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第139話 俺の色彩を満たす者

 譲介side ―


 「譲介、今日遊ばん?」


 修也が声をかけてきたのを無視して鞄を手に持ち、教室を出る。

 俺にはやらなきゃいけない事がある。それはカンナの仇を取る事。修也なんかに構っている暇はない。無視すれば、諦めてどこかに行くと思っていたのに、そいつはどこに行くんだ?と足を進めてきた。



 139 俺の色彩を満たす者



 シカトして歩き出した俺の後ろを修也がついて来る。しつこいと思いながらも無視を続けている俺にいつまでも話しかけてくる。そんな修也を見て陰口を叩く奴もいる。


 「なして修也の奴、あいつさ話しかけんだ?」

 「修也も見えてたりしてー気味わりぃ」


 その言葉が聞こえたのか、修也は立ち止まって陰口を言った奴らに振り返った。

 ほらな、俺に話しかけるだけでお前まで気味悪がられるんだ。そんなの嫌だろ?お前は明るくて、いい奴だ。俺なんかに関わらなかったら友達なんて……でも修也は少し肩をすくめただけで、また俺について来る。現状を理解していないその行動が少し腹立たしい。だから悪態をついてしまうんだ。


 「修也うぜえ」

 「なして」

 「ついてくんな。用事ある」

 「俺も家こっちやし」


 そう言われたらどうしようもない。別にどうでもいいか、もう今更なにも考える必要なんてないし。

 修也を撒く事もせずに、俺はそのまま幽霊屋敷に向かって足を進めた。


 幽霊屋敷に入っていった俺を見て、修也が名前を呼ぶ。そんな声さえ無視して庭に転がっている鉄の棒を手に持ち、先に進んだ。昨日の奴らはもう入ったら駄目だって言ってたけど、そんなの聞いてられるか。

 カンナの仇を討たなきゃ……俺が何とかしなきゃいけないんだ!


 「おめ何する気だ!」


 俺の後をついて塀までよじ登ってきた修也が阻止するように腕を掴む。鬱陶しい、何なんだよ……何でお前がここまでついてくるんだよ。煩わしくて腕を離そうとしても予想以上に強い力で掴まれていて中々離せない事に苛立ちは募っていく。その時、幽霊屋敷の扉が開いた。


 壊れていたはずなのに……ああ、あの化け物が歓迎してくれてるって言うのか?願ったり叶ったりだ。


 修也に腕を掴まれたままズンズン進んでいく。結果、修也も引きずられている訳で、結局二人で幽霊屋敷に入る羽目になってしまった。


 俺達が入った後に自然としまったドアに修也が体を大きく反応させる。怖いならここまでついて来るなよ。なんで手を離さなかったんだよ。言いたいことは一杯あるが、それよりもあの化け物の方が先だ。


 見慣れた屋敷の中を真っ直ぐ進んでいくと、一番広い部屋に辿り着いた。そこには古びた家具やくすんでしまった敷物が無残な形で残されている。そのとき、突然聞こえてきた小さな子ども達の声に俺と修也は共に反応した。子供たちの声は花一匁を口ずさんでいる。


 「な、ななな……ここマジで出る系?」

 「今更かよ」


 信じてなかったのか?ここは出るんだよ、幽霊がな。背筋が冷えるような恐怖が全身を支配するが、奮い立たせるように手当たり次第に周辺の物に鉄の棒をぶつけて大声をあげた。


 「どごさいる!化け物が!!」


 大声で叫べば、歌っていた子ども達の声が笑い声に変わる。クスクスと人を馬鹿にしているかのように笑う。クソが!鉄の棒を力任せに家具にぶつけて、再度威嚇するように大声を出す。その音に修也は完全に怯えきり、俺すらも化け物のように見つめている。そんな修也を気に留めず、手当たり次第に家具を破壊していると、そいつは姿を現した。昨日見たのと同じ奴。気に食わない気に食わない!!


