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Ring Of Solomon〜from the under world〜  作者: *amin*
第4部(最終章)
160/207

第160話 話題の的は

 光太郎side ―


 「欠席は池上と中谷か……」


 担任が出席簿を記載して呟いた言葉に教室は沈黙に包まれた。

 拓也がいなくなって一週間以上が経過した。夏休みの補講も始まってしまって、拓也は体調を崩していると連絡していたため問題はなかったが、中谷がいないと言う事で学校は騒ぎになっていた。



 160 話題の的は



 「まだ見つかんねえのかな……自分から失踪するようなタイプでもねえのに」


 後ろの席である藤森がポツリと呟く。視線の先は中谷で教室中央部分に元々席のあった中谷の不在はなんだか妙な焦燥感を教室にもたらした。


 フォカロルに敗北してから色々大変だった。拓也達の家族に拓也の事を伝えた時、当然ながら皆が泣き叫んだ。拓也のおじさんはパイモンやセーレ、シトリーの顔を殴ってきたし、おばさんはその場に泣き崩れてしまった。悲痛な叫びに何も言うことができずに堪えていたものも切れ、自分も泣いてしまい落ち着かせる者がいない現場は混沌としていた。


 ただ直哉君だけは未だに信じられないのかぼんやりと俺達を眺めていたのを覚えている。しかし突然の兄弟との別れを信じられず、その目は曇っており表情は固かった。そんな直哉君に契約の話を持ち出したストラスに当然おじさんは激怒した。


 「今度は直哉まで……お前たちは、どれだけ家を壊していけば気が済むんだ!!」


 普段温厚なおじさんの怒鳴り声に委縮してしまい一歩後ろに引いてしまった俺と松本さんをヴアルが庇うように手を繋いでくれた。ストラスに伸ばした手をパイモンが払い落し、怒りの矛先はパイモンに向かう。


 「……悪魔と敵対するということ ― こういった不測の事態も何も考えずに主との契約を許していたわけではないだろう。お前の怒りはもっともだが、契約を知っていて見逃していたそちらが主の身の安全を語るのか」


 パイモンのあまりにも挑発するような言い方におじさんの表情はどんどん歪んでいく。殺してやる ― 目がそう訴えているのが俺にでもわかった。守れなかったことが悔しいとパイモンは言っていたのに淡々と表情を崩さないパイモンの心の内側は本当は何を思っているのか、俺には分からない。

 ただ、追い打ちをかけるような言葉を放ったことに関しては流石に良くなかったと思ったのか、謝罪を入れた。

 勿論そんなもので満足するはずのない拓也のおじさんは握りこぶしを作り大きく振り上げた。パイモンは何もせず黙って受け入れており、見かねたシトリーがフォローに入ろうとした瞬間、意外な人物の介入で事態は収束に向かった。


 「いいよ。ストラス、契約してやる」


 黙っていた直哉君のハッキリとした返答に室内は静まり返った。

 それに驚いたのは俺達だけじゃない、おじさんとおばさんもで。二人は何度も何度も止めていた。でも直哉君はストラス達をじっと見つめて、再びハッキリと肯定の言葉を放った。


 「俺は兄ちゃんの代わりでいいんだよな」


 その言葉にストラスは何も言えず、ただ顔を俯かせるしかなかった。

 直哉君の言葉は思った以上に棘を含んでおり、また思った以上にはっきりと物事を理解していたみたいだ。小六だったらもっと泣くのかと思ったけど、何だかこのあいだの直哉君は違った。逆に俺がバカにし過ぎていたのかもしれない。小六にもなったら意外に立派に物事を判断できるようになっているのだろう。

 契約石を受け取った直哉君は顔がはれたパイモン達をじっと見つめていた。


 「兄ちゃんの代わりになるよ。そうしないといけないのなら」


 直哉君は確認するようにそう言って、契約石を眺めている。何でこんなに冷静でいるんだろうか?とてもじゃないが、自分の家族がもう二度と戻ってこれないかもしれない状況なのに、おじさんやおばさんより落ち着いてる。おばさんが泣きながら直哉君を抱きしめて、ただただ泣き続ける。

 そんなおばさんに直哉君ははっきりと告げた。


 「大丈夫だよ。兄ちゃんは絶対に帰ってくる」


 時間が経ってあの時のことを考えると、直哉君は無理して強がっていたんだろうと思う。おじさんとおばさんが取り乱して泣き崩れたのを見て、自分は泣いちゃ駄目だって思ったんだろうか。悲しいのを我慢して、おばさんを励ました直哉君はすごく立派だ。口で言うのは容易いけど、実際実行するとなると別だ。

