している。七つの大罪で知らないのはお前だけなのだ。単刀直入で話すべきか。だが彼が怒り狂ったら面倒な事になるのだがな。正直、そんな面倒な役を買って出たくはない。


 『ベルゼバブ、説明は任せた』

 『ちょっ!まさかの無茶ぶり!はぁ……サタン落ち付いて聞きな。アスモデウスが裏切った可能性が見えてきた』

 『………………はっ!?』


 たっぷり時間を要して予想した反応をするサタンをマモンが小馬鹿にしたように笑っている。今サタンの神経を逆なでさせるのは良くない。マモンに目配せすると、彼女は申し訳なさそうにして笑うのを止めた。だがベルゼバブの言葉に食いついているサタンは私達には気付かない。


 『ちょおーっと待て。何言ってんだ?』

 『アスモデウスが希望を連れて逃げだした可能性があるんだよ。バルマが探してるけどアスモデウスだけ連絡が取れない』

 『逃げ出したって……』

 『俺との稽古の時間に来なくてね。希望の見張りの悪魔も殺されてた。俺達相手に希望一人で無茶な事をするとは思えない。手引きをしている奴が必ずいるはずだ』

 『……おい、それがあいつだって言うのか…………っざけんな!!』


 サタンが立ち上がった瞬間、周りが緑色の炎の海に包まれた。やれやれ、このカーテンもテーブルも一級品の物なのに……一瞬で溶けてしまったよ。サタンの炎……全てを燃やしつくす力。地獄の業火とも言われる炎。やはり厄介だな、これ程の力を持つ奴を上手く扱うと言うのは難しい。それぞれが結界を瞬時に張った事により、私たち自身に被害はないが、テーブルなどの装飾品達は台無しだ。後で請求書を送らねば。

 特に彼の炎を直で食らったベルゼバブはかなり困った顔をしている。


 『あーだからお前には言いたくなかったんだよ。俺を溶かす気だったの?ねぇそうなの?』

 『そうだよ。根も葉もねえくだらねえ事言うからそんな目に遭うんだよ』

 『嘘じゃねえよ。事実だ、なぁベルフェゴール』

 『今度は俺に振るのかよ。サタン、アスモデウスが裏切ったと言う仮定にはちゃんとした裏付けがあるからだ』


 そう言えばサタンにはまだ言っていなかったな。彼女の存在を。

 ベルゼバブから対話の相手はベルフェゴールに変わる。全て言ってしまうのかここで。


 『お前も知っているだろう。サラの事を』

 『サラって……あの女か』


 やはりサタンも記憶に残っているようだな。アスモデウスを根本から変えてしまったの女性の事を。

 アスモデウスを罪の道に走らせた張本人を。


 『アスモデウスが地獄に送り返された事により、サラはアスモデウスの契約石に自ら呪いをかけた。だがそれが破られた』


 サタンの目が丸くなる。こいつも察してしまったんだろう。


 『アスモデウスの愛した女サラ、その直属の子孫の女がいるとバティンから報告があった。アスモデウスの契約石の行方もつかめたとな。あいつの契約石であるラピスラズリの指輪はサラの子孫が持っている』

 『そんな馬鹿な……』


 ここまで言えば全てが分かったか。サタンは力なく項垂れてしまった。サタンも分かっているのだ、アスモデウスが今でも彼女を想い続けている事を。彼女の為ならば全てを投げ打つ事も分かっているのだ。

 項垂れていたサタンからはふつふつと怒りを感じ始める。憎いのか、また自分よりも人間を選んだアスモデウスが。


 『……おいベルフェゴール、あいつはどこにいるんだ』

 『それを今から捜索するんだ。まぁ心配するな、サタネル達がやってくれるさ』

 『それじゃ気がすまねえんだよ!俺も行ってもいいだろう!?』

 『勝手にすればいい……希望は殺すなよ』

 『分かってるよ!』


 乱暴に扉を開けて出て行った戦友を皆は複雑そうな表情で眺めていた。


 『ベルゼバブ、貴様覚えておけよ。面倒事を俺に押しつけやがって』

 『いやいやいや、俺だってルシファーからの無茶振りだったし不可抗力だろ。それにしても馬鹿だよな。サタンもアスモデウスも』

 『さすが色欲の悪魔。何千年も一緒にいた友よりも女を取るなんてできないわぁ』

 『……人間と悪魔は馴れ合う事なんてできないのに』


 レヴィの言う通りだ。何をしても我ら悪魔と人間は共存する事は出来ないのだ。我々が死と別れを惜しまなければ。それなのに人間を取るアスモデウスやストラス達の何と哀れな事か。


 それぞれの罰を考えておかなければな。審判が始まってしまえば、どうせ奴らは私の元に戻ってくるのだから。


マステマ…サタネルの称号を持つ悪魔。ヘブライ語の「悪意/Mastemah」、もしくはアラム語の「非難者/Mastima」を起源としている。

マステマは堕天使であり、天使であった頃のマステマの任務は洪水後の世界、即ちノアの子孫たちを監視する事であった。


可愛らしい少女の姿を取るが、猫を被っており、大人しい自分を偽っているが、本来は傲慢で高飛車、口も悪い。

マステマの相棒であるシルヴィアはマステマにだけ従うペットでもあり武器でもある。


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