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第105話 下手糞な笑顔の中で

 悪魔の姿に変わったフルフルが俺たちを包むように雷のドームを作る。周辺はバチバチと激しい音が鳴り、まばゆい光に目を細めた。俺、雷をこんなに間近で観察したの初めてなんだけど。この激しい光で目がやられたりとかないよな。

 足を組んで宙に座っているフルフルはパイモンやヴォラク、ヴアルがいても一歩も引く気はなさそうだ。



 105 下手糞な笑顔の中で



 絵里子さんはフルフルを見て完全に怯えてしまっている。その証拠として、俺にしがみついて離れない。それもそうだろう、こんな雷を体中ほとばしらせてる奴が怖くないわけがない。俺だってぶっちゃけすげえ怖い。雷当たったらどうするんだよ。絵里子さんにしがみつかれて動けない俺に、パイモンは後ろに下がるよう言ってきた。


 「主、絵里子を連れて下がってください」

 「でも……それより結界は張らないのか!?これ、すげえバチバチいってるし眩しいし!」

 「張りたいですよ。しかし無理なんです」


それってどういう事だ?早く結界を張らないと、フルフルの姿が皆に見えてしまう。そんなことになったらお終いだ。それに、これ触れたらアウトな奴だよな。


 「フルフルの結界だよ。タチが悪いのは外からも見えるのと、触れたら感電するってとこか。上から重ねがけができない。先手取られちゃったね~」


 いやいやいやヴォラク、冷静に言ってるけどあり得ないでしょそれ。やっぱり感電するんじゃねえか。てことは下手に動けないじゃん!どうすんだよ!人が通ったら、この状況を見られちゃったら!目の前には体中から電気を放出している鹿の角みたいなのをつけた天使の姿をした少年が舌打ちをした後に面倒そうに溜息をついた。


 『はあ……日本に召喚者様っつーのがいるのは話に聞いていたけど、なーんでこうも運が悪いかな。お前の討伐は他の悪魔に命令が出てるって聞いたんだけどね』

 「だから俺は召喚者じゃなくてだな……」

 『あーそうだったね。召喚者は別の奴だったっけかな。その指輪、何の因果か分からないけど手に入れちゃったんでしょ?ご愁傷様~』

 「なんだよ、お前なんでそれを……」


 なんだよ、こいつどこまで知ってるんだよ。勿体ぶるように遠回しな発言をするフルフルに問いかけても答えてくれる気配はない。

 気がつけばさっきまで月がちゃんと見えていた空は次第に曇っていき、月が見えなくなっていく。周囲からは雷が落ちる前の音が響き渡り、恐怖で足が震えてしまう。これもフルフルの力なのか?


 「拓也!右に飛べ!」


 え?何急に。

 いきなりの展開で呆けていると、雲が一瞬眩しく光り、俺と絵里子さんの頭上に雷が落ちてきた。驚いて動くことができない俺達は頭を手で覆い、恐怖で目を瞑るしかなかった。でもその時、何かにぶつかり顔から地面に倒れこんだ。


 「拓也大丈夫!?」


 ズキズキするけど雷が落ちたような衝撃は感じない。恐る恐る目を開けるとヴアルが俺の顔を覗き込んでいた。あ、ヴアルが助けてくれたんだ。突き飛ばして…………って、絵里子さんは無事なのかよ!?避けられるはずがない!あんな雷を!


 「ありがと!それより絵里子さんは!?」

 「大丈夫よ。ほら」


 ヴアルが指差した先には、パイモンにお姫様だっこされている絵里子さんの姿。良かった……絵里子さん無事だ……ってか。


 「よかったーパイモンに助けられなくて」


流石にパイモンにお姫様だっこされて助けられるってプライドが許せない。しかし俺の気持ちを読んだのか知らないが、パイモンがこっちに冷ややかな視線を向ける。


 『心配なさらなくても主なら突き飛ばしてましたよ。ただ絵里子には怪我をさせるべきではないと判断したまでです』


 それもそれでなんか切ない。俺なら怪我してもいいっつーのかよ。ヴアルに突き飛ばされて思いっきり顔から転んでしまったから少しだけ顔を擦りむいてしまい、ズキズキと痛む。そんな頬を我慢しながら、フルフルを睨みつけた。でもフルフルは余程今の展開が面白かったらしく腹を抱えて笑っている。


