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第129話 いつだって君がいた

 「あたしが役に立てるのかな」


 澪は始終不安そうにしており、その手をヴアルが握っている。事情を説明し、澪についてきてほしいとお願いすれば澪はすぐに頷いてくれた。でも、会った事も見たこともない悪魔の説得なんてできる物なのか?

 澪に何かあったらどうしようかとも思うけど、ストラスの大丈夫と言う言葉を信用するしかない。


 129 いつだって君がいた



 「来る時間間違えたかなぁ」


 愚図るシトリーを引っ張ってマンションに戻って、次の日に澪と合流して再び俺達はデンマークのロスキレに向かった。時間はまだ朝の四時だったけど、既に辺りは明るく広場にはちらほらと人がいた。澪は落ち着かないのか、ヴアルの手を握ってキョロキョロと所在なさげに視線をさまよわせている。パイモンからも頼むって言われちゃってプレッシャーかかってんのかも。俺はそんな澪に声をかけた。


 「澪、平気か?」

 「あ、うん。ちょっと緊張しちゃって……」

 「無理しなくていいからな。俺もいるから」

 「何それ今までで一番当てにならなさそう」

 「酷い!」


 笑って澪を励ますと、澪も少しだけ笑い返してくれた。パイモン達はシトリーが持っているダイヤの欠片が埋め込まれた指輪の反応を追っている。あれでグレモリーを見つけるんだそうだ。

 でも今の時間は朝の四時。俺達は昼前に出たのに時差の関係でこの時間だ。流石にこんな時間に人がいんのか?と思ったけど、思った以上に人がいてこっちがびっくりしてしまう。やっぱり明るいからだろうか。日本でも夏は日が長いと感じるけど、レベルが違うもんな。

 

「反応がすんな……」


 シトリーが指輪を握りしめて呟き、それに俺達は反応して辺りを慌てて確認する。反応すると言うことは相手が近くにいる証拠だ。

 するとゆっくりと何かに包まれる感覚が体中を走った。経験したことのある独特の空気に一瞬気分が悪くなったが、唾液を何度か飲み込んで少しだけマシになった。


 「これっ……」

 『来ましたね』


 ストラスが俺の肩で気を張ったのが分かるし、澪もヴアルの手を握る力が強くなる。全ての時間が止まってしまったような空間の中に俺達は閉じ込められた。そしてゆっくりとグレモリーが歩いてくる。


 「……綺麗な人」


 澪がうっとりしたように呟き、昨日同様俺と光太郎も赤くなった頬を隠すためにお互いにビンタした。美人は三日で飽きるとか言うけど絶対に嘘だ。明日この人を見ても絶対に飽きない。多分、そんなレベルの美人じゃないんだよ。超越してる気がする。


 『また来たのね』


 氷のように冷たい声が空間を支配し、その指にはダイヤの指輪が光っていた。


 「あれって」


 指さした先を見て、パイモンとセーレが顔を顰めた。だって契約石を身につけてるってことは契約者が……言いたくない単語を引っ込めて、グレモリーが喋るのを待った。俺たちの視線に気づいたグレモリーは指輪を見て小さい声で話しだした。


 『この指輪を身につけてた子はね……愛によって心を壊され、愛によって殺された。復讐と独占欲、嫉妬に心を奪われて、最後は共に死ぬ事を選んだ』


 自分が手を下したわけではないと言うことなのか?悲しそうな顔で指輪を見つめながら話すグレモリーは本当に傷ついているように見えて、少しだけ心が締め付けられる。グレモリーは指輪から視線をシトリーに移し、睨みつける。


 『わかるでしょう?不確実で不誠実な関係によって彼女は自死の道を選んだの。死ぬ勇気があっただけ、あの子は私よりも強かったのかもしれない』

 「グレモリー……」


 固まってしまったシトリーを筆頭に嫌な空気が漂う。グレモリーの指先が光っていき、嫌な予感がする。まさかここで戦おうと、魔法でも使おうとしてんのか?それが固まってる一般人に当たったらどうするんだ?死んじまうのか?何としても止めなきゃ!!

