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第112話 芸術の国の悪夢

 あの旅行の日から変な夢を見るようになった。この夢が天使や悪魔が関与しているかすら確実じゃないから、ストラスに相談するほどのないようでもなさそうだし。でも、一回きりで終わらず、何度も同じような夢を見るんだ。どこからか声が聞こえて、俺の名前を呼び掛けてて……


 あの声は誰なんだ?



 112 芸術の国の悪夢



 家に帰った俺を迎えたのは母さんと直哉とストラスだった。母さんは俺が怪我をしてないか逐一聞いてくるし、直哉とストラスにいたっては心配する気配もなく土産を寄こせ寄こせとやかましい。とりあえず、たこ焼き味のせんべいを手渡して荷物を自分の部屋に持って行く。


 『拓也、お疲れ様です』


 部屋について荷物を片づけていると、いつの間に部屋に来たのかストラスに話しかけられた。口にはタコ焼きせんべいを咥えて。それ、床にこぼすなよ。


 「おー。どうだ?美味いか?」

 『そうですね。まあポテトには敵いませんよ』


 ……買ってくるんじゃなかった。なんだよその感想、お土産ってだけでせんべいでも千円すんだからさー。空気読めよ。まあいいや、こいつはそんなことわかんないんだし。とりあえずストラスに旅行中に遭遇した悪魔の事を話した。ストラスは少し驚いてたけど、何とかなったって言ったら少し安心したみたいだ。


 『そうですかバラムが……しかし倒せて何よりです。フルフルには逃げられたと聞いていましたからね』


 フルフルか……絵里子さんはまだ目を覚まさないのかな。真理子ちゃんは覚ましたら連絡をくれると言ってくれた。でもそれがないって事は覚ましてないんだろう。それと同時にふと疑問がよぎった。


 「お前らあの時どこに行ってたんだ?」


 ストラス達は行くとこがあるからってついて来てくんなかったんだよな。ストラスは言ってませんでしたっけ?とかとぼけてくる。言ってないよ。と返すと、軽い謝罪を入れて、自分がしていた事を教えてくれた。


 『フォカロル、レラジェ、そしてアンドラスの居場所を探していました』


 前にも言ってたな、親友だって。そう言えばフォカロル以外の情報は聞いた事がない。

 これを機に聞いてみるかな。レラジェとアンドラスは何者なんだ。と聞けば、ストラスはそれも言ってませんでしたっけ?とボケる。こいつ認知症なんじゃねえの?言ってねえよ。と返せば、また説明してくれた。


 『レラジェとアンドラスは共にソロモン七十二柱の一員です。二匹とも戦闘能力が非常に高いのです』

 「ふーん……やっぱそいつらもタッグ組んでんのかね」

 『どうでしょうね。しかし十中八九そうだと思います』


 ……じゃあザガンも入れてトータル四匹か。あんな奴らがあと三匹も来るなんて考えたくない。ザガンの時の戦いは今でも思い出したら背筋が凍るんだ。もうあんな奴と戦いたくない。


 『あの四匹はそれぞれが親友だと思っています。彼らはザガンに手酷い傷を負わせた貴方や私たちの事を許さないでしょう。彼等も他の悪魔同様、貴方を殺す勢いでかかってくると思います』

 「怖い」

 『今さらですよ。しかし貴方は私たちが命に代えても守ります』


 地獄にも人間関係みたいなのがあって、悪魔同士で親友とか恋人とか色々あって……確かにそいつらからしたら俺のことが憎いだろうな。大切な親友が傷つけられたんだから。多分、そいつらとは相容れないんだろう。

 ストラスの真剣な目に思わず息を飲んでしまう。命に代えてもとか言われると正直かなりきつい。重すぎる。


 「それ重いから止めて」

 『……私の決意を無下にしましたね』


 ストラスにそう告げて、荷物を纏めてスウェットに着替える。その間、ストラスは留守番をしていた間に何をしていたか教えてくれた。まあ、随分と楽しんでいたようだ。俺が大阪に行くからという理由で自分もタコ焼きとお好み焼きを食べたいと騒いだらしく、直哉と一緒にタコ焼きを買いに行ったんだと言う。しかもお好み焼きは母さんが作ってくれたらしく、大阪フードを自宅で満喫したのだそうだ。

