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第133話 つまらない日常にさよならを

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 私が中学生だった時、我が家に家族が一人増えた。弟、妹ができたわけではなく全く血の繋がらない家族。そいつは俯いた状態で小さく今日からよろしくお願いしますと深々と頭を下げた。

 両親は家族として受け入れたいと言っていたけど、私は新たにできたその家族が嫌いだった。



 133 つまらない日常にさよならを



 「Claire. Goedemorgen.(クレア、おはよう)」


 朝ご飯を作ってたママが部屋に入った私に挨拶をする。その横には並べられた朝ご飯。PATUTの匂いがお腹の減りを促進する。でもテーブルに腰かけている男を見て、一気に食欲が失せた。そこには血の繋がらない家族が座っていたから。私はそいつから一番離れた席にドカッと腰かけ、朝ご飯を食べる。そいつはこっちをチラっと見たけど我関せず、すぐにご飯を食べる手を進めた。

 

 私とこいつは仲が悪い。


 それを知ってるママは小さなため息をついた。


 中学生のころ、ママのお兄さん……つまり私のおじさんとおばさんが事故で死んだ。雪が降る山の中をドライブしててスリップしてしまったんだとか。息子を残して両親は他界し、残された息子を誰が引き取るかで、親戚同士で話し合いがあったらしくママが引き取ると言いだして今の状況に至るわけ。


 でも私はそれを快く思ってない。だっておじさんとは確かに親しかったけど中学になって今更家族、しかも血の繋がらない家族なんていらないじゃない。案の定、そいつは家の居心地悪いのか、あまりはっちゃける事もなく静かにしてる。だから尚更私と打ち解ける事もないし、こっちが一方的に嫌ってる事もあって、こいつがうちに来て二年。お互いの状況は何も変わらなかった。


 いや、悪くなったと言っていいのかもしれない。


 だって家族が一人増えたってことは生活費もかかるわけで、なお且つそいつは私より一つ上なだけで高校三年だし、成績優秀だからママは大学まで行かせたいって言うし。そのお陰で私は行きたかった私立の高校を諦めなければならなかった。そこは有名な高校で進学率もよくって、友達皆が行くって言ってたのに……私だけが普通の高校に進学して周りはみんな受験に受かってその高校に行った。


 こいつのせいで思い描いていた夢の高校生活は脆くも崩れ去ってしまったんだから、私がこいつを嫌う理由としては十分なのだ。可笑しいでしょ、なんで後からはいった奴に私の進路が脅かされんのよ。衣食住を整えてもらうだけで有難いのに図々しすぎるだろう。正直言って、私は目の前のこの男が嫌いでしょうがなかった。


 一度、施設に行けと言った私にそいつは目を丸くしたけど、どこから情報が漏れたのかママとパパに頭を叩かれて泣いて説教されて以来、言いたくても言えない言葉が腹に溜まっている。


 思い出しただけで胸糞悪く、朝食を食べ終わった私は食器もそのままにした状態で何も言わずに立ち上がった。


 「Good bye, wees voorzichtig.(行ってらっしゃい)」


 あいつのその言葉に聞こえないふりをして部屋を出ていくのは両手では収まりきらないほどの回数になる。もう何度目になるかわからない、あいつが何回か言ってくる挨拶を無視するのは。後ろで悲しそうに眉を潜めるその姿を、前を向いていた私は気付かなかった。


 ***


 あれだけ不満を心の中でぶちまけてはいるけれど、別に今の学校に不満があるわけじゃない。友達だっている。学校が終わってバッタリ会った中学の時の友達と一緒に下校していると、やはり友達の学校は私の憧れで行けるもんなら行きたかったとしみじみ思う。


 「Claire.Summer is coming soon.(クレア、もうすぐ夏休みだねー)」


 友達はわくわくしながら私の顔を覗き込み、それに相槌を打ちながら考えた。もうすぐ夏休みか……かといって何も変わることはない。ただ学校がなくなるだけで普通の休日となんら変わらない日がしばらく続くだけ。何にも面白い事なんてない。友達は夏休みに旅行に行くんだと楽しそうに語っている。