 『ヤレヤレ……チト灸ガ必要ダナ』

 「黙れ。ここで死ね!」

 『ソノ口、聞ケナクシテヤロウ』


 奴が低い声で呟いた途端、黒い霧みたいな物が俺と修也を包み込んだ。


 ***


 拓也side ―


 「あの子大丈夫かな?かなり落ち込んでたけど」

 『どうでしょうかね。それより早く入りましょう』


 うう、やっぱり行かなきゃいけないのかぁ……


 昨日幽霊屋敷から帰った後、パイモンは次の日に悪魔を返しに行くと宣言した。それはつまり屋敷に行かなきゃいけないって事で……俺は今屋敷の前に立っている。屋敷は夕日に照らされて異様な雰囲気を醸し出している。


 相変わらずシトリーにしがみついている光太郎をヴアルとヴォラクが茶化している。国内だからという理由で澪と中谷がいなくても大丈夫らしい。さっさと進んでいく皆を見て溜め息しか出ない。皆強すぎだろ、俺はマジでビフロンのトラウマがあるのに、考慮してくれる気配が全くない。


 そんな俺の服をグイグイ引っ張りながらヴアルもどんどん進んでいってしまうため引きずられながら幽霊屋敷の前に辿り着いてしまった。あたふたしてる俺を無視してパイモン達は再び中に入っていってしまう。嫌だったけど一人になるのはもっと嫌だったので、俺も慌ててその後を追った。


 「……扉が動いている」


 屋敷の中に入ろうとしたパイモンは顔を顰めた。セーレの後ろから覗き込むと、確かに昨日は片方のドアの隙間から入れたはずなのに、その隙間が無くなってる。それどころかドア自体が綺麗に修復されている感じだった。


 「どういう事?」

 「恐らく奴でしょうね。結界も張っていない事ですし……一気に行きましょう」


 パイモンが悪魔の姿に変わり、素早く剣を抜きドアに突きつけた。

 それと同時にドアは壊れ入口は確保できたが、一瞬のことで何が何だか分からないうちの行動に開いた口が塞がらない。


 「……強引」

 『主、世の中には力づくで行くべき場面もあるのですよ』


 そうみたいだねー。

 パイモン達がさっさと進んでいく中、俺は再び右手でセーレにしがみつき、左手でヴアルと手をつなぐと言う恥ずかしい体勢で中に入った。


 中は相変わらず不気味だったけど、昨日とは明らかに違った。なぜなら男の悲鳴が聞こえるから。

まさか昨日の子がまたここに来たんじゃ……そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、パイモン達が走っていった方向に俺も付いて行く。

 一番奥の部屋には案の定、昨日ここで出会った男の子が倒れていた。その横には友達なのだろうか、もう一人の男の子が泣きながら必死で呼び掛けている。


 「譲介!譲介!」


 譲介って言うのか。譲介君は返事をしないし、ピクリとも動かない。外傷はないようだけど、気を失っているのか?もう一人の子にも怪我はなさそうだ。

 しかし目立った怪我もないのに壱岐市のない譲介君に友達の不安は増しているんだろう。


 「こんなとこで何寝てんだよ馬鹿かよ」


 ヴォラクが近付いて話しかけたら、男の子は肩をびくりと震わせて顔を上げて俺達の姿を確認すると破顔して泣き出してしまった。


 「あ……誰か来たぁー!良かったあああ!!譲介助けてくれ!」

 「それはわかったから何でここに?」

 「知らん!譲介がここに……俺ついてきただけ!そったら黒い霧が譲介包んで、譲介が倒れて!」


 泣きながらグジャグジャになった言葉をヴォラクは一つ一つ拾っていき、その場に倒れている譲介君に視線を送る。そんなにヤバい状況なんだろうか。確かに譲介君は目を覚まさないけど……

 見かねてヴォラクに話を聞けば、悔しそうに首を横に振った。


 「これは手が出せないね。恐らく悪魔は今こいつの中に居る」

 「はぁ!?」

 「黒い霧っつってたろ?それを吸いこんじまったんだろうよ。こいつは今悪魔と戦ってんだよ、精神世界でね。俺達にはどうする事も出来ないな。こいつが自力で悪魔を追い出してくれない限り」

 「できなかったら?」

 「悪魔の器さ。精神も肉体も乗っ取られてこいつは悪魔になるのさ」


 おいおいおい、そんな大変な状況なのに、助けられねえのかよ!

 一緒にいる少年は本当に何も知らないのだろう、助けられないことだけを理解して救急車を呼ぼうと携帯を取り出すも、パイモンがそれを止めた。


 「何する!?おめら助けられないなら、外に運ぶの手伝え!」

 『警察も医師もこいつを救えない。バカな餓鬼だ、俺達の忠告を聞かずにここに足を運ばせるとはな』


 それはサミジーナみたいな感じなんだろうか?本当に俺達は何もできないんだろうか?

