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第17話 お互いの気持ち

 「昨晩、ドイツで裸にされた女性の遺体が見つかりました。被害は拡大する見込みで、ドイツ警察も捜査に取り組んでいます。次のニュースですが、ヨルダンとシリアの内戦について、ゲリラ活動が活発化しており、反政府軍で首謀者の ―――」


 朝テレビをつけたら一番にそのニュースだった。日本でも話題になっているヨーロッパの連続殺人事件は未だに犯人につながる有力な情報が見つかっていないと報道されていた。



 17 お互いの気持ち



 「ドイツも怖いニュースがあるわね」


 母さんがトーストを皿に盛りながらため息をつく。遠い日本ではこの程度で済むが、実際にドイツに住んでいる人は気が気ではないだろう。被害に遭った女性たちに共通点はなく、無差別に殺害をしているという話だから。

 母さんと俺がニュースを真顔で見ている中、直哉はニュースよりもアニメのお年頃なのかチャンネルを変えてくれと愚図っている。母さんがそれを無視するから強硬手段に出た直哉がリモコンに手を伸ばし、それを制止する。


 「駄目だって直哉、このニュースを見てから」

 「あら?拓也がニュースを見ようだなんて、どういう風の吹きまわし?」

 「俺だってちょっとは社会情勢知ろうって思ってんだよ」

 「何一人前に言ってんの」


 俺がその首謀者を探しているなんて露にも思っていないだろう、母さんは笑いながらトーストとベーコンエッグを乗せた皿を渡してきて、バターを塗ってかじりつく。


 「兄ちゃん、ジャム塗って!」

 「え〜?甘えんなよーったく」


 直哉が皿をこちらに寄越してきたので、仕方なく直哉のトーストにバターとイチゴジャムを塗ってやる。一度甘やかしてしまうと習慣になってしまうようで、今では直哉はこうやって俺がいると頼んできて自分でやろうとしない。


 「ほい」

 「ありがとー!」


 まあ、笑顔で礼言われると可愛いから、ついつい甘やかしちゃうんだよな~五歳離れてると、どこの家庭もきっとこんなもんだろう。

 直哉は皿を受け取るとトーストにかじりつき、俺はそのままニュースを何も考えることなくただ見ていた。やっぱり悪魔、なのかな?あれだけ探したのに手がかり一つも見つかんないなんて。悪魔だとしたら随分と用心深い。マルファスのようにアピールをしてくれない。

 なんだかどうしていいか分からずため息をついた俺を目ざとく発見した母さんが声をかける。


 「朝からため息なんてついちゃって一体どうしちゃったの?」

 「学校の宿題が多いからため息しか出ないのー」

 「あんたちゃんと早めにやんなさいよ。お父さんももう手伝ってなんかくれないんだから」

 「わかってるよ」


 適当に返事をしてトーストとベーコンエッグを食べて、皿を片づけた。

 今日も一応ドイツに行くつもりだから、立ち上がって母さんに出かけるとだけ伝えた。


 「こんな朝早くから?あんた最近いっつも出かけてばっかでしょ?少しは直哉とも遊んであげなさい」

 「わかってるよ。今日帰ったら直哉と遊んでやるよ」

 「帰ったらって……あんたいつも帰るの遅いじゃない。直哉と出かけてやるくらいしなさいよ」


 何だよ今日に限って!いつもは何も言わないくせに!別に直哉から今、誘われてないじゃん!

 俺と母さんの喧嘩なんかどうでもよさそうにアニメにチャンネル変えて見てるくらいなのに!


 「俺にだって俺の付き合いがあんだよ。しょうがないじゃん」

 「弟をそっちのけで付き合いも何もありますか。いい?今日はいいけど明日はちゃんと空けておく事。分かったわね?」

 「明日?なんかあったっけ?」

 「明日はお父さんが休みだからね。家族で買い物に行くのよ」事。分かったわね?」


 うげえ~~ドライブじゃなくて買い物かよ~母さん絶対、今やってる10%オフにつられてるだけじゃん。でもこれ以上逆らうと本気でキレてくるだろう。幸い明日に関しては、何もなければドイツに調べに行こうくらいだったから、どうとでもなる。


 「わかったよ、明日は空けとく」

 「わかればよし。遅くならないようにするのよ」

 「へーい」


 俺と母さんのこの空気も読めないのか、直哉はいつもの口調で母さんに話しかける。

 

