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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
170/207

第170話 相手の気持ちなんて分からない

今回の話にインドの公用語であるヒンディー語が出てきますが、パソコンからでしか見れないようです。

ケータイから読んでくださっている方には「.(日本語訳)」と言う形でしか見れません。

外国の雰囲気だすためにやってるだけなので見れなくても支障は全くないので、そのまま読んでくださったら嬉しいです

 光太郎side -


 貧民街を調べてみても結局収穫はなく、次の日また直哉君を連れて俺達は再度インドに向かう事になった。

 観光ではいかないようなディープな場所に直哉君は何も言わなかったし抵抗もしなかったけど、きっと心境はすごく複雑なはずだ。



 170 相手の気持ちなんて分からない



 「またか……」


 温厚なセーレが深刻そうな表情を浮かべている。それもそうだ、また宝石泥棒があったらしい。それも貧民街の近くで。警察は完全に貧民街の人間の仕業だろうと決めつけ、貧民街の人間の調査にこれから入るらしい。ただ、貧民街の人間への差別もすごいことになっており、暴行事件に発展しているらしく、何の罪もない人々は怯えて暮らしているようだ。


 被害に遭った宝石店は店を閉め、警察が周囲を囲んで捜査している。その付近は野次馬のように人があふれてごった返しており前に進めない。そんな中、宝石店を遠くから覗いている子どもがいた。昨日パイモン達に生意気な態度をとった子どもだ。


 その子は宝石店の様子を見た後、急いでどこかに走っていってしまった。


 「あの子供……」

 「どうする?後を追いかけんの?」


 ヴォラクとパイモンは怪しんでる。治安があまりいいとは言えない場所を一人で走り回っている子供は正直言って違和感だ。集団ではなく一人でいることからギャング的な感じでもなさそうだし。

 昨日もあの子は俺達に文句をつけた後、貧民街を出て行ったし、かなりこの街と家を行ったり来たりしている。


 「シトリー、行ってくれないか?足の速さはお前が群を抜いてるからな」

 「しゃあねえなぁ。光太郎と直哉はちゃんと見とけよ。どこで落ち合う?」

 「そうだな。貧民街の入り口で待っている。深追いはしなくていい」

 「了解」


 シトリーは直哉君から離れて子どもを追いかけていってしまった。

 シトリーの後ろに隠れていた直哉君は何かを持ってないと不安なのか、セーレの服の裾を握りしめ、セーレが直哉君の手を握れば少し安心そうな顔をした。


 「さてと……俺達はシトリーが帰ってくるのを待つか。光太郎、携帯はちゃんとチェックしておけよ」

 「あ、うん」


 そっか、シトリーから連絡入ってくるかもしれないしな。あっちは連絡を入れられるのかな。俺はWi-Fiつけてるから大丈夫だけど。まあいいか、いつもあいつ何とかしてくれているし。


 「パイモン、なんでシトリーを行かせたの?皆で行けばよくない?」

 「あの子供、かなり周辺の地理には詳しそうだ。シトリーは俺達の中では一番足が速く敏速だ。偵察には丁度いい」


 あー確かにあいつ、結構運動神経いいもんな。武器使わずに体術だけで戦ってるし。

 パイモン達が歩きだしたのを俺は慌ててついて行った。


 シトリーから連絡が来たのは二時間後だった。


 ***


 「あのガキ、かなりやばいところに首突っ込んでるな。流石にこれ以上は探れねえ」


 そう言って戻ってきたシトリーは眉間にしわを寄せていた。何が起こったのか聞くと、あの子供はまさかの闇市的な所にいたらしい。裏通りを抜けた先に廃墟が並んでいる区域があり、そこが闇市として使われているんだそうだ。

 まさか、大麻とかを買ってるんだろうか。


 「闇市で宝石を売りさばいてやがった。おそらく窃盗したやつ全てだ。正規の金額より大分ピンハネされてたが、それでも生活するには十分だろう」

 「ただの窃盗か。スケールの小さい事件だったな」


 パイモンはもっと面倒なことが起こっているかと思ったと拍子抜けしているようだった。俺からしたら十分だけど、パイモンからしたらスケールの小さい事件のようだ。

 でも、それならシトリーのこの違和感は何だろう。眉間にしわを寄せたままで、納得がいっていないような雰囲気だ。


 「お前の報告はそれだけか?それだけでは悪魔とは断言できない。まあ、あのガキが窃盗犯であることは確定した。面倒だが張り込むか」

 「いや、まあ、関係ねえけどよ……あのガキ、あの市場で宝石売って得た金でよ、モルヒネを大量に購入してた」


 その言葉に息が詰まった。それって大麻ってことだよな。医療用でも使えるとは聞いたことがあるけど、闇市だからそんな適正使用しているはずがないし。

 パイモンは表情を変えずに「だから?」と冷たく返す。まるであの子供の背景には興味がないとでも言いたげだ。シトリーはバツが悪そうに会話を聞いたと話を続ける。


 「姉貴に使うんだとよ。痛み止めで……あの金貯めて手術を受けさせるって言ってた。多分、骨髄移植のことだろうな」

 「それを知ってどうする」

 「どうも、しねえけどよ……なんつーか、何とも言えねえっつーかよ」


 あの子は、姉の治療費を稼ぐために窃盗を繰り返していたのか。貧民街に住んでいるくらいだ、お金に困っているのはうかがえる。姉を病院に入院させ、抗がん剤治療に骨髄移植、どうかんがえても経済的に無理だろう。