 いいなぁ、旅行なんてここ数年間一度も行ってない。


 これも全部あいつが来たからだ。一人増えた居候を大学まで行かすと声を大にしている両親はオランダでも有名なデルフト工科大に行かせたいらしい。私はよく知らないけれど、あいつの夢みたいなのを叶えるための学部があるとかなんとか。


 まあ、本当にデルフト工科大に行けたら大したもんだ。オランダ一の偏差値の大学なんだから。でもそのおかげで我が家の家系は火の車なわけよ。今まで行けていた年一の家族旅行も近場に二泊三日にしようとか言いだしてさ!!前はバカンスの間は三週間は行ってたのに、なんだよ二泊三日て!ドライブかよ!!これもぜーんぶあいつのせい!!


 理不尽な理由をつけてあいつを嫌う材料を無意識で探す。だって認めたくないから。あんな奴が家族なんて絶対に認めない……!私は自分の心にそう言い聞かせて、友達と別れた。


 何となくそのまま家に帰るのは少し嫌で、私は適当に家の近所をふらふら歩く。そう言えばこの近所にカフェが出来たって聞いたな、行ってみようかな。重い足を引きずって、そのカフェに足を運ばせた。


 ***


 カフェはやっぱり新しいのもあるけど店内も綺麗でお洒落だ。これならリピーターになってもいい。今度友達も連れてこよう。そこでケーキと紅茶を頼んで、もくもくと食べる。今の時間は夕方の十七時、まだまだ明るいけれど心配性なママがうるさいからそろそろ帰らなきゃ。


 ケーキを食べて紅茶を飲んで、少しゆっくりとくつろいでから店を出た。


 携帯をいじりながら家に向かう道をゆっくりと歩く。家に帰るとあいついるからなぁ……そう思いながらため息をつくと見慣れた後姿に気分が一気に急降下する。あいつが買い物袋を持ってのこのこと家に帰っていたから。


 ママにお使いでも頼まれたんだろうか?何にせよ、前をあんなに遅く歩かれてはたまらない。だからといってあいつを追い抜いて、私が歩いてるのを気づかれるのも嫌だ。仕方がないのでもう少しだけ寄り道してから帰る事にした。


 人通りの少ないこの道で今の時間に人は全くおらず、家からは遠回りのその道をのんびりと歩いていた。道に転がっている小石を蹴っ飛ばせば、変な方向に飛んでいってしまい、再び蹴る事が出来ない。


 「……Haten.(……うっざ)」


 おもわずそう呟けば、思い出されるあいつの顔。なんでままはあんな奴を引き取ったんだろう、今更家族なんていらないのに。あいつさえいなければ、私きっとあの高校に行けて、もっともっと楽しい高校生活を送れるはずだったのに!


 私の理想の人生を潰したあんな男、さっさと出ていってくれたらいいのに!!


 「Oh……U zegt het is een gevaarlijk ding.(おやおや……物騒な事を思うものだねぇ)」


 急に後ろから声が聞こえて、思わず身構えてしまう。恐る恐る振り返れば、そこには一人の男性の姿があった。関わっちゃいけない ― とっさにそう判断し、慌てて早足でこの場から逃げようとしたが、そいつの言葉に足が縫われたように動かなくなった。


 「Ik denk niet dat ik wil een gezin en het gevoel van gemakkelijke taak.(家族が消えればいいなんて……並大抵の気持ちで思えるものじゃない)」

 「Wat zeg……(何、言って……)」


 見透かされた!?私、流石に声に出しては言ってないはずだけど!?何この男、超能力者!?