 『だっせー!避けらんねえのかよ。こんなのは挨拶代わりだぜ。次は連続で行っちゃおっかなー』


 連続だけはやめろマジで。避けられる自信がないっつーの。どこか安全な場所はないのかよ!?そう思って辺りを見渡すけどそんな場所は見つけられない。第一フルフルの雷の結界によって動く範囲をかなり制限させられてるため、隠れる場所なんてどこにもない。


 『ヴアル、主と絵里子を頼む』

 「パイモン?」

 『フルフルは俺とヴォラクで何とかしよう』


 パイモンとヴアルが何やら話した後、ヴアルが俺たちに近づいてくる。パイモンとヴォラク、大丈夫かな。俺も手伝いたいけど、役に立てる自信がなさ過ぎて見ているだけの方がいいんじゃないかとすら思えてくる。


 「二人とも、私の傍を離れないでね。離れたらお終いと思って」


うん、離れない。絶対に。

 俺と絵里子さんは頷いてヴアルの近くに歩み寄る。


 『キシシ、継承者だっせー。戦えないのかよ。役にもクソにもたたねーじゃん。ソロモン王は人間だけど超偉大だったのに、なーんでお前にその指輪渡るのかねえ』


 うるさいな、だって怖いんだからしょうがないじゃん。魔法系の相手って苦手だ。だからと言って近距離戦の奴がいいってわけでもないが。

 それにソロモン王なんてものも知らん。聞いたことないし、どこの時代の王様だよ。よくわからん偉大な王と同一に扱われてこっちだって迷惑だ。


 『この程度だからな。あの御方の媒体にはちょうどいいな。キシシシ』


 あの御方?媒体?何のことだよ、意味が分からない。また好き勝手に専門用語話しやがって。遠回しに情報与えるならハッキリ言えよ。

 とりあえずまた魔法で後ろから援護した方がいいのかな。再び雷をまとったフルフルにパイモンたちが斬りかかり、本格的に戦いが始まる。俺は何をすればいいんだろう。


 『主、今回の相手に水魔法は不要です!風魔法で対応をお願いします!』


 パイモンがフルフルの攻撃を避けながら反撃のチャンスを伺っている。でも体中から電気を放出して、それをぶつけてくるフルフルに少し苦戦してるようだった。


 『キシシ!死刑執行ー!痺れろ痺れろ!』


 確かにフルフルはいいだろうよ。自分のロッドから雷バンバン放出してさ、それと比較してパイモンとヴォラクは接近戦を許されない。やっぱ俺の魔法が頼りなんだよな。でもどうしよう、結界張ってるっつっても外から見えるし、この結界は俺の攻撃を防いでくれるのか?竜巻とか出して大丈夫なのかな?フルフルに避けられて後ろの公園のトイレに当たって、トイレの壁が壊れたらどうしよう!

 こんな時にでも頭はその後のことを考えてしまい、魔法を出すのを躊躇する。


 「拓也?魔法で援護しないの?」

 「ごめんヴアル、でも俺の魔法で公園の景観を損ねたら……賠償金が来るかもしれない」

 「……人間ってそういうとこちゃんと考えてて偉いわね」


 ヴアルは言葉では褒めてるけど、口調は少し呆れていた。でもこれってしょうがなくない!?自分のせいで公園のトイレが壊れたらすっげー気まずくない!?ってか犯罪じゃない!?その賠償は勿論俺に来るんだろ!?


 『継承者ってさーどっちかの味方しねえの?』


 雷を繰り出しながらフルフルが俺に問いかける。問いかけてきてはいるが油断はせずに体中から放電をしてパイモン達を近づけさせない。こいつ、相当強いやつなのか?

あまりにも急な質問に間抜けな声が出た。


 「は?」

 『お前の情報、少しだけ聞いたことあんだよねー。お前はさ、結局何がしたいの?』


 何がしたいって何が?そんな目的なんてお前らは知ってるんじゃないのか?

 フルフルは少し首を捻りながら俺に問いかけてくる。


 『お前は本当に最後の審判を止めさせたいだけで俺たちに喧嘩売ってきてるわけ?天使と悪魔、どっちの味方にも付かずに?』

 「当たり前だ!最後の審判なんか行わせてたまるかよ!そんなの決まってんじぇねぇか!それに天使だか悪魔だか知ったこっちゃねぇんだ!どっちも俺を利用しようとして気にくわねぇんだよ!!」

 『ふうん、なら気を付けとけよ。お前、そのうち孤立するぜ。今はいいかもしんねえよな。どっちからも欲しがられてんだ。大事にされるだろうよ。でもどっちつかずな態度いつまでも取ってっと、最後には悪魔にも天使にも責められてボロボロになるぜ。その前に俺たちの側に付く事をお薦めするけどな』

 「何訳の分かんねえこと言いやがる!どっちの味方もするつもりねえよ!俺は審判を止めたいだけだ!!」


 俺の返答を聞いて、フルフルはキシシと笑いだす。

 なんだよ!俺変なこと言ったのかよ!?


