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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
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第167話 救世主は現れない

 ベルゼバブの言葉で静まり返った室内。

 信じられないカミングアウトにバルマとデイビスも目を見開いている。それは勿論俺も同じだ。俺とサマエルが兄弟?こいつはそういったのか?ベルゼバブの静かな笑い声が響く中、サマエルだけがベルゼバブを睨みつけるだけだった。



167 救世主は現れない



 必死で知恵の無い頭を絞り出す。俺とこいつが兄弟?そんなことはあり得ない。サマエルはずっと前から悪魔なんだろ?俺とは何の面識も無い。俺の兄弟は直哉だけだ。落ちつけ、俺には弟しかいない、直哉しかいないんだ!今更兄弟とかそんなのを信じられる訳ないだろ。しかも相手は悪魔だぞ!?


 震えを落ち着かせる為に手にギュッと力を入れ、ベルゼバブの次の言葉を黙って待つ。それしか今のこの状況を解決させる術は無い。ベルゼバブはサマエルに自分の口で言わなくていいのか?と促しているが、サマエルは何も語らない。ただ唇を噛んでベルゼバブを睨みつけていただけだった。


 『数万年ぶりの兄弟水入らずだが、それは全部終わった後でやってくれよ』

 「い、意味わかんねえよ。俺の兄貴とか……俺には弟しかいない!俺の兄弟は直哉だけだ!悪魔の兄弟なんているはず無い!」

 『まあ、お前は面識ないだろうさ。両親二人とも人間だしな。ただ、お前そんなに簡単な存在じゃねえのよ』


 俺は人間だ、それは何があっても変わらない。父さんも母さんも悪魔なんかじゃないし、どうやったって悪魔との兄弟なんて説成り立たないだろ。でも事態はそんな簡単じゃないらしい。父さんと母さんに何か秘密がある?

 足元がぐらぐらと崩れていくような気がした。自分のあたりまえだと思っていた常識が崩れていくような、そんな感覚がした。

 黙って何も言えない俺にサマエルは自分の片目を隠している眼帯に手を触れる。一体なんでこのタイミングで……そう思った矢先、眼帯を外して隠していた目をその場に晒した。


 『こ、こりゃあ……』

 『天使の目、ですわね』


 デイビスとバルマが驚愕してる。それもそうだろう。サマエルは両方の目が違う。色だけじゃない、色だけならオッドアイで片づけられるけど目が違うんだ。上手く説明できない。でもサマエルが眼帯で隠していた目は違った。

 バルマが天使の目って言ってた。でもサマエル自体は悪魔のはずだ。じゃあこいつは天使と悪魔のハーフ?でも俺はサタナエルのエネルギーのせいで悪魔になりかけてるって言われた。父さんと母さんも人間だ。訳が分からない。

 サマエルはこちらをじっと見つめ、ポツリと話しだした。


 『……心配しなくても直接の兄弟じゃない。俺とお前は言わば異母兄弟だ』

 「だから何で!俺の家族は皆人間だ!そんな訳無いだろ!」

 『天使ソフィア……お前の始祖だ』


 は……ソフィア?天使?すごくない?俺は天使の子どもだった?そんな馬鹿な話がある訳がない。想像もつかないことをあっさりと言われ、納得できるわけもなく呆然としてしまい反応すらできない。大体それなら俺の父さんか母さんのどっちかが天使って事になってしまう。そんなはずない、父さんと母さんのどっちかが天使とか、そんなことあり得るはずがない。


 『天使ソフィアは天使で唯一悪魔を産んだ女。その罰を償い人間界に落とされた。しかし悪魔と身体を交わらせていたソフィアは悪魔のエネルギーと天使のエネルギーをその身に宿す特殊な体になった。人間の世界で一人の男と恋に落ちたソフィアは自らの命をかけて自分の子どもを人間にする魔法をかけている。その末裔がお前だ』

 「なんだよそれ……じゃあ父さんと母さんは?直哉は?」

 『お前の片親がソフィアの子孫だ。父親か母親か……どちらかは知らない。だがお前は特別だ』


 俺の何が特別って言うんだ。こいつの言うことが本当なら、俺の家族の誰かが天使の血をずっと受け継いできたってことだよな。俺だけが特別なわけじゃない。


 『ソフィア千代目の子孫、お前の代からソフィアの魔法は切れる。千代と言う長い年月の果てに天使と悪魔の血は薄くなりすぎて人間として生きていくのに何の問題も無くなる。ソフィアはそれを見越して千代まで魔法で守る事にした。いや、強力な魔法だった為、その代までしか、かけられなかったのが正しい。だがお前は天使に選ばれて指輪を継承させられた。そして指輪のエネルギーに触れ、お前の天使と悪魔の血が人間の血を飲みこんでいっている』


