2日目 花信風
今日の課外はほとんど上の空で、本当にあの服でいいのかな、とか明日何時に家を出ようかな、とかそんなことばかり考えていた。
部活の時間はいつも通り那智と二人で駄弁っていた。話題は専ら明日に迫った花火大会についてである。集合時間や持って行く金額など傍から聞いていても花火大会のことだと分かるような内容だった。
途中で、部屋の端で一人でスマホをいじっていた“ハタケ”こと畑中珠莉が重い腰を浮かせ、私たちに話しかけてきた。
「・・・・・・花火大会、行くん?」
「うん。うちら二人で行くんだ」
「あ、そうなんだ」
「なんで?」
「・・・・・・なんとなく」
「ふーん・・・・・・」
そこで二人の会話は終わった。しゅりは何事もなかったかのように元いた場所に戻っていった。
私の見間違いでなければ、那智が“二人で行く”と言ったとき、ハタケの顔が少ししょんぼりしたように見えた。
その日の帰りも三人で話しながらで、途中で駐輪場へと向かうハタケと別れたあと、二人でもう一度明日の確認をした。
そんな中、今日のハタケの不可解な言動が話題に上がった。「あれはさやかを誘おうとしてた」とか「絶対に那智」だとかくだらない論争を繰り広げているうちに、那智の電車の時間が来てしまった。
「じゃあ“また明日”ね」
「うん。ばいばい」
そんな聞き慣れた挨拶が、今日は少しだけ特別に聞こえた。
この話の題名になっている「花信風」は「春、花の開花を知らせる風」という意味があります☺︎「春」はさやかの恋、「花」は「花衣」などのように美しい女性を表す言葉に用いられますが、ここでは那智を表しています☺︎




