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第140話 王子様の到来

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 少女マンガのような展開に憧れてた。いつか王子様が来てくれるんだと信じて疑わなかった。他人に声を大にして言うことではないのは分かっていたけれど、心のどこかで憧れは燻ったまま気づけば大学生になっていた。

 そして今か今かと待ちわびていた白馬の王子様は人間じゃなくて悪魔だった。



 140 王子様の到来



 「あーあ……彼氏いない歴生まれてからずっとの優菜にも遂に彼氏が出来ちゃったかー」

 「しかも優奈の彼氏ちょーイケメンじゃなかった!?」


 友達がその事を話しているのをあたしは少し気まずそうに肩をすくめて聞いていた。会話に加わったらボロが出そうなので、ジュースを飲んで口を開かないようにする。でも恋バナをする時の女子の威力は恐ろしく、あたしの前には目を輝かせて話をするように催促する友人二人の姿。敢えて視線を逸らしてあたしはまたジュースのストローを口に入れた。


 「勿体ぶっちゃってーこのこの」


 つついて来る友人を軽く受け流して、これからどうしようかと考える。事の発端は友人の一人がWデートをしたいと言い出したのが発端だった。あたし以外の二人にはちゃんと彼氏がいる。でもお互いの予定が合わなくてWデートをするはずができなくなったらしい。そんでその子があたしにからかい半分で「優菜とできたらなー」と言ったのを聞いて、半ばやけくそになったあたしは……


 「今、いい感じの子がいるからすぐに出来るよ!」


 そう見栄を張ってしまったお陰でこの状況に至る。そしてWデートの日、何とか男の人を連れていくと友人はその人に本気で惚れこんでしまったという訳。決して浮気じゃない、ただのおっかけみたいに格好いいと言い続けている。そんな話を聞いたらもう一人の子も見たいと言い出してあたしは今窮地に追い込まれていた。


 「あたし帰るね!」


 食べ終わった親子丼を学食に返していそいそと立ち上がったあたしに友人は小さく首をかしげた。


 「あんた午後の講義は?」

 「今日は出欠とらない日だもーん」


 逃げるように立ち去れば、後ろからは逃げられた……との声が聞こえた。

 はぁ……本当にこれから先どうしよう。いつまでもこの生活ができるとは思えない。なんとか、この間に本物の彼氏を作らないといけない。


 大学からアパートに帰る途中、コンビニに立ち寄って少女漫画を呼んでいた。この歳になっても少女マンガのような展開にあこがれ続けるあたしはすこし可笑しいのかもしれない。でもできるものならこんな恋愛をしてみたいと思うのは女として生まれたのなら当たり前!王子様に一途に思われて、ライバルの女の子がいても王子様が守ってくれて……いい!いい!!


 「うわ……オタク全開」


 この声は……

 振り向くと、そこにはあたしを見下ろしている男の姿。なんでここにいるの?そう聞きたかったけど、家から一番近いコンビニがここだからしょうがない。だからせめてもの抵抗に足を踏んづけてやる。


 「いってえ!」

 「いきなり後ろからくんな!馬鹿カイム!」

 「てめえ……だからってこれはねえだろこれは!」

 「うっさい黙れ!」


 この見た目は王子様だけど性格に難ありのこの男は人間じゃなくて悪魔という存在らしい。別にあたしは変な宗教に入ってる訳じゃない、でも本当に悪魔が存在してるのだ。その証拠にこいつの本当の姿を見たときはびっくりしたし、驚きもした。しかも馴れ馴れしく「死んじゃうから契約してくんない?ちなみに俺イケメンだし」なんて言うもんだから初めてのあたしは悲鳴をあげて騒いでしまった。


 でも数時間考えに考えて悪魔と言う存在を認められるようになったら、こいつと契約してもいいと思えるようになってきた。


 だってその時に友達とのWデートを持ちかけられてたから。


 生憎今まで彼氏いない歴を現役更新中のあたしは男友達も多くない。しかも大学内の人に彼氏のフリをしてなんて言える訳もなく、どうしようかと悩んでいた所で悪魔の登場と来た。しかもイケメン。これは行くしかないだろう!なんて非現実なことを考え、軽い気持ちで契約してしまった。でも……