 

 直哉君はその後もずっと泣く事はなかった。


 ただただ拓也は帰ってくる。そう言い続けていた。おばさん達は学校には拓也は具合が悪いから行けませんと連絡をしたらしい。そのお陰で拓也は風邪をこじらせてると言う事になってる。


 問題は中谷の方だった。


 結局中谷も見つからず、中谷の事で困った俺達はシトリーの言う通り、中谷の家族には真相を話さなかった。そのせいで中谷は今、警察までもが捜索中だ。下手したらマンションにまで来られるかもしれない。


 一応、中谷はマンションの事、シトリー達の事を家族に全く話してなかったから、今のところは何もないみたいだけど。


 でもその事件は学校まですぐに広まり、最近では全校集会がしょっちゅうだ。拓也と中谷二人がいなくなって、俺だけが学校に来てる。その光景は自分からしたらかなり不自然だ。


 この事を知った上野達クラスメイトは必死にできる限り中谷を探すと言い行動を開始した。何度も出ない番号に連絡したり、PTAの人達に手伝ってもらいチラシ配ったり、勿論俺も参加したけど、こんな事をしても二人が帰ってこないのを知ってる。


 この行動は何の意味もないことも分かっている。


 松本さんもあれ以来元気がなく、しばらく家に引きこもっていたそうだ。ヴアルが言ってたから間違いないだろう。学校には来てるみたいだけど、すれ違っても以前のように明るく挨拶はしてくれない。


 松本さんにとっては思い出したくもない過去なのかもしれない。


 担任が出ていって、教室が静寂に包まれる。拓也達の事件以来、騒がしかった教室は活気を失くしてしまっていた。でも俺は正直今が夏休みでよかったと思ってる。ヴォラクの契約石には未だにエネルギーが来ているらしい。もしかしたら夏休み中に中谷が戻ってくるかもしれない。補講は休んでも欠席扱いにはならないから、留年の心配もない。


 それに補講が終わったら俺も学校がない日はできる限り中谷を探しに行くつもりだ。


 親父たちには悪いけど、毎年受ける塾の夏期講習を今年は受けない事にした。最初は怒鳴ってきた親父だったけど、中谷を探すと言えば何も言わなくなった。まあそこで「くだらない事するな」とか言われたら俺はきっとブチぎれただろうけどね。


 拓也は俺がどうこう出来る問題じゃないけど、中谷だけは絶対に……


 ストラス達は一生懸命、拓也を戻す方法を探している。それなら地獄に向かいたいと言った俺に全員が一斉に駄目だしをしてきた。でも手っ取り早く拓也を探すには地獄に行くのが一番だ。フォカロル達が拓也を地獄に送れたのなら、パイモン達も地獄に行く事が出来るんじゃないか!?


 聞いてみると地獄に行くことは可能なようだ。


 でも実際は難しいらしい。


 魂を地獄に送るだけでも大量のエネルギーを使うらしく、人間そのものを送るとなると膨大なエネルギーが必要らしい。パイモン達は悪魔と常に戦ったりして、契約石のエネルギーの残量が少ない今の状態ではできないと言っていた。


 よくわかんねえけど、そんな大それたことをよくフォカロルはやってのけたと俺は言いたいね。でもパイモン達はエネルギーがたまれば自分たちが地獄に突入する事を辞さないと言っていたし、なんだかとんでもない事になりそうだ。


 とりあえず、俺に出来る事は何もないことだけは分かった。悔しいけど。

 

 俺はただ松本さんや直哉君が言ってた「拓也はきっと帰ってくる」それを信じるしかない。


 時間を見つけてストラスは松本さんについても色々調べだしてる。ストラスはあの時、松本さんが言っていた“あの子”の存在が気になっているみたいだ。グレモリーが言っていた、松本さんを命がけで守ろうとした奴……聞いてる限りじゃ拓也が悪魔になった時の仮定が一番しっくりくるけど、ストラス達は多分違うと言っている。


 でも松本さんを守ろうとする悪魔って拓也の事じゃないのか?拓也の事を悪魔だなんて思いたくないけど、それが一番説得力のある仮定じゃないか?