 だから、盗みをしてお金を稼いでいた……


 先ほどまで、盗んだ金で大麻を買ったり、豪遊したりと自分勝手にしていると思い込んでいた自分を殴りたい。あの子供の目的は俺達の同情を誘うには十分すぎて、悪魔をあの子から奪っていいのかという疑問すら湧いた。


 しかしパイモンは言葉に詰まったシトリーに舌打ちをして、胸ぐらを掴んだ。いきなりの乱暴な素行に慌ててセーレが止めに入るも、パイモンの低い言葉と鋭い眼光にセーレも何も言えず、直哉君を連れて背中を向けた。


 「お前が同情するのは勝手だが、その生い立ちを俺たちに話す意味はあったのか」

 「い、意味なんかねえよ。ただ、考えちまうだろ。色々と、よ」

 「だったら、お前一人で消化しろ。俺たちは悪魔を討伐しに来た。私情をまじえるのは勝手だが、ここには光太郎も直哉もいる。お前の今の発言一つで二人の意思は簡単に揺らぐ。余計な情報は与えるな。情報が増えるほど、罪悪感で動きにくくなり苦しむのはあの二人だぞ」


 パイモンの言葉に雷に打たれたような気持になった。俺と直哉君は、多分簡単に揺らぐ。あの子を説得できるかと聞かれたらできない。姉のためにお金が必要なんですと泣かれたら、悪魔を討伐するのを待ってあげたらいいんじゃないかとか甘いことを考えてしまう。


 あの子のしていることは窃盗で、悪い事なのに、被害も出ているし貧民街に住んでいる人たちも暴行を受けている。あの子が引き起こしたがために苦しんでいる人がいる。だから悪魔を討伐して事件を無くさないといけないのに、シトリーの言葉一つで同情して動けなくなってしまった。


 シトリーもパイモンの言葉にハッとして小さな声で謝罪を入れるとパイモンは乱暴にシトリーを開放し、俺に振り返った。


 「同情はするな。あの子供が引き起こした事件で実際に死傷者も出ている。生い立ちは不幸かもしれないが、それを考えると動けなくなる。悪魔を討伐することだけに集中しろ」


 まだ、契約していないかもしれない ― その言葉は出てこなかった。ニュースになっている事件だけでも数件だ。全部同一犯なら、あの子供は数回にわたって窃盗を繰り返している。それで警察に捕まらないって言うんなら余程の天才かと思ったら、直哉君と同じくらいの子供だ。

 あんな子供に警察すら捕えられない計画的犯罪が出来る訳がない、もうほとんどが決定事項だ。


 「それで、お前は悪魔に関しての情報は手に入れたのか?」

 「……二つ、宝石を身に着けていた。遠目からだから良くわからなかったが契約石とみていいと思う。おそらく二匹と契約してる」

 「そうか、アレクと言う青年を怪しんでいたんだがな……別のガキか」


 あの子は直哉君と歳が変わらなさそうな子だっただろ。あんな幼い子が悪魔と契約してたなんて予想外だ。正直、パイモンの言った通り、アレクという青年が契約していると言われた方がしっくりくるよ。


 「光太郎、来たよ」

 「え?」


 ヴォラクに声かけられ振り返った先には、噂の的である少年がいた。貧民街の入り口でたむろしている俺たちは目立つだろう。少年は足を止めてこちらを睨みつけている。その手には大きな紙袋を持って。

 しかし子どもは睨んでいたと思いきや、何かを理解し目を丸くした。一体どうしたって言うんだ?口をパクパク動かして震えだしたじゃないか。


 「ओह, शैतान……(あ、悪魔だ……)」


 子どもの言葉にパイモン達の目つきが変わる。

 子どもは袋を握りしめ走って逃げようとしたが、逃げた先にはシトリーが立っていた。


 「मुझे माफ करना. यह इतना दूर है.(わりいな。ここまでだ)」

 「क्या……(あ……)」


 子どもは震えている。顔を真っ青にして、まるで悪戯が見つかって怒られる前の子供のように。自分がこれから何をされるのか、どんな未来が待っているのかを理解しているように。

 その時、子どものポケットが不意に光り出した。二色の光が子どものポケットから透けて見える。


 「パイモン!」

 「契約石だな。奴らが来る」

 「そんな!ここ街の入り口だぞ!」

 「しょーがないな」


 ヴォラクが悪魔の姿に変わって結界を広げていく。そのお陰で少しだけ安心できた。

 直哉君はその光景を固まって見ている。もしかしたらトラウマになってるのかもしれない。悪魔が現れるこの瞬間を。

 光が子どもを包んで現れたのは赤い髪をした羽根の生えた少女と弓をもった狩人の姿をした青年だった。青年はレラジェが持っていたのと同じような大きな弓を持っている。


 『やだー見つかっちゃった。まだ足掻いてるなんてしぶとい連中ね』

 『丁度いい機会じゃないか。俺の可愛い弟子をコテンパンにのした奴がこの中にいるんじゃないのか?』


 弟子?俺達はこの男の弟子を倒したのか?


