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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
169/207

第169話 天使の歌

今回の話にインドの公用語であるヒンディー語が出てきますが、パソコンからでしか見れないようです。

ケータイから読んでくださっている方には「.(日本語訳)」と言う形でしか見れません。

外国の雰囲気だすためにやってるだけなので見れなくても支障は全くないので、そのまま読んでくださったら嬉しいです。

 「は?嘘だろ」

 「嘘をつくはずがないだろう。悪魔の情報が見つかった。早速討伐しに行くぞ光太郎」


 学校の夏期講習が終わってマンションに行ってみれば何やら皆難しい顔をしており、話に割り込んで聞いた言葉が信じられず、俺は耳を疑った。



 169 天使の歌



 「何だ光太郎、何か不満か?」


 パイモンは至極不思議そうに首をかしげている。

 パイモンがそんな動作をするって珍しい。でもやっぱこうやって見たらパイモンってマジで女だよな。可愛いよなぁ……ってそうじゃない。何か不満って不満があるに決まってるだろ。

 悪魔を倒しに行くってどうするんだよ。拓也もいないのにどうやって倒すって言うんだよ。

 拓也と中谷探しはどうした。中谷はまだ見つかってないんだぞ。先にやる事があるんじゃないのか?


 「何で今悪魔を倒す必要があるんだよ。中谷はどうするんだ?拓也だってまだ助けられてないのに!」

 「中谷は未だに情報がまだない。第一ヴォラクが探しても見つけられないんだ。仕方がないだろう」

 「だからって……」

 「中谷探しはマンションに残っているヴアルとストラスで何とかさせる。今回はヴォラクも連れていくからな」


 ヴォラクも連れていくって……ヴォラクはそんなのより中谷を探したいに決まってるじゃないか。拓也たちを探すのが第一優先事項だろう。

 案の定、ソワソワしているヴォラクはパイモンに食ってかかった。


 「行かないって言ってんだろ!それより中谷だ!」

 「何度も言っただろう。今回は戦う人数が多い方がいいと」

 「そんなの知るか!」

 「それにお前の契約石のエネルギーがどこまで届くかも見極めたい。今この場所にエネルギーが届いているが、それがどこまで持つか。契約石にエネルギーが届かなくなった地点で、どこからどこまでに中谷が居るかの目星がつくだろう」


 天界に連れていかれていたら、それも意味がなさそうだけど……パイモンに言いくるめられてヴォラクは黙ってしまい、そんなヴォラクの頭をシトリーがポンポン叩いて適当にあやしている。

 まぁ確かにパイモンの言ったことも気になるけど、でもそれ以上に気になる事がある。


 「パイモン、お前ら今は直哉君と契約してるだろ。まさか直哉君まで巻き込む気か?」

 「……今回の場所はインドだ。必然的に直哉は連れていく事になる」


 何でそんな淡々と言えるんだ!拓也をそれで地獄に連れていかれて、中谷も行方不明になったて言うのに、その事がまだ解決してもないのに直哉君を連れていくなんて!

 直哉君にまで被害が出たらどう責任取るつもりだ!ただでさえ直哉君は指輪の継承者じゃない。

 パイモン達が大怪我を負えば直哉君の寿命が削られていくって言うのに!


 「パイモン!直哉君まで巻き込んでどう言うつもりだ!」

 「ヴアルとストラスの契約石のエネルギーをもっと増幅させなければ俺達を地獄に送ることはできない。まだ待つ必要がある。それに中谷の行方も澪の事も正直手詰まり、今俺達にできる事は審判の始まりを遅らせる事だけ。その為には悪魔を地獄に戻す以外はない」

 「なら光君に頼めば……今日も来るんだろ!?」

 「光は地獄に突入する要員だ。今回の件で怪我をさせては元も子もない。直哉は直接戦う事はない。俺達で守れば大丈夫だ」


 パイモンは本当に口が達者だと思う。それを言われたらこっちは何も言い返せなくなってしまう。でも大丈夫なんて簡単に言ってほしくない、大丈夫じゃなかったから拓也は地獄に連れていかれてしまったのに。