 パイモンが剣を抜き、それを確認したグレモリーが顔をしかめた。


 『私に刃を向けるの?』

 『はい。僭越ながらお相手願います。私の契約者に手を出すと言うのなら、貴方を力づくで止めることも視野に入れて行動します』

 『ふふ……殺したいとハッキリ言いなさいよ。昔から私のことを気に食わないと言う目で見ていたものね。お前の瞳はルシファーの操り人形にならない私に対しての嫌悪感でいつも満ちていたわ』


 待ってくれよ。シトリーはグレモリーを殺そうとか思ってないはずだ。なのに戦うなんてしたら駄目だよ!慌てて二人の間に入った俺にグレモリーは手を降ろした。攻撃をする気配のない相手に少なくとも暴力での解決を望んでいないことを理解する。


 『どきなさい。怪我では済まないわよ』

 「戦う気はないんです!だから、その、お話を……少しだけでいいから」

 『貴方と話す気はない。ソロモン王の再来など誰も望んでいないのだから』

 「そういう事じゃなくて……あの、俺と話したくないのなら女の子もいますし!少し落ち着いてください!だから、穏便に……」


 どう話をしていいか分からず、思わず出てきた言葉に澪とヴアルの目が丸くなる。これって澪とヴアルを売ったことになるのか?俺、最悪なことをした?

 慌てていま言った言葉を撤回しようとしたけれど、ヴアルが肩を叩いてきて任せてと小さな声で囁いた。


 『グレモリー様、お初にお目にかかります。ヴアルと申します。貴方は私のことを知らなくても、私は貴方のことを存じております。グレモリー様、お願いですから私たちの話を聞いてください。シトリーと少しだけでいいんです、彼の声を聴いてあげてください」

 『どうして貴方が私とあの男のことを……』


 パイモンの言った通りだ。グレモリーは女には優しいって話、本当なんだ。ヴアルの言葉にグレモリーは明らかに動揺している。そんなグレモリーにヴアルと澪はゆっくり近づいた。


 「誰が悪いなんてきっとないと思います。二人にしか分からない事があるかもしれないですけど、それでもお話を聞いてほしいんです」


 澪はシトリーの過去を知ってるんだろうか?シトリーがグレモリーに恋をしてるっつーのは前に俺が教えた事あったけど。


 「光太郎、お前喋ったのか?」

 「俺は何も……多分ヴアルちゃんじゃね?」


 ああそっか、何だかどんどん広がっていっててシトリーには少し悪いことしたかな?俺達がヒソヒソと話している時、グレモリーが澪に問いかけた。


 『危ないから下がりなさい。貴方が傷つくのは本意ではないわ。男たちによって利用されているの?』

 「そんなんじゃない、自分の意志でやってることなんです。お願い、話を聞いてください!」


 グレモリーは否定するように首を横に振るけど、さっきまでの刺々しさはなくなってる。困ったように眉を下げ、どうしていいか分からないと言う感じだった。


 『違う、わかってないの。貴方が庇う物は何もないわ。いつだってそう、悲しむのは女ばかり。私の契約者もそのせいで命を落とした』


 澪は少し黙って俺に振り返った。


 「ねえ拓也、少しだけこの人と話しちゃ駄目?ヴアルちゃんと三人で」

 「でも……」

 『わかった、しかし危険が迫ったら叫べ。待機しておく』


 パイモンは勝手にそう決めて、俺と光太郎の腕を引っ張っていく。引きずられながら精いっぱいの抵抗をする俺にストラスがフォローした。


 「ちょ、危ないって!澪だけじゃ!」

 『拓也、心配いりません。グレモリー様は女性に危害は加えません。澪に賭けてみましょう。いざという時はヴアルがいますからね』


 そうは言うけどさ!でもテンパって女の子もいるとか言い出したの俺だし、俺が悪いんだよなこれ!

