第110話 明日もそばにいて
優里side ―
優里は出来の悪い子だった。自分の性格に問題があることも分かってる。苛ついた時に我慢しないとって何度も思ってもカッとなってしまうこと、相手の意見を素直に受け入れることができない事、勉強も運動も周りの子に比べたらできない事、他にもたくさんあると思う。
友達を傷つけたことも、ぱぱがお金を払って示談?ってやつをして、ままが悲しんでたのも知ってた。
優里は昔から駄目な子だったと思う。
110 明日もそばに居て
優里の目の前で、今までありえなかった事が起こってる。金髪のお兄ちゃんが羽の生えた豹になって、優里と同い年くらいだった男の子が天使の姿になった。そして優里をお姫様にしてくれるって言ったバラムと戦ってる。
バラムはいい人。
見た目が恐かったから初めて見たときはビックリしたけど、優里をお姫様にしてくれるって約束した。でもその代償がままって何で?優里をお姫様にするのと、ままとが何で関係があるの?
ままは優里が言った言葉にショックを受けて、その場に座り込んでいる。それを見て、少しの優越感と大きな罪悪感。
優里にとって絶対の存在だったままが今は優里よりも弱く見える。優里は嘘をついた、お兄ちゃんは恐いって言ってたけど、ままのこと嫌いなんて言ってない。ぱぱもままのことが嫌いなんていってなかった。嫌いなのは優里だけ……
ただ優里が大げさに表現した言葉に、ままはショックを受けてる。でも言っちゃった言葉は戻らない、ままは優里を許さない、優里の事を嫌ってるから。
“何が嫌いよ……何でも許されると思って……あたしがどんな気持ちでいるかも知らないで勝手な事ばかり……ままだってね、あんたみたいな子、大嫌いなのよ!!”
その言葉を思い出しただけでまた胸が痛んだ。でもそれよりもこの状況をどうしよう。
目の前では本当に殺し合いが起こっていた。
***
拓也side ―
「くっそー全然手が出せねぇ」
浄化の剣を握り締めて、状況を眺めている。手が出せないのが弱いからだってこともわかってる。俺の後ろには優里ちゃんの母親を支えている光太郎。旅行に持っていくはずがないから竹刀を持ってない光太郎はシトリー曰く「戦力にならない」んだそうだ。でも浄化の剣を持ってても戦力にならない俺って一体……とりあえず魔法でも詠唱したほうがいいのかな?
いっつもストラスやパイモンが色々指示してくれるから何とかなってたけど、改めて一人で考えてやれと言われると、何をしていいのかわからない。稽古の意味がまるでないな……
流石に相手は大熊に乗って斧を振り回してるし、シトリーとヴォラクも少し戦いずらそうだ。とりあえず魔法を打つべく俺は剣にイメージを吹き込み始めた。
「大丈夫ですか?」
「私より優里を……あの子を助けてください」
俺がイメージを吹き込んでる間、光太郎が母親に声をかける。母親は未だに泣いており、俺達に娘を助けてくださいと言い続けており、優里ちゃんはバラムの後ろで完全に固まってしまっている。そりゃそうだろう、こんなのが目の前で起こってたら俺だって固まってしまう。
あ、剣が光り始めた。
「ヴォラク、シトリー!避けろよ!」
あの二人が戦ってくれてたおかげで、バラムは大きく動くことがなかった。そのおかげで魔法は当たりそうだ。俺は剣を向けて竜巻を繰り出した。竜巻は一直線にバラムに向かっていく。
『これは…!』
『ゲッ!避ケロヴォラク!!』
『わかってるよ!ほんっと拓也はいっつもやる事急だね!』
シトリーとヴォラクは空を飛ぶことで何とか避ける事が出来たが、バラムは避ける事が出来ず、竜巻がモロに大熊に直撃した。よっし!熊は倒れてピクリとも動かない。口から唾を流して倒れている辺り、多分気を失ったんだろう。今回俺めっちゃ役に立ったんじゃね!?
熊がいなくなったことで勝利を確信したのかヴォラクがグーサインをこっちに出してくれて、褒められたことに幾分かテンションが上がってしまう。役に立てたことが嬉しいと体全体から漏れ出て、俺のわかりやすい反応にヴォラクは苦笑いだ。
『さあバラム。お祈りの時間だよ』
『観念スルンダナ』
『ぐ……くそっ』
でもこいつ強そうな見た目に反して大したことないな。サブナックやザガンみたいに本当にやばい奴ならシトリー達もパイモンを呼べって言うもんな。悪魔をある程度特定できていても、それを言わなかった辺り、あんまり強くないのかもしれない。
そんなことを考えているとバラムは後ずさり、ゆっくり透明になっていく。
まずい!透明人間になったらどこにいるかわかんなくなんじゃん!
