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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
173/207

第173話 君の歌が聞こえない

今回の話にインドの公用語であるヒンディー語が出てきますが、パソコンからでしか見れないようです。

ケータイから読んでくださっている方には「.(日本語訳)」と言う形でしか見れません。

外国の雰囲気だすためにやってるだけなので見れなくても支障は全くないので、そのまま読んでくださったら嬉しいです。

 光太郎side -


 戦意を喪失してしまったリヒトにかける言葉が出て来ない。

 パイモン達は未だにウォルフォーレやバルバトスと戦ってる。俺に割って入る事なんてできやしないんだ。



 173 君の歌が聞こえない



 パイモンの居合抜きを後ろに下がる事で避けて、笛を吹く事で動きを牽制する。

 ウォルフォーレの笛が厄介でならない。ヴアルさえいたら爆発で何とかなったのかもしれないけど……


 『貴方達って意外とあっけないわよねぇ。私達にこんなザマで、とても継承者を救えるとは思えないわ』


 ウォルフォーレがくすくす笑って笛を吹き続ける。煽るような言動が不快だが、その威力は俺も直哉君も体感してるから身に染みて分かる。この状況で動きまわってるパイモン達がどれだけすごいかって事を。

 バルバトスの矢を避けて、隙を見て攻撃をして……筋肉は悲鳴をあげてるだろう。でもパイモン達が止まる事はない。あいつらはこいつ達を倒す為に動き続けてる。


 『……なにがそこまであんた達を引きつけるのかしらね』

 『審判を止めたいと継承者が言っているそうだけど、偽の救世主アンチクライストなんかの為にそこまでする必要あるのかい?』

 『貴様……よほど殺されたいようだな』


 アンチクライスト?何でパイモンはその言葉に激怒したのかは俺には分からない。


 「偽の救世主……それがアンチクライストだ。大いなる奇跡によって民衆を魅了するが、最終的には悪魔と共に世界を荒らしまわる……あいつらは審判で拓也が悪魔の側につくって断言しやがったんだよ」


 拓也が悪魔の側に?そんな馬鹿な話があるか!こいつの言ってる事全部でっち上げた!!

 殴ってやりたい、あいつを思いっきり。なにがアンチクライストだ。拓也がどんな気持ちで戦ってきたか知りもしないで……何が偽の救世主だ!!


 「いい加減にしろ……」


 その時、直哉君の声が聞こえて振り返ると、直哉君は見た事もないような険しい表情をしていた。

 歯を食いしばり、目を見開いて、バルバトスを睨みつけてる。

 直哉君にとっては拓也を馬鹿にされたも同然なんだ。怒りたくもなるだろう。そんな直哉君を無視してバルバトスは更に挑発していく。


 『だってそうだろう?綺麗事を抜かしながらも継承者はその手を血に染める事も厭わない。更にサタナエル様の御子息だったら最終的な結果は見えてるだろう?彼は人間じゃない、俺達と同じ化け物なんだよ』

 『言わせておけば……っ!』

 「や、めろ……」

 『何が違うんだ?化け物さ彼は。人間の皮を被った化け物だ。お前達ももうすぐ実感するさ、彼が化け物たる所以を……』

 「うるさい!お前なんか死んじまえ!!」


 直哉君がウォルフォーレの笛の音が流れているにもかかわらず、俺から剣を取り上げてバルバトスに投げつけた。それがバルバトスに届く事は無かったけど、突然の第三者からも介入。あいつらの気を一瞬でも抜くには十分すぎる効果だった。


 ウォルフォーレの笛が一瞬止んだ瞬間、パイモンとヴォラクが走りだし、ジェダイトもそれに加勢した。一気に接近を許してしまったウォルフォーレが笛を吹こうとするけどパイモンに邪魔されて防戦一方だ。


 バルバトスの方だってそうだ。ジェダイトの突進にバランスを崩した先にはヴォラクが待っており、もつれこんでしまった。その光景を茫然と見てるリヒトに驚きを隠せない俺とシトリー、そして息を荒くしている直哉君だった。