 ただただ苦しそうに息をする譲介君に俺は視線を送った。


 ***


 譲介side ―


 目の前が真っ暗で何も見えない。たった一人でこの空間に取り残されてしまった。さっきまで後に居た修也の声も聞こえない。暗闇から出られる方法もなく、俺は一人ぼっちになってしまったんだ。


 『哀レナ子ヨ……復讐ニ走リ身ヲ滅ボス』


 あの化け物の声だ。辺りを見渡すけど、暗闇の中では何も見えない。俺は見えない化け物を必死で探し回る。絶対にカンナの仇を打ってやる!俺から大切なカンナを奪っておいて……よくものうのうと!でも辺りは真っ暗で、奴を探すどころか真っ直ぐ歩くことすら難しい。どうすればいいんだ?どうすれば……!


 『ナゼ死霊ニコダワル?』


 奴の声がまた聞こえて、下を向いていた顔を上げる。

 死霊にこだわる?そんなの決まってるじゃないか。


 「何を馬鹿なことを……幽霊とか関係ねえ。俺はカンナが大切なんだ!」

 『奴ハ所詮ハ死者。ナゼ奴ニ依存スル。生者のスルコトデハナイナ』

 「うるせえ!カンナを返せ!」

 『霊ニ何ヲ求メテイル?所詮ハ死ンダ人間ダ。貴様ハ現実カラ逃ゲテイルノカ?』


 それを言われて体が硬直した。多分当たってるから。


 皆が俺を気味悪がる。幽霊が見えるからって気味悪がる。俺を化け物扱いする。だから俺は俺を気味悪がらないカンナの事を……違う、それじゃ利用してるみたいじゃないか!俺は、俺は!


 棒が手からスルリと抜けて音を立てて床に落ちた。それにすら意識を持っていく余裕がない。俺は……カンナが居なくなったら一人。だからこんなに躍起になってるのか?違う、俺はカンナが大切だから。だからカンナを奪ったこいつが許せなかったんだ。それにカンナはいつかは成仏するんだ。別れはやってきて……なのになぜ?わからないわからない。ぐるぐる頭が回って気持ち悪い。


 そんな俺に化け物は止めを刺してくる。


 『貴様ハタダ死霊ニ逃ゲテイタダケデハナイノカ?話シ相手ガ欲シカッタノダロウ?』

 「ち、がう……」

 『何モ案ズル事ハナイ。一人ハ寂シイ物ダ。連レテ行ッテヤロウ。カンナノ元ヘナ』


 カンナに逢える。また一緒に話せる。でも多分それは俺が死ぬって事なんだよな。嫌だ死にたくない。

 だけど……俺が生きてて何になるんだろうか?学校でも嫌われて、何も言ってこないけど親父もお袋も俺が嫌われてるの知ってるはずだ。それを知られるのが恥ずかしくて悲しくて、会話もしないまま。

 それならいっそ、このまま……そう思って目を瞑った。


 “譲介!!”


 急に聞こえてきた修也の声で目を開いた。

 修也の声は涙声で、必死で何回も俺の名前を呼んでる。


 「修、也……?」


 修也のこんな声、何年ぶりに聞いただろうか?ガキの頃から修也は明るくて人気者だった。俺は相変わらず小学生の頃から幽霊が見えるといって距離を置かれていたけど。

 幼い頃から霊感が異様に強くて、最初は霊が見えるのが普通だと思っていた。でも皆が違うという現実を知った時には既に俺は気味悪がられていた。そんな時でも修也は俺のことを見捨てなかった。幼い頃から家が近くて、親同士が仲が良くて、たったそれだけなのに修也は異様に俺に構ってきた。


 「譲介ー」


 そう言って俺が一人でいると他に友達がいても俺の所に手を振ってやってきた。それのせいでお前の元を離れていく奴が居たことに気づかないはずがないくせに……

 

 そんな修也を半ば吐き捨てるように相手をしていた。どうせ親に頼まれたんだろ?そう思っていたから。いつだって俺の隣には修也が居た。小学校の遠足も運動会も修学旅行も、中学の移動教室も全部全部……


 俺の隣には修也が居た。


 相変わらず頭には涙声の修也の声が聞こえる。このまま俺が居なくなったら修也はきっと泣くだろう。皆が無表情でいる中、家族以外で一人だけ泣いてくれるだろう。そんな修也に礼も言えないまま死ぬのは余りに酷いじゃないか。