 

 フクロウ連れた小学生がたこ焼き買いに行くなんて……こいつ、問題起こしてねえだろうな。


 『たこ焼き、お好み焼き、チープな味ですが中々の美味しさ。タコを中に入れてこんがり丸く焼き、香ばしいソースと濃厚なマヨネーズでいただく幸せ……人間の英知に私は感服しました』

 「……お前、食い物のこととなると本当に表現大げさだな」

 『母上が作ってくれたお好み焼きも絶品でしたよ。フワフワですが、豚やイカが中に入っていて、ソースとマヨネーズと合う。私は日本の郷土料理を他にも食べてみたくなりました。ので、今度もんじゃ焼きなどどうでしょう』

 「あれって作るの難しいんじゃないの?俺は知らんけど」


 着替え終わって、次々と食べたいものを注文つけてくるストラスを抱き上げてリビングに向かう。相当美味しかったらしく、ひたすらお好み焼きのすばらしさを語るストラスに褒められた母さんが喜んでいるのを見て、こいつは他人をほめるのが上手いなと純粋に感心してしまった。


 「拓也、旅行はどうだったの?」

 「楽しかったよ。USJとか、飯も美味かったし」

 「いーなー!俺行ったことないもん」

 「今度おじいちゃんの家に行った時に連れて行ってあげるわよ」


 良かったわね、そう言いながら母さんは俺が買って帰ったお土産のせんべいを食べる。

 あー明日から学校か。


 ***


 「土産も持ったし……行けるな」


 次の日、皆の土産をちゃんと持ってるかを確認してリビングに向かった。ストラスも一緒に向かい、出された朝食を食べている時、思い出したように顔を向けた。


 『拓也、私は今日はパイモンのところに向かいます』

 「何かあんの?」

 『特には。ただ探さねば見つかりませんからね』


 確かにね。向こうが俺たちがどこにいるか感づいているんだ。俺たちも相手の場所を調べないといけないもんな。

 朝食を食べ終わり、行ってきますと告げて出て行った俺をストラスが少し心配そうな表情で眺めていた。


 「おはよー」


 学校についた俺は桜井達がいないかクラスの中を確認する。あ、やっぱ藤森はいつも早いな。後は……お、桜井が必死で宿題写してる。ジャストは来てるけどオガちゃんは来てないな、部活か?チャリ通の立川も来てる。中谷は朝練だしな。とりあえずいる奴らに渡すか。


 「なーなーこれ大阪に行ったんだけどよー。光太郎と買ったんだよ土産」

 「え?まじで!?広瀬と行ったん?クソうらやま」


 藤森と立川に渡すと二人は早速ガサゴソと袋を漁り始めた。大したものは入っていないけど、二人は中身を確認して嬉しそうに目を細めた。


 「おっ!タイガースじゃがりこ!それにUSJのお菓子じゃん!サンキュー池上!」

 「えー俺巨人なのにーわかってねえな」


 うるさいな立川。大阪っつったら阪神タイガースだろ。なんだかんだ言いながら立川も藤森もじゃがりことカールを食べている。その後、俺はジャストや丁度教室に入ってきたオガちゃんにも渡し、桜井、上野にも土産を手渡した。


 「いいなぁ。俺も合宿さえなかったら絶対に行ったのに」


 お土産を受け取った中谷は心底羨ましがりながら土産のお菓子を食い、エルモのストラップを自転車の鍵に取り付けた。光太郎から楽しかったと写真を見せられて、ヴォラクとシトリーも写っている写真に中谷は羨ましそうに机に突っ伏す。

