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第119話 真実の扉へ

薄暗い太陽の当たらない地下世界のような感じの場所だ。空気が淀んでいて、鉄のにおいや何かが腐ったようなにおいが充満していて思わず鼻をつまんだ。不気味な鳴き声のようなものがあちこちで聞こえ、ぼろぼろの小屋のような場所から出てきた俺達は辺りの空気に息をのんだ。


「嘘だろ……」

『嘘ではありません。恐らくここは私から具現化された地獄の光景です』


ストラスのカミングアウトに目が丸くなる。ここが地獄……ここが悪魔たちの世界……



119 真実の扉へ



数匹の悪魔が俺達を取り囲んでおり動けない。ビビってるってーのもあるけど、俺はここに連れてこられようとしてるんだと思ったら体が固まる。地獄なんて想像したこともなくて、本当にあるのかすらわからなかった。その光景が目の前に広がっている。


「冗談キツイ……」


悪魔はジリジリと俺たちに滲みより、今にも襲い掛からんと息を荒くしている。扉に視線を向けて逃げ道を確認するも扉の前に悪魔が立たれたら逃げる道がない。だからと言って反対方向に逃げるのも危険すぎる。

澪とストラスは俺が守らないといけない。戦えるのは俺だけなんだ!剣を手に持ち、悪魔たちを睨みつける。大丈夫、下級の悪魔ならきっと俺だって……!こっちはパイモン仕込みなんだ。お前らに負けるはずがない!


『どうでるか継承者……』


レラジェの声が聞こえた気がして、その声にはじかれるように悪魔たちが一斉に襲いかかった。俺は片足に重心を掛けて悪魔に剣を振り下ろす。しかし悪魔はそれを身を捩ることで避け、その体勢のまま俺に牙をむく。髪の毛が数本宙を舞い、何とかバックステップで体制を整えることに成功した。


「ふぅ……」

「拓也!」


澪に笑いかけ大丈夫だと伝える。心臓がうるさく音を立て、集中しなければ腰が抜けそうだ。そんな情けない体に鞭を打ち、俺はまた悪魔たちに向って走り出した。何か剣に何かを宿せないかな?炎とか雷とか……剣にイメージを吹き込みながら、悪魔たちに向かっていく。すると俺のイメージを理解したのか、剣が炎に包まれた。


「うお!」


熱いけど、何とか我慢できる熱さだ。しかし剣はメチャクチャ燃えている。うーん……これで倒せるのかわかんねえけど、やってみるしかないな。試しに一匹の悪魔に狙いを定めて剣を振り回す。まずは斬り込みで相手を避けさせて体勢を崩させた後に、斬り上げで退路を断つ。そんでその後は……斬りおろし!

パイモンに習ったまま、マニュアル通りに悪魔を追い詰めていく。そして退路を断たれ、体勢を崩した悪魔に俺は斬りおろしをかました。悪魔は逃げられないと悟ったのか剣を受け止める体制をとったが、剣を受け止めた瞬間、悪魔の体が炎に包まれた。


『ぐぎぎ……ぎゃああぁぁあ!』


断末魔の悲鳴を上げて、まっ黒に焦げた悪魔が地面に倒れ込む。俺が倒した……やったんだ。

その光景を見た悪魔たちは俺ではなく一斉に澪とストラスに襲いかかった。


「きゃあぁあ!」

『澪、伏せなさい!私が盾になります!!』


ストラスが澪を庇うように前にでる。

やばい!ストラスが!!


「やめろ!!」


俺は思いっきり剣を悪魔に投げつけた。剣は悪魔の腹に突き刺さり、悪魔はまた炎に包まれて地面に倒れた。しかし剣を手放した俺を今だと言うように悪魔たちが飛びかかってくる。