 「優奈、ポッキー食いたいんだけど」

 「あれはここのコンビニには売ってないよ。向こうのコンビニの方だし」

 「マジかよ!ああ俺のポッキー……」


 全然悪魔の風格なんて漂わない。本当の彼氏の様にあたしの家に居座ってダラダラと過ごしている。でもあたしはこの同棲のような生活が何気にお気に入りだったりする。最初こそは焦ってたけど、慣れてみれば帰ったら誰かが居てくれるのは嬉しいものだ。それに一緒に買い物するのもすごく楽しい。こいつのお陰で久しぶりに自炊も始めた。あたしは目の前で項垂れているカイムの腕を掴む。


 「向こうのコンビニ行く?付いてってあげてもいいけど」

 「マジで?じゃあ付いてって下さい」


 頭を下げてお願いしたカイムを見て軽く笑う。そんなあたしを見てカイムも軽く笑い、腕を掴んでいたあたしの手を振りほどき、その手を握りしめた。傍から見れば恋人同士のようだ。それに少なからずあたしは喜びを感じていた。彼氏いない歴を絶賛更新中のあたしには縁がなかったものだったから。手を握ってくれる存在なんて。


 「ニヤニヤすんなよ。きしょい」

 「失礼なっ!あんたに言われたくない!」


 大声で言い返せばカイムは笑う。

 ああ、このままカイムがあたしの側に居てくれればいいのに。


 ***


 拓也side ―


 「ついに入っちまった七月に……」


 どうしよう、遂に七月に入ってしまった。アンドラスは七月中に喧嘩を売ってくるって言ってた。その七月に。七月は期末もあるし、夏休み前なのにアンドラスのせいで毎日パイモンにしごかれるし、テスト勉強も全くできてないし、俺の夏休みの計画がグジャグジャになってしまっている。


 頭を抱える俺の横では、これまた落ち着かない様子のストラス。何でお前がそわそわすんだよ。それは俺の十八番だろうが。


 「止めろよ。お前がそわそわすっと俺まで更に伝染すんだろ」

 『そう申されましても……七月中に一方的に勝負を仕掛けられると宣言されてはこちらも落ち着かずにいられましょうか』

 「いいし……とりあえず今月は四六時中パイモンの腰ぎんちゃくになってやる」

 『しかしアンドラスは一対一で勝負をしようと申してきたのでしょう?』

 「そんなの無理に決まってんじゃん!俺に勝率何%あるってんだよ!お前確率で計算してみろよ!」

 『貴方が体内に天使を再び入れ込めば勝機があるのでは?』


 確かにそれもそうだ。あんまりやりたくないけど……この際お願いしてみようかな?

 俺はいつもの通り、ウリエルに必死で話しかけてみる。最近話してないし出てくれるかな?ずっとウリエルに頭の中で話しかけてもウリエルは中々返事をしてくれない。そしてそのまま十分くらい経過し、もういい加減にしろと理不尽に切れかけた時に指輪が薄く光った。


 「ウリエ……『てめえ何度も言ってんだろうが!雑音飛ばすんじゃねぇ!!』


 なぜいきなり怒られなきゃなんないんだ。

 しかもその言い方だと……


 「おい。お前シカトぶっこいてたろ。ぜってーそうだろ」


 墓穴を掘ったとでも言うように反応しなくなったウリエルにピキピキ顔が引きつってしまう。

 こんな一大事によくもまぁシカトしてくれるもんだ。


 「お前ってマジ何?ちょー気分屋?都合いい時はそっちから勝手に話しかけてくるくせに、何で俺が話しかけたら出ねえんだよ」

 『うるせえなぁ、こっちも今忙しいんだ。とてもお前の面倒見てる暇ねえの』

 「お前が面倒見てくれなきゃ俺はどう悪魔とやりあえって言うんだよ!たった数カ月で悪魔自力で倒せるようになる訳ねぇだろ!!」

 『お前が弱すぎんだよ。死ぬ気で稽古したらもっと強くなるはずだろうが』

 「うるせえ。こっちはお前と違って高校生としても責務も果たさなきゃなんねぇんだよ」

 『けっ格好いい言葉でまとめやがって。結局はちちくせぇ生活したいだけじゃねぇか』


 そうだよ!それの何が悪い!!