 シトリーもセーレとヴォラクに連れていかれて、本当に澪とヴアルとグレモリーだけになる。


 「相っ変わらずあんたって肝心な時にチキンねー」


 女の人の声が聞こえると思ったら、いつのまにかシトリーが女になっていた。女のシトリーはセーレとヴォラクの腕を振り払い、自分の足で歩き始めた。しかし表情は険しく、男のシトリーに文句を言うように愚痴を言い続ける。


 「チキン、のろま。かっこわるい。あんたは私なんだからイメージ崩さないでよ」

 「シトリー、その言い方は」

 「セーレは黙ってて。私ずーっとあんたのこういう所、嫌いなのよ。グレモリーにはなーんにも言えなくて本当にださい。あんたそんなにMな訳?気持ち悪いからやめてくんない」

 

 多分女のシトリーには内側のシトリーの声が聞こえてるんだろうか。

 シトリーは時々不快そうな顔をしながら愚痴を呟いている。


 「違うでしょ。あんた清算しに来たんでしょ?だったらうだうだやってないで、きっぱりやって砕けてきなさいよ。グレモリーに振られたからって何?あんた一人にでもなるの?グレモリーしか大切な人いないの?違うでしょ?あんた大切な子いるでしょ?カイムだってあんたのこと、いつも気にかけてくれたじゃない。あいつのためにも真っ当になりなさいよ。私にはちゃーんと大切人いるわよ、広瀬光太郎っていうダーリンがね!」


 色々突っ込みたいところはあるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。多分その言葉はシトリーにとってすっげー重たい言葉になったんじゃないかな、それと同時に一番励まされる言葉になったんじゃないのかな。だって生まれた時からずっと一緒にいた、いわば兄弟のような奴からの激励コメントだ。少し手厳しかったけど、きっとシトリーは嬉しかったはず。セーレも悪口を言いながらも励ます女のシトリーに何も言う事はなかった。


 ***


 澪side ―


 静まり返った世界の中であたしとヴアルちゃん、そしてグレモリーさんだけが動いてる。グレモリーさんは広場のベンチに腰掛けてあたし達にも腰かけるように促し、あたしとヴアルちゃんは言われるがまま腰かけた。

 

 すっごく綺麗な人。神秘的で美人で知的そうで、こんな綺麗な人テレビでも見た事がない。少し儚そうで華奢な体は守ってあげたくなる庇護欲に駆られてしまう。シトリーさんはこんな綺麗な人と付き合ってたんだ……思わず見惚れてしまって質問をするのを忘れてしまったあたしをヴアルちゃんがつついた。


 「澪ー呆けてる場合じゃないわよー」

 「あ、そうだよね。ごめん。すっごい綺麗な人だから」


 グレモリーさんはあたしとヴアルちゃんのことをフッと笑ってほほ笑んでいる。笑うと更に美人だ。本当に綺麗な人……思わず顔が赤くなってしまい、慌ててグレモリーさんから視線を反らした。


 「あ、あの!何で貴方はそんなに……!」


 思い切って話を切り出したのはいいものの、なんて質問していいかわからない。

 しどろもどろになってしまったあたしをグレモリーさんはわかったのか、答えてくれた。

 

 『なぜ、シトリーを憎むのか……そう聞きたいの?』

 「それもあるけど……男の人全てが嫌いって」


 その質問に少し悲しそうに笑うグレモリーさんの表情を見て、胸を締め付けられたのはあたしだけじゃないはずだよね。


 『どこから話したらいいのかしらね』

 「えっと……全部?」


 グレモリーさんは笑いながら「欲張りね」と言いながらも教えてくれた。


 『最初から、かもしれない』

 「最初から?」

 『ええ、生まれてからずっと……男と言う生き物は好きではなかったわ。私が悪魔として生を受けた時から、私の能力は全ての雄と言う生物を魅了する力だったから。男達はその力にきっと魅入られて私の元に集ってくる。私を心から愛している者はいないと思ってた。称賛、贈り物……全て苦痛でしかなかった。それは全部彼らの自己満足であり、私が望むものではなかったから。でも別に良かったのよ、悪魔で一人を望む者は沢山いる。寂しい事ではなかったし、部下だったけれど私を友として尽くしてくれる女性もいた』