 棒をギュッと力強く握り締めた。そうだ、俺はカンナの仇を取って、ちゃんと目を覚まして……修也に謝ろう。顔を上げた俺に化け物が嘲笑いながら話しかける。


 『何ダ?死ヌノガ怖イカ?』

 「当たり前だ。死ぬのは嫌だ」


 俺は、一人がさみしかった。友達ができないのを幽霊が見えるせいだって言って閉じこもって、カンナに依存していたんだ。可笑しいよな、人間の友達より幽霊が大事なんて、そんなの可笑しいよ本当に。

 

 だから俺は帰る。俺を必要としてくれる人が一人でもいる世界に帰る。こんな場所に長居はしない。


 さっきまで真っ暗だった世界が明るくなっていく。綺麗でカラフルな世界に変わっていく中、真っ黒な霧の姿の化け物は目立つ以外の言葉が無い。


 『コレハ……ッ!』

 「お前なんて消えろ」


 そう言って棒を思いきり奴の頭上に振り下ろした。


 ***


 拓也side ―


 「何だ?」


 譲介君の体から真っ黒い霧が出てきた。驚いた友達をヴォラクが腕を引き、遠くに避難させようとしたら、友達はそれを拒否するかのように暴れた。


 「譲介見捨てんのか!?」

 「誰も言ってないだろ!悪魔を譲介が追い払ったんだ!離れろ!」


 追い払った?じゃあ譲介君は!


 「ん、んぅ……」


 譲介君が頭を抑えながら起き上がり、それを見た友達がヴォラクの手を振りほどいて譲介君の肩を掴んだ。


 「譲介!譲介!」

 「修也……へへ。こんな奴一発だ」


 譲介君の前には黒い霧。そしてその霧は段々濃縮していき、悪魔の姿になった。2mほどの身長のそれは頭を二つ持つドラゴンで体に上半身の男が張り付いている何とも気味の悪い姿をしていた。


 「こいつ……」

 『悪魔ブーネですね。他に死霊魔術を操る悪魔はムルムルしかいないので大体の見当は付いていましたが……しかしどうやら譲介に手酷くやられたのでしょう。かなり衰弱しています』

 「中々やるじゃん。俺らの出番無しかよ。よかったなー光太郎ちゃん」

 「うるせえ!」


 光太郎の頭を馬鹿にするようによしよし撫でるシトリーを光太郎は睨みつけた。確かに悪魔はうつ伏せに倒れて、さっきから動くことが無い。何が起こったのかわからず、譲介君に声をかけた。


 「譲介君。これって……」

 「ああ、あんた。別に……あいつの脳天を何度も棒でぶん殴っただけ」


 だけって……なんて恐ろしい事をサラッと言っちゃうんだこの子は。それ、現実でやっちゃだめだよ。

 でもこの状態だったらすぐに返せそうだ。


 『主、召喚紋を描きましょう』


 パイモンに言われて俺は頷いた。どうやらこの悪魔は契約者がいないらしい。その証拠になるのが腕にはめているクンツァイトの額当てがそうなんだとか。かなり手酷く譲介君にやられていて、話すのもままならない状態だ。一人で悪魔を退治するなんて、譲介君は強すぎる。パイモンが呪文を唱えていくと、悪魔の体はどんどん透けていき消えていった。


 何だか何もしなかったけど今回はこれで終わったんだな。ヴィクトリアハウスみたいな事が無くて本当に良かったよ。譲介君はその光景をボーっと見た後、俺達に振り返った。


 「おめら何もんだ?」


 何者って言われても……なんて誤魔化そうか。焦った俺は縋る様な視線をストラスに向けた。でもストラスは譲介君達のいる手前、声を出すことはできないようだ。でもその代わりにセーレが何とか誤魔化してくれた。


 「お払い師って奴だよ。テレビにここが出てたからね。近隣住民の依頼で来たんだ」

 「本当かよ」

 「信じる信じないはご自由に。でも、さっきのがお化けってことは納得いっているだろう?」


 確かに普通に生活していたら悪魔よりは霊の超常現象だと言われた方が納得する。それを言われたら言い返せないのか譲介君は押し黙った。しかし友人の方はここまで巻き込まれると思っていなかったのか、本当にここは出るからもう来ない方がいい、と譲介君に念押ししていた。