 『大体お前が審判を止めるの自体おかしいだろ?お前はもう俺たちの側の存在だ』

 「な、に言ってんだよ」

 『お前はあの御方の大切な御子として認められた。徐々にわかってくるさ。指輪を使いこなせるようになったら自分が人間じゃなくなってくるってな』


 人間じゃなくなっていってる?俺が?何を馬鹿な事を……確かにこんな魔法使えるのは人間にしてはおかしいってことくらいは分かるけど、だけど俺が人間じゃなくなるとかそんなことあるはずがない。

 この魔法を使えば使うほど、人間じゃなくなるとか……そんなのはないよな?そんな話聞かされてないし。でも天使も悪魔も俺に真実は伝えてない気もする。あいつの言葉はどこまでが本当なんだ?


「どういう事よフルフル!」


 ヴアルがフルフルに詰め寄るが、フルフルは遠回りな事しか言ってこない。

 それが非常にもどかしい。


 『キシシ、継承者は直に俺たちの主になる。お前はあの御方の大切な御子になりつつあるんだ』

 『はったり言うんじゃねーよ!』


 ヴォラクが大声で反論する。何が言いたいんだ?俺があのお方の御子って……大体あの御方って誰なんだよ。ルシファーって奴なのか?少しずつ震えだした体を押さえてフルフルを睨みつける。


 「それは誰の事言ってんだよ……ルシファーって奴の事か?」

 『あーれれ?そちらにいるパイモン様はご存じじゃないのかな~?なんたってルシファー様の腹心なんだから~』


全員の視線がパイモンに向かう。しかしパイモンは一瞬の隙をついフルフルの電撃を掻い潜り、避けられたとはいえ相手に傷を負わせた。


 『何の話をしているのか皆目見当がつかないな。貴様の悪だくみを俺が分かるわけないだろう。さっさろ失せろ雑魚が』

 『いって~~!!てめえ、絶対に許さねえ』


 パイモンも知らない事?いや、そんな訳がない。パイモンは絶対にわかっている。分かっていて知らない振りをしているんだ。だってストラスも言っていた、バティンって悪魔と繋がっているだろうって。そいつは地獄でも情報通で知られているんだって。

 なら、パイモンは知っていてはぐらかしているのかもしれない。問いただすべきか分からなくて、知ったら怖くなりそうで問い詰められず、とりあえず騒がしい心臓を落ち着かせるために深呼吸をする。その時、視界の端に誰かが入り込んできた。


 「お姉ちゃん?」

 「真理子!?」


 なんで真理子ちゃんはここに!?急に公園に現れた真理子ちゃんは息を切らしており、走って絵里子さんを探していたことが伺えた。しかし呆然としてこの光景を眺めていた真理子ちゃんは絵里子さんの姿を見つけて恐る恐る近づいてくる。そんな真理子ちゃんに絵里子さんは声を荒げた。


 「真理子、触ったら死ぬよ!早く家に帰りな!」

 「なによこれ……何してるの!?お姉ちゃん、迎えに来たんだよ!お母さんも心配してる。早く帰ろう!」

 「あんただけ帰れ!早く!!」


 絵里子さんと真理子ちゃんの会話を聞いていたフルフルは口元に弧を描き、パイモン達から距離を取ってロッドの向きを変える。


 『キシシ……絵里子さぁ、契約条件覚えてる?』

 「そんなの忘れ……『忘れたとは言わせないぜ』


 その言葉に絵里子さんは固まる。

 なんだよ契約条件って!何を条件にしてたんだよ!?


『契約条件は俺が刺激のある日常を送ることを約束する。その代りに俺が消える時に、お前の大事な人間の魂を一つ寄こすこと』

 「真理子は駄目だ!それにあんたと契約してて刺激のある生活なんてなかった!」

 『刺激あげたじゃないのさ。あのおっさんが死んだ時、かなりの刺激だっただろ?痺れた?キシシシ!』

 「ふざけやがって!真理子、早く逃げろ!」


 なんて契約をしてんだよ!安易に悪魔との契約を考えすぎだろ!後悔する羽目になるんだぞ!?