『バラムー悪ふざけも大概にしな。そんな子供騙しに俺らがやられると思ってんの?』
『ソウソウ。人間ハ騙セテモ、俺達ハ騙セネェ』
『ふん、仕方ない……』
バラムがそう言って透明になるのを止めた。でも代わりにと言っちゃなんだが、バラムの斧が光り始める。何が起こるって言うんだ?すると突然後ろから声が聞こえて振り返ると、優里ちゃんの母親が苦しそうにうずくまっていた。
「ちょ……光太郎、何が!?」
「わかんないんだよ!ただ急に!」
『オイ!ソイツ契約石持ッテンダロウナ!』
シトリーが焦った様に俺たちに大声を出す。契約石って……なんでそれと関係が……先ほどまで余裕そうだったヴォラクも焦ったように声を張り上げる。
『バラム!契約違反だぞ!』
『ふん、勝つためならば何でもする。目的のためならば手段を選ばない。それがルールだ。そして今がその時だ』
『止めろ!これ以上やるとお前の体が崩壊するぞ!?』
『貴様らに審判の邪魔はさせん!そして継承者を地獄に連れ帰る!それが私に与えられた使命だ!』
『雑魚のくせに使命感感じてる場合かよ……サブナックに比べたら、お前なんかクソみそだっつの』
何がどうなってんだよ!話についていけねーよ!でもこいつのせいで優里ちゃんの母親に危害が加えられているのだけは確かだ。
『拓也!ソノ女カラ契約石ヲ探シテ外セ!』
「え!?」
『愚図愚図言ってないで早く!』
ヴォラクとシトリーに怒られて、俺と光太郎は倒れている母親が見につけているであろう契約石を探した。
「どこにあんだよ!?」
『拓也!あいつの契約石はメテオライトのアンクレット!足を見な!早くしないと死ぬよ!』
「あった!くそ!」
光太郎が契約石を見つけて、それをお母さんから取り上げた。契約石は異様な光を放っている。こんなの見たことない……ヴァッサーゴの契約石みたいにこれも特殊な契約石なんだろうか。契約石は取り上げたけど、未だに苦しそうにしている母親は状態が改善しているとは思えない。
『……これくらい溜まれば、貴様らを打ち倒すのには十分だ』
なんで急にあいつは自信満々なんだよ。やられてたくせに。
『とりあえず……どうすんのシトリー』
『アノ程度ナラ持ッテ七分ッテトコジャネエカ?逃ゲルカ?』
『拓也たちが狙われたらお終いじゃん』
『ソウダナ。ウーン、二人ナラ何トカナンジャネェカ?アイツ、サブナックヨリモカナリ弱イシナ』
『サブナックと比べないでよ。あいつは剣豪で有名なんだから……』
ヴォラクが再び剣を構え、シトリーもグルル……と唸り声を上げる。そしてまたシトリー、ヴォラク、バラムの三人は戦いだした。あまりの迫力にその中に入ることができない。結局ポケーっと見てるしかない俺の後ろで、光太郎に支えられた優里ちゃんの母親が苦しそうに呼吸を繰り返す。
契約石をどうすればいいのか分からないけど、俺達が持ってた方がいいんだよな。
「大丈夫ですか?」
「……優里は、無事ですか」
優里ちゃんは完全に放心してしまっている。契約石は優里ちゃんの母親のエネルギーを吸い取って輝いており、俺達はできるだけ契約石を母親から離し状況を眺めていた。でもバラムの様子が少しおかしい、何だか体が少しだけ痙攣してるように見える。
先ほどまでとは打って変わり激しい攻撃にシトリーとヴォラクは防戦一方だったが、どんどん動きが鈍くなっていき、攻撃していたはずなのに血まみれになっているのバラムの方だった。
『……確かにお前急に強くなったけど、それでももう限界なんじゃない?』
ヴォラクが所々傷ついた体で立ち上がり、にやりと笑う。その言葉につられてバラムに目を向けると、バラムは体中から血を噴き出していた。戦いを見てる限りはそんなんじゃなかったはずなのに、なんでこんなに傷だらけに?驚いて固まった俺達の元にシトリーが空から降りてくる。
「シトリー!何だよこれ!」
『逃ゲロ。破裂スンゾ』
破裂?何がどうなって……そう聞こうとした瞬間、突然バラムが血を吹き出し、その場に膝をついた。
『始マッタカ』
バラムの体の傷はどんどん酷くなり、ついに全身が破裂したように血が噴き出した。あまりの光景に反応できない俺たちはバラムが崩れ落ちるのを黙って見ているしかない。
『このような…………くそっ!優里、わしがこのまま殺されれば、お前はまたつらい現実に戻らなくてはならぬ』
優里ちゃんに何を!