 でもパイモンに直哉君の安否なんて事を口にしても、きっとうまく言いくるめられてしまうだろう。


 「……またフォカロルが襲ってきたらどうすんだよ」

 「それは恐らくないだろうな。フォカロルはルシファー様の命によって主を襲撃した。為す術の無くなった俺達にあいつは興味すら持たないだろう」


 確かにそうかもしれないけど……でもあんな状態の直哉君を巻き込むなんて。パイモンが言うにはストラスとセーレが今直哉君を迎えに行ってるんだそうだ。拓也のおばさんはなんて思うだろう。

 自分の息子をあんな目に遭わせた奴らが、今度はもう一人の息子を巻き込もうとしている。

 当然反対するに決まってるじゃないか。

 頼むからここにこないでくれ。そう祈るしかなかった。


 でもその願いは簡単に打ち砕かれた。

 直哉君はストラスとセーレに連れられてきた。その表情は硬いままで、マンションにあがった直哉君は緊張した面持ちでジッとその場に立っている。セーレが座るように促すと、直哉君は何も言わずにストンと腰かけた。


 「お帰りストラス、セーレ」

 「大変だったよ。当然と言ったら仕方ないが、拓也の母親に怒鳴られたよ。連れていかせないって」

 「良く説得が出来たな」

 「……直哉君が行きたがったんだ」


 その言葉にビックリした。

 パイモンもこの展開は予想してなかったんだろう、少し驚いた表情を浮かべている。

 直哉君はストラスを抱きしめて、ゆっくりと顔を上げた。その目は凛としている。


 「俺は見てみたい。兄ちゃんが今まで何をしてたのか。悪魔が何で人を襲うのか、契約した人の気持ち。全部知りたい」

 『直哉……』

 「……もう守られてるだけは嫌なんだ」


 直哉君は罪悪感を感じてる。

 それは自分がかつて悪魔と契約したから?それとも戦ってる拓也を知りながらも、自分が普段通り過ごしてきたから?

 そんな事は関係ない。直哉君が危険な目に遭う必要なんてない。


 「直哉君、無理しなくていいんだって。悪魔と戦うなんて怖いだろ?」

 「……怖くたってあんた達は俺を連れてくんじゃないか」


 直哉君の核心をついた言葉に俺だけじゃない、ストラス達も顔を歪めた。悪魔と戦うなら契約者は側に居なければいけない。直哉君をここに残していけないのだから、俺の言った言葉は気休めにもならないんだろう。


 『悪魔は私達が何とかします。直哉、貴方はただ私達が行動する為に側にいていただければ……』


 直哉君は頑なにその後は口を閉ざし、返事をすることはなく、そんな直哉君にパイモンは溜め息をつく。


 「分かれば話は早い。早速行くぞ」

 「パイモン!」

 「……心配しなくても直哉に危害は加えさせない。二度も同じ失敗をするつもりはない」


 最後のパイモンは小声だけど、今まで以上に決意が固まっている感じだった。

 そして話が一段落したのか、パソコンの画面を見せてくる。その画面の中には日本語に訳された文章が載っていた。


 「インドで宝石泥棒……三百万相当の貴金属が盗まれる。これって……」

 「どうやら連続の犯行の様だ。宝石と言っても大量にではなく、小さい物をちまちまと盗んでいくらしい。日本の方が物価が高いから三百万と書かれているが、インドならばしばらく裕福な生活が送れる大金だ」

 「犯人はまだ捕まってないんだよな?当然」

 「ああ、なぜか監視カメラにも捉えられていないようだし、小さな宝石店ばかりを狙う様だから、そこまでセキュリティーも厳重ではないらしい。しかし興味深い。調べてみる価値はあると思う」


 宝石泥棒か……悪い事する奴もいたもんだ。まぁだから悪魔と契約するんだろうけどな。

 しかも宝石泥棒とか、ガチの犯罪者だ。連続犯行なら手馴れているはずだし、ナイフとか振り回されたらどうしよう。


 「時差は-三時間半。今までのに比べたら行きやすい。言語はヒンディー語か……」


 パイモンはパソコンをパタンと閉めた。そのままベランダに出てしまったパイモンの後をしぶしぶヴォラクが追いかけていくき、その光景を息を飲んでみていた直哉君も重い足取りでゆっくりとベランダに向かう。