 贅沢な悩みなのかもしれない。あたしなんてそんな事あったこともないし、誕生日でもないのに男子からプレゼントを貰ったこともない。あ、でも拓也と直哉君は毎年くれるから拓也だけだな。もてて羨ましい……そう思うのに、それが苦痛って感じてる。

 

 でもそうなのかな、自分の力がそんな力だったら少しずつ疑う気持ちが出ちゃうのかもしれない。それがずっと積み重なって大きなものになっちゃったのかもしれない。あたしは相槌を打つこともせず、ただ真剣にグレモリーさんの話を聞いた。


 『いつぐらいかしら。ずっとずっと前なのかも忘れたけど、毎日私に会いに来る男がいた。来るなと言ってもしつこく毎日来るし、贈り物も他の悪魔は宝石などを持ってきていたのに、その男は花や食べ物、質素なものが多かったわ。それが逆に少し記憶に残ってたのだけど』


 それがシトリーさんなんだろうか。でもシトリーさんなら宝石とか持ってきそうな気もするんだけど。


 『でもその男がくれる物は私にとっては珍しい物だった。食べた事のない物や、見た事のない花、見慣れてしまった宝石よりも新鮮で……いつしか私はその男が来るのを心待ちにしていたわ』


 やっぱりシトリーさんの事だ。グレモリーさんの表情は思いだしているのか、少し嬉しそう。本当は今でも好きなのかな……シトリーさんの事。


 『いつからかその男と共に過ごす時間が増えて、その男の手が愛しく感じるようになってきた。その男は他の男と違って私を崇める様なことはしない。対等でありながら私を引っ張ってくれる存在だった。この男と出会うために私は今まで過ごしてきたんだ。そう感じていた』


 二人の幸せそうな生活がなんでこんなにこじれてしまったんだろう。堪らなくなってあたしはグレモリーさんに問い詰めてしまった。


 「じゃあなんで、なんでこんな事になったんですか?なんでまた全てを嫌いになっちゃうんですか?お話は聞いてます。ずっとお城に閉じ込められてたって……でもシトリーさんは見捨てたわけじゃないんです!ただ、貴方に危険な目に遭ってほしくなくてっ!」


 感情移入してしまったあたしは涙声になりながらも声を振り絞った。ヴアルちゃんが背中を撫でてくれる中、グレモリーさんは笑った。悲しそうで辛そうで苦しそうで、そんな色んな感情が入り混じったように笑った。


 『愛はね、全てを壊すのよ』

 「こわ、す?」

 『愛してもらうためならば身を投げ打ってもいい、愛している者が他の者に笑いかけていれば激しい嫉妬が体中に駆け巡る。気持ちが少し入れ違いになっただけでも心は壊れそうなくらいの絶望を味わう。愛はとても恐ろしい物。少しの満足と幸福の為に、その倍以上の苦しくて辛い思いを味わわなければならない。こんな感情知らなかったら幸せでいられたのに……!』


 気持ちを露にしたグレモリーさんになんて言っていいかわからない。グレモリーさんは涙を流しながら感情を露わにする。


 『皆そう!ルシファーもシトリーも私を愛していると言う悪魔たちも、何も分からないくせに、何もわかろうともしないくせに!自分の愛だけを押しつけて満足して、私を物のように扱う!』

 「そんな事っ……」

 『愛している時はまるで人形のように私を着飾り愛でる癖に、飽きたら愛でることもなくなり放っておかれる。好奇の目に晒され続けながら愛でられるのなんてもう沢山よ!私は飾り物の人形などじゃない!だけど愛に狂った男達は理解を示してくれない!』


 自分の思いを全て吐露したのか、グレモリーさんは涙を流す。どうすればいいんだろう、なんて励ませばいい?なんて言えばいい?でもわかったのは……グレモリーさんがすごく辛い目に遭っている事。堪らなくなってあたしはグレモリーさんを抱きしめた。わからないけど、言葉じゃ何も出てこないから。