 「母さん!今日、大輝と遊んでくる!」

 「あら?そうなの。直哉も気をつけてね。十八時までには帰るのよ」

 「はーい!」


 大輝って言うのは直哉の親友で、よく家にも遊びに来る。明るく親しみやすい少年だ。俺とも面識があり、顔を合わせると元気に挨拶してくれるので、直哉はいい友達を持ったなと思う。

 直哉は気持ちいい返事を答えると、ベーコンエッグを口に含み、俺はそれを見て出かけることにした。


 ***


 「澪だ」

 『おや、澪ですか。誘わなくてよかったのですか?』

 「鞄から出るなよストラス」

 『むぐお!』


 光太郎のマンションに向かう途中、駅の前で立っている澪を見つけた。隣には橘さんの姿、そして二人組の男も一緒に。俺の声に反応して鞄から顔を出したストラスを再び押しこみながらも、澪たちを見ていると四人で何やら親しげに話していた。


 そのうちの一人が澪と距離が近いように感じて、心臓が嫌な音を立てる。見たくない物を見てしまい、自分は今からドイツに行かなくちゃいけないのに、澪と一緒にいる隣の男が羨ましくて気分が一気に落ち込んで、気づかれない様に猫背になり足早になってしまう。

 

 なんか本当にショックな時って騒ぐ気も起こんないんだな。そりゃ俺は澪の彼氏じゃない。澪が誰と付き合おうと勝手だけど、改めて俺以外の奴とこうやって遊んでるのを見るのは気分がよくない。

 顔を背け、マンションに向かおうとした。


 「あれ、池上君!」


 世の中そんなに甘くなかった。橘さんが気づいたみたいでニコニコと話しかけてきた。俺に何の反応してほしいんだよー!!気づくなよ!

 橘さん、俺はあんたを恨むよ。こんなタイミングで話しかけて……澪達もその声で気づいたのかこっちを向いて来た。

 やべ。澪と目が合った。


 「あいつ隣のクラスの……」


 男はどうやら同じ学年のようだ。そういえば澪のクラスで見たことがあるが、名前なんか知らないし話したこともない。愛想笑いをした俺を開放してくれず、橘さんはいつもの調子で相変わらずテンションが高い。


 「池上君どっか行くの?あたし達これから四人でディズニーランドに行くんだー」


 ディズニーランド……ネズミの国ですか?ていうかバリバリのデートスポットじゃん。

 それに比べて俺は……


 「俺、これから光太郎と遊ぶんだよ」

 「あ、広瀬君?仲いいよねー」


 あんた達もね。と、言いかけたのをぐっと堪え、早く会話を終わらせたくて適当に質問に答えた。

 男子達は俺と話したことのない奴だったので会話に加わろうとはせず、橘さんに早く戻って来いと言っている。でもなんかこの光景って……


 「ダブルデートみたいだな」


 ん……?今口に出た?出ちゃった?ギャ――――――――!!!

 橘さんはいいとこに気づいたとでも言うように俺に耳打ちをしてきた。


 「流石池上君!実はね、澪の右隣にいる男子いるでしょ?徳岡君って言うんだけど、あの人がね、澪のこと好きなんだって!だから今日はその口実の為に四人で遊んでんの。澪は全く気づいてないみたいでねーあたし達も付いてかなきゃ行かないって。あの子、奥手だからさー男子とあんまり話さないの!澪がペラペラ喋る男子って池上君くらいだよ!澪ってモテるのにさーガード固いからさー!池上君も澪に言ってやってよ!」


 マシンガントークで状況を説明してくれる橘さんは自分がキューピットになれるのが楽しいのか、俺の腕を掴みブンブン振り回してくる。それを見ていた澪が少し眉間にしわを寄せたが、隣にいる男子に話しかけられて視線だけをこちらに向けながらも対応している。

 そうか、あの男子は澪のこと好きなのか……まぁ澪、かわいいもんな。中学の時だって、幼馴染ってだけで何度も男子に仲を取り持ってくれって頼まれていた。確かに男女の幼馴染にしては俺達はずっと仲が良く、どこにいくにも一緒だったけど、俺の知らない交友関係だってあるんだよな。

 でも絶対俺の方があんな奴よりも澪のこと好きなのに、なのに……


 なぜか二人がお似合いに見えてしまって、俺はあいつには敵わない気がして、悔しくて仕方がない。


 その漠然とした敗北感の理由は分かってるんだ。俺は澪を傷つけたから。いや、俺のせいじゃないとしても、俺の傍にいたらまた同じような現場に遭遇するかもしれない。俺みたいな人間よりもこっちの明るい世界にいたほうがいいんだ。