 最後まで何も言えなかった俺の頭をシトリーが叩いてきた。


 「心配すんなよ。お前らは俺が守ってやるよ。こう見えても盾にくらいは使えるぜ」


 明るく笑うシトリーの声に反応して振り返った直哉君の顔は未だに不安そうだ。俺だって怖いんだ、まだ幼いうえに初めての直哉君が怖くない訳がない。

 シトリーは直哉君をジッと見て、笑みを作った。


 「きっと辛いものを見る事になる。けどよ、拓也はそれを何回も経験してたんだ。あいつが帰ってきたら、今以上にあいつを支えてやれ」

 「……俺が兄ちゃんの役に立てるの?」

 「きっと立てるさ。お前があいつの側にいるだけで救われんだよ。家族っつーのはそんなもんだ」


 シトリーの言葉に直哉君は小さく頷いて見せた。


 ***


 インドにはすぐに到着し、東京都はまた違う人ごみに方向感覚すら見失ってしまいそうだ。目的地は分かっているのかパイモンはさっさと歩いていってしまい、慌てて追いかけた先は宝石泥棒が入った店だった。

 パトカーが何台も止まり、店主が警察に色々泣きながら話している。それをパイモン達は集中して話を聞きとっていく。この喧騒の中、上手く聴き取れんのか?


 「……あまり聞こえないが、この店は近くに貧民たちが住む地域に面してるそうだ」

 「貧民?」


 直哉君には難しい言葉だったらしく、首をかしげている。

 あまりこんな事を説明したくないが、俺は一応直哉君の質問に答えた。


 「貧しい暮らしをおくってる人達だよ。インドはお金持ちな人と貧しい人の差が凄く大きいんだ」

 

 直哉君は少し複雑そうな顔をして店を眺め、そんな直哉君の手を握っていたセーレが心配そうに眺めていた。


 「店主は貧民街の人間の仕業だと言っているようだな。元々貧民街の人間と地元の人間は衝突や窃盗が絶えなかったようだ。どうやら貧民街に何かありそうだな……行ってみるか。治安が悪いらしいから直哉をしっかり見ておけよ。行くぞ」


 パイモンとシトリー、ヴォラクが先頭に立って歩き出す。貧民街とか……あんま行きたくないんだけどしょうがないな。直哉君に見せたくないものを見せるかもしれない。


 貧民街は想像してた通りの場所だった。今までの場所とはうって変わり、今にも壊れだしそうな建物、布などを屋根代わりにしている質素な家、道端で眠っている人、ガリガリに痩せている子どもたちだった。子供も大人も明らかに現地の人間ではない自分達に遠慮のない視線を送ってきて、スラング語らしき言葉も浴びせてくる。


 その光景に直哉君は息を飲み、セーレにしがみつき一歩一歩足を進める。貧民街には事件を嗅ぎつけているのか、警察の人間もちらほら調査に来ており、至る所で怒声が響いていた。


 警察の目を掻い潜って貧民街を歩いて行くと、綺麗な音楽が聞こえてきた。透き通った様な、綺麗な声が。それがどこから聞こえてくるのかは分からないけど、誰かが歌ってるのは分かった。


 そしてその時、直哉君と同い年くらいの子どもが俺達の横を通り過ぎた。

 子どもは走って近くの家の中に入っていく。


 「……誰かに事件の事を聞いてみましょうか。このままでは埒が明かない」


 パイモンは適当にさっき子供が入っていった家の薄い壁をこんこんと叩いた。その時に歌がピタリと聞こえなくなった辺り、あの家の誰かが歌ってたようだ。

 出てきたのは一人の青年の姿。俺達と同い年か、少し年上くらいの男。パイモンが何かを話しかけていて、男は少し不審そうにしながらも首を振ったり、どこかを指さしたりジェスチャーしている。


 「貧民が犯人だと言われたらどうしようもない。ここは生活に困ってる奴らばかりだから決めつけられたら皆が当てはまってしまう」


 セーレがそう呟いて、青年をジッと見ている。


 「セーレ?」

 「そう話してるよ、あの子。でもあの子はここの住人じゃないみたいだね。服装も綺麗な格好してるしね」


 確かに、ここの住んでる人達とは服が少し違う。ちゃんとしたまともな服に身を包んでる。まさかあいつが犯人か?