 何だかんだで目の前で起こったことを整理するのに時間が要るんだろう。


 『主、行きましょう』

 「でも……」

 『出番は終わりました』


 さっさとパイモンが出て行った後を、皆が続いて出て行く。確かに俺が居ても何もならないけど……そう思って俺もストラスと後を追った。もうここに幽霊は出ないだろう。譲介君にとっては悲しい事しかなかったのかもしれないけど……

 

 ***


 譲介side ―


 お互い黙ってしまった空間は少し居心地が悪い。俺と違って修也は状況を飲み込むのに必死なようだった。こんな事をして軽蔑されたのかもしれない、今更ながらに自分の冒してしまった事を後悔する。でもこのまま黙ってても進まない。俺は腹をくくり、修也に頭を下げた。


 「ごめん」


 これしか言えなかった、本当はもっと言いたい事があった。でも言葉をこれ以上繋げることができないんだ。こんな言葉しか口から出てこなかったんだ。修也は俺の言葉を無表情で聞いていたが、次第に唇に弧をえがき、笑みを浮かべた。


 「よくわかんねえや。んだどもお前が無事ならそれでいいわ。もう、変なことすんなよ」


 そう言って笑った修也はいつもの修也だった。俺は一人じゃなかった。家族もいるし修也もいる。俺はまだ生きててもいいんだ。カンナに縋って結局彼女を失って、何もできていない。

 それだけが心残りだった。


 “譲介”


 一瞬、カンナの声が聞こえた気がして振り返ると、そこにはカンナがいた。俺が大好きな笑顔でその場に立っていたが、瞬きをして目を開けたときには、もうそこに居なかった。


 「譲介?」

 「……なんもねえ」


 カンナが俺の好きな笑顔で最後にはなった言葉が嬉しくて俺は泣きそうだった。


 ***


 「おはよう譲介!」

 「……なしていんだ?」


 朝いつも通りに起きて、いつも通りにしたくして朝ごはんを食べようとリビングに行ったら、そこには修也がいた。しかもなぜか朝ごはんを食べてるじゃないか。家を間違えてるって事は無いんだよな?何でここに居るんだ?

 親父とお袋は嬉しそうで、修也は弁当の余り物のソーセージをほうばりながら、笑顔を浮かべた。


 「お前いつも遅刻するべ?んだから俺がに迎えに来てやったんだ」


 だからと言って何勝手に人の朝ごはん食ってやがる。しかも俺の席に座って。修也をどついて別の席に移動させて出された朝ごはんを食べる。その途中で話を振ってくる修也に適当に相槌を返しながら。


 時間が来て玄関に向かう。修也はとっくに親父とお袋に頭を下げて玄関の前で待っている。待たすとうるさいので行こうとすると、お袋が声をかけてきた。


 「修也君と仲良くね。行ってらっしゃい」

 「……行ってきます」


 嬉しそうなお袋の顔を見て、俺も少し笑みを浮かべた。玄関では待ちくたびれている修也の姿。それを茶化せば少し不貞腐れた後、またいつもの笑顔に早変わり。全く切り替えが早いことだ。依存するわけじゃないけど、こいつがいる限り学校も切り抜けられる。そう思った。


 「今日体育ペアで何かすんだって。譲介組もうや」

 「いいけど」


登場人物


ブーネ…ソロモン72柱序列26位の悪魔。

    30の悪魔軍団を指揮する公爵であり、召還されると3つの頭を持つ竜として描かれる。

    頭の組合せは人間とグリフォンと犬もしくは2つの竜頭に人の顔であるとされる。  

    契約者に会話能力と英知を授け、死の呪文を支配する。

    またブーネ最大の能力はネクロマティック=「死人使い」。

    死者の居場所を自由に変え、死人を起き上がらせる。彼の会話能力や知恵は死人に与えられるものなのだ。

    契約石はクンツァイトの額当て。


畠譲介…秋田県熊代氏に住む中学2年生の男子。

    幼いころから霊感が強かった事により、クラスメイトに気味悪がられていた。

    少しひねくれた性格で他人を疑ってかかる癖がある。


余談ですが秋田県は畠と言う名字が多いそうです。調べてる時に発見してそのまま使わせてもらいました。

方言は調べたのですが、恐らく地元の方からしたら奇妙な方言だと思います。

そこはご了承願います。



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