 必死で色々考える。今の状況、俺の状態。そして目の前のサマエル。

 分からない何も。ただ今考える事は……


 「それだと……直哉も俺と同じ、ソフィアの魔法が切れてるってのか?」

 『そうだ。それはお前が指輪を継承した時点で確認済みだ。だがお前の弟はまだ幼い、天使に指輪を継承させるには不適格だと判断されたんだろう』


 そんな……そんな事って。膝をついた俺をベルゼバブとサマエルは黙って見つめている。

 でも良かった、巻き込まれたのが俺で。直哉じゃなくて。それだけが救いだった。これが直哉だったらきっと俺は耐えられなかったはずだ。

 歯を食いしばって俯いた俺にベルゼバブは笑うのを止めて、こちらをジッと見つめていた。その表情は前髪に隠れていて目が見えない事から理解が出来ない。でもベルゼバブは淡々と現実を突きつけた。


 『その指輪はサタナエルのエネルギー、天使のエネルギーが混じってる。普通の人間が継承できるはずがない。だから天使どもは今まで数十人もの人間に指輪を試した。だが全て上手く行かなかった。有名な聖職者、エクソシスト、巫女、魔術師、僧侶、呪術師……だがサタナエルと七大天使のエネルギーだ。耐性を持っていたとしても強大すぎて耐えられなかった。そこで天使はお前に目をつけた。悪魔と天使のエネルギーと血を直接受け継いでおり、なお且つソフィアの魔法が切れる千代目であるお前に。お前が産まれた時から天使はずっとお前に目をつけていた』


 ……前言われた事があった。指輪が偶然俺を選んだって。何が偶然だ、何が縁だ。最初から決められてたんじゃないか。俺は生まれた時から指輪の継承者として目をつけられてたんじゃないか。何も知らないふりをしていた天使達に憎しみがつもっていく。ウリエルも絶対に知ってたはずだ。知っててしらばっくれてたんだ。悪魔を倒し続けろ?天使に信用されてない?そりゃそうだろうな。俺をただ利用したかっただけなんだもんな。人間じゃない俺だったら利用してもいいって思ったんだろ。悪魔の血が入ってるんだから丁度いいって思ってたんだろ。ふざけんなよ!


 でも、確かソロモンの悪魔も言っていた気がする。ストックがいるって。何のことか分からなかったけど、俺と条件が同じ……悪魔と天使のハーフが一人だけ、地獄にもいるってことだったんだな。


 「サマエル、だからあんたが元々は俺の役目だって……」

 『……俺はソフィアと悪魔の子どもだ。悪魔である父は母親を犯して俺を孕ませた。そいつを殺してサマエルの名は俺が引き継いだ。俺なら指輪に耐えられる可能性がある、ルシファー様にそう言われていた。要はお前のストックだ。本当に、こんなことになる前に指輪を手に入れることができたらよかったのに』


 サマエルの表情には後悔しか宿しておらず、本気で悔しがっているのが分かる。名前も姿も知らなかった悪魔が自分の兄弟と言われて一方的に好意を持たれていて、どうしていいかわからない。


 『お前には人間として生きてほしかった。母さんの忘れ形見だったから……審判でもお前の家族は俺が守ってやるつもりだった。それなのに……こんな状況になってしまったからにはお前は逃げられない。悪魔の側として審判に尽くしてもらうしかない。でも忘れないでくれ。お前の味方がここにいるということを』


 結局俺は悪魔の側として審判に参加しろって事なのか。でもここに俺の味方がいる。信じたくないけど、悪魔に身内がいる。血の繋がった奴がいる事に酷く安心した。それが自分が人間じゃないと言う事を認めたとしても。


 真実が知りたい、全ての真実が。俺は何者なのか、ソフィアはなんなのか?なぜ審判が起こらなければならないのか。天使と悪魔は意図して審判を起こそうとしてるのか。その真実が知りたい。そしてサタナエルが審判にどう関わるのか。分からない事がたくさんある。知りたい事がたくさんある。もしサマエルの話が本当なら俺はソフィアに会いたい。

ソフィアはもう死んでるけど、天国に行けば手掛かりがきっとあるはずだ。俺はそれが知りたい。


 真実を教えてくれる人は誰もいない。目の前の悪魔しか全ては知らない、でもこの目で確かめたいんだ。俺の始祖ソフィア、どんな奴だったのかを知りたい。きっとそれは審判に繋がると思うから。それと同時に俺は人間じゃない事をしらしめられた。ぐうの音も出ない。もう人間として生きるのは無理なのかもしれない。堪えようの無い悲しみとやり場の無い怒りが交錯する。でも誰も助けてなんてくれない。



 救世主は現れない。



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