 「愛ってすごく綺麗なものだと思う」


 ずっと黙ってたヴアルちゃんがポツリと呟いた。


 「誰かの一番になるのってすごいと思う。それが家族愛でも友情にしても何にせよ、それだけで存在理由が出てくると思うから」

 『ヴアル?』

 「自分の好きな人が、自分の事を1番って思ってくれたら嬉しい。死んでもいいって思えるくらい嬉しい。グレモリーは違った?シトリーと一緒に居た時、幸せだったんじゃないの?」

 『……幸せは急に終わりが来る物よ。その時の絶望は計り知れない』


 グレモリーさんは指輪を見つめた。


 『私の契約者は心から愛している相手に暴力を振られていた。姉に助けを求めたけれど、姉はその男の事を愛していたから私の契約者を救ってくれなかった。最後は壊れてしまったわ……男を殺して自分の物にして自殺して、姉が孤独になればいいと……愛は全てを壊すわ。人間が作った不完全なこの言葉のせいで、あの子は全てを失ったの』


 どうすればグレモリーさんの心は開いてくれる?

 傷は見せてくれた、でも消毒はさせてくれない。


 「グレモリー様、シトリーと話し合うべきだよ」

 『ヴアル?』

 「少なくともシトリーはグレモリー様の事を今でも愛してる。自分の事を愛してくれなくてもいい、だけどいつかはグレモリー様の事を守ってくれる大切な人が出来てほしいと思ってる。きっとシトリーにとって今回が最後のチャンスだから……話し合って」


 グレモリーさんは悩んでいる。


 『顔も見たくない。私に再び愛を教え込もうとするあの男と』

 「グレモリー様の一番幸せだった時期はシトリーと一緒に居た時でしょ」


 グレモリーさんが息を飲んだのを見逃さなかった。ヴアルちゃんは泣きそうな顔で苦しそうに続きを告げる。


 「その時点で……答えは見えてるじゃない」


 グレモリーさんは固まって声を出さない。思い出してしまったのか、瞳が悲しそうに揺れる。あたしはグレモリーさんの肩にうずめていた顔をそっと上げた。


 「あたしも、好きな人いるの。その子は結構優柔不断で、あたしのこと好きなのかな?って思うときがあるけど、他の子にも優しくて……しかも悔しいことに結構人気があるの。あたし何回か友達から相談を受けたこともあるし、だからその度に不安になって告白もできないままずっと時間が過ぎて行っちゃってるの。上手くいかなくて苦しいけど、でもそれでも……その子があたしのことを幼馴染としてじゃなくて女の子として好きだって思ってくれていたらきっと今までの苦労や悲しさなんて一瞬で吹きとんじゃうんだろうな」


 グレモリーさんは返事をしてくれない。少しでも共感出来たらよかったんだけど、ただの片思いしか経験していないあたしには、全てを受け入れて励ますことができないんだろう。

 ヴアルちゃんがあたしの手を引いて立ち上がる。


 「後は本人同士だよ。行こう」


 ヴアルちゃんに引っ張られてグレモリーさんと離されてしまう。

 そんなあたしにグレモリーさんは声をかけた。


 『待って!そう言えば名前を聞いてなかったわね』

 「松本澪です」

 『み、お……』


 グレモリーさんの目が見開かれた。あたしの名前そんなに変なのかな?なんでそんなに驚くんだろう。そんな事を考えている間にグレモリーさんの腕に包まれた。


 「グレモリーさん?」

 『貴方、貴方だったのね……あの子が必死で守ろうとした子は』


 何の事を言ってるんだろう。でもグレモリーさんの声は切なそうで、よくわからないのにあたしまで悲しくなってくる。


 『澪、継承者の話は聞いているの。恐らく貴方にも悪魔の手は伸びてくるわ。でも大丈夫、全てを敵に回しても貴方を守ってくれる子がきっと現れる』

 「どういう、事ですか……?」

 『わかる日は来ないかもしれない。でもこれだけは覚えていて。貴方に全てを捧げてくれる子がいるわ。きっと』


 よくわからない、グレモリーさんはあたしを誰かと勘違いしてるんじゃないのかな。あの子が守っていたのはあたしじゃない。でもこの状況で否定するのも気が引ける。あたしは何も言わないでただグレモリーさんを抱きしめ返していた。


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