 訳の分からない真理子ちゃんは、いきなり自分に向いた矛先を理解できず、その場に立ち尽くすしかなく、そんな真理子ちゃんにフルフルはロッドを向けた。


 『あーあ、可哀想。最低最悪なお姉ちゃんが言ったんだよ。妹を殺していいから悪魔である俺と契約してくださいってね。だから、あんたはここで俺に殺されるんだよ。恨むなら、あんたを殺したいほど憎んでいたお姉ちゃんを憎みなね~』

 「やめろ!」

 『キシシシ!死刑執行!』


 結界の電気がフルフルのロッドに集まり、それが真理子ちゃんに放出される。電気は一直線に真理子ちゃんに向かっていき、とてもじゃないけど俺の魔法も間に合わずヴォラクとパイモンも止められる状況ではない。真理子ちゃんも雷を避けるなんてできるはずもなく、恐怖で目を瞑ってしまった直後、耳をつんざく悲鳴が聞こえてきた。


 「ぐ、が、があぁあああぁあ!!!」

 「お姉ちゃん!!」


 声に反応して顔をあげると、絵里子さんが黒焦げになって倒れていく姿が見えた。まさか、真理子ちゃんを庇ってあの雷を食らったのか!?


 「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」


  真理子ちゃんが慌てて絵里子さんに駆け寄って、必死に名前を呼ぶ。

 でも絵里子さんは目を覚まさない。


 ***

 ***


 絵里子side -



 「今日から絵里子はお姉さんだな!」


 父親の声が聞こえて、私が目を開けると、そこは病院だった。あれ?確かフルフルの雷くらって、そこからの記憶がない。私は無事に病院に運ばれたのだろうかと期待したんだけど、目の前の光景を見て、それが間違っていることがすぐに分かった。これって俗に言う走馬灯って奴?目の前の家族は私が見えていないらしい。ベッドに横になって赤ん坊を抱きしめる母さんと、それを覗き込もうとする幼い私がいた。


 私が二歳の時に真理子は生まれた。私はその頃はまだ餓鬼だったから記憶なんてほとんどなかったけど、でもただ嬉しかったというのだけは覚えてる。お姉ちゃんになれると言うのを喜んでいたと言う記憶だけはあるんだ。


「ままーままー」


 まだ言葉もほとんど話せない幼い私が必死で母さんの腕の中で眠る真理子に手を伸ばしている。母さんはそんな私の頭をなでながら、真理子の顔を私に見えるように少し腕をずらした。


「ねぇ絵里子、この子の名前何にしようか?お母さんたちはね、真理子にしようと思っているんだけど絵里子はどう思う?」

 「まりこ?まりこ!」


 何が嬉しいのか、幼い私はキャッキャと喜んでいる。子供だから名前の良しあしなんてわからないだろうに、私が否定しないのを見て、母さんが優しく頭を撫でた。その光景になんだか涙が出そうになった。


 「絵里子はもうお姉さんだね。真理子のことよろしくね」

 「うん!」


 小さな小さな真理子を覗き込みながら、私は勢いよく頷く。

 それほどまでに真理子は私にとって可愛くて大切な存在だった。


 「ねーね」


 “ねーね”それは真理子が呼んでいた私の愛称。不意に呼ばれて後ろを振り返る。

 そこには小学生くらいの真理子が立っていた。


 「あ……」

 「ねーね、真理子のこと好き?真理子はね、ねーねのこと好きだよ。ごめんね……ねーねを探してたのに、結局はねーねに庇われて」


 そう言って悲しそうに俯く真理子は目に涙を貯めている。真理子が私を探してた?なにかあったんだろうか?今までだって、私が家に帰らないなんて言うのはよくあることだった。友達の家に行っていた、彼氏の家に行っていた。無断外泊だって何度かした。母さんたちには怒られたけど、それでも真理子が探して回ることなんてなかったはずだ。


 「真理子、なんで私を?」

 「真理子、ねーねと仲直りしたくて。真理子、ねーねのこと大好きだもん」


大好き?真理子と仲が悪くなってから何年ぶりにその言葉を聞いただろう。思わず固まってしまった私に真理子の涙はまた溜まっていく。それを見てハッとした。何も答えないってことは、真理子にとっては許してないというのと同じこと。私はなんて馬鹿なんだろう。


「私、あんたに酷い事言ったよ」

 「真理子も言ったよ」

 「出来のいいあんたに比べたら出来の悪い姉だよ」

 「そんな事ないよ。ねーねはいつでも真理子の憧れのねーねだもん」


この言葉に涙が溢れた。私は、妹の自慢の姉でいたかった。一番苦しかったのは、妹にとっての理想の姉でなくなったこと。高校受験に失敗して、真理子が私より才能があって頭が良くて、真理子が自慢の妹になるにつれて、私は自慢の姉でなくなっていった。