『拓也!後ろです!!』

「ちくしょうが!」


指輪が薄く輝きだす。そうか!これで魔法を使えば!逃げる事なく、悪魔たちを睨みつける。


「てめえら皆吹き飛ばしてやるぜ!」


そう叫んだ瞬間、指輪から大量の風が吹き荒れ、悪魔たちは風に吹き飛ばされて、木や岩に体をぶつける。


『この中に入りなさい!安全です!』


ストラスはいつの間に描いたのか、何かの魔方陣の中に澪を入れる。嵐のような風は悪魔の息の根が止まるまで風を作り出し、指輪の光が収まり風が止んだころには辺りはぼろぼろになっていた。悪魔たちはみんな死んでるし、木は倒れ、岩は傷が付いていた。


「これを俺が……」


途端に自分がしたことに恐ろしさを感じる。悪魔と言えど殺した。何も考えられなかった。ただがむしゃらに戦った。座り込んでしまった俺に澪が走り寄ってきた。


「拓也!大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫だけど……小屋は!?あれがないと次の場所に行けないぞ!」

『だいじょうぶです。小屋は壊れていますが壁と扉は何とか。開きさえすれば大丈夫でしょう。


めちゃくちゃになった辺りを見ると、本当に自分がやったのかと思ってしまう。でもよかった、小屋が壊れていたら洒落にならない。

安堵の息を吐いた俺にストラスが驚きを隠せないというような顔をしている。


『拓也、貴方いつの間にこのように強く……修行の成果が出たのですね!お見事です!』


確かに。いくら下級の悪魔と言っても五匹に一気に襲いかかられて倒せるなんて俺もストラスも思ってなかった。何とかして逃げ切れればと思ってたくらいなのに頭が妙にクリアだった、逆に冷静になってた。

ストラスが大げさなほどに羽をパタパタ拍手のように叩いて喜び、照れ臭くて頭を掻いた。


「俺、強くなったのかも」

『そうでしょう!素晴らしい!流石私の契約者ですね!さあ、進みましょう。ここにはあまりいたくありません』


そうだよな。小屋のドアノブを手に取って回してみると問題なく使えるようだ。俺と澪はその後を慌てて追いかけた。


***


光太郎side ―


「……」

うほっうほっ

「…………」

うほっうほっ


隣には一緒にうほうほ言ってる中谷。マジでうほうほじゃねえし、これどうすんの?どうやら俺たちはキングン●ングの世界に来たみたいだ。目の前でうほうほ言ってるこの巨大なゴリラを見ればわかるように。しかもこのゴリラ、俺たちを放してくれない。離れようとすると怒るのだ。気に入られてしまったのか?だとしたらこんなに意気投合している中谷のせいに違いない。

こいつら一緒にバナナ食ってたからな。


「中谷、早く行こうぜ」

「そうだけどさぁ。どうやって?」

「適当にどっかのドアから」

「ここジャングルだし」


そう、ジャングルなのだ。ジャングルのどっかの扉から出て俺たちがゴリラに連れてこられてしまった。つまりこの場所がどこかわからない。


「俺は行くぞ」

「もう?」

「もうじゃねえよ。早く拓也を見つけないと」


俺はソローっとゴリラから離れて近くの洞窟に入ろうとし、中谷も俺の後をそろっと付いてくる。


うほっ

ビクッ!


嫌な空気が俺たちを包み込む。

恐る恐る振り返ると、暗闇の中に光るゴリラの目。


「「ぎゃああぁぁぁあああ!!!」」


俺と中谷は悲鳴を上げ、慌てて洞窟の中に逃げ込む。ゴリラももちろん俺たちを追ってくる。

何でこんなことになるんだよ!早く拓也のとこに!早く早く!!

洞窟の出口が見えて、俺と中谷は全速力で出口に向かって足を動かした。


***


拓也side ―


ストラスが明けたドアの先は空間が歪んでいる。俺はその中に一歩踏み出そうとした……のだが。


「ぐふ!」


突然何かがドアから出てきて俺に衝突してきたせいで、俺は奇声をあげてその場に尻もちをついてしまった。ぶつかってきた何かも俺の上に覆いかぶさってくる。

これってまさか……


「ぎゃあぁああ!悪魔が俺に!」

「ごごご、ゴリラは?ゴリラは!?」


は、ゴリラ?俺にゴリラがのっかってるって言うのか!?だからこんなに重いのか!!