 今度、三人で旅行に行こうと話をして、今日一日の学校が終わりを告げた。

 

 ***


 「じゃあ体育祭の種目を決めたいと思います」


 放課後、委員長が黒板に書いた種目を読み上げていく。忘れてたけどもうすぐ体育祭だった。マンションに行きたかったのに、HR後に話し合いをすると言って残っているんだ。早く終わるといいんだけどな。

 体育祭は五月の確か第四月曜がそうだった気がする。ついに来てしまった、魔の体育祭。運動音痴の俺からしてみればこんなもの拷問以外の何物でもない。衆目に恥をさらすだけだ。後ろの席の上野も面倒くさそうな顔をしている。


 「体育祭ってさぁ……本番は楽しいんだけど練習がめんどいんだよな」


 うん、まったく同じ。


 「でも負けると何か悔しいんだよな」


 なんだ、みんな思う事は一緒か。


 俺は上野と雑談しながらも一番楽な種目を取るのに必死だった。つかぜってー騎馬戦は男子強制参加だし、あと玉入れが前に書いてあるけど全員参加か。んでリレーは選ばれないから関係ねえか。だとしたら俺が選ぶのは借り物競走、棒倒し、綱引きだな……よし、絶対に綱引きとるぞ。そんな事を考えながらも競技はどんどん決まって行く。女子は棒引きとムカデ、障害物競走を選んでいる。


 「あ、そう言えばまだ決めてなかった。すいませーん。体育祭実行委員と応援団を先に決めたいので立候補者はいませんかー?応援団の方は競技とかぶってても構いませーん」

 「あたし体育祭実行委員で!」


 クラスメイトの高橋が手を挙げる。えー何で?体育祭実行委員ってだるいじゃん。準備忙しいのに。体育そんな好きそうじゃないのになあいつ。


 「高橋の奴……逃げたな」


 は?逃げた?

 上野がなに言ったのか分からず、俺は上野に問いかけた。


「何のこと?」

「実行委員ってめんどいけどさぁ、当日はテントで茶飲んでるだけでいいんだよ。競技は不参加」


 何それズルイ!競技とか俺はだけど見てるだけが楽しいのに!!実行委員の定員は一人、つまり高橋で埋まってしまった。くそぅ……

 応援団の方は流石と言っていいのか……こういうお祭り騒ぎ大好きな中谷と藤森が立候補してた。他にも女子が一人立候補し、すぐに決まったことに安心した委員長はまた種目を決めていく。


 「拓也、お前何するんだ?あの中から一個だろ?」

 「綱引き。ぜってー楽そうだし」

 「でも綱引きって確か六人だろ?結構立候補者いんじゃね?お前は澪ちゃんに格好いいとこ見せないとだから棒倒しで相手をぶっ飛ばすしかねえよ」

 「馬鹿!澪の前で恥をかけるか!つかお前は何度言ったら分かる。松本さんって言え!」

 

 こいつ絶対に綱引き狙っているから俺を落とそうとしているな?そんな手にはのるか!綱引きは定員六名と三つの中で一番少ない。他のはそれぞれ七名なのに、まあ一人も二人もかわんねえけど。なのに、なのに……


 「じゃあ池上は棒倒しな」


 なぜこうなった?

 えーっと確か綱引きがなぜか十人も立候補してて、俺負けちゃって、借り物競走は一巡目で決まっちゃって、残ったの棒倒ししかなくて……え――――!!??