 姉なのに、年上なのに、そんな劣等感ばかり感じて真理子によそよそしくなって、そんな私に真理子や母さんたちも呆れていって……真理子、私はどうしたらよかったんだろうね。

腐らずに勉強を頑張ればよかったのかな。開き直って、自分に見合ったレベルで落ち着けばよかったのかな。私は挫折してからの立ち直り方が分からなかった。

 全て、私が悪かったのかな……


 「真理子、私もあんたのこと好きだよ。あんたは最高の妹だ」


 そう答えると、真理子は嬉しそうに涙を流しながらも笑った。私はこのまま死んじゃうんだろうな、でも悔いなんてしてない。大切な妹を守る為にした事だ。それを悔いるつもりもない。ただ少しだけ心残りなのは、父さんと母さんに私の本当の気持ちを言えなかったこと。もっと、私を見てほしいと言いたかった。上には上がいること、自分の限界を認めて応援してほしいと訴えたかった。そしてやっと仲直りできた真理子にもう会えないこと。

 でもそれはしょうがない、しょうがないんだ。抱きしめあう私達の後ろからは父さんと母さんと幼い私の声が聞こえる。


 「まりこ!だぁい好き!」


 そうだよね真理子。私達は世界一仲良しな姉妹だよね。


***

***


 拓也side ―


真理子ちゃんは絵里子さんの名前を必死で呼び続けるも、絵里子さんは目を覚まさない。なんでこんな事に……最悪だ。絵里子さんの悲鳴を聞きつけてか、近所の人たちの話し声と駆け寄る足音が聞こえてくる。

 まずい!一般の人がここにくる!


 『ヴォラク!フルフルを倒して急いで結界を!』

 『わ、わかった!』

 『あーあ、雑魚の魂には興味ねぇんだよなぁー引くか』


 引く?逃げる気かよ!

 フルフルは俺達が一般人の足音に反応した一瞬で、自らが雷と共に消えて行ってしまった。


 『逃げられた……』


 残念そうに呟いたパイモンとヴォラクは悪魔から人間の姿に戻る。助かったけど、なんだよこれ……こんな終わり方ってありかよ。呆けている俺を他所に、近所の人たちが公園に駆け寄ってくる。


 「大丈夫ですか……こりゃ急いで救急車を!」


 近所の人が大声をあげて、その隣の人が慌てて病院に連絡をする。


「真理子ちゃん」

 「来ないでよ」


 真理子ちゃんが震える腕で恵理子さんを抱きしめる。


 「もう訳わかんないよ。こんな漫画みたいなことも、でもお姉ちゃんがこんな目に遭ったのには池上君が関与してるんでしょ?もう関わらないでよ」

 「ちょっとそんな言い方!」


 ヴアルが反論しようとしたのを俺は慌てて止めた。


 「拓也!」

 「……今はきっと、何を言っても分かってもらえないよ」


 十数分後、救急車が到着して、絵里子さんが担架に乗せられて病院に向かって行ってしまった。残された俺たちの間には気まずい空気が流れ込む。残念そうに呟くヴォラクも気まずそうだ。


 「また逃がしちゃったね」

 「うん。最悪だよ」


 ボティスの時とおんなじ。またやり逃げみたいにされた。

 真理子ちゃんとエアリスさんの姿がダブる。二人とも全く同じ目をしていた。


 それは俺に対する憎しみの目だった。


登場人物


フルフル…26の軍団を指揮する偉大な伯爵であり、その姿は炎の尾を持つ雄鹿と伝えられているが、真なる姿は天使である。

     召喚者は必ずフルフルを三角形の内側に召喚しなければならない。

    それをしないで召還した場合は大変嘘つきでいくら約束をしても守ってくれない。

    主な能力として雷を操る。

    かなりの猫かぶり。そして自分に騙されるものを馬鹿にしている。

    契約石はセラフィナイトのアンクレット。


絵里子…高校3年生。頭はいいのだが、高校受験で失敗したことを引きずっており、そのせいでスレてしまった。

    自分が受からなかった高校に妹の真理子が受かり、家族にちやほやされるのが気に食わなかった。


真理子…お嬢様学校で有名な私立西舘高校1年生。

    真面目な優等生タイプで姉の絵里子とは喧嘩が絶えない。

    西舘に受かった自分の方が優位だと考えており、絵里子を心の中で馬鹿にしてた。姉妹仲は悪い。



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