 お互いに喧嘩腰になってしまった俺達を仲裁するようにストラスが間に割って入った。


 『ウリエル、今回は拓也の護衛を貴方がしてもらわなければ困ります。今月中にアンドラスが拓也に勝負を仕掛けてくるでしょう。アンドラスはルシファー様に直接の命を受けています』


 急に黙り込んだウリエルに俺も文句を言う事が出来なくなる。そう言えばウリエルは知ってるんだろうか。何で俺がここまで狙われてる理由を。


 「ウリエル、何で悪魔は俺を地獄に連れてきたいんだ?指輪だけが欲しいなら俺ごとじゃなくても……」

 『知らねえよ。お前を戦力にしたいんだろうさ』

 「それだけ?」

 『だから知らねえんだって。とりあえず今月中は言われた通り、しっかり監視しておいてやるから安心しろ。アンドラスが喧嘩吹っかけてきたらすぐに俺に切り替えろ』

 「あ、うん」


 言いたい事だけ言ってウリエルは通信(?)を切ってしまった。でもまあいいや、保険はゲットした。これで少しは安心する事が出来た。立ち上がった俺を見て、ストラスが首をかしげる。


 『どこにいるのです?』

 「稽古行く。やっぱ少しは俺自身強くなんねえと」

 『大変良い心掛けです。私も参りましょう』


 ストラスが肩に乗ってきたのを確認して、稽古をつけるべくマンションに向かった。


 ***


 光太郎side ―


 「しっかし……お前よくそんな訳のわかんねえ公式覚えきれるなぁ。俺はなんかの呪文かと思ったぞ」


 シトリーが参考書をマジマジと読みながらため息をつく。所々難しい漢字があるのか、つっかえながら読むシトリーからしたら目を通すのも一苦労そうだ。そんなシトリーに苦笑いしながら、読んでいた英単語帳にしおりを挟んで閉じた。


 今俺達は近くのファミレスに居る。理由は簡単だ、シトリーから飯を食おうと言う連絡が入ったから。


 シトリーは時々こうやって俺に連絡を寄こしてくる。日にち等は気まぐれだが。


 バイトしてるシトリーが大抵は奢ってくれるので、いつもお言葉に甘えて付いて行く。今日も奢ってくれるらしく、金がないから安いのにしようとぼやいた俺に奢ってやるから好きなもん食えと言ってくれた。


 シトリーの面倒見の良さに感謝だ。学校帰りで時刻もまだ夕方の十七時だったので、俺はもう少し腹が減るまで少し勉強しようと思って今に至る。


 「お前さーそんな訳のわかんねえもんして疲れねえ?」


 退屈そうに肘をつきながらパラパラと塾のテキストをめくっていくシトリーに苦笑い。確かにシトリーからしたら不思議だろうな、地獄では強制で勉強なんてなさそうだから。知らないけど。


 「疲れるよ、でもこの世界は勉強しなきゃ生活できないんだよ」

 「お前十分頭いいって。こんな呪文理解できんだから」

 「まだまだだよ。成績下がったら親父に怒られるし、勉強時間だって足りないよ」


 その言葉は嘘じゃない、悪魔を返したりしてると他の奴よりも勉強時間は遥かに削られる。

 それでも拓也みたいに強制じゃない分マシなんだろうけど……けど三年になったら致命的なハンデになるだろう。そうならない為にも早めに常に取りかかってなければ。どうしてもそう思ってしまう。そんな俺の頭をシトリーが身を乗り出してポンポン叩く。