 悔しい、俺だって少し前まではそっちの明るい世界にいたのに、全部この指輪のせいなのに。

 でも、澪は大切な人だから……


 「拓也?」


 いつまでも二人でいる俺と橘さんの会話が気になったのか澪が心配そうに近寄って来て、未だに俺の腕を持っている橘さんの腕をどかす。その行為に橘さんが目を丸くして、徳岡って奴は嫌そうに俺を睨みつけてきた。澪はと言うと、少しだけ不機嫌そうにしている。


 「なんだよあいつ……」

 「松本さんの幼馴染だよ。大丈夫だろ?心配ないって」


 明らかに煽るような発言に視線が移動する。目が合った瞬間、舌打ちまでされて、俺の表情も険しくなったが、俺の腕を掴んできた澪に意識が移動する。


 「広瀬君の所に行くの?」

 「あ、うん」


 それが何を意味するか澪にはわかってるはずだ。

 澪はそっか……といい顔を俯かせる。心なしか腕を掴む手の力が強くなったのを感じた。


 「あ、そろそろホームに行かなきゃ。じゃあね池上君、今度また大阪の時みたいに広瀬君と四人で遊ぼうよ!」


 橘さんはそう言って澪に行こうと言ったが、澪は俺の前から離れない。


 「澪?」

 「あたしも拓也と一緒に行く」


 その発言にその場の空気が固まる。

 なんでそんなこと言うんだよ。昨日あんなに怖がってたじゃんか。


 「駄目だって。危険だから」

 「だって、拓也……危ないよ。拓也に何かあったら嫌だよ」


 澪、そんな優しいこと言うから俺は期待しちゃうんだよ。でもさ、それ以上にもう怖がらせたくないんだ。あの時の澪の顔を今でもはっきり覚えている。血の気が引き、震えが止まらず、話すこともできず、ずっとしがみついていた。そんな目に遭うかもしれない場所に二度も連れていきたくなんかない。

 怖いのは俺一人で十分だから……


 「澪、橘さん達待ってんじゃん。遊んで来いって!マジお似合いだから!」


 澪は俺の言葉に目を丸くして、顔をあげた。


 「なに言ってんの?お似合いとか……あたし達、ただ遊ぶだけで。拓也、勘違いしてるよ。別にそんなんじゃないの、やめて勘違いしないで」

 「え、そうなの?俺はてっきりダブルデートかと思ってたよ」


 痛い痛い痛い、胸が痛い。怪我なんてしてないのにパックリ切られたように痛い。

 橘さんはナイス!という顔をしたが、澪は笑ってなかった。顔はどんどん悲しそうに歪み、今にも泣きそうな顔になる。


 「違うって言ってるのに……なんでそんなこと言うの?拓也、本当に違うよ?違うから、信じてよ……」


 澪こそ、なんでそんな悲しそうな顔するんだよ……別に悪いことなんて言ってないじゃん。ただ俺はお似合いって言っただけなのに……

 しかし澪が何度も違うと言い続け、必死になって俺を説得してくる様子に何かを察した橘さんは少しだけ居心地悪そうに咳払いして、澪の腕を掴む。


 「なんかごめんね池上君。澪!早く行こ?次の電車になったら開園に間に合わないから」

 「……ゴメン裕香。今日無理。行けない」

 「澪?」


 その言葉に橘さんだけじゃない、俺もびっくりした。


 「本当にゴメン。三人で行ってきて……」

 「でも澪がいないと!」


 確かに澪がいないと計画自体がおじゃんだもんな。橘さんも話が聞こえていた徳岡達も焦っている。特に徳岡は俺が何か言ったんじゃないかとでも言うような視線を向けてきて、こちらも苛立ってくる。なんなんだよお前偉そうに……すげームカつく。

 でも目の前の澪はイヤイヤと首を振った。


 「じゃあせめて理由教えて?ね?」

 「だって、拓也がデートって……違うって言ってるのに酷い。拓也、今から行くんでしょ?拓也が悲しい思いしちゃうかもしれない。心配だよ。拓也を一人にしたくないよ。今日、行くこと教えてくれたら、あたしだって一緒に行くのに」

 「でも広瀬君と遊ぶだけでしょ?あ……もしかして、それ嘘?ご家族に何かあったとか?だとしたらごめん、気が利かなくて。澪も心配だよね。池上くんと仲いいし」


 俺が答えないのと澪があまりにも心配するから橘さんは俺の身内に不幸があったけど、澪に心配させるまいと適当に嘘を言っているとでも勘違いしたらしく、気まずそうに視線を逸らす。流石に悪魔を探しに行くなんて思わないから仕方ないにしても、それでも話がぶっ飛んできている。