 思わず青ざめた私に男は笑みを浮かべた。


 「(何も恥じることはないさ。人生は一度きり。自分の人生を潰してくる人間を快くなんて思えないものだよ。これから先もずっとついて回る存在ならなおさら。お兄さんだものね)」

 「(なんで、あんた……どこでそれを)」

 「(ああ、失敬。義兄弟だったかな?まあ大した違いはないさ)」


 何な訳こいつ、ストーカーな訳?なんで私の家の事情をこんなに知ってる?こいつ、マジでやばい奴なんじゃない?

 戸惑っている私に男は提案をかけてきた。


 「Wat u nog interessante dingen tegen mij?(面白い事をしてあげようか?)Als u instemt met mijn voorwaarden.(ある条件を飲んでくれれば)」

 「Voorwaarden?(条件?)」

 「(それは後で話すとして、私の条件を飲んでくれたのならば君の望むように事を動かしてあげよう。あの男に消えてほしいんだよね?)」


 私の望むとおり……それはどういう事?

 気付いたら男の言葉を真に受けて、続きを話すように催促していた。男はその言葉に笑みを深くした。


 ***


 「Nu.(ただいま)」

 「Claire! Waar heb je!?(クレア!どこにいたの!?)Zet u in contact langzaam!(遅くなるなら連絡くらい入れなさい!)」


 家に帰ると、心配していたままが開口一番口うるさく叱ってくる。でもそれどころじゃない、もしあいつの話が本当なら……私ってすごいことになっちゃってんじゃない?やばいねこれ。自分が特別な人間になってしまったような錯覚に陥り、思わず笑みを浮かべてしまった。少しあいつを懲らしめてやる。私の幸せなはずの未来を変えてしまった偽物の家族を。


 「Welkom terug.(おかえり)」


 リビングに入ると、そいつは私に挨拶をしてきた。性懲りもなく毎日返事をしない私にご丁寧なことだ。

 いつもならそれをシカトするところだけど、初めてこいつに挨拶を返した。

 

 「Nu.(ただいま)」


 びっくりしてるのはこいつだけじゃない、ママもだ。まさか挨拶を返すなんて思ってなかったんだろう。私はそのまま手を洗い、席に着く。すごく面白い事になりそうだ、それが少々残酷なことであっても……

 ポケットの中に入れた宝石を指で撫でる。これは全くおかしい事じゃないでしょ?


 だって家族は私とパパとママの三人だけなんだもん。よそ者は自分の立場をわきまえてもらわないと。


 ***


 拓也side ―


 「やっと中間も終わったし、夏も到来だな!」


 中谷が嬉しそうに硬球を磨いている。もうすぐ甲子園の予選が始まるだけに、中谷のテンションは高い。それに相槌を打ちながら視線を窓の方に移すと、太陽の光が眩しくて思わず目を目を細めてしまった。


 完全に夏モードに入った教室はメチャクチャ熱く、窓際の席の俺にはカーテンを閉めてもすっげー机が熱くなるから憂鬱な季節だ。そんな訳で、俺は中央の席の中谷と光太郎の所に避難している。机が冷たくていい感じだ。

 

 エアコンは授業中しかつけてもらえず、換気と言って十分休みや昼休みは窓を開けられるのだ。お陰で全然涼しくならない。


 「あと一カ月か。あっという間だな!」


 光太郎が嬉しそうに背伸びをする。あっという間って……まだ六月の中旬だ。夏休みなんて一カ月も先じゃないか。その間には魔の期末テストだって待ってんのにさ。まあ光太郎にとっては期末なんてきっと大した難関じゃないんだろうな。そんな奴にとっては後は夏休みが来るのをひたすら待つだけだもんな。


 夏に近づくにつれて、担任も他の先生も進路の事をこまごま話すようになってきた。まだ二年になって二カ月ちょいしか経ってない俺達には少し早いと思うけど、今からしないと手遅れになるって脅すんだから嫌になる。


 別に行きたい大学とかもないし、なりたい職業もないし……このまま行ったら俺、何大に行ってんだろ。つか行けてるのかな。大体大学がどんなとこかもわかんねぇのに行きたい所を決めろなんて早すぎる。