 「……何?」

 「いや、偉いなーって思ってよ」

 「お前俺を何歳だと思ってんだよ」

 「いやいや、お前こそ俺を何歳だと思ってんだよ。俺はお前が赤ん坊のように見えて可愛くてしょうがねえよ」


 こいつ完全に馬鹿にしてやがる。確かに数千歳も年とってりゃ俺なんて赤ん坊同然だろうけど。だけど高校生にもなって勉強偉いねーみたいに頭を撫でられるのは釈然としない。何だか集中も切れてしまい、俺は背伸びをして息を吐きだした。


 「そろそろ飯食いたいなー」

 「やっとか。数十分の放置プレイの果てに」

 「何だよ嫌な言い方すんなよ。俺がドSみてえじゃねえかよー」


 少しむくれてメニューを開けば美味しそうな写真がいっぱい載っており、思わず目移りしてしまいそうなそれに目が輝いた。シトリーもよりどりみどりなメニューの中から選ぶのは中々できずにいるっぽい。


 「光太郎。お前何系食う?」

 「え?ハンバーグ系」

 「俺チーズハンバーグとペッパーハンバーグで迷ってんだけど」


 そこまで言えば何が言いたいのかわかった。奢ってもらう身だし、ここはシトリーに合わせてあげましょう。


 「じゃあ俺がチーズ頼むからシトリーがペッパーな。半分くれよ。俺のも半分やるから」

 「そうこなくちゃ!」

 「ケーキとコーンスープも頼んでいい?あとセットメニューで」

 「おー。ケーキは後からの方がいいんじゃね?」

 「そのつもり」


 一通り頼む物を決めたら店員を呼ぶために呼び出しボタンを押す。


 すぐに来た店員に俺は自分とシトリーの分を一つ一つ告げていった。店員も去っていき、料理が届くのを待っている間、シトリーのバイトの愚痴を聞かされて相槌を打つ。やっぱり居酒屋やバーだから時折変な客も来るらしく、店で一番腕っぷしがあるからという理由でそういう客の相手をさせられることが多いらしい。


 「いらっしゃいませー」


 時刻も十八時になればファミレスも人で賑わってくる。そして空いていた俺達の後ろの席にも二人組の男女が腰かけた。俺からは見えないが、向かい合ってるシトリーからはその男女が見えるようで、シトリーは物凄く眉を寄せてその男女を見ている。


 「お前ガン見しすぎ」


 そう忠告してもシトリーはガン見を止めない。そんなに面白い顔でもしてんのかと思い、俺も少し振り向いて相手を確認すると普通のカップルだ。でも彼女の方がこっちの視線に気づいてるのか、少し気まずそうにしている。目が合ってしまった恥ずかしさから前を向き、シトリーを睨みつけた。


 「めっちゃ向こう気づいてるぞ。ガン見止めろよ」

 「ちょっとマジ黙ってろ」


 何だよ急に。そんなにあの女の子の事が気になるのか?もう恥ずかしいな。顔を少し伏せ黙っていると、後ろの席からガタッと音が鳴った。その音に振り返ると彼女が言ったのか、彼氏が俺たちをガン見していた。いや、正確にはシトリーを。彼氏の方は空いた口が塞がらないとでも言うように、口をパクパク動かしている。そんな様子を見たシトリーがため息をついた。


 「見つけたぜカイム。偶然バッタリなんて笑えねえな。お前、俺がどんだけ探してたと思ってんだよ。こんな近くにいたとか、本当にビビるわ」

 「……マジかよ。もう、最悪」


 悪魔?え?悪魔って事?