 橘さんが澪の肩を軽くたたいて徳岡たちの方に向かい、澪がいけないと伝えると、怒りを隠せない低い声が響く。


 「なんでだよ……」


 これは俺の言葉ではなく、徳岡のだ。徳岡は澪の手を掴み、怒りを露にした。


 「四人で遊ぶってのはニ週間前から決めてたことだろ!ドタキャンなんてありかよ!?」

 「ちょ、怒りすぎだって!松本さん怖がってんじゃん!それに幼馴染の家が大変って言ってただろ。仕方ねえよ。また日を改めたらいいじゃん」

 「おい、澪に何すんだよ!離せクソが!!」


 澪を掴んでいた腕を振り払い、怯えて謝っている澪を自分の後ろに移動させる。その光景が燃料になったようで、さらに怒り狂った徳岡が俺に掴みかかり、鞄の中のストラスが驚いて鞄の中で身動きをしたのを感じた。

 俺は鞄を慌てて澪に渡し、流石に暴力をふるってくるのなら、やり返さないと気が済まず、相手の腕を掴むと、徳岡の友人が慌てて止めに入り引きはがした。しかし徳岡の怒りは収まらず、周囲の目も気にせず大声をあげた。


 「お前がなんか言ったんだろ!?」

 「え、俺!?」


 俺らの会話聞こえてただろ!このクソが!!

 徳岡の友人も周囲の目が気になるのか、止めに入ったが徳岡はもう止まらなかった。


 「お前が松本さんになんか言ったんだろ?行かないでとか傍にいてくれとか!」


 あのなぁ!こっちは言いたい気持ちを我慢して背中を押したのに、なんっでテメーからそんなこと言われなきゃなんねぇんだ!!


 「やめてよ!拓也は何も言ってない!」

 「なんだよそれ……信じらんねー……こんなドタキャンありかよ!俺らよりこんな奴かよ!」


 澪の話聞いてなかった?まだ責任は俺なの?

 ていうか、こんな奴とまで言われて黙ってられるほど俺はいい人間じゃない。


 「あのなぁ……「い、いい加減にしてよ!!本当は貴方と一緒に遊びになんか行きたくなかったんだよ!でも断っても断ってもしつこく誘ってきて、怖かったの!!拓也にまで酷いことして、大っ嫌い!!」


 え、澪?

 徳岡も橘さんも徳岡の友達もポカンとしていた。普段大声を出して怒ったりなどしない澪が顔を真っ赤にして泣きそうになりながら怒っている。


 「謝ってよ!拓也に謝って!!本当に最悪!!拓也にデートって勘違いされたじゃない!謝ってよ!!」

 「っくそ!やめだやめだ!やってらんねーよ!!」


 流石に好きな女の子にここまで拒絶されて、言いあうメンタルはないだろう。俺も少し同情してしまった。徳岡は気分を損ねたのかその場から離れて歩き出した。勿論しっかり俺を睨んできて。

 どうやら徳岡の中で俺は澪を狙う嫌な奴ってインプットされたみたいだ。それ以前にお前めっちゃ嫌われてるぞ。

 友達も軽く頭を下げて徳岡の後を付いていき、その場に澪と橘さんだけが残された。橘さんが心配そうに澪に話しかける。その瞬間、全てが決壊したのかブワッという表現がふさわしいほど破顔して泣き出した澪は橘さんに抱き着いた。


 「ごめんね裕香、あたしのせいで……ごめんね!」

 「いや、こっちこそごめん。澪が困ってるの相談されてたけど、徳岡からも相談されてて、間もとうとしちゃった。本当にごめん。池上君、大変な時期だったんだね。元気出してね」


 ……やっぱり身内に不幸があったって思われている。


 「気を付けてね。こっちは心配しなくていいから。お礼はパフェでいいよ」

 「……うん、ありがと。パフェなんかじゃ足りないよ」

 「それ以上はたからないよ。あ、池上君~なんか、澪って池上君のこと大好きだね~」


 その言葉に俺も澪も一気に顔を赤くして、返事ができず、そんな俺達を橘さんは笑い、手を振って去っていった。

 俺と澪はその場に二人で残され、澪は気まずそうに俺を見上げてきた。


 「拓也、迷惑だったならごめんね。でも本当に心配なの。あたしも一緒に行きたい」

 「うん、わかってる。でもまた怖いの見るかもしれないんだぞ?」

 「怖いときは半分こ、嬉しい時も半分こ。これ小さいときの拓也が、あたしに言ってくれてた言葉。拓也が怖いの半分こしてあげる。拓也が少しでも安心してくれたら、それだけで嬉しい」


 神様、これは自惚れてもいいんですか?澪の中で俺はかなり高い位置にいるって考えてもいいんですか?