 「生き残れよ拓也……」

 「変えて上野」

 「ごめん無理」


 くっそー!上野の奴ちゃっかり綱引きゲットしやがって!しかも何!?棒倒しって滅茶苦茶こえーんだぞ!?マジで下手したら怪我すんだから!同じ棒倒しになってしまったジャストと立川が顔を青ざめさせている。マジで泣きたいよもう……

 俺が項垂れていても皆は待ってはくれない。他の競技も決まっていき、最後の競技の話題に入った。


 「えーと最後にリレーの選手を決めたいと思います。男女一人ずつ選抜します」


 お、リレーか。リレーって見てるのはすっげー燃えるんだよね。ただ、体育の時間で五十メートル走のタイムを計っているので、それをもとに選手を決めるため俺には関係のない話だ。


 「えーっと……女子は村井が7秒58、篠岡が7秒47……篠岡行ける?村井も補欠で行けるか?」

 「え!?あたし!?無理!」

 「無理じゃなーい。クラスでお前一番早いんだから。決定ー」


 いきなり指名された篠岡さんがすっげー焦ってるが、、委員長は篠岡さんの意見を完全無視して書き込んでいく。勿論補欠の村井さんも同じだ。委員長強引過ぎる。もう面倒になって早く帰りたいんだな。


 「男子の方は甲斐田が5秒87、立川が6秒43、中谷が6秒17、藤森が6秒28……」


 うちのクラス五秒台いるの?陸上部いないのに速すぎだろ……それぞれスポーツしてるしな。甲斐田と藤森はサッカーだし、中谷は野球やってっし。うちのクラスは陸上部の奴がいないから、こういう奴が早くなるんだろうな。そうなると立川すげえな、帰宅部のくせに。確か立川って中学でバスケやってたらしいし、だから速いのかな?でも流石に応援団である中谷がリレーに出場と言うのに秋本も困り顔だ。


 「参ったなぁ……中谷行けるか?応援って練習きついし、リレーも色々練習あるだろうけど」


 でもそこは中谷と言うべきか、二つ返事で了承は来た。すげーなあいつ。てか運動神経いいとは思ってたけど、足がそこまで早いとは思わなかった。

 結局リレーは中谷と補欠で藤森が選出された。


 ***


 「体育祭楽しみだよな!」


 帰り道、ルンルン気分の中谷を他所に俺と光太郎はため息をついた。光太郎は借り物競走、俺は棒倒し、共に気分はブルーだ。光太郎は綱引きは人が多いと踏んだらしく、借り物競走にシフトしたそうだ。それにしても何でお前がそんなに落ち込むんだ、落ち込むのは俺だろ。


 「あーどうしよう……借り物で好きな子とか書かれてたら、いない俺はどうしたらいい!?」


 マンガじゃあるまいし、そんなもん入れてねえだろ。


 「その場合は俺か中谷選べよ。運ばれてやるから」

 「なんでクラスの奴らにネタを与える必要があるんだよ。松本さん借りていい?」

 「ぶっ飛ばすぞ」


 光太郎の訳の分からない心配はさておき、俺と中谷はマンションに向かう事にした。光太郎は塾らしくて途中で別れ、マンションについた俺達はヴォラクに鍵を開けてもらい、部屋に入るとストラスとセーレとシトリーとヴアルの姿が見えなかった。ヴアルは澪と遊ぶって聞いてたからいないのは当然だけどストラスの奴マンション行くっつってなかったっけ?


 「主、中谷いらしてたのですか」

 「あーうん。ストラスとセーレは?」

 「彼らなら少し出ています。もうしばらくすれば戻るのでは」


 そっか、またフォカロルとか探しに行ってんのかね。大丈夫かな、無理して探さなくてもいいと思うんだけど。思わずため息をついた俺を見て、パイモンが少し困ったように笑いかけた。


 「心配ですか?」

 「……少しだけ。あいつらは俺たちの居場所知ってて、俺達が知らないってずるいって思うけど、無理して探し回って見つけたはいいけど襲われないかな、とか」

 「そうですね。その辺は上手くやってもらうしかないですが、セーレがいるから大丈夫でしょう。もうじき戻ってくるから待ちましょう」


 そんなに自分たちから探さなきゃいけないほどフォカロルは強いのか?いや、あいつだけじゃない。レラジェって奴もアンドラスって奴も……ザガンがあれだけ強かったから強いんだろうけど。