 「中谷ー早く行こうぜー」


 ジャストと上野、藤森が中谷を呼んでる。その声を聞いて、中谷は慌てて机の中から日本史の教科書を取りだした。


 「そういや次選択だったな。じゃあな」

 「おー」


 世界史を選択してる俺と光太郎に手を振って、中谷は教室を出ていった。

 次は世界史だったのか、うっかり忘れてた。


 「次って世界史か。光太郎、四限目なんだっけ?生物だっけ?」

 「生物?ああそっか、お前は生物か。俺は物理だ」


 あ、そうだったな。光太郎は確か生物か物理かを選ぶ時に物理を選択してた。俺と中谷は楽な生物を選んだんだけど。何だかこの選択教科のお陰で二年なんだなと感じる。一年の時はこんな別れて授業なんてなかったし。


 「……俺ってそろそろ勉強した方がいいのかなぁ」

 「そろそろも何も普段からしろや」


 突然の俺の呟きを聞いて、光太郎が顔をこっちに向ける。最もな突っ込みを受けてしまい、こいつに質問をしたのが馬鹿だったと痛感する。でもさ、光太郎みたいな高校生の方が少数だって思ってるからな!?


 「最近テストの成績下がってんだよな。一年の前期まではそんなに成績悪くなかったんだよ」

 「ああ、お前って何だかんだ言って中の上から上の下くらいだったよな。テスト前の詰込みで平均以上叩き出すお前って要領いいと思うわ」


 光太郎に言われてもなー……


 「本物の要領いいは立川とかのことと思う」

 「あーあいつはマジで要領いいね。あいつあんなだけど学年上位三十番には絶対いるからな。マジの詰め込みがたで学内考査も模試も高得点叩き出してきやがる。ああいうのが、社会に出たら出世するぜ」


 でも確かに俺はそこまで頭は悪くなかったはずだ。真ん中より上の順位はちゃんと取れてた。それなのに……


 「中間の順位出たじゃん。今までにない悲惨な成績でさぁ……このままじゃ将来危うい気がする」

 「何位だっけ」

 「百八十人中で九十八位……」


 俺の言葉に光太郎も顔を顰めた。


 「……お前って確か一年の時は悪くても全体四百人中の百五十番内には入ってたよな。理系になって百八十人になっても今までなら五十~七十位くらいいけてただろうしな」

 「うん」


 わかってるよ。確かに勉強はあんましてなかったし、これじゃいい点取れないっつーのも。でも余りの下がりように流石に落ち込んだ。テスト前で勉強はしているつもりだけど、皆普段からしてるのかな……光太郎は溜め息をついた。


 「俺らって他の奴よりリスク高いよな。悪魔が見つかれば結構優先してそっち行かなきゃいけないし……特にお前は俺らと違って強制だしな」


 そうなんだよねぇ……それを考えたらテスト三日前とか一週間前からじゃ足りない気がする。

 柄にもなく成績の事でネガティブになった俺の肩を光太郎が叩いた。


 「まだ二年になったばっかだし、今からでも挽回できるって。数学と化学さえ理解しちまえば後は暗記だけだろ。英語はストラスに教えてもらえ。俺に手伝えることあったら言って」

 「こ、光太郎……神かお前!」


 数学と化学さえできれば後は何とかなるはず。まだまだ暗くなるには早すぎるよな!光太郎も一緒に勉強しようぜと言ってくれたし少し頑張ってみるか。


 ***


 授業も終わり、放課後に俺はマンションにまた寄る事にした。中谷は五日後が甲子園の予選の一回戦と言うだけあって学校が終わったら速攻で部活に行ってしまった。光太郎は塾があるので自習室に行くと言って別れ、俺は久しぶりに澪と行く事にした。


 澪の教室である2-3を覗いてみる。何だか二年になった途端、文系と理系はあんまり関わる事もないので、少し文系のクラスの方面は行きにくい。逆に文系の奴も理系のクラスには行きにくいらしい。やっぱり理系に男子が多い事もあって、文系は女子が多い。いや、男子もいるんだけど四対六くらいの割合で女子が多いんかな?