 

 何にせよ、情報が乏しい。とにかく今は授業を真面目に受けるしかやる事は残ってないみたいだ。


 ***


 「あれ?」


 補講が終わり、マンションの玄関を開けた俺を出迎えてくれる人がいないことに素っ頓狂な声が出た。いつも誰かしらが迎えてくれるのに。部屋の中にはセーレとヴォラクがいない。中谷を探しに行ってるのかもしれない。

 それに加えて今はシトリーとヴアルとストラスもいない。あいつら一体何してるんだろう。

 しかし普段はいない人物が部屋の中央に置かれているソファにいることに目が丸くなった。そこにはなぜか光君が待機していて、お茶をすすっていた。こちらに気づいた光君は俺を見つけるなり詰め寄ってきた。


 「話きいたぜ光一!拓也が連れてかれたんやっち?」

 「……俺は光太郎だよ。話は聞いたんだ」


 肯定すれば光君の目つきが険しくなる。


 「あいつ……審判絶対に止めるっち豪語しちょったんに、何連れてかれちょんのや」

 「フォカロルは強すぎだったよ。ってか何でいんだ?」

 「セーレが俺ん所に来たんよ。まぁ忙しいから猫の手も借りたいっち奴?お陰で補講さぼっちまったし。まーた不真面目な光っちレッテル貼られるわ」


 一応進学校なんだけどね!そう言いつつも光君は笑っておりこちらを責めるような様子はなく、早速拓也を探しに行こうと豪語している。

 そんな光君にパイモンが釘を刺した。


 「万が一の時に、フォラスの力が必要になる。光、暫くこっちに通ってもらう事になるが構わないか?」

 「送迎があるんならな。できる限りは来てやるよ。つかどうやって拓也とか中谷君?を探すんや。地獄とかもう異世界やん」

 「主の場合は俺達が直接地獄に向かうしかないだろうな。今やるべきは中谷だ。契約石にエネルギーが届いている事から生きてるのだろう。一刻も早く探さなければ」

 「契約石っちエネルギー辿れるんやなかった?」

 「なぜだか今回それができないらしい。だから見つからないんだ」

 「マジか……」


 光君が溜め息をついたのを見て、パイモンは今度はフォラスに問いかけた。

 フォラスを出してくれと頼めば、すぐにフォラスは表に出てきた。


 「久しぶりだなパイモン、って感動の再会してる余裕はねーがよ」

 「その通りだ。フォラス、お前にもいくつか協力してもらいたい事がある」

 「地獄の強行突破に俺も来いってか?」

 「そうだ。契約石のエネルギーが溜まり次第な。俺達全員が地獄に行くとなるとかなりの時間は大人しくしなければならないがな」

 「誰を媒体にする」


 なんだか難しい会話をしているのは分かる。しかし地獄への強行突破という単語に反応してしまい、背筋が一瞬震えた。拓也を連れ戻しに俺達で地獄に行くんだろうか。なんでだろう、それを望んでいたのに現実味を帯びると恐怖と不安が襲い掛かってくる。悪魔どもの巣窟に殴り込み。足引っ張らずにやれるのかな俺。

 そんな俺の心配をよそにパイモンとフォラスは着実に話を進めていく。


 「ヴアルとストラスに頼む。あいつ達は俺達より比較的戦闘回数も少なく傷を負うことも少なかった。契約石のエネルギーは一番溜まってるだろうし、二人とも魔術に関しては俺よりも優れている」

 「なるほど、俺は戦力として連れていきたい訳か。いや、蘇生役か」

 「分かってるなら話は早い。お前は確か剣と肉弾戦を戦えたな。十分だ」

 「……光と継承者の約束を果たす為だ仕方ない。だが肉体が光の物だ。危険な事は絶対にしないし、もしもの時はお前ら見捨ててでも逃げる。それが条件でいいのなら。それ以上の譲歩はしない」

 「契約者を最優先するのは当然だ。協力感謝する」


 話がついたパイモンはこっちに向き直る。地獄に突入する……拓也を、助けに行ける。どんな場所か想像もつかないけど、でも方法はきっとそれしかないんだろう。


 「賢いお前なら、なんとなくわかっただろうが、主の救出に向かうことを視野に入れている。だが心配するな。お前も一緒に来いとは言わない」


 え、俺は行かないのか?