 「主、今日はどのような用事で?稽古ですか?」


 パイモンのこの様子だと悪魔の情報なさそうだし、気にしなくていいんだろうけど……それより稽古だよな。頷いた俺を見て、中谷とヴォラクも顔を見合せて笑い合う。俺はそのままパイモンが広げた空間の中に飛び込んだ。


 『主、今日も実践練習です。私も動きます。魔法を使っても構いません。自身の力で私を追いつめてください』


 パイモンはそう簡単に説明するなり、俺に向かって走り出した。パイモンが振ってきた剣をバックステップすることで何とかかわして距離をとる。剣のリーチはパイモンのよりも俺の方が長い。それをわかっている俺は距離を取ってパイモンに剣を突き出すが、やっぱりそんなのお見通しでいとも簡単に避けられてしまう。


 「くっそー!これなら」

 『詠唱することができますかね』


 距離をとろうとすればパイモンは俺の懐に入って攻撃をしてこようとする。ハッキリ言って避けるので精一杯だ、しかもパイモンは全然本気じゃない。俺が攻撃しない事を注意したり、どうやって避けるべきかを指示しながら攻撃してくる。つかこんなの勝てなくね?強すぎじゃね?俺が弱いだけ?何とか剣が薄く光出したのを確認して俺はパイモンに魔法を放った。


 「これでどうだ!」

 『甘いですね』


 え?え?え?今パイモン何したの?俺が出した水を何か剣で切り捨てたんですけど!そんな事できるもんなのか!?


 「え!なんで!?」

 『よそ見をしていていいのですか?』


 思いっきり剣を振り下ろされ、何とかそれに剣を立てて応戦したけど剣はいとも簡単に弾き飛ばされてしまい、のど元に剣を突き付けられ敗北が決まった。


 『私の勝ちですね』

 「また負けた……」


 思わず座り込んだ俺を見てパイモンは優しく笑いかける。


 『進歩ではありませんか?戦いながら魔法を打てるようになるのは大きな成果だと思います。それに私の太刀筋もちゃんと見きわめて応戦出来てたではありませんか』

 「でも本気じゃないんだろ?」

 『そんな素人相手に大人気ない真似はしません』


 ですよねー勝てるとは思ってないけど、少しくらいはこっちが優勢になれる状況を作れるんじゃないかとか思ったんだけど、全然のようだ。


 『おー中々見ごたえあったんじゃない?』

 「お前ら見てたの?」


 気付かなかった。俺の後ろにはフォモスとディモスに乗った中谷とヴォラクがニヤニヤしながら俺達を見降ろしていた。つか中谷なにちゃっかり乗れるようになってんの?


 『ヴォラク、そっちの状況はどうなんだ?』

 『中谷は拓也より強いよ。雑魚相手なら十分やれる。また今度空中散歩したいよね~』

 『空中散歩は構わんが一般人にばれない様にしろよ。それに主より弱かったら話しにならないだろう……』


 あ、傷ついた。いやいや何失礼なこと言ってんの二人とも。パイモンさっき上達したっつってたじゃん。

 なのに何?俺は話しにならないって言いたいの?