 とてつもなく幸せで、嬉しくなり、一緒に光太郎のマンションへ向かった。澪は大事そうにストラスが入った鞄を抱きしめて、隙間から頭をなでている。澪も大分ストラスに慣れているようだ。

 歩きながら、徳岡たちのことを放す。


 「さっきの奴、澪のこと好きなんだって。橘さんが言ってた」

 「裕香が拓也に言ってたことってそれだったんだ……でもなんとなく気づいてた」

 「え!?」


 気づいてたのに許可したのか!?


 「遊びに行こう行こうってしつこいんだもん。絶対OKするまで言ってくるだろうから、それなら裕香達も一緒に行った方が安心じゃん。結構本気で怖かったの。本当は行きたくなかったし」

 「確かに……そうかもしんねえけど」

 「でも拓也は反対してくれると思ってたんだけどなー……悲しかったなー行って来いって言われて」


 そんな!俺にそんなこと言う権利なんてないのに!言えるもんなら俺だって言いたかったよ!あぁ言いたかったさ!でも付き合ってもないし、そんなこと言える立場なんかじゃないし。


 「俺が言ったら行かなかったのかよ」


 逆に攻めてやる。俺はそう思い、澪を見て言ってやった。

 案の定、澪はポカンとした顔をしてこっちを見ていた。


 「多分行かなかったかな」


 今度はこっちが面くらった。澪は顔を赤くして、照れ隠しの癖で髪の毛を手でくるくる巻いている。


 「優先順位って言ったら酷い奴だけど、拓也がさ……そいつと遊ばなくていい、俺がその日一緒に居てやるって言ってくれたら、あたし絶対、拓也の方行っちゃうかも。あはは、すごい現金な奴だ」


 その言葉ははっきりと聞こえ、俺が反応する前に恥ずかしさがピークに達した澪は俺を追い越して早足で歩いていく。


 「早くいこ!暑いしクーラーにあたりたーい!」


 澪、それって!やばい、さっきまでとは違う痛みが心臓に来てる。ドキドキがやばいくらい鳴ってるし、夏のせいじゃないのに顔も真っ赤だ。俺は慌てて澪の隣に追いつく。まだ顔赤かったからあんまり見られたくなかったけど、澪の顔も同じくらい真っ赤だった。


 どうしよう幸せかも……


 まだ付き合うとかそんなことじゃないけど、それでも澪の中で俺が大切っていうのがわかっただけでこんなに嬉しくてたまらないなんて末期だよもう。

 でもこのままじゃなんか悔しいから、俺も澪に呟いてやった。


 「じゃあ言えばよかった。ディズニーなんて、あいつとじゃなくて……俺と行ってくれたらよかったのに」


 そしたら澪はさらに顔を真っ赤にして俺を見上げてきた。やばい、その顔反則!俺までつられて赤くなる。言った後に恥ずかしくなって、思わず言い訳をしてしまった。


 「ほら、橘さんも光太郎と四人で。って言ってたし!今度四人で行かない?」

 「……四人もいいけど、あの、まずは、二人で行かない?ほ、ほら、広瀬君あんまり待つの好きじゃなさそうだし、裕香もせっかちだし、あの、上手く言えない!!拓也、あたし、ディズニー行きたいの!だから、この事件終わったら、あ、あたしと二人でディズニー、いこ!その後に、広瀬君と裕香入れて四人で!絶対に楽しいと思うから!行きたい!夏休みの間に、絶対に!」

 「う、うん!行こう!パレード見たいし、俺もレジャーランド好きだから!」

 「あの、拓也が絶叫系がいいなら富士急でもいいから!お化け屋敷は嫌だけど、あとは頑張るから!」


 あまりにもお互いが動揺している会話に鞄の中のストラスが噴き出したのが聞こえる。しかしそれに反応する余裕はない。澪の言葉がどうしようもなく嬉しかった。

 澪と一緒に行きたい。その後は光太郎達と四人で。ああやばい!俺今すげえ幸せだ!!


 夏のせいじゃないのに真っ赤になった顔。でも嫌じゃなくて心地よくて、嬉しくて幸せで胸がいっぱいだった。


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