恐る恐る目をあけると、そこには光太郎と中谷が扉を凝視していた。


「中谷!光太郎!何でここに!?」

「た、拓也!やっと見つけた!」


光太郎は俺に抱きついて大声で喚きだす。てかここどこだ?見覚えがありすぎるんだけど!机や黒板、掲示板にロッカー。まさしくこの場所は俺の学校の自分の教室だ。危険な場所からは逃げられたってことに力が抜けた俺をしり目に中谷と光太郎は泣いて喜んでいる。


「もうドラ●もんの世界に行ったり、映画の世界に行ったり、鬼狩りしたり、野球選手に会ったり、ゴリラに好かれたり大変だったんだぞコノヤロー!」

「分かったから何でここに!?ここ一応俺ん家だぞ!」

「シトリーが拓也を助けに行けって。それで来たんだけど予想外だったよ」


それでか。巻き込むまいとしてたけど、シトリーが連絡したのか。ある程度の説明は受けてきていたようだが、まさかここまでとは思っていなかったようでかなり苦労したみたいだ。あと、玄関があかなくて窓ガラスを割ってきたこともカミングアウトされて固まる。

光太郎と中谷は弁償すると言っているけど、全部が元に戻って窓ガラスが大破されていたら母さんたちビビるだろうな。

とりあえず揃ったことで状況を整理する。どうやったらレラジェのいる世界に行けるのか、どうやったら帰れるのか。


「これ俺の勘なんだけどさ、この二週間以内くらいですっげー印象的だった光景が浮かんでんだよね」


光太郎の言葉で今までの世界を頭に浮かべてみると確かにそうかもしれない。俺の中で印象に残っているような内容が出てきていたような気がする。それは澪とストラスも同じなんだろう、考え込んでいた。


『確かにそうかもしれません。私たちの特に心に残っている出来事が具現化されているのでしょうね』

「それとな。扉を開いた奴の世界に飛んじゃうんだよな」


そうなのか。でも確かに……今までそうだった気はする。俺たちが気付かなかったのに、光太郎達が気付くとか何だか情けない。俺達よりしっかりしている気がする。


「ストラスがレラジェの事めっちゃ考えてストラスが扉を開ければ行けるんじゃね?」

『しかしその為にはレラジェのいる世界を想像しなければなりません。それは中々……』

「ストラス?」


ストラスは断ったと思ったら急に何かを考え、思い出したように顔をあげた。


『そうか。なぜ私は思いつかなかったのか……できるかもしれません。彼が今いる世界。おそらく地獄のどこかです』

「どういう事?」

『この世界は記憶から作られた世界。すなわちレラジェは自分が今一番記憶に残っている場所にいる可能性が高い。その場所となると恐らく地獄の中の彼の住んでいる場所でしょう。契約者の元だったら想像つきませんが、三匹で襲撃してくるくらいです。契約者はいないのではないかと想定します』

「じゃあ行けそうか?」

『わかりません。しかし私に賭けてください』


ストラスの言葉に俺たちは一斉に頷いて、それぞれ武器をぎゅっと握る。俺は剣を、光太郎は竹刀を、中谷はバットを、澪はクイックルワイパーを。ぶっちゃけ俺と光太郎以外の物は使い方を間違ってる。そしてレラジェの居場所を創造するストラスに俺たちは賭けてみた。

ストラスがずっと目を閉じていたかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


「行けるのか?」

『ええ。私のできる限りの想像をしました。行けなければ申し訳ない』

「そしたらやり直せばいいよ」


俺はストラスを肩に乗せて扉の前に立つ。この先にレラジェが……ストラスはあいつのことをかなり強いと言ってた。そんな奴に俺は勝てるのか?


