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第153話 海の帝王

 空気が重い。それもそうだ、あの子を救えなかったんだから。


 それと同時に信じられなかった。あんなに笑ってた子が、あんな酷い事件を起こして平気だったなんて……


 悪魔と契約してる人間を見てると思う。自分がいかに幸せで恵まれているかを。だってそうじゃないか、契約者の人たちは皆悲しい過去を背負ってて、シャネルのように親に捨てられたり、信二のように他人に傷を負わせられたり、クラウディオさんのように家族を殺されたり、アリスのように虐待を受けたりなんかしなかった。


 そんな事、一度も経験した事がなかった。



 153 海の帝王



 ジェダイトに跨って家に帰る。何だか疲れてしまった。少しゆっくり飛行したいと愚図った中谷の意見が聞き入れられ、ヴォラクがフォモスとディモスを召喚し、中谷やヴアル、光太郎はそっちに乗ってぼんやりと海を眺めている。ブラジルは寒かったけど、今の場所はブラジルよりも日本に近い場所らしく寒くはないらしい。雲の上を走っていては日差しが強いので雲の下、少し海面に近い位置を走ってる。もう少ししたらマンションに帰りつくだろう。そしたらまた新しい悪魔を見つけて戦って傷ついて……嫌になる。


 少し顔を伏せてモンモンと考えていると突然強い風が吹いた。


 『なんだ?』


 セーレが不審そうに呟く。

 そうだ、ジェダイトに乗ってる間は飛行の障害になるもの全てをかき消す能力があったはずだ。それなのに何でこんなに風を感じるんだ?こんな事今までなかったはずだ。


 『みぃつけた』


 その言葉が聞こえたと同時に、海水がまるで蛇のようにうねり、俺達に襲いかかった。


 「うわ!」

 『拓也!掴まれ!』


 セーレに言われるがまま必死でしがみつく。ジェダイトはセーレの命令通りに狙ってくる海水を必死で避けている。

 何だ?何が起こってるんだ!?


 『まさか……』

 「そのまさかの様だ」


 ストラスが顔を青ざめさせ、パイモンの緊張した声が脳内に偉くクリアに響く。それと同時に俺も何かを感づいた。海を操る。ストラス達がこんなにも警戒する……それはきっとあいつだ。どうして、よりにもよってこんな戦意喪失しているときに!

 ガタガタ震える手でセーレにしがみついて海を見つめ続ければ、海の中から翼を持った少年が現れた。


 『遂に貴方が手を下しに来ましたか。フォカロル』


 やっぱり……こいつがフォカロル!

 フォカロルは不愉快そうに鼻を鳴らし、海の様な青い目で真っ直ぐ俺をとらえている。見た目は俺と大して歳も変わらなさそうな少年。こんな少年がフォカロルなのか。


 『ザガン、レラジェ、アンドラス……随分といたぶってくれたじゃねえの。罰を受ける覚悟はあるんだろうな』

 『神様気取りかよ。ばっかじゃねえの』


 ヴォラクが煽るように言い返し、その後ろにいる中谷と光太郎が身を固まらせた。フォカロルの後ろには高さが数十メートルはあるだろう。今まで見た事もないような巨大な津波ができている。

 すると急にシトリーがジェダイトから飛び降りて悪魔の姿に変わる。


 『澪チャン、光太郎、中谷!俺ニ乗レ!』


 訳が分からない。そう言う光太郎にシトリーはいいから乗れと促す。恐る恐るジェダイトからシトリーの背中に澪と光太郎が乗る。その光景をフォカロルは邪魔せずただ黙って見ており、その顔には薄い笑みが張り付いている。

 まあ、向こうが攻撃してこないのなら好都合だ。


 『中谷、オ前モダ』

 『中谷は必要ない。俺が守るから』

 『ヴォラク、オ前ハ今カラ戦ウダロ。中谷ニハ無理ダ』

 『平気だっつってんだろ。うるさいな。それにお前の体格じゃ二人が精いっぱいだろ。それでどうやって攻撃をよける気なんだよ』

 『……痛イトコ突イテクンジャネエノ』


 中谷も動く気がないらしくディモスにしがみついている。それを確認したシトリーはどうなっても知らねえぞと言って、中谷を乗せるのを諦めた。しかしパイモンがジェダイトからフォモスとディモスに飛び移った。


 「パイモン!?」

 『セーレは主を守るだけ動いてもらいます。私がいれば必然的に攻撃に回る為に、フォカロルに接近しなければなりませんから』


 どうやらフォモスとディモスに攻撃陣全てを集めるようだ。シトリーは光太郎と澪が攻撃に巻き込まれないようにしようとしたらしい。だけど光太郎と澪はジェダイトに乗ってたんだから、問題ない気もするんだけど。