 「財宝のありかを見つける能力と攻略を授ける力……そして契約者を窃盗の道に送っていく力と加護する力。おめぇらか、バルバトス、ウォルフォーレ」


 バルバトス、ウォルフォーレ……本当に二匹と契約してたなんて……

 子どもは気まずそうにしている。そんな子供を見て女の悪魔ウォルフォーレは笑みを浮かべた。


 『大した加護は与えていないけどね。必死な彼を見て、私の力を貸してあげてもいいって思ったの。私欲にまみれた人間とはまた違う種類の人間……興味深いじゃない』

 『財宝のありかって言ってもあの程度だしな。俺の能力を使う必要はあまりないけど、攻略法は何にだって必要だろ?それに暴れ続ければお前らが来るって言うのも分かってたしな』

 「レラジェやられたのがそんなに悔しいか親馬鹿師匠。そんなんだからいつも逃げられるんだぜ」


 バルバトスは額に手を当てて困ったような顔をしている。ってかレラジェの師匠って!じゃあこいつが言ってたレラジェをコテンパンにした奴をぼこりたいって俺じゃないか!?

 そろそろとセーレの後ろに俺も避難。しかも相手は二匹、今回は俺達完全に近距離戦オンリーな奴らばっかだし、大丈夫か?

 その時黙ってた子どもが声をだした。


 「तुम क्या हस्तक्षेप करते हैं……(何で邪魔するんだよ……)」

 「え?」

 「(ずっと人の家の前をうろつきやがって……お前らなんなの?バルバトス達を殺そうとしてるの?悪魔を使って?ふざけんなよ、お前たちだって悪魔を持っているくせに、なんで俺の悪魔を狙う。俺の夢を邪魔するな!!姉ちゃんを、お前たちに奪われてたまるか!!)」


 子どもが捲し立てて怒ってくるのをセーレが俺達に訳してくれる。そしてその内容に衝撃を受けた。

 あの子は昨日歌ってた女の子の弟なのか。じゃあこの子は姉さんを助けるために……確かにインドはカースト制とかもあった事から今でも差別は無くならないって聞く。

 この子の家族も沢山働いてるんだろう。それでも金が足りないんだ。

 自分の家族が段々弱っていって、死んでしまうかもしれないのにどうする事も出来なかったら……俺でも悪魔と契約してるかもしれない。この子がやってる事は悪い事だ。だけど……どうして、この子を目の前にして何も言うことができない。


 「こんなの……悪いなんて言いきれないだろ……」

 「光太郎……」


 家族に死んでほしくない。その気持ちは痛いほど分かる。でも盗みがいけない事だって言うのも理解してる、悪魔と契約してる事だって。でも……


 「セーレ!お前の力で治せないのか?何とかできないのか?」

 「……地獄の医師なら何とかできるだろうけど、俺ができるのは最低限。表面的な傷の手当だけ。それ以上はできない」

 「そんな……」


 俺達が悪魔を返したらこの子は間違いなく姉を失うだろう。

 でも野放しにしたら宝石を盗み続ける。姉が治るまで。宝石店の店主だって家族があるし商売だ。

 何百万も赤字を出されたら生活は苦しくなっていくだろう。


 「迷うな、返すしかないだろう」

 「パイモン……」

 「何も考えるな。相手の事を考えたら先に進めなくなる」

 「でも……」

 「俺達が防ぐべきは最後の審判。奴らを野放しにする訳にはいかない」


 パイモンが悪魔の姿に変わり剣を抜く。それを確認した子どもは俺達に憎しみのこもった視線を向けた。


 「(邪魔されてたまるか……こんなとこで、いきなり現れたお前らなんかに邪魔されてたまるか……お前らに俺の気持ちなんて分からない!お前らを殺してでも俺は姉ちゃんを助ける!ウォルフォーレ!バルバトス!俺の寿命いっぱい使っても構わない!あいつらを殺せ!)」

 『(許可が出たのだから派手にやらさてもらうわ)』

 『(主の仰せのままに、主の行く先を華々しい鮮血で飾りましょう)』


 ウォルフォーレとバルバトスも構えて来る。

 俺は直哉君の手を引いて竹刀を構えた。

 考えるな、あの子も気持ちも何もかも……考えるな!考えたら駄目なんだ!


 だけど、悪魔が居なくなった後のあの子を想像すると、どうしても身体が動かない。



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