 「直哉君……」

 「馬鹿にしやがって……あんな奴死んじまえばいいんだ!」

 「直哉、気持ちは分かるけどよ。その考えは口にすんな」


 シトリーが釘を刺したけど、直哉君は抑えが効かず、シトリーを睨みつけた。


 「うるさい!悪魔のくせに!!綺麗事言ったって、お前らは兄ちゃんを守れなかったくせに!化け物はお前らのくせに!」

 「直哉君!!」

 「よせ光太郎。分かってるよ、化け物は俺達だけだ」

 「兄ちゃんは違う、違う……うああぁぁああん!!」


 初めて聞いた直哉君の泣き声。拓也が居なくなった時だって泣かなかった直哉君が、タガが外れたかのように泣き出した。

 そんな直哉君を抱きしめるしかできない俺は本当に無能だ。そして背中からウォルフォーレとバルバトスの悲鳴が聞こえて、パイモン達が倒したんだなと言う事だけが分かった。


 振り返った先には傷だらけになった二人が居た。

 それぞれに魔法陣を描いて行くパイモン達も傷だらけだ。あんな小競り合いがあったら傷の一つや二つ付くだろう。


 『やれやれ……揺さぶるつもりが核心を突いちまったな』

 『いい加減にしてよバルバトス!あんたのせいよ!』


 あくまで悔しがる様子を見せないバルバトスにウォルフォーレは大声をあげて睨みつけるも、バルバトスに反省の色は見られない。


 『まぁ負けちまったもんは仕方ないさ。帰ってレラジェに世話してもらうかね』

 『その前に私があんたを殺すんだから覚悟なさいね』

 『はいはい、怖いね』


 軽口を叩く余裕があるのが悔しい。こっちはそんな笑って会話をできる余裕すらないのに。

 シトリーがリヒトに近づいて行くのが見えて、俺と直哉君はジッと見つめた。リヒトは頑なにシトリーに契約石を渡すのを拒んだが、そんなリヒトをシトリーは半ば強引にポケットから契約石を奪い、パイモンに投げつけた。


 『ローズクォーツのペンダントにデマントイドの腕当て……契約石だな。リヒトは呪文を言えそうか?』

 「無理だろ。お前が今回はやってくれ」

 『分かった』


 パイモンがそれぞれの契約石を入れて呪文を唱えたら二人の体が透けだした。

 それを慌てて止めようとしたリヒトをシトリーが押さえつける。


 「चलो!(放せ!)」

 「मैं समझ सकता हूँ तुम्हारी क्या कर रही है अभी तक!?(まだ自分のやってる事が理解出来ねぇのか!?)」


 シトリーに怒鳴られたリヒトはシトリーを睨みつけた。

 そんなリヒトにパイモンは振り返らない。淡々と事務的に呪文を唱えていく。そして二人が消えてしまった空間に、静寂がこだました。全てが終わった空間で、黙っていたリヒトがシトリーを突き飛ばした。


 「って!」

 「कभी हमें माफ कर दो और क्षमा、तुम! मैं अपना बदला होगा! हम नरक में गिर गई एक बार आप कुछ!(許さない、お前達を絶対に許さない!復讐してやる!お前達なんか地獄に落ちてしまえ!)」


 リヒトの言葉に胸が抉れるような痛みが走った。他人からこんな事言われたのが初めてって言うのもあるけど、悪魔を返すことが難しいって事が今回の件で痛いほど分かった。助けたかっただけなんだ。姉さんを……

 契約条件も軽はずみでアレクになしつけるなんてむごい事をやってたけど、でもこの子にとっては姉さんを助けたいだけだったんだ。リヒトは涙でボロボロになった顔を拭う事もせずに、俺達の横を走りすぎて行った。

 ヴォラクが結界を解いて、外に出たリヒトは真っ直ぐに走り、すぐに姿は見えなくなった。


 「……これで、良かったのかな」

 「じゃあお前はどんな結末を望んでたんだ?姉貴が助かってアレクが死ぬ結末か?」

 「そういう訳じゃっ……」


 シトリーの刺の含んだ言い方に腹が立って言い返そうとしたけど、シトリーの泣きそうな顔に何も言い返す事が出来なくなった。


 「シトリー……?」

 「あいつ見てるとよぉ……お前と被っちまったんだよ。お前にも兄貴いるだろ?兄貴が助からないってなったらお前も悪魔と契約してあんなになっちまうのかって思っちまったら……どうしようもねえ苦しいよ」


 そのまま直哉君ごと俺を抱きしめてきたからシトリーがどんな表情をしてるのか俺には見えない。

 でも一番心を痛めてたのはシトリーなのかもしれない。


 「俺らってよ、魔法とか使える奴は使えるし、人間より強えだろ?運動神経だってそうだ。何だって出来んだよ。なのに……なんでどの契約者にも一番与えたい物は与えれねえんだろうなぁ……」