バラムは優里ちゃんに手を伸ばし、近づくように促す。優里ちゃんを連れ戻したいけどバラムの後ろにいることで、シトリーもヴォラクも手が出せない。優里ちゃんはゆっくりバラムに近づいていく。
『いい子だ』
バラムが笑みを浮かべる。どんどん近付いていく優里ちゃんに母親が声をあげた。
「優里、行かないで!行っちゃ駄目!戻ってきて!」
優里ちゃんは視線を向けるだけで返事をしない。それでも母親は目に涙を浮かべて必死に呼びかける。
「ままが嫌いと言うのなら嫌いな所を全部直すから……ままの所に戻ってきて!お願い優里……貴方を愛してるのよっ!もう、間違いは犯さないわ……お願いします優里、ごめんなさい。ままの所に、来て……!!」
「まま…………これバラムに返す。優里にはいらない」
優里ちゃんはそう言って、ナイフをバラムの前に置いた。
あんな物をあいつは優里ちゃんに渡してたのか!?
「優里、やっぱバラムと一緒に行かない。ままと一緒にいる」
『き、さまぁ……』
「ばいばい」
優里ちゃんは一言そう告げて、俺たちの方に走って向かってくる。
「優里!」
「……っままぁ!」
抱きしめあって涙を流す二人を感動して見ている場合じゃない。とりあえずこいつをどうにかしなくちゃ!
なんとか召喚紋を描こうと、俺は浄化の剣を持ってバラムに近寄って行く。しかしバラムは体中が痛いのか、呻き声をあげてその場にうずくまっていた。
はやく召喚紋をと思っているのに、バラムのうめき声や出血があまりにもむごくて、血のにおいが充満したこの結界内で集中ができなくて剣が光らず、そのせいで召喚紋を描くことはできない。一生懸命光るように命令してるけど剣はなぜか一向に光気配がない。このポンコツ!肝心な時に何やってんだよ!?
『サ…………様』
「おい!」
息も絶え絶え。バラムは目からも血を流し、うわ言のように呟く。その光景はあまりにもグロイ。
優里ちゃんも母親も光太郎も呆然としてこの光景を見ていた。
『このバラム……審、判ではあなた様の……お役、に……』
バラムの声が聞こえなくなり、苦しそうに繰り返されていた荒い呼吸も聞こえなくなった。その代りに残されたのは体中から血を流し、泡を吹いて死んでいる姿がこいつの最後だった。ゆっくりと体が砂になって消えていき、それに合わせるかのように流した血も跨っていた大熊も何もかも砂になっていき、この場にバラムがいたという痕跡はすべて消えてしまった。
「契約石が……」
優里ちゃんのお母さんが、砂になってしまった契約石を見て呟く。ヴェパールの時みたいに全てが消えてしまった。
でもこれはどういう事なんだ?ヴェパールは契約者がいない状態で力を使い過ぎて力を使い果たしちゃったんだよな。でも何でバラムは?またこの二つとは違う別のルールみたいなのがあるのか?
考え込んでいる俺を他所に優里ちゃんが母親に抱きつく。
「優里」
「ままごめん。優里また悪い子になっちゃったね」
「……ごめんなさい。優里、ごめんなさい」
二人はそう言って涙を流して抱きしめあう。今までの溝を埋めるように……二人の体は恐怖で小刻みに震えていた。これでバラムが預言した優里ちゃんの未来がどうなるかはわからないけど、でもこんな状況を見ちゃって大丈夫なのかな?