 セーレに問いかけると、すぐに答えは返ってきた。


 『フォカロルは君を狙うだろ。人数が多ければジェダイトの疲労も多くなるし、危険も大きくなるからね』


 なるほどね。俺は的って訳だ。それなら納得、したくないけどね。

 理解したらしたで怖くなる。でもセーレがやってくれるよな?そう信じてる。俺達の移動を見てたフォカロルは笑みを深くする。


 『まあ人間振り落とさないように頑張れよ。落としたらこうだぜ』


 フォカロルが手にしたものは血まみれの肉の塊だった。肉の塊から血がポタポタと海に落ちていく。

 何の肉かわからなくて首をかしげると、フォカロルは少し優しい目つきでそれを眺めている。


 『ここまでなれば分かんねえだろ?こいつな、俺の契約者』

 「け、契約者?」

 『生きてた頃の面影はなぁんもないけどな』


 肉の塊を見てクツクツ笑った後にそれを海に落とすと、すぐさま何かが食らいついた。それは間違いなく体長が数メートルをゆうに超すであろう巨大なサメだった。しかも一匹だけじゃない。数匹はいるだろう。フォカロルは海洋生物も操るんだろうか?でもそうではなかったようだ。


 『どうやら君はフォルネウスも連れて来てるようだね』

 『俺の水上戦での相棒だからな。何があったかは知らねえが、ヴェパールは来てくれなかったんでね。どうしてかは何となくわかるけどな』


 背筋に寒気が走った。こいつはどこまで知っている?いや、そんなことよりもセーレの言葉に別の悪魔も来てるんだと言う事を理解した。じゃあそいつがサメ達を操ってるんだろうか?

 海面は恐ろしい事になっており、こんなとこに落ちたら一瞬で食われてしまうだろう。


 『拓也、あれです。あれが悪魔フォルネウスです』


 ストラスの視線の先には特にでかいサメが海面でこっちを凝視している。目は赤く、身体は他のサメと違い、いかにも堅そうで光沢がかかっていた。あれがフォルネウス……


 じゃあ俺達は海の悪魔に囲まれちゃったって事か。風が段々酷くなり、雲行きは怪しくなっていき雨が降り出した。これもフォカロルの力なんだろうか?雨は次第に強くなり、暴風が俺達を襲う。セーレにつかまってなきゃ落とされそうだ!


 『気をつけなさい拓也。フォカロルは水と風を自在に操ります。今からこの場は台風の様な風が吹き荒れ、雨が身体を打ちつける事になりましょう』


 そんな中で更にあんな水を思うように操るフォカロルを相手にしろと?しかも海には巨大なサメ達が待ち構えてる。最悪の状況じゃないか……

 その時、空が一瞬眩しく光り、凄まじい音が響き渡った。音にびっくりしてしまった俺をセーレが支えてジェダイトを走らせる。目に見えた真っ白な光が視界を覆い尽くした。


 『きしし!外れちゃったしー』

 「な……っ!」


 フルフル!何でこんな所に!

 フルフルは雷の形をかたどったロッドをクルクル回しながら残念そうに呟く。もうマジで何がどうなってんだよ!海の中は巨大なサメがウヨウヨいるし、雷落ちてくるし!フォカロルが操る暴風と大雨、更にフルフルの雷も相まって、凄まじい事になっている。

 何だこの状況は。


 『……最悪だな』


 パイモンがそう呟いたのが聞こえ、ますますヤバいという感覚が俺を覆った。

 フルフルはフォカロルの側に近寄っていく。


 『おめーおせえよ』

 『きしし。でも間に合っただろ?つべこべ言うなっつーの。楽しみだねぇ……なぁフォルネウス』

 『ヤレヤレ、私ノ出番等ナインジャナイカイ?』


 フォカロル達は軽い会話を交わした後、俺達に向き直った。でもこんな暴風の中、目を開けるのも厳しい。こんなんでどうやって戦えって言うんだよ!

 打ちつける雨は痛く、体温を奪っていく。


 「松本さん大丈夫か?」

 「寒いけど大丈夫……」


 光太郎が自分のダウンを澪にかぶせる。

 そのせいで薄着になった光太郎は寒そうだ。


 「広瀬君!広瀬君が風邪ひいちゃう!」

 「気にしなくていいって。俺こう見えても風邪引かない方だから」


 冗談交じりで光太郎は笑うが、その場の空気が和む事はない。ピリピリした空気が覆い、全員がこれからの事態を予測する。無事に帰れるだろうか?ただでさえ空中戦が戦えるのはヴォラクしかいないのに。相手はあのフォカロル、しかもフルフルもいるしフォルネウスって奴もいる。アンドラスが言ってた、フォカロルは強いって。それはストラスも言ってたんだ。間違いないだろう。逃げるにも三匹も悪魔がいたら成功しなさそうだ。この状況はどうすればいいんだよ!

 フォカロルが手をかざし、フルフルもロッドを俺達に向ける。下では大量のサメを引き連れるフォルネウス。


 『水圧に潰されろ』

 『きししし、骨の髄まで痺れさせてやるよ』

 『ヤレヤレ……不味ソウナ食事ナコトダ』


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