 「シトリー……」

 「お前はどんなに苦しくてもあんな事すんな。もしするようになったら俺がぶっ殺すからな」

 「……しねえよ。俺ん家、金あるし」

 「可愛くねえ奴だなマジで」


 誰が悪かったんだろうな……それすらも分からない。

 でも俺達のせいでリヒトは確実に不幸になって、確実に俺達を許さないって言うのは分かった。

 直哉君も泣き止まずグズグズ言ってて、シトリーもグズグズ言ってて、なんで俺が励まさなきゃなんないんだよぉ……特にでかい方。

 直哉君の気持ちが分かったよ。何で直哉君が泣かなかったのか……こんな状況になったら泣きたくても泣けねえっつーの。


 「ざけんなよ……俺だって泣きてえのによ……ばかやろぉ~~……」


 結局俺は我慢できずに泣いて、三人でわんわん声を出した。

 ごめんなリヒト、助けれずにごめん。ごめんな直哉君、拓也をまだ助けれなくて。

 泣いている俺達の様子を見てパイモンが複雑そうな顔で呟く。


 「だから言ったんだ。あの子供の境遇など、口にするなと」


 パイモンの言うとおりだ、知らない方が幸せってことを今日初めて学んだ気がする。でも知らないまま悪魔を倒して、それでいいのかと聞かれたら、それもわからない。

 もう、何もかも分からないよ。


 ***


 リヒトside -


 結局俺はまたただのガキに戻ってしまった。


 今まで成功してた盗みも全てあいつの力を借りてたから。それが無くなってしまった今、もう前みたいに上手く行くことはないだろう。それでも俺が金を貯めなきゃ、あの箱の中を金でいっぱいにしなきゃ。アレク以外には誰にも言ってない俺だけの秘密。姉ちゃんを助けるための金を入れた箱。


 盗みをしてることを知られたら母ちゃんが悲しむと思ったからずっと黙ってる。姉ちゃんを助ける時に明かして、その時に一気に怒られる。それが俺のプランだった。上手くいってたんだ。あいつらが来るまでは……


 いっぱいいっぱい金を集めたんだ。もっと集めたら骨髄移植と抗がん剤って奴ができるんだ。そしたら姉ちゃんが助かるんだ。


 でもこれからどうすれば……そう思いながら家の前まで歩いて行くと人だかりができていた。近所の人たちが俺の家を覗いている。中には泣いてる者も。何かあったのか?


 俺に気づいた奴らが悲しそうな視線を向けてくる。


 気分が悪い。何だよ一体……そう思いながら家に入った俺はある異変に気づいた。


 歌が聞こえない。


 いつも聞こえていた綺麗な声。


 皆から天使の声ってもてはやされてた姉ちゃん自慢の声。その声から紡ぎだされる極上の歌。それが聞こえない。病気が進行してあまり歌わなくなったけど、それでも俺が家に帰るくらいの時間だけは声を絞り出して歌っていたのに。どう言う事なんだと、心の中に焦りが見えてくる。


 姉ちゃんの歌の代わりに聞こえてくるのは母ちゃんの泣き叫ぶ声だけ。

そして姉ちゃんの部屋の前にはアレクが立っていた。アレクは部屋に入ることなく、ただ悲しそうにドアの前に佇んでる。


 「एलेक.(アレク)」


 話しかけると弾かれた様にアレクが俺に視線を送る。俺は今日の収穫をアレクに見せようと自分のズボンのポケットに手を突っ込んだ。中にはいっぱいのお札と薬が入っている。これだけで暫くは暮らせるほどの。

 これを見せてアレクに聞くんだ。


 あとどれくらい金を貯めたら姉ちゃんを病院に連れて行けるんだって。


 そう聞こうとした俺をアレクは何も言わずに抱きしめてきた。

 強い力で抱きしめられて痛みで顔がゆがむ。


 「यह दर्द होता है. चलो चलते हैं.(痛い。放せよ)」


 アレクは返事をしない。今日は一体どうしたって言うんだよ?アレクに急に腕を引っ張られたせいで、ポケットから出した金が床に落ちてしまった。その金を見て、アレクの顔が更に悲しそうに歪む。

 そんなアレクの変化を見てみぬ振りをして、俺はアレクに自分の質問をぶつけた。


 「(すげえだろ。今日も大収穫だったんだぜ!でもこれからはこう上手くはいかないからさ。なぁアレク、これだけじゃまだ足りないのか?)」

 「……तुम भी एक को इकट्ठा करने की जरूरत नहीं हैं.(……もうお前が集める必要はねぇよ)」


 その言葉に思わず表情が華やいでしまった。それはつまり金が集まったって事だろう?姉ちゃんを助けられるって事だろう?やっとこの日が来たんだ。やっと姉ちゃんの病気を直す日が来たんだ!