 顔に出ていたんだろう。パイモンは首を横に振った。


 「人間のお前を地獄に連れていくほど非情ではない。お前には俺達を人間の世界に再召喚する手引きをここでしてもらいたい。俺達が地獄から人間界に戻る時、契約者と契約石があれば簡易召喚でいけるからな。シトリーも地獄に連れていくから、お前と直哉の力が必要だ」

 「俺の力?」

 「詳しい事は時期が近くなった時に説明する。その時は絶対に契約石を身につけとくんだぞ」


 話が一気に飛び過ぎて物凄い事になっている。とにかくもうすぐパイモン達は地獄に向かって直接拓也を救出しに向かうそうだ。それまでは拓也よりも中谷を優先的に探すらしい。


 「……いつ地獄に行くんだ?」

 「ストラスとヴアルの体調次第だが……契約石のエネルギーが俺達を地獄に送る程度まで溜まるには絶対安静で力を使わずして二週間以上。再来週辺りに向かう予定だ。送ってしまえば後は大丈夫だ。地獄では契約石など使わなくとも俺達は行動できるからな。だが俺達が地獄から人間界に帰ってくる時はお前と直哉の力が必要だ。こちらで人間の世界にゲートを繋ぐ魔法陣を作る。その時に契約石に反応が行くはずだ」


 そう言えば中谷を探しに行くのにヴアルとストラスは絶対について行かなかった。ずっと何でだろうと思ってたけど、契約石のエネルギーを消費しない為だったんだな。それにしても再来週……それまでに拓也は生きてるんだろうか?怒涛の展開に早くも頭はパニック寸前だ。

 俺がやるべき事はパイモン達がこっちに戻る手伝いを直哉君とやる事。あとは……


 「松本さんはどうすんの?」

 「澪は動かない方がいい。ストラスが嫌な予感がすると言っていた」


 グレモリーの嫌な予言みたいなやつね。


 「澪は過去に悪魔に憑かれていると先祖に言われたそうだな。ストラス達と調べたり、澪に話を聞いていたが、澪はどうやらイギリス人の血を引いてるようだ」

 「え!?松本さんってハーフなのか!?」


 言われてみれば松本さんって染めてないのに髪の毛茶色いよな!

 肌も白いし、全体的に色素は薄い気がする。でもハーフとかそこまででは全くなさそうだったけど。


 「ハーフなのは澪の祖父だ。とにかく澪とは遠い血縁者だ。イギリス人の血は薄くなってるだろう。そこは問題じゃないが、澪の曽祖父について調べてみたが、澪に悪魔が憑いていると予言した老人は魔術結社に所属していたそうだ」

 「魔術結社?」


 聞き慣れない名前に首をかしげる俺にパイモンは説明をしてくれた。


 「黒魔術を専門に扱う宗教みたいなものだ。その老人はその中で更にファウストに強い関心を持っていたそうだ」

 「ファウスト?」

 「七つの大罪が一角、サタンの部下である“メフィストフェレス”と契約した人間だ。最後はメフィストフェレスに魂を食われたんだがな」

 「そんな奴を何で……」

 「さあな、くだらない理由だろう。だが悪魔に憑かれると言う話は分かった気がするよ。下手に悪魔に取りいる人間は必ず報復に遭う。自分が見返りを渡したくない代わりに自分の子孫に被らせると言うケースは珍しくはないさ。人間はその契約条件をよく出してくるからな。自分に被害が来なければいいのさ。しかし戦争の最中に出会った日本人女性と恋に落ち、日本に亡命したらしい。その時に魔術結社とも縁を切っている」

 「そんで今の松本さんのじいさんになる訳か……」

 「そんな所だ。ここまで調べるのは苦労した。一週間つぎ込んだからな」


 一週間でそこまで調べられるのがすごいよ。休みなしで色々調べてたんだろう。

 中谷の行方、松本さんの事。そして拓也の事。それと同時に俺以外の皆が特殊な人間のように思えてくる。シトリーが言ってた。中谷は天使の兵として召集される魂だったんじゃないかって。松本さんも悪魔と何かしらの関わりがあって、拓也だって……

 震えた俺の肩を光君が叩く。


 「ま、拓也は任せちょけ。フォラスがちゃちゃっと連れ戻してやるけんな」

 「……頼りにしてるよ」


 きっとこれから目まぐるしいほどの展開を迎えるんだろうな。拓也の事、中谷の事、松本さんの事……俺は皆の為に何ができるんだろう。もっともっと頑張って強くなるしかないのかな。だとしたら稽古をつけてもらうしかない。でもパイモンは忙しそうだし、シトリーいないし……


 「フォラス、剣使えんだよな。稽古つけてくれないか?」

 「俺?」


 急に名前を呼ばれたフォラスが振り返る。

 頷くと首をかしげた。


 「何で俺?」

 「消去法で」


 フォラスは知らないが、パイモンは意味が分かったようだ。

 黙って空間を広げてくれた。


 『無理はするなよ』

 「うん」


 俺に出来る事をやるしかないんだ。

 きっとそれはいい結末に向かうはずだから。


 また皆で笑い合えるような……


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