 セーレも怪しく思ってるのか、青年とパイモンの会話に耳を傾けている。


 「あの子はアレクって名前らしい。父親が小さい病院だけど医者なんだそうだ。この家にいる理由は仲のいい子がいるから遊びに来てるらしいね」

 「仲のいい子?さっき歌ってた子か?」

 「あぁ、光太郎も気づいてた?声質からして若い子だろうから多分その子だろうね。さっき直哉君と同じくらいの年の子があの家に入って行ったけど、弟かな?」


 そう言えば入っていったな。

 パイモンは青年との話を終えて頭を下げてこっちに向かってきた。


 「パイモン?」

 「あの家には白血病の少女がいるそうだ。だがここは貧民街。保険も払っていない人間が白血病治療になると膨大な金がかかるはずだ」

 「それって……」

 「……あの青年は怪しいな。アレクか……見張っておく必要があるだろう」


 確かに疑う余地はありありだ。少しアレクって奴を監視しとかなきゃならないだろうな。

 パイモンが俺達の元に向かって来て少し時間が経った後、またあの家から歌が聞こえた。


 「綺麗な歌だね」

 「この家の娘は歌が上手いと近所でも評判だそうだ。何でも彼女の歌は天使の歌と言われているらしい」

 「天使の歌、ねぇ……こんな綺麗な声してるんだ。さぞかし美人なんだろうなぁ。マジ面拝みてぇ」

 「貴様馬鹿か。貴様にはグレモリー様がいるだろう」

 「また振られちゃうよシトリー」


 パイモンとセーレに諌められてシトリーはうぐっと息を飲んだ。どうやらグレモリーって単語には弱いみたいだ。

 直哉君はジッとさきほどの家を眺めている。

 白血病の女の子。白血病がどんな病気か、小六の直哉君は何となく聞いたことがあるけど良く分からない病気だろう。でも、自分の兄と同じくらいの年齢かもしれない少女が病気にかかっていると言う事実が未だに現実味が湧かないのかもしれない。

 そして家からまた直哉君と同い年くらいの子どもが出てきた。その子は走ってどこかに向かおうとしてたが、パイモンを見て目を細めた。


 「और मेरे घर के सामने हमेशा के लिए रह!(人の家の前にいつまでも居座ってんじゃねーよ!)बेवकूफ!(クソヤロー!)」


 男の子は何かを大声で叫び、そのまま走り去ってしまった。

 何を言ったのか分からない俺は茫然としてたが、パイモンとシトリーがらはゴゴゴ……と言う効果音。


 「あの子供……目上の者に対する礼儀が余りにもなっていない」

 「同感だ。これは一丁鍛える必要があるな」


 セーレが落ち着くように話してるけど、二人の機嫌は悪くなる一方だ。

 そんな中、ヴォラクは心ここに非ずな顔をしてる。直哉君が心配そうに顔を覗き込んだら、少し悲しそうにぽつりと呟いた。


 「まだ契約石にエネルギーを感じる」

 「え?嘘……」


 だってパイモンが前言ってたよな。契約石にエネルギーが届くには距離が離れすぎたら駄目だって。

 エネルギーが届く範囲は本州内が限度だろうって。

 東京でエネルギーが届いてたのに、インドでも届くのは距離的にも明らかに可笑しい。どう言う事なんだ?


 「マジどこにいんだよ……」


 ヴォラクの切なそうな声はポツリと寂しく響いた。


 ***


 ?side -


 「कैसे आज हालत है?(今日の具合は?)」

 「यह ठीक है.कल से मेरा मूड आज.(平気だよ。今日は昨日よりだいぶいいの)」

 「अच्छा.(そっか)」

  「Licht है……तुम कहाँ चले गए?(リヒトは……どこに行っちゃったのかな?)」

「मुझे नहीं मालूम.(さぁ)」


 本当は分かってる。リヒトが家にいない間なにをしてるかって事は。

 母さんも分かってる。アレクが言葉を濁すのは理由を知ってるからだ。


 「वैसे भी दवाई खरीदते हैं.(また薬が買えたんだってね)क्यों?(どうして?)」

 「लेकिन यह है क्योंकि मैं स्कूल धन उगाहने में हूँ.(が、学校で募金してるからだろ)मैं कहूँगा कि यह भी पैसे बचा लिया.(貯まっていってんじゃねぇ?)」


 本当の事を教えてくれない。

 でも自分で何となく気づいてる。その理由を。だから怖い。


 「कृपया गाओ.(なぁ歌えよ)मैं अपने गाने पसंद है.(お前の歌、俺は好きだ)」

 「एलेक अनुरोध के जवाब में गाते हैं.(……じゃあアレクのリクエストに応えて)」


 だって歌う事でしか私が人並みに出来る事なんてないんだから。



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