 なのになんでアレクは悲しそうな顔をして、母ちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえるんだろう。

 わからない事だらけで頭に?を浮かべている俺に、アレクはポツポツ話し出した。


 「(……前、猫が死んだ時、お前言ったよな。自分の目の前で死ぬ奴は最低だって)」

 「अचानक क्या है?(何だよ急に)」

 「(あいつはそれをずっと気にしてた。なぁ、お前はあいつを最低と思うか?)」


 訳が分からない。あいつと言うのは姉ちゃんを指しているんだろ?何で猫なんかと比較するんだよ。

 姉ちゃんは猫と違う。姉ちゃんが最低なわけないじゃんか。

 首を横に振ればアレクは「そっか」と言って、再度俺を抱きしめる。

 今日のアレクは気持ち悪い。なんだか暗いし、訳わかんないし。されるがままされていると、アレクがまた言葉を放った。


 「अच्छा है कि सुनने के लिए. उसे मजबूर तुमसे मिलने के लिए.(それ聞いて安心したよ。お前をあいつに会わせられる)」

 「क्या?(は?)」


 何……を言ってるんだ?心臓がバクバク鳴るのと同時に最悪のケースが予想される。泣き叫ぶ母ちゃん。哀しそうなアレク。家の周りを囲む近所の人たち。そして俺に向けられた同情の眼差し。

 ある一つの結論を用いれば、全てが繋がる。

 でもその結論は最悪の物だ。そんなの認めたくない。違う違う違う!!

 アレクの体に無意識にしがみついてたらしい俺の頭をアレクは優しく撫でる。


 「Licht वह……(リヒト、あいつはな……)」


 止めろ、それ以上言うな。俺の全てを無駄にするようなこと言うな。

 お前がその言葉を放った瞬間、俺は全てを失ってしまうんだ。

 アレクの口がゆっくり動く。そしてその言葉はスローモーションのようにゆっくりと俺の耳に入り込んできた。


 「―――――」



 ― 君の歌が聞こえない



ウィルフォーレ…ソロモン72柱序列6位の悪魔。10もしくは36の軍団を従える公爵である。

現れる時は、ライオンの顔にガチョウの脚、野兎の尾だとか、頭はロバで体がライオンなど、様々な姿で現れ、また天使の姿で現れる事もある。

「盗賊の顔」を持ち、「絞首台に送るまで盗賊どもと親しく交わる」とされる事から、ウォルフォーレは盗みをそそのかす。

契約石はローズクォーツのペンダント


バルバトス…ソロモン72柱序列8位の悪魔で30の軍団を率いる伯爵兼公爵である。

灰色のマントをはおり、赤い房の付く緑の帽子と緑の服を着たロビンフットのような狩人の姿で描かれる。

バルバトスは堕天使であり堕天する前は第5階級力天使ヴァーチャーズの一員だった。

力天使の中ではまだまだ下っ端の状態で堕天したため、医療に関してはあまり当てにはならないが、結界師としても優秀な能力を持つ。

彼は魔術師たちがため込んだ財宝の隠し場所を知り、それを教え、攻略してくれる。

かなり疑り深く用心深い性格。

同じソロモンの悪魔であるレラジェの師匠的な立場を取っていて、親馬鹿ならぬ弟子馬鹿を発揮している。

その心配性な性格が災いして、レラジェからウザがられ逃亡されて落ち込むこともしばしば。

レラジェに懐かれているダンダリオンを本気で射抜いてやろうと少し思っている。

契約石はデマントイドの腕当て。


リヒト…インドにすむ貧民の少年。姉が白血病にかかり、その治療費を稼ぐために盗みをやっていた。

家族とアレク、貧民街に住む人間以外はどうなってもいいと言う考えを持っているのは、リヒト自身が幼いころ貧民だからと言う理由で街の人間に酷い目に遭わされたため。


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