 だってカイムなんて名前明らかに日本語じゃないし。シトリーの表情からはいつものお茶らけたものは消えていた。目の前のカップルと思っていた二人は気まずそうな顔を浮かべている。でもシトリーが間違うはずないし、この雰囲気じゃ確実に悪魔だし……マジでどういう事!?混乱して話について行けてないのは俺だけじゃない。彼女の方もだ。


 「シトリー、会いたかったのはお前だけじゃないよ。俺だって探してたよ。でも、お前の噂を聞いたんだよ。悪魔討伐を契約条件にしている子供と契約して悪魔と敵対してるって。お前、何したいの?流石にそれは許されないでしょ」

 「まあ、色々事情があるんだよ。お前守れたら別に審判なんざ起こらなくていいだろ?最高の友情じゃねえか」

 「方向性の問題だろ。流石に今のお前に話が通じるとか思ってねえよ。あーもう、なんでこうなるかなあ……」


 頭を抱えていたカイムと言われた男が何も言わずに立ち上がった。店員に頭を下げている姿は悪魔とは程遠い好青年で、そのまま彼女の手を引いて出口に向かおうとするでもシトリーがそれを見逃すわけがない。


 「駄目だぞカイム。わりいがお前の頼みでもそれは聞いてやれねえんだよ」

 「俺らの仲で待ってがきかないってマジかよ。見ての通り、俺別に悪さしてねえよ。ちょっとくらい時間ちょうだいよ」

 「俺だって状況がこんなんじゃなかったら、お前に話したいこと腐るほどあるんだよ」

 「じゃあ、少しぐらいは俺の話を聞いてくれてもいいだろ?お前からの相談何回も受けてやったろ?親友のお願いくらい聞いてくれたっていいじゃねえか。約束は必ず守る。明日、この時間に俺はちゃんとこの場所にくるよ」


 ここで暴れられたらたまらない、でも逃げられたらどうしよう。

 いろんな事をグルグル考えていると、シトリーはカイムの腕を離した。


 「嘘付いたらどこまでも追いかけるぜ」

 「男のストーカーはごめんだ。行こう優菜」


 カイムは空いた手で優奈と言う女の人の手を引っ張って店員に頭を下げて店を出ていった。

 ボーっとしていた俺達の元にウェイターがハンバーグを持ってきて、それによって現実に引き戻される。


 「いいのか?逃がしちゃって」


 カイムって言っていた。シトリーが前に話してくれた。親友だって。

 再び席に座ったシトリーは店員が持ってきたハンバーグを食べるためにナイフとフォークを手に持つ。そんな呑気でいいのかよ。


 「本当に複雑だよ。あいつと、喧嘩はしたくねえな」


 とりあえず拓也に報告かな。パイモンが何とかしてくれるのを期待したほうがよさそうだけど。

 シトリーが食い始めてしまったので、俺もフォークとナイフを取ってハンバーグを切り始めた。


 ***


 カイムside ―


 「ねーカイム。さっきの誰?同じ悪魔?」


 優奈が至極何ともなさそうな顔で聞いて来るから少し笑ってしまった。

 それに少し不機嫌になってしまった優奈の頭を優しく撫でる。


 「ああ、同じ悪魔」

 「ふーん……なんか格好良かったね」

 「俺より?」

 「さあ」


 いつもの軽口で笑い合ったけど、お互い本心ではないってことはわかる。

 お互い愛想笑いだ。この場の空気を和ませようとしての。


 「優菜、明日は俺とずっと一緒いろよ」

 「急にどしたの?あたし大学あるんだけど」

 「休んで」

 「我侭ー」


 そう言いながらも友達に連絡をしている優菜に笑みが漏れた。必ず優奈は明日は側に居てくれる。そしてきっと明日が俺と優奈の間で最後の日になるだろう。シトリーだけなら俺の方が強いけど、パイモンとかヴォラクもいるって話だし……となると、勝ち目は薄い。


 このままズラかってもいいかなとか思ったけど、優菜を見られてるから危害加えられたら困るし。

 あーあ、本当に最悪。この生活を楽しんでいたのに。


 連絡が終わった優奈が「じゃあどこかに行こうか」と問いかけてくる。俺はそんな優奈の手を握りしめて「家でいい」と返事をした。


 夕日が真っ赤に照らす中、手を繋いでいる優奈と俺の影が重なる。きっとこの重なった影はもうすぐ離れてしまうんだろう。そう思うと、いつもなら何とも思わなかった情景が酷く悲しく空しかった。


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