 「パイモン酷くない?俺ってそんなに弱いの?」

 『そう言う訳では……中谷は主よりも数ヶ月間早く稽古をしています。それなのに主よりも弱いとなると問題でしょう』


 あ、そう言う事……なんかちょっと安心。いやでも分からんぞ。こいつは酷いことでも結構平気で言うからな。俺は立ち上がって消えてしまった剣を再び手の中に出す。


 『主、もう一度やりますか?』

 「そうする」

 『ふーん……よし中谷、俺らもスパーリングやっちゃう?』

 「やっちゃう」


 中谷とヴォラクも剣を構えてフォモスとディモスから降りた。

 よっし。今度こそもうちょっとパイモンを追いつめるぞ。


 ***


 『やっと辿り着きましたね』

 「もうクタクタだよ。契約石のエネルギーもかなり使っちゃったし……これ以上の行動は拓也がいないと無理だな」

 「この短い時間で色んなところ探しまわったからな」


 あれ?この声って……

 声に反応したのは俺だけではなく、パイモンも聞こえていたようで視線を声をのする方へ向けている。


 『ストラス達が帰ってきましたね』

 「え?パイモン?」

 『主、少し休憩しましょう。話を聞きたい』


 パイモンが剣をしまって空間の外に出て行く。

 話?ストラス達は一体何をしてたんだ?中谷とヴォラクに声をかけて俺は慌ててパイモンを追いかけて空間を出た。部屋の中ではソファに腰掛けてるシトリーとテーブルに座っているストラスと三人分のお茶を出しているセーレがいた。


 「ただいまパイモン、遅くなってごめん」

 『お疲れセーレ。話し声が聞こえてな。何か掴めたのか?』

 「稽古してたみたいだから話しかけずにいたんだけど……今は大丈夫なのか?」

 『問題ない。居場所はつかめたのか?』


 何?なんか深刻な話なのか?俺もソファの隅っこに腰掛けて話を聞く体勢をとる。ヴォラクと中谷も空間から顔をのぞかせて話を聞いている。でもストラスたちは首を振った。


 『いいえ、はっきりは。レラジェの事ですからダンダリオンを探し回っているか、ハルファスから逃げているかと思い、その二匹も探していたんですけどね……アンドラスの行方もフォカロルの行方もわかりませんでした。ただ……』

 『ただ……なんだ?』

 『ええ。イタリアを探している途中、シチリア島で悪魔の姿を確認できました』

 『相手は』

 『サロスだったと思います。彼がいた場所はシチリア島のマフィアの基地でした』


 マフィア!?

 その単語を聞いた俺と中谷は背筋が凍った。マフィアってあのマフィアだよな?嘘だろ。そんなの怖すぎるじゃん!漫画の世界じゃんか。でも確かに悪魔が一般人と契約するメリットよりも、こういう犯罪組織と契約する方が好きに暴れまわれるもんな。

マフィアと契約なんていかにも悪魔らしいと思ってしまう。


 『契約者は?』

 『そこまでは……』

 『そうか』

 『はい。全ての人間が銃を持って武装していたあたり、危険な場所と思われますが』

 『だからと言って逃げるわけにはいかないだろう。現に悪魔の姿は確認できてるんだ』


 え、行きたくないんですけど。怖いんですけど。だってマフィアだろ?狙われたらどうすんの?地の果てまで追ってきそうじゃん!そんなの危険すぎる!!大体マフィアって何だよ!?そんなとこに行くってのかよ!思わず震えた俺を見て、パイモンはため息をついた。


 『主、そのように怯えなくとも、心配なさらずとも何とかなりますよ』

 「何でそんな楽観的なわけ?」

 『今までも何とかなってきましたからね』


 そうだけど……でもマフィアの基地とか行きたくないじゃん。違う意味で殺されそうだよ。中谷も話を聞いて不安そうな表情を浮かべている。そりゃそうだ。中谷はこのあいだのトラウマがあるんだから。また人が死ぬとこなんて見たくないだろう。マフィアが相手とかなんか嫌な目に遭いそうだし。


 『とりあえず調べてみるか。稽古はここまでです。どうしてもと言うのならシトリーを使ってください』

 「おい」


 シトリーの突っ込みもなんのその。パイモンは早速パソコンの電源をつける。

 残された俺とシトリーは顔を見合わせる。


 「どうすんだ?稽古したいなら付き合ってやってもいいけど」

 「いい。疲れたから休む」


 いいや、別にシトリーにつけてもらわなくても。こっちも疲れてたところだし。俺は剣をしまってソファに腰掛けた。中谷とヴォラクは続きをやるらしく、空間の中に戻っていってしまったけど。

 本当にまた嫌なことになりそうだ。なんで悪魔って厄介なのとしか契約しないのかな。そこら辺空気読めよな。ため息を吐き出して、ソファに深く体を預けた。



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