「大丈夫だぜ池上」

「中谷」


中谷は俺の肩を軽く叩く。


「一対四だしな。袋叩きにしてやろうぜ!俺はケツバットをかましてやるぜ!」

「なんじゃそりゃ」


中谷はふざけた口調でバットをスイングして見せ、それに突っ込む光太郎。でも緊張は少しだけほぐれていく。二人が来てくれてよかったと心から思った。澪とストラスを当てにしていない訳ではないが、それでも純粋に戦力が増えたと思ったから。

そしてストラスはドアを足で開けた。


「ここ……」


扉をくぐった先はどこかの家の中だった。中はボロボロで、乱雑に散らかっている。部屋の中には何かの骨がいくつも落ちており、不気味な洋装にストラスを先頭にしてゆっくり先に進む。


「これ本物かよ」


骨を人差指でつついて遊ぶ中谷の首根っこを引っ張って先に進む。進んだ席には広い部屋にたどり着き、室内は蝋燭の光が辺りを不気味に照らす中、いくつかの椅子が並んでいる。そしてその中で巨大な弓を抱きかかえて座っているレラジェがいた。こいつは幻覚とかじゃないんだよな。


「レラジェ……」

『ブラボー。俺の試験は合格とだけ言っとこうか』


こいつを倒せば父さんを助けられる!どのくらい時間が経ったんだろう。父さんは大丈夫なんだろうか。はやる気持ちを抑えて深呼吸をして、俺は剣をレラジェに向けた。


「早く解毒剤をよこせ」

『それは俺を倒してからっつっただろ。今からが本番なんだよ』


レラジェはゆっくり立ち上がり、俺に人差指を向ける。思わず構えたけど、レラジェは戦うわけではなさそうだ。


『見てみるか?お前の愛しのパパの様子をな』

「はぁ!?」


レラジェが指さした先に家の映像が映し出された。父さんは矢で射ぬかれた場所から少し上をハンカチで縛りつけて苦しそうに息を吐いている。変色部位はかなり広がっており、膝に迫る勢いだ。

まさか俺の家族がこんなことになっていることまでは想像していなかったんだろう、中谷と光太郎は顔を真っ青にして映像を見ている。


「貴方、大丈夫?」

「なんとかな……っ」

「ぱぱー頑張って!兄ちゃんがもうすぐ絶対に戻ってくるから!」


父さん、かなりきつそうだ。急がないと。こっちが必死になってここまで来たと言うのに、父さんたちを見てレラジェはおかしそうに笑った。


『うひゃひゃ!残念だけど兄ちゃんは二度と戻ってこれないんだよねぇ!可哀想だけどなぁ!!』

「ふざけんな!よくも父さんを!」


光太郎も中谷も澪もレラジェに武器を構える。しかしレラジェは笑っていた表情を変えた。先ほどまで馬鹿にしたように笑っていたのに、今は違う。怒りを抑えきらないのが見てわかり歯ぎしりをした。


『お前何言ってんの?なにが“よくも父さんを”だよ。それじゃ俺もよくもザガンをって言っていいの?』

「は?」

『この家はな、俺達四人が遊んでた家だ。可哀そうなザガン。あんなに怪我をして……治るまでにかなりの時間がかかるだろうなぁ。ましてや天使から受けた傷だ、すぐには回復できないと思う』


そうだ、あいつらは四人でワンセットって言われるくらい仲がいいとかストラスが言っていた。なんだこれ……もしかしてこいつが俺を襲撃してきたのって……


「それはあいつが!」

『自分が他人を傷つけるのは良くて、悪魔だとダメなのか?それはただのエゴだ。てめえは正義じゃねえよ』


レラジェは弓を構えて矢をセットし、まっすぐ俺たちを見据えている。


『ザガンの仇は俺がとる』


親友の敵討ち?おい、なんだよそれ。なんで俺が悪者にされるんだよ。

無駄に人間くさいところを見せられて困惑してしまう。だってもっと冷酷な奴じゃないと、悪い奴だと思えないじゃないか。友達の仇を取る ― そんなこと言われたら自分が悪いみたいじゃないか。でもこいつが俺の父さんをあんな目にあわせたのは確かだ。それを俺は許すわけにはいかない。

何が何でもこいつを倒さなきゃ……こいつを倒して父さんを元に戻したら、次はダンダリオンとハルファスって奴らだ。ここで躓く訳にはいかない。


俺は深く深呼吸をして、狙いを定めるレラジェにゆっくりと近づいた。



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