 澪はカバンの中に荷物を詰めながら友達と少し話している。話を中断させるのも悪いと思って、教室の前で待つことにした。


「いーけーがーみー」


 肩を叩かれて振り向くと、一年の時同じクラスだったクラスメイトの男子が立っていた。特に仲がいいわけではなかったが、なんだかお互いに久しぶりだと話に華が咲いた。


 「おー吉川ー!久しぶりだな!」

 「なー!お前マジ何してんの?何か理系って行きづらくってさーどんな状況かしんねーんだけど!」

 「えー遊びに来いよ。理系はいつでもウェルカムだぜ」

 「いやいや、あの頭よさそうなオーラが……物理の教科書持ってたりするとすげえって思うしな」


 そっか、文系って物理ないんだっけ?生物とってる俺が言うのもなんだけど。確かに言われてみれば理系は結構頭いい奴が集まってるって聞いた。文系にも頭のいい奴はいっぱいいるけど、結構学年上位グループは理系に来たって話を聞いた。更に立川も何だかんだで頭いいし、ジャストとかも小テストはボロボロのくせに本番になると八十点越えを叩きだすし、そんな奴らを連想すると俺ってついて行けてないと思う。


 少しだけ落ち込んだ俺の気持ちを知らずに吉川はニコニコ笑って俺に話しかける。


 「つかマジまた遊び行こうぜ。お前とまた遊びてえわ。来週どう?」

 「全然いける。火曜の学校帰りに遊ぼうや」


 吉川と盛り上がっている間に準備が終わったのか鞄を持った澪が教室から出てくる。


 「拓也、ごめんね」

 「お、おう」


 俺と澪を交互に見た吉川は何を思ったのか、ニヤニヤ笑って挨拶して帰って行った。残された俺と澪は何も言わずにマンションに向かう事にした。


 「悪魔の情報見つかったかな?」

 「さあなぁー」


 他愛ない話をしながらマンションに向かう道をまっすぐ歩く。

 すると、横を歩いていた澪が急に立ち止まった。


 「澪?」

 「……あのね拓也、話しておきたい事があるの」

 

 澪のいつになく不安そうな顔に俺は立ち止まって澪を見つめた。

 澪は何度も何度もつっかえながら、言葉を選んで話していく。


 「グレモリーさんが言ってたの。あたしを必死で守ろうとしてる子がいるって」


 グレモリーが?何を……

 唐突なその言葉に俺はただただ茫然とするしかなかった。でも澪は不安そうな顔をますます強める。


 「人違いかなって思ってたの。でもわかんない。グレモリーさんが言ってた事だから、あたしを守ろうとしてた子はきっと悪魔なんだろうなって思って……でもそんな子あたしは知らないし、怖くなって……」


 なぜ、そんな話を真に受けてしまったのか聞くと、澪は以前俺と直哉が遊びに行ったときに母親から言われた内容が怖くて忘れられないらしい。そう言えば、おばさんが澪は悪魔に憑かれてるって……あれ?あれってマジな事なの?

 青ざめてしまった俺を見て、澪は慌てて話を反らした。


 「ごめんね、そんな顔しないで。きっと人違いだと思うから。でも話聞いてほしかったって言うのかな?あんま考えないで。いざってときはヴアルちゃんもいるし」


 澪は俺を置いて先に歩いていく。でも俺はなぜかその場から動けなかった。


 「拓也?」


 嫌な予感がする……目の前の澪が消えてしまう予感が、グレモリーの言っていた奴が澪を連れていってしまう予感が。そんな思考を振り払うように頭を必死で横に振り、慌てて澪の後を追いかけた。

 結局悪魔の情報なんて、その日には何の報告も受けなくて、俺は剣の稽古を少しして家に帰った。でも澪の言った事が気になって仕方がない。


 俺は姿も名前も知らない「あの子」に対して、自然と警戒心を強めていった。


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