母親が優里ちゃんを殺すって話も本当だとしたら、二人をこのままにしていいんだろうか。そんなことすら考えてしまう。でもそれは俺が関与することじゃないのかもしれない。
まずは……
「シトリー、ヴォラク、これってどういう事?」
人間の姿に戻ったシトリーは近寄った光太郎の頭をガシガシ撫でて、ヴォラクに視線を向ける。
「何すんだよシトリー」
「そこに頭があったからな。つい」
「つい。じゃねーだろ!」
元気がない光太郎に軽くちょっかいをかけた後、シトリーは優里ちゃんの母親に近づいていく。
「まあ、あんたも旦那同様プライドの塊かもしれねえから、俺の助言なんざ受けたくねえかもだけどよ。子供のそういうクリニックあるだろ。一度行った方がいいぞ。認めたくないだろうが、少ししか関わってない俺でもなんとなく感じるよ。多分、お前も気づいてるだろ。それを否定し続けたら本当にバラムの言う未来を行くことになるぞ。これが俺の助言な。あとは、あんたたち次第だよ。ただ、俺達のことは他言するなよ。俺たちもあんたのことは他言しない。お互いに干渉はするな、いいな。あとこれ、忘れただろ。無くすなよ」
シトリーの言葉に母親は目を丸くしている。しかしその顔は驚いていると言うよりかは、やっぱりそうなのかという諦めも含まれているような気がして……優里ちゃんを抱きしめた後に母親は小さく頷いて涙を流して俺たちに巻き込んで申し訳なかった、と謝罪をした。
何の話をしていたか分からず、詳しく聞きたかったけど、シトリーは詳しい話は部屋ですると言って母親に部屋の鍵を渡してさっさと行ってしまう。その場に残された俺と光太郎は顔を見合わせる。勝手に行っちゃったら二人を残していくってことだもんな。それはいいのかな?
「いいわ。私達はもう少ししたら行くから。今は……もう少しこのままでいたいわ。本当に、ごめんなさい。私が全部の原因だから……巻き込んで申し訳ないです。この子を、今度こそ守れる母親になります」
母親はそう言って、優里ちゃんの頭を優しく撫でる。その言葉を聞いた俺達は頷き合ってホテルの中に戻った。部屋の中にはシトリーとヴォラクが俺たちの部屋の前に立っていた。
「お前おせーよ!お前らの部屋の鍵持ってねえんだから早く来いよ!!」
シトリーに怒鳴られた光太郎が少しだけ文句を言って部屋の鍵を開けると、部屋の中に入ったヴォラクとシトリーはベッドに腰掛ける。ヴォラク、俺のベッドの上に靴乗せようとすんな。優里ちゃんも同じことしようとしてたぞ。俺はそれを止めさせて隣に腰掛け、光太郎はベッドに座らず、椅子に腰かけた。
「シトリー、さっき優里ちゃんのお母さんに何話してたんだ?」
二人の会話が気になって問いかけたら、シトリーはバツが悪そうに頭を掻いた。
「あー……お前らも優里が少し変わった餓鬼だって思ったろ」
「うん、まあ」
「性格のせいってのもあるかもだが、多分発達障害持ってんじゃねえかなって思うんだよ。母親の反応的にも多分そうだろうな。ただ、あの女は認めたくなさそうだったから診断受けに行ってなさそうだなって思ってよ。まあ、そういうこと」
それは、確かに俺たちが横から口出しする問題じゃないな。でも、シトリーの言っている通りだとしたら、受け入れることで教育方針って言うのもかなり変わってくるよな。本当に優里ちゃんとの接し方を理解すれば、最悪な未来が防げるのかもしれない。
シトリーのやったことはお節介だけど、確かに母親の反応的に共感している部分があった。できれば、あの二人が幸せになってくれるといいな。
母親の話はこれでおしまい。とヴォラクが仕切り、先ほどのバラムの件について教えてくれた。
「んで、拓也たちはなんでバラムが消えちゃったんだってことだよね」
「あ、うん。契約石があんなに光ってたのも初めて見たし、バラムが急に強くなったのも分からない」
「今回は悪魔の方の契約違反だ。そのペナルティを受けた。それだけだよ」
「契約違反?悪魔の方にも契約違反とかあんのか?悪魔の方が契約有利そうなのに……」
椅子に座っていた光太郎が正直すぎる感想を述べた。確かに、勝手に決めて失礼だけど悪魔ってせこいから悪魔の方に契約違反とかなさそうだけど。それを聞いてヴォラクが少しだけ不満そうな顔をする。
「失礼だね。俺たちと契約者の契約間は等価交換での契約なんだから俺たちに有利な契約って訳じゃないよ。まあ契約内容を有利にさせてもらう事はあるんだけど」
あるんじゃねーか!!
心の中でそう突っ込みを入れるけど、怖くて口には出さないでおこう。シトリーが俺の顔を見てクツクツと笑う。
「そんなとこだ。でも悪魔が人間のエネルギーをもらうのは最小限。魂を地獄に送ったりとかの膨大な力を使うか、怪我の治癒。それ以外で自分の体の範疇内のエネルギーを急激に溜め込むことは契約違反。ペナルティがお前が見たアレだ」
「でもヴォラクだって契約石のエネルギーを体にため込んで行動したことあったじゃん」
「これ説明するの長くなんだよ」
「「しろ」」
俺と光太郎のステレオ攻撃をくらって、シトリーはヴォラクにパスと言ってベッドに横になった。何だよこいつ逃げる気か!?
「最悪シトリー……契約石ってのはねぇ、前も説明したと思うけど人間のエネルギーを俺たちのエネルギーと混ぜて人間のエネルギーの濃度を薄くしてんの。俺たちは人間のエネルギーを餌に活動するけどさ、それでも純度の高いエネルギーはあんま体に良くないんだよね。だから自分のエネルギーで薄めて摂取させてもらってるの。それが契約石の役割ね。今回バラムは契約石で集めたエネルギーが多分元々不足してたんだと思う。その状態で俺とシトリーとの戦闘でしょ?傷の治癒とかしながら戦ってたら契約石の中のエネルギーが空っぽになったんだよ。でも、自分が負けるのが嫌で優里の母親からエネルギー供給を無理やり受けたんだよ。契約石を使ってエネルギーを大量に吸い取って、それを自分のエネルギーと混ぜずに濃度の高い状態で体の中に大量に貯め込んだ。だから体が拒否反応を起こしたんだよ。そのかわり数分間は強くなったけどね」
長い説明を話し終えたヴォラクは、光太郎が飲んでたジュースを勝手に飲みだした。
そんなことが……なんとなく納得した俺の横で、今度は光太郎がシトリーに質問した。
「でもシトリーって俺が死んだ時、エネルギー分けてくれてたじゃん。あれ何で?」
「ありゃ契約石の中のエネルギーをお前に分けたんだ。俺のエネルギーを直接じゃない。濃度の薄いエネルギーだったら、契約者は少し耐性を持ってるからな。だから大丈夫だった訳。俺のエネルギー直接送り込んだらお前即死だぞ」
「ふーん」
光太郎は納得したらしく、少し考え込んでしまった。なんか色んなルールがあるんだな……全然知らなかったや。色々一気に覚えることが増えて、頭の中がこんがらがりそうだ。時計を見るともう二十三時半。一日目がこんなごたごたになるなんて思っても見なかった。
ヴォラクがあくびをしたのを皮切りに、シトリーが悪魔を倒したんだから、もう話は終わろうと区切り、ヴォラクを連れて部屋を出ていった。長い一日がようやく終わりを告げた気がして、安堵で力が抜けてしまった光太郎と顔を見合わせて笑った。
***
次の日はUSJが楽しくて、あっという間に過ぎてしまった。ヴォラクは主にヴアルの土産選んでるし、シトリーもバイト仲間や、セーレに頼まれたらしい孤児院の子供の土産を選んでる。普段お世話になっているからマンションの面子への土産探しを皆で行い、俺は直哉やストラス、母さんたちの土産を買って、中谷や上野達のも光太郎と買って、土産を全部買い終えたと思ったら、光太郎はまだ見ていた。
「光太郎、まだ買うのか?」
「まだ信司の分買ってなくてさ」
信司、その名前に思わず反応してしまった俺に光太郎は気まずそうに笑った。あれ以来、信司君の話題を光太郎は出さない。気を遣ってるのが分かってたから俺も何も聞かなかったけど……懸命に土産を探してる光太郎に何も言う事が出来ずに、俺はただ終わるのを待っていた。USJで遊び終わり、ホテルに帰るとホテル内で楽しそうに話している優里ちゃん達がいた。何だかんだで明日帰んなきゃいけないのか。もう一日くらいいたかったなぁ……
ホテルの部屋の中でくつろぎながらテレビを見る。光太郎は風呂に入っていて、今は部屋の中俺一人だ。
明日は夕方に飛行機で東京に帰る予定だ。楽しかったなぁ……少しだけウトウトしてくる。いいやこの際、少しくらい寝ちゃっても。
重い瞼を閉じて、俺はベッドに横になった。
登場人物
バラム…ソロモン72柱序列51位の悪魔。
40の悪霊軍団を支配する恐怖の王とされ、雄牛、人、尾羊の三つの頭を持ち、腰からは蛇の姿を模した尾をぶら下げている。
過去、未来、現在の事柄を見通せる。
また自分や他人を透明にする力を持つ。
契約石はメテオライトのアンクレット。
優里…少しわがままな女の子。傲慢な父親の姿を見て育ったせいか、自分が中心だと考えている。
母親に躾と言う名の暴力を振られていたことから、母親の愛に飢えていた。
優里の母親…宝石商の夫を持つ。優里の性格に将来の不安を感じ、何とか優里の性格を矯正しようとしていた。
しかし行きすぎた躾のせいで、上手くいかず、自己嫌悪し、また繰り返すという悪循環をしていた